「うーーーん……」
地球から撤収したネオ・ジオン本隊の一つであるグレミー隊旗艦リベルタスの食堂にて、ネオ・ジオンのスーパーエース「深緑の彗星」ことフィーリアス・アズナブル少尉は何やら不満気な様子を見せていた。
「フィーリアス、何が不満なの?」
「いや、お母さんの姓じゃなくなったのがなぁ」
エルピー・プルの問いかけにフィーリアスは自分の姓がワンからアズナブルに変わった事が不満だと答える。
「なんだそんな事か。総帥の弟として特別待遇を受けられるのに何が不満なんだ」
フィーリアスの言葉にプルツーは思わず呆れていた。プルツーからすれば自分達プルシリーズと違って名前が与えられている時点で遥かに恵まれているのに、シャア総帥の弟扱いされる事の一体何が不満なのかわからなかったのだ。
「だって僕はお母さんの子供なのに。ワンじゃなくてアズナブルになるなんて」
「すごくしょうもない理由だな。いい機会だし親離れしたら?」
「え、いやだ」
「……マザコンが」
相変わらずミンファ博士の事が大好きなフィーリアスをプルツーはジト目で見ていた。
「えー、別にあの人は全然気にしてないと思うけどね〜。そんな事気にせずにいつも通り博士に甘えればいいんじゃない?」
「そうかな?」
「そうだよ!」
「…………うん、お姉ちゃんの言う通りだね。僕の名前が変わってもお母さんはいつも通りだよね。僕が悩む必要なんてなかったんだ!」
プルの励ましにフィーリアスは考えを改め機嫌を直す。
「じゃあお母さんの所に行ってくる!」
「いってらっしゃーい」
「アイツいつも通りだな。あの調子で親離れできるのか?」
「んー、難しいんじゃない?まあそんな所が可愛いけどね」
「えっ、可愛い……可愛いのか?」
フィーリアスを見送ったプルの言葉を聞いて、プルツーはあれが世間一般では可愛いのだろうかと疑問に思ったのであった。
「まさかフィーリアス君が総帥の弟になるとはねぇ。総帥は彼のどこが気に入ったんだろうね?」
「わかりません。私はニュータイプではないので人の心は読めませんし」
リベルタスの一室ではミンファ博士達ニュータイプ研究者が休憩しつつ雑談をしていた。
「しかし君は全然動揺してないね。愛息が君の手から離れる事になるのに」
「総帥の弟になるのはあの子にとっていい事だと思いますから。クローン兵士が人間として生きていけるなんて幸運ですよね」
「うん、プルシリーズに比べたら天地の差だねぇ。彼は本当に幸運だよ」
シャア総帥の弟になったフィーリアスは社会的な地位を手に入れた為に、プルシリーズの様な消耗品扱いされる事はなくなったのであった。
「あ、でもちょっと心配してる事があるんですよね」
「ほう、なんだね?」
「あの子がシャア総帥のように余計な仕事を押し付けられるかもしれないじゃないですか。あの子の天職はMSパイロットなのに、総帥の弟として社交儀礼や士官教育を学ぶ事を押し付けられて……あの子の真価が発揮出来なくなりそうで心配なんです」
「ああ、君はいつも通りだなぁ」
母親として息子の将来を心配するも、どこかズレているミンファ博士に先輩研究者達は全員苦笑していた。
「フィーリアス君が親離れできるか心配していないのかね?」
「それについては全く心配していません。あの子が私に懐いているのはまだ精神的に幼いからです。とても賢い子ですし私から言わなくても勝手に自立してくれますよ」
「ふむ、息子の事を信頼しているのだね」
「ええ、私はそう信じています……あの子が私を必要としなくなる程精神的に成長したら、私とは疎遠になるでしょうね」
ミンファ博士の言葉に先輩研究者達は疑問を覚える。
「そうかな?彼は君の事をとても慕っているようだけど」
「いや、今は確かにそうですけど、あの子が成長して一般常識を覚えたら私の事嫌いになると思いますよ?私って客観的に見たらヤバい外道女で、やってる事は世間一般から見れば非道極まりないですし」
「「「あー……」」」
彼女の言葉を聞いて、同じく外道の自覚がある先輩研究者達は納得する。
「確かに彼も良識を覚えたら我々に忌避感を持つだろうねぇ……でも君は寂しくないのかい?」
「まあ少しだけ寂しくはありますけど、子供が親から自立するのは世間一般から見ていい事なのでは?」
「いやまあそうだけど」
「それにあの子が親離れしたら精神的に成長したという事じゃないですか!つまりあの子の唯一の弱点である精神的な幼さを克服し、完全無欠の戦士として完成したという事!母親として、製造者としてその時が来るのが待ち遠しいですよ!」
「ううん、君は本当にブレないなぁ」
