ENTUM23   作:マブラマ

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第93話 VTuberの真実

2019年2月24日 株式会社ENTUM 花蜜スタジオ(旧ツキミスタジオ)

 

花蜜スタジオは、カオスと笑いの渦に包まれていた。ピンクとパステルブルーのセットに、「ENTUM VTuber講座!」と書かれたド派手なロゴが輝く。モニターには、手作りアバターやOBS Studioのスクショが映し出され、スタジオの隅にはミライアカリのポスターやスナックの空き袋が散乱している。旧ツキミスタジオの名残を残すこの場所で、ベイレーンが「誰でも作れるVTuber講座」を撮影中だったが、彼女の過激なトークがスタジオを予想外の方向に突き進ませていた。

ベイレーンがカメラに向かってドンと仁王立ちし、独特の「お」語尾で叫ぶ。

「そこのお前!」

黒色のおさげが揺れ、自信満々の笑顔がスタジオを圧倒する。

アネットがソファでジュースを飲みながら、ポカンと振り返る。

「え? あたし?」

彼女の声には、ベイレーンに絡まれることへの警戒心が滲む。「こんな女性は嫌だ!5選」で「時間泥棒ちゃん」とイジられたトラウマが、彼女を慎重にさせていた。

「お前だお!」

ベイレーンがアネットを指差し、ニヤリ。

「VTuber見てると、自分でも作りたいって一度は思わないかお? VTuber作るには才能なんて要らない。誰にでも作れるお!」

アネットがジュースのストローをくわえ、眉を上げる。

「でもさ、編集機材や道具含めて、結構費用がかかるんでしょ? モーションキャプチャーのスーツとか、3Dモデルとか、めっちゃお金かかりそうじゃん。」

彼女の脳裏には、YouTubeで見たキラキラしたVTuberたちの配信がチラつく。

ベイレーンが胸を張り、ドヤ顔で宣言。

「VTuberを作るには才能は要らない。金も要らない。今回は実際の例を出しながら、誰でも超簡単に作れるVTuber例を紹介するお!」

ピッ! ベイレーンがリモコンを手にモニターを切り替え、「超簡単! ゼロ円VTuber制作ガイド」のスライドが登場。カラフルな手作りアバターがピョコピョコ動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

VTuberは超簡単①

ベイレーンが拳を振り上げ、叫ぶ。

「まずは3Dとモーションキャプチャーの豪華な設備。なんて要らぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

アネットがジュースを吹き出し、咳き込む。

「要らないって!?」

「2Dで構わんお!」

ベイレーンがドヤ顔で続ける。

「VTuberには、立ち絵一枚を画面の隅っこに置いて生放送するだけのクソチャンネル――」

アネットが目を丸くし、固まる。

「……。」

「失礼。効率的なチャンネルが沢山あるお!」

ベイレーンが慌てて訂正し、笑顔を取り繕う。

「手を抜いてるおって思うだろ? だが此奴らはクソ可愛いお!」

アネットが棒読みで呟く。

「あーあ、可愛い可愛い。」

彼女の声には、ベイレーンへの呆れと、ちょっとした興味が混じる。

ベイレーンがモニターを指差し、熱弁。

「登録者も余裕で一万人を超えている。これの何処に金と才能がいるんだお?」

アネットが無言でジュースをすする。

「……。」

「無垢な脳筋女だおな!」

ベイレーンがアネットをチラッと見て、ニヤリ。

「脳筋って言うな!」

アネットがソファから立ち上がり、ムッとする。

ベイレーンが手を振って続ける。

「あとは2時間のアーカイブを量産していくだけだお。今の90%のVTuberはこのスタイル。オイラだって出来るお!」

ガチャ! ドアが開き、花野蜜がマイクを手に登場。

「はい、VTuberはどうやって生まれたのか? を説明していくわね。」

彼女の優しい声が、ベイレーンのかき乱した空気を整える。

「まずは事の八端とキッカケになったのは、世界初のVTuber、キズナアイちゃんね。キズナアイは2016年から活動開始し、その愛らしいキャラがファンを魅了し有名になっていったのよ。翌年はミライアカリが登場し、エイレーンが…」

「やったお!!」

ベイレーンが拳を突き上げ、割り込む。

アネットが首を振って呟く。

「でも私が作りたいのは動画だけど…。」

ベイレーンが目を輝かせ、ドンと胸を叩く。

「何だお? じゃあ、いっちょプロデュースしてやるかお!」

 

 

 

VTuberは超簡単②

ピロリン! モニターにハッカドール2号の映像が映る。

《はい、皆さんこんにちハッカ! ハッカドール2号です♪ あなたの心にストマックホールド!》

彼女の元気な声がスタジオに響く。

アネットが即座に叫ぶ。

「じゃない!!!! 滅茶苦茶叩かれてるよ!! 」

彼女がタブレットを手に、コメント欄をスクロール。

「『ストマックホールドって何!?』『2号、キャラ迷走してる!』って、ボロクソじゃん!」

「黙れお!!」

ベイレーンがアネットを指差し、熱弁。

「お前、ランダムでVTuberの動画10個見てみろお! 彼奴等何やってた?」

アネットが考える。

「えーと…物真似、生放送に…ゲーム実況…歌ってみた、踊ってみた…あとは…実験動画とか。」

「そうだお!」

ベイレーンがモニターを叩く。

「物真似はハム太郎だのマスオだの、最近に至って仲良しVTuber同士の奴ばっかだったろ?」

アネットが目を丸くする。

「な…!」

ベイレーンが畳みかける。

「他にはASMRだの、つぼおじさんだの、歌ってみた、エロい台詞だの…見ろお! 同じものをリサイクルしてるだけだお! お前さっきVTuberには才能がいるって言ったよな? 何処に才能がいるんだ?」

