2025年5月11日――朝の陽光がまだ柔らかく差し込む時刻、viviONの本社オフィスに、二つの影が静かに足を踏み入れた。
ハインツ・アクスマンと、その忠実なる側近ミヒャエル・ゾーネ。
ZIZAIからの懲戒解雇という屈辱の傷を、胸の奥に深く刻み込んだままの男は、新たな拠点へと身を移した。
かつての傲岸な笑みは鳴りを潜め、代わりにどこか落ち着きのない眼差しが、廊下の先を窺っていた。
しかし、彼を待ち受けていたのは、予想を遥かに超える冷ややかな空気だった。
オフィスのオープンスペースに姿を現した瞬間――視線が集中した。
音霊魂子が腕を組み、鋭く細めた瞳でアクスマンを射抜く。
石狩あかりはデスクに肘をついたまま、静かでしかし凍てつくような声で呟いた。
山黒音玄は鼻で笑い、栗駒こまるは普段の明るさを完全に封じ、萌実は悲しげに目を伏せたまま唇を噛んだ。
他にも、残るメンバーたちの視線が、次々とアクスマンに突き刺さる。
そこに宿るのは、紛れもない軽蔑と不信、そして抑えきれない怒りだった。
アクスマンの過去――ENTUMの崩壊、ミライアカリへの執拗なパワハラ、版権売却の卑劣な企て――は、すでに全員の耳に届いていた。
水菜月夏希は2021年4月10日に卒業し、大代真白も2025年2月28日に去った今、ここにいるのは現役のあおぎり高校メンバーたち。
彼女たちの絆は、外部の毒に侵されることを決して許さない。
魂子が一歩前に出て、冷たく言い放つ。
「あんたがここに来ても、私たちの絆は壊せないよ。」
あかりも、静かに、しかし容赦なく続ける。
「ミライアカリさんを傷つけた男が、よくもぬけぬけとここに来られたもんだね。」
音玄の嘲笑が響く。
「未来? あんたたちのやってきたことは、ただの破壊じゃん。」
こまるは静かに、しかしはっきりとした声で。
「仲間をバラバラにした罪は、そう簡単に許されるものじゃないよ。」
萌実も、瞳を潤ませながら。
「ぺぺち……ミライアカリがどれだけ苦しんだか、知ってるんだから。」
アクスマンはその視線の嵐に耐えきれず、わずかに顔を強張らせた。
肩身の狭さは、肌に突き刺さる針のようだった。
自業自得――その言葉が、胸の奥で何度も反響する。
千代浦蝶美、我部りえる、春雨麗女、ぷわぷわぽぷら、月赴ゐぶき、うる虎がーる、八十科むじなの七人は、ただ静観の姿勢を崩さなかった。
彼女たちの心中は複雑で、アクスマンの過去を知りつつも、新たな環境での彼の真意を、まだ見極めようとしていた。
そんな中、ただ一人、異質な声が上がった。
エトラだった。
彼女はゆっくりとアクスマンに歩み寄り、穏やかな、しかしはっきりとした声で言った。
「……アクスマンさんだって、きっと何か理由があって動いてたんだよね。全部が悪意だったわけじゃないと思う。」
一瞬、オフィス全体が静まり返った。魂子の眉がピクリと動き、あかりが苛立たしげに舌打ちする。
「エトラ、なんでそんな奴を庇うの?」
こまるも声を荒げる。
「エトラさん!」
しかしエトラは、ただ優しく微笑むだけだった。
「だって……人は変われるかもしれないじゃない。」
その言葉に、メンバーたちの視線が一斉にエトラへと集中する。
アクスマンは一瞬、目を細めた。
内心では、屈辱と焦燥が煮えたぎっていた。
「(小娘の一人……利用価値はあるか)」
ミヒャエルが、主を守るように小声で囁く。
「中佐、ここではしばらく耐えるしかありません。いずれ機会は――」
アクスマンはそれを手で制し、薄く冷たい笑みを浮かべた。
「フン、所詮は小娘たちの集まりだ。いずれ私の価値を理解するさ。」
その言葉は、しかしどこか空虚に響いた。
viviONのオフィスに漂う緊張の空気は、まるで嵐の前の静けさのようだった。
アクスマンの存在は、暗い影のようにそこに居座る。
だが、あおぎり高校のメンバーたちの瞳には、揺るぎない光が宿っていた。
エトラの擁護すら、彼女たちの絆を揺るがすことはできない。
どんな試練が待ち受けようとも、どんな影が忍び寄ろうとも――アオギリエースは、決して屈しない。戦いは、まだ始まったばかりだった。
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