2019年2月27日 株式会社ENTUM 小ホール エクセルヒューマン特売会場
ENTUMの小ホールは、異様な熱気に包まれていた。普段はVTuberの配信イベントや企画会議に使われる会場が、今日は「エクセルヒューマン特売会場」と銘打たれた怪しげな物販スペースに変貌。ステージにはカラフルなバナーが掲げられ、「健康グッズでハッピーライフ!」のスローガンが輝く。会場には、60代以上の老人たちが詰めかけ、無料サンプルのマスクや健康ドリンクを手にソワソワしている。だが、その裏には、ヨメミとアクスマンの企む「ハイハイ商法」の影がちらついていた。
ヨメミがステージに飛び出し、マイクを握って弾ける笑顔。
「今日、ここに来た皆さまは大変ラッキーです! 実は他では手に入らない素敵な健康グッズ、いっぱい持ってきたよー!」
彼女の声は、まるでVTuber配信のテンションそのもの。銀色の髪が揺れ、観客を煽る。
老人老婆一同が目を輝かせ、大合唱。
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
ヨメミがニコニコと続ける。
「今日は沢山の健康グッズ持って来たんだけど、ただね…種類は多いけど数は少ないんだよ。そこで皆さま、『欲しい人』って言ったら『はい』と手を挙げてね!」
狼狽える老婆が、隣の老人に囁く。
「おお…。」
彼女の手には、無料でもらったサンプルのハンドクリームが握られている。
「これ欲しい人!」
ヨメミが元気に叫び、S字フックを掲げる。
「はぁーい!」
老人老婆一同が、恥ずかしがりながらも手を挙げる。
アクスマンがスーツ姿でステージに登場し、ニヤリと笑う。
「意外と恥ずかしがり屋だね、君達は。それではもう一度、欲しい人!」
「はいはいはい!」
狼狽える老人が勢いよく手を挙げる。
「はい! はい! はい!」
物欲に満ちた老婆が、前のめりに叫ぶ。
「はい! はい! はい!」
血糖値が高い老人が、興奮気味に手を振る。
「S字フック!」
ヨメミがキラキラ笑顔で商品を掲げる。
「足踏みマット!」
アクスマンが健康グッズを手に、煽る。
「はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい!」
老人老婆一同の声が、ホールにこだまする。
会場の隅で、アイリスディーナが腕を組み、冷ややかな視線を向ける。
「…何だこれは?」
アカリが隣で首を傾げ、呟く。
「何でしょう?」
犬山たまきが、スマホを手に冷静に言う。
「これって…催眠商法ですよ。」
彼女の声には、VTuberらしい軽妙さと、まとめサイトで仕入れた知識の自信が混じる。
「たまきちゃん! 知ってるの?」
アカリが目を丸くし、たまきに詰め寄る。
たまきがスマホをスクロールしながら説明。
「まとめサイトで見た知識ですが、別名は『ハイハイ商法』って言って、主に60代以上の年齢層をターゲットにして、街でサンプル配って、それを貰いに会場に行くと『はい!』と大きな声で無料のプレゼントがもらえる。でも、熱気が増したら…」
「もういい。それ以上は言うな」
アイリスディーナが鋭く遮り、ステージを睨む。彼女の瞳には、ENTUMの看板を守る決意が宿る。
アクスマンがステージでさらに煽る。
「欲しい方はいるのかね?」
「は、はい! はい!」
大声出す老婆が、興奮して手を挙げる。
笑顔する老人が、袋いっぱいのグッズを見せびらかす。
「わしぁ、こんなに貰ったぞ!」
バーチャルおばあちゃんが、得意げに言う。
「私もこんなに貰いましたよ!」
「わしぁより多い!」
老人が嫉妬混じりに呟く。
アクスマンが声を張り上げる。
「最後に、ウチの特別な商品をご紹介します!」
「とっておきの特別な商品だよ!」
ヨメミがウインクし、観客を盛り上げる。
アクスマンが布団を掲げ、ドヤ顔。
「こちらです! はい、我がエクセルヒューマンが開発した、特許出願中の安眠高級羽毛布団『アカリ』だ!」
「!! ああああああああああああ!! アカリの名前が!!!!!????」
アカリがステージ脇で絶叫し、髪を振り乱す。
「無許可で…!」
たまきが呆れたように呟く。
