清明、出会いの日   作:ゆづの

1 / 2

 最近ハマりました。漫画は全部頑張って読みました。アニメは3期の的場さん登場シーンくらい。



清明の日、人の声

 

 出会いの季節、春の日のこと。

 その日の空は、突き抜けた青色だった。雲一つ無い碧天、温かな風。春に相応しい、穏やかな日。

 おれは散歩に出かけていた。珍しく大人しいニャンコ先生と、ゆるりと川沿いを歩く。

 どうもこの川下に、新しく和菓子屋が出来たそうで。ニャンコ先生が強く勧めてきたために、今日はその和菓子屋まで歩いているのだ。

 

「なんか、良い日だな」

 

 ポツリと、思わず呟く。そう思うことも仕方ないくらいに、今日は穏やかだ。そう、実際にこの道を歩いていても、妖たちには一度も出会っていない……

 

「……なぁ、ニャンコ先生。なんというか、変じゃないか?」

「む……確かに、妖の気配を一切感じん。これ程のことはそうそう無いな」

 

 ふと突然気がついたその事実に、ほんの少しだけ恐怖を覚える。妖とこんなにも出会わないだなんて。知っている妖もいなければ、知らない妖もいない。ただ、草たちの生命の音がざわめくだけ。

 正直、あまり良い気はしない。こういう時は、かえって不気味なものだ。なにか、不吉なことが起きる前兆。

 とはいえど、今更引き返すような気にもなれない。けれど、まぁ、ニャンコ先生も側にいるし、大丈夫だろう。

 そう思って歩くこと数分。

 突然、ニャンコ先生がその瞳を鋭くした。

 

「夏目、気をつけろ。いるぞ」

「……ああ」

 

 もはや無意識の内に、友人帳の入ったカバンへと手が伸びる。渡さない、たとえ何があろうと。

 おれ達が警戒しだした途端、ごうと風が強く吹き付けた。

 

「……っ」

 

 思わず目を瞑る。その風は春に似合わぬ冷風で、嫌に身体がぶるりと震えた。

 やっぱり、来た!

 

「レイコォ……寄越せ……寄越せェ……友人帳を、寄越せェ!!」

 

 体の芯から震えるような、低い声。蛙のような見た目の妖怪が、目をギラつかせておれに飛びつく。

 ニャンコ先生が、退治しようとしたその瞬間____

 

「おいおい、こいつぁどういうこった。ガキを襲うなんざぁ、あほらし」

「ギャアーーッ!!」

 

 何者かが颯爽と蛙の妖を蹴飛ばした。蛙の妖はなんとも言えない悲鳴を上げて、遥か向こうへと吹っ飛んでいく。

 

(誰だ、妖か?!)

 

 カツン、とその妖らしき者が地へと降り立つ。下駄を履いた、和装の鬼のようだった。しかしその容姿は極めて人と近しくて、鬼であると分かるのはその額に生えた角のみ。

 人間離れした彼の美貌に、ごくりと息を呑んだ。

 

「おい坊や、大丈夫か? 怪我はねぇか」

「あっ、はい」

 

 声をかけられて、ハッと我に帰る。そうだ、この人は妖だ。いくらなんでも油断しすぎだぞ。気を付けないと、襲われるかもしれない。

 ……けれど、助けてくれた。

 

「……夏目、しっかりせぬか! なにをぼうっとしとる! こやつ、見知らぬ顔だぞ! 何をしでかすかも分からん!」

「!」

 

 そうニャンコ先生に言われて、意識が戻る。一体どうしたんだ。いくらなんでも、変じゃないか、今日のおれ。

 焦って後ろに下がれば、その妖はカラカラと笑い出した。鋭い牙がちらりと見えて、思わず背筋を凍らせた。ふと、妖の纏う雰囲気が激変する。

 

「へぇ、夏目。坊や、もしや噂の夏目かぁ? そこら辺の雑魚どもから聞いたぞ」

「まさか……この辺りに妖が少なかったのは、おまえか!」

 

 キッと妖を睨みつけるけれど、全く持って動じていない。やはり友人帳狙いだったのか。

 沸々と怒りを沸き立たせていると、目の前に白いモフモフが現れる。ニャンコ先生がいつの間にか姿を変えていたのだ。

 ニャンコ先生はおれを守るように尻尾で隠していて、その表情はいつもと違って真剣だ。

 

(まさか、そんなに危険なのか?!)

 

「おお、久しぶりに見るなぁ、オレと近しい強さのヤツ……おまえ、強いなぁ……嬉しいなぁ……」

 

 妖の笑顔が、徐々に歪なものへと変化する。なんとなく空気も重くなり、気分が悪くなってきた。

 ニャンコ先生は変わらず妖を睨みつけていて、どうも相手の出方を伺っているらしい。

 ああ、どうしよう!

 

「きひひ! 決めたぁ! ……おまえを喰って、坊やも喰ってやるよ!!」

 

(っ、ニャンコ先生!)

