ENTUM23   作:マブラマ

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第75話 マルチにようこそ!

株式会社ENTUMの会議室は、アカリの帰還と『ミライアカリオルタネイティヴ』の発表で熱気に包まれていた。長テーブルの周りに集まったメンバーたちの顔には、希望と決意が輝き、アイリスディーナの堂々とした声が部屋に響いていた。アカリは仲間たちの温かい歓迎に胸を熱くし、金髪サイドテールを弾ませながら、新たな挑戦への意気込みを固めていた。だが、その熱狂の片隅で、萌実が少し不安げな表情を浮かべ、そっと口を開いた。

「あの…歌手デビューの話は…?」

萌実の声は、いつもの柔らかさに少し震えが混じっていた。彼女の大きな瞳には、期待と心配が交錯している。

アイリスディーナが腕を組み、金髪を揺らしながら、鋭い視線を萌実に向ける。彼女の声は冷静だが、どこか重い響きを帯びていた。

「白紙になった」

「そんなー!」

萌実の目が一瞬で潤み、彼女は小さな手をぎゅっと握りしめる。会議室に一瞬、静かな波紋が広がった。エイレーンが書類を胸に抱き、ベイレーンが合鍵を弄ぶ手を止め、月夜ソラが花野蜜と顔を見合わせる。猫宮ひなたが無言で目を細め、届木ウカが「(´・ω・`)」と小さく呟く。

アカリはハッとして萌実を見やり、慌てて声を上げる。

「え、萌実ちゃんの歌手デビュー!? そんな大事な話、なんで白紙に!?」

アイリスディーナが深く息を吐き、企画書をテーブルに置く。

「スポンサーの都合だ。予算が削られ、『flowerhoneyQuest』の企画と同時進行は難しくなった。だが、『ミライアカリオルタネイティヴ』に全力を注ぐことで、ENTUMの未来を切り開く。それが我々の選択だ」

萌実が唇を噛み、涙をこらえて俯く。

「うぅ…分かってるけど…せっかく練習してたのに…」

エイレーンが萌実の肩にそっと手を置き、優しく言う。

「萌実さん、歌手デビューの夢、絶対諦めなくていいよ! この企画が成功したら、きっと次のチャンスが…!」

ベイレーンがニヤリと笑い、萌実を元気づける。

「だお! 萌実の歌、めっちゃいい感じだったもんな! アカリのバカっぽい情熱と一緒に、ENTUMでデカい花咲かせるだお!」

アカリがベッドから跳ねるように立ち上がり、拳を握る。

「そう! 萌実ちゃんの歌、アカリもめっちゃ応援するよ! 『ミライアカリオルタネイティヴ』で大成功して、萌実ちゃんのデビューも絶対実現させよう!」

萌実がハッと顔を上げ、涙を拭って小さく微笑む。

「アカリちゃん…みんな…ありがとう…頑張るね!」

月夜ソラが弾ける声で続ける。

「そーだ! アカリパイセンと萌実パイセンが組めば、ゲームも歌も最強じゃん!」

花野蜜が穏やかに頷き、言う。

「うん…この企画、みんなの夢を乗せられるかもしれないね」

アイリスディーナが会議室を見渡し、力強く宣言する。

「ミライアカリ、萌実、そしてENTUM全員の力を結集する。『ミライアカリオルタネイティヴ』は、単なるゲームではない。我々の情熱と夢の結晶だ。準備はいいな?」

アカリはスマホを握り、リダとの絆やゴブゴン戦の興奮を思い出し、目を輝かせる。

「うん! アカリ、めっちゃ気合入ってるよ! ゲーム作って、萌実ちゃんの歌も世に響かせる!」

会議室に笑顔と決意が溢れ、ENTUMの仲間たちの絆が新たな挑戦を後押しする。だが、部屋の外では、リィズとファルカが『Lostheaven』のドーナツを手に、アカリたちの動向を静かに見守っていた。アイリスディーナの計画、萌実の夢、そしてアカリのゲーム作りへの情熱――すべてが、ENTUMに新たな波を起こそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後:ミライアカリの自宅

アカリの部屋は、ENTUMの会議室での熱気から一転、静かな夜の帳に包まれていた。スマホの光が、散らかったスナック袋やぬいぐるみのカオスを照らし、金髪サイドテールがベッドの上で小さく揺れる。『ミライアカリオルタネイティヴ』の発表、萌実の歌手デビュー白紙の衝撃、仲間たちの温かい声――すべてが、彼女の心に希望と重圧を同時に植え付けていた。アカリはスマホを手に、深いため息をついた。

「さぁて、エゴサーするか」

彼女は気を取り直すように呟き、SNSを開こうと指を動かす。だが、心のどこかで、ネトゲーの世界――リダとのゴブゴン戦、小屋での穏やかなひととき――がチラつき、彼女の手が一瞬止まる。

《ロキロキロキロキロックンロール!♪》

突然、スマホが派手な着信音で鳴り響き、アカリはビクッと跳ね上がる。

「うわっ! 何!?」

慌てて画面を見ると、知らない番号が表示されている。

ピッ

「はい」

アカリは少し警戒しながら通話ボタンを押す。

《ミライアカリ…そうよね?》

電話の向こうから、どこか芝居がかった陽気な女性の声が響く。

「誰?」

アカリは眉をひそめ、スマホを耳に押し当てる。

《ほら、『殺戮の天使チャンネル』で出ている陽気な女性よ》

声の主が、まるでクイズの答えを出すように軽快に続ける。

アカリの目がパッと輝き、思わず声を上げる。

「陽気な女性…あ! キャシーさん!?」

《ピンポーン♪ 救いがたき罪人さん♪》

キャサリン・ワードの声が、まるでゲームのNPCのようなテンションで弾けた。

「罪人って…何の用です?」

アカリは苦笑いしつつ、ベッドの上で体を起こす。

キャサリンが、意味深な笑い声を漏らす。

《ふふふ…貴女だけ特別な素敵なお し ら せ♪》

アカリの心が一瞬ざわめく。

「今からでもいいですか?」

《構わないわよ♪ 近くの喫茶店でいい?》

キャサリンの声は、まるでアカリの迷いを吹き飛ばすような軽やかさだった。

「はい」

アカリは即答し、スマホを握りしめる。

正直な話、アカリは部屋にいたくなかった。『flowerhoneyQuest』の世界、RMTの夢、リダとの絆、ファルカの厳しい言葉、30年後の絶望的な未来――すべてを、ほんの一瞬でも忘れたかった。パソコンやスマホの画面を見ると、ネトゲーの誘惑と現実の重圧が押し寄せてくる。だから、パソコンのない場所へ行きたかった。その口実は、キャサリンの誘いでも、なんでも良かった。