アクスマンが熱弁。
「この布団が凄いんです!」
「血行が良くなって肩こりが解消し、便秘も治り、高血圧が良くなるよ! がん予防にもなるよ!!」
ヨメミがキラキラ笑顔で煽る。
「寝るだけで健康に…。」
バーチャルおばあちゃんが夢見心地で呟く。
「何故、寝ているだけで健康になれるのか!? 皆さん不思議に思う方も多いと思うが…実はこの中に特殊な石が入っている。その石とは!?」
アクスマンが劇的に叫ぶ。
「その石とは…?」
バーチャルおばあちゃんが釣られて声を上げる。
「何と!」
アクスマンが一拍置く。
「何と!?」
観客が一斉に前のめり。
「ガンに効く事で大変有名なラジウム鉱石が入っているんだよ!」
アクスマンがドヤ顔で締める。
「ラジウム鉱石?」
アカリが首を傾げ、ポカンとする。
アイリスディーナがスマホを取り出し、冷静に読み上げる。
「天然ラジウム鉱石健康情報。ラジウム石は、自らエネルギーを放出しており、ラジウムが水に透過されるとラドンなどの気体元素が発生します。ラドンとはラジウムが崩壊してできる元素で、自然界に存在する放射線源のひとつ。…また、ラドンに強く影響される臓器には、肺がん、骨髄・肺・乳房が挙げられます。と書いてあるが…」
「へぇーっ、そうなんだ!」
アカリが無邪気に反応するも、会場は一瞬静まり返る。
ヨメミがめげずに続ける。
「通常価格の50万円の所、本日に限り特別価格の25万円に致します!」
「今日限りだ。欲しい人!」
アクスマンが手を挙げて煽る。
「はい! はい! はい! はい!」
バーチャルおばあちゃんが興奮して手を振る。
「はい! はい! はい! はい!」
狼狽える老人が続く。
「ありがとうございます!」
アクスマンが笑顔で応じる。
「50万の半額、安いわね!」
バーチャルおばあちゃんが目を輝かせる。
「安いね…はい! 私も欲しい!」
狼狽える老婆が手を挙げる。
楽観的な老婆が小声で呟く。
「私、25万なんて持っていないし…。」
アクスマンがすかさず笑顔で言う。
「大丈夫です! こちらの契約書にサインして頂ければ、後日、商品を自宅までお届けしますよ。その時に支払っていただければ結構です。ローンで分割支払い出来ます。さぁさぁどうぞどうぞ!」
彼の心の声が漏れる。
「(生きる為の処世術だ。仕方あるまい。)」
「どうぞどうぞ! さぁさぁ、25万円だよ! サインしてね。半額だよ!」
ヨメミが契約書を手に、観客に近づく。
アイリスディーナがステージに踏み出し、鋭く叫ぶ。
「(見過ごす訳にはいかないな)貴様、ここで何をやっている!」
アクスマンが振り返り、ニヤリ。
「アイリスディーナ…生きる為にはこれしか方法がないんだよ。邪魔しないでくれたまえ。」
「ヨメミまで…私を交渉道具にしようと企み、詐欺に手を出し、会社まで乗っとろうとし…今度は催眠商法か? 何処まで堕ちるんだ!? 貴様は!」
アイリスディーナの声に、怒りと正義感が響く。
「この世の中には情けなど不要だ。金と権力こそが後の政治結社の発足の道に繋がるんだよ。」
アクスマンが冷笑し、観客を煽り続ける。
アイリスディーナが腕を振り、叫ぶ。
「警備員、此奴らを摘まみ出せ!」
ドドド! 屈強な警備員がステージに駆け上がり、マイクを握る。
「無許可で物販行為をしてるんですか? ご退場を!」
「待ってくれ! 私は催眠商法なんてしてない。ただお年寄りに…!」
アクスマンが弁解するも、警備員に肩を掴まれる。
アカリが呆然と呟く。
「…。」
アイリスディーナが冷たく言い放つ。
「アクスマン、今後一切この会社の出入りを禁ずる。」
「な、何を言ってるのかね!?」
アクスマンが焦って叫ぶ。
「メガマップ! キュア!」
アイリスディーナが鋭く命じる。
「ZMAPPだ! (# ゚Д゚)」
ZMAPPちゃんがステージに飛び出し、怒り顔で訂正。
「御命令を。」
キュアちゃんが冷静に続き、ナース服を翻す。
「その男を摘まみ出せ!」
アイリスディーナが指差す。
「分かったわ!」
ZMAPPちゃんがアクスマンの腕をガシッと掴む。
「了解した。」
キュアちゃんが反対の腕を押さえる。
ガシィッ!
