カミーユの復活
「……………」
「この人が総帥が仰っていた人なのかぁ」
「総帥がご執心なこの少年はカミーユ・ビダン、エゥーゴのエースパイロットね。高いニュータイプ能力があったようだけど、戦争で精神が壊れて廃人状態か」
カミーユ・ビダン……もともとはサイド7のグリーンノアに住んでいた高校生であるが、紆余曲折あってエゥーゴに参加しMSパイロットとしてティターンズと戦っていた少年である。
ニュータイプとして類稀なる素質を持った彼だが、高いニュータイプ能力を持つせいで人が死んでいくのを目の当たりにして精神が消耗し、最終的にパプテマス・シロッコを打倒した直後に精神が崩壊したのであった。
「フィーリアス、プルサーティーンの時のように出来るかしら?」
「うん、大丈夫だよお母さん。多分これなら」
彼は先の戦争で廃人になっていたため療養していたが、この度フィーリアス・アズナブルの感応能力で治療する事になっていた。フィーリアスの隣にミンファ博士もおり、本来彼女が参加する必要はなかったのだがこれはフィーリアスの要望である。
「……んッ……んぅ……」
「あ、治ったみたい」
「流石フィーリアスね!」
そしてフィーリアスは持ち前の高いニュータイプ能力を発揮しカミーユを無事治療したのであった。
「そうか、カミーユの意識が回復したのか」
カミーユが意識を取り戻したという報告を聞いたシャア総帥は平静を装いつつも、カミーユの復活を喜んでいた。
(やはり彼に任せて正解だったな。この仕事を手早く終わらせるとしよう)
「奴が回復したのがそんなに嬉しいのかシャア」
「むっ、何故分かったのだハマーン」
「隠してるつもりのようだが態度に出ているぞ。これではオールドタイプでもわかるだろうな」
カミーユに会う為に通常の三倍のスピードで仕事を片付けているシャア総帥を見てハマーンは呆れた表情を浮かべていた。
「まあ仕事に支障をきたさないのなら奴に執心するのは別に構わん。私個人としては奴の事は気に入らないが貴様が指導者なのだし好きにすればいい」
「うむ、ありがとう」
ハマーンは呆れつつもシャア総帥の行動を許容しており、シャア総帥は最近のハマーンの変化に未だに困惑しつつも内心ウキウキでカミーユがいる病室に向かうのであった。
「……僕が寝ている間に随分と様子が変わりましたねクワトロ大尉」
「今の私はクワトロ・バジーナではない。ネオ・ジオンの総帥シャア・アズナブルだよ」
「そうですか、色々あったみたいですね。すみませんが今はクワトロ大尉と呼んでもいいですか?シャア総帥って呼ぶのは違和感があるんですよ」
「フッ、別に構わんよ」
シャア総帥と対面したカミーユは呆れつつも普段通りの態度で接しており、シャア総帥はカミーユが回復した姿を見てホッとしていた。
「大尉によく似た子供のお陰で僕は戻ってこれましたが……あのフィーリアスって子は大尉のクローンだと言うのは本当なんですか?」
「うむ、事実だ。彼はミンファ博士が勝手に造り出したクローン兵士だが、今は私の弟になっている」
「ええ、それは本人から聞きました。クローンの彼をちゃんと人間として見てあげるのはいい事です。兵器として扱っていたなら見限っていましたよ」
「そ、そうか」
カミーユと会話するシャア総帥は楽し気な様子を見せており、彼にとってカミーユは特別な存在だというのがよくわかる光景であった。
「ネオ・ジオンが勝ってジオンが独立するらしいですけど、とりあえず経緯を教えてくれませんか?ずっと廃人だったから今の地球圏の状況に戸惑っているんですよ」
「ああ、いいとも」
カミーユから説明を求められたシャア総帥はこうなった経緯について話し始めるのであった。
「なるほど、あの決戦でクワトロ大尉はフィーリアス君に遅れを取って敗北しネオ・ジオンの捕虜になったんですね。でも自分のクローンがいきなり出てきたら動揺するのも無理はありませんよ」
「カミーユ、わかってくれるか」
「そして僕やブライトさんを人質に取られてハマーンの脅迫に屈したと。すみませんクワトロ大尉、僕達のせいでハマーンに従う羽目になるなんて」
「いや、君が謝る必要はないさ」