アカリは急いでジャケットを羽織り、部屋の散らかり具合に一瞥をくれる。

「…よし、行くか!」

彼女は自分を奮い立たせるように呟き、ドアを勢いよく開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の世田谷の街を、アカリは早足で歩く。街灯が彼女の金髪サイドテールを照らし、冷たい風が頬を撫でる。彼女の頭には、キャサリンの「特別なお知らせ」が何なのか、好奇心と不安が交錯していた。

「キャシーさん、いつも何か企んでる感じだけど…まさか、コラボ企画と関係あるとか…?」

彼女のスマホには、ENTUMのメンバーたちからのメッセージが溜まり続けている。エイレーンからの「アカリさん、企画のアイデア話したい!」や、萌実からの「一緒に歌の練習しない?(´ω`)」が、彼女の心を温かくする。だが、同時に、リダの笑顔とファルカの「ゲームを作る」という提案が、彼女の心を揺さぶり続けていた。

喫茶店のネオンサインが見えてくると、アカリの足取りが少し軽くなる。

「アカリ、ちょっとくらい現実で冒険しても…いいよね?」

彼女は小さく笑い、ドアを押し開けた。キャサリン・ワードとの出会いが、彼女の新たな道をどう切り開くのか――物語は、予期せぬ展開へと動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京都世田谷区 喫茶『殺戮の天使』

世田谷の夜の街角、ネオンの光が柔らかく灯る喫茶『殺戮の天使』のドアが、軽やかな鈴の音とともに開いた。店内はレトロな雰囲気で、木のテーブルと暖かい照明が、まるで現実の喧騒から一歩離れた安息の地のように感じられた。アカリはジャケットを握りしめ、そわそわしながら店内に足を踏み入れる。

「いらっしゃいませ!」

明るい女性店員の声が響き、アカリに笑顔を向ける。

アカリは軽く会釈し、店内を見回した。

「(キャシーさん、まだ来てないのかな?)」

彼女は奥のテーブルに腰を下ろし、スマホをチラリと確認する。ENTUMのメンバーからのメッセージが溜まっているが、今はそれを見る気力もない。ネトゲーの誘惑と現実の重圧を忘れたくて、彼女は深く息を吐いた。

カランコロンカランコロンカランコロン…

入口の鈴が再び鳴り、アカリがハッと顔を上げる。

「?」

コツ…コツ…コツ…コツ…

ブーツの音が近づき、テーブルに影が落ちる。アカリが振り返ると、「監獄の看守」としての役割とサイコパス的な性格を強調するデザイン。黒を基調とした、胸元が少し開いたドレッシーなブラウスやコルセット風のトップス。肩や胸元にフリルやレースが施されており、ゴシック風の雰囲気。膝丈程度のフレアスカートまたはタイトなスカートで、動きやすさと女性らしさを兼ね備えたデザイン。色は黒やダークトーンが中心。 首元にチョーカーやネックレスを着用していることが多く、彼女の派手な性格を強調。手袋(特に黒のロンググローブ)やブーツを着用し、監獄の支配者としての威圧感を演出。全体的にゴシックでダークなファッションだが、女性らしいシルエットが強調され監獄の「女王」のような威厳と、狂気的な魅力が混在するキャサリン・ワードが、まるで舞台の主演女優のようなオーラを放ちながら立っていた。

「ミライアカリ」

キャサリンの声は、陽気だがどこか試すような響きを帯びていた。

「?」

アカリはキョトンとして彼女を見つめる。

キャサリンがパッと笑顔を咲かせ、両手を広げる。

「やっぱり正真正銘本物のミライアカリよ! 会えて嬉しいわ(´ω`) キャシー感激!」

「キャシーさん!!?」

アカリは目を丸くし、思わず立ち上がる。

「と、とりあえず座ってください!」

キャサリンは優雅に椅子に腰を下ろし、メニューを手にしながら軽快に続ける。

「そういえば、貴女、今何の動画作ってるのかしら?」

「!!!」

アカリの体がピクリと硬直し、彼女はベッドの上で縮こまるような気分に襲われる。ENTUMの企画、ネトゲーの失敗、萌実の歌手デビュー白紙――すべてが、彼女の心に重くのしかかっていた。

キャサリンが、まるでアカリの心を見透かすように続ける。

「事務所に電話してみたけど、ハッキリした返答返ってこないから心配してたのよ」

アカリは目を伏せ、声が小さくなる。

「じ、実は…」

アカリは隠し事せず正直に全部話した。

「ネトゲー中毒になりかけた? あのミライアカリちゃんが?」

キャサリンの声に、驚きと少しのからかいが混じる。

アカリは顔を赤らめ、テーブルに手を置いて吐露する。

「動画撮影は失敗するし、ネトゲーのテストプレーヤーとしてやっても失敗するし…つまり、変態バーチャル芸人なの…」

キャサリンが一瞬真剣な表情になり、静かに言う。

「ネット中毒なんて、何がきっかけになるか分からないわ。笑えないわ」

「え?」

アカリはハッとしてキャサリンを見上げる。彼女の陽気な態度に隠された、どこか深い理解のようなものが感じられた。

キャサリンがニッコリ笑い、急に声を弾ませる。

「そうね、だったら社長に会ってみない?」

「?」

アカリの頭に疑問符が浮かぶ。

「皆、素晴らしい人たちよ♪ 私も入ってるのよ。ネオアムウェイの会員に…」

キャサリンの言葉は、まるで新たな冒険の誘いのように響いた。

「…」

アカリは一瞬言葉を失い、キャサリンの笑顔を見つめる。ネオアムウェイ――その言葉に、どこか怪しげな響きを感じつつも、彼女の心は揺れ動く。ENTUMの仲間たち、萌実の夢、『ミライアカリオルタネイティヴ』の挑戦が頭をよぎるが、同時に、ネトゲーの失敗と現実の重圧から逃れたい気持ちが強かった。

