2018年8月某日
ミライアカリ自宅:アカリの部屋
アカリの部屋は、まるでネトゲーの失敗とマルチ商法の誘惑が交錯するカオスなフィールドのようだった。散らかったスナック袋やぬいぐるみが、彼女の混乱した心を映し出す。ベッドの上で、金髪サイドテールをしょんぼりと垂らしたアカリは、洗剤ボトル『殺戮の洗剤』を握りしめ、涙目でエイレーン、ファルカ、花野蜜を見つめていた。部屋の空気は重く、ENTUMの仲間たちの視線には心配と呆れが混じっていた。
ファルカが無表情で腕を組み、冷ややかな目線で見つめる。
「…」
エイレーンが唇を噛み、アカリを心配そうに見つめる。
「…」
花野蜜が静かに目を伏せ、呟く。
「…」
アカリが震える声で絞り出す。
「アカリが…マルチに…」
ファルカがため息をつき、鋭い視線をアカリに投げる。
「いきなり家から居なくなったと思ったら、悪質マルチ商法に引っ掛かって借金コザ得て帰ってくる。実に貴女らしいですよ、ミライアカリさん」
アカリは慌てて洗剤ボトルを掲げ、必死に反論する。
「こ、これ凄く良い洗剤なのよ!『殺戮の洗剤』! 天然素材100%だし、市販の製品と比べると泡が全然なくて、知ってますか? 汚れ落としには摩擦力と関係あるんですよ! そ、そうだ! 一度説明会見に来てくださいよ! きっと商品の素晴らしさを理解できて、自分の仲間になろうと思うから!」
ファルカの目がさらに冷たくなる。
「そうして仲間を増やせば、アカリさんに金が入りランク上がるって仕組みですよね?」
「――うぐ!」
アカリは言葉に詰まり、洗剤ボトルを胸に抱く。
ファルカが容赦なく畳み掛ける。
「まさにマルチ商法そのものじゃないですか!」
「う…うぅ…」
アカリの目から涙がポロポロと溢れ、彼女はベッドに崩れ落ちる。キャサリンの高笑い、薬袋カルテのスーパーカー、ネオアムウェイの熱狂が、彼女の頭をぐるぐる駆け巡る。
ファルカが一瞬黙り、静かにアカリを見つめる。
「…」
花野蜜がショックを受けたように呟く。
「マルチ商法…!」
スタタタ…バタム!
花野蜜が部屋を飛び出し、ドアが勢いよく閉まる。
ファルカが小さく首を振る。
「流石に蜜先生も呆れたようですね」
アカリは膝を抱え、涙をこらえて呟く。
「…」
エイレーンがそっとアカリの肩に手を置き、優しく言う。
「アカリさん…大丈夫。私たち、絶対に助けるから。ENTUMのみんなで、借金のことも、洗剤のことも、なんとかするよ」
アカリはエイレーンの手を握り返し、震える声で言う。
「…エイレーンさん、ごめん…アカリ、ほんとバカやっちゃった…」
ファルカがため息をつき、珍しく柔らかい声で言う。
「…まぁ、貴女が無事に戻ってきただけマシです。次はもっと賢くやりましょう。『ミライアカリオルタネイティヴ』の企画、貴女の情熱が必要なんですから」
アカリの瞳に、かすかな光が戻る。
「…うん、やってみる。アカリ、ENTUMのみんなと一緒に、絶対成功させる!」
スマホが光り、萌実からのメッセージが表示される。
「アカリちゃん、企画の歌のアイデア思いついた! 早く話したいな(´ω`)」
アカリは小さく微笑み、洗剤ボトルを床に置く。キャサリンの誘惑に惑わされた一瞬だったが、ENTUMの仲間たちの温かさが、彼女を現実の道へと引き戻していた。
しかし、遠く笠縫支部では、キャサリンと薬袋カルテが新たな計画を進めていた。ナズナの花騎士の微笑みが、どこか不穏な影を落とす。アカリの再起は始まったばかりだが、ネオアムウェイの影はまだ彼女を追いかけていた――。
世田谷の夜、街灯の光が静かに道を照らす中、花野蜜は息を切らしながらマイア書店のガラス扉を押し開いた。アカリの部屋での衝撃――マルチ商法に引っかかり、借金を背負ったアカリの姿――が、彼女の心に焼き付いていた。普段は穏やかで落ち着いた花野蜜の瞳には、仲間を救うための強い決意が宿り、彼女の足取りはいつもより力強かった。
「はぁ…はぁ…(何とかしないと!)」
花野蜜は額の汗を拭い、書店の棚を急ぎ足で進む。彼女の心には、アカリの涙と『殺戮の洗剤』を握りしめる姿がフラッシュバックする。エイレーンの優しい励ましやファルカの冷ややかな指摘も、彼女を突き動かす原動力だった。
書店の棚には、ビジネス書や自己啓発本がずらりと並ぶ。花野蜜は目を凝らし、指で棚をなぞる。
「(マルチ商法に関する本は…どこ…?)」
彼女の心は焦りと希望で揺れ、アカリを救うための手がかりを必死に探していた。
「あ! あった! これよ!」
花野蜜の目が輝き、彼女は一冊の本を手に取る。タイトルは『マルチ商法の罠:知っておくべき消費者保護の知識』。表紙には、派手なスーツを着た人物と「夢と借金の危険な誘惑」というキャッチフレーズが書かれている。
「これでアカリちゃんを救えるわ!(^^)d」
彼女は本を胸に抱き、レジへ急ぐ。店員がバーコードをスキャンする間、花野蜜の頭にはアカリの笑顔が浮かぶ。『ミライアカリオルタネイティヴ』の企画、萌実の歌手デビューの夢、ENTUMの仲間たちの絆――すべてが、アカリをこの危機から引き戻す力になると信じていた。
レジを済ませ、書店を出ると、花野蜜はスマホを取り出し、エイレーンにメッセージを送る。
「エイレーンさん、アカリちゃんを助ける本見つけたよ! 明日、みんなで話そう!」
彼女の指は力強く画面をタップし、夜風に揺れる髪が決意を象徴していた。
だが、遠く笠縫支部では、キャサリンと薬袋カルテが新たな「会員」を求めて暗躍を続けていた。ナズナの花騎士の微笑みが、どこか不穏な影を落とす。アカリの部屋では、彼女が『殺戮の洗剤』を握りしめ、キャサリンの高笑いを思い出しながら、ENTUMの仲間たちへの信頼と自分の愚かさの間で揺れていた。花野蜜の小さな行動が、アカリの運命をどう変えるのか――物語は、新たな希望の光とともに動き始めていた。
アカリの部屋は、エイレーンによる掃除で少しだけ整頓され、散らかったスナック袋やぬいぐるみが片付けられていた。だが、部屋の空気はまだ重く、アカリの金髪サイドテールはしょんぼりと垂れ下がっている。ベッドの上で、彼女は『殺戮の洗剤』のボトルを手にじっと床を見つめ、キャサリンの高笑いとネオアムウェイの熱狂が頭をよぎる。ファルカは部屋の隅に立ち、無表情でアカリを見守っていた。
「…」
アカリは黙り込み、洗剤ボトルを握りしめる。
「…」
ファルカも無言で、彼女の次の行動を待つ。
「食事でも取ったらどうです?」
ファルカが唐突に切り出し、テーブルの上の皿を指す。
「え?」
アカリがハッと顔を上げる。
「蜜先生が作ったんですよ」
ファルカが淡々と、オムライスの皿を指す。ケチャップで「アカリがんばれ!」と書かれたオムライスが、温かく湯気を立てていた。
