2018年7月某日 株式会社ENTUM 月見スタジオ
株式会社ENTUMの新設スタジオ「月見スタジオ」は、淡いピンクと白を基調とした可愛らしい内装で、ユメノツキミのために特別に設けられた空間だった。スタジオの壁にはうさぎのモチーフが散りばめられ、マイクスタンドには小さなうさ耳が飾られている。窓から差し込む朝の光が、ガラス越しに優しくスタジオを照らしていた。
「ユメノツキミの為に設けた収録スタジオだお!」
ベイレーンが胸を張ってスタジオを見渡し、得意げに言った。彼女の声には、仲間への愛情と、新しいプロジェクトへのワクワクが詰まっている。
「うん、いいね」
ベノちゃんが小さく頷き、スタジオの可愛らしい装飾に目を輝かせた。彼女の小さな手が、うさぎのモチーフをそっと撫でる。
「うんうん」
エボラちゃんが相槌を打ち、ベノちゃんの隣でニコニコと笑う。姉妹のような二人のやり取りが、スタジオにほんわかした空気を漂わせた。
「成程……(-_-;)」
ZMAPPちゃんが冷静に呟き、スタジオの設備を一瞥した。彼女の表情は無愛想だが、内心ではこのスタジオのクオリティに感心している様子が伺える。
「いいわね」
キュアちゃんが微笑み、スタジオの雰囲気を楽しむように一歩踏み出した。彼女の声には、ユメノツキミへの期待が滲んでいる。
「A nice studio」
夏実萌恵が英語で呟き、スタジオのマイクを手に持つ。彼女の流暢な英語が、スタジオに少し異国情緒を加えた。
「うん! いいね。エイレーンには勿体ないよ」
萌実が夏実萌恵の言葉に反応し、ちょっと意地悪そうに笑った。彼女の声には、姉への軽いからかいが込められている。
「For that purpose I made it to the 38th line branch. According to instructions of Honorary Braeme president」
夏実萌恵がさらに英語で続け、スタジオの設計について説明した。彼女の言葉には、ベアトリクスへの忠誠と、このプロジェクトへの真剣さが感じられる。
「……」
ベイレーンが一瞬黙り込み、夏実萌恵の言葉を聞きながら複雑な表情を浮かべた。エイレーン不在の状況が、彼女の心に微かな影を落としている。
「For a while, Eireen is a 38-degree line branch and will not return until he gets to know Korean soldiers. This is also the honorary president of Braeme's intention」
夏実萌恵がさらに説明を加え、ベアトリクスの意向を強調した。彼女の声には、どこか冷たい響きがある。
「おはようございます!」
その時、スタジオのドアが開き、ユメノツキミが元気よく入ってきた。彼女のピンク色のツインテールが揺れ、頭のうさ耳アクセサリーが朝日にキラリと光る。2018年6月にENTUMの二期生としてデビューしたばかりの彼女は、すでに歌唱力で注目を集めていた。特に、Junky氏の「メランコリック」を初投稿で歌い上げ、そのキュートな声と伸びやかな歌唱力がリスナーを魅了していたのだ。
「Good morning. It was set up for you, Ms. Yumenotsukimi」
夏実萌恵がツキミに微笑みかけ、英語で挨拶した。彼女の声には、ツキミへの期待と歓迎の気持ちが込められている。
「私の…為に…?」
ツキミが目を丸くし、自分のために作られたスタジオに驚きを隠せない。彼女の声には、純粋な喜びと少しの照れが混じっていた。
「That’s right」
