マナタン博士の自由実験録   作:ノウ焼かれしもの

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投稿遅くなりました。今回は殿下との会話がメインになります。


記録5

 

 

───サルカズの伝承において、三王と博士との話は有名だ。話のバリエーションは変わるものの、概ね以下の内容と合致している。

 

今のカズデルが作られるずっと昔、三人の王は獣の姿をした賢者と出逢った。

賢者は三人の王と契約し、契約が果たされるまでを国に滞在する条件とし、三人の王について行き国を豊かにした。────というのが、サルカズの子供に聞かせる童話の冒頭だ。

 

話の真相を知るのはレヴァナントや十王庭の当主。そしてその時代において魔王になることが確約された者のみに伝えられた。

これは三王が死去し真実を知る者が減少したこと、現在までカズデルが幾度も崩壊し、各地で生き延びたサルカズ達の口伝により話が変化していったからだと考えられている。

 

また、ここで重要なのは、博士という単語は伝承内にて一切登場せず代わりに全て"賢者"という単語に置き換わっていること。博士が残した予言についての記述が存在しないことだ。これらによって直接的に博士が実在し予言を残した事実が消え、徐々に博士は賢者という架空の存在に置き換わっていった。

 

 

故にサルカズ達は、一部を除き博士の存在を知らない。

だが確かに、賢者(博士)の存在は長い間信じられていた。それは何故か。

 

それは博士という存在が三王の時代のサルカズ達の脳を焼き、彼を忘れずに何かに遺そうとしたからだ。

魔王達が亡くなり、その後の壮絶な苦しみを味わってもいつか博士が来ることを信じていたレヴァナント。彼らと同じ思いを抱く者が残り続けていたのだろう。例えがその存在が変化しようとも、本質だけは遺すと考えたように。

 

 

それは今、目の前で王庭の当主達と会話するマナタン博士を前に、警戒するテレシスも変わらない。

彼も元を辿れば、衛兵の仕事をしていた一般のサルカズ。つまり賢者の童話を聞いて育っていると言える。

加えてテレジアが魔王になると決まり、十王庭の面々から童話の真相と予言について聞かされたのもほんの少し前。

 

幼少から聞かされてきた童話の真相に、賢者が遺した一つの予言。それの理解すら時間が足りぬと言うのに、よりによって妹が魔王になるこの時期で予言が実現。博士という不明な存在がカズデルに居座ることが決定したことに頭を悩ませていた。

 

そんな訳で、冗談であってくれと仏頂面の中で悶えるテレシスを他所に、博士は一人一人を観察していた。

 

「ふむ、どうやらこの場にいない者もいるが、王庭の者は炎魔を除き存命のようだ。………最も強かったバロルサッカがあの時亡くなったのだ、滅んでもおかしくないか。

いや何、気にしないでくれ。私の独り言さ。それより、私が来たのはこのような小言を言うためではないのでね。そこをちょっと通してくれ」

 

そう言いながら、博士はゆっくりと近付いていく。目指すのはこの場における頂点、冠を戴く者の玉座。

一歩、二歩、三歩と、徐々にその距離は縮まってゆく。

 

だがその歩みは、今しがた席を立ち、博士の前に立ちはだかるテレシスによって止まった。

 

 

「おや、君は……成る程。私が彼女()に近付くのを不安がっているようだね。

つい最近、私のことを知ったのだろう?そう不信感が募るこも無理はない。

こんなことを言ってもなんだが、私は彼女に酷い事をするつもりは一切ないとも。ただ、彼女に祝福を授けるだけさ。

彼女がどのような王になるかはさておき、私はその道を見届け、必要な時に少しばかり手助けをする。私はこの約束を破るつもりはなく、君が思うような道を辿ることはない。

だから、ここは通らせてもらう」

 

博士は止めていた足を前に踏み出し、テレシスの身体をすり抜け、再び歩み始めた。もう彼の眼中に、一人のサルカズの男の姿は映っていなかった

そうして遂に、博士は魔王が座る玉座の前に辿り着いた。

 

