2025年5月20日――ベルリンの空は、重く灰色の雲に覆われていた。
Studio Berlin GmbHのスタジオでは、『シュタージの残響(仮)』の撮影が佳境を迎え、セットの冷たい照明が魂子たちの影を長く伸ばしていた。
しかし、その頃、日本・viviONのあおぎり高校スタジオに、静かな嵐が訪れていた。
音霊魂子のデスクに置かれた匿名の手紙――分厚い封筒。
「魂子へ」とだけ記された文字に、彼女はメンバーたちを急遽呼び集めた。
あかり、こまる、ゐぶき、麗女、ぽぷら、萌実、エトラ。
全員が息を潜め、魂子が震える手で封筒を開封する。中身は、1980年代東ドイツの闇を暴く資料の束だった。
リィズ・ホーエンシュタインの家族の悲劇、アクスマンの冷酷な尋問、そして……アイリスディーナ・ベルンハルトの「黒い噂」。1978年、兄ユルゲン・ベルンハルトは反体制運動の知識人としてシュタージに狙われていた。
資料によると、アイリスディーナは兄を密告し、彼の処刑に立ち会ったという。
自らの手で兄の命を奪ったも同然の行為が、彼女が国家人民軍第666中隊の中隊長となる道を開いたと記されていた。
それでも、彼女はその後シュタージの非道を拒否し、兄の志――自由と正義――を胸に軍務を続けた。
反体制派容疑で捕虜となった際、ベアトリクスの「趣味」により拷問は免れ、監禁の末テオドールらの救出で解放。
アクスマンの取引材料にされた銃撃戦でカティアを庇い致命傷を負うも、ベアトリクスの秘密の救急要請で生還した。
魂子は資料を読み終え、青ざめた顔で呟いた。
「……アイリスディーナさん……こんな過去が……。」
こまるが拳を握り、声を震わせる。
「兄さんを……自分の手で? そんなの、許せないよ……!」
ゐぶきがハスキーボイスで冷静に、しかし鋭く。
「噂が本当やったら、アクスマンと同類やん。地位のために家族すら売ったんか……。」
萌実が小さな声で、涙を浮かべて。
「……アイリスディーナさんも、こんな過去を抱えて……私たちを支えてくれてたなんて……。」
エトラは複雑な表情で資料を凝視し、静かに言った。
「……でも、彼女は変わろうとしてる。アクスマンとは違うよ。過去を背負いながら、私たちを信じてくれてる……。」
あかりが厳しく切り返す。
「エトラ、そんな甘いこと言ってる場合じゃない!この資料が本物なら、アイリスディーナさんだって……信用できない!」
麗女が静かに、しかし鋭く。
「誰が送ってきたんだろうな。このタイミングで……アクスマンを追い詰めたい誰かか、それとも……アイリスディーナさん自身を試してる?」
ぽぷらが怯えた声で。
「ぽぷら、怖いよぉ……みんな、どうなっちゃうの~……?」
魂子は深く息を吸い、決意を込めて立ち上がった。
「この資料、アイリスディーナさん本人に聞かなきゃ。直接、向き合おう。あおぎりの絆で、真実を確かめる!」
ベルリンの一室。
アイリスディーナ、ベアトリクス、リィズが揃う中、魂子たちは資料をテーブルに置いた。
魂子が、震えを抑えながら切り出す。
「アイリスディーナさん……この資料に、あなたの過去について……兄さんを密告したって……本当なの?」
アイリスディーナの青い瞳が、一瞬だけ揺れた。
しかし、すぐに静かな落ち着きを取り戻し、彼女はゆっくりと口を開いた。
「……音霊、その噂は事実の一面を切り取ったものだ。私の兄、ユルゲンは自由を求めて戦っていた。彼を密告したのは……私が生き延び、兄の志を継ぐためだった。」
こまるが声を荒げる。
「でも、それで兄さんが死んだんでしょ!? そんなの、許されることじゃないよ!」
アイリスディーナは目を伏せ、静かに続ける。
「ああ、許されることではない。兄さんが処刑される場に立ち会った時、私は……自分の手で彼を殺したも同然だった。その罪は、一生背負っていく。でも、彼の志――自由と正義を求める心――を私が引き継ぐことで、少しでも償おうとした。」
ゐぶきがハスキーボイスで、鋭く突っ込む。
「償う言うても、シュタージで地位を築いたんは事実やん。アクスマンと同じようなことしてたんちゃうの?」
アイリスディーナは首を振り、静かに否定した。
「アクスマンとは違う。私は、シュタージの非道な行為を拒否した。国家人民軍に入ってからも、部下を守り、誰も犠牲にしない戦いを貫いた。……それでも、私の過去がお前たちに疑念を抱かせるのは当然だ。」
萌実が小さな声で、しかし優しく。
「アイリスディーナさん、あなたがそんな過去を持ってても、私たちのドラマを支えてくれるなら……信じたい。」
エトラが頷き、続ける。
「私、アイリスディーナさんの目を見て思う。あなたは、アクスマンとは違う。過去の罪を背負いながら、前に進もうとしてるよね。」
その時、ドアが静かに開き、リィズ・ホーエンシュタインが入ってきた。
「――――私も過去にアクスマンに操られた。でも、あなたは私を救ってくれた。お兄ちゃんとの再会も、あなたがいたからこそよ。……魂子たち、彼女を信じてあげて。」
魂子は深呼吸し、メンバーたちを見回した。
「分かった。アイリスディーナさん、あなたの過去は重いけど……私たちのドラマは、過去を乗り越える物語にする。あおぎりは、どんな試練でも一緒に戦うよ!」
アイリスディーナは、初めて柔らかな微笑みを浮かべた。
その瞳に、長い間封じ込めていた温かさが、わずかに灯った。
「ありがとう……お前たちの絆は、私の過去の傷を癒してくれる。このドラマを、必ず成功させよう。」
アクスマンがプロデューサーから外れた後、アイリスディーナ、ベアトリクス、リィズの監修のもと、ドラマは新たな段階へ。
タイトルは『ウルスラ』――東ドイツの闇の中で、希望の光を探す少女たちの物語。
魂子たちの演技は、ますます輝きを増した。
こまるの情熱、あかりの繊細さ、ゐぶきのクールさ、麗女の鋭さ、ぽぷらの純粋さ、萌実の優しさ、エトラの信念……すべてが、ドラマに魂を吹き込んでいた。
一方、ベルリンの街角に身を潜めるアクスマン。
ミヒャエル・ゾーネがそっと問う。
「中佐……本当に、変われると思いますか?」
アクスマンは夜空を見上げ、静かに呟いた。
「……私は、本当に変われるのか?」
その言葉は、冷たい風に溶けていった。ドラマの撮影はクライマックスへ。
過去の悲劇を胸に刻みながら、魂子たちは未来への希望を描き続ける。
アオギリエースの絆は、どんな闇も照らす光となり、
彼女たちの挑戦は、新たな伝説として刻まれようとしていた――。
Fortgesetzt werden