今回は博士がパトおじを殴ります。戦闘描写は少ないので、解釈違いだったら申し訳ありません。
最初の一撃は、衝撃が殆ど無に等しく、重さを感じられない。子供がちょっかいを出すような、蚊が皮膚を僅かに貫き血を啜るような、そんな軽い、頭上からの小突き。
故にボジョカスティは防御が遅れた。正確には敵影の認知や防御の思考が行われる前に、無抵抗のまま地面に叩き付けられた。
数秒の間目眩を起こし、やっとボジョカスティは気付く。己は今、何者かに襲撃を受けているのだと。
すぐさま立ち上がり、土埃を払い除けて衝撃が飛んできた頭上に視線を移す。が、視認後にボジョカスティは硬直した。
「ふむ、やはりこの程度では気絶するには至らないか。頑丈さはネツァレムの元にいた時から健在のようだな。これなら、多少痛くしても死にはしないだろう。後は気絶まで何とか持っていきたいが…………。
ん?おっと、これは失礼。戦士たる君を戦場で放置とは、大変無礼なことをした。何が起きているか分からないという顔だが、君は恐らくお喋りよりも
─────覚悟するといい、ボジョカスティ君。今君の前にいるのは、全戦全勝に泥を塗ろうとする悪しき獣なのだから」
大きさは2、3m程度。四肢があり、頭があり、声も発する。
だがそのどれもが曖昧で、霧がかかっているかのようなシルエット。何の種族か推測しようにも、特徴等の情報が一切ない。
但し、そこから伸びる二つの薄い光と、シルエットの上から被せられた衣類からその正体を断定できた。
カズデルの守護者、古き獣。或いは気まぐれな謎多し研究者。
通名をマナタン博士と呼称される存在が、そこにいた。
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「何故貴方が、此処に?貴方はカズデルから離れないのでは…?」
「私は元々独り身でね、カズデルに滞在するのも当時の予言や殿下との契約を果たすため……それ以外は干渉する意味も、カズデルに身を置く理由もないのだよ。
それに、私は博士だ。当然ながらフィールドワークは行うものだろう?
今回のフィールドワークの対象はボジョカスティ君、君だ。こんなお喋りよりも、是非私に抗ってもらいたい」
そして、ボジョカスティ君への私の攻撃が始まった。ボジョカスティ君の周りのウルサス人達は邪魔なので、気絶させて安全を確保しておく。後で私を見た記憶に処理を掛けさせてもらうがね。
さて、気を取り直してボジョカスティ君の攻略に移るが、彼はとにかく硬い。これが今回の最も大きな障壁となる。
彼の命を刈り取るだけなら容易いが、目的はあくまで彼の意識を一時的に奪い、ウルサスから連れ出すこと。
となれば彼を意識外から攻撃し気絶に追い込みたかったのだが、流石はこの大地における最強の個人。下手に加減したせいか、僅かな時間目眩を起こしただけでピンピンしている。
なので、次は真正面から接近戦を行い、彼を疲弊させることにした。
「どうしたのかね?守りに徹するばかりで攻撃に転じない、まるで甲獣を相手に遊んでいるようではないか。もっとやる気を見せてほしいのだが…」
当たれば致命傷になるだけの力を敢えて込め、ひたすらに連打する。
回避を間違えれば危険な攻撃ばかりに、彼は防ぎ続けるしか方法がない。例え彼が接近戦から逃げようとしても、彼の影から槍を打ち出す、ブラフで幾万もの守護銃を空中に浮かべる等の遠距離攻撃を匂わし、彼の退路を潰し続ける。
そして、どのような物にもいずれ終わりはある。ここまで私の攻撃を耐え、酷使され続けた盾は次第に亀裂が走り、遂に決壊を迎える。
「仕方ない、君は大人しくここで大地のシミとなるがいい。大切な家族も守れない、哀れなウェンディゴよ」
彼の胸元にスルリと拳を一発、二発と叩き込んだ。叩き込まれた攻撃の勢いに飛ばされ、彼は背後の森を突き抜け、絶壁の岩山に衝突。そのまま倒れ込み動かなくなった。
だが、私はボジョカスティ君に近寄らない。ある程度の距離は詰めるが、3mより先は決して駆け寄ったりしない。そこから先は彼が最速で行動し、私に仕掛けられる射程範囲だからだ。
しかし何故今それを言うのか。決して臆病だから等ではない。
彼は、私の攻撃をすんでのところで防いだ。いや、防ぎれなかっただろうが、己の
今ああやって倒れ込んでいるのも、私が射程に入るのを待っている。故に無策で駆け寄る訳にはいかない。
なら好都合だ。今この間に、私の力を持って彼を拘束する。それで、この戦いも終結する。
「君がその状態で待つというのならば、こちらにも考えがあることを見せよう。
……汝、今この時より、その体勢から動くことを禁ずる。
汝、体躯に力を込め、動く意志を持つことを禁ずる。
汝、思考し、目を開くことを禁ずる。今は眠ることだ。
………これで準備は整った。さて、後は私自らが試すだけだ」
ボジョカスティ君に力を行使し終え、彼に歩み寄った。
次の瞬間彼は立ち上がり、私に攻撃しようと試みるが、映像を逆再生するように、元のうつ伏せの状態に戻る。
彼はひたすらに抗うが、次第に振動や声は小さくなり、最後に残ったのは頑固で不器用なウェンディゴが奏でる、平和な一時の時間にしか見られない数少ない寝息だけだった。
完全に鎮圧したことを見届けた私は、指を軽く鳴らして空間を開き、そこへ寝息を立てるボジョカスティ君を放り投げる。
次に、いい感じにボロボロになった彼の装備品や衣類を生成し、彼の血と同じ匂いや成分のインクを大量に垂らして地面に設置。
ついでに、ボジョカスティ君との戦闘で崩れた環境を整えることも忘れずに。
最後に、彼が装備していた物と同じ通信機器を生成し、気絶させたウルサス人の声を模倣し、通信を繋げてこう伝える。
『たっ、大尉が!大尉が何者かに襲撃されています!!現在交戦中ですが、敵の数があまりに多く何時まで保つか分かりません、至急応援を───』
そこまで言い切った後、こちらからの回線を遮断し、音声だけを聴けるようにした。が、やはりというべきか彼の部隊の隊員達の焦る声と、彼の上司であるヘラグ将軍の声が流れてきた。それを確認しつつ、気絶させたウルサス人達に記憶処理を行う。
だが、今回やることはとてもシンプルだ。私を見た記憶の部分を別の誰かに置き換える、それだけである。他は一切手を加えない。
こうすれば、ボジョカスティ君は確かに何者かに襲撃を受けたが、それが誰かを断定できなくなる。かつ先程の報告で複数いたと伝え、現場にいた者の記憶を改変したので余計に特定は厳しくなるだろう。
「さて、偽装工作も一先ずはこれでいい。ボジョカスティ君を送った場所に行くとしよう。彼が目を覚ませば大変なことになるのでね」
そう独り言を溢し、博士は空間を開き姿を消した。これが英雄ボジョカスティの消息不明、その裏側と全貌である。
そしてこの日を境に、黒き蛇は少しずつ、静かに動き始めた。【コシチェイ】を、かの龍門執政者の娘に継承させるために。