ENTUM23   作:マブラマ

82 / 229
第82話 ユメノツキミ引退ライブ

2018年12月26日、ENTUM本社大ホールは、ユメノツキミの引退ライブで静かな感動と別れの空気に包まれていた。ステージには星空をイメージした装飾が施され、モニターにはツキミのこれまでの配信映像が流れている。客席にはENTUM所属VTuberたち――二コラ、カタリーナ、ファルカ、アイリスディーナ、ベアトリクス、エイレーン、ベイレーン、ベノちゃん、夏実萌恵、エボラちゃん、ZMAPPちゃん、キュアちゃん、萌実、ヨメミ、皆守ひいろ、花野蜜、月夜ソラ、アカリ、犬山たまき、もちひよこ、届木ウカ、猫宮ひなた、そしてミヒャエル――が集まり、ツキミの早すぎる引退に涙と感謝の言葉を贈る。秘書アプリの洗脳危機を乗り越えたENTUMだが、冬コミを前に、ツキミの突然の決断が新たな波紋を呼んでいた。

 

 

大ホールにアナウンスが響く。

《バーチャルアイドル研修生、ENTUM所属VTuber、ユメノツキミが引退! 早すぎる引退! 理由は家庭環境の変化により動画編集作業ができないため、VTuber引退! 約6ヶ月! 早すぎる! 引退ライブを、このENTUM大ホールで行う!》

二コラが客席の最前列で、静かに呟く。

「…本当に引退するのか?」

ユメノツキミがステージ中央に立ち、マイクを握り、震える声で答える。

「…はい」

カタリーナが涙を堪え、叫ぶ。

「折角、アンタのライブやコンサートライブ企画したのに、月見スタジオはどうするの? 嫌だよ…こんなの…」

ファルカが冷静に言う。

「お気持ちお察しします」

ツキミが三人を見つめ、言う。

「二コラさん、カタリーナさん、ファルカさん…私は…」

アイリスディーナが静かに遮る。

「もう言うな。残念だ…生活環境が変わるのは仕方ない事だが」

ツキミが涙目で呟く。

「アイリスディーナさん…」

ベアトリクスが厳粛に言う。

「約6ヶ月間御苦労だった。これは貴女が望んだ事だから、私は止めないわ」

「名誉会長…」

ツキミが頭を下げる。

エイレーンが無言で涙を拭う。

「…」

ベイレーンが俯く。

「…」

ベノちゃんが小さく呟く。

「…」

夏実萌恵が英語で言う。

「I'm sorry. I do not know how to accept that you can not see your success.」

エボラちゃんが皮肉を込めて言う。

「貧乏娘よりは賢い選択だな」

ZMAPPちゃんが笑う。

「偶には良い事言うじゃない」

キュアちゃんが頷く。

「そうね…」

萌実が泣きながら叫ぶ。

「萌実…悲しいよー!」

ヨメミが困惑して言う。

「久々にここへ来たらツキミちゃんが引退だなんて全然知らなかった」

エイレーンがヨメミをたしなめる。

「ヨメミさん、空気を読んでください」

ツキミがエイレーンたちに言う。

「エイレーンさん、ベイレーンさん、ベノちゃん…」

皆守ひいろがステージに上がり、マイクを握る。

「まずはお疲れ様、つきみん! 正直すぐ言葉が出てこない状態で、今はただ寂しいって気持ちでいっぱい。数少ない大事な同期が居なくなるのは、本当に寂しい。でも、つきみんのこれからを応援したい。引退したとしても、偶には電話したりとか遊んだりしようね。夜ふかしは程々にね!」

ツキミが涙を流し、応える。

「ひいろちゃん本当にいままでありがとう! ひいろちゃんと楽しく放送したり、お話したりできて本当にうれしかったよ!!ありがとうね(´;ω;`) またお話もしたりゲームもしようね! ツキミは永遠にひいろ隊です!」