キャサリンが身を乗り出し、優しくも力強く続ける。

「人はね、誰にだって罪を着せ、償い、真っ当な人生で生きる人はいるわ。アカリちゃんも、私とコラボすれば人生だって変わるわよ♪ 丁度良かったわ。これからその社長と会う所だったのよ。アカリちゃんも行きましょう」

「これから?」

アカリの声に、驚きと迷いが混じる。

キャサリンがウインクを決め、立ち上がる。

「どうせ暇なんでしょ? 付いて来なさい」

アカリは一瞬躊躇するが、部屋に戻るよりも、未知の何かへ飛び込む方が、今の自分には必要だと感じた。彼女はジャケットを握りしめ、立ち上がる。

「…うん、行く!」

喫茶店のドアが再びカランコロンと鳴り、アカリとキャサリンは夜の街へと消えていく。彼女のスマホには、ENTUMのメンバーからのメッセージが光り続けていた。エイレーン、萌実、アイリスディーナ――そして、どこかでリダの笑顔が、アカリを待っている。キャサリンの「社長」との出会いが、アカリの人生にどんな波を起こすのか――物語は、予測不能な新たな局面へと突き進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世田谷の夜の街を、アカリとキャサリン・ワードは並んで歩いていた。街灯の光がアカリの金髪サイドテールを揺らし、キャサリンのフレアスカートの裾が風に翻る。喫茶『殺戮の天使』での会話から、アカリの心は好奇心と警戒心で揺れ動いていた。キャサリンの「ネオアムウェイ」や「社長」との話は、まるで新たなゲームのクエストのように魅力的だが、同時に、どこか胡散臭い雰囲気が漂っていた。アカリはジャケットを握りしめ、キャサリンの軽快な足取りに必死でついていきながら、質問を投げかけた。

「これから会う社長って、どんな人なんですか?」

アカリの声には、期待と疑念が混じっていた。

キャサリンが振り返り、陽気な笑顔で答える。

「そうね。一言で言うと、罪を償い、自分の夢を叶った人。ね」

「夢?」

アカリは首をかしげ、キャサリンの言葉を反芻する。

キャサリンが目を細め、まるで物語の語り手のような口調で続ける。

「黒猫さんって言う人だけど、1年足らずで手に入れたスーパーカーを持ってる伝説の人物よ」

「スーパーカー? どんな仕事してるの?」

アカリの声に、好奇心と疑いが強まる。

キャサリンは肩をすくめ、ミステリアスな笑みを浮かべる。

「私はあくまでも『断罪人』よ。社員でも何でもないわ」

「(怪しい…!)」

アカリの心の中で警報が鳴る。ネオアムウェイ、黒猫、スーパーカー――すべてが、まるで詐欺師のプロフィールのように聞こえた。

キャサリンがアカリの表情を読み取ったように笑う。

「詳しい事は着いてから説明するわね。社会貢献してる誠実な人よ」

「…(胡散臭い)」

アカリは心の中で呟き、キャサリンをチラリと見やる。彼女の陽気な態度は、まるでゲームのNPCのように魅力的だが、どこか信用しきれない空気を漂わせていた。

キャサリンが歩みを緩め、突然話題を変える。

「アカリちゃんはやっぱりネトゲーやってるの? RMTとか」

アカリの体がピクリと反応し、声を硬くする。

「何でそんな事聞くの?」

キャサリンが軽く手を振って笑う。

「動画配信してる人って、良くハマるじゃない。違う?」

アカリは唇を噛み、目を伏せる。

「RMTなんて二度とやらないわ。あんな嘘っぱちの世界にハマる人は最低な人間よ」

キャサリンが一瞬真剣な表情になり、静かに言う。

「アカリちゃん、よくもちひよこや届木ウカと絡んでるわね」

「…最近色々ありまして」

アカリの声は小さくなり、ENTUMの仲間たち――萌実の歌手デビュー白紙、アイリスディーナの新たな企画、リダとの絆――が頭をよぎる。

キャサリンが穏やかに頷き、言う。

「そう…」

二人は一旦、別れて互いの家に帰った。

翌朝、東京を離れ奈良県磯城郡田原本町秦ノ庄に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アカリの心は、まるで『flowerhoneyQuest』の未知のダンジョンに踏み込むような緊張と好奇心で揺れていた。キャサリン・ワードの誘いに乗って、彼女は東京を離れ、気づけば近鉄笠縫駅の小さなホームに立っていた。夜の空気が冷たく、遠くに富士山のシルエットが月光に浮かぶ。アカリはジャケットを握りしめ、キャサリンの陽気な笑顔をチラリと見やる。

「富士山だ…わぁ…綺麗―――あ、あの、随分遠くまで行くんですね」

アカリの声には、感嘆と不安が混じる。

キャサリンが支配的で狂気的な美しさでオーラを放ちミステリアスな笑みを浮かべる。

「もうすぐよ…」

「(話の流れで付いてきたけど、一体何処まで行くの?)」

アカリは心の中で呟き、キャサリンの軽快な足取りに必死でついていく。ENTUMの仲間たち、萌実の夢、『ミライアカリオルタネイティヴ』の挑戦が頭をよぎるが、ネトゲーの失敗と現実の重圧から逃れたい気持ちが、彼女をこの奇妙な旅に駆り立てていた。

