ENTUM23   作:マブラマ

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第74話 ゲームオーバーにようこそ!

ミライアカリの自宅は、まるで現実と『flowerhoneyQuest』の世界が衝突する戦場と化していた。部屋はスナックの袋やぬいぐるみのカオスに支配され、パソコンの画面の光がアカリの金髪サイドテールを不気味に照らし出す。彼女の哄笑が響き続ける中、ENTUMのメンバー――アイリスディーナ、エイレーン、ベイレーン、萌実――は部屋の入り口で呆然と立ち尽くしていた。

アカリはマウスを握りしめクリックしゲームを進める。まるで外の世界を完全にシャットアウトしたかのようにゲーム画面に目を戻す。彼女の声は、異様なほど明るく、だがどこか現実離れしていた。

「行こう、リダ! ゴブリンの群れ、全部ぶっ倒して宝箱ゲットだ!」

画面の端で、リダのキャラクターが少し困惑したように首をかしげる。

「知り合いが来てるんでしょ? ログアウトしなくていいの?」

アカリはフンと鼻を鳴らし、スマホを軽く振って笑う。

「無視無視! ほっとけばそのうち帰るって! アイツら、いつも大げさに騒ぐんだから!」

彼女の指がキーボードを高速で連打し、ゲーム内で「クロスファイアー」の魔法が炸裂。ゴブリンの悲鳴が響き、キラキラしたドロップアイテムが散らばる。アカリの瞳は、まるで『flowerhoneyQuest』の世界だけが彼女の居場所であるかのように輝いていた。

だが、部屋の入り口では、アイリスディーナの鋭い視線がアカリを射抜く。彼女の声が、低く、だが抑えきれない怒気を帯びて響いた。

「ミライアカリ……貴様、聞き分けのないやつだな」

エイレーンは涙目で一歩踏み出し、書類をぎゅっと抱きしめる。

「アカリさん! お願い、ゲームやめて! みんな心配して来たんです!」

ベイレーンは合鍵を握ったまま、呆れたように呟く。

「アカリ、ガチでハマりすぎだお……これ、ヤバいレベルだお」

萌実が柔らかく、だが必死に呼びかける。

「アカリちゃん、ゲームも大事だけど、ENTUMのみんなもアカリちゃんのこと大好きだよ! 戻ってきて!」

アカリはチラリとドアの方を振り返るが、すぐにパソコンの画面に視線を戻し、投げやりに答えた。

「うっせーな! 今、レベル30のクライマックスなんだよ! 企画書だのクビだの、そんなくっそどうでもいい話は後でいいでしょ!」

リダのキャラクターが画面で軽く笑う。

「アカリちゃん、めっちゃ熱いね! じゃあ、次はあのデカいゴブリンリーダー倒しちゃおう!」

「それそれ!」

アカリはキーボードを連打する。

「リダ、最高のパートナー! ゴブリンリーダーぶっ倒して、伝説の装備ゲットだ!」

スマホの通知アイコンは執拗に光り続け、ENTUMメンバーたちの声はますます切実になる。だが、アカリの心は、まるでゲームの世界に閉じこもった要塞のようだった。

アイリスディーナは拳を握りしめ、まるで心の叫びを抑えきれないように声を荒げた

「何故こんな事になったんだ…!?????」

彼女の金髪ロングヘアーが夜の薄暗い部屋で揺れ、瞳にはアカリの変わり果てた姿への衝撃と、理解しがたい苛立ちが宿っていた。かつての「変態バーチャル芸人」として笑顔を振りまいていたアカリが、今やゲームの世界に魂を奪われたかのように見える――その事実に、彼女の心は揺さぶられていた。

ベイレーンが一歩踏み出し、いつもの楽観的な口調に少し焦りを滲ませて叫ぶ。

「アカリ、外に出ろだお! そうすればいい方向に…!」

だが、アカリはマウスを握りしめつつクリックする、まるでベイレーンの声を異世界のノイズとしか認識していないかのように、低く、不気味な笑いを漏らす。

「ひひ…ひひひひひ…」

ベイレーンは言葉を失い、合鍵を握った手が小さく震える。

「…」

エイレーンが、書類を胸に抱きしめ、涙声で一歩前に出る。

「アカリさん、外に出て詳しく…話しましょう! お願いです!」

グイッ!

突然、エイレーンがアカリの腕を掴もうと手を伸ばす。だが、その瞬間――アカリの動きが電光石火のように鋭くなる。彼女は体をひねり、エイレーンの手を振り払った。

バァッ!

エイレーンの手が空を切り、彼女はバランスを崩してよろめく。

「え…?」

アカリの瞳は、パソコンの画面の光に照らされ、まるでゲームの世界の戦士そのもののような狂気を帯びていた。

リダが首をかしげて彼女を見つめていた。

「どうしたの?」

リダの声が、柔らかくも好奇心に満ちて響く。

アカリは一瞬、画面から目を離し、チラリと部屋の入り口を睨む。

「え? 何でもないよ。リアルに来てる人が――あんまりウザくってさぁ…」

彼女の声は苛立ちを隠しきれず、まるで現実を振り払うようにマウスを握り直した。

その瞬間、入り口に立つベイレーンが「!!!」と目を丸くする。彼女の手には合鍵が握られ、呆れと焦りが入り混じった表情が浮かんでいた。

画面の中、リダが無邪気に耳をピクピクさせながら続ける。

「もしかして今来てる人って、アカリちゃんの彼氏?」

「冗談じゃない!」

アカリが即座に声を張り上げ、ベッドの上で跳ねる。

「言ったはずだよ。ただの知り合いだって!」

リダは目を細めて、にっこり笑う。

「良かった」

「リダ…」

アカリもつられて笑顔になり、片手でマウスを左クリック。まるでゲームの世界だけが彼女の安息の地であるかのように。

だが、現実では緊迫感が渦巻いていた。ENTUMのメンバーたちが入り口に集い、アカリを囲むように視線を注ぐ。アイリスディーナは腕を組み、鋭い眼光でパソコンの画面を睨みつけた。

「まさか…このゲームのキャラが」

エイレーンは目を輝かせ、一歩前に出る。

「しかも猫耳…でもそれはそれで良いです」

「今はそんな事言える状況か?」

ベイレーンが呆れたように呟き、エイレーンの肩を軽く叩く。

すると、エイレーンが突然パッと顔を上げ、声を弾ませた。

「あ、いい方法思い付きました! 会長! 一肌脱いでください!」

「な…何故私を!!??」

アイリスディーナが目を剥き、後ずさる。彼女の声には動揺と怒りが滲んでいた。

エイレーンはニヤリと笑い、書類を胸に抱きしめながら畳み掛ける。

「拒否したら、貴女とテオドールさんが○○○してる写真や画像、動画を全世界に流出しますよ」

「(くっ…卑劣な…! だが仕方ない。この状況だ…)」

アイリスディーナは拳を握りしめ、内心の葛藤を押し殺す。

「分かった。やってみるわ。でも私ではなく、カティアやブロニコフスキー少尉を頼めばいいだろ」

「貴女が適任です」

エイレーンは有無を言わさぬ口調で切り返す。

「……やむを得ないか」

アイリスディーナは深いため息をつき、決意を固めたように目を細めた。

部屋の中では、アカリとリダの軽快なやり取りが続く。パソコンの画面でゴブリンが倒され、キラキラしたアイテムが散らばる。一方で、ENTUMメンバーたちの視線はますます熱を帯び、アカリを引き戻そうとする意志がぶつかり合う。ゲームと現実の境界が揺らぐ中、アイリスディーナの次の行動が、この混沌にどんな波紋を投じるのか――物語はまだ、誰も予測できない展開へと突き進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミライアカリの自宅は、まるで異世界の冒険譚が繰り広げられる舞台と化していた。散らかった部屋の中で、パソコンの画面から放たれる青白い光が、彼女の金髪サイドテールを妖しく照らし出す。アカリはベッドの上にちょこんと座り、膝を抱えながら、画面に映るリダ――猫耳を揺らす愛らしい相棒――との会話を続けていた。

「ドラゴン退治?」

アカリの声が部屋に響き渡る。興奮と不安が交錯する微妙なトーンが、彼女の大きな瞳に映し出されていた。画面に表示された幻想的な地図をじっと見つめ、未知の冒険に思いを馳せている。

