ENTUM23   作:マブラマ

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ここからがあおぎり高校メンバーの物語です。


ENTUM23Ⅳ アオギリエース
第289話 消えぬ怒り


2025年5月10日――夜の帳が深く降りた路地裏は、街灯の淡い橙色すら届かぬ闇に包まれていた。そこに一人、佇む少女のシルエットがあった。

 

西園チグサ。―――かつて皆守ひいろと名乗っていた彼女の瞳には、静かな決意と、消えぬ怒りの炎が揺らめいていた。

その瞬間。空間を切り裂くように、男が現れた。

「……やあ、久しい……いや、初めましてか?」

低く、冷たい声。

まるで氷の刃が頰を撫でるような響きだった。

 

ハインツ・アクスマン。

DMMグループ傘下・ZIZAIの幹部。

 

冷たく光る金色の瞳と、口元に浮かぶ薄ら笑いは、獲物を前にした猛獣そのものだった。チグサの全身が、瞬間的に硬直した。

「ふざけるな!」

彼女の声は鋭く、路地の壁に跳ね返る。

だがアクスマンは微動だにせず、ただ愉しげに目を細めた。

「ミライアカリ……いや、アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノは、元気にしてるかね?」

その名を聞いた瞬間、チグサの胸に灼熱の痛みが走った。

「……今は、活動休止してる。」

絞り出すような声。

唇を噛みしめ、爪が掌に食い込むほど拳を握る。

アクスマンは満足げに頷き、呟いた。

「そうか……彼女は転生したのか。」

次の瞬間――

 

「ははっ、ははははは!」

 

高らかな哄笑が路地に響き渡った。

まるで暗闇そのものが嘲笑うかのように。

「ミライアカリの名を捨ててまでVTuberに縋り付くとは……実に、面白い女だよ。」

言葉の一つ一つが、棘のようにチグサの心を抉る。

「だが、これでミライアカリの復活は不可能だ。私はより良い人生を送るために、彼女の版権を売却しようと検討している。」

 

「ふざけるなッ!」

 

チグサの叫びは、怒りに震えていた。

「ぺぺちはアンタが思ってるような弱い奴じゃない!」

拳が震える。

視界が熱いもので滲む。

アクスマンはその反応を、まるで最高の娯楽のように味わっていた。

 

「君はどうかね? 皆守ひいろという名前を捨て、新しい人生を送ってる感想を聞きたい。」

 

その言葉が引き金だった。

 

脳裏に、鮮烈に蘇る記憶――ENTUMの崩壊。

 

仲間たちが引き裂かれた、あの日の絶望。ニーツ/VT-212、ミディ、御来屋久遠、月夜ソラ、夜桜カノン、花野蜜……皆の笑顔が、血のように赤く染まって浮かぶ。

熱い涙が、頰を伝った。

「アンタのせいで……私たちはバラバラになった! ニーツ、ミディ、久遠、ソラ君、カノン君……蜜先生まで……!」

声は慟哭に変わる。

それでもアクスマンは冷たく笑うだけだった。

「まだ分からないのかね? 西園チグサ。もう一度言うが、ミライアカリの復活は不可能だ。活動休止したと見せかけて、そのままフェードアウトする……それがオチなんだよ」

さらに、ゲスな笑みを浮かべて吐き捨てる。

「潤羽るしあや郡道美玲のやらかしは、パフォーマンスだ。現実逃避の極みだ。」

「何だと……?」

チグサの怒りは、頂点に達した。

「るしあはともかく、郡道先生はぺぺち――アカリが引退した後も、最後まで支援してたんだぞ! 彼女を侮辱するな!」

雷鳴のような声が夜の路地を震わせた。

アクスマンは一瞬、目を細めたが、すぐに嘲りの色を濃くした。

 

「……君はまだ理解できていないようだな。我々は神ではない。この私も含め、愚かで感情的で、間違えてばかりの人間は、醜い生き物だ。誰かに縋り、仲良く貶して傷つけていく。それが人間なのだよ。」

毒を塗った言葉が、心臓を貫く。しかしチグサは、決して目を逸らさなかった。

 

「守るべき信念も、信頼すべき仲間もいない。兄弟や家族の絆すら道具としか考えられない……憐れな男だな。」

 

その一言が、アクスマンの仮面をわずかに歪めた。

「フン、君もアイリスディーナに影響を受けたようだね。」

鼻で笑い、彼は続ける。

「まあ、君が私のことを敵視するのは承知の上だ。まだVTuberを続けたいのなら、敵と味方をしっかり区別して、決して間違えるな。」

チグサは一歩、踏み出した。

瞳に宿るのは、燃え盛る軽蔑の炎。

「本当に憐れな男だな。ZIZAIがDMMの狗に成り果てさせたのはアンタだろ!」

アクスマンの表情に、初めて明確な揺らぎが走った。

だがすぐに、冷たい優越の笑みが戻る。

「……会社とはそういう構造だ。DMMの買収は、最初から仕掛けられていたのだ。」

そして、最後の言葉を残した。

 

「西園チグサ、アイリスディーナやベアトリクス、他のVTuberたちにこう伝えたまえ。

『醜さを愛せ』……とな。」

 

高笑いを背後に、アクスマンの姿は闇の奥へと溶けていった。

路地に残されたチグサは、拳を固く握りしめ、唇を噛みしめた。胸の奥で、怒りと悲しみが渦巻く。

だが、それ以上に強く灯るものがあった。

仲間たちへの、決して消えない想い。彼女はゆっくりと顔を上げた。

 

株式会社MEDIX会長・アイリスディーナ・ベルンハルト。

 

NEOENTUM会長・ベアトリクス・ブレーメ。

 

もちひよこ、猫宮ひなた、そしてあおぎり高校の面々――音霊魂子、石狩あかり、山黒音玄、栗駒こまる、千代浦蝶美、我部りえる、春雨麗女、ぷわぷわぽぷら、エトラ、萌実、月赴ゐぶき、うる虎がーる、八十科むじな。

 

全員に、この出来事を伝えなければならない。

チグサの瞳に、新たな決意の光が宿った。

「(どんなに醜い現実でも……私たちは仲間と共に立ち向かう。ENTUMの魂は、絶対に負けない!)」

夜空に輝く星のように、その想いは、希望の光を、静かに、しかし確かに放ち続けていた――。

 

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