2018年4月9日、株式会社ENTUMの名誉会長室は、嵐のような緊張感に包まれていた。夕陽が窓から差し込む中、部屋の空気はベアトリクスの存在感によって重く、鋭く支配されていた。
ミライアカリが、ニコラに連れられ、恐る恐る部屋に足を踏み入れる。
「何でしょうか……?」
彼女の声は小さく、どこか不安げに震えていた。
ベアトリクスはデスクに広げられた企画書を手に、冷ややかな視線をアカリに向ける。
「何? この内容は? 理解できないわ」
アカリは慌てて説明を始める。
「これはですね……えーと、その……あ、そうそう! 1000万再生を超えるほどの――」
「貴様、こんな内容で1000万再生なんて、視聴者が見てくれると思うのか?」
ベアトリクスの言葉が刃のように鋭く突き刺さり、アカリは言葉を失う。
沈黙が部屋を覆う。アカリの瞳が揺れる中、ベアトリクスは無言で彼女を見つめ続ける。
その時、カタリーナが軽やかな声で割って入った。
「同志少佐、その内容ならWake Up, Girls! とコラボはどうでしょう?」
ニコラが呆れたように呟く。
「――ホント好きなんだな……」
カタリーナは目を輝かせて続ける。
「良いでしょ! かやたんとみゅーちゃんの大ファンだし! それに、ミライアカリとコラボすれば――」
「フン!」
ベアトリクスが鼻を鳴らし、話を遮る。彼女はアカリに視線を戻し、厳かに言い放つ。
「いいか、よく聞きなさい」
アカリがゴクリと息を呑む。
「はい……」
「安くないのよ! 1000万再生を超えるのは!」
ベアトリクスの声が部屋に轟き、アカリが小さく「ひぃっ!」と声を漏らす。ニコラ、カタリーナ、ファルカも一瞬身を固くする。
「再生数は……命より重いのよ!!!」
その言葉はまるで雷鳴のように響き、アカリの心を揺さぶった。
ニコラが呟く。
「命より……」
カタリーナが続ける。
「重い……」
ファルカが静かに頷く。
「努力の積み重ねですね」
ベアトリクスは一気に言葉を畳みかける。
「一流YouTuberは最初、どん底から地味に動画を投稿する! 次第に時の積み重ねで登録数は1万、10万、100万、そして1000万! 1000万よ! 1000万再生数は大金だ! 大金と同様なのよ!!」
アカリはただ立ち尽くし、言葉を失う。ベアトリクスの勢いは止まらない。
「それに貴様は何だ!? 部屋に引き籠ってゲーム実況や無駄な家庭事情の話なんかで動画を投稿してるだけか? 機材と編集ソフトを使って動画を作る者もいれば、家族や親友と協力してパロディ動画を制作したり、自分の財産を賭けて大人買いする者だっている!!」
ニコラが小さく頷く。
「確かにいますね」
「舐めるな!」
ベアトリクスの声が一層鋭くなる。
「あんなクソ動画で1000万再生など、貴様の手には到底届かない! 届かないのよ!! 意味わかるかしら!?」
アカリが困惑した声で呟く。
「え……?」
パチン!
ベアトリクスが指を鳴らし、アカリの意識を一瞬で引き戻す。
「さあ目を覚ませ! 貴様には役割がある! もちろん企業の案件は探す。だが、あとは自分で企業とコラボするなり、好きにしなさい!―――掴むのよ未来を!!」
アカリは震える声で答える。
「はい……」
「戻って良し!」
「はい! し、失礼しました!!」
アカリは慌てて敬礼し、逃げるように部屋を飛び出した。
バタム、と扉が閉まる音が響く。部屋に静寂が戻ると、ベアトリクスはふっと息をつき、口元に微かな笑みを浮かべる。
「彼女ならやり遂げる。それに賭けましょう」
ニコラが静かに頷く。
「ええ、そうですね、同志少佐」
カタリーナがくすっと笑い、ファルカも目を細める。
夕陽が部屋を柔らかく照らす中、ENTUMの未来はアカリの小さな背中に託され、さらなる高みへと続く道を切り開こうとしていた――。