画面の中のリダは、元気いっぱいに頷いた。

「アカリちゃんはRMT……リアルマネートレードをやりたいんでしょ?」

彼女の猫耳がピクピクと動き、期待に満ちた笑顔が弾ける。まるでこの一言で、アカリの夢を後押ししようとしているかのようだ。

アカリは唇を軽く噛み、マウスを握る手にそっと力を込めた。

「うん……」

その声は小さく、まるで自分の野望を恥じるように控えめだった。彼女の心の中では、現実とゲームの世界がせめぎ合っている。

リダは一歩近づくような仕草で、画面越しに決意を込めた目を向ける。

「だったらドラゴン退治は避けて通れないわ! レアアイテムは大抵ドラゴンが持ってるわ」

その言葉は力強く、まるで冒険の導き手としての自信に溢れていた。アカリの迷いを吹き飛ばすような勢いだ。

アカリは肩を落とし、深いため息をついた。

「うぅん……でも私達のレベルじゃドラゴン倒すの難しいよ。竜騎士いれば別だけど」

彼女の声には、現実的な懸念と、かすかな希望が混じり合っていた。心の中で、強大なドラゴンと向き合う自分を想像し、少しだけ身震いする。

「竜騎士!? 仲間に入れましょう!」

リダの目がキラリと輝き、尻尾がパタパタと揺れる。彼女のテンションは一気に上がり、アカリを巻き込むような勢いがあった。

アカリの頬がほんのり赤らみ、視線をそっと逸らした。

「え? 私は2人だけの方が……」

その声は、まるで秘密を打ち明けるように囁くようだった。リダとの絆を大切にしたい気持ちが、彼女の柔らかな表情に滲み出ている。

リダはくすりと笑い、鈴のような声で応えた。

「別にパーティー組む事はないわ。ドラゴン退治の時ちょっと力を借りるだけ。だってレアアイテム手に入れてアカリちゃんが喜ぶ顔見たいから……」

彼女の瞳は、愛情と期待に満ちていた。アカリへの想いが、言葉の端々から溢れ出している。

アカリの胸が、じんわりと温かさに包まれる。

「リダ………」

彼女は両手で抱き締め、まるでリダをぎゅっと抱擁するかのように微笑んだ。画面越しでも伝わるリダの優しさに、心が軽くなるのを感じていた。

リダはウインクを一つ決め、軽やかに言った。

「じゃあ知り合いに当たってみるね。ちょっと待ってて」

そう言って、彼女は画面の中で仮想の連絡先を呼び出す。アカリを安心させるような、頼もしい背中を見せていた。

アカリはリダの姿を柔らかな笑顔で見つめ、心が弾むのを感じていた。

「リダ……ふふふ」

その声は、感謝と愛情に満ち、部屋の静寂にそっと溶け込み、アカリはキーボードを叩き、画面のリダとの会話に没頭していた。

「私の喜ぶ顔が見たい…」

アカリは頬を赤らめながら呟いた。リダの優しさが心に染み、彼女の瞳は夢見るように輝いていた。

だが、その瞬間――バタム! ドアが勢いよく開き、アイリスディーナが部屋に飛び込んできた。

「アカリ!」

アカリは驚いて振り返り、スマホを握ったまま固まる。

「え?」

アイリスディーナは一瞬言葉を失い、アカリの様子をじっと見つめる。

「…」

アカリもまた、アイリスディーナの異様な姿に目を丸くする。

「…」

「…」

アイリスディーナは深呼吸し、突然、猫耳を揺らしながら叫んだ。

「ニャオン!」

「ハァッ!??」

アカリはアイリスディーナが猫耳と猫手を身に着け、露出の多い下着姿で立っている姿を見て驚愕した。

「(=・ω・=)にゃ~おにゃおにゃお…(´ω`)にゃにゃにゃにゃ(=・ω・=)にゃ~(=・ω・=)にゃ~ニャン♪」

アイリスディーナは顔を赤らめ、恥ずかしそうに猫のポーズを取る。

「!!!!!」

アカリは口をぽかんと開け、信じられない光景に言葉を失う。

「(=・ω・=)にゃ~(=・ω・=)にゃ~(=・ω・=)にゃ~」

アイリスディーナはさらに猫の鳴き真似を続け、尻尾を振る仕草まで見せる。

「……!!!!!」

アカリの顔が真っ赤になり、怒りと混乱で震え出す。

「ニャオン!」

アイリスディーナは最後に一鳴きし、ポーズを決める。

「何言ってるか全然分かんねぇよ!!」

アカリは圧をかけて叫ぶ。

「一体何のつもりだよ! その恰好は!」

アイリスディーナは猫耳を揺らしながら、恥ずかしそうに答えた。

「こんな感じのキャラクターが好みかと思って、お前のために一肌脱いだ。何か文句はあるのか?」

その時、ベイレーンが部屋の入り口で目を丸くし、心の中で呟く。

「(あ…猫耳に猫手…その露出の下着…これは…間違いない! テオドールと2人きりしか着ない○○○○○○だ!!)」

アカリの怒りが爆発する。

「リダの事馬鹿にするなーーーーーーーーーーーー!!」

彼女はスマホを振り上げ、まるで剣を振るう戦士のように叫んだ。

「!!!」

アイリスディーナは後ずさり、驚きの表情を浮かべる。

「私とリダの関係はそんなかけ上なモノじゃないんだ! これ以上やると、例えアイリスディーナさんでも容赦しませんよ!」

アカリの声は、まるでゲームの戦闘シーンさながらの迫力だった。

「お、落ち着け! これは…だな…」

アイリスディーナは手を振り、必死に弁解しようとする。

「コスプレしたいのならコスパにでも行けえええええええええええ!!!」

アカリはスマホを投げつけ、アイリスディーナの額にゴツンと当たる。

「!!!…うぅ…(´;ω;`)うああああああああああああああああ」

アイリスディーナは額を押さえ、涙目で部屋を飛び出す。

「あ、待ってください会長!」

エイレーンが慌てて後を追う。

その時、ファルカが隣の部屋から扉を開き、怪訝そうな顔でアイリスディーナの後を追うエイレーンの姿を見る。

「何の騒ぎです?」

アカリはゲーミングチェアに座り直し、深呼吸する。

「ふぅ…おっといけないいけない!」

彼女はスマホを拾い上げ、画面のリダに笑顔を向ける。

「リダ、ごめんね! ちょっとリアルでバタバタしてたけど、もう大丈夫! 竜騎士のこと、頼んだよ!」

リダは画面で頷き、元気に応える。

「うん! 任せて、アカリちゃん!」

アカリの部屋は、再びゲームの世界の冒険に包まれていた。ENTUMのメンバーたちの心配も、アイリスディーナの猫耳姿も、彼女の冒険の前では一瞬のノイズでしかなかった。彼女の心は、すでにドラゴン退治の計画に夢中になっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミライアカリの部屋は、まるで『flowerhoneyQuest』の冒険の最前線と化していた。パソコンの画面の光が彼女の金髪サイドテールをキラキラと照らし、散らかったスナック袋やぬいぐるみのカオスを背景に、彼女の瞳はゲームの世界に吸い込まれていた。ついさっきのアイリスディーナの猫耳騒動も、彼女の冒険心を止めるには至らなかった。アカリはキーボードを叩き、画面に映るリダの声を待っていた。

「リダ? リダ、どこにいるの?」

アカリの声が、部屋の静寂をそっと破る。彼女の指がキーボードを叩き、ゲーム内の森の奥を覗き込む。

画面の端から、リダの猫耳がピョコンと飛び出し、元気な声が響いた。

「アカリちゃん、こっちこっち!」

「?」

アカリは首をかしげ、画面を凝視する。リダの後ろに、見たことのないキャラクターたちのシルエットが揺れている。

リダが誇らしげに手を広げ、画面で弾けるような笑顔を見せた。

「連れて来たよー!」

まず現れたのは、優雅な羽根を背に持つ妖精弓手。彼女は弓を手に、涼やかな声で言った。

「リダから聞いたわ。初めてのドラゴン退治のようね。サポートしてあげるから、しっかりね」

続いて、聖なる光をまとう女神官が穏やかに微笑む。

「お互い頑張りましょう! 私の癒しの魔法で、みんなを守るわ」

そして、鎧を纏った無骨な男――ゴブリンスレイヤーが、重々しい声で口を開く。

「ゴブリン以外の依頼は受けないが、今回は特別だ。承ろう」

アカリの目がみるみる潤み、マウスを握る手が震えた。

「みんな……」

リダの猫耳がピクピク動き、彼女は画面で胸を張る。

「このメンバーなら絶対に勝てるわ! ドラゴンだって怖くないよ!」

アカリは小さく鼻をすすり、涙声で呟く。

「ありがとう……」

そこへ、妖精弓手の隣に立つリィズという名のキャラクターが、少し冷めた目でアカリを見つめた。

「貴女、RMTやりたいの? 大変だよ。時間も金もガッツリ食うし」

アカリは涙を拭い、ニッコリ笑って答える。

「みんな…そう言うけど大丈夫だよ。時間はたっぷりあるし!」

リィズは眉を上げ、鼻で小さく笑った。

「ふ~ん…そうなんだ。まぁ、頑張りなさい」

リダが画面で手を振って、みんなを鼓舞する。

「さぁ、行きましょう! ドラゴンの巣、突撃だ!」

アカリはマウスを握り直し、気合を入れた。

「うん! みんなと一緒なら、ドラゴンだってぶっ倒せる! レアアイテム、絶対ゲットだ!」

画面の中、アカリ、リダ、妖精弓手、女神官、ゴブリンスレイヤー、リィズのパーティーが、森の奥深くへと進んでいく。ドラゴンの咆哮が遠くから響き、冒険の緊張感が高まる。アカリの心は、仲間たちの絆とレアアイテムへの野望で燃え上がり、まるでルンバのビートもアイリスディーナの猫耳も吹き飛ばす勢いだった。

