「ジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプは宇宙に適応した人類の事だと言われています。私としてはニュータイプの定義についてはどうでもいいですけどね。そんな討論は暇な学者達にやらせておけばいいんですよ」
「そうですか」
ミンファ博士の言葉にカミーユは相槌を打っていた。カミーユはフィーリアスとの感応で復活した後は定期的にミンファ博士の検査を受けており、ミンファ博士とはある程度雑談をするまでになっていた。
「私や先輩達が世間でニュータイプと呼ばれる人達に求めているのは並外れた直感を持ち、特殊な脳波を出してサイコミュを操り戦場で一騎当千の活躍をする事です。これは私達だけでなく軍や大衆も同じ考えでしょうね」
「そうですね、世の中の人達はニュータイプの事を超能力が使える強い兵士としか見ていません」
「それは仕方ありませんよ。一年戦争で白い悪魔や赤い彗星、ソロモンの亡霊達が見せた活躍は凄まじい物でした。あの戦果を見たらニュータイプを軍事的に利用しようと考えて連邦やアクシズが躍起になってニュータイプを研究し、そして強化人間を造ったのは当然ですね。あれだけニュータイプが活躍すれば再現できないか試すのは当たり前ですよ。誰だってそうします」
「……」
「しかし頑張って造り出された強化人間達ですがはっきり言って微妙でした。ニュータイプ能力を強化し過ぎれば精神のバランスが崩れて情緒不安定になり、精神的に安定した兵士として造ると大して強くありませんでした。多少才能がある人間や秀才を強化したところで天才には敵わないという事でしょうね」
「だから貴方はクワトロ大尉のクローンであるフィーリアス君を造り出したんですか?」
「はい!シャア総帥は精神的に丈夫な上に、ニュータイプ能力と戦闘技術が非常に高いレベルで纏まっておられる逸材ですからね!ニュータイプ兵士の素体としては総帥以上の存在はジオンにはいないと断言できますよ!最高のニュータイプ兵士である総帥のクローンを造って確かめてみたいと思うのは研究者として普通だと思います!」
「上層部に知らせず勝手に造っていたのは普通じゃないですし駄目ですよね」
「そうですね!」
目を輝かせて熱弁するミンファ博士にカミーユは冷静に反論していた。
「というかなに勝手にクローンを造っているんですか。どんな理由があってもそれは問題でしょう」
「憧れは止められなかったんです!実際に造って私の考えが間違ってなかったのがわかり満足でした!今後数百年はあの子を超えるニュータイプ兵士は出てこないだろうと私は信じています!」
「子供みたいに目を輝かせても誤魔化せませんよ。貴方それでも大人なんですか?」
「無邪気で子供のように純粋だとよく言われますね!」
「暗に幼稚で大人げない人だって言われてますよねそれ」
「ええ、自覚はあります!」
「いや開き直らないでくださいよ……」
堂々とした様子のミンファ博士を見てカミーユは溜息をつくのであった。
「……はい、脳や内臓については大丈夫ですね。身体が重く感じる事については療養生活で筋肉が落ちているせいですから、地道にリハビリを頑張ってくださいね」
「わかりました」
その後カミーユは検査を一通り受けた後、特に問題なしと判断されていた。
「でも軽い検査だけでいいんですか?貴方達の研究対象になるかもしれないと思っていたんですけど」
「総帥のお気に入りであるカミーユさんに手を出す命知らずはいませんよ。まあ今後ニュータイプ研究の為に脳波データを観測したいとお願いをする事はあるかもしれませんが、命令ではなくお願いなので断っても大丈夫です」
「そうですか、一応確認しておきますけど僕のクローンを造ったりしませんよね?」