「…(オムライス…)」
アカリの瞳が揺れ、彼女はそっとスプーンを手に取る。
「部屋はエイレーンさんが掃除して片付けたんですよ」
ファルカの声に、ほんの少しの優しさが混じる。
アカリの目から涙がポロリとこぼれ、彼女は震える声で呟く。
「……ごめんね…本当にごめんね…」
ファルカが小さく首を振る。
「私に言ってもしょうがないですよね?」
「…」
アカリは黙り込み、スプーンを口に運ぶ。
(´~`)モグモグ
「うぅ…蜜先生…」
オムライスの優しい味が、彼女の心を温かく包む。花野蜜の気遣いとエイレーンの努力が、アカリの胸にじんわりと響いた。
ファルカが冷静に続ける。
「今日はもう遅いですから、返しに行くのは明日ですね」
「え?」
アカリがスプーンを止め、キョトンとする。
「何です?」
ファルカが眉をひそめる。
「え、いや…返しに行くのはちょっと…」
アカリが目を泳がせ、洗剤ボトルをチラリと見る。
「は?」
ファルカの声が低くなる。
アカリが慌てて弁解する。
「だって、一度買ったモノを返すのは恥ずかしいし、相手にも迷惑掛かるし…それにさ、誰か買ってくれるかもしれないし…アイリスディーナさんやブレーメ名誉会長も買ってくれるかも…」
ファルカの目が一気に冷たくなる。
「…ベルンハルト大尉と同志少佐が買う訳ないですよ。貴女、自分が変態バーチャル芸人って自覚してますか? その変態バーチャル芸人が外に出て商売出来る訳ないです」
「はぁ…」
アカリは肩を落とし、深いため息をつく。
「悪い事は言いませんから、明日ちゃんと返しに行きましょう」
ファルカがきっぱりと言う。
「でもさ…」
アカリがまだ食い下がる。
「まだ何か?」
ファルカが苛立ちを隠さず、彼女を睨む。
アカリが小さな声で続ける。
「変態バーチャル芸人だからこそ、頻繁に下ネタやらされてますよね…」
「!…確かに」
ファルカが一瞬言葉に詰まり、頷く。アカリの動画の過激な内容が、彼女のイメージを形作っているのは事実だった。
ガチャッ…
突然、ドアが勢いよく開き、花野蜜が息を切らして飛び込んでくる。
「だ、大丈夫!」
「え?」
ファルカとアカリが同時に振り返る。
花野蜜が誇らしげに一冊のマンガを掲げる。
「アカリちゃんには私が付いてるから、マルチなんて怖くないわよ!」
マンガのタイトルは『マンガで分かるマルチ商法対処法マニュアル』。表紙には、派手なスーツの人物が洗剤を手に笑うイラストと、「カモにならないための必勝法!」という文字が躍っていた。
「…」
アカリはマンガを見つめ、言葉を失う。
「…」
ファルカも無言で、微妙な表情を浮かべる。
花野蜜がニコニコと笑う。
「♪」
エイレーンが部屋の隅から顔を出し、ファルカとアカリが同時に呟く。
「す…凄く不安です…」
花野蜜がキョトンとして首をかしげる。
「?」
アカリはマンガを手に取り、ページをパラパラめくる。キャサリンの高笑い、薬袋カルテのスーパーカー、ネオアムウェイの熱狂が頭をよぎるが、仲間たちの温かさが彼女の心を支える。
「…蜜先生、ありがとう。やってみるよ。マルチ商法、ちゃんと終わらせて、ENTUMの企画に全力でいく!」
スマホが光り、萌実からのメッセージが表示される。
「アカリちゃん、ゲームのキャラデザ考えてみたよ! 早く見せて話したい!(´ω`)」
アカリの唇に、かすかな笑みが浮かぶ。彼女は洗剤ボトルを床に置き、仲間たちと向き合う。だが、遠く笠縫支部では、キャサリンとナズナが新たな動きを見せていた。アカリの再起は始まったが、物語はまだ波乱を予感させていた――。
翌日
キャサリン・ワード所有屋敷
朝の陽光が、キャサリン・ワードの豪華な屋敷に差し込む。監獄の「女王」のような威厳と、狂気的な魅力が混在するデザインの看守服ではなくカジュアルなスウェットを着たキャサリンは、ソファに寝そべりながら、ネオアムウェイの書類を手にぼんやりと眺めていた。彼女の瞳には、昨夜のアカリとの激しい対峙と、自身の借金の重圧が影を落としている。テーブルの上には、『殺戮の洗剤』のサンプルが無造作に置かれ、彼女の複雑な心境を象徴していた。
プルルルルル プルルルルル
スマホの着信音が響き、キャサリンはハッと顔を上げる。
「誰かしら?」
ガチャッ
「ハーイ、もしもしキャシーよ♪ …どうしたの? …話? うん、今日? 大丈夫よ」
彼女の声はいつもの陽気さを取り戻しつつも、どこか疲れた響きを帯びていた。電話の相手の声を聞きながら、彼女の唇に微かな笑みが浮かぶ。
「…分かったわ。じゃあ、いつもの喫茶店でね」
キャサリンはスマホを置き、立ち上がる。彼女の頭には、アカリの怒り狂った顔と、ネオアムウェイの「夢」が交錯する。
「…アカリちゃん、まだ諦めてないのね。ふふ、面白いわ」
彼女は鏡の前で髪を整え、赤いリップを引く。だが、その瞳には、借金の重さと過去の傷がちらつく。キャサリンの次の行動が、物語に新たな波を起こそうとしていた。
同じ朝、アカリの部屋は、昨夜の重い空気から一転、仲間たちの温かさで少しだけ明るさを取り戻していた。エイレーンが片付けた部屋には、花野蜜のオムライスの残り香が漂い、テーブルの上には『マンガで分かるマルチ商法対処法マニュアル』が置かれている。アカリはベッドに座り、スマホを耳に当て、緊張と決意の入り混じった声で話していた。
「うん…うん…じゃ、その店で待ち合わせで」
アカリは通話を終え、ピッとスマホを切る。彼女の金髪サイドテールが、朝の光に弾むように揺れる。
ファルカと花野蜜が、部屋の隅でアカリを見つめ、ニヤニヤしながら頷き合う。
「(・ω・)(-ω-)(・ω・)(-ω-)ウンウン♪」
アカリがハッとして二人を振り返る。
「な、なに!? なんでそんな目で見てるの!?」
花野蜜がマンガマニュアルを手に、目を輝かせる。
「アカリちゃん、キャサリンさんにちゃんと話すんだよね? マルチ商法の洗剤、返品するって! 私が付いてるから大丈夫!」
ファルカが腕を組み、冷静に言う。
「貴女が自分でキャサリンに連絡を取ったのは評価します。ですが、油断しないでください。彼女、かなり口が上手いですから」
アカリは洗剤ボトルをチラリと見やり、唇を噛む。
「…うん、分かってる。キャシーさんの話、確かに心揺さぶられたけど…アカリ、ENTUMのみんなと『ミライアカリオルタネイティヴ』を作る方が、ずっと大事だって気づいたから」
花野蜜がアカリの手を握り、笑顔で言う。
「そう! アカリちゃんの情熱、絶対ゲームに活かせるよ! 萌実ちゃんの歌も、きっと最高のものになる!」
アカリのスマホが光り、萌実からのメッセージが表示される。