だが、彼女の部屋の外では、ENTUMのメンバーたちの足音が遠ざかりつつも、アイリスディーナの涙とエイレーンの心配がまだ残響していた。アカリの冒険は、ゲームの世界で輝きを増す一方、現実の波紋は静かに広がり続けていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寂れた山の頂にそびえる岩肌は、まるで古の戦場のように荒涼としていた。『flowerhoneyQuest』の世界で、アカリとそのパーティー――リダ、ゴブリンスレイヤー、女神官、妖精弓手、リィズ――は、ドラゴン退治の使命を胸に、険しい道を進んでいた。風が唸りを上げ、遠くで雷鳴のような咆哮が響く中、アカリの金髪サイドテールが、パソコンの光に照らされてベッドの上で揺れている。彼女の部屋は、現実の喧騒を忘れ、ゲームの冒険に完全に飲み込まれていた。

ゴブリンスレイヤーが、鎧の擦れる音を響かせながら、鋭い視線で周囲を見渡す。

「ゴブリンは出てこないのか?」

女神官が、聖なる杖を握りしめ、穏やかだが少し緊張した声で答えた。

「今回の目的はゴブリン退治じゃないですよ。ドラゴンです」

ゴブリンスレイヤーは兜の下で小さく唸る。

「だが何れにしろ、ゴブリンは何処にいるか分からん。警戒しろ」

リィズが、冷ややかな目で岩陰を睨みながら呟く。

「ドラゴンだけじゃないって訳ね。面倒なことになりそう」

その時、妖精弓手が鋭く叫んだ。

「あ、オルクボルグ! 来るわよ!!」

ゴブリンスレイヤーが振り返る。

「ん?」

ドスンッ!

地面が震え、岩の隙間から巨大な影が飛び出した。パーティーの前に現れたのは、ゴブリンの狡猾な顔とドラゴンの鱗を併せ持つ、異形の怪物だった。鋭い牙と燃えるような目が、闇の中で不気味に光る。

女神官が息を呑み、杖を握り直す。

「こ、これは…!!?」

リダの猫耳がピクンと立ち、彼女が叫んだ。

「ゴブリンとドラゴンを合成したモンスター…ゴブゴンよ!!」

ゴブリンスレイヤーの目が僅かに細まる。

「ゴブリンか?」

リィズが弓に矢をつがえ、クールに言い放つ。

「合成モンスター…なら手っ取り早く済ませた方が良いわね」

ゴブリンスレイヤーが剣を構え、短く答える。

「同感だ」

ゴブゴンが咆哮を上げ、巨大な爪を振り上げる。

「グオオオオ!」

リィズが素早く反応する。

「来るわよ!」

女神官が杖を掲げ、聖なる光を放つ。

「大地の神々よ。我らに守りを…プロテクション!」

パーティーを包む光の障壁が展開し、ゴブゴンの爪が弾かれる。アカリの目がキラキラと輝く。

「おおっ! すっごい!」

妖精弓手が鋭くアカリを振り返る。

「感心してる暇ないわよ! 準備しなさい!」

アカリはハッとしてマウスを握り直す。

「あ、うん!」

妖精弓手が弓を引き絞り、矢を放つ準備を整える。

「行くわよ!」

画面の中、パーティーが一斉に動き出す。ゴブゴンの咆哮が山にこだまし、アカリの指がコマンドを高速で連打。彼女の声が部屋に響いた。

「よーし、ゴブゴンだろうが何だろうが、クロスファイアーでぶっ飛ばす! リダ、みんな、行くよ!」

リダが画面でウインクを決め、猫耳をピクピクさせる。

「アカリちゃん、最高の魔法見せて!」

ゴブリンスレイヤーが剣を振り上げ、女神官が祈りを重ね、妖精弓手の矢が空を切り、リィズが冷徹に敵の動きを読む。アカリの心は、仲間たちとの絆とレアアイテムへの野望で燃え上がり、まるで現実のENTUMの騒動――アイリスディーナの猫耳や企画書のプレッシャー――を遥かに超える勢いだった。

だが、彼女のスマホの通知アイコンは、執拗に光り続けている。遠くで、ENTUMのメンバーたちが新たな行動を起こそうとしていることなど、アカリは知る由もなかった。ゴブゴンとの戦いは、彼女の冒険の新たな試練として、輝かしい一ページを刻もうとしていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世田谷区の静かな住宅街、アカリの自宅から少し離れた路地裏で、ENTUMのメンバーたちは肩を落とし、夜の冷たい空気の中に佇んでいた。アイリスディーナは、額にまだスマホが当たった赤い痕を残し、金髪を乱暴にかき上げながら低く呟いた。

「何がいけなかったんだ…」

彼女の声には、悔しさと困惑が滲んでいた。猫耳と露出の多いコスプレでアカリの心を掴もうとした試みは、見事に玉砕。彼女のプライドは、まるでゴブゴンに踏み潰されたかのようにボロボロだった。

エイレーンが、書類を胸に抱きしめ、慰めるようにそっと口を開く。

「会長…萌えには色々ありますよ。猫耳だけが全てじゃないですし…」

ベイレーンが、いつもの軽快な口調を取り戻し、ニヤリと笑って続ける。

「だお! 例えば、ロリコンキャラから年齢不詳キャラまで、様々な萌えキャラが沢山いるんだお! アカリがハマってるリダって猫耳ヒーラーも、きっとアカリの心にピンポイントで刺さる何かがあったんだお!」

アイリスディーナは眉を上げ、興味深そうにベイレーンを見やる。

「それは…知らなかったな…」

彼女の頭には、テオドールとの秘密のコスプレ趣味がチラつくが、すぐにそれを振り払う。

「だが、萌えキャラの種類が問題だったとしても、アカリのあの態度は許せん。あ奴、完全にゲームに魂を売ったな」

エイレーンが唇を尖らせ、弱々しく反論する。

「でも…アカリさん、ゲームの中のリダちゃんとすっごく楽しそうでした。仲間と一緒にドラゴン退治とか、私もちょっとやってみたいかも…」

「今はそんな呑気なことを言ってる場合か!」

アイリスディーナがピシャリと遮るが、彼女の瞳には、ほんの一瞬、アカリの情熱に対する羨望のような光が宿った。

ベイレーンが肩をすくめ、合鍵をポケットにしまいながら言う。

「まぁ、アカリのことだお。放っておいてもそのうち飽きて戻ってくるだお。問題は、名誉会長がクビの話を持ち出してるってことだお…」

アイリスディーナは腕を組み、夜空を見上げる。

「ミライアカリ…貴様の冒険心は認める。だが、ENTUMを放り出すのは許さん。次はもっと効果的な方法で引きずり出すぞ」

その頃、アカリの部屋では、パソコンの画面でゴブゴンとの戦いが佳境に突入していた。アカリのタイピングがコマンドを叩き込み、リダやゴブリンスレイヤー、妖精弓手たちの連携が火花を散らす。彼女の笑顔は、まるで現実の騒動――アイリスディーナの猫耳やENTUMの心配――を完全に忘れ去ったかのように輝いていた。通知アイコンは執拗に光り続けていたが、アカリの心は、ドラゴン退治とレアアイテムの夢にしか向いていなかった。

ENTUMのメンバーたちの新たな計画と、アカリのゲーム内の冒険――二つの世界は、まるで平行線のように交錯せず、物語はさらなる波乱を予感させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寂れた山の頂は、まるで『flowerhoneyQuest』の最終決戦の舞台と化していた。岩肌に響くゴブゴンの咆哮と、パーティーの叫び声が交錯し、風が唸りを上げる中、アカリのパソコンから放たれる光が彼女の部屋を戦場のように照らし出す。ベッドの上で金髪サイドテールが激しく揺れ、アカリの指はまるで剣を振るうようにキーボードを叩く。彼女の心は、ゴブゴンとの戦いとレアアイテムの夢に燃え上がっていた。

妖精弓手が鋭い声で叫び、弓を引き絞る。

「今よ! オルクボルグ!」

ゴブリンスレイヤーが兜の下で低く唸り、剣を構える。

「…ああ、殲滅する!」

ズシャァッ! ズシャァッ!

彼の剣が空を切り、ゴブゴンの鱗を削り取る。怪物が苦悶の咆哮を上げる。

「きしゃあああああああああああああ!」

女神官が杖を掲げ、聖なる光を放ちながら叫ぶ。

「あと一息です! みんな、頑張って!」

ゴブリンスレイヤーが一歩下がり、冷静にアカリを振り返る。

「止めは任せた」

アカリの目がキラリと光り、ベッドの上で跳ね上がる。

「よおし! 黒の疾風よ!我が剣に宿れ! ハリケーンブレイド!」

ぐああああああああああああ!

彼女の指がコマンドを叩き込み、画面が漆黒の旋風に包まれる。剣から放たれた風の刃がゴブゴンを切り裂く。

ズシャアアアアアアアアアアアア!