身の危険はない事を知りカミーユはホッとするが、ふと疑念を覚えたのでミンファ博士に確認していた。なにせ目の前に赤い彗星のクローンを勝手に造っていた女がいるので信用できなかったのだ。
「カミーユさんのDNAは採取済みなので造ろうと思えば造れますが、わざわざ研究の為に造り出す必要性は今の所ありませんので安心してください。カミーユさんのニュータイプ能力は高いですが感受性が高過ぎて兵士としての適性は低いですし、ニュータイプ兵士の素体としてはシャア総帥に大きく劣りますから。まあ数百年に一度の天才であるシャア総帥に素体として劣っているのは当然ですから気を落とさないでくださいね」
「……色々と思うところはありますけど、勝手にクローンを造られる事はないようでホッとしましたよ」
「それと今後は危険な実験を行う時はニュータイプの猿を使う事になっていますから。今までのように人間が簡単に使い潰される事はなくなるでしょうね」
「それはよかったです。でも貴方達は猿を使う事に納得しているんですか?」
これからは人が使い潰されないと知りカミーユは安心するが、ミンファ博士達はどう考えているか気になっていた。
「猿で代用できるなら別に問題ありません。そもそも人体実験で人を使い潰すのは我々としても出来れば避けたいですよ。ニュータイプの素養を持つ人間は希少ですからね」
「……犠牲になる人達が勿体ないと?」
「ええ、いちいち使い潰していたら補充が難しいですし」
「貴方という人はっ」
「お母さん」
碌でもない思考なミンファ博士にカミーユは苛立ちを覚えるが、フィーリアスが部屋に入ってきたので落ち着くことにした。
「あらあらフィーリアス、どうしたの?」
「特に用事はないけどお母さんに会いたくなって、ダメかな?」
「別にいいわよ。相変わらずフィーリアスは甘えん坊ねぇ~」
「うん、エヘへ」
ミンファ博士に抱き着き甘えているフィーリアスを見てカミーユは何とも言えない表情を浮かべる。
「でも貴方もこれからは一人の人間として扱われるのだから、いつまでもこんな風に私に甘えていてはダメよ?ちゃんと自立しなくちゃ」
「えー」
「そんな顔しないの。大丈夫よ、私と違って貴方は周囲に合わせて上手くやっていけるわよ」
「そうかな?」
「そうよ。貴方は私の自慢の子供、一人でちゃんと生きていけると信じてるもの」
「エヘへ、そっか!」
(かなり歪んでいるけど、フィーリアス君の事を考えてはいるんだな。彼を束縛せず自立できるよう促し、そしていずれ自立して成長できると親として信じている……)
歪んではいれどフィーリアスに対する愛情らしき物を感じ取ったカミーユは親子の語らいを邪魔せず沈黙する事にしたのであった。
「とりあえず軍学校に入った後は、私に会いに来るのは月に一度くらいにしましょうね」
「え、いやだ!」
「困ったわねぇ。じゃあ週に一度でどうかしら?」
「…………………………はぁい」
「なんというか、本当に変わっていますねミンファ博士は」
「ふむ、カミーユもそう思うか」
その後カミーユは自分を尋ねてきたシャア総帥と会話していた。
「親らしき情があるのはわかりましたよ。それと自分が度し難い人間だと自覚している事も……まあ開き直っているとも言えますけど」
「そうだな、フィーリアスがミンファ博士に懐いているのは彼女がどんな形であれ愛情を与えてくれるからだろうな」
フィーリアス親子の関係を見てカミーユ達は世の中には色んな形の愛情があると感じていた。
「しかしカミーユはよく殴らなかったな。やはり君も女性を殴るのには抵抗があるか」
「引っ叩きたいとは思う事が何度かありましたが、その度にフィーリアス君が出てきたので落ち着きましたよ」
「ああ、彼が傍にいたのか」
「母親思いのいい子ですよ彼は……クワトロ大尉も小さい頃はフィーリアス君のような感じだったのですか?」
「私の場合は母と死別していて状況が違うからそれはわからないが、幼いアルテイシアに危害を加えられそうになれば妹を護ろうとしただろうな」