「まさかエゥーゴとカラバが地球連邦政府から不要と判断されるとは。ハヤトさんはどうなったんですか?」
「彼はカラバを解散しネオ・ジオンに投降したよ。今は捕虜になっている」
「そうですか、生きてるならよかったです」
「しかしネオ・ジオンの総帥としてダカールに再び降り立つなんて。本当に地球連邦政府は一度も戦う事なくダカールを引き渡したんですか?」
「君が信じられないのはわかるが本当の事だ。私も地球連邦政府がここまでネオ・ジオンに譲歩するとは思わなかった」
「地球圏の復興を優先したいのは理解できますし、戦わずに済んだのはいい事だと思いますけど、いくら何でもあっけなさ過ぎますよ……」
「へぇ、ジオン残党がそんなに集まったんですか」
「うむ、ネオ・ジオンの本隊に匹敵する規模にまで膨れ上がるのはハマーンも想定外だったようで呆然としていたよ」
「何で残党がそんなにいるのに一年戦争では勝てなかったんですか?」
「地球連邦軍はそれ以上の数を用意したからだ……いや、私も残党の数が多過ぎるとは思うが」
「僕としてはジオンが独立するのは別にいいですよ。エゥーゴが踏み台にされたのは気に入りませんが、地球圏に平穏が訪れるのならそれが一番です」
「そうか」
「それとクワトロ大尉、周りに隠れて何かやるつもりですね?」
「えっ」
「……はぁ~~~ッ」
「カ、カミーユ?そんな馬鹿を見るような目で見られると私も傷つくぞ」
「クワトロ大尉が馬鹿みたいな事を考えてるからじゃないですか」
シャア総帥が極秘裏に進めている逆襲計画についてカミーユは類稀なニュータイプの勘で察知して洗いざらい聞き出していた。逆襲計画の詳細を知ったカミーユはジト目でシャア総帥を睨む。
「なんですかその誰も幸せにならない無茶苦茶な計画は……クワトロ大尉、もしかして疲れてるんですか?一度しっかり休みを取るべきだと思いますよ?」
「いや、別に疲れているわけではないが。ハマーンの補佐のお陰でエゥーゴの指導者になった時より余裕があるぞ」
「は?素面で考えていたとか余計性質が悪いじゃないですか!」
計画を知ったカミーユは思わず頭を抱えていた。
「……やはりカミーユはこの計画を認められないか」
「当たり前じゃないですか。というか僕以外でも同じ反応になると思いますよ。今の平穏になった地球圏でやる必要性がありませんし、ジオンの人達も困惑しますよ」
シャア総帥の逆襲計画……ハマーンを排除してジオン公国を掌握し、最終的にアクシズを地球に落として地球を寒冷化させ人が住めないようにするという計画をカミーユは全否定する。
「ハマーンの排除については、まあ気持ちはわかりますよ。僕達を人質に取られて無理やり総帥の地位を押し付けられたらムカつくのは当然です」
「う、うむ」
「でも話を聞く限り今のハマーンは指導者の地位を譲ってクワトロ大尉の補佐に徹しているそうじゃないですか。わざわざ排除しなくてもクワトロ大尉は既にジオンを掌握してますよね」
「あ、ああ」
「気に入らないのはわかりますが仮にも一国の指導者になるのなら嫌いな人でも使うべきでは?というか今のジオンに政争なんかしてる余裕なんかあるんですか?」
「いや、ないな」
「じゃあやらなくていいですよね」
「ぬぅ」
呆れた表情を浮かべているカミーユにシャア総帥はタジタジとなっていた。
「もうそんなに嫌いなら部屋に呼び出して射殺すればいいじゃないですか。ハマーンならクワトロ大尉の誘いを断らないと思いますし、殺しても痴情の縺れとか適当な理由をでっち上げれば誤魔化せますよ」
「いや違うのだカミーユ。殺したいわけではないのだ、確かにハマーンの事は唾棄していたが、今となっては色々と可哀想な部分もある事がわかったからな」
「ああもう、めんどくさいなぁこの人!」
情けない大人を見てカミーユは再度頭を抱えていた。
「君もそう思うか。私も情けない男だと自覚しているよ。しかし殴らないのだな。前の君なら問答無用で殴り掛かっていたと思うが」
「病み上がりの僕に無茶言わないでくださいよ」
「ああ、元気だったら手が出ていたのだな……いや、それでこそカミーユだ」
「なに少し嬉しそうにしてるんですかクワトロ大尉」