博士を視る彼女の顔は、笑顔のまま変わらない。しかしその目は複雑な感情を隠しきれない。

そんな様子の彼女を、博士は落ち着かせるように語り掛ける。

 

 

「はじめまして、冠に選ばれし新たなサルカズの王よ。君の兄君には少し嫌な思いをさせたかもしれないが、許してくれ。

それと、私が何者であれ焦る必要はない。例えその目が私を正しく映せなくとも、私は君達と共にある」

 

「……私はあなたについて殆ど知らない。けれど、過去の記憶からあなたのことについて識ったつもりよ。あなたが彼らにした行動には、確かに優しさが、温かさがあった。

それでも、本当にあなたが分からない。なぜあそこまで、彼らを助けたの?あなたに何か得があった訳でもない筈、なのになぜ?」

 

「………得は確かにあった、と言えばいいのか。私は当時の彼らから、多くのものを教わった。それは彼らや、今の君達にとって然程どうでもいいことだろう。しかし私にとっては、とても貴重な体験であったに違いない。

だから、私は言葉を彼らに授けた。

 

多くの死があり、何度も国が焼けた。お互いを傷つけることもあった。裏切りもあった。その時に私がいなかったのは、本当に申し訳ない。薄情者だと言われても、私は受け入れる。

 

それでも、私は君達に会いに行くと。君達が望みに近付けるよう、いつか、必ず手助けをしようと。その想いに偽りはなかった。

そして、番が回ってきたのが今の君なのだよ、テレジア君。………私からは以上だが、他に聞きたいことはあるかね?」

 

「……………では最後に、一つだけ」

 

博士の想いを感じ取ったテレジアは、絞り出すようその口から一つ問いを投げ掛ける。

 

「今の世の中は、決して平和とは言えない。鉱石病による差別や迫害などがある以上、争いはなくならない。サルカズだけじゃなく、この大地に生きる全ての人が傷つき、苦しみ続けている。

けれど、私はそんな世の中を変えたい。サルカズだけじゃない、全ての人が手を取り合って平和に生きれるようにしたい。

だけど、今の私達では何もかもが足りない。現状ただの夢物語に過ぎないし、実現にも時間が掛かる。

だからこそ、あなたに協力してほしいの。全ての人が一緒に暮らせるように」

 

「……成る程。少しだけ待っててくれ。すぐに終わらせるとも」

 

そう言って博士は、空中に幾つかの映像を映し出した。その大半はとても凄惨なものばかりだった。

しかしその中で一つ、テラに住まう様々な種族が共に暮らす姿があった。博士はその映像のみを残し、コピーし、それぞれに文字を書き加え始めた。

その作業を何度か繰り返した後、博士はテレジアに告げた。

 

「すまない、待たせた。それで先程の件だが、テレジア君」

 

「はい」

 

「君の望みに協力しよう。私もできるなら、平和が一番と考えているのでね。

だが、これだけは言っておこう。君は穏便にその夢を叶えたいだろうが、間違いなく犠牲は出る。例え万全を期したとしてもだ。それが多いか少ないかは別として、それほどまでに君の望みは大きいのだ。

そしてもう一つ。今回の協力は彼らとの約束の外にある。故に、私ができることは限られる可能性がある。その二点を踏まえ、それでもいいというのであれば、握手を」

 

そう言って、博士はテレジアに右手を差し出した。その目は全く見えないが、感じるのは先程と一切変わらないとても穏やかな視線だけだった。

 

 

結果的に、テレジアは博士の手を取った。二人が親しい関係になるかは別として、ここに新たな魔王の誕生とカズデルの復興開始。そして、賢者の帰還が確認された日となったことは、各地のサルカズに伝わるだろう。

 

 

しかし、同時にこの状況を静かに見ていたフェリーンもまた、動き始めた。

 

 

 

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