「アカリちゃん、ゲームの主題歌の歌詞、ちょっと書いてみた! 早く見せて話したいな(´ω`)」
アカリの唇に、かすかな笑みが浮かぶ。
「…うん、絶対成功させるよ。みんなと一緒に!」
ファルカが小さく頷き、言う。
「なら、今日のキャサリンとの話、きっちり決着つけてきてください。借金のことも、ちゃんと相談するんですよ」
アカリは深呼吸し、立ち上がる。
「うん! アカリ、変態バーチャル芸人かもしれないけど、今回はちゃんとやるよ!」
部屋に笑い声が響き、ENTUMの絆がアカリの背中を押す。だが、キャサリンが待つ喫茶店では、彼女の過去とネオアムウェイの影が、アカリを新たな試練へと誘おうとしていた。物語は、アカリとキャサリンの再会を軸に、さらなる展開へと動き始めていた――。
数時間後
秋葉原駅の喧騒が、女子トイレの静かな空間にまで響いていた。蛍光灯の白い光の下、アカリは洗面台の前に立ち、金髪サイドテールを指でいじりながら、鏡の中の自分を見つめる。彼女の手には、花野蜜の『マンガで分かるマルチ商法対処法マニュアル』と、ネオアムウェイの『殺戮の洗剤』のサンプルが握られていた。キャサリンとの喫茶店での対峙を控え、彼女の心は決意と不安で揺れ動いていた。ファルカは壁に寄りかかり、腕を組んでアカリを冷ややかに見つめ、花野蜜は少し離れた場所で心配そうに二人を見守っている。
アカリが小さな声で呟く。
「あの…」
「ん?」
ファルカが眉を上げ、彼女に視線を移す。
「やっぱり、返さないとマズいんですよね?」
アカリの声は震え、洗剤ボトルをぎゅっと握る。
ファルカがため息をつき、鋭く切り返す。
「…他にどんな選択肢あるんですか?」
「それは…」
アカリは目を泳がせ、言葉に詰まる。キャサリンの高笑いと「サクセスストーリー」の誘惑が、頭をよぎる。
ファルカが一歩踏み出し、声を低くする。
「まさか、誰かが都合良く引き取ってくれると思ってるんじゃないんですよね?」
「そんな事は…」
アカリは慌てて否定するが、声が弱まる。
ファルカの目がさらに冷たくなる。
「それとも、時間が経てば商品も借金も煙のように消えてなくなると思ってるんですか!?」
「…」
アカリは唇を噛み、洗剤ボトルを胸に抱く。彼女の瞳に、ネオアムウェイの熱狂とENTUMの仲間たちの顔が交錯する。
ファルカが声を張り、畳み掛ける。
「逆ですよ! 今辞めなければ、会員としてのノルマが増えていく! それに伴って借金も加速的に増えていくんですよ!! 分かってるんですか!? アカリさん!!」
「分かってるよ!」
アカリが叫び返し、涙目でファルカを睨む。彼女の声は、トイレのタイルに反響する。
「!」
花野蜜がハッとして二人を見やる。彼女の手にはマンガマニュアルが握られ、アカリを救いたいという思いが溢れている。
ファルカが一瞬黙り、冷静に言う。
「あ、何でもありません。いつもの事です」
花野蜜がアカリに近づき、優しく言う。
「アカリちゃん…ん?」
バタン!
突然、トイレのドアが開き、スーツ姿のサラリーマンが慌てて入ってくる。
「あ! しまった! ここ女子トイレか!」
花野蜜の顔が一瞬で真っ赤になり、彼女は両手で顔を覆って絶叫する。
「嫌あああああああああああああああああああああ!」
アカリとファルカが同時に目を丸くし、サラリーマンは慌ててドアを閉めて逃げ出す。トイレに響く花野蜜の叫び声が、緊張感を一瞬でコミカルな混乱に変えた。
アカリがポカンと口を開け、呟く。
「…蜜先生、すごい声…」
ファルカがため息をつき、言う。
「…貴女も大概ですが、蜜先生も負けてませんね。とにかく、キャサリンとの話、しっかり決着つけてください」
花野蜜が顔を真っ赤にしたまま、マンガマニュアルを掲げる。
「う、うぅ…アカリちゃん、私も一緒に行くから! マルチ商法、絶対終わらせよう!」
アカリは二人の顔を見て、洗剤ボトルを握る手に力を込める。
「…うん、ありがとう。キャシーさんにちゃんと話して、洗剤も借金も全部清算する! そしたら、ENTUMのみんなと『ミライアカリオルタネイティヴ』に全力でいくよ!」
スマホが光り、萌実からのメッセージが表示される。
「アカリちゃん、喫茶店で待ってるよ! キャサリンさんとの話、応援してる!(´ω`)」
アカリの唇に、決意の笑みが浮かぶ。彼女はマンガマニュアルをバッグにしまい、ファルカと花野蜜とともにトイレを出る。秋葉原の喧騒の中、キャサリンとの対峙が待つ喫茶店へと向かうアカリの背中には、ENTUMの絆がしっかりと宿っていた。
だが、キャサリンの屋敷では、彼女が新たな計画を胸に秘め、喫茶店での再会を準備していた。ナズナの微笑みと薬袋カルテの影が、物語に不穏な波を予感させる。アカリの決断が、彼女の未来をどう切り開くのか――物語は、緊迫した展開へと突き進んでいた。
数分後
秋葉原の喧騒から一歩離れた喫茶『モザイク』は、レトロな雰囲気の照明とコーヒーの香りが漂う静かな空間だった。窓際の席で、キャサリン・ワードは看守服をまとい、優雅にコーヒーをすすっていた。彼女の瞳には、ネオアムウェイの熱狂と自身の借金の重さがちらつくが、表面上はいつもの陽気な笑顔を保っている。
カランコロンカランコロンカランコロン…
入口の鈴が鳴り、キャサリンが顔を上げる。
アカリが花野蜜の『マンガで分かるマルチ商法対処法マニュアル』を手に、ファルカと花野蜜を従えて入ってくる。彼女の金髪サイドテールは決意に揺れ、だが、キャサリンの笑顔を見ると一瞬たじろぐ。
「あ」
ファルカがアカリの背中を軽く押し、冷静に言う。
「あの人ですか?」
「うん…」
アカリが小さく頷き、キャサリンの席へ向かう。
キャサリンがニヤリと笑い、軽快に言う。
「凄いわねぇ…もう2人もリクルートして来たの?」
「いや、そうじゃなくて…」
アカリが慌てて否定し、マンガマニュアルを握りしめる。
花野蜜が勢いよく前に出て、声を張る。
「クリーニングオフに来たんです!」
「クーリングオフです」
ファルカが冷静に訂正し、花野蜜をチラリと見る。
「…(恥ずかしい…)」
花野蜜が顔を赤らめ、両手で顔を覆う。
アカリとファルカが同時にため息をつき、キャサリンがクスクス笑う。
「…分かったわ。あとで解約手続きの書類、郵送するわ」
「え?」
アカリが目を丸くし、拍子抜けする。
「何?」
キャサリンが首をかしげ、微笑む。
ファルカが眉をひそめ、疑いの目を向ける。
「こういうのってもう少しごねられるかと…」
キャサリンが肩をすくめ、堂々と答える。
「私達は理念に基づいて活動してるのよ。VTuberとしての役割も含めて。そんな悪徳業者な真似する訳ないでしょ?」