夏実萌恵が頷き、さらっと英語で答えた。
「お姉ちゃん! 皆に分かるよう日本語で喋ってよーーーーーーー!」
萌実が叫び、夏実萌恵に詰め寄った。彼女の声には、姉のバイリンガルっぷりに振り回される苛立ちと、皆をまとめたいという責任感が滲んでいる。
「Ich hasse es.」
夏実萌恵がドイツ語で呟き、萌実の訴えを無視するように肩をすくめた。彼女の態度には、どこか意地悪な遊び心が感じられる。
「彼女はバイリンガルで帰国子女なんだ。仕方がない」
アイリスディーナが冷静にフォローし、夏実萌恵を庇うように言った。彼女の声には、状況を収めようとする大人の余裕がある。
「そうよ。貴女が翻訳しなさい」
ベアトリクスが冷たく言い放ち、萌実に視線を向けた。彼女の命令口調には、議論を許さない威圧感が漂っている。
「分かりましたよ……」
萌実がため息をつき、しぶしぶ翻訳の役割を引き受けた。彼女の肩が少し落ち、疲れが見て取れる。
「أنا أتوسل إليك أن تسأل」
夏実萌恵が突然アラビア語で話し始め、萌実の顔が一瞬で青ざめた。
「お姉ちゃん! アラビア語も皆に分からないからダメだよーーーーー! あーーーーもう早く帰って来てよーーーーーーーーーエイレーーーーーーーン!!!!!!」
萌実が叫び、頭を抱えた。彼女の声には、姉の多言語っぷりに振り回される苛立ちと、エイレーンへの切ない想いが溢れている。
「Dziękuję. Pani Sylvia」
夏実萌恵がポーランド語でシルヴィアに礼を言い、微笑んだ。
「ええ、宜しく頼むわ……」
シルヴィアが静かに頷き、夏実萌恵の言葉に応えた。彼女の声には、穏やかな信頼感が込められている。
「Chị gái của Fam」
夏実萌恵が今度はベトナム語でファムに話しかけた。
「ええ、宜しくお願いするわね」
ファムが優雅に応じ、微笑みを浮かべた。彼女の声には、夏実萌恵への信頼と、スタジオへの期待が感じられる。
「翻訳者の私の身にでもなってよーーーーーー!!」
萌実が泣きそうな声で叫び、床にぺたんと座り込んだ。彼女の目には涙が滲み、多言語の嵐に振り回された疲れが全身から溢れ出していた。
スタジオは一瞬にしてカオスと笑いに包まれたが、そんな中でもユメノツキミはマイクの前に立ち、目を輝かせていた。彼女の歌唱力は、すでにENTUM内で評判となっており、Junky氏の「メランコリック」を歌った初投稿動画では、キュートな声と確かな実力がリスナーを魅了していた。月見スタジオでの初収録――彼女の新たな一歩が、ここから始まろうとしていた。
北朝鮮側に位置する株式会社ENTUMの38度線支部、北側オフィス。薄暗いコンクリートの部屋には、古びたデスクと簡素な椅子が並び、壁には色褪せたポスターが貼られている。窓の外からは、軍事境界線特有の張り詰めた空気が漂い、時折聞こえる兵士たちの足音が静寂を破る。そんな中、エイレーンはヘッドホンを耳に当て、楽しげに鼻歌を歌っていた。
「♪」
《오빠는 강남 스타일♪》
「♪」
《강남 스타일♪》
エイレーンがリズムに合わせて小さく首を振る。彼女の顔には、楽しげな笑みが浮かんでいる。「うーん、PSYはいい曲ばかりですね」と呟き、ヘッドホンを外して満足そうに頷いた。
その時、オフィスのドアが開き、グレーテルが厳しい表情で入ってきた。
「エイレーン、何を聴いてるんだ?」
彼女の声は低く、まるで軍事訓練中の教官のような鋭さがあった。
「あ、貧乳政治将校さん」
エイレーンがニヤリと笑い、グレーテルをからかうように言った。彼女の声には、いたずらっぽい軽さが滲んでいる。
「グレーテルだ! ワザと言ってるの!?」