花野蜜が目を潤ませ、言う。

「ツキミちゃんが決めたことなら仕方ないね…今まで一緒にやってきたこと忘れないよ―――またね!」

ツキミが笑顔で答える。

「みっちゃんと出会えたこと本当にすごくうれしかったし、ツキミの馬鹿な発言にいつも笑ってくれて本当にありがとう! ツキミはとても幸せ者だよ…――えっちちなみっちゃんだいすき!!!!!!!」

花野蜜が涙を流す。

「うぅ…ぐすん」

月夜ソラが声を上げる。

「お疲れ様です…! ツキミちゃんとの思い出は本当に楽しいものばかりだったよ! きっとこの先も素敵なものでありますように…みんな祈っております。今までありがとう!」

ツキミが叫ぶ。

「おつきよ!!楽しかったデッバイ!!!!忘れないでね!!! ハゲの事も大事にしてあげてね!(◍˃̶ᗜ˂̶◍)ノ" これからもずっと応援してるよ!」

アカリがステージに駆け上がり、言う。

「ツキミちゃん、半年間お疲れ! デビュー発表生放送の時はアカリにも後輩ちゃんが出来た嬉しさと喜びでいっぱいだったのを覚えてる! ファンのみんなといつも楽しそうに笑ってるツキミちゃんが好き。配信出来なくなっちゃうのは凄く残念だけど、ツキミちゃんはこれからもアカリの記憶に残ってるよ」

ツキミが嗚咽を漏らす。

「あかりちゃん!全員で一緒にみんなでコラボできたあの日凄く嬉しかったです! 緊張していた時にフォローしてくれて安心したし、本当に嬉しかった。ツキミはアカリちゃんの後輩でいられて、幸せでした! 本当に大好き ありがとう」

犬山たまきが涙ながらに言う。

「ツキミちゃん、お疲れ様でした…! たまきがデビューしてすぐ、なかなかコラボしてくれる人がいない中、最初にコラボしてたのがツキミちゃんでした。今でも本当に感謝しています! ツキミちゃんの今後がより幸せなものでありますように、祈っています…」

ツキミが笑顔で答える。

「ツキミもすごくたまきちゃんの存在は大きかったよ! お歌を歌ったり知らない世界を教えてくれたり楽しかった。たまきちゃんの事これからも応援してるし、のりおママにもよろしく言っておいてね―――ほんとうにありがとう!!」

もちひよこが黙って涙を流す。

「…」

届木ウカが俯く。

「…」

猫宮ひなたが震える声で言う。

「ツキミちゃん…やめちゃうの?」

ツキミが泣きながら言う。

「ごめんね…もっと皆と一緒に…皆と一緒にいたかったよ。 うぅぅ…」

ファルカが静かに言う。

「…」

ミヒャエルがステージに上がり、言う。

「第二の人生頑張ってください。応援する事しか出来ませんが、ここからは貴女の分を背負って動画投稿やります」

カタリーナが突っ込む。

「アンタ、VTuberじゃないでしょうが!」

ツキミが突然カタリーナに言う。

「カタリーナさん、今夜私の家で」

カタリーナが困惑。

「え? 何なの唐突に」

ツキミが真剣な目で言う。

「重大な話があります。アカリちゃん達には知られたくない話です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブの終盤、ツキミが最後の歌を歌い、客席から拍手と涙が響く。ステージのモニターには、ツキミのデビューからこれまでの思い出が映し出され、ENTUMメンバー全員が立ち上がって拍手を送る。ツキミがマイクを握り、最後の言葉を贈る。

「みんな、本当にありがとう! ENTUMでVTuberとして過ごした6ヶ月は、ツキミの人生で一番輝いてた時間だったよ。家庭環境が変わっちゃって、配信を続けられないけど、みんなとの思い出は絶対忘れない。冬コミ、ENTUMのブース、絶対成功させて! アカリちゃんのシナリオ、ヨメミちゃんのTwitter、たまきちゃんの宣伝、萌実ちゃんの主題歌…全部、最高の輝きになるよ! ツキミは、ずっとみんなを応援してるから!」