小さな駅のホームに降り立つと、キャサリンはブーツの音を響かせながら歩き出す。

「行きましょう。社長の家まで30分で着くわ」

「さ、30分!!??? 歩く!????」

アカリの目が飛び出し、彼女は思わず叫ぶ。金髪サイドテールが驚きでバネのようにはねた。

キャサリンがクスクス笑い、振り返る。

「体力つけなさい、アカリちゃん。冒険には足腰が大事よ♪」

アカリは渋々ついていき、心の中でぼやく。

「(東京からこんな遠くまで…何!? この展開、まるでゲームの強制イベントじゃん…!)」

 

細い田舎道を歩き続け、ようやくたどり着いたのは、意外にもモダンな外観の建物だった。看板には「NeoAmway 笠縫支部」と書かれ、駐車場には確かにスーパーカー――レクサス・LFAがキラキラと輝いている。アカリは疲れ果てた足を引きずりながら、建物を見つめる。

「…」

キャサリンが得意げに手を広げる。

「ほーら、あるでしょ? スーパーカー♪ レクサス・LFAよ、LFA♪」

アカリは車を一瞥し、心の中で呟く。

「…(確かにあるけど…何かが違う)」

スーパーカーの輝きは本物だが、なぜか周囲の田舎の風景とミスマッチで、余計に胡散臭さが漂っていた。

キャサリンが建物のドアをノックし、陽気な声で叫ぶ。

「ごめんくださーい! キャサリンでーす♪」

アカリがハッとして呟く。

「ネオアムウェイ…笠縫支部!????」

キャサリンが振り返り、軽く説明する。

「アムウェイ社からリストラされた社員が独立し、その系統を引き継ぐ会社よ。私たちは、ネオアムウェイの名誉ある会員なのよ」

「(やっぱ胡散臭い…)」

アカリの心の中で警報が鳴り響く。彼女は一歩後ずさり、キャサリンを疑いの目で見やる。

その時、ドアが開き、花のような可憐な衣装をまとった女性が現れる。

「あ、キャシーさん? 準備はできてますよ。さあ、中へ」

アカリが目を丸くし、キャサリンに囁く。

「今のが黒猫社長?」

キャサリンがクスクス笑い、首を振る。

「違うわ。貴女と同類のナズナよ」

「ほぇー」

アカリはナズナの花騎士のような姿に一瞬見とれ、キョトンとする。

キャサリンが続ける。

「貴女と同じ、記憶喪失なのよ」

「えぇー!!?? そうなんだ!?」

アカリの声が裏返り、彼女はナズナを二度見する。記憶喪失という言葉に、彼女の心がざわめく。

キャサリンがアカリの背中を軽く押し、笑う。

「ふふふ…さぁさぁ、中に入って♪」

「…うぐ!――」

アカリは渋々ドアをくぐり、ネオアムウェイ笠縫支部の内部へ足を踏み入れる。建物の中は、意外にも清潔でモダンな会議室が広がり、壁には「夢を叶える」「社会貢献」といったスローガンが掲げられている。アカリの心は、好奇心と警戒心で揺れ動き、黒猫社長との対面を前に、まるでゲームのボス戦を控えるような緊張に包まれていた。

彼女のスマホには、ENTUMのメンバーからのメッセージが光り続けている。エイレーン、萌実、アイリスディーナ――そして、どこかでリダの笑顔が、アカリを待っている。キャサリンの誘いとナズナの登場が、アカリの新たな冒険にどんな波を起こすのか――物語は、ますます予測不能な展開へと突き進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アカリは、ネオアムウェイ笠縫支部の会議室に足を踏み入れた瞬間、まるでゲームのトラップゾーンに迷い込んだような感覚に襲われた。モダンだがどこか異様な雰囲気の部屋には、厳つい黒服の男たち、主婦、セレブ風のママたち、そして花騎士のコスプレをしたナズナが集まり、ざわめきが響いていた。アカリの金髪サイドテールが緊張でピンと張り、彼女はキャサリンの背中を追うようにおずおずと中へ進む。

「ここは…!!????」

アカリの声が裏返り、彼女は周囲を見回す。壁に掲げられた「夢を叶える」「社会貢献」のスローガンが、まるで怪しげなカルトの教義のように感じられた。

キャサリンは陽気な笑顔で振り返る。

「ふふふ…では、私は下準備があるからごゆっくりー♪」

「う…えぇ…」

アカリは引きつった笑顔でキャサリンを見送り、一人取り残される。彼女の心の中で、警報がけたたましく鳴り響いていた。

ざわざわ…ざわ…

部屋の空気が一気に高揚し、突然、拍手が沸き起こる。

パチパチパチパチ…

「え?」

アカリはキョトンとして周囲を見回す。厳つい黒服の男が無表情で拍手し、主婦たちが興奮した目で手を叩く。

パチパチパチパチ…パチパチパチパチ…

アカリは拍手の波に流され、思わず手を叩きながら叫ぶ。

「え? イエーイ!」

ざわ…

ナズナ(花騎士)がステージに立ち、ペットボトルの水を手に持つ。彼女が一瞬アカリを見て、首を振る。「うぅん…」

パシュゥ! ゴクゴクゴクゴク…

「プハーッ! 美味しい!」

ナズナが水を飲み干し、満足げに笑う。

キャサリンがステージに再登場し、マイクを握る。

「うん! 自然本来の味あるわね!」

「…え…?(キャシーさん?)」

アカリは目を丸くし、キャサリンの突然の登場に混乱する。

キャサリンが観客に向かって高らかに宣言する。

「そう、我々ネオアムウェイが提案するのは安全です!」

ナズナが花騎士の衣装を揺らし、熱弁を振るう。

「アレルギーの方からお子様やお年寄りまで、安心できる商品を提供するのが我々の仕事です!」

厳つい黒服の男が無言で頷き、拍手が再び沸き起こる。

パチパチパチパチパチパチ!

