マナタン博士の自由実験録   作:ノウ焼かれしもの

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アニメ版アークナイツ3期、及び長かったレユニオン編が終わりました。この小説もそこまで書けるよう頑張ります。


記録8

 

 

 

 

「博士よ、貴方が私をウルサスから引き剥がした、それには意味があるのだと理解しよう。

ヘレンとグロワズル、2人が貴方の手によって死を免れたこと、深く感謝する」

 

「だからこそ、貴方が解せない。何故私を助けた?私に何の価値がある?

貴方がサルカズにしてきたことは、正しくサルカズの繁栄と守護に繋がっていた。その心の温かさは殿下と同じ様に、全てのサルカズに向けられたものだ。

ならばこそ、このような故郷を離れた一介のサルカズに向けられるべきものではない筈だ」

 

椅子に深く腰掛け、懺悔をするかのようにボジョカスティは語った。

 

ボジョカスティ君をウルサスで確保して早一ヶ月が経過した。その間に私は彼の部下達に会いに行き、諸々の説明をしてウルサスから離反させたり、龍門に行きウェン夫妻やその娘達に会ったりと活動をしていた。

 

まあそのせいで、不運にも不死の黒蛇と出会ってしまったがね。

 

不死の黒蛇。今はコシチェイという名で生きる寄生虫のような存在。三王の時代に一度見掛けたきりだったが、今も生き長らえているとは。

 

正直なところ、彼を今すぐ魂と依代ごと消すのが手っ取り早い。が、それをしてしまうと、タルラがコシチェイの元から離れレユニオンができることも、感染者の居場所が作られる未来もなくなってしまう。

故に彼を消すのは、タルラから離れた瞬間に行う他ない。それまでは様子見程度に観察しておこう。

 

さて、その問題は一先ず置いておくとしてだ。現状私が何とかしなければならないのは、ボジョカスティを説得し、感染者の盾になるよう導くことだ。

 

彼が遊撃隊を組織しなければ、エレーナと出逢わなければ、この世界の流れは大きく変わってしまう。つまり、カズデルの溶炉が紡ぐIFの未来、それと相違ない道を辿る可能性がある。それは私としても、この世界の為にもならない。

 

 

故に、ここでボジョカスティには感染者の盾として、戦い続ける道を歩んでもらう。その為の説得は必ず成功させるとも。必ず。

 

 

「それは違うぞボジョカスティ君。確かに私は、全てのサルカズに対し分け隔てなくありたいと思っている。だが今回君と話しているのは、その考えを越える事情が関係しているからだ。

君の家族を助けたのは別として、君を強引にウルサスからここに連れて来たのは、ひとえにある頼みを聞いてもらうためだ」

 

「貴方が、この私に頼みがあると…?それは一体、どの様なことか?」

 

「君も知っている通り、今ウルサスでは多くの感染者が殺され、虐げられている。

私としては、それが気に入らない。感染者であれば他の者も同じ気持ちだろう。

だが虐殺を行っている者が末端のウルサス軍人であることや、私自身が行うとなると国家間のいざこざに発展しかねない点を踏まえ、直接手は出せない」

 

「そこでボジョカスティ君には、感染者を守護する盾として、感染者を助ける活動をしてもらいたい。

君は今、私の隠蔽によりウルサスでは死んだ扱いとなっている。しかし生きており感染者を助けていると情報が広がれば、君は感染者の希望、ウルサスに対しての圧力となるだろう。君には、それだけの力と価値がある。

 

───これが君への頼み、もとい提案だ。疑問があるのなら、遠慮なく聞いてくれ。答えれるものはなるべく答えよう」

 

説明を終え、私は懐から数枚紙を取り出しテーブルに広げる。それぞれ、ボジョカスティが活動するに辺り考えてきた資料、そして契約書である。

 

その内一枚を手に取り、彼をちらりと見ながら話す。

 

「そうだそうだ、忘れていたよ。君が質問をする前に、私が考えた君の疑問を晴らしておこう。

 

第一に君の家族についてだが、彼らの身の安全は私が保証しよう。2人のことは既に殿下に伝達済みであり、カズデルにいる間は何も問題は起きないだろう。そうでなくても、2人をこの活動による戦いに巻き込まないと誓おう

 

二つ目に活動についてだが、こちらから装備や食料などの物資を提供しよう。私から君に提案したのだ、これくらい問題ないとも。

 

それと、ボジョカスティ君には伝えてはいなかったが、今回の活動には君の部下達も参加することになった。

君の生存を彼らに伝えたところ、大尉について行くと言って軍を辞めてしまった「なんだと…?」……すまない、そんなに怒らないでくれ。私もまさか辞める決断をするとは予想外だったのだよ。

ただそれだけ、君を慕う者も、信頼できる仲間もいるという証明でもある。詳細は後で本人達から聞いてくれ。

 

取り敢えず、私からは以上だ。これらを踏まえ、疑問があるならば言ってくれ」

 

「ならば、貴方に問いたい。貴方は一体、私に何をさせたいのか」

 