戦士として完成したフィーリアスの姿を想像し目を輝かせるミンファ博士を見て、先輩研究者達は研究者としてブレない彼女に感心しつつ苦笑するのであった。
「あの紛い物を弟にするとは酔狂だな。アズナブル家の人間として身分を与えるとは」
「彼を見ていると幼い頃の自分を見ているようでな。情が湧いたのさ。それに彼は深緑の彗星として地球圏で有名になったのだし、兵器ではなく人間として扱うべきだ」
ハマーンからフィーリアスを人間扱いする事に苦言を呈されるが、シャア総帥は特に気にせず弟扱いした事を後悔していなかった。
「まあ貴様はネオ・ジオンの指導者なのだし、組織のトップがそう言うならば私は何も言わんよ」
「うむ、ありがとう」
あっさりとハマーンが認めた事にシャア総帥は内心で驚く。
「どうしたのだハマーン、最近は随分と大人しいようだが」
「……貴様がアクシズに戻って来てくれたお陰で肩の荷が大分降りたのだ。小娘だと周囲に舐められないよう気を張り続けるのは私とて疲れるさ」
シャア総帥の疑問にハマーンは珍しく自分の本心を語った。冷血な女だと思っていたハマーンの弱音にシャアは驚きつつも、彼女がまだ22歳である事を思い出す。
「そうかハマーン、君も苦労していたのだな」
「まあ貴様がアクシズから雲隠れしなかったらこんな苦労はしなくてもよかったのだが」
「えっ?あっ、いや、うむ……………すまなかったなハマーン」
ハマーンからジト目で睨まれたシャア総帥は思わず素直に謝罪していた。
「それはともかく、我々の故郷であるサイド3にもうすぐ到着する。シャア、準備はできているか?」
「あ、ああ。問題ない」
「そうか、ならいい。ではサイド3へ凱旋しようではないか」
シャア総帥が何とも言えない表情を浮かべていたが、ネオ・ジオン本隊はいよいよサイド3のジオン共和国へ凱旋しようとするのであった。
「……そうか、彼女がああなったのは私のせいでもあるのか。言われるまで気づかないとは情けない男だな私は。今の私を見たらカミーユなら殴るだろうか。それとも呆れて何も言わないか……フィーリアスの力があれば彼も快復するはずだ。早く元気な姿を見たいものだ」
<人物紹介>
●シャアのクローン(フィーリアス・アズナブル)
→総帥の弟となった事でアズナブル姓になった。フィーリアス本人は当初不満気だったが、プルに言われて思い直した。そしていつも通りミンファ博士に甘えに行った。
マザコンについては精神的に成長すればある程度落ち着くだろうが治る事は恐らくない。何故ならマザコンである事を別に隠しておらず堂々としている心のつえぇ奴だからだ。
ちなみにフィーリアスはオリジナルであるシャアと同じく器用万能であり、やろうと思えば大体何でもできるが一番向いている職業はMSパイロットである。
●プルとプルツー
→いつも通りのフィーリアスを見てプルは可愛い弟だと思っている。プルツーはそれをおかしく思いつつも、もしかして自分の方がおかしいのか……?と悩んでいるようだ。
●ミンファ博士
→三つ編み瓶底眼鏡でマッドサイエンティストな20代前半のママ。フィーリアスがアズナブルになった事については別に気にしていないが、シャア総帥のように余計な仕事を押し付けられないか心配しており、出世せずにMSパイロットの一人として戦場で活躍するのがあの子にとって一番いいと本人は考えている。
なんだかんだ歪んでいても愛情はあるので、フィーリアスがいずれ成長して自立するのは少し寂しく思うが、しかしそれは戦士として完成したという事では!?と思い直しその時が来たら祝福しようと決めた心のつえぇ女である。
●先輩研究者達
→自覚のある外道達。人体実験を行っても良心は痛まないが、自分達は碌な死に方しないだろうなぁとは薄っすらと考えている。
●ハマーン様
→シャアが帰って来てネオ・ジオンの指導者になった事で大分余裕ができて落ち着いている。余裕が出来たので気が緩み、つい本音を出してしまった。そしてアクシズを逃げ出したシャアに恨み言を言ってしまい己を恥じつつもスッキリしたようだ。
ちなみに最近のハマーン様の変化を見てグレミーは気味が悪いと思いつつ、シャア総帥の補佐に徹するのなら無理して排除しなくてもいいのでは?と考え始めている。
●シャア・アズナブル
→あれ、ハマーンがここまで苛烈になった原因は自分も悪いのでは?と今更ながら思い至った情けない奴。ハマーンを許す気はないが、いずれ予定している逆襲については決行すべきか悩んでいるようだ。
Gジェネエターナルが楽しいので前作のような更新速度は難しいですが頑張って書いていこうと思います。
今後は少しずつ投稿していく予定ですがよろしくお願いします。