「はぁ…」
ファルカが半信半疑で呟く。
キャサリンがアカリに視線を移し、柔らかく言う。
「でも、残念ね…アカリちゃんなら絶対成功すると思ったんだけど」
「!」
アカリの心が一瞬揺れ、彼女は唇を噛む。
キャサリンが畳み掛ける。
「やっぱ変態バーチャル芸人にはちょっと厳しかったか…」
「…う…うぅ…」
アカリの目が潤み、彼女はマンガマニュアルをぎゅっと抱く。
キャサリンが急に声を和らげ、気遣うように言う。
「アカリちゃん、ちゃんとご飯食べてる?」
「え…? ちゃんとって訳じゃないけど…」
アカリがキョトンとして答える。
「インスタント中心?」
キャサリンが探るように聞く。
「まぁ…一人暮らしのVTuberだし」
アカリが苦笑いする。
キャサリンが大げさにため息をつく。
「はぁ……やっぱり」
「え? やっぱりって…」
花野蜜が首をかしげ、キャサリンを注視する。
キャサリンがバッグから科学雑誌を取り出し、ページを開く。
「うん、最近発売された科学雑誌に、引き籠りとVTuberに関する事がここに掲載されたの…ほら、ここよ」
アカリ、ファルカ、花野蜜が雑誌を覗き込み、驚きの声を上げる。
「…!」
キャサリンが指差す記事には、「引き籠りの原因は食生活にあり」と書かれている。彼女が得意げに続ける
「ね? 書いてあるでしょ? インスタントばかりだと脳内物質が壊して、ネガティヴな考え方になるのよ。そして引き付く先は引き籠りって訳…貴女もインスタントが多そうね」
「あ…はい」
ファルカが少し気まずそうに頷く。
キャサリンがファルカに畳み掛ける。
「偶に家で籠りたくなるでしょ? それに対人関係上手くいってないよね?」
「そんな事は…」
ファルカが否定しようとするが、言葉に詰まる。
「特に職場の同僚とか」
キャサリンがニヤリと笑う。
「た、確かに…!」
ファルカが思わず認め、目を丸くする。
キャサリンがさらに続ける。
「それも脳内物質の不足が原因よ」
「そうだったんですね! リィズ先輩と上手くいかなかったのは脳内物質の不足が原因と」
ファルカが納得したように頷く。
キャサリンが花野蜜に視線を移す。
「貴女は…アカリちゃんの」
「はい、バーチャル家庭教師系VTuberの花野蜜です!」
花野蜜が元気よく答える。
「蜜さんね。よく聞いてね」
キャサリンが真剣な口調で続ける。
「脳内物質の不足を解消する最善の方法は、栄養をバランスよく摂る事よ。野菜は全て無農薬にしなさい。肉なんか餌で化学肥料使われていないかキチンと調べた方がいいわよ」
花野蜜が真剣に耳を傾ける。
「…」
キャサリンがさらに畳み掛ける。
「調味料もきちんと吟味する事! 思わぬところで化学物質使われたりしてるから。それと調理の時、ガスを使うのも好ましくないの。一番いいのは炭ね…備長炭とか」
「あ…」
アカリが感心したように呟く。
「へぇ…」
ファルカが興味深そうに頷く。
「ふ~ん(メモして置こう)」
花野蜜がスマホにメモを取り始める。
キャサリンがふっと笑い、言う。
「ふふふ…でもね。この方法は大きな欠点があるのよ」
「どんな欠点ですか?」
ファルカが身を乗り出す。
「手間とお金が掛かり過ぎるの」
キャサリンが劇的に言う。
「あ!」
アカリ、ファルカ、花野蜜が同時に声を上げる。
キャサリンが意味深な笑みを浮かべ、続ける。
「本当はもっといい方法あるんだけどな…」
「え!!??」
アカリ、ファルカ、花野蜜が一斉に目を輝かせる。
「方法って?」
アカリが前のめりに聞く。
「何ですか?」
ファルカが食い気味に尋ねる。
「教えてください!」
花野蜜が手を握りしめる。
キャサリンがわざとらしく驚いたふりをする。
「あらら、聞こえちゃった?」
「(・ω・)(-ω-)(・ω・)(-ω-)ウンウン♪」
アカリ、ファルカ、花野蜜が一斉に頷く。
キャサリンが困ったように笑う。
「ありゃりゃ…マズったねー…本当は会員以外教えちゃいけない規則なんだけど」
「そこを何とかお願いします!」
ファルカが必死に頼む。
「頼むよ! キャシーさん!」
アカリが目をキラキラさせる。
「お願いします!」
花野蜜が頭を下げる。
「この通り!」
三人揃ってテーブルに頭を下げ、懇願する。
キャサリンがクスクス笑い、言う。
「…仕方ないわね。じゃ、特別よ」
彼女はバッグから小さなパンフレットを取り出し、テーブルの上に広げる。そこには「ネオアムウェイ:健康と成功の秘密」と書かれ、色とりどりのサプリメントや食品が並んでいる。アカリの心に、キャサリンの高笑いとマルチ商法の熱狂がフラッシュバックし、彼女の笑顔が一瞬凍りつく。ファルカと花野蜜もパンフレットを見つめ、微妙な空気が流れる。キャサリンの巧妙な誘いが、再びアカリたちを試そうとしていた――。
秋葉原駅から世田谷へ向かう電車の車内は、夕暮れのオレンジ色の光に染まっていた。ガタンゴトンというリズミカルな音が、アカリ、ファルカ、花野蜜の静かな会話を包み込む。アカリは窓際に座り、ネオアムウェイのサプリメントのパンフレットを手に、複雑な表情で眺めていた。彼女の金髪サイドテールは、キャサリンとの喫茶店での対峙の余韻に揺れている。ファルカは隣に座り、腕を組んで遠くを見つめ、花野蜜は対面の席で『マンガで分かるマルチ商法対処法マニュアル』を握りしめていた。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
ファルカが静かに口を開く。
「やりましたね、アカリさん」
アカリがパンフレットから目を上げ、小さく頷く。
「うん」
花野蜜が目をキラキラさせ、笑顔で言う。
「これで変態バーチャル芸人脱却出来るわ!」
「うん…」
アカリの声はどこか曖昧で、彼女はパンフレットをそっとバッグにしまう。
「(まさかこの世の中にこんな素晴らしい商品があったなんて…)」
ファルカが鋭い視線をアカリに投げる。
「…何です、その顔? まさか、まだキャサリンの話を信じてるんじゃないでしょうね?」
「え!? そ、そんなことないよ!」
アカリが慌てて手を振るが、彼女の目が泳ぐ。
花野蜜がマンガマニュアルを掲げ、勢いよく言う。
「アカリちゃん、だまされちゃダメ! キャサリンさんの話、めっちゃ上手だったけど、あれ、マルチ商法の典型的な手口だから! ほら、このマンガの第3章、『健康トークで誘う罠』に書いてあるよ!」
アカリが気まずそうに笑う。
「う、うん、分かってるよ、蜜先生…でもさ、キャシーさんの言ってた食生活の話、ちょっと本当っぽかったよね? インスタントばっか食べてると、脳内物質がどうとか…」
ファルカがため息をつき、冷ややかに言う。