涙の中、ステージの幕が下り、ENTUM大ホールは静寂に包まれる。だが、カタリーナの耳には、ツキミの「重大な話」という言葉が不穏に響いていた。秘書アプリの洗脳危機を乗り越えたばかりのENTUMに、ツキミの引退と新たな謎が影を落とす。雪の降る窓の外で、キャサリンの不気味な笑みが静かに光る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年12月26日の夜、雪が静かに降り積もる東京郊外のユメノツキミの自宅。シンプルなアパートの一室は、暖かな照明と畳の香りに包まれ、壁にはENTUMのポスターやツキミの配信グッズが飾られている。ユメノツキミの引退ライブを終えたばかりのカタリーナが、ツキミの「重大な話」を聞くため訪れていた。ENTUM大ホールでの感動的な別れと秘書アプリの洗脳危機を乗り越えた後、ツキミの引退の裏に隠された真実が明かされる。

ユメノツキミが小さなちゃぶ台に座り、緊張した声で切り出す。

「カタリーナさん、私が引退する理由は…」

カタリーナがソファに腰を下ろし、鋭い目で問う。

「何?」

ツキミが深呼吸し、続ける。

「昨日、実家から電話があったんです。お父さんが脳梗塞で倒れて、このままじゃ野菜畑は耕されないから実家に戻ってと、お母さんから言われたんです」

カタリーナが目を細める。

「野菜畑…それって」

ツキミが頷き、静かに言う。

「はい、私の実家は野菜ばかり扱う農園…所謂農家です。野菜畑を耕さないと、私の実家から作ってる野菜は売れないどころか…このままだと廃業に」

カタリーナが黙ってツキミを見つめる。

「…」

ツキミが目を伏せ、呟く。

「勝手な事言ってごめんなさい…」

カタリーナが窓に目をやり、言う。

「窓から雪降ってるわ」

ツキミが顔を上げ、笑顔で言う。

「あ、ホントだ。雪見酒にしましょう!」

カタリーナがクスッと笑い、言う。

「未成年はこどもビールよ」

ツキミが照れ笑い。

「はい!」

ツキミがキッチンから缶のこどもビールと日本酒の小瓶を持って戻り、ちゃぶ台に置く。カタリーナが日本酒を手に、窓の外の雪を見ながら言う。

「ツキミ、アンタの決断、立派だよ。家族を守るためにVTuberを辞めるなんて…ヴェアヴォルフの名にかけて、尊敬する」

ツキミがこどもビールを手に、目を潤ませる。

「カタリーナさん…ありがとう。ENTUMのみんなと過ごした6ヶ月、ほんとに幸せだった。アカリちゃんのシナリオ、ヨメミちゃんのTwitter、たまきちゃんの歌、ひいろちゃんの笑顔…全部、宝物だよ」