「うぐぁあああああああああああ!」

ゴブゴンの巨体が地面に崩れ落ち、キラキラしたエフェクトとともに消滅する。

アカリは画面上でガッツポーズを決めた。

「やった…!」

リダの猫耳がピクピク動き、画面で弾けるような笑顔を見せる。

「アカリちゃん、めっちゃカッコよかった!」

妖精弓手が弓を下ろし、クールに微笑む。

「やるじゃない。初めての合成モンスター相手に、よくやったわ」

女神官が安堵の息をつき、優しく言う。

「これで一安心…でも、油断しないでくださいね」

ゴブリンスレイヤーは無言で剣を鞘に収め、リィズが肩をすくめて呟く。

「まぁ、悪くなかったんじゃない?」

……

戦場の静寂が訪れたその瞬間、地面にキラリと光る物体が現れる。アカリの目が輝く。

「宝箱?」

画面に現れた宝箱は、まるで彼女のRMTの夢を象徴するように輝いていた。リダがウインクを決め、猫耳を揺らす。

「アカリちゃん、開けてみて! 絶対いいもの入ってるよ!」

アカリの指がワクワクしながらマウスでクリック。宝箱がガチャリと開き、キラキラした光が溢れ出す。画面に現れたのは、漆黒の鞘に収まった、荘厳な輝きを放つ剣だった。刃には古代のルーンが刻まれ、まるで神々の加護を受けたかのようなオーラを放っている。

女神官が、聖なる杖を握りながら、感嘆の声を漏らす。

「おおっ…これは」

ゴブリンスレイヤーが兜の下で剣をじっと見つめ、短く呟く。

「うむ、剣みたいだな」

妖精弓手が弓を肩にかけ、クールに訂正する。

「みたいじゃなくて本物よ。レアアイテム間違いなしね」

アカリは目を丸くして画面を凝視する。

「これ…アカリが?」

女神官が優しく微笑み、杖を軽く振って答える。

「ええ、これは貴女のモノですよ。ゴブゴンを倒したのは、アカリさんのハリケーンブレイドでしたから」

ゴブリンスレイヤーが無骨な仕草で剣を手に取り、アカリのキャラクターに差し出す

「お前にくれてやる」

アカリの心臓がドクンと高鳴り、跳ね上がった。

「やったあああああああああああああああ!」

彼女の叫び声が部屋中に響き、まるで現実のENTUMの騒動――アイリスディーナの猫耳や企画書のプレッシャー――を吹き飛ばすようだった。パソコンの画面で、アカリのキャラクターが剣を掲げ、キラキラしたエフェクトが炸裂する。リダの猫耳がピクピク動き、彼女が画面で弾ける笑顔を見せた。

「アカリちゃん、めっちゃカッコいい! その剣、ドラゴン退治にピッタリだよ!」

リィズが肩をすくめ、半分感心したように呟く。

「ふ~ん、いいアイテム引いたじゃん。RMTの資金、ちょっと近づいたんじゃない?」

アカリはキーボードを叩きながら笑う。

「リダ! みんな! ありがとう! この剣で、ドラゴンもぶっ倒して、レアアイテム山盛りゲットするよ!」

妖精弓手が小さく笑い、弓を手に持ち直す。

「まぁ、調子に乗るのはいいけど、次はもっとヤバい敵が来るわよ。準備しなさい」

女神官が穏やかに頷き、祈りの仕草を見せる。

「大地の神々が、私たちを導いてくれるはずです」

ゴブリンスレイヤーは無言で周囲を警戒し、次の戦いに備える。パーティーの絆は、ゴブゴン戦の勝利と新たな剣の獲得で、さらに固く結ばれていた。

だが、アカリのスマホの通知アイコンは、執拗に光り続けている。彼女の部屋の外では、ENTUMのメンバーたちが新たな計画を練り、アイリスディーナの傷心と決意が静かに燃え上がっていた。アカリの冒険は、ゲーム内で輝かしい一歩を踏み出したが、現実との衝突はまだ避けられない運命として迫っていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寂れた山の頂に、戦いの熱気がようやく冷め、静寂が戻っていた。『flowerhoneyQuest』の世界で、アカリのパーティー――リダ、ゴブリンスレイヤー、女神官、妖精弓手、リィズ――は、ゴブゴンを倒し、輝くレア剣を手に入れた勝利の余韻に浸っていた。パソコンの画面の光がアカリの部屋を照らし、彼女の金髪サイドテールが小さく揺れる。彼女の瞳は、獲得した剣と仲間たちの絆に輝き、RMTへの夢に燃えていた。

女神官が聖なる杖を手に、穏やかな微笑みを浮かべて言った。

「今日はありがとうございました。素晴らしい戦いでした」

ゴブリンスレイヤーが鎧を鳴らし、兜の下で低く答える。

「そろそろ時間だ。ゴブリン退治の時、呼び出してくれ」

妖精弓手がクスクス笑い、弓を肩に担ぐ。

「ははっ、オルクボルグらしいわね。次はドラゴンよりゴブリン優先?」

アカリは皆に感謝を叫んだ。

「ありがとうみんな…ありがとう! この剣、めっちゃカッコいいし、ドラゴン退治も絶対成功するよ!」

リダの猫耳がピクピク動き、画面でウインクを決める。

「アカリちゃん、最高だったよ! 次はドラゴン、ぶっ倒しちゃお!」

だが、リィズが冷ややかな目でアカリを見やり、肩をすくめて呟く。

「RMT、出来ると良いわね」

アカリがキョトンとして振り返る。

「え?」

リィズは片眉を上げ、淡々と続ける。

「出来るモノならね。まぁ、時間たっぷりあるって言ってたし、頑張りなさいよ」

アカリは一瞬言葉に詰まり、マウスを握る手に力がこもる。

「…」

彼女の心に、リィズの言葉が小さな棘のように刺さる。RMTの夢は輝かしいが、その道の険しさも、どこかで感じ始めていた。

リダが慌ててフォローするように手を振る。

「リィズ、ちょっと冷たくない? アカリちゃん、絶対大丈夫だよ! この剣だって、ドラゴン退治の鍵になるんだから!」

アカリはハッと顔を上げ、ニッコリ笑って頷く。

「うん、リダの言う通り! この剣で、ドラゴン倒して、レアアイテム山盛りゲットするんだから! リィズ、見ててよ!」

リィズは小さく鼻で笑い、軽く手を振る。

「ふ~ん、楽しみにしとくわ」

パーティーのメンバーが一人ずつ画面から去っていく。ゴブリンスレイヤーは無言で立ち去り、女神官が祈りの仕草で別れを告げ、妖精弓手がウインクを残して消える。リダが最後まで画面に残り、猫耳を揺らして笑顔を見せた。

「アカリちゃん、またすぐ会おうね!」

「うん、リダ!」

アカリはゲーミングチェアで座り寛ぐ。彼女の心は、仲間との絆と新たな剣の力で、まるでルンバのビートもアイリスディーナの猫耳騒動も吹き飛ばす勢いで燃えていた。

だが、スマホの通知アイコンは、執拗に光り続けている。アカリの部屋の外では、ENTUMのメンバーたちが新たな計画を練り、アイリスディーナの傷心と決意が静かに再燃していた。ゲーム内の勝利とRMTの夢がアカリを突き動かす一方、現実の波紋は、彼女の知らないところで広がり続けていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『flowerhoneyQuest』の仮想空間、寂れた山のふもとに、リィズは一人佇んでいた。彼女の鋭い瞳は、遠くでアカリとリダが宝箱を囲む姿を冷ややかに見つめる。妖精弓手の羽が夜風に揺れ、彼女の唇に皮肉な笑みが浮かんだ。

「ふふ…おめでたい奴ね。そう簡単に稼げると思ってるの?」

リィズは小さく鼻で笑い、弓を肩に担ぐ。

「そもそも何なの? このハンドルネームは…『ミライアカリ』って。バーチャル芸人気取り? 笑えるわ」

彼女の言葉は、まるでアカリのRMTの夢を一刀両断する刃のようだった。だが、その背後には、どこかアカリの情熱に対する奇妙な興味が潜んでいるようにも見えた。

 

 

 

 

 

一方、東京の雑踏から少し離れたカフェの片隅で、ファルカとリィズは向かい合っていた。薄暗い照明の下、ファルカの無表情な顔に、珍しく緊張の色が浮かぶ。リィズはコーヒーを一口すすり、仙台からわざわざ上京した疲れを隠すように、クールな微笑を浮かべていた。