「論文の引用が本物でも、結論をサプリメントの販売に繋げるのはマルチ商法の常套手段です。貴女、変態バーチャル芸人として下ネタで笑いを取る方がまだマシですよ」
「はぁ…」
アカリが肩を落とし、窓の外に目をやる。電車の窓に映る自分の顔が、キャサリンの笑顔と重なる。
花野蜜がアカリの手を握り、優しく言う。
「アカリちゃん、キャサリンさんの話、全部忘れよう? ENTUMのみんなで『ミライアカリオルタネイティヴ』作る方が、絶対楽しいよ! 萌実ちゃんの歌、私も楽しみにしてるんだから!」
アカリの唇に、かすかな笑みが浮かぶ。
「…うん、ありがとう、蜜先生。ファルカさんも。やっぱりアカリ、ゲーム作りに全力でいくよ!」
スマホが光り、萌実からのメッセージが表示される。
「アカリちゃん、喫茶店どうだった? ゲームのストーリー、もっと話したいな!(´ω`)」
アカリはメッセージを見つめ、決意を新たにする。
「よし、洗剤も借金も全部清算して、ENTUMでサクセスストーリー作る!」
だが、彼女のバッグの中では、ネオアムウェイのパンフレットが静かに存在感を放っていた。キャサリンの言葉――「本当はもっといい方法あるんだけどな…」――が、彼女の心の片隅に小さな影を落とす。遠く笠縫支部では、キャサリンとナズナが新たな計画を進め、薬袋カルテの白衣が不穏に揺れている。アカリのマルチ商法からの脱却は始まったばかりだが、誘惑の余韻はまだ彼女を試そうとしていた――。
数分前
喫茶『モザイク』の窓際の席は、キャサリン・ワードの巧妙な話術で熱を帯びていた。テーブルの上には、ネオアムウェイのサプリメントのパンフレットが広げられ、色とりどりの錠剤や健康食品の写真がアカリ、ファルカ、花野蜜の目を引く。キャサリンの赤いドレスが照明に映え、彼女の声はまるで魔法のように三人を魅了していた。
キャサリンがパンフレットを指差し、熱弁を振るう。
「ネオアムウェイオリジナルのサプリメントよ。当然、天然素材100%! 製造過程では有害な化学物質が混入しないよう細心の注意を払われているわ。毎日決められた量を摂取することで、脳が活性化してポジティブに考えるようになる…結果、引き籠りから脱出できるし、変態バーチャル芸人という不名誉な仇名から脱却できるわー!」
「ほ…本当ですか!?」
アカリの目がキラキラと輝き、彼女はパンフレットを食い入るように見つめる。
キャサリンがわざとらしく肩をすくめる。
「でも残念ね。これ、会員以外には販売しちゃいけないことになってるの。アカリちゃん、クーリングオフして会員辞める訳だし…」
「いや、それは…」
アカリが慌てて言葉を濁し、マンガマニュアルを握る手が緩む。
花野蜜が身を乗り出し、好奇心から聞く。
「セットってどれくらいするんですか?」
キャサリンがスマホを取り出し、電卓アプリを操作する。
「えっと…」
ピッ ピッ ピッ
「このくらい」
キャサリンが画面を三人に見せる。
「た、高い!(12万…!???)」
ファルカが目を剥き、思わず声を上げる。
キャサリンがニヤリと笑い、続ける。
「もし会員を続けていくなら、20%オフにしてあげてもいいんだけどなぁ…」
「20%オフ!?(゜-゜)…」
アカリの心が揺れ、彼女はパンフレットをじっと見つめる。
ファルカが突然立ち上がり、衝撃的な宣言をする。
「アカリさんが買わないなら、私が買います!」
「!!?」
アカリが目を丸くし、ファルカを二度見する。
「会員になればいいんですよね?」
ファルカがキャサリンに食い下がる。
「ちょっと待ってよ!」
アカリが慌ててファルカの腕を掴む。
「?」
ファルカがキョトンとしてアカリを見る。
アカリが声を張る。
「まだクーリングオフしてないし、買わないと言ってないよ! 私が一人で使うには数が多過ぎるし…」
キャサリンがすかさず笑顔で提案する。
「余った分は知り合いに売ればいいわ♪ もちろん、その人も会員になって貰うのが条件だけどね」
「そうか…」
アカリが納得したように頷く。
ファルカが目を輝かせ、言う。
「じゃあ…私はアカリさんから買います!」
「わ、私も!」
花野蜜が勢いで手を挙げ、マンガマニュアルを握りしめる。
キャサリンが手を叩き、興奮気味に続ける。
「会員を増やすことが成功したら、アカリちゃんにも手数料が入るわ。上手くいけば、引き籠り脱出や変態バーチャル芸人脱却だけじゃなく、大きな収入を手に入れることができるのよ♪ そう…これはまさにVTuberドリームよ!」
アカリの胸が高鳴り、彼女は拳を握りしめて叫ぶ。
「クゥー! 分かったよ! キャシーさん。こいつでビッグなドリームを掴んでやるよ!!」
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
電車の車内は、キャサリンとの熱狂的な対話の余韻に包まれていた。アカリは窓際に座り、ネオアムウェイのサプリメントのパンフレットを手に、夢見るような笑みを浮かべる。
「はぁ…」
ファルカも隣で頬を緩め、呟く。
「夢…掴めるといいですね…これでリィズ先輩と…一緒に傍いられる」
「うん!」
アカリが弾んだ声で返す。
バサ…
花野蜜がマンガマニュアルを開き、ページをめくる。アカリがそれに気づき、聞く。
「蜜先生、それって」
「うん、マルチ商法は解約時にトラブル多いってケースがあるから、念のために持ってきたのよ」
花野蜜が真剣な顔で答える。
ファルカが興味津々に覗き込む。
「へー…どんな事が書いてあるんです?」
花野蜜がページを指差し、読み上げる。
「えっと、クリーニン…いえ、クーリングオフの際の注意。クーリングオフを申し入れると、相手が最初、素直に受け入れる事が多いです」
「ふむふむ」
アカリとファルカが頷き、耳を傾ける。
花野蜜が続ける。
「ですがその後、言葉巧みに別の商品を勧められ、結果としてクーリングオフどころか新たな商品を買わされる場合があります。くれぐれも注意してください」
ファルカがハッとして呟く。
「クーリングオフって、あべこべに別の商品買わされるなんて」
アカリが笑いながら言う。
「世の中にも間抜けな奴いたんですねー」
「あはははははははは…」
アカリとファルカが同時に笑い声を上げる。
ざわ…
電車内の乗客の視線が三人に向けられ、ざわめきが広がる。
ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…
アカリとファルカが同時に凍りつき、顔を見合わせる。
「!!!!…私達だ!」
アカリの手に握られたパンフレットが、急に重く感じられる。キャサリンの「VTuberドリーム」の言葉が、マンガマニュアルの警告と交錯し、彼女の心に冷や汗が流れる。花野蜜がマンガを握りしめ、慌てて言う。
