2025年5月28日――viviON本社 あおぎり高校スタジオ
スタジオは、ドラマ『ウルスラ』の成功の余韻に浸りながらも、再び微かな緊張に包まれていた。
朝の陽光が大きな窓から差し込み、テーブルを照らす中、あおぎり高校のメンバーたちが集まっていた。
音霊魂子、石狩あかり、栗駒こまる、月赴ゐぶき、春雨麗女、ぷわぷわぽぷら、萌実、エトラ、我部りえる、千代浦蝶美、うる虎がーる、八十科むじな――全員が次のプロジェクトについて語り合っていたが、そこに再び、影が忍び寄っていた。
ハインツ・アクスマン。
Ci-en事業部での一時的な成功を足がかりに、運営スタッフとして本社に復帰した男は、静かに席に着き、打ち合わせの流れを見守っていた。
しかし、彼の瞳には、かつてのシュタージ将校の冷徹な光が宿っていた。
突然、アクスマンが口を開いた。
「……正義は立場で変わる。勝った者こそが正義なのだ!」
その言葉は、まるでスタジオの空気を切り裂く刃のようだった。
低く、重く、しかし確信に満ちた声。
メンバーたちの視線が、一斉に彼に向けられる。
あかりが眉をひそめ、軽くため息をつく。
「(また口出ししてきたよ、こいつ……少し付き合ってあげるか)」
彼女は冷静に、しかし鋭く反論した。
「VTuberは、正しいものが幸せになるためにあるものだよ。」
その言葉には、あおぎり高校の信念が込められていた。
アクスマンは嘲笑を浮かべ、あかりを一瞥する。
「0点だ。正しければ皆幸せになれるんだったら、苦労はない。この低脳が私に勝てる確率など、上空8,000mからゴルフボールを落としてゴルフカップの中に住んでるモグラの鼻の穴に入る確率よりも低い。」
傲慢さに満ちた言葉が、スタジオに響く。
魂子が一歩踏み出し、アクスマンの瞳を真っ直ぐ見つめる。
「アクスマン、アンタにとって幸せとは何? 聞かせて貰えない?」
彼女の声は静かだが、揺るぎない決意に満ちていた。
アクスマンは一瞬、目を細め、まるで魂子の質問を試すように笑う。
「良い質問だね、魂子。では、教えよう!」
彼は胸を張り、かつての将校の威厳を取り戻すかのように言葉を紡いだ。
「幸せとは、秩序だ。私のシュタージ時代、完璧な統制下で全てが動いた。個々の感情や絆など、弱者の幻想にすぎん。勝者がルールを定め、従う者が生き残る。それが幸せの真髄だ!」
魂子の瞳が燃える。
「アクスマン、アンタの幸せ、めっちゃ冷たいね。私たちのドラマは、秩序じゃなくて、絆が幸せなんだよ!」
彼女の言葉は、スタジオに響き、メンバーたちの心を一つにした。
こまるが拳を握り、勢いよく叫ぶ。
「アクスマン、勝ち負けとか秩序とか、こまるには関係ないよ!ファーザーランドみたいになっちゃうよ!」
麗女がすかさずツッコミを入れる。
「こまる先輩、それはナチスドイツが勝利した世界線ですよ。」
こまるが顔を赤らめ、「ぐ……!」と唸る。
エトラが冷静に、しかし少し楽しげに補足する。
「こまるちゃんもズレてるわね。『ファーザーランド』はイギリスの作家ロバート・ハリスの歴史改変小説。タイトルはドイツ語で祖国を意味するVaterland(ファーターラント、父なる国)を英語に置き換えたものよ。ふふ、彼の小説デビュー作で、ナチス・ドイツが第二次世界大戦に勝利した世界を舞台としたミステリー。1992年の発表後、世界各国で話題となり、日本では文藝春秋から出版された。1994年にはテレビ映画化もされてるわ。」
彼女の博識ぶりに、メンバーたちは一瞬感嘆の声を上げた。
アクスマンが手を振って遮る。
「却下だ、却下! 君たちはこのドラマの本質を理解しているのかね? これはただのドラマじゃない。あくまでも“絆”があるドラマなんだよ。」
彼の声には、どこか皮肉と焦りが混じっていた。
麗女がニヤリと笑い、意外にも認める。
「お、今日は真面目なこと言ってるな、アクスマン。そうだよ、よく気付いたね――だがな、度が過ぎる演出はあおぎり高校的にはダメなんだよ。」
アクスマンは一瞬ムッとした表情を見せるが、すぐに反論する。
「……ファーザーランドの要素を入れたら、物語そのものが変わってしまう。こまる、それだけはダメだ。」
萌実が静かに、しかし第一声帯の柔らかな声で呟く。
「……確かに……東ドイツじゃなくなるよね。アクスマン、せめてそこは分かってるんだ。」
彼女の声には、アクスマンへのわずかな評価と、依然として消えない不信感が混在していた。
アクスマンの提案は、魂子たちの結束した拒絶によって一蹴された。
彼の「秩序こそ幸せ」という信念は、あおぎり高校のメンバーたちの「絆こそ幸せ」という理念と真っ向から対立していた。
スタジオに漂う空気は、アクスマンの孤立をさらに際立たせた。
ぽぷらが無邪気に言う。
「ぽぷら、秩序とかよくわかんな~いけど、みんなで笑ってるのが一番ハッピーだよね~!」
りえるが笑いながら。
「アクスマンさん、魂子先輩たちに勝とうなんて100年早いよ!りえるたちの輝き、もっと見てなさい!」
うる虎がーると八十科むじなが頷き、声を揃える。
「あおぎり高校の絆、なめんなよ!」
アクスマンは唇を噛み、ミヒャエル・ゾーネに視線を向ける。
ミヒャエルは静かに首を振る。
「中佐……彼女たちの絆は、あなたの秩序を超えています。もう、過去のやり方は通用しません。」
アクスマンは一瞬目を閉じ、低く呟く。
「……フン、絆か。私には、理解できん光だな。」
スタジオに、再び明るい笑い声が響いた。
アクスマンは静かに席を立ち、廊下の影に消えていった。
彼の背中には、かつての冷徹な将校の面影はなく、ただ疲れた男のそれだけが残っていた。
魂子がメンバーたちを見回し、力強く宣言する。
「アクスマンやエイレーンの騒動があったけど、私たちの絆は絶対に揺るがない!『ウルスラ』は、私たちの物語だ。どんな試練も乗り越えるよ!」
あかりが頷く。
「萌実さんのあの声、めっちゃ痺れたよ! 私たち、ファンのためにこれからも輝こう!」
こまるが拳を握る。
「アクスマン、完全に負けたね! 次は何やっても、こまるたちが勝つ!」
萌実がいつもの優しい笑顔に戻り、言う。
「……アクスマンさん、変わってほしいな。でも、萌実たちは萌実たちの道へ進むよ。」アオギリエースの物語は、どんな闇も照らす光として、輝き続ける。
彼女たちの絆は、未来を切り開く最強の武器だった――。
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