「離せ! 私は何もやってない! 無実だ!!」
アクスマンがジタバタ抵抗するも、警備員とZMAPPちゃん、キュアちゃんに引きずられステージから消える。
会場が静まり返り、老人たちがポカンと立ち尽くす。アカリが慌ててマイクを手に、叫ぶ。
「え、えっと! 皆さん、ごめんね! ENTUMはこんな怪しい商売しないよ! 代わりに、アカリの新動画、絶対見てね~!」
たまきが苦笑いし、呟く。
「…これ、ネットでバズっちゃうかもね…。」
バーチャルおばあちゃんが、無料のS字フックを手に呟く。
「まぁ、無料のグッズ貰えたからいいか…。」
アイリスディーナがため息をつき、ステージを降りる。
「ヨメミ、お前も反省しろ。ENTUMの看板を汚すような真似は、もうやめてくれ。」
ヨメミがしょんぼり頭を下げる。
「ごめんね…でも、楽しそうな企画だと思ったんだよ~…。」
小ホールのモニターには、ENTUMのロゴが再び輝く。このカオスな特売会場が、視聴者にどんな笑いと衝撃を与えるのか、ヨメミの明るさとアイリスディーナの正義感に答えは隠されていた。
株式会社ENTUM 小ホール 楽屋
ENTUM小ホールの楽屋は、ついさっきの「エクセルヒューマン特売会場」の騒動の余波でざわついていた。ステージの片付けが進む中、楽屋のソファにはスナックの空き袋とミライアカリのロゴ入りマグカップが散乱。壁には「健康グッズでハッピーライフ!」のバナーが半分剥がれ、ヨメミの過激な催眠商法とアクスマンの退場劇が、まるで悪夢のように漂う。ヨメミはソファに座り、両手で顔を覆い、肩を震わせていた。アカリとアイリスディーナが彼女を取り囲み、真相を問いただす緊迫した空気が楽屋を包む。
ヨメミがポツリと呟く。
「あれ? 私…。」
彼女の声は、いつものキラキラしたVTuberテンションとは裏腹に、かすれていた。
アカリが目を潤ませ、ヨメミの手を握る。
「ヨメミちゃん! 何で!? 何で催眠商法なんて…!」
彼女の声には、親友へのショックと心配が滲む。
「アカリの名前が布団に使われるなんて、めっちゃビックリしたんだから!」
アイリスディーナが腕を組み、冷ややかに問う。
「何故こんな事を?」
彼女の鋭い視線が、ヨメミの心を突き刺す。ENTUMの看板を守るリーダーとして、ヨメミの裏切りとも言える行動を見過ごすわけにはいかなかった。
ヨメミが顔を上げ、涙目で叫ぶ。
「復讐したかったからです! ベアトリクスに!」
彼女の銀色の髪が乱れ、感情が爆発する。
「ベアトリクスが何かしたのか?」
アイリスディーナが眉をひそめ、冷静に尋ねる。
「うぅ…私は会社辞めてフリーになったのはいいんですが、仕事がなかなか貰えず…収入が万単位じゃなくなって…この為体! 貯金もなければ家も住めない! うぅぅ…!」
ヨメミがソファに突っ伏し、声を震わせる。彼女のVTuberとしての輝かしい日々が、フリー転向後の苦境で色褪せていた。
アイリスディーナがため息をつき、厳しく言う。