アカリは唖然として立ち尽くす。

「…」

キャサリンが観客を煽り、プレゼンを続ける。

「さて、それでは我々が販売している商品が他の会社の商品より如何に優れているか、実演するわよ。よく見なさい…断罪人たち♪」

ナズナがテーブルに二つの容器を並べ、説明を始める。

「今回は天然素材100%家庭用洗剤についてご説明しますね」

キャサリンが洗剤を手に持ち、観客に示す。

「こちらに用意したのは他社の合成洗剤よ。この2つを水が入ってる別々の容器に入れるわ」

サァーッ…

キャサリンが洗剤を容器に注ぐ。

「見てぇ、ナズナちゃん…ネオアムウェイの方は透明なのに、こっちは濁ってるわね」

ナズナが頷き、続ける。

「そうね…他社のは余計な成分が入ってるから、こんなに濁りますね」

アカリは黙って見つめる。

「…(何このデモンストレーション…ゲームのアイテム説明より胡散臭い…)」

ナズナが容器を手に持ち、振る。

「この2つを振ってみると、違いがよくわかりますよ」

シャカシャカ…シャカシャカ…

キャサリンが声を上げる。

「あ、市販品の方は全く音がないわ!」

ナズナが観客に訴える。

「その通りです! 市販品の方は泡が立ち過ぎているから音が出ないんです!」

キャサリンが熱を込めて続ける。

「洗濯には水のぶつかる力や布を擦れ合う摩擦力を利用してるのに、これじゃ無意味ね」

ナズナが締めくくる。

「はい! だからネオアムウェイの商品が優れているって事がよく分かりますね!」

厳つい黒服の男が感心したように呟く。

「成程…そうか!」

別の黒服の男が頷く。

「大したモンだ!」

パチパチパチパチパチパチ

主婦が目を輝かせ、「おおっ!」と声を上げる。

セレブママが手を叩き、「Bravo!」と叫ぶ。

アカリは呆然と立ち尽くし、心の中で呟く。

「…(あのキャシーさんが…まさかこんな事になってるなんて)」

キャサリンがマイクを握り、会場の熱気をさらに煽る。

「さて、皆さんにネオアムウェイ商品の良さが分かっていただけた所で、いよいよスーパーサプライザーの黒猫社長に登場してもらいましょう!」

「!!」

アカリの心臓がドクンと跳ね、彼女はステージに目を凝らす。

ざわ…ざわ…ざわ…

会場が一気に高揚し、観客の期待が渦巻く。

現れたのは、意外にも白衣をまとった女性――薬袋カルテだった。彼女は落ち着いた声で、だが力強く語り始めた。

「皆さん…人として生を受けたからには、スーパーカーに乗ってみたくはありませんか?」

「か…カルテちゃん!??? え? 診療所は!!??? えぇー!?????」

アカリは目を剥き、思わず叫ぶ。彼女の頭は、カルテがこんな場所にいるという事実にパニック状態だった。

薬袋カルテが観客を見渡し、続ける。

「私もネオアムウェイで実現しました。皆さんには可能性があると思います。夢を実現させたい方は、是非この後行われるレクチャーを受ける事をお勧めします」

観客が一斉に沸き立ち、叫び声が響く。

「おおおおおおおおおおおっ!」

「ネオアムウェイ! ネオアムウェイ! ネオアムウェイ! ネオアムウェイ! ネオアムウェイ!…」

アカリは会場の一体感に圧倒され、心の中で叫ぶ。

「(逃げよう!)」

彼女はそっと後ずさり、出口を目指そうとするが、厳つい黒服の男の視線と、ナズナの花騎士の微笑みに阻まれる。キャサリンがアカリにウインクを投げ、マイクで続ける。「さぁ、アカリちゃんも、ネオアムウェイの夢の世界へようこそ♪」

アカリのスマホには、ENTUMのメンバーからのメッセージが光り続けている。エイレーン、萌実、アイリスディーナ――そして、どこかでリダの笑顔が彼女を待っている。だが、今、彼女はネオアムウェイの怪しげな渦に飲み込まれ、黒猫社長・薬袋カルテの言葉に心を揺さぶられていた。この出会いが、アカリの人生にどんな波を起こすのか――物語は、ますます混沌とした展開へと突き進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネオアムウェイ笠縫支部の会議室は、熱狂と怪しげな興奮に包まれていた。薬袋カルテの登場で観客のボルテージは最高潮に達し、「ネオアムウェイ! ネオアムウェイ!」の連呼が部屋を震わせる。アカリは会場の一角に立ち尽くし、金髪サイドテールが緊張でピンと張っていた。彼女の心は、キャサリンの誘い、ナズナの花騎士の微笑み、カルテのスーパーカー宣言に圧倒され、出口を求めるようにそわそわと揺れ動いていた。

会場の隅では、厳つい黒服の男たちが別の話題で盛り上がっていた。

「確率は5以上出してるのに…」

話好きなヤクザ風の男が、隣の仲間に愚痴る。

「ボーナス引けなかったのか?」

耳を傾くヤクザが、興味津々に返す。

「いや、それ引きまくってさ…」

話好きなヤクザが笑いながら続ける。

アカリは彼らの会話を耳にし、心の中で呟く。

「…うぅ…(帰りたい)」

彼女の視線は出口を探し、だが、厳つい男たちの存在と会場の熱気に阻まれ、足が動かない。

その時、キャサリンがアカリの前に現れる。

「アカリちゃん」

「!!」

アカリはビクッと跳ね上がり、キャサリンを警戒の目で見つめる。

「レクチャー受けないの?」

キャサリンの声は陽気だが、どこか押しが強い。

アカリは一歩後ずさり、声を震わせて問う。

「お金…取るんですよね?」

キャサリンが肩をすくめ、笑顔で答える。

「うん、まぁね…商品も同時購入となるから、タダって訳にはいかないけど、でも大した額じゃないわ。上手くいけば一ヶ月で元取れるわよ。何よりも社会に貢献したとてもいい仕事よ」