「リィズ先輩、突然呼び出して申し訳ありません」

ファルカが、わずかに頭を下げる。

リィズは手を振って軽く笑う。

「いいのよ、ファルカ。態々仙台から東京に来たわけだから…それに、暇潰しにもなるしね」

ファルカの目が一瞬輝き、声に熱がこもる。

「もう会えないかと思いましたよ」

リィズは窓の外に視線を投げ、どこか遠い記憶をたどるように呟く。

「それにしてもアカリって女、結構タフね…冷戦にいたら即処刑してるかもね」

「先輩、不適切ですよ」

ファルカが静かにたしなめるが、その声にはリィズへの深い信頼が滲んでいた。

リィズはニヤリと笑い、コーヒーカップを置く。

「このアカリって女を懲らしめば良い訳ね?」

ファルカが身を乗り出し、真剣な目で訴える。

「リィズ先輩の技量で、彼女にRMTの極意を一から教えてあげてください! アカリは…夢に突き進む力はあるけど、道を見失ってるんです」

リィズは片眉を上げ、興味深そうにファルカを見やる。

「ふ~ん、熱いわね、ファルカ。分かったわ。やってみる。で? お兄ちゃんはどうしてるの?」

ファルカが少し微笑み、答える。

「エーベルバッハ少尉なら元気そうで、まだピンピンしてますよ」

リィズの目が一瞬曇り、過去の影がよぎる。

「あの時、酷い時代だったからね…言い過ぎたかも」

ファルカが手を握り、強く言う。

「自分を責めないでください…もう終わった事です…私が…私がリィズ先輩の傍にいますから…!」

リィズはファルカの手を軽く叩き、柔らかく笑う。

「ありがとう、ファルカ…でも、店ほったらかしにするのはいけないわ」

「店?」ファルカが首をかしげる。

「先輩、何か経営してるんですか?」

リィズは窓の外を見ながら、静かに答える。

「ええ、仙台の街外れにある小さなドーナツ屋よ。店名は『Lostheaven』。…まぁ、いつかファルカも食べに来なさい」

ファルカが頷き、決意を新たにする。

「そろそろ仕上げです。先輩」

リィズはコーヒーを飲み干し、立ち上がる。

「そうね…現実を直視しないとね。アカリって子、面白いことになりそうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アカリはマウスを握り、ゲームのログアウト画面を見つめていた。リダとの別れの言葉、ゴブリンスレイヤーの無骨な激励、女神官の祈り、妖精弓手のウインク――そしてリィズの冷ややかな言葉が、彼女の心に響き続ける。彼女はレア剣のアイコンを愛おしそうにクリックし、呟いた。

「リィズの言う通り、RMTは簡単じゃないかも…でも、私、絶対諦めない! リダとみんなと一緒に、ドラゴン倒して、夢を掴むんだ!」

だが、スマホの通知アイコンは、執拗に光り続けている。ENTUMのメンバーたちの動き――アイリスディーナの新たな計画、ファルカとリィズの密談――が、アカリの知らないところで波紋を広げていた。アカリの冒険は、ゲーム内で輝きを増す一方、現実の試練が静かに迫っていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームの世界では、寂れた山のふもとに突然の豪雨が降り注いでいた。『flowerhoneyQuest』の画面は、雷鳴と雨音の効果音で満たされ、木々の間を縫うように進むアカリとリダのキャラクターが、ずぶ濡れになりながら小さな小屋に駆け込む。現実のアカリの部屋では、パソコンの画面の光が彼女の金髪サイドテールを柔らかく照らし、彼女の顔に、穏やかな笑みが浮かんでいた。アイリスディーナの猫耳騒動も、ENTUMの心配も、すべて遠い世界の出来事のように感じられた。

ザーーーーーッ。

画面の中、雨が地面を叩く音が響く。小屋の木の床に水滴がポタポタと落ち、アカリのキャラクターが濡れた髪をかき上げる仕草を見せる。アカリはキーボードを叩き、静かに呟いた。

「…」

リダの猫耳が雨で少し垂れ下がり、彼女は画面で小さく笑う。

「近くに小屋があって良かったね。びしょ濡れになるところだったよ」

アカリは小さく頷き、ゲームの雰囲気に浸りながら答える。

「まさか急に雨降りだすなんて。ドラゴン退治の前にこんなイベント、予想外すぎるよ」

リダのキャラクターが小屋の奥に目をやり、いたずらっぽい声で続ける。

「奥にお風呂があるみたい。ねぇ、アカリちゃんも一緒に入ろう?」

「え?」

アカリの目がパッと見開かれ、体がピクリと跳ねる。彼女の頬が、ほんの一瞬、ピンクに染まった。

リダは画面でクスクス笑い、猫耳をピクピクさせる。

「…ふふふ…冗談よ。びっくりした?」

アカリはホッと息をつき、ほくそ笑む。

「あ…もう、リダったら! 心臓バクバクしたじゃん!」

画面の中、小屋の暖炉に火が灯り、雨音が優しく背景に流れる。リダのキャラクターが暖炉のそばに座り、アカリのキャラクターもその隣に腰を下ろす。アカリは胸に抱き、柔らかな声で呟いた。

「こういうの…悪くないよね……」

リダが画面で頷き、猫耳をそっと揺らす。

「うん、戦いばっかりじゃ疲れちゃうもんね。たまにはこうやって、のんびりするのも大事だよ」

アカリの心は、ゲームの世界の静かなひとときに癒され、まるでリダとの絆が現実の喧騒をすべて洗い流してくれるようだった。レア剣を手に入れ、ドラゴン退治を目前に控えた興奮はまだ胸に残っているが、今はこの穏やかな時間が、彼女にとって何よりの宝物だった。

だが、スマホの通知アイコンは、執拗に光り続けている。アカリの部屋の外では、ENTUMのメンバーたちが新たな動きを見せ、リィズとファルカの密談が静かに進行していた。アカリの冒険は、ゲーム内で温かな一ページを刻んだが、現実の波は、彼女の知らないところで迫りつつあった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小屋の暖炉の火がパチパチと鳴る中、『flowerhoneyQuest』の世界は再び戦いの熱に包まれていた。雨が止み、森の奥から現れたゴブリンたちの不気味な笑い声が響く。アカリのパソコンから放たれる光が、彼女の部屋を戦場のように照らし、金髪サイドテールがベッドの上で激しく揺れる。彼女の心は、リダとの絆と冒険の興奮で燃え上がり、まるで現実のすべてを置き去りにする勢いだった。

慌てふためくゴブリンが甲高い声を上げる。

「うひゃひゃひゃひゃひゃ!」

厳ついゴブリンが牙を剥き、咆哮する。

「きしゃああああああああ!」

意地っ張りな巨大ゴブリンが地面を踏み鳴らし、棍棒を振り上げる。

「がばぁぁぁぁ!」

アカリはキーボードを連打し、攻撃を仕掛ける

「行くよ! リダ!」

リダの猫耳がピクンと立ち、画面でキラキラした笑顔を見せる。

「ええ、いつでも!」

二人の声が重なり、まるで心が一つになったかのように響く。

「蒼き炎よ! この者たちを全て焼き尽くせ! スプレットフレーム!」

ぐああああああああああああああああ!

画面が青い炎に包まれ、ゴブリンたちが一瞬にして飲み込まれる。慌てるゴブリンが「ぐがぁ!」と悲鳴を上げ、厳ついゴブリンが「ぶびべ!」と倒れ、巨大ゴブリンが「がばぁぁぁぁ!」と地響きを立てて崩れ落ちる。

アカリは狂喜乱舞で跳ね上がる

「やった…ゴブリンを倒したよ!」

リダが画面で手を叩き、弾けるような声で叫ぶ。

「アカリちゃん、私たちのコンボ攻撃が決まったわ!」

アカリの目が輝き、彼女は叫んだ。

「そうか…決まったの!? …やったあああああああああ! リダ、貴女はアカリのベストパートナーだよ!」

リダの猫耳が少し垂れ、頬がピンクに染まる。

「そんな…」

アカリは興奮と感動で声を震わせる。

「アカリ…やっと気付いたの! アカリが長年求めていたのは正にこの世界だって。ここでの生活が価値がある事なんて、現実世界には一つもないのよ! 現実の人々は口々に愛や友情など言うけど、本当は嘘と欲望に満ちた薄汚れた世界じゃない。だがこの世界には本物の未知なる冒険がある! 真の仲間もいる! うおおおおおおおおおおお…リダ、アカリは貴女と上手くやっていけるような気がするよ。これからもずっとアカリと一緒に冒険しよう!」

彼女の叫びは、まるで現実のENTUMの騒動――アイリスディーナの猫耳、企画書のプレッシャー、仲間たちの心配――を完全に焼き尽くす炎のようだった。リダのキャラクターが一瞬黙り込み、猫耳が小さく揺れる。

「でも…私…」

アカリはハッとしてキーボードを叩き、必死に訴える。

「金ならアカリが! RMTで稼いで何とかする! だから頼む!」

リダは画面で静かに微笑み、穏やかな声で答えた。

「…いいわ」

アカリの目から涙が溢れ、彼女は叫んだ。

「リダ…リダーーーーーーーーー!」

リダが手を上げ、遮るように言う。

「待って!」

「え? 何?」

アカリがキョトンとして画面を見つめる。

リダの猫耳がピクピク動き、彼女は少し照れながら続ける。

「一つだけ条件があるわ」

「条件?」

アカリの声に好奇心と緊張が混じる。

リダは画面でアカリをじっと見つめ、はにかんだ笑顔を見せる。

「リアルでアカリちゃんに会いたいの」

「へ?」

アカリの動きがピタリと止まり、体が固まる。

リダの声が、まるでゲームの枠を超えるような温かさで響く。

「現実のアカリちゃんの部屋、行ってもいい?」

アカリの心臓がドクンと跳ね、彼女は呆然した。ゲームの世界と現実が、初めて交錯する予感に、彼女の瞳が揺れる。

「リダ…リアルで…?」

彼女の頭には、ENTUMのメンバーたちの顔、アイリスディーナの猫耳、通知アイコンの光がチラつく。リダの突然の提案――「リアルで会いたい」という言葉――に、彼女の心は一瞬で凍りついた。