カタリーナが一口飲み、言う。

「月見スタジオの企画、楽しかったな。アンタのデッバイ!って叫ぶ声、耳に残ってる」

ツキミが笑う。

「ふふ、デッバイ! ハゲの話もして、ソラちゃんに怒られたっけ」

カタリーナが真剣な顔で言う。

「実家に戻っても、時々連絡しなさい。ENTUMは家族よ。ツキミが農家で頑張ってる話、聞きたいからね」

ツキミが頷き、涙を拭う。

「うん…! 絶対連絡する! 野菜送るから、カタリーナさん、ピーマンの肉詰め作って食べてね!」

カタリーナが笑う。

「ピーマンか。秘書アプリの提案みたいね」

ツキミがハッとする。

「あ、あのアプリ…カタリーナさん、二コラさん、ひいろちゃん、みんな大変だったよね…」

カタリーナが目を細める。

「キャサリンの仕業よ。あの女、まだ動いてるかもしれない。冬コミ、油断できないわね」

ツキミが拳を握る。

「冬コミ、ENTUMのブース、絶対成功してほしい! ツキミの分まで、みんなでキズナアイちゃんに勝って!」

カタリーナがグラスを掲げる。

「約束する。ENTUMの輝き、ツキミの思いを乗せて、トップVTuberの座を掴む」

ツキミがこどもビールを掲げ、笑う。

「カンパーイ!」

雪見酒の穏やかな時間が流れる中、ツキミのスマホに萌実からのメッセージが届く。

「ツキミちゃん、引退ライブ、めっちゃ泣いたよ! 実家でも元気でね! 冬コミ、ENTUMみんなで頑張るよ!(´ω`)」

ツキミが微笑み、ENTUMの未来に思いを馳せる。だが、窓の外の雪の中で、キャサリンの不気味な笑みが冬コミの新たな試練を予感させていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年12月27日、雪が降り積もる東京郊外の小さな公園。ユメノツキミの引退ライブから一夜明け、ツキミ、カタリーナ、ファルカが雪合戦で束の間の休息を楽しんでいた。公園の木々は雪化粧に覆われ、遠くで子供たちの笑い声が響く。秘書アプリの洗脳危機を乗り越え、冬コミを目前に控えたENTUMだが、ツキミの引退と家族への決断がメンバーたちの心に深い余韻を残していた。そこに花野蜜が現れ、雪合戦の遊びが予想外の感情の爆発を呼び起こす。

ユメノツキミが雪を丸め、目を輝かせて叫ぶ。

「よおし…行きますよ!」

カタリーナが雪玉を手に、懐かしそうに言う。

「雪合戦か…子供の頃よく遊んだわ」

ファルカが静かに頷く。

「私もです」

ツキミが突然ファルカに雪玉を向け、叫ぶ。

「ファルカさん! 貴女は本当の愛というモノが…」

ファルカが首をかしげる。

「?」

ツキミが声を張り上げる。

「分かってないのよ!」

ビュッ!

雪玉がファルカの肩に当たり、彼女が驚く。

「何ですか? それ」

ツキミがニヤリと笑う。

「こう言う時は何か叫んだりするんですよ! ドラマとか!」

カタリーナが目を輝かせ、雪玉を握りしめる。

「成る程、よし! 私も……私はニコラの事が…愛しているのよーーーー!」

ビュッ!

雪玉がツキミの胸に命中。ツキミが反撃し、叫ぶ。

「おっと…カタリーナさん、貴女の愛は…偽物よ!」

ビュッ

カタリーナが笑いながら返す。

「いや、本物よ!」

ビュッ

ブワサァッ!

ツキミが雪玉を浴び、悲鳴を上げる。

「ひゃん!」

カタリーナが大笑い。

「あはははは。どうしたの? ツキミちゃん」

ツキミが雪を払い、叫ぶ。

「カタリーナさん…貴女は…何も分かっちゃいないのよ」

カタリーナがニヤリと返す。

「いや、分かってないのはアンタの方よ!」

ビュッ

ブワサァッ!

ツキミが再び雪を浴び、叫びながら雪玉を投げる。

「ひゃん!…くっ、私の!」

ビュッ

「何処が!」

ビュッ

「分かってないって…言うんですか!」

ビュッ

カタリーナが雪玉を投げながら言う。

「えーと、ENTUMに入社して専属VTuberになったとか」

ツキミが目を吊り上げ、叫ぶ。

「ぐ…! 私を…馬鹿にするな!!」

カタリーナが困惑。

「え?」

ツキミが巨大な雪玉を投げる。

グワサァ!