 

 思わず目を瞑ったその瞬間。

 

「だめでしょう……(ユキ)

 

 とても、とても美しい声を聞いた。

 

「げっ?!」

 

 恐る恐る目を開けると、いつの間にかニャンコ先生は元の姿に戻っていた。その視線の先では、ぼんやりとした何かとあの妖が話している。

 

「あれは……?」

「知らん。ただ、あれは不可視の呪いだな、姿が見えん。が、大方あの妖の飼い主だろうな」

 

 「まったく、主の言う事くらい大人しく聞けばよいものを」と溜め息を吐いたニャンコ先生。思わずジト目で見てしまう。

 

「ニャンコ先生がそれを言うか?」

「にゃにおーう?! きちんと用心棒しとるではないか!!」

 

 ぷっ、と吹き出すと、向こうで言い合いをしていた妖がこちらを見てきた。つい反射で逃げ出しそうになってしまう。けれど、その妖からは、もう先ほどまでの邪悪な雰囲気はなくなっていた。

 

「えっとな……その、悪かったぁな。ちょっと最近ストレスが溜まっててよぉ」

「ふん、どうともないわ。貴様のような妖、私なら楽勝よ、楽勝」

「先生……! まったく……大変ですね、あなたも」

 

 頭を抑えながら、ぼやけて見えるその妖? に話しかける。すると、目の前の鬼の妖とニャンコ先生が驚いたように目を見開いた。

 

「見えるのか……?!」

「夏目、おまえ見えてるなら言わんか!」

「えぇ……だって、先生も同じこと言ってただろ? ほら、あそこに。ぼんやりとだけど、いる」

 

 そう言って指を刺すと、鬼の妖がはぁ、と溜め息をつく。ニャンコ先生が視界の端で、「言っとらんわ! 声が聞こえただけよ! 姿が見えぬと言っただろうが!」と訴えるが、さして重要ではないので無視をする。

 

「聞けー!!」

「まじかぁ……だそうですよ、お嬢」

 

 「お嬢?」とおれが首を傾げると、ぼんやりとしたその人が歩き出す。長い、髪……だろうか、黒いもやっとした影がひらひらと揺れている。

 そして、鬼の妖の頭をスパンッと叩いた。

 

「あいったぁ?!」

「罰です。せいぜい反省なさい……ええと、すみませんね、巻き込んでしまって。それでは、失礼いたします」

「あ、はい……って、待て!」

 

 薄れゆくその妖らしきものに返事をしたが最後、鬼の妖は「すんませんっしたぁー!!」と声を上げながらその人とともに消えていった。呼び止めるけれど、それはもう遅かったようで。はぁ、と肩を落としてため息をついた。

 

(一体、何だったんだ?)

 

 胸に残る疑問を抱えながら、おれはニャンコ先生に話しかける。

 

「……誰なんだろうな、あの妖っぽいの」

「さぁ。それより、さっさと行くぞ! 和菓子が私を待っとる!」

 

 そうしておれは、あの美しい声の妖らしきものを思いながらも歩き出したのだった。

 

***

 

「全く、何をしている、行。新天地とは言えど許さんぞ」

「くっ、お嬢、許してくだせぇ……!」

「阿呆が、夕飯はやらんぞ」

「そんなぁ?!」

「それより早くしろ。皆待っているんだ」

「ひぇ〜!」

 

***

 

 後日、学校で。

 何やらクラスの皆が騒いでいた。聞けば、転校生が来るらしい。なるほど、確かに机が一つ増えている。

 女子だと良いな、カッコいい男子だといいな、どこの席に座るのかな。そういった話題ばかりだ。

 

「よっ、夏目!」

「北本! 西村! おはよう」

 

 ふぅ、と息を吐いて席に座ると声をかけられる。見れば、二人揃ってやけにニヤついていた。

 

「聞いたか、夏目?」

「何を?」

「転校生だよ、転校生!」

 

 興奮した様子で腕をふる西村に、大きく頷く北本。なるほど、転校生は女子か。

 

「なんでもちょーカワイイらしくてさ! というよりかは美人らしいけど!」

「うちのクラスにその子が来るんだぜ?」

 

 いいだろ? と相槌を求められたので、そうか、とだけ返事をする。

 くねくねと身体を捻ってまだ見ぬ転校生を想像する二人の後ろに、一人の人影が近づいた。

 

「あっ」

「なんだよ、やっぱり夏目も気になるんだな?」

「へ〜、そうなんだ」

「「っげ?!」」

 

 そう、後ろにいたのは笹田だった。なにやらメガネが光っている。明らかに二人の顔色は悪くなっていた。

 

「そうだよね、皆転校生気になるよねぇ?」

「ま、まぁ誰か気になるのは当たり前だし?」

「な、な?! 夏目!」

 

 助けを求めるような目で見られたので、曖昧に答えると笹田がニッコリと笑った。

 

「ま、別に私も気になってるからいいんだけど」

 

 へぇ、と声を上げた瞬間、チャイムが鳴る。一斉に椅子を引く音がして、少しうるさかった。

 にしても、皆があれほど興味を持つなんて、一体どんな人なんだろうか。

 頬杖をつきながら考えていると、担任が入ってきて声を上げた。

 ぼんやりと聞き流していると、突然クラスから歓声が上がる。驚いて顔を上げると、ガラッと扉が開いた。

 

 現れたのは、きれいな人だった。美しく、整った容姿。それこそ、名取さんのようなキラめきを纏っている。男女両方から黄色い歓声が上がった。髪が短く、中性的な面立ちのためかパッと見たらどちらかは分からない。制服を着ているお陰で、女生徒であることは認識できた。

 そして、その人はツカツカと歩いて黒板の前に立ち、チョークを手に取った。達筆だった。

 

「みなかわ……せい? きよ?」

 

 誰かがその字を読み上げる。そして、彼女は振り返って、口を開いた。

 なんとなく、聞き覚えのある美しい声だった。

 

「私は(はる)皆川晴(みなかわはる)と申します。どうぞ、よろしく」

 

 どこまでも深い、吸い込まれそうな黒の瞳が、おれを見ているような気がした。

 





 評価・感想よければお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。