アカリの目が鋭くなり、彼女はキャサリンをじっと見つめる。

「要するに、ここで買った商品を他の人たちにバンバン売って稼ぐって訳よね?」

「そうそう! 分かってるじゃない…」

キャサリンが手を叩き、嬉しそうに頷く。

「そして仲間を増やせば昇進していく」

アカリの声に、確信が混じる。

「うんうん!」

キャサリンの笑顔がさらに輝く。

「そういうシステムですよね?」

アカリが一歩踏み出し、声を強める。

「その通り!」

キャサリンが勢いよく答える。

アカリは一瞬黙り込み、深呼吸する。彼女の瞳に、決意の光が宿る。

「これってさ」

「ん?」

キャサリンが首をかしげる。

「所謂マルチ商法って奴ですよね?」

アカリの言葉は、まるでゲームのクリティカルヒットのように鋭く、会場に小さな波紋を広げた。

「…」

キャサリンの笑顔が一瞬凍りつき、彼女は言葉に詰まる。

アカリは声を張り上げ、続ける。

「アカリさ、動画編集作業で家に引き籠ってるから、よくテレビ見るんですよ。だから、こういうのが問題になる事も知ってるんですよ!」

キャサリンが慌てて取り繕う。

「いいじゃない、別に非合法じゃないから…」

「畜生!」

アカリは拳を握りしめ、怒りに震える。

「アカリをカモ扱いして…!」

ドダダダダ!

アカリは一気に出口へ向かって駆け出す。金髪ポニーテールが風を切り、彼女の足音が会場に響く。観客のざわめきが一瞬止まり、厳つい黒服の男たちがハッと振り返る。

「アカリちゃん!」

キャサリンが叫び、追いかけようとするが、ナズナがそっと彼女の腕を掴む。

ナズナ(花騎士)が静かに呟く。

「…キャシーさん、彼女、気づいちゃったみたいですね」

アカリは出口のドアを勢いよく押し開け、夜の冷たい空気の中へ飛び出した。笠縫の田舎道を、彼女は息を切らして走る。

「もう…騙されない! アカリ、こんな胡散臭い話にハマるわけないよ!」

彼女の頭には、ENTUMの仲間たちの顔が浮かぶ。エイレーン、萌実、アイリスディーナ――そして、リダの笑顔。『ミライアカリオルタネイティヴ』の挑戦、萌実の歌手デビューの夢が、彼女の心を強く支えていた。キャサリンの誘いとネオアムウェイの怪しげな世界は、彼女に現実の厳しさと、自分の信じる道を再確認させた。

スマホの通知アイコンが光り、エイレーンからのメッセージが表示される。

「アカリさん、企画の打ち合わせ、明日でもいい? 待ってるよ!」

アカリは立ち止まり、スマホを握りしめて微笑む。

「…うん、帰るよ。ENTUMに…アカリの居場所に!」

だが、背後では、キャサリンとナズナが静かに彼女の後ろ姿を見送っていた。薬袋カルテの白衣が夜風に揺れ、彼女の瞳には、どこかアカリの情熱を認めつつも、ネオアムウェイの夢を諦めない決意が宿っていた。アカリの逃走は、彼女の新たな覚醒を意味していたが、物語はまだ終わらない――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近鉄平端駅の小さなホームは、夜の静寂に包まれていた。月明かりがアカリの金髪サイドテールを照らし、彼女の怒りと絶望が冷たい空気に溶けていく。ネオアムウェイ笠縫支部からの逃走後、アカリは息を切らしながらホームに立ち、拳を握りしめて叫んだ。

「クソ! クソ! クソ! どいつもこいつもアカリを馬鹿にして…!」

彼女の声は、まるでゲームの敗北画面を前にした叫びのように、虚しく響く。ENTUMの仲間たち、リダの笑顔、萌実の涙――すべてが、キャサリンのマルチ商法の胡散臭さに塗り潰されたように感じられた。

「アカリちゃん!」

キャサリンの声が背後から響き、アカリはハッと振り返る。

「!」

キャサリンが 膝丈程度のフレアスカートを翻し、息を切らして追いかけてくる。

「アカリちゃん、話を聞いて…」

「帰って! 私はあそこにいた連中みたいなカモじゃないのよ!!」

アカリは声を張り上げ、キャサリンを睨みつける。彼女の瞳には、裏切られた怒りと、どこか自分自身への苛立ちが宿っていた。

キャサリンが手を伸ばし、必死に訴える。

「違うの! そうじゃないわ!」

「違わないよ!!キャシーさんもカルテちゃんみたいにいい車でも手に入れて、皆からチヤホヤされたいだけでしょ! そうでしょ!? そうだって言ってよ!! 同じVTuber同士で電話掛けてきて…捨て駒にしようとしたんですよね!?」