カタリーナが雪をかぶり、叫ぶ。

「うが!」

ツキミが声を荒げる。

「私のとっては一斉一打の決断だったのよ! 旧東ドイツ国民を殺しまくった貴女に何が分かるって言うんですか!?」

カタリーナが手を上げ、慌てる。

「分かったからやめて!」

そこへ、花野蜜が公園に現れ、驚く。

「ツキミちゃん…え? 2人共、何やってるの?」

ツキミがハッとする。

「あ」

カタリーナが雪を払い、呟く。

「蜜先生…」

ツキミが恥ずかしそうに言う。

「ごめんなさいカタリーナさん…つい本気になって」

カタリーナが微笑む。

「いいわよ。気にしないで…この雪がすべての悲しみを覆い隠してくれるわ…」

ファルカが静かに言う。

「…カタリーナさん」

花野蜜が困惑したまま見つめる。

「…」

ツキミが息を呑む。

「…!」

カタリーナが急に笑い出す。

「なんてね♪ ドラマみたいでしょ?」

ファルカがゆっくり言う。

「ドラマには起承転結があって感情の爆発があって結末があります。私達の日常はいつまでもいつまでも薄らボンヤリに満たされてるだけです…」

カタリーナがファルカを見つめ、呟く。

「ファルカ…」

雪合戦の熱気が冷め、公園は静寂に包まれる。ツキミが雪を払いながら言う。

「カタリーナさん、ほんとにごめんなさい…引退のこと、家族のこと、つい熱くなっちゃって…」

カタリーナが肩を叩く。

「いいって。アンタの決断、立派だよ。実家の農園、絶対守りなさい。ENTUMの仲間は、いつでもツキミを待ってるから」

花野蜜が優しく言う。

「ツキミちゃん、引退ライブの言葉、胸に響いたよ。実家で野菜育てながら、いつかまた配信してね。みっちゃん、待ってるから」

ツキミが涙を堪え、笑う。

「みっちゃん…ありがとう。カタリーナさん、ファルカさん、みっちゃん…ENTUMのみんながいるから、ツキミ、頑張れるよ」

ファルカが静かに言う。

「リィズ先輩にも、ツキミさんの輝きを伝えたい。冬コミ、ENTUMのブース、成功させます!」

ツキミが拳を握る。

「うん! 冬コミ、ヨメミちゃんのTwitter、たまきちゃんの宣伝、アカリちゃんのシナリオ…全部、ツキミの応援してる! キズナアイちゃん、超えちゃって!」

花野蜜が微笑む。

「ツキミちゃんの野菜、冬コミのブースで売っちゃおうかな?」

カタリーナが笑う。

「いいな! ツキミ農園のピーマン、絶対バズる!」

ツキミが照れ笑い。

「デッバイ! ハゲも一緒に売っちゃう?」

一同が笑い合い、雪の公園に温かな空気が広がる。だが、遠くの木陰で、キャサリンの不気味な笑みが不穏に光る。秘書アプリの残党が冬コミを狙う中、ENTUMの絆とツキミの思いが新たな試練に立ち向かう準備を整えていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年12月27日の朝、雪が薄く積もったJR東京駅の新幹線ホームは、ユメノツキミの旅立ちを見送る静かな別れの場となっていた。ユメノツキミの引退ライブから一夜、彼女の実家への帰郷を前に、ENTUMの仲間たち――アカリ、カタリーナ、花野蜜、ファルカ、ベイレーン――が集まり、最後の挨拶を交わす。秘書アプリの洗脳危機を乗り越え、冬コミを目前に控えたENTUMだが、ツキミの突然の引退は大きな空白を残していた。

雪が舞う東京の朝、ENTUM本社の近くで、ユメノツキミがスーツケースを手に立ち尽くす。

「…あ」

花野蜜が優しく声をかける。

「あの…ツキミちゃん…」

ツキミが微笑み、言う。

「ソラ君の事お願いします。蜜先生」

花野蜜が頷く。

「分かったわ」

カタリーナが黙ってツキミを見つめる。

「…」

ファルカが静かに言う。

「…」

アカリが涙を堪え、呟く。

「ツキミちゃん…」

ベイレーンが目を潤ませる。

「別れは寂しいモノだお」

カタリーナが心の中で呟く。

「(最後くらい別れの挨拶を…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新幹線ホームに移動した一行。ツキミがスーツケースを置き、言う。