グレーテルが顔を真っ赤にして叫び、机をバンと叩いた。彼女の反応に、エイレーンは思わず笑い声を上げる。
「あはは、冗談ですよヘンゼルさん」
エイレーンが手を振って誤魔化し、グレーテルの怒りをなだめようとした。だが、彼女のからかいがグレーテルの癇に障ったのは明らかだ。
「……その曲、K-POPか? ここは北側オフィスだぞ。北朝鮮はK-POPを聴いたり韓流ドラマを見る事さえ禁止されてる! 堂々とそんな事を…政治的指導が必要だな」
グレーテルが眉をひそめ、エイレーンを睨みつけた。彼女の声には、北朝鮮の厳格なルールに対する警戒心と、立場上見過ごせない苛立ちが混じっている。
「分かってますよ。でも北側の人達はそれを黙認してるんですよ。特に欧州にいるYouTuberはそれをアピールしてるに過ぎないんです」
エイレーンが肩をすくめ、気楽に応じた。彼女の声には、ルールを軽く受け流すような余裕がある。
「と言うと?」
グレーテルが首を傾げ、エイレーンの言葉に興味を持った。彼女の視線が鋭くなり、説明を求めるようにエイレーンを見つめる。
「つまーり、南と北も関係ありませーん」
エイレーンがのんびりと言い、ヘッドホンを首にかけたままニコリと笑った。彼女の軽い態度が、グレーテルの緊張感と対照的だ。
「ヴァルトハイム少尉みたいな発言は控えろ! 本来なら犬に食い殺されてるぞ」
グレーテルが声を荒げ、エイレーンを叱りつけた。彼女の言葉には、北朝鮮の厳しい現実と、過去の冷戦時代の記憶が滲んでいる。
「あ、そろそろ南側に行かないと不法滞在で捕まってしまいます!」
エイレーンが慌てて立ち上がり、荷物をまとめ始めた。彼女の声には、緊張感が少し混じりつつも、どこか楽観的な響きがある。
「私の権限ならここにいても大丈夫だが?」
グレーテルが冷静に言い、エイレーンを振り返った。彼女の声には、部下を守る責任感と、状況をコントロールする自信が込められている。
「南側の方が快適だし韓流ドラマ見放題ですよ」
エイレーンが笑いながら答えた。彼女の言葉に、グレーテルが一瞬呆れた表情を浮かべる。
「確かに見た所…水と水キムチしか置いてないな…」
グレーテルがオフィスを見渡し、簡素な環境にため息をついた。彼女の声には、北側の厳しい生活環境への諦めが滲んでいる。
「あと食料と飲料水、酒類は配給制になってるので問題ありません」
エイレーンが明るく答え、配給制の現実を軽く受け流した。彼女の楽観的な態度が、グレーテルの気分を少し和らげる。
「冷戦時代も配給制だったからな。特にポーランドとか」
グレーテルが過去を振り返るように呟き、遠くを見つめた。彼女の声には、冷戦時代の記憶と、東側諸国の過酷な歴史が滲んでいる。
「東ドイツも配給制だったんですよね?」
エイレーンが興味津々に尋ね、グレーテルの言葉に反応した。彼女の声には、歴史への純粋な好奇心が込められている。
「それは私達が生まれる前の話だ。70年代から西側諸国から食料援助してたしな……自分達だけじゃ食事は足りないと」
グレーテルが淡々と答え、過去の苦難を語った。彼女の声には、歴史の重みと、経験からくる冷静さがある。
「……」
エイレーンが一瞬黙り込み、グレーテルの言葉に思いを馳せた。彼女の表情には、普段の軽い態度とは異なる真剣さが垣間見える。
「私の権限で北側に一生居れるぞ。悪くない話だが…どうだ?」
グレーテルが提案し、エイレーンに視線を向けた。彼女の声には、部下を守りたいという思いと、責任感が込められている。
「じゃあ…お言葉に甘えて」
エイレーンが微笑み、グレーテルの提案を受け入れた。彼女の声には、信頼と安堵が滲んでいる。
その時、オフィスの電話が鳴り響いた。ジリリリリッ! ジリリリリッ!