「ア、アカリちゃん! ファルカさん! 騙されたの、気づいたよね!?」
ファルカが額を押さえ、呟く。
「…私が…リィズ先輩との関係を夢見て、サプリメントに…なんて愚かだった…」
アカリがパンフレットをバッグに押し込み、叫ぶ。
「う、ううっ! アカリ、こんなのにまた引っかかるなんて! キャシーさん、なんて恐ろしい人…!」
花野蜜が二人を励ますように言う。
「大丈夫! まだ買ってないんだから! 今すぐキャサリンさんに連絡して、クーリングオフをちゃんと進めよう!」
アカリがスマホを取り出し、震える指でキャサリンの番号をタップする。
「…うん、絶対終わらせる! ENTUMのみんなと『ミライアカリオルタネイティヴ』を作る方が、アカリのドリームだよ!」
スマホが光り、萌実からのメッセージが表示される。
「アカリちゃん、ゲームのキャラ、めっちゃいい感じになってきた! 早く話したい!(´ω`)」
アカリの唇に、決意の笑みが戻る。だが、遠く笠縫支部では、キャサリンが新たな「会員」を求めて微笑み、ナズナと薬袋カルテの影が不穏に揺れていた。アカリたちの気づきは、マルチ商法からの脱却への第一歩だったが、物語はまだ試練を用意していた――。
世田谷の夜、アカリの部屋は、電車での気づきの衝撃を引きずりつつ、ENTUMの仲間たちの温かさで再び希望の光を取り戻していた。散らかったスナック袋はエイレーンによって片付けられ、テーブルの上には花野蜜の『マンガで分かるマルチ商法対処法マニュアル』と、ネオアムウェイのサプリメントのパンフレットが対照的に置かれている。アカリはベッドに座り、金髪サイドテールを握りしめ、キャサリンの巧妙な誘惑に再び引っかかった自分を悔やんでいた。ファルカは部屋の隅に立ち、腕を組んで冷静に状況を見守り、花野蜜はソファに座ってマンガマニュアルを手にしている。
アカリが深呼吸し、決意を込めて言う。
「もう一回クーリングオフするしかないですね」
ファルカが眉を上げ、冷静に答える。
「とはいえ、正面から攻めたんじゃ、また今回みたいなことになりかねませんよ」
アカリが拳を握り、勢いよく言う。
「分かってるよ! 要するに、相手のペースに嵌らず、自分のペースで話せばいいんですよね?」
ファルカが首をかしげ、疑問を投げる。
「でも、どうやって?」
花野蜜が少し遠慮がちに手を挙げ、マンガマニュアルを差し出す。
「あの…これに色々書いてあるけど、参考にしてみたら?」
アカリとファルカが同時に花野蜜に視線を向け、マンガマニュアルを覗き込む。アカリがページをめくり、目を輝かせる。
「おお! 第5章、『マルチ商法のペースを崩す交渉術』! ほら、ここ! 『相手のトークに流されず、事前に準備したポイントを繰り返す』って書いてある!」
ファルカが興味深そうに頷く。
「具体的には?」
アカリがマンガの吹き出しを読み上げる。
「『クーリングオフの意思を明確に伝え、商品の話に逸らされそうになったら、冷静に話題を戻す』…なるほど! キャシーさんがサプリとか健康の話で誘ってきても、『クーリングオフをお願いします』って何度も言うんだ!」
花野蜜が笑顔で補足する。
「うん! それに、マンガの主人公が使ってたテクニックで、『書面で手続きを進めてください』って言うと、相手もごまかしにくくなるんだって!」
ファルカが小さく微笑み、言う。
「…蜜先生のマンガ、意外と使えるじゃないですか。で、アカリさん、具体的にはどうします?」
アカリが立ち上がり、拳を振り上げる。
「よし! まず、キャシーさんに電話して、クーリングオフの意思をハッキリ伝える! もしまた別の商品勧められても、『洗剤とサプリのクーリングオフをお願いします、書面で送ってください』って繰り返す! 絶対ペース崩さない!」
ファルカが頷き、珍しく激励する。
「いいですね。その意気なら、キャサリンの口車にも乗らないはずです。貴女、変態バーチャル芸人でも、こういう時は頼りになりますよ」
「え、ほんと!? 」
アカリが照れ笑いし、ポニーテールが弾む。
花野蜜が手を叩き、元気よく言う。
「アカリちゃん、ファルカさん、私もサポートするよ! 電話の時、横でマンガ読んで、怪しい話になったらすぐ合図する!」
アカリがスマホを取り出し、キャサリンの番号をタップする準備をする。
「うん、ありがとう、みんな! アカリ、今回は絶対マルチ商法終わらせて、ENTUMで『ミライアカリオルタネイティヴ』に全力でいくよ!」
スマホが光り、萌実からのメッセージが表示される。
「アカリちゃん、ゲームのキャラデザ、めっちゃ進んだ! クーリングオフ、応援してるよ!(´ω`)」
アカリの心に、ENTUMの仲間たちの絆が温かく響く。彼女はマンガマニュアルを手に、キャサリンとの再戦に備える。だが、遠く笠縫支部では、キャサリンが新たな策略を巡らし、ナズナと薬袋カルテの影が不穏に動いていた。アカリの決意は試され、物語は新たなクライマックスへと突き進んでいた――。
翌日
渋谷109の入口は、若者たちの笑い声と流行の音楽で賑わっていた。色とりどりの看板とキラキラしたディスプレイの間で、ナズナ(花騎士)が花柄のドレスを翻し、マイクを手に元気よく呼びかけていた。彼女の微笑みは、まるでゲームのNPCのように親しみやすく、道行く人々を引きつけている。
「アンケートにご協力お願いしまーす!」
ナズナの声が響き、彼女の手にはタブレットが握られている。
《願いが今、覚醒めてく 譲れない未来のために♪》
スマホの着信音が鳴り、ナズナが画面を確認する。
「はい、ナズナです…アカリちゃん、珍しいわね♪ え? キャシーさんの家の住所? 知ってるけど…」
彼女の声は明るいが、どこかミステリアスな響きを帯びている。ナズナの「記憶喪失」の背景や、ネオアムウェイとの関わりが一瞬頭をよぎるが、彼女は迷わず住所を伝える。
「うん、笠縫駅の近くのあの豪華な屋敷だよ。…うん、気をつけてね、アカリちゃん♪」
ピッ
アカリの部屋は、クーリングオフ再挑戦の決意で熱を帯びていた。テーブルの上には、花野蜜の『マンガで分かるマルチ商法対処法マニュアル』と、キャサリンのサプリメントのパンフレットが並び、ENTUMの仲間たちの絆が部屋を温かく包む。アカリはスマホを手に、ナズナとの通話を終え、金髪サイドテールを勢いよく振る。
「うん…うん…うん、ありがとうね、ナズナちゃん」
アカリが通話を切り、ピッとスマホを置く。
ファルカが腕を組み、鋭い視線で聞く。
「誰です?」
アカリがニヤリと笑い、答える。
「同じVTuberのナズナちゃん。クーリングオフの件について聞いたら、あっさりキャシーさんの家の住所教えてくれたよ!」