「ここまででいいですよ。カタリーナさん…アカリちゃんも」

カタリーナが悔しそうに言う。

「ごめんね…これぐらいしか出来なくて」

アカリが涙声で言う。

「ツキミちゃん…」

ツキミが笑顔で言う。

「無駄使いは禁物よ」

アカリが黙って頷く。

「…」

ツキミがアカリの手を握り、言う。

「里帰りする時は連絡してね」

アカリが小さく答える。

「うん…」

ツキミが明るく言う。

「絶対にしてね♪ それじゃ」

アカリが叫ぶ。

「ツキミちゃん!」

ツキミが振り返り、笑う。

「アカリちゃんも負けないでね。カタリーナさんも」

カタリーナが拳を握り、叫ぶ。

「くっ…! アンタ、負けて帰る訳じゃないでしょ!!」

ツキミがニヤリと笑う。

「ふふふ…甘えたいの? 甘えさせると思った?」

カタリーナが驚く。

「!」

ツキミが手を振る。

「じゃあね♪」

ユメノツキミは新幹線の乗車口へ消え、ホームに静寂が広がる。早すぎる引退劇。彼女だけではない。他のVTuberたちも、様々な理由で姿を消していった。ファンたちの失望、ENTUMの空白。ツキミの不在は、まるで心にぽっかりと穴を開けたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームに残されたアカリが、涙を流しながら呟く。

「ツキミちゃん…うぅ…」

静寂の中、誰もいないホームに、幻影のロザリンデが現れる。

「何を悟ったと言うんだ?」

アカリが驚き、振り返る。

「誰?」

ロザリンデが繰り返す。

「もう一度言う。何を悟ったんだ?」

アカリが目を輝かせ、叫ぶ。

「アカリがこの宇宙での絶対神だって事を!」

シュミットが現れ、言う。

「それは凄いね」

ロザリンデが頷く。

「凄いな」

ヨーゼフが加わる。

「凄いなそれは」

アカリが拳を握り、声を張る。

「それだけじゃない…アカリは遥か数千年前から時空転生してこの世界にやってきた超能力戦士だって事を!」

シュミットが笑う。

「それも凄いね」

ロザリンデが言う。

「凄い」

ヨーゼフが頷く。

「凄いな」

アカリが胸を張る。

「神であるアカリには不可能はない!」

ロザリンデが冷静に言う。

「じゃあ、ユメノツキミと言う女を呼び戻せ」

アカリが勢いよく頷く。

「うん、分かった!…ツキミちゃん…ENTUMに来い!」

……

何も起こらない。ロザリンデが言う。

「来ないな」

アカリが慌てて言う。

「あ、違った…こう…こうやって…ツキミちゃんここに来て! 何やってるの? ツキミちゃん! 今すぐ帰って来てよ! ツキミちゃあああああああああああああああん…」

アカリの叫びがホームに響き、涙が雪に混じる。

「うああああああああああああああああん―――。うあああああああん…うぅ…うぅ…」

幻影のロザリンデ、シュミット、ヨーゼフが静かに消える。アカリが膝をつき、呟く。

「ツキミちゃん…」

カタリーナがアカリの肩に手を置き、言う。

「アカリ、泣かないで。ツキミは負けて帰ったんじゃないわ。家族を守るために、農園を耕しに帰ったのよ。彼女はENTUMの―――誇りよ」

アカリが涙を拭い、立ち上がる。

「うん…アカリ、ツキミちゃんの分まで、冬コミで絶対勝つ! ENTUMのブース、キズナアイちゃんを超えるよ!」

カタリーナが頷く。

「ヴェアヴォルフの名にかけて、約束する。ヨメミのTwitter、たまきちゃんの宣伝、アカリのシナリオ…全部、ツキミの思いを乗せて輝かせる」

雪が降り続く東京駅のホームで、ENTUMの新たな決意が芽生える。だが、遠くの雪の中で、キャサリンの不気味な笑みが冬コミの試練を予感させていた――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。