2025年6月1日――東京の空は、梅雨の気配を帯びて重く垂れ込めていた。
ハインツ・アクスマンは、Ci-en事業部の薄暗いデスクで、拳を固く握りしめていた。
敗北を認めぬ男の瞳に、再び野心の炎が灯る。
「自分がVTuberになれば……地位を上げられる!」
過信に満ちたその言葉を胸に、彼は即座に行動に移した。
かつてミライアカリをプロデュースしたエイレーン――彼女なら、自分の野望を形にできると踏んだのだ。
都内の隠れ家のようなカフェ。
アクスマンはエイレーンと対峙し、声を低くして懇願した。
「エイレーン、君の才覚を貸してほしい。私はVTuberとしてデビューする。君がプロデュースすれば、必ずや業界を……」
エイレーンはコーヒーカップを置くと、冷たく笑った。
「あなたがVTuber? ハハッ、冗談ですよね。アクスマン、あなたの時代は既に終わったんですよ。」
だが、次の瞬間、彼女の唇にニヤリとした笑みが浮かんだ。
「でも、面白い話があります。萌実さんの第二声帯とエトラさんを主役にしたR18同人誌を作って、売り上げを半分譲渡するってのはどう?それなら、アンタの“悪運”も活かせるでしょ?」
アクスマンの瞳が輝いた。
「フン、チャンスだ! エイレーン、君の才覚はやはり大したものだ!」
彼は即座に条件を呑んだ。
しかし、エイレーンが用意した同人誌は、アクスマンの想像を遥かに超えるものだった。
物語の舞台は1983年の東ドイツ。
萌実(第二声帯)とエトラがタイムスリップし、シュタージに拘束される。
二人は兵士たちに陵辱されるが、そこへベアトリクス・ブレーメ率いるヴェアヴォルフ大隊が乱入。
兵士たちは同胞殺しで粛清され、物語のボスキャラ――アクスマンをモデルにした冷酷なシュタージ将校「ラインハルト・ゲーベン」――は、萌実、エトラ、ベアトリクス、そしてニコラ・ミヒャルケ、カタリーナ・ディーゲルマン、ロザリンデ・ブーフ、ファルカ・ミューレンカンプら精鋭に完膚なきまでに打ち砕かれる。
アクスマンの野望を徹底的に否定する、痛烈な内容だった。
だが、エイレーンは予備の作品も用意していた。
それは、アクスマンが喜びそうな純粋に扇情的な物語――萌実(第二声帯)が牛乳を飲んで突然胸が大きくなり、エトラが色目を使って萌実を誘い、情熱的な百合セックスに突入するという過激な一作。
この作品は、一部の百合ファンや過激コンテンツ愛好者の間で熱狂的な支持を集め、Ci-enでの売り上げが急上昇した。
アクスマンの悪運は、再び彼を浮上させた。
viviON本社に戻ったアクスマンは、スタジオの中央に堂々と立ち、ゲスな笑みを浮かべて高らかに叫んだ。
「ははは、私は何て悪運が良いんだ! 私がいなくなる? そんなわけないだろう。ぶぅぅぅ~わぁぁぁぁ~かあああぁぁぁぁ!」
その高笑いは、メンバーたちの冷ややかな視線を浴びながらも、スタジオに響き渡った。萌実は悔しそうな表情を浮かべ、第一声帯に戻った柔らかな声で呟いた。
「……古御門だ……リーガルハイの古御門研介みたい……。」
エイレーンの同人誌の成功は、viviON上層部にアクスマンの「話題重視性」を認めざるを得ない状況を作り出した。
彼は運営責任者として再び君臨したが、流石に直接的な口出しは控え、メンバーたちの才能を認めざるを得なかった。
魂子たちは、いつものように集まり、力強く宣言した。
魂子が拳を握りしめて言う。
「アクスマン、しぶといけど、私たちの絆は絶対に負けない!あおぎりはどんな策略も跳ね返すよ!」
あかりが静かに頷く。
「―――アクスマンが何を企んでも、私たちの光は消えないよ。」
こまるが拳を振り上げて。
「次はもっと派手にやっつけてやる! アクスマン、覚悟してよね!」
ゐぶきがハスキーボイスで笑う。
「ほんま、アクスマンの悪運、半端ないな。けど、うちの絆の方がもっと強いわ!」
ぽぷらが無邪気に。
「ぽぷら、アクスマンさんの漫画、びっくりしたけど~、みんなで頑張れば大丈夫だよね~!」
エトラが少し複雑な表情で。
「……エイレーンの漫画、私たちをこんな風に描くなんて……でも、魂子ちゃんたちの絆が本物だって、ファンは分かってくれるよね。」
そんな中、春雨麗女は、アクスマンの過去を知りながらも、意外な行動に出た。
彼女はアクスマンをスタジオの片隅で呼び止め、ニヤリと笑って言った。
「なあ、アクスマン。過去は過去としてさ、ちょっと飲みに行かない? 話したいことあるんだよね。」
アクスマンは一瞬驚いたが、彼女の鋭い視線に何かを感じ、頷いた。
「……フン、面白い女だ。いいだろう。」
二人が向かったのは、都内の小さなバー。薄暗いカウンターで、麗女はグラスを手にアクスマンに問う。
「アクスマン、アンタの言う秩序ってさ、ほんとに幸せだったの?シュタージの時代、リィズさんやテオドールさんを傷つけて、何か得た?」
アクスマンはグラスを握りしめ、長い沈黙の後、低く答えた。
「……得たものは、力だ。だが、失ったものは、それ以上だったのかもしれん。」
麗女が笑う。
「へえ、初めてまともなこと言ったじゃん。アクスマン、魂子先輩たちの絆見て、何か感じたろ? 償いたいなら、まずは自分と向き合ってみなよ。」
アクスマンは目を閉じ、呟く。
「……償い、か。私にそんな資格があるのか?」
麗女がグラスを掲げ、言う。
「資格は自分で作るもんだ。ほら、飲もうぜ。あおぎりは、アンタみたいなダニでも、ちょっとくらいなら受け入れてやるよ。」
アクスマンは、グラスを静かに傾けた。
その瞳に、初めて――本当に初めて――後悔と、わずかな光が揺らめいた。
アオギリエースの物語は、どんな闇も照らす光として、まだ終わらない。
彼女たちの絆は、過去の亡魂すら飲み込み、未来へと突き進む――。
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