ファルカの目が光り、彼女は拳を握る。
「あとは本丸に乗り込むだけです!」
「…!!」
アカリの心臓がドクンと跳ね、彼女は一瞬たじろぐ。キャサリンの高笑い、喫茶『モザイク』での巧妙な誘惑、ネオアムウェイの熱狂がフラッシュバックする。だが、マンガマニュアルを握る手と、ENTUMの仲間たちの顔が、彼女の背中を押す。
花野蜜がマンガマニュアルを掲げ、元気よく言う。
「アカリちゃん、ナズナちゃんの情報、めっちゃ助かるね! キャサリンさんの屋敷に行って、クーリングオフの書面を直接渡そう! マンガの第6章、『直接交渉のコツ』に、相手のホームでも落ち着いて話す方法書いてあるよ!」
アカリがマンガを覗き込み、読み上げる。
「『相手のペースに乗らず、クーリングオフの意思を簡潔に伝える。書面を渡し、受領の確認を取る』…よし! キャシーさんの屋敷でも、絶対動じない!」
ファルカが冷静に補足する。
「ただし、キャサリンは口が上手い。屋敷には薬袋カルテや他の会員がいる可能性もあります。油断せず、蜜先生のマンガをフル活用してください」
アカリが拳を握り、叫ぶ。
「うん! アカリ、今回は絶対キャシーさんのペースに嵌らない! 洗剤もサプリも全部クーリングオフして、借金清算する! そしたら、ENTUMで『ミライアカリオルタネイティヴ』をガチで作るよ!」
スマホが光り、萌実からのメッセージが表示される。
「アカリちゃん、キャサリンさんとの話、絶対勝って! ゲームのストーリー、めっちゃいい感じになってきたよ!(´ω`)」
アカリの唇に、決意の笑みが浮かぶ。彼女はマンガマニュアルとクーリングオフの書類をバッグに詰め、ファルカと花野蜜とともに部屋を出る。
だが、笠縫のキャサリン・ワードの屋敷では、彼女が新たな策略を準備していた。ナズナの微笑みが、協力者なのか、それともネオアムウェイの駒なのか、謎を深める。薬袋カルテの白衣が静かに揺れ、物語はアカリの決戦の舞台へと突き進んでいた――。
数時間後
笠縫の静かな郊外、キャサリン・モーテルの看板が薄暗い夕暮れにぼんやりと浮かんでいた。古びた建物は、まるで時代に取り残された幽霊のようで、自動車旅行者のための簡素なホテル「モーテル」という名の響きが、不思議な不気味さを漂わせる。アカリ、ファルカ、花野蜜は、マンガマニュアルとクーリングオフの書類を手に、緊張と決意を胸にモーテルの駐車場に立っていた。
アカリが周囲を見回し、呟く。
「このあたりの筈だけど…」
ファルカが遠くの建物を指差し、言う。
「あれじゃないですか?」
花野蜜が目を細め、頷く。
「あ、モーテルだね」
「モーテル?」
アカリが首をかしげる。
花野蜜が解説する。
「自動車旅行者のための簡素なホテル。ね。日本では既に存在しない筈だけど…」
ファルカが冷ややかに笑う。
「まるで『ベイツモーテル』ですね」
「そうね。私の父もこういうの詳しくて」
花野蜜が懐かしそうに言う。
ファルカが突然声を上げ、指差す。
「あ、あの人じゃないですか?」
「!!」
アカリの心臓が跳ね、彼女は看守服姿のキャサリンを見つける。
「アカリさん!」
ファルカが背中を押す。
「はい!」
アカリが勢いよく頷き、走り出す。
ドダダダダッ!
「キャシーさん!」
アカリが叫び、キャサリンに向かって突進する。
「!」
キャサリンがハッと振り返る。
ドダダダダ!
「でやああああああああああああああああああああ!」
アカリがマンガマニュアルを振りかざし、キャサリンに飛びかかる。
ビュッ!
「何!!?」
キャサリンが目を丸くし、咄嗟に身を引く。
ガチャッ…ガバァッ!
キャサリンがモーテルのドアを開け、アカリが勢いよく彼女を押し込む。
ガシィッ!
アカリがキャサリンの腕を掴み、声を張る。
「同じVTuberとしてここに来たのに、その態度はないですよね!」
キャサリンが腕を振りほどき、鋭く返す。
「何しに来たの? 警察呼ぶわよ!」
「それはこっちの台詞だよ! 何度も他人を騙して…!」
アカリがマンガマニュアルを突きつける。
キャサリンが冷笑し、反撃する。
「騙した? 証拠はあるの? 妙な言いがかり付けると、名誉棄損で訴えるわよ!」
ファルカが冷静に割って入り、言う。
「私達はクーリングオフしに来ただけです。ここは貴女が経営してるモーテルですよね? よくこんな手を込んで…まるで『サイコ』ですね」
「…!」
キャサリンの瞳が一瞬揺れる。
ファルカが続ける。
「解約書類はないと言わせませんよ」
キャサリンが唇を噛み、渋々頷く。
「…分かったわ。モーテルの中で話しましょう」
「その手は通用しませんよ。また私達を買わせるつもりですよね?」
ファルカが鋭く指摘する。
「そんなつもりじゃ…」
キャサリンが言葉を濁す。
アカリがクーリングオフの書類を差し出し、毅然と言う。
「これを置いて書類にサインしたらすぐ帰ります。少しぐらいいいですよね?」
キャサリンが一瞬黙り、ため息をつく。
「…屋敷に来て」
「うん!」
ファルカが頷く。
「うん!」
アカリが笑顔で応じる。
キャサリンの豪華な屋敷の地下室に足を踏み入れたアカリ、ファルカ、花野蜜は、目の前の光景に息を呑んだ。薄暗い部屋には、ネオアムウェイの商品――洗剤、サプリメント、健康食品――が山のように積まれ、まるで崩れかけた夢の残骸のようだった。キャサリンは看守服を翻し、疲れた笑みを浮かべる。
「お邪魔します」
花野蜜が小心に呟く。
「…」
アカリとファルカが無言で部屋を見渡す。
「ん? ネオアムウェイの商品…こんなに沢山!」
ファルカが驚きの声を上げる。
キャサリンが自嘲気味に笑う。
「笑いたければ笑えばいいわ…私は貴女達と違ってもう引き返せない所まで来たのよ。例えどんな手を使っても、この商品を売り捌かないと…もう未来はないのよ!」
「キャシーさん…」
アカリの声が震え、彼女はキャサリンの瞳に宿る絶望を見つめる。
キャサリンがクーリングオフの書類を差し出し、冷たく言う。
「これにサインして早く帰って」
「…」
アカリが書類を受け取り、キャサリンの言葉を噛みしめる。
「やっぱり貴女と相性悪いわ…」
キャサリンが目を伏せ、呟く。
「…」
ファルカと花野蜜が黙ってアカリを見守る。
アカリが書類にサインし、静かに言う。
「キャシーさん…アカリ、VTuberドリームはENTUMのみんなと『ミライアカリオルタネイティヴ』で叶えるよ。キャシーさんも…まだ間に合うよ」
キャサリンが一瞬顔を上げ、だがすぐに目を逸らす。
「…早く帰って」
