2025年5月29日――viviON本社のあおぎり高校スタジオは、ドラマ『ウルスラ』の成功の余韻と、エイレーンによる百合漫画騒動の波紋が交錯する中、新たな火花が散っていた。朝の柔らかな陽光が大きな窓から差し込み、テーブルを照らす。
音霊魂子、石狩あかり、栗駒こまる、月赴ゐぶき、春雨麗女、ぷわぷわぽぷら、萌実、エトラ、我部りえる、千代浦蝶美、うる虎がーる、八十科むじな――メンバーたちは、次の企画について熱く語り合っていた。
だが、その空気を切り裂くように、ハインツ・アクスマンが静かに口を開いた。
彼は運営スタッフとして復帰したものの、メンバーたちからの不信の視線に晒され続けていた。
それでも、過去のシュタージ将校としてのプライドを捨てきれず、ドラマの追加提案や運営への口出しを繰り返していた。
「昨日も言ったが…正義は立場で変わる。勝った者こそが正義なのだ!」
その言葉は、まるでスタジオの空気を切り裂く刃のようだった。
低く、重く、しかし確信に満ちた声。
メンバーたちの視線が、一斉に彼に向けられる。あかりが眉をひそめ、軽くため息をつく。
「(……少し付き合ってあげるか)」
彼女は冷静に、しかし鋭く反論した。
「VTuberは、正しいものが幸せになるためにあるものだよ。昨日言った筈だよ」
その言葉には、あおぎり高校の信念が込められていた。アクスマンは嘲笑を浮かべ、あかりを一瞥しようとした。次の瞬間、萌実が突如立ち上がった。
普段は穏やかで優しい彼女が、別人のような姿で現れる。
新衣装はダークトーンの鋭いデザインで、彼女の第二声帯――低く、鋭く、まるで魂を貫くような声がスタジオに響き渡った。
「みんな、見て。この満足そうな表情を。ズワイガニ食べ放題ツアーの帰りのバスそのものじゃない。」
萌実の声は、冷たく鋭い刃のような響きだった。
「アクスマン、よく覚えておきなさい。これがこの国の“馴れ合い”という文化の根深さよ。人間は長い年月飼いならされると、かくもダニのような生き物になるの!」
アクスマンが顔を歪め、反論する。
「ダニ? 私のことを言ってるのかね?」
萌実は一瞬たりとも怯まず、冷笑を浮かべる。
「他に誰かいるの? 自覚すらないとは本当に羨ましい!コケにされているのも気づかないまま墓に入れるなんて、幸せな人生ね!」
アクスマンが声を荒げる。
「――!」
萌実はさらに追い打ちをかける。
「アクスマン…自分のことも分かっていないから教えて差し上げてるのよ。いい? アンタは国に見捨てられた民、棄民よ。国の発展のためには賄賂や談合を貪るだけの機会主義者なんて無価値だから。塵取りで集めて端っこに寄せて、ヴルストを食わせて黙らせているのよ。あおぎり高校に寄生する心優しいダニ、それがハインツ・アクスマン――アンタのことよ!」
アクスマンは一瞬言葉を失い、苦笑を浮かべる。
「ふっ、なかなか詩的だな。だが、私はただ生き残るために――」
萌実が鋭く遮る。
「ごめんなさいね。最初に言った通り、アンタのようなみじめな機会主義者が大嫌いなのよ!」
アクスマンが声を張り上げる。
「君、発言に気をつけたまえ!私は君の倍は生きてるんだ!何が気に入らないと言うのか!?」
萌実の瞳が燃えた。
「かつてはこのあおぎり高校は、最初は2人だけで始まった。純粋にゲーム配信やってたからだ。それはそれは美しい友情と絆よ――それを讃えて、いつしかゲーム部からあおぎり高校へと独立したチャンネルとなった。ゲーム部が衰退してからは、4人中3人は引退に追い込まれた。所謂ゲーム部騒動ね――今年の5月17日、最後の生き残りの桜樹みりあが活動終了した。そして今、土と水を汚され、病に侵され、このチャンネルはいつなくなる可能性だってあるけど、でもファンの皆の笑顔を届けたし、誠意も絆も感じられた。本当にありがたいことです! よかったよかった!」
アクスマンは言葉を失い、ただ黙り込む。
「…」
萌実はさらに畳みかける。
「これで土地も水も蘇るんでしょう!病気も治るんでしょう!工場も汚染物質を垂れ流し続けるけど、きっともう問題は起こらないのでしょう、だって絆があるから!!!」
エトラが慌てて割って入る。
「萌実、そこまでよ!」
アクスマンが震える声で反論する。
「お前…私の苦しみが理解出来ないだろ…私は、君に言われたことくらい嫌と言うほどわかってる! 悔しくて悔しくて仕方ないんだ!だけど、必死に気持ちを押し殺して、納得しようとしてるんだ!」