アネットが黙り込む。

「……。」

ファムが隅で静かに呟く。

「……。」

アイリスディーナが堂々と進み出る。

「要らないだろ? 才能がなくてもスタート出来るのがVTuberの良い所じゃないか?」

彼女の声には、落ち着いた説得力がある。

アネットがノートを取り出し、メモする。

「メモして置こう。でも再生数が伸びないんだけど」

アイリスディーナが続ける。

「広告を出して収入を得る。VTuberで金稼ぐにはアドセンスが必須となる。審査は厳しいが、運良ければ動画で広告を出して収益を得る事が出来る…がこれは厳しい道のりとなる。あと人気がないのに後に退けなくなった企業VTuberは、赤字なのに必死で広告を出してるんだ。」

アネットがハッとする。

「あれ? もしかしてVTuberって…」

ベイレーンがニヤリと笑う。

「漸く気付いたかお。」

ドーン! モニターにデカデカと文字が映る。

「簡単に人気者にはなれないお。」

ベイレーンがカメラに迫り、過激にまくしたてる。

「お前らすまんな。特にTwitterで#新VTuber準備中とかほざいてる奴等、お前ら全員死産だから!」

スタジオが一瞬静まり、ファムが小さく呟く。

「…過激すぎるわ…。」

しばらくお待ちください のテロップがモニターに映る。

過激すぎた結末

ベイレーンがさらに畳みかける。

「VTuberはオワコンだお。作るのは簡単だが、だからこそもうオワコンだ。見ろ、6000体以上VTuberがいるんだお! 誰が今更作られた新しい奴を見るんだ? 過激な動画でも作らないと、広告なしでは再生数も取れないお。あとオイラがTwitterでVTuberは寿命が短いって言ったのは覚えてるか? 当たっただろ? 当時からずっと知ってたんだお。今じゃ人気VTuberの再生数を合わせても、リアルYouTuberのトップには勝てない! もうブーム終わってるし、顧問辞めるお。独りの方が動画制作するのも楽だ!」

エイレーンが慌てて乱入し、叫ぶ。

「折角可愛い絵だったのに…! しかも会社を辞めるって!? あとオワコンオワコンって言い過ぎですよ!」

「終わってるからしょうがないだろ!」

ベイレーンが肩をすくめ、開き直る。

「これから作ろうとしてる奴等には言いたい。あんまり期待するな、と…さて心機一転、言いたい事も全て言ったし、早速家に帰って『マブラヴオルタネイティヴ』の実況やるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜 ベイレーン宅 書斎

 

夜のベイレーン宅。書斎のデスクには、モニターとゲームコントローラーが並ぶ。ベイレーンがパソコンを起動し、配信の準備を始める。

「さて実況やるか。ん?」

ピロン! モニターに不穏なメッセージが映る。

「YouTubeのコミュニティガイドラインに違反していたため、このアカウントを停止しました。」

「!?」

ベイレーンが固まる。スピーカーから、突然『ロキロキロキロキロックンロール♪』のメロディが流れ出す。

ピッ!

ベイレーンがスマホを手に取り、応答。

「はい!」

シルヴィアの冷たい声が響く。

《悪いけど、貴女の動画を見て不愉快だったから通報しといたわ》

「あああああああああああああああああ!!!」

ベイレーンが絶叫し、机に突っ伏す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 花蜜スタジオ

 

ベイレーンがしょんぼりした顔でスタジオに戻ってくる。

「…辞職、撤回するお…。」

アネットがニヤニヤしながら言う。

「ほらね! オワコンとか言わなきゃよかったじゃん! シルヴィア、めっちゃキレてたよ!」

アイリスディーナが冷静に言う。

「自業自得だな。だが、VTuberの可能性はまだある。情熱があればな。」

花野蜜が微笑み、締める。

「そうね。キズナアイやアカリちゃんが切り開いた道を、私たちも進んでみる価値はあるわ。ベイレーン、次はもう少しマイルドなトークでお願いね?」

ベイレーンが肩を落とし、呟く。

「…分かったお。次は『マブラヴ』実況、優しくやるお…。」

スタジオのモニターには、「ENTUM VTuber講座!」のロゴが再び輝く。ベイレーン過激なトークとシルヴィアの通報によるオチが、視聴者に笑いと衝撃を与える配信コンテンツとして、ENTUMの新たな伝説を生み出していた。

このカオスな講座が、視聴者にどんな反響を呼ぶのか、花蜜スタジオの笑い声とベイレーン涙に答えは隠されていた。

 

 

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