カミーユはシャア総帥の過去を聞きつつフィーリアスの今後を考えていたのであった。
「そういえばフィーリアス君は軍学校に入るらしいですけど、あの子はまだ子供ですが大丈夫なんですか?」
「心配しなくていい、私のクローンである彼ならば首席で卒業できるだろうさ。私は勉強で苦労した事は一度もないからな」
「……ミンファ博士の言う通りクワトロ大尉って天才なんですね」
「フッ、褒めても何も出ないぞカミーユ」
<人物紹介>
●ミンファ博士
→最近は比較的落ち着いている三つ編み瓶底眼鏡でマッドサイエンティストな20代前半のママ。才覚については約0.4シロッコであるが、シロッコのような器用な世渡りはまったく出来ないので周囲のフォローが必須である。
フィーリアスを造った事についてはまったく後悔しておらず、自分の考えは間違ってなかったと確信している。クローンを造る事に対する倫理的な問題については全然気にしておらず、そもそも人を搔っ捌いて弄っている時点で今更だろうと開き直り自己正当化はしない心のつえぇ女である。
フィーリアス君についてはなんだかんだ可愛がっているが、ちゃんと自立してくれるか心配している。自分と違ってこの子は一人で生きていけるはずなのにどうしてここまで甘えてくるんだろうと少し困惑しているようだ。
●カミーユ・ビダン
→リハビリを頑張っている。シャア総帥のお気に入りである彼に手をだす命知らずはいないので身の安全は保障されている。ミンファ博士の倫理観皆無な会話に何度か苛立ちを覚えるも、その都度フィーリアスが現れて落ち着く。人の代わりにニュータイプ猿が実験で使われるようになると知り、人が使い潰される事がなくなったと少し安心していた。
シャア総帥の話を聞いている内にこの人天才なんじゃないか……?と気づいた模様。
●シャアのクローン(フィーリアス・アズナブル)
→アズナブル姓になってもミンファ博士に甘えるマザコンの鑑。カミーユの事はいい人だと理解しているが母親を傷つけるのは別なので、カミーユとミンファ博士が話している時は近くで待機している事が多い。
母親離れする気はまったくなく、周囲からマザコンと呼ばれても全然気にしない心のつえぇ奴である。軍学校に入ってもオリジナル譲りのハイスペックで特に苦労する事なく成績トップとなるだろう。
●ニュータイプ猿とニュータイプ達
→カミーユの提案を受けてシャアが手回しした結果、今後命にかかわる危険な実験についてはニュータイプ猿達に任せて、比較的安全な実験はニュータイプ被験者達が対応する事になった。猿達は犠牲となったのだ……まあ動物実験なんてありふれているし人間を使い潰すよりは遥かにマシだろう。
ニュータイプ研究者達は「猿でもニュータイプになれるとか面白いなぁ。被験者の調達も楽じゃないし猿で代用できるならそれでいいか。ジオン・ズム・ダイクンのニュータイプ論ってガバガバだし猿がニュータイプになっても別にいいでしょ」と呑気に考えている。
●強化人間
→暫くの間地球圏は平和なのでわざわざ強化人間を造る必要はなくなった。しかし赤い彗星のクローンであるフィーリアスが驚異的な成果をあげた事は地球連邦政府も察知しており、ネオ・ジオンのニュータイプ兵士に対抗するべく研究が進められる模様。おや、ちょうどここにアムロ・レイのDNAが……(地球連邦政府並感)
●シャア・アズナブル
→カミーユから褒められて上機嫌になった。ファーストとZのアニメや漫画ORIGINの描写を見るに万能の天才なのは確実である。シャアに才能があり過ぎたのが本人にとっても不幸の始まりなのかもしれない。
Gジェネエターナルが楽しいので前作のような更新速度は難しいですが頑張って書いていこうと思います。
今後は少しずつ投稿していく予定ですがよろしくお願いします。