「逆恨みも良い所だ。彼奴を敵に回したら、お前も分かってる筈だ。」
彼女の声には、ヨメミへの同情と、行動への非難が混じる。ベアトリクスの影響力と人脈を考えると、復讐など無謀でしかない。
「だって…金がないんだよーーーーーーーーーー!! あぁんまぁりだぁぁぁーーーーーーーーHEEEEYYY!!! うぅ…あぁんまぁぁりだぁぁぁぁぁ」
ヨメミが両手で顔を覆い、号泣。彼女の叫び声は、まるでYouTube配信のコメント欄が荒れるような勢いで楽屋に響く。
アカリが呆然と呟く。
「…。」
ヨメミの感情の爆発に、言葉を失う。
「ぐやじいいいいいいいいいいい!!! (´;ω;`)」
ヨメミがさらに泣き叫び、ソファをバンバン叩く。彼女のVTuberらしいポップなキャラが、リアルな苦悩で崩れ落ちる。
ブー! ブー!
アイリスディーナのスマホがバイブ音を鳴らす。
ピッ!
彼女がスマホを手に、応答。
「私だ…そうか、花野がここに…あぁ、今すぐ準備する。」
ピッ!
通話を終え、アイリスディーナが鋭く振り返る。
「?」
アカリが首を傾げ、ヨメミの号泣を一瞬忘れる。
「花野がここに来る。今すぐ動画撮影に取り掛かれ!」
アイリスディーナがキビキビと指示を出す。彼女の声には、騒動を収束させ、ENTUMの次のコンテンツを進める決意が宿る。
「了解です!」
アカリがパッと立ち上がり、いつものキラキラ笑顔を取り戻す。
「ヨメミちゃん、泣いてる場合じゃないよ! 蜜先生の動画で、ENTUMの看板取り戻そう!」
ヨメミが涙と鼻水を拭き、グスグス言いながら呟く。
「うぅ…でも、私、ベアトリクスに…ぐやじ…。」
アイリスディーナがヨメミの肩に手を置き、言う。
「ヨメミ、過去は水(見ず)に流せ。ENTUMで再スタートを切るチャンスだ。花野の動画で、君の情熱を見せろ。」
ガチャ!
楽屋のドアが開き、花野蜜が少し疲れた顔で現れる。
「…みんな、騒動って何? さなちゃんに1週間休めって言われたけど、呼ばれたから来たわ。」
彼女の手には、ノートパソコンと「アフィリエイト講座」の資料が握られている。
アカリが蜜に飛びつき、叫ぶ。
「蜜先生! ちょうどいいタイミング! ヨメミちゃんが大変なことになって、アクスマンがラジウム布団で…!」
「…はぁ 。」
蜜がため息をつき、ソファに座る。
「エイレーンさんの『S〇X講座』で頭いっぱいなのに、またカオスなのね…。」
ヨメミが蜜を見て、グスッと鼻をすすり、立ち上がる。
「蜜先生…私、間違ってたよ…。もう一度、ENTUMで頑張るよ!」
楽屋のモニターには、ENTUMの新企画の予告映像が映る。「花野蜜の緊急復帰! 次なる講座は!?」と、期待を煽るテロップが流れる。ヨメミの号泣と蜜の到着が、ENTUMの配信コンテンツに新たな波乱と笑いを巻き起こす準備が整っていた。このカオスな楽屋が、視聴者にどんな反響を呼ぶのか、ヨメミの涙とアカリのキラキラ笑顔に答えは隠されていた。