2025年5月30日――東京の空は、梅雨入り前の湿った青さに染まっていた。にじさんじのスタジオの一角、西園チグサのプライベートルーム。
彼女はベッドに腰を下ろし、スマホの画面をじっと見つめていた。
画面には、あおぎり高校の公式Xアカウントからリポストされた萌実の配信クリップ。
「第二声帯」モードでアクスマンを完膚なきまでに叩き潰した、あの伝説のシーンがループ再生されている。
チグサの瞳に、複雑な光が宿る。
「……萌実ちゃん、すごいね。あんな風に、仲間を守れるなんて。」
彼女は深く息を吐き、連絡先を開いた。
あおぎり高校のメンバーとは、ENTUM崩壊以降、表向きは距離を置いていた。
しかし、裏では細い糸のような繋がりが、ずっと続いていた。
指が少し震えながら、萌実の個人LINEにメッセージを打つ。
【西園チグサ】
萌実ちゃん、久しぶり。
昨日配信見たよ。
第二声帯、めっちゃ痺れた。
アクスマン、完全に黙っちゃったね……ふふ、最高だった。
送信ボタンを押した瞬間、胸がざわつく。
返事が来るかどうか、わからない。
それでも、チグサはスマホを握りしめたまま、窓の外の空を見上げた。数分後、既読がつく。
そして、すぐに返信が届いた。
【萌実】
チグサちゃん!?
うわぁ、久しぶりすぎてびっくりしたよ~!
てへっ、昨日はちょっと暴走しちゃったかも……でも、みんなを守りたかっただけなんだ。
チグサちゃんも、ずっと見ててくれたんだね……ありがとう。
チグサの唇に、かすかな笑みが浮かぶ。
【西園チグサ】
見てたよ。
ENTUMの時、私たちみんなバラバラになったけど……あおぎり高校を見てると、なんか、救われるんだ。
萌実ちゃんの声、ほんとに強かった。
私も、いつかあんな風に、仲間を守れるようになりたいな。
萌実からの返信は、すぐに来た。
絵文字がたくさん並んだ、いつもの優しい文面。
【萌実】
チグサちゃん……泣きそう。
私も、チグサちゃんのこと、ずっと気になってたよ。
ぺぺちのことも、チグサちゃんのことも、忘れたことなんてないから。
いつか、みんなでまた……話せたらいいね。
あおぎりも、にじさんじも、関係なく。
仲間だもんね。チグサはスマホを胸に押し当て、目を閉じた。
涙が一筋、頰を伝う。
【西園チグサ】
うん。
仲間だよ。
萌実ちゃん、ありがとう。
第二声帯、かっこよかったよ。
また、いつか……会おうね。
萌実からの最後の返信は、ハートがいっぱいのシンプルな一言。
【萌実】
うん! 絶対だよ♡♡♡
チグサはスマホを置いて、ゆっくり立ち上がった。
窓の外、東京の空はまだ曇りがちだったが、彼女の胸の中には、小さな、でも確かな光が灯っていた。
あおぎり高校と、にじさんじ。
バラバラになったはずの仲間たちが、まだ、繋がっている。アオギリエースの物語は、どんな距離も、どんな時間も超えて、静かに、しかし確かに続いていく――。
Fortgesetzt werden