「!!!!????……あぁ…え…えぇ…あ…リアルは…ちょっと…」

アカリの声は震え、マウスを握る手がピクリと動く。彼女の瞳は、まるでゲームのボス戦以上に強大な敵に立ち向かうかのように揺れていた。

画面のリダは、猫耳をピクピクさせて少し拗ねたように首をかしげる。

「えー? ダメなの?」

アカリは体を揺らし、慌てて言葉を紡ぐ。

「いや、ダメって事は…ないけど…!」

彼女の頭には、現実の部屋――スナック袋とぬいぐるみのカオス、ENTUMのメンバーたちの怒りと心配――がチラつき、リアルでの出会いに一抹の不安がよぎる。

リダのキャラクターが画面でパッと明るい笑顔を見せ、弾けるような声で続ける。

「ホント? 良かった――実はね、私、アカリちゃんの家まで来てるの!」

「え?」

アカリの動きがピタリと止まり、彼女の心臓がドクンと跳ね、ゲーミングチェアに座りつつ体が硬直する。

リダの猫耳が嬉しそうに揺れ、彼女は画面で手を振る。

「これから家まで向かうわ! もうすぐ着くよ!」

アカリの頭が真っ白になる。

「リダ…マジで…? リアルで…今!?」

彼女の声は、まるでゲーム内のドラゴンと対峙するよりも切実な響きを帯びていた。パソコンの画面では、リダのキャラクターが無邪気に微笑むが、アカリの視界には、現実の部屋の散らかり具合と、ENTUMのメンバーたちの顔――特にアイリスディーナの猫耳姿――がフラッシュバックする。

彼女はゲーミングチェアから立ち上がり、慌てて部屋を見回す。

「やばい…やばいよ! 部屋、こんな状態でリダが来るなんて…! しかも、ENTUMのアイツら、まだウロウロしてるかも…!」

スナック袋を蹴飛ばし、ぬいぐるみをベッドの下に押し込みながら、彼女の心はゲームの冒険以上に大混乱に陥っていた。

だが、どこかで小さな興奮が芽生えていた。リダ――ゲームの世界で最高のパートナー――が、リアルで会いに来る。彼女の胸に、恐怖と期待がせめぎ合う。

「リダ…ほんとに来るんだ…」

スマホの通知アイコンは、執拗に光り続けている。ENTUMのメンバーたちの動き――アイリスディーナの新たな計画、リィズとファルカの密談――が、アカリの知らないところで加速していた。そして今、リダのリアル訪問という新たな嵐が、アカリの現実を揺さぶろうとしていた。ゲームと現実の境界が、かつてないほど激しく交錯する瞬間が迫っていく――。散らかったスナック袋やぬいぐるみのカオスが、彼女の動揺を映し出す。

アカリは、リダの「リアルで会いたい」という言葉に心臓を鷲づかみにされ、さらなる衝撃が彼女を襲った。

画面からリダの弾ける声が響く。

「あ! アカリちゃんの家まで見えてきた!」

「何!?????」

アカリはマウスを握りしめながら叫んだ。彼女の瞳は、まるでドラゴンより恐ろしい敵が迫るかのように揺れる。

コツ…コツ…コツ…

窓の外から、かすかな足音が聞こえてくる。アカリの顔が青ざめる。

「まさか…そんな…」

コツ…コツ…コツ…

足音が近づくにつれ、彼女の心臓は爆発しそうな勢いで鼓動する。リダの声が再び画面から響いた。

「アカリちゃんの家の扉まで着いたよ!」

「!!!!!!????」

アカリは画面から離れ後ずさる。彼女の頭はパニックで真っ白になり、部屋の散らかり具合とENTUMのメンバーたちの顔がフラッシュバックする。

リダの声が無邪気に続ける。

「ドアをノックするよ!」

ドンドン!

「あぁああああああああああああ!!!」

アカリの叫び声が部屋中に響き、彼女はベッドの上で縮こまる。現実がゲームを侵食する恐怖に、彼女の全身が震えた。

ガチャ…

ドアノブが回る音が、アカリの心臓を直撃する。

「あぁ…あぁぁぁぁぁぁぁ……」

彼女は目を固く閉じ、まるでゴブゴンの咆哮を前にしたかのように身構えた。

リダの声が穏やかに響く。

「鍵は掛かってないね。じゃあ開けるよ」

キィィ…

ドアがゆっくり開き、アカリの部屋に夜の冷たい空気が流れ込む。彼女は恐る恐る目を開け、息を詰めてドアの方を見つめた。

「あぁ…あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……――――ふぁ?」

……

一瞬の静寂が部屋を包む。アカリの心臓は止まりそうなほど高鳴り、彼女は最悪のシナリオを想像する。だが――。

「ハーイ、私リダでーす♪」

明るい声が弾け、ドアの向こうから現れたのは、猫耳ヘアバンドをつけた、ノートパソコンの画面を開いた状態で持つキラキラした笑顔の成人女性だった。彼女の髪型はロングヘアのゆるやかなウェーブスタイルでリダのキャラクターを思わせる茶色で、動きはまるでゲームから飛び出したように軽やかだ。

アカリは目を丸くし、ベッドの上で固まる。

「え? リダ…さん?」

リダがニッコリ笑い、ウインクを決める。

「そうよ。私がリダよ!」

「嘘…?」

アカリの声は震え、彼女はパソコンの画面とリダを交互に見つめる。現実とゲームの境界が崩れ落ち、彼女の頭は混乱の渦に飲み込まれた。

リダが少し首をかしげ、いたずらっぽく続ける。

「でも、操作したのは私じゃないわ」

「え? 何? 何?」

アカリの声が裏返り、彼女はベッドの上に登り膝をガクガクさせる。

その瞬間、ドアの影からもう一人の人物が現れる。

「アカリさん」

「ファルカさん!!??? な、何で…」

アカリは目を剥き、ベッドから転げ落ちそうになる。ファルカの無表情な顔が、いつもより少しだけ得意げに見えた。

ファルカが落ち着いた声で続ける。

「如何でしたか? アカリさん、猫耳美少女の冒険の旅は?」

アカリは口をパクパクさせ、言葉が出てこない。

「…」

彼女の頭には、リダとのゴブゴン戦、ゴブリンのコンボ攻撃、小屋での穏やかなひとときがフラッシュバックする。そして、ファルカの言葉が、まるでパズルのピースが嵌るように、すべてを繋げた。

「まさか…リダって…ファルカさんが…?」

アカリの声は震え、彼女はスマホを握りしめながら立ち上がる。リダ――現実の女性――がクスクス笑い、ファルカが小さく頷く。

部屋の外では、ENTUMのメンバーたちの足音が近づいていた。アイリスディーナの新たな計画、リィズのRMT指導の準備、そして今、リダのリアル登場が、アカリの現実を一気に揺さぶっていた。ゲームと現実が交錯するこの瞬間、アカリの冒険は、まったく新しい局面へと突き進もうとしていた――。

ファルカが、冷静だがどこか鋭い声で切り出した。

「アカリさんに、ネトゲーが何たるかを教えようと思いまして」

アカリは言葉を失い、ただ黙ってファルカを見つめる。

「…」

ファルカは淡々と続ける。

「リダ・カナレス本人と接触し、彼女をモーションキャプチャーとしてリダというキャラクターを作って、一緒にプレイしてたんです」

アカリの目が大きく見開かれ、スマホを握る手が震える。

「ファルカさん…貴女がリダの正体だったの? 酷いよ! じゃあ最初からアカリを騙して…!」

彼女の声は、裏切られた痛みと怒りで震え、涙が頬を伝う。

ファルカの無表情な顔に、ほんの一瞬、申し訳なさのような影がよぎる。

「騙すの何も、これは全部貴女が撒いた種ですよね? アカリさん、まさかリアルのリダもこんな感じの美少女だったとは思っていませんよね?」

リダ――現実の女性――が申し訳なさそうに手を合わせ、柔らかく言う。

「アカリちゃん、ごめんね…でも、貴女にネトゲーの恐ろしさを教え込もうと…」

「リダさん…」

アカリはリダの優しい声に一瞬心を揺さぶられるが、すぐに涙を拭い、唇を噛む。

ファルカが一歩踏み出し、冷たくも現実的な言葉を突きつける。

「ネット上では名前や歳も性別も外見も自由に変えられるんです! 真の仲間なんてただの幻想に過ぎません!」

「げ…幻想…」

アカリの声が小さく震え、彼女はスマホを握る。リダとのゴブゴン戦、小屋での穏やかなひととき、コンボ攻撃の興奮――すべてが、まるで砂の城のように崩れ落ちる感覚に襲われた。