キャサリンは一瞬言葉を失い、目を伏せる。

「…」

「そうじゃないんですか!!???」

アカリの叫びがホームに響き、彼女のポニーテールが怒りで揺れる。

キャサリンがゆっくり顔を上げ、震える声で答える。

「ええ、そうよ! 私はアカリちゃんを騙して、10年使い切れないほどの洗剤を買わせようとしてた!」

「ぐぐ…!!」

アカリの拳が震え、彼女は一歩後ずさる。

キャサリンが声を荒げ、続ける。

「洗剤だけじゃないわ! 自然食品や鍋や薬缶も! だけどそれが何が悪いの? 私だって黒猫社長の口車に乗せられて、山程の洗剤を買わされているのよ!!」

「それは貴女が悪いんでしょ!! 私を巻き込まないでください!!」

アカリは叫び返すが、キャサリンの言葉に、どこか彼女の痛みが伝わってくる。

キャサリンが一歩踏み出し、声を震わせる。

「ええ、ええ…悪いのは全部私よ!! でもね――でも私は…私は! 他人に騙される側にいるのは嫌なの!!」

「何!????????」

アカリの目が見開かれ、彼女はキャサリンの迫力に圧倒される。

キャサリンの目から涙が溢れ、彼女は声を詰まらせながら続ける。

「うぅ…うぅ…ぅ…」

「…」

アカリは言葉を失い、キャサリンの涙を見つめる。

「うぅ…ひぐ…うぅ…!」

キャサリンがしゃがみ込み、顔を覆う。

「キャシーさん…?」

アカリの声が小さくなり、彼女は戸惑いながらキャサリンに近づく。

キャサリンが涙声で語り始める。

「私がVTuberデビューした後すぐ…父親が倒れたわ」

「!!!」

アカリの心臓がドクンと跳ねる。

「学費も生活費も自分で稼ぐしかなかった……」

キャサリンの声は、まるで過去の傷を抉るように震える。

「…まさかキャシーさん…」

アカリの瞳が揺れ、彼女はキャサリンの痛みを初めて感じ取る。

キャサリンが目を伏せ、続ける。

「コスプレして男共を快楽させる仕事…歩合制だったから頑張って働いて…私は店のナンバーワンまで昇り付いた…でも、バイト料なんて真面に貰えた事はなかった…」

「…」

アカリは黙ってキャサリンの言葉を聞く。彼女の心に、キャサリンの過酷な過去が重く響く。

「結局、経営者はお金を持ち逃げしてトン面。私は泣き寝入りするしかなかった…そんなときの事よ。私がネオアムウェイに誘われたのは。でもその御蔭で、私は大きな借金まで抱えてしまった」

アカリは息を呑み、キャサリンの涙を見つめる。

「…」

キャサリンが顔を上げ、アカリをじっと見つめる。

「貴女はどうなの?」

「!!!!」

アカリの体がピクリと反応し、彼女は一瞬言葉を失う。

「このまま一生…社会の底辺。引き籠りのまま生きていくの?」

キャサリンの言葉は、まるでアカリの心の奥底を突き刺す刃のようだった。

「あ…アカリは…」

アカリの声が震え、彼女は自分の足元を見つめる。

キャサリンが畳み掛ける。

「頭が良いアカリちゃんなら、とっくに気付いてるわよね? 自分を見る周囲の人間に下げずむ視線に」

アカリの頭に、リィズ、ファルカ、ベアトリクス、アイリスディーナ、カタリーナ、ニコラ、ベイレーン、ベノちゃん、萌恵、ヨメミ、萌実、もちひよこ、届木ウカ、猫宮ひなた、花野蜜、月夜ソラ、ユメノツキミ、皆守ひいろ等の仲間たちやかつてENTUMを乗っ取ろうとしたアクスマンや側近だったミヒャエルの声がフラッシュバックする。

(屑、最悪、人間失格)

(引き籠りの最低VTuber!)

(世間からは貴様の事は変態バーチャル芸人呼ばわりしてるのは貴女の動画内容が影響してる迄よ)

(お前はやれば出来る! だから挫けるな!)

(WUGちゃん!♪)

(変態バーチャル芸人…か。貴様の動画を見てる視聴者は○○○○してるに違いない)

(アカリはエイレーンがプロデュースしたVTuberだから影響あるのも無理ないお)

(アカリちゃんは私と同じ♪ どうしたの○○○○♪)

(NO!)

(エイレーンと同類だね♪)

(挫けないで! アカリちゃん!)

(アカリちゃんは私の事どう思ってるの?)

(アカリちゃん…君の事は尊敬してるからね)

(…アカリちゃん…)

(アカリちゃんにはまだまだ学ぶべきこと沢山あり過ぎるからゆっくり勉強しましょう)

(アカリパイセン!)

(アカリちゃん♪)

(アカリ先輩! 応援してますよ!)

(君には未知なる知識を持っている…だが、利用する価値はある)

(ハッキリ申し上げますと変態バーチャル芸人と呼ばれるのも致し方ないと)

アカリの瞳が揺れ、彼女は唇を噛む。

「…」

キャサリンが一歩近づき、声を強める。

「いい? アカリちゃん、貴女は皆に利用されている。世の中は貴女を求めてる事務所だって沢山あるわ。何故ならVTuberも視聴者に安心させるだけでなく、放送コードギリギリの内容で露骨な動画を常に必要しているから!」

アカリの頭に、架空の陰謀が浮かぶ。日本変態協会の陰謀…! 彼女の心が、キャサリンの言葉に飲み込まれそうになる。

キャサリンがさらに畳み掛ける。

「分かるでしょ!? 世の中なんて所詮、取るか取られるか…見下すか見下されるかのゼロサムゲームよ!」

アカリは黙り込み、キャサリンの涙と怒りを見つめる。

「…」

「だったら私達が搾取する側に回ればいい! 周りの人間を見下してやるのよ! そう――どうせ腐り切った人間関係なら、お金で解決すればいい! その為のネオアムウェイよ!」

キャサリンの声は、まるで悪魔の誘惑のように響く。

アカリは一瞬、キャサリンの言葉に心を動かされそうになる。

「…」

「一緒にのし上がりましょう。そうすれば私の借金無くなるし、アカリちゃんの夢を叶えられるわ!」

キャサリンが手を差し伸べる。

「私の…夢?」

アカリの声が小さく震え、彼女は自分の心を見つめる。『ミライアカリオルタネイティヴ』、萌実の歌手デビュー、ENTUMの仲間たち、リダの笑顔――それらが、彼女の真の夢だった。

キャサリンが続ける。

「そう! 叶えられない夢なんてない! サクセスストーリーがアカリちゃんを待っている! その為なら何だって利用してやるのよ!」

アカリの唇に、突然、笑みが浮かぶ。

「…ふふふ…ふふ。ふふふふふふふふふふふふ…」

キャサリンが目を輝かせ、笑う。

「そうよ…利用出来るモノは何でも利用しなきゃ―――ね?」

アカリの笑いが大きくなり、まるで何かが弾けたように響く。

「ふふふふふふふふ…ふふふふふふ…あははは…あはははははははははははははは」

キャサリンがアカリの笑いに合わせ、狂気じみた笑い声を上げる。

「あはははははははははは…あははははははははははははははははははははははは」

”キャシー! キャシー! キャシー! キャシー! キャシー! キャシー!”