「ふむ、それはどういうことかね?」

 

活動の内容について、説明が足らなかったか?ならもう少し詳しく説明しようか。そう口に出そうとしたが、すんでのところで飲み込んだ。

 

「貴方の提案に、異論はない。ヘレンとグロワズルの恩もある、貴方が望むなら従うのみだ。

だがそれ以上に、貴方の考えが私には分からない。殿下が魔王になられたあの日から、ずっとだ。

貴方の言葉に嘘はない。しかし、それだけだ。嘘は無くとも、その言葉に付いた影を私は見逃さない。

 

博士よ、貴方は何をしようとしている?我々サルカズに何を求めている?」

 

答えろと言わんばかりに、ボジョカスティはこちらを注視している。間違いなく言い逃れはできないだろう。しかしボジョカスティに気付かれるとは、私もこの数千年緩くなったのかもしれない。

幸い、彼は私の本質に手が届いたわけではない。彼を誘導していることに気付いたことだけ。

 

ならば、ここは一つ彼女に貸しを作っておこう。後で謝罪案件だろうがね。

 

「はあ、これはすまないことをした。ボジョカスティ君、君はどうやら誤解しているようだ」

 

「誤解だと?」

 

「そうだ。確かに君が言った通り、君には伝えていないことが幾つかある。その内の一つが、この活動が私個人のものではないということだ。

 

先程物資の提供の話をしたが、幾ら私でも装備以外の物資を供給し続けるのは厳しい。そこに医療品類も含まれていると考えれば、尚更だ。

しかし、協定を結んだとある組織との交渉により、この活動は完成を迎えた」

 

そこまで言ったことで、ボジョカスティは何かに辿り着いた様子で声を震わせた。

 

「組織とは……まさか」

 

「ああ、その通りだとも。

この活動は私を含めたカズデル技術部門と、ケルシー子爵・テレジア殿下が運営するバベルとの共同で行われる。子爵も殿下も、この活動に賛成してくれたということだ。

そして、物資提供の条件として、君を含めた感染者に協力・保護の要請を行うことが取り決められた。

 

これで、誤解は解けたかね?」

 

返答は既に出された。その場の沈黙が、他ならぬ証だった。

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

「…………それでは、最後の確認を行う。発見した感染者が子供だった場合、規定の年齢に達するまで我々遊撃隊が責任を持って育む。規定の年齢に達した場合、その子と話し合いどうするかを決める。問題ないか?」

 

「問題ありません。………というか、何で俺達がそんなことをしなきゃならないんだ?」

 

「分からん。だが噂では、博士が新たに追加したものらしい。大尉が認めている以上、我々が知る由もない。文句があるなら、博士にでも言いに行くか?」

 

「いや、やめておく。あの人に下手のこと言ったら大尉との訓練が厳しくなっちまう。俺はもうごめんだね」

 

「同感だ。幾ら元軍人である我々でも、大尉との模擬訓練は文字通り国を相手にするようなもんだからな」

 

「違いねぇ!」

      

遊撃隊の若い男達は気付いていない。まさかすぐ後ろの岩山から、件の大尉が眺めているとは。

そして大尉と呼ばれ慕われる男も、横に並んだ存在から話し掛けられて漸く気付いた。

 

「彼らは新入りのようだが、行かなくていいのかね?」

 

「博士か。この程度、私が気にすることではない。談笑の時間すらなければ、それは最早ただの戦場なのだから」

 

「ふむ、どうやら君も少し変わったようだ、ボジョカスティ君。いや、遊撃隊の偉大なリーダー、パトリオットと呼ぼうか?」

 

「貴方にその名で呼ばれると、どうにも落ち着かない。何故だろう」

 

「ふむ、今すぐ試してもいいが、生憎私は別の場所に行かねばならない。何かあったら私に連絡するといい。なるべく早く駆けつけるとも」

 

「………貴方に連絡することが、死ぬまでに無いことを祈っている」

 

そう言った一人のウェンディゴに背を向け、私はすたすたと歩きながら、その場を立ち去った。

 

ボジョカスティが感染者の救助活動を了承し五ヶ月。遊撃隊は次々にウルサスの鉱山や強制労働施設を襲撃し感染者を救出している。

ただし無闇矢鱈に突っ込むのではなく、踏むとウルサスが本腰を入れかねない拠点は触らない辺り、ボジョカスティの指揮官としての力は素晴らしいと言えるだろう。

 

何より、あれからボジョカスティが私を深く怪しむことはなくなった。無事に信頼を勝ち取れたと言えるだろう。

 

さて、話はここまでにしておこう。というのも、どうやら既に囲まれているようだからね。

 

 

「さて、ここまでくれば十分だろう。

そろそろ姿を見せたらどうかね、皇帝に仕える近衛兵達?」

 

 

ゆらりゆらりと生い茂った木々の隙間から、黒い影が這い出てきた。その数4つ、いや、4人と言うべきだろう。

 

ウルサスの意志を代行する悪魔達が、一人の獣を仕留めに来た。

 

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