リダが黙ってアカリを見つめ、どこか悲しげな瞳を向ける。

「…」

アカリは涙をこらえ、声を絞り出す。

「そ、そんな事ぐらい分かっていたよ……!アカリがネトゲー始めたのはただ…RMTで金を稼ぐためで…!」

「RMTですか…」

ファルカの声に、ほんの少し同情が混じる。

その時、部屋の入り口からリィズが現れ、冷ややかな視線をアカリに投げる。

「ファルカ」

「はい、先輩」

ファルカがリィズに敬意を込めて頷き、再びアカリに向き直る。

「RMTで稼ぐには、チームを組み、かなりシビアなやり方で取り組む必要があります! それが出来てるのは極々一部の人間だけです! アカリさんみたいに騙されやすく、プログラムの知識がない人間には不可能です!」

アカリは目を伏せ、震える声で反論する。

「あ…アカリには時間が…」

ファルカが一歩近づき、容赦なく畳み掛ける。

「じゃあ、この先何年続ける気ですか? 10年、20年、30年…このままずっとずっと続ける気ですか?」

リィズが腕を組み、鋭く言葉を重ねる。

「30年後の自分の姿を想像しなさい!」

「さ…30年後…」

「事務所から追放され、RMTの夢を破れ、実家に呼び戻され、両親に養われている50歳の自分を!」

アカリの瞳が揺れ、彼女は腰を下ろす。リィズの言葉が、まるで冷たい刃のように彼女の心を切り裂いた。彼女の頭には、輝いていたゲームの世界――リダとの冒険、ゴブゴンの勝利、レア剣の輝き――が、色褪せていく感覚が広がる。そして、現実の部屋の散らかり具合、ENTUMのメンバーたちの怒りと心配が、重くのしかかってきた。

アカリはスマホを握りしめ、涙をこらえて呟いた。

「…アカリ…ただ、夢を…」

リダがそっとアカリの手を握り、優しく言う。

「アカリちゃん…ゲームの世界は楽しいけど、現実も…ちゃんと見てほしいな」

ファルカが静かに続ける。

「アカリさん、ENTUMの仲間たちは、貴女を必要としてます。現実で待ってる人たちがいるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30年後の未来、2018年から遠く離れた2048年――――ミライアカリの実家は、静かな地方都市の郊外にひっそりと佇んでいた。かつての輝きを失った古びた家屋は、時の流れと家族の疲弊を物語るように、壁の塗装が剥がれ、庭の雑草が伸び放題だった。家の中では、かつて金髪サイドテールで冒険の夢を追いかけたアカリの姿が、今や見る影もなく変わり果てていた。

コンコン…

ドアを軽く叩く音が、アカリの部屋に響く。埃っぽい部屋は、かつてのスナック袋やぬいぐるみのカオスが、さらに増幅されたような散らかり具合だ。モニターの光が、彼女の疲れた顔を青白く照らし出す。

「アカリ、ご飯の用意できたから、たまには食べにらっしゃい」

アカリの母の声は、優しいがどこか諦めた響きを帯びていた。

「うっせーな! ババァ! 私に構わないで!!」

アカリの声は、かつての弾けるような明るさを失い、苛立ちと虚無感に満ちていた。彼女は古びたゲーミングチェアに座り、画面に映る『flowerhoneyQuest』の世界に目を凝らす。レベル13000の魔法戦士、フラワーハニーのヒーロー――それが、彼女の唯一の誇りだった。

母がドアの向こうでため息をつき、続ける。

「でも、たまには野菜を食べないと…」

父の低い声が割り込む。

「放っておきなさい。彼奴はもう50だ。人に言われる歳でもないだろう」

母の声が小さくなる。

「でもあの娘…事務所追い出されてからまだ無職で…」

「もう手遅れなんだ。何もかも…」

父の言葉は、重く部屋に響き、アカリの心に冷たく突き刺さった。

アカリはモニターを睨み、歯を食いしばる。

「…ったく、好き勝手言って…!」

彼女の手は、脂でベタついたキーボードを叩き、画面のキャラクターがモンスターを倒す。だが、その動きにはかつての情熱が感じられない。

バリボリバリボリ…

スナックを貪りながら、彼女は画面に映る自分のアバターを見つめる。

「…こう見えても、レベル13000の魔法戦士、アカリだよ! フラワーハニーのヒーローなのよ! RMTではまだ稼げてないけどね…お前らなんかな、アカリの…」

ゴキ!

突然、腰に鋭い痛みが走り、アカリは顔を歪める。

「いてっ! 最近腰が痛くて痛くて…ちょっと太ってきたかな…」

彼女は椅子から立ち上がろうとするが、体の重さにバランスを崩し、モニターの前に崩れ落ちる。

「あ! あぁ…あぁ…ああ…うあああああああああああああああ」

彼女の叫びは、まるで30年間の夢と現実のギャップが一気に噴出したかのようだった。画面では、彼女のアバターが華麗に剣を振るうが、現実のアカリは、腰を押さえ、涙を流しながら床にうずくまる。かつてのリダとのゴブゴン戦、小屋での穏やかなひととき、ENTUMの仲間たちの声――すべてが、遠い幻のように色褪せていた。

彼女の目には、30年前の自分が映る。リダの「リアルで会いたい」という提案、ファルカの厳しい言葉、リィズの冷ややかな忠告。そして、ENTUMの事務所を追われ、RMTの夢を追い続けた果てのこの姿。彼女はスマホ――今や古びたデバイス――を握り、通知アイコンの光が消えていることに気づく。誰も、もう彼女を呼んでいない。

「アカリ…何だったんだろう…アカリの冒険…」

彼女の呟きは、部屋の静寂に溶け、モニターの光だけが、彼女の涙を冷たく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アカリの部屋――そこは、まるで現実とゲームの境界線が爆散したような混沌の巣窟だった。

パソコン画面のブルーライトが、金髪サイドテールを淡く照らし、床には食べかけのスナック袋、ぬいぐるみ、空のペットボトルが散乱している。それらは、アカリの内面がバグったままセーブされたかのような、見事なまでの心の映し鏡だった。

「うああああああああああああああああ…お父さん―― お母さん――エイレーンさん…うぅ…うああああああああああああぁぁぁっ」

アカリの泣き声は、まるで心の底から絞り出されたように部屋に響き、彼女はベッドの上で体を震わせた。

リィズが腕を組み、冷ややかに言葉を突き刺す。

「VTuber、ここに極まれり! 両親が他界したら、生きる術は絶たれるのよ!」

「あぁ…うぅ…」

アカリは顔を覆い、涙が止まらない。彼女の頭には、30年後の孤独な姿――実家の埃っぽい部屋、レベル13000の魔法戦士としての虚しい誇り――が焼き付いていた。

ファルカが一歩踏み出し、冷静だが容赦ない声で続ける。

「それでもまだRMTをやりますか? 言っときますけど、テストプレーヤーとしての無料期間は既に終了し、赤字になってますよね?」

アカリは涙を拭い、震える声で叫ぶ。

「違うの…RMTなんか途中でどうでもよくなったのよ…アカリは…アカリは…」

彼女の言葉は途切れ、視線がリダへと向かう。ゴブゴン戦の興奮、小屋での穏やかなひととき、リダとの絆――それが、彼女がゲームに執着した本当の理由だった。

リダは黙ってアカリを見つめ、どこか悲しげな瞳を向ける。

「…」

ファルカも一瞬言葉を止め、静かに彼女を見やる。

「…」

リィズが冷笑を浮かべ、言葉を重ねる。

「恋愛感情なんて、所詮化学反応みたいなモノよ。条件が整えば、相手が誰だろうと発生するわ。そう、例え相手がファルカだってね」

「!!!!!!」

アカリの目が見開かれ、彼女はベッドの上で体を硬直させる。リダへの想いが、まるで否定されたかのような衝撃に、彼女の心が揺さぶられた。

ファルカが静かに、だが力強く続ける。

「アカリさん、ゲームの中で何かを得ようとするのは不毛ですよ。一番儲かるのはゲームを作ってる側の人間です! …だから、ゲーム作りをやりましょう! 『ミライアカリTSF』を! リィズ先輩と一緒に!」

リィズは片眉を上げ、無言でファルカを一瞥する。

「…」

アカリは一瞬、ファルカの言葉に心を動かされかける。ゲームを作る――それは、彼女の情熱を別の形で活かす道かもしれない。だが、すぐに彼女の瞳に怒りの炎が宿る。

「…出て行って…」

リダが驚いて声を上げる。

「え?」

ファルカが首をかしげる。

「?」

リィズは無言でアカリを見つめる。

「…」

アカリはベッドから立ち上がり、涙と怒りで声を張り上げた。

「私の部屋から出て行ってよーーーーーーーーーー!!」

「うわああああああああ! 先輩!」

ファルカが慌てて後ずさり、リィズの手を掴む。

リィズが冷静に言い放つ。

「退却よ」

ファルカが叫びながらドアへ向かう。

「は、はい! アカリさん、ゲームはやるモノじゃなく作るモノですよ!」

「うがあああああああああああああああああああああ!」

アカリは枕を投げつけ、彼女の叫びが部屋を震わせる。

「うああああああああああああああああ!」

ファルカが悲鳴を上げ、リィズが彼女を引っ張る。

バタム! ガァッ!