グレーテルが眉をひそめ、受話器を取る。「私だ」と低い声で応じた。
《어?》
電話の向こうから、夏実萌恵の驚いた声が聞こえた。
「萌恵? 夏実萌恵か!?」
グレーテルが声を上げ、萌恵の声に反応した。彼女の表情には、懐かしさと驚きが混じっている。
《Oh, Rep. Gretel Yökeln. Wer ist ein nordkoreanischer Soldat oder eine Zweigstelle?》
夏実萌恵がドイツ語で尋ね、オフィスの状況を確認した。彼女の声には、遠くからでも状況を把握しようとする真剣さが滲んでいる。
「Jeder ist nicht da, aber wenn es ein Büroangestellter im Süden ist」
グレーテルがドイツ語で答え、南側との連絡を意識した。彼女の声には、状況を冷静に伝える責任感がある。
《…》
萌恵が一瞬黙り込み、グレーテルの言葉を吟味する。
「Zu welchem Zweck hast du mich angerufen? Keine Möglichkeit zu wissen, dass ich von Anfang an hierher kommen werde. Bist du ein Assistent von Eireen?」
グレーテルがさらに尋ね、萌恵の意図を探った。彼女の声には、状況を掌握しようとする鋭さがある。
《Trotzdem dachte ich, dass die Ladung für Herrn Yökeln zu schwer war.》
萌恵が答え、グレーテルの負担を気遣う言葉を述べた。彼女の声には、仲間への思いやりが込められている。
「Ich sehe ... Obwohl ich die 38. Linie als Mitglied der Linkspartei besuchte, gibt es ein Problem?」
グレーテルが確認するように尋ね、自分の立場を説明した。彼女の声には、過去の政治的背景が滲んでいる。
《Nein, nichts》
萌恵が簡潔に答え、問題がないことを伝えた。
「Sagen Sie Captain Bernhardt so. "Mir geht es gut und mach dir keine Sorgen"」
グレーテルが指示を出し、アイリスディーナへの伝言を頼んだ。彼女の声には、仲間への信頼と安心を伝える思いがある。
《Ich verstehe. Ich werde es dir sagen.》
萌恵が頷き、グレーテルの伝言を受け入れた。彼女の声には、責任感と仲間への忠誠が感じられる。
「Ich werde auflegen. Ich habe es dir gesagt.」
グレーテルが電話を切る準備をしながら言った。
《Lass uns zusammenhalten.》
萌恵が最後に呟き、電話が切れた。ブツ! ツー ツー ツー…
「南側に行かないのか?」
グレーテルがエイレーンに尋ね、電話を置いた。彼女の声には、エイレーンへの気遣いが滲んでいる。
「いえ、ここにいます」
エイレーンが微笑み、北側に留まることを選んだ。彼女の声には、グレーテルへの信頼と、新たな環境への好奇心が込められている。
「そうか…ならいい」
グレーテルが頷き、静かに呟いた。彼女の視線が窓の外に向けられ、38度線の緊張感漂う風景を見つめる。北側オフィスでの新たな一歩が、今始まろうとしていた。
株式会社ENTUMの廊下は、朝の穏やかな光が差し込み、壁に貼られたポスターが色鮮やかに輝いていた。そんな中、カタリーナが颯爽と歩きながら、ミライアカリに声をかけた。
「アカリちゃん」
カタリーナの声は落ち着いていながらも、どこか楽しげな響きを帯びていた。彼女の長い髪が歩くたびに揺れ、凛とした雰囲気が漂う。
「あ、カタリーナさん!」
アカリが振り返り、目をキラキラさせて手を振った。彼女の声はいつも通り元気いっぱいで、まるで太陽のような明るさが廊下を一気に活気づける。
「前回の事覚えてる?」
カタリーナが立ち止まり、アカリに視線を向けた。彼女の口元には、ちょっと意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
「前回…あ! 青春モノの!」
アカリが手を叩き、思い出したように叫んだ。彼女の顔には、懐かしさと楽しそうな表情が広がる。前回の収録での出来事が、脳裏に鮮やかに蘇ったのだ。
「そうよ! 『この練乳屋!』って何?」
カタリーナが眉を上げ、アカリに詰め寄るように言った。彼女の声には、困惑と好奇心が混じり合っている。前回のネタがあまりにも突飛で、彼女の中で消化しきれていない様子だ。
「え? あれは…練乳塗れでアカリの体操服をクンカクンカを…」
アカリが顔を赤らめながら説明し始めた。彼女の声は少し恥ずかしそうだが、どこか楽しげで、思い出を語るその姿は無邪気そのもの。
「もういいわ…」
カタリーナが慌てて手を振って話を遮り、ため息をついた。彼女の顔には、「もうその話は聞きたくない」という表情が浮かんでいる。「それより次の話よ!」と、話題を切り替える。
「次ですか?」
アカリが首を傾げ、カタリーナを見つめた。彼女の瞳には、次の展開への期待と好奇心がキラリと光っている。
「そうよ」
カタリーナが頷き、自信たっぷりに微笑んだ。彼女の声には、次回の企画への意気込みが込められている。廊下の空気が、二人を中心に新たな物語が始まる予感で満たされていく――。