嬉しそうにするシャア総帥を見てカミーユは少し引いていた。
「はぁ、まあそれはもういいです。問題はアクシズ落としですよ。本当に何を考えているんですか?」
「地球に住む者達は自分達の事しか考えていない事がわかった。だからアクシズを落とし地球に人が住めなくなる事で意識改革を目指すつもりだ」
「それは余計なお世話ですよ。というか仮に成功して地球環境が滅茶苦茶になっても地球連邦政府が滅びるわけじゃないですよね」
「まあそうだな」
「アクシズ落としなんかしたら地球連邦政府が絶対に許さないのは僕でもわかります。当然クワトロ大尉も理解してますよね?」
「うむ」
「ジオンと連邦でまた戦争が起きますよ。第二の一年戦争じゃないですか。それともジオンは勝つ見込みがあるのですか?」
「いや、ないな。物量差がどうにもならん。仮に地球連邦と戦争すればジオンは滅びるだろう」
「わかっているなら止めましょうよ。というかクワトロ大尉の計画は他の人達も知ってるんですか?」
ジト目で睨むカミーユはこんな狂気の計画を賛同する人間が他にいるのか疑問を持つ。
「いや、ハマーンの排除はともかくアクシズ落としについては誰にも話していないが」
「怒らないでくださいね、こんな地球圏を巻き込んだ自殺計画に賛同する人なんて破滅主義者くらいです。計画を実行する以前に正気を疑われて拘束されても文句は言えませんよ?」
「ぐ、ぐうぅ……」
カミーユからそう断言されてシャア総帥は言葉に詰まるのであった。
「クワトロ大尉だって本当はわかっているのでしょう?こんな事する必要がないのは」
「……ああ、そうだ。わかってはいたさ。君に言われてようやく諦めがついたよ」
「いや僕に言われなくても諦めてくださいよ」
カミーユに説得された結果、シャア総帥は逆襲計画を止める事を決定した。
「やはりカミーユを治療させてよかった。君に言われなければ後少しで取り返しのつかない事を決行してたかもしれん」
「それはよかったです。僕の個人的な意見ですがクワトロ大尉にはカウンセラーが必要だと思います」
「ふむ、では頼めるだろうか?」
「なんで僕がカウンセラー役をしなければいけないんですか……まあ、愚痴ぐらいなら聞いてあげますよ」
その後もカミーユと話し合ったシャア総帥はどこか晴れやかな表情を浮かべており、カミーユは世話が焼ける人だなと呆れつつも楽し気な様子を見せていたのであった。
<人物紹介>
●カミーユ・ビダン
→フィーリアスのお陰で復活した。類稀なニュータイプ能力を持つがミンファ博士からすれば「確かに能力は高いですがメンタルが脆くてMSパイロットとしての技量は優秀止まり。ニュータイプ兵士の素体としてはシャア総帥には遠く及びませんね!」と評価されている。
情けない奴が傍迷惑な計画を考えていると察知し全力で説得して諦めさせ地球圏を救った英雄。シャア総帥のカウンセラー役を時折する事になったが、これでクワトロ大尉が落ち着いてくれるならと受け入れた人間の鑑である。
●シャア・アズナブル
→逆襲を諦めた情けない奴。もともと揺らいでいたところにカミーユに説得された結果逆襲ポイントがリセットされた。やっぱり無理があるよなぁとは自覚していた。
今後彼は新生ジオン公国の指導者としてハマーンの補佐を受けて活動しつつ、時折アムロやフィーリアスと模擬戦を行い、カミーユに愚痴を吐いたりするなどして仕事をこなす事だろう。
●逆襲計画
→百歩譲ってハマーンの排除は許容されるが、アクシズ落としについては周囲が総出で止める模様。仮に計画がバレたらダルシア首相ら政治家達やグレミー達といった側近は全員宇宙猫になって困惑し、ジュドーはキレて殴り掛かるだろう。そしてシャアは問答無用で拘束されるので元から実行不可能だった。
●地球圏
→シャアの逆襲計画が白紙になったので暫くは平和を謳歌するだろう。え?火星?火星は犠牲になったのだ。木星についてはノータッチである。
Gジェネエターナルが楽しいので前作のような更新速度は難しいですが頑張って書いていこうと思います。
今後は少しずつ投稿していく予定ですがよろしくお願いします。