2018年4月9日、株式会社ENTUMの名誉会長室は、まるで嵐の前の静けさを思わせる緊張感に満ちていた。夕陽が窓から差し込み、ベアトリクスの鋭い眼光を一層際立たせていた。
ベイレーンが、ミライアカリの企画書を手に、慎重に言葉を選びながらベアトリクスの前に立つ。
「名誉会長、新しい企画についてご報告ですお。レースなんですが……」
ベアトリクスが片眉を上げ、興味深げに身を乗り出す。
「レースか?」
ベイレーンが頷き、企画の概要を説明する。
「はい。『泥酔寸前でお蔵入り寸前マリオカート』です。マリオカートでワイワイ盛り上がりつつ、ギリギリのラインで視聴者を笑わせる企画でして……」
ベアトリクスは無言で書類に目を落とし、ページをめくる。彼女の表情は読み取れず、部屋に重い沈黙が流れる。やがて、彼女が低い声で呼びかけた。
「ニコラ」
ニコラが即座に反応し、背筋を伸ばす。
「はい!」
ベアトリクスが鋭い視線をベイレーンに戻す。
「で? 誰が考えたんだ?」
ベイレーンは一瞬たじろぎ、咄嗟に答える。
「エイレーン副社長だお!」
部屋の空気が一気に凍りつく。ベアトリクスの目が細まり、口元に冷たい笑みが浮かぶ。
「連れ出して来い」
ニコラが力強く敬礼する。
「は!」
彼女は即座に踵を返し、まるで嵐を呼び込むような勢いで部屋を飛び出した。
ベイレーンは内心で冷や汗を流しながら、企画書を握りしめる。
「(アカリ、ごめんだお……エイレーンの名前を出した方がマシだと思ったんだお……!)」
オフィスの遠くでは、「1000万再生」の数字がモニターに輝き、社員たちの笑顔を照らし続けていた。しかし、名誉会長室では、新たな波乱が巻き起ころうとしていた。エイレーンが連れてこられた時、どんな嵐が吹き荒れるのか――ENTUMの物語は、さらなる試練を迎える。
株式会社ENTUMの名誉会長室は、まるで嵐が吹き荒れる戦場のような緊張感に支配されていた。夕陽が窓から差し込む光も、ベアトリクスの冷たく燃える眼光の前ではかすんで見えた。
エイレーンがニコラに連れられ、半ば引きずられるように部屋に踏み入る。彼女の顔には困惑とわずかな反抗心が浮かんでいた。
「えっと……あの、お話とは?」
エイレーンの声は震え、場を和ませようとするいつもの軽さが消えていた。
ベアトリクスは椅子から立ち上がり、まるで獲物を睨む猛獣のような視線をエイレーンに突き刺す。
「貴様、何を考えてる!? ミライアカリはまだ未成年だ! 『泥酔寸前でお蔵入り寸前マリオカート』だと? こんな企画、理解し難いわ!」
エイレーンは慌てて反論する。
「あれは設定です! 年齢なんか関係ありませんよ! バーチャルなんだから、楽しければいいじゃないですか!」
ベアトリクスが鼻で笑う。
「フッ、これだから貴様は馬鹿扱いされるのよ」
エイレーンがムッとして声を荒げる。
「馬鹿じゃないです! 私は会社を設立した一人で――」
「エイレーン、貴様、いい加減にしろ!」
ベアトリクスの怒号が部屋を震わせ、エイレーンは一瞬言葉を失う。
「ミライアカリは貴様の性処理道具じゃない! 彼女は一人のバーチャルYorTuberだ!」
エイレーンが思わず舌打ちし、小さく呟く。
「チッ、バレたか……」
その一言が、ベアトリクスの逆鱗に触れた。彼女の目が氷のように冷たく光る。
「貴様はクビだ!」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?」
エイレーンの絶叫が部屋に響き渡る。彼女の顔は真っ青になり、慌てて手を振った。
ベアトリクスは冷酷に言い放つ。
「摘み出せ。社内の反乱分子だ」
カタリーナが即座に動く。
「はい!」
彼女はエイレーンの腕を掴み、有無を言わさぬ力強さで引きずり始める。
エイレーンが必死に叫ぶ。
「ちょ、話だけでも! 聞いてくださいよ!」
カタリーナが冷たく言い放つ。
「もうアンタは会社の人間じゃないわ」
ファルカが静かに、しかし毅然と続ける。
「大人しく出て行ってください」
エイレーンは最後の抵抗を見せる。
「私は何も悪いことしてません! 名誉会長!!」
だが、ベアトリクスは一瞥もくれず、淡々と告げる。
「副社長の座は萌実に務める」
ニコラが即座に敬礼し、動き出す。
「はい! では早速、萌実次長――いえ、萌実副社長に報告してきます!」
ベアトリクスが頷く。
「頼んだ」
エイレーンの悲鳴が遠ざかり、部屋には重い静寂が戻る。オフィスの遠くでは、「1000万再生」の数字がモニターに輝き続けていたが、名誉会長室での出来事は、ENTUMに新たな波紋を広げていた。萌実の昇格、そしてアカリの企画の行方――物語はさらなる転換点を迎える。