その後、ネオアムウェイはベアトリクスによってENTUMの傘下会社として吸収されたが、わずか1日で倒産。負債総額約8億円。キャサリン・ワードはVTuberとしての役割に終止符を打ち、笠縫の屋敷を去った。彼女の行方は誰も知らず、薬袋カルテもまた、静かに姿を消した。ナズナはVTuber活動を継続
アカリはクーリングオフを成功させ、借金を清算。ENTUMに戻った彼女は、『ミライアカリオルタネイティヴ』の制作に全力を注ぐ。萌実の主題歌が響き、ゲームのストーリーには、絆と現実の葛藤が織り込まれた。キャサリンの言葉――「未来はない」――は、アカリの心に残りつつも、彼女は仲間たちと新たな夢を切り開いていった。
スマホが光り、萌実からのメッセージが表示される。
「アカリちゃん、ゲームのデモ、めっちゃいい感じ! 早くみんなで見よう!(´ω`)」
アカリの唇に、確かな笑みが浮かぶ。変態バーチャル芸人のレッテルを乗り越え、彼女のサクセスストーリーは、ENTUMの絆とともに始まったばかりだった――。
2018年9月某日、ENTUM本部スタジオ
東京の夜空に星が瞬く中、ENTUMのスタジオは熱気に包まれていた。『ミライアカリオルタネイティヴ』のデモ版完成を祝うため、スタッフとVTuberたちが集まり、モニターに映るゲームのオープニング映像を食い入るように見つめていた。萌実の歌うカバー曲「未来への咆哮」が主題歌として流れ、壮大なメロディがスタジオに響く。
画面には、日本帝国軍の戦術機が雪原を疾走するシーン。ミライアカリ演じる衛士・星宮アカリ(階級:少尉)が、戦術機「不知火」に搭乗し、駒木咲代子中尉(CV:豊口めぐみ)の指示を受け、敵との交戦準備に入る。彼女の隣には、倉野鈴子(CV:ユメノツキミ)が操る戦術機「撃震」が、静かな闘志を湛えて並ぶ。
「アカリちゃん、めっちゃカッコいいよ!ほんとに戦場にいるみたい!」
萌実がソファから身を乗り出し、アカリに抱きつく。アカリは照れ笑いを浮かべながら、スマホを手に取る。
「萌実ちゃんの歌がすごいんだから!これ、絶対みんなの心に刺さるよ…!」
だが、アカリの心の奥には、キャサリン・ワードの最後の言葉――「未来はない」――がまだ小さな棘のように刺さっていた。『ミライアカリオルタネイティヴ』は、彼女にとってただのゲームではない。VTuberとしての夢、仲間の絆、そして現実の葛藤を投影した、彼女自身の“オルタナティブ”な物語なのだ。
『ミライアカリオルタネイティヴ』ゲーム内:12・5事件、帝都近郊
西暦2001年12月5日、日本帝国軍本土防衛軍基地
雪が舞う帝都近郊の基地は、緊迫した空気に包まれていた。帝国軍内部で、沙霧尚哉大尉(CV:興津和幸)が率いる一部の衛士たちが、政府と軍上層部への不満を爆発させ、クーデターを起こしたのだ。史実の「二・二六事件」を彷彿とさせるこの「12・5事件」は、帝国の未来を賭けた内乱の火蓋を切った。
星宮アカリは、駒木咲代子中尉の指揮下、倉野鈴子や花野蜜(ゲーム内では花野ミツキ少尉として登場)と小隊を組み、沙霧大尉のクーデター軍に合流していた。彼女たちの戦術機は、夜の雪原で赤く光るセンサーを点滅させ、敵との対峙を待つ。
「星宮、準備はいいか?」
駒木中尉の声がコックピットの通信機から響く。彼女の声には、迷いを許さない鋭さがあった。
「はい、中尉!いつでもいけます!」
アカリは操縦桿を握りしめ、不知火のエンジンを唸らせる。だが、心の奥では、沙霧大尉の言葉が反響していた。
数時間前、クーデター決起の演説
沙霧尚哉大尉は、基地の格納庫に集まった衛士たちを前に、燃えるような眼差しで語った。
「帝国は腐敗した!上層部はBETAとの戦争を口実に、民を顧みず、私腹を肥やすばかりだ!このままでは、我々の未来は失われる!今こそ、帝国を正すため、剣を取る時だ!」
アカリは彼の言葉に心を揺さぶられた。VTuberとしての彼女もまた、ネオアムウェイの甘言に惑わされ、借金の淵に立たされた過去を持つ。沙霧の「未来を奪われた者たちの怒り」は、彼女自身の経験と重なったのだ。だが、ユメノツキミは静かに囁いた。
「アカリ…沙霧さんの言うこと、ほんとに正しいと思う?私たちの戦いは、誰のためなの?」
その問いに、アカリは答えられなかった。
戦場:帝都防衛線、深夜
戦闘が始まった。沙霧大尉のクーデター軍は、帝都防衛軍の戦術機部隊と激突。雪原は戦術機の爆音と火花で埋め尽くされる。アカリの不知火は、敵機を翻弄しながら、花野ミツキの援護射撃に合わせ、的確に敵を仕留めていく。
「ミツキ、左翼の敵、フォローお願い!」
「了解、アカリ!任せて!」
花野ミツキの不知火が、敵戦術機に36mm弾を叩き込む。その連携は、ENTUMの絆そのものだった。
だが、戦況は一進一退。沙霧大尉の部隊は数で劣勢にあり、徐々に追い詰められていく。通信機から、駒木中尉の焦った声が響く。
「星宮、倉野、花野!敵の増援が接近中!このままじゃ全滅だ!」
アカリは戦術機のモニターを見つめ、決断を迫られる。沙霧の理想に殉じるか、それとも仲間とともに別の道を探すか。彼女の脳裏に、日本が滅びる末路を思い浮かび絶望的な瞳が浮かんだ。
「未来はない…なんて、絶対に認めない!」
アカリは叫び、通信機に叫んだ。
「中尉!私たちだけで突破口を開きます!沙霧大尉を信じる…でも、仲間を失うのは嫌です!」
倉野鈴子と花野ミツキが、即座に応じる。
「アカリ、行くよ!一緒に!」
「うん、祖国の絆、みせてやろう!」
三機の戦術機は、雪煙を巻き上げ、敵陣の中心へ突撃する。彼女たちの戦いは、クーデターの行く末を、そして『ミライアカリオルタネイティヴ』の物語の核心を、決定づけるものだった――。
現実:ENTUMスタジオ、戦闘シーンの試遊後
戦闘シーンのデモが終わり、スタジオに拍手が響く。アカリはコントローラーを置き、額の汗を拭う。
「ふぅ…めっちゃ緊張した…!これ、プレイヤーもハラハラするよね?」
萌実が目をキラキラさせながら言う。
「アカリちゃんの演技、めっちゃ熱かった!沙霧さんのクーデター、どっちに転ぶかドキドキするよ!」
だが、アカリの心には、ゲームの物語と現実が交錯していた。沙霧の戦いは、キャサリンのように「引き返せない道」を選んだ者の叫びにも似ていた。アカリは静かに呟く。
「沙霧さん…キャシーさんみたいに、未来を諦めないでほしいな…」
その時、スタジオのドアが開き、ナズナが現れる。彼女は手に分厚い書類を持ち、笑顔で言う。
「アカリ、ゲームのシナリオ追加パート、届いたよ!次はBETAとの戦いと、沙霧さんの過去編だって!」
アカリの目に、再び闘志が宿る。
「よーし、ENTUMのみんなで、最高の物語作るぞ!キャシーさんの分まで…未来、絶対掴むんだから!」