萌実が冷たく問う。
「何故?」
アクスマンが繰り返す。
「何故?」
萌実の声がさらに鋭くなる。
「ゴミクズ扱いされてるのを分かってるのに、なぜ納得しようとしてるの?」
アクスマンが叫ぶ。
「私は…元シュタージの将校として――」
萌実が一蹴する。
「元シュタージの将校だから何なの?」
アクスマンが言葉に詰まる。
「ぐっ……這い上がるために頑張ってきたんだ!」
萌実の声が雷鳴のように轟いた。
「だからなんだってんだァァァ!!」
その叫びは、スタジオの空気を震わせ、アクスマンの心を突き刺した。
「だから労わって欲しいの? だから慰めて欲しいの? だから優しくされたらすぐ嬉しくなってしまうの? 先人達に申し訳ないと子々孫々に恥ずかしいと思わないのか? 何が“幻想”だ! 『あおぎり高校は宇宙より遥かに美しい』とどうして思わないのよ!誰にも責任を取らせず、見たくないものを見ずに、皆仲良しで暮らしていけたら楽でしょうね! しかし、もし誇りある生き方を取り戻したいのなら!見たくない現実を見なければならない!深い傷を負う覚悟で前に進まなければならない!戦うということはそういう事だ! 愚痴なら墓場で言えばいい!絆が全てではない? 絆なのよ!アンタが相手に一矢を報い、意気地を見せ付ける方法は、奪われたものと踏み躙られた尊厳に相応しい対価を勝ち取ることだけなんだ!それ以外に無いんだ!!カス!!!」
スタジオは静寂に包まれた。
アクスマンは、萌実の言葉に打ちのめされ、ただ立ち尽くすしかなかった。
ミヒャエル・ゾーネが静かに言う。
「中佐…彼女の言葉は、あなたの心に届いたはずです。」
翌日、萌実はいつもの愛らしい衣装に戻り、第一声帯の柔らかな声でスタジオに現れた。
彼女は魂子たちにウインクし、てへぺろの笑顔を見せる。
「昨日は怖かったでしょ? てへっ、ちょっとやりすぎちゃったかな?」
魂子が笑いながら言う。
「萌実、昨日のはマジで痺れたよ! マッドカルテルのダヴィッツもびっくりな迫力だった!」
こまるが拳を握り、叫ぶ。
「萌実さん、めっちゃカッコよかった! アクスマン、完全にやられたね!」
ゐぶきがハスキーボイスで笑う。
「ほんま、萌実の第二声帯、アクスマン震え上がっとったわ。ナイスやで!」
麗女がニヤリと笑う。
「萌実先輩、あの新衣装と声、最高だったよ!アクスマン、もう二度と口出しできないね!」
ぽぷらが無邪気に。
「ぽぷら、萌実ちゃんの声、びっくりしたけど、なんかカッコよかった~!」
エトラが少し心配そうに。
「萌実、すごかったけど……アクスマンさん、ちょっと可哀想だったかも?でも、魂子ちゃんたちの絆が一番大事だよね!」
りえるが笑いながら。
「萌実ちゃん、りえるもあの声にドキッとしたよ!あおぎり高校、最強!」
うる虎がーると八十科むじなが声を揃える。
「アクスマン、なめんなよ! あおぎりの絆は無敵だ!」
萌実の烈火の如き言葉は、アクスマンの最後のプライドを砕いた。
彼はviviON本社での立場を完全に失い、Ci-en事業部に戻ることもできず、静かに姿を消した。
ミヒャエル・ゾーネは彼を追い、そっと言う。
「中佐……魂子たちの絆は、あなたの秩序を超えました。もう、戦う必要はありません。」
アクスマンはベルリンの夜を思わせる暗い空を見上げ、呟く。
「……絆か。私には、眩しすぎる光だった。」
彼の心には、初めて悔恨と、わずかな希望の芽が生まれていた。
魂子たちは、萌実の逆襲をきっかけに、ファンとの絆をさらに深める配信を企画。
Xでは「#萌実最強」「#アオギリエース無敵」がトレンドを席巻し、ファンの熱狂的な支持が集まった。
アイリスディーナ、ベアトリクス、リィズ、テオドールも、彼女たちの輝きを見守り、支え続けた。
魂子がスタジオの中心で高らかに叫ぶ。
「あおぎり高校は、どんな闇も照らす光! みんなと一緒に、永遠に輝き続けるよ!」
あおぎり高校の物語は、絆と情熱を武器に、過去の亡魂を乗り越え、新たな伝説として刻まれ続ける。
アクスマンの策略も、エイレーンの騒動も、萌実の烈火の前ではただの影に過ぎなかった。
彼女たちの光は、どんな試練も超え、未来を切り開く。
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