ドアが勢いよく閉まり、枕が壁に当たって落ちる。アカリはベッドに倒れ込み、額を押さえて呻く。

「痛いよー!」

部屋に静寂が戻り、アカリは荒い息を吐きながら天井を見つめた。彼女の頭には、リダの笑顔、ファルカの提案、リィズの冷たい言葉、そして30年後の絶望的な未来が交錯する。

「アカリ…何を…どうすれば…」

スマホの通知アイコンは、依然として光り続けていた。ENTUMのメンバーたち――アイリスディーナ、エイレーン、ベイレーン、萌実――が、彼女を呼び戻そうと動き始めていることなど、アカリはまだ知らない。だが、ファルカの言葉――「ゲームを作る」――が、彼女の心の奥に小さな種を植え付けていた。ゲームの世界で輝いた彼女の情熱は、果たして現実で新たな形を見いだせるのか。物語は、アカリの決断を待っていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アカリの部屋の外、世田谷区の静かな住宅街の路地裏で、ファルカ、リィズ、リダの三人は夜の冷たい空気の中に佇んでいた。アカリの叫び声と枕の衝撃がドア越しに響いた直後、彼女たちの表情には、それぞれ異なる感情が浮かんでいた。ファルカの無表情な顔には微かな後悔が、リィズの冷ややかな瞳には冷静な分析が、リダの猫耳ヘアバンドを揺らす女性の顔には心配と優しさが宿っていた。

ファルカが、いつもの落ち着いた声に少しだけ自嘲を混ぜて呟いた。

「ちょっと薬が効きすぎましたね」

リィズが腕を組み、肩をすくめて応じる。

「暫く放っておけば治るわ。あの女、案外タフなんだから。30年後の話でビビったくらいじゃ、潰れやしない」

リダが、猫耳ヘアバンドをそっと押さえ、ためらいがちに口を開く。

「あ、あの…」

ファルカがリダに視線を向け、わずかに頭を下げる。

「申し訳ありません。リダ・カナレスさんを巻き込んで、こんな騒動に…」

リダは慌てて手を振って笑顔を見せる。

「謝らなくていいのよ! でも、アカリちゃんが…あんな風になっちゃって、心配で…」

彼女の声には、ゲーム内のリダとしてアカリと過ごした絆が滲み、リアルでの彼女の優しさが垣間見えた。

ファルカが静かに、だが確信を持った声で言う。

「数日間放置すれば、いつものミライアカリに戻ると思いますよ。あの情熱、すぐに消えるようなものじゃない。ゲーム作りって提案、頭の片隅に残ってるはずです」

リィズが小さく鼻で笑い、夜空を見上げる。

「ふん、戻るか壊れるか、どっちかね。まぁ、面白いことにはなりそうよ。ファルカ、ドーナツ屋に寄ってく? 『Lostheaven』の新作、試してみたい気分なの」

ファルカが珍しく微笑み、頷く。

「いいですね、先輩。リダさんもどうです?」

リダが少し照れながら笑う。

「え、うそ、いいの? じゃあ、行く! アカリちゃんのこと、ちょっと落ち着いたらまた話したいな…」

三人は路地を後にし、夜の街へと消えていく。彼女たちの背後では、アカリの部屋の窓から漏れるスマホの光が、かすかに揺れていた。

 

一方その頃、アカリはベッドに倒れ込み、荒い息を吐きながら天井を見つめていた。彼女の金髪サイドテールは乱れ、涙の跡が頬に残っている。部屋は静寂に包まれ、投げつけた枕が床に転がり、スマホの通知アイコンが執拗に光り続けていた。彼女の頭には、ファルカの「ゲームを作る」という提案、リダの優しい笑顔、リィズの冷たい忠告、そして30年後の絶望的な未来像が、まるで嵐のように渦巻いていた。

「あぁ…あ…あぁ…(これから…どうすればいいの…?)」

彼女は呟き、マウスを手に取る。『flowerhoneyQuest』のログアウト画面が、彼女のアバター――レベル13000の魔法戦士――を映し出す。ゴブゴン戦の興奮、小屋でのリダとのひととき、すべてが鮮明に蘇る。だが、ファルカの言葉が、彼女の心に楔を打ち込んでいた。

「ゲームは…作るもの…?」

アカリは目を閉じる。ENTUMの仲間たち――アイリスディーナの怒り、エイレーンの涙、ベイレーンや萌実の心配――が、彼女の心に浮かぶ。

「みんな…アカリのこと、待っててくれる…?」

彼女の指が、ゆっくりとスマホの通知アイコンに触れる。そこには、エイレーンからのメッセージが。

「アカリさん、話したいことがあります。ENTUMで待ってます。」

アカリの唇に、かすかな笑みが浮かぶ。

「…ちょっと、考えてみるか…」

彼女の心に、ゲームの世界の情熱と、現実での新たな可能性が、静かに芽生え始めていた。

だが、部屋の外では、アイリスディーナが新たな計画を携えて動き始めていた。リィズとファルカの介入、リダのリアル登場、そしてアカリの心の揺れ――物語は、アカリの次の選択を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

ENTUMの会議室は、緊張と期待の空気に満ちていた。長テーブルの周りに集まったメンバーたちの顔には、決意と仲間への信頼が宿っている。アイリスディーナが、金髪を揺らしながら堂々と立ち、企画書を手に力強く宣言した。

「『flowerhoneyQuest』の案だが、残念ながらこれは正式採用を取り消すことになった。が、代わりにこの企画を出す事にした。その名も『ミライアカリオルタネイティヴ』!」

月夜ソラが、隣に座る花野蜜の肩を軽く叩き、優しく声をかける。

「そう落ち込まないでください、蜜先生」

花野蜜は少し俯き、静かに答える。

「…そうだね…」

月夜ソラが心配そうに彼女を見つめる。

「…」

エイレーンが書類を手に、好奇心を抑えきれずに尋ねる。

「アージュさんと合同制作ですか?」

アイリスディーナが頷き、鋭い視線で答える。

「そうなるな。この企画は、ミライアカリの情熱とENTUMの力を結集し、新たなゲームの形を世に示すものだ」

バタム!

突然、会議室のドアが勢いよく開き、ミライアカリが息を切らして飛び込んできた。

「遅れてごめんなさい!」

エイレーンが目を輝かせ、立ち上がる。

「アカリさん…!」

ベイレーンがニヤリと笑い、合鍵をポケットで弄びながら言う。

「待ってたぞ、だお!」

ベノちゃんが小さな体でピョンピョン跳ね、歌うように歓迎する。

「♪」

萌実が涙目でアカリに駆け寄り、両手を握る。

「心配したんだから…!」

花野蜜が穏やかに微笑み、静かに言う。

「おかえりなさい…」

月夜ソラが弾けるような声で叫ぶ。

「アカリパイセン! やっと来た!」

ユメノツキミがキラキラした目で手を振る。

「♪」

もちひよこがクスクス笑い、頬を膨らませる。

「ふふふ」

猫宮ひなたが無言でアカリを一瞥し、微かに頷く。

「…」

届木ウカが楽しそうに手を叩く。

「―――アカリちゃん、復活!」

アイリスディーナが腕を組み、鋭い視線をアカリに投げつつ、口元に小さな笑みを浮かべる。

「待っていたぞ、ミライアカリ」

アカリは一瞬、仲間たちの温かい視線に圧倒され、胸が熱くなる。彼女は深呼吸し、力強く答えた。

「…はい!」

会議室に集まったENTUMのメンバーたちの顔には、アカリへの信頼と、新たな企画への期待が溢れていた。アイリスディーナが企画書を手に、続ける。

「『ミライアカリオルタネイティヴ』は、ゲームと現実の境界を超える物語だ。アカリ、お前の情熱がこの企画の核となる。準備はできているか?」

アカリはスマホを握り、ゴブゴン戦やリダとの絆を思い出し、目を輝かせる。

「うん…アカリ、やってみる! ゲームを作るって、すっごくワクワクするよ!」

エイレーンが書類をぎゅっと抱きしめ、笑顔で言う。

「アカリさんなら、絶対すごいゲーム作れます!」

ベイレーンが肩を叩き、笑う。

「だお! アカリのバカっぽい情熱、こういう時に役立つんだお!」

萌実が柔らかく頷く。

「アカリちゃん、みんなで一緒に頑張ろうね」

アカリの心に、30年後の絶望的な未来が遠ざかり、代わりに仲間たちとの新たな冒険の可能性が広がる。リダの笑顔、ファルカの提案、リィズの忠告――すべてが、彼女をこの瞬間に導いたのだ。

だが、会議室の外では、リィズとファルカが『Lostheaven』のドーナツを手に、アカリの動向を見守っていた。アイリスディーナの新たな計画と、アカリのゲーム作りへの挑戦が、ENTUMにどんな波を起こすのか――物語は、アカリの新たな一歩とともに、輝かしい未来へと動き始めていた。

 

 

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