二人の笑い声がホームに響き、まるで現実と狂気が交錯する瞬間だった。アカリの心は、キャサリンの誘惑とENTUMへの帰還の間で揺れ動き、彼女の選択が物語の新たな分岐点を切り開こうとしていた。彼女はキャサリンの手を握るのか、それともENTUMの仲間たちのもとへ走るのか――物語は、アカリの決断を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の世田谷区、アカリの部屋は、まるで嵐が過ぎ去った後の廃墟のように静かだった。散らかったスナック袋やぬいぐるみが、彼女の心の混乱を映し出す。スマホの通知アイコンは光り続け、ENTUMの仲間たちからのメッセージが溜まっているが、アカリはそれに目を向ける余裕もなかった。キャサリンとの激しい対峙、ネオアムウェイの狂気じみたプレゼン、そして彼女の誘惑に揺れた心――すべてが、彼女を未知の道へと押しやっていた。

ガチャ…

ドアが静かに開き、エイレーンが部屋に足を踏み入れる。

「アカリさん!……」

彼女の後ろから、ファルカが無表情で現れる。

「…まだいたんですか? いい加減帰ったらどうです?」

エイレーンは唇を噛み、黙ってアカリの部屋を見渡す。

「…」

ファルカがため息をつき、呆れたように言う。

「はあ……」

花野蜜がそっとエイレーンの横に立ち、穏やかな声で呟く。

「…」

その時、部屋の扉から、陽気だがどこか虚ろな歌声が響いてきた。

「チョイト一杯の つもりで飲んで

いつの間にやら ハシゴ酒

気がつきゃ ホームのベンチでゴロ寝

これじゃ身体(からだ)に いいわきゃないよ

分かっちゃいるけど やめられねぇ

ア ホレ スイスイ スーダララッタ

スラスラ スイスイスイ

スイーラ スーダララッタ

スラスラ スイスイスイ

スイスイ スーダララッタ

スラスラ スイスイスイ

スイスイ スーダララッタ

スーダララッタ スイスイ♪」

「アカリさん!?」

ファルカが目を丸くし、歌声の主を追う。

アカリがベッドの上で胡坐をかき、洗剤のボトルを手にニヤリと笑う。

「あ、ファルカさん。何やってるんですか?」

「それはこっちの台詞です。一体こんな時間まで何を…」

ファルカの声に、苛立ちと心配が混じる。

花野蜜がアカリの手元の洗剤ボトルに目をやり、首をかしげる。

「アカリちゃん、それ何?」

アカリが得意げにボトルを掲げ、目を輝かせる。

「ファルカさん達に素晴らしい商品を売り付けて仕入れて来たんですよ!」

「商品?」

花野蜜が眉をひそめ、不安げにアカリを見つめる。

「仕入れて来たって…そんなお金何処に?」

ファルカの声が鋭くなり、彼女はアカリに一歩近づく。

アカリが無邪気に笑い、言う。

「知り合いにローンを紹介して貰ったんですよ」

「ローン!?」

エイレーン、ファルカ、花野蜜が同時に声を上げ、目を丸くする。

アカリが手を振って笑う。

「なーに、心配要らないですよ。この洗剤売れれば全て返済出来る。アカリのサクセスストーリーは今、始まったんですよ! あははははははははははは」

ファルカが一瞬黙り込み、冷静に言う。

「ちょっと良いですか? アカリさん」

「え? 何?」

アカリがキョトンとしてファルカを見上げる。

「それってもしかして…典型的な悪質マルチ商法じゃ…」

ファルカの言葉は、まるでゲームのデバフ魔法のようにアカリの笑顔を凍りつかせた。

「え!?」

エイレーンが息を呑み、アカリを心配そうに見つめる。

「!」

花野蜜が手を口に当て、ショックを隠せない。

アカリは一瞬目を泳がせ、笑顔を保とうとする。

「馬鹿言わないでください! 私がそんなの引っ掛かる訳が……引っかかる訳が………うぇ!!!」

彼女の頭に、キャサリンの高笑いが響く。

 

「オーホッホッホオーホッホッホオーホッホッホオーホッホッホオーホッホッホ…」

 

 

アカリの笑顔が崩れ、彼女は洗剤ボトルを握りしめたまま固まる。

「……!」

エイレーンがそっとアカリに近づき、優しく言う。

「アカリさん…?」

花野蜜が心配そうに呟く。

「アカリちゃん?」

アカリはゆっくり顔を下げ、震える声で呟く。

「……引っ掛かってしまった」

部屋に重い沈黙が落ち、ファルカがため息をつく。

「…アカリさん、だから言ったじゃないですか。ネトゲーもマルチ商法も、幻想にハマるのは危険だって」

エイレーンがアカリの手を握り、涙目で言う。

「アカリさん、大丈夫! 私たち、ENTUMのみんなで助けるから!」

花野蜜が穏やかに頷き、言う。

「うん…アカリちゃん、ひとりで抱え込まなくていいよ。『ミライアカリオルタネイティヴ』の企画、みんなで進めよう?」

アカリは洗剤ボトルを床に置き、涙をこらえて微笑む。

「…うん、ごめん。みんな…アカリ、ちょっとバカやっちゃったみたい」

彼女のスマホが光り、萌実からのメッセージが表示される。

「アカリちゃん、企画のアイデア思いついたよ! 早く話したいな(´ω`)」

アカリの心に、ENTUMの仲間たちの温かさがじんわりと広がる。キャサリンの誘惑、ネオアムウェイの狂気、薬袋カルテのスーパーカー――すべてが、彼女に現実の厳しさと、信じるべき仲間たちの大切さを教えてくれた。

だが、遠く笠縫支部では、キャサリンとナズナが新たな「会員」を求めて動き始めていた。薬袋カルテの白衣が夜風に揺れ、彼女の瞳には、未だ夢を諦めない執念が宿っていた。アカリの覚醒は、彼女の新たなスタートを意味したが、物語はまだ終わらない――。

 

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