カイ・シデンが火星での取材を終えて地球圏に帰還した。火星での取材結果を纏めた記事は地球圏の各地で報道されており、火星の惨状に付いて書かれたニュースは地球圏で大きく注目されていた。
「いやあ、しかし火星は混沌としているね。元々ジオン残党達がいたところに元地球連邦軍のテロリストまで参入して三つ巴の争いとは。入植者達には本当に同情するよ」
地球にある連邦政府の施設にて、地球連邦議会のトップであるゴップ議長はテレビで報道されているニュースを見て入植者達を憐れむ。
(以前訪れた火星の御老人の言う通りだったな。これはさすがに地球連邦政府としても放置する事はできない。できないのだが、うーむ)
ゴップが考え込む間にも部屋に集められた官僚や軍人達が話し合いを続けていた。
「……ですから、今の地球連邦に大規模な軍の派兵など無理です。甚大な被害を受けた地球圏の復興を最優先するべきです」
「だがこのまま座視を続けていれば地球連邦政府の威信に関わる。民衆も火星の様子を知って政府が何らかの対応を行うべきだと声を上げているし、ここで何もしなければ地球連邦の求心力が低下するぞ」
「そうは言っても地球圏から逃げ出した敗残兵達が辺境の火星で争っているだけです。地球圏に侵攻するような力もありませんし、放置していればいずれ衰退します。そもそも元地球連邦軍のテロリストはともかく、ジオン残党については新生ジオン公国が対応するべき事ですよ」
地球圏の復興を最優先する官僚と、地球連邦の威信を保つ為にも艦隊の派兵を求める軍高官達は互いに妥協せず議論は平行線を辿る。
「ううむ、政府が復興を優先する気持ちはわかるが、いくら何でも消極的過ぎるのでは?そこまで余裕がないというのか?」
「それだけ地球圏の被害は大きいのです。一年戦争で総人口の半数が死んで地球にコロニーが落ち、その後もデラーズ・フリートのコロニー落としで北米の穀倉地帯が壊滅し、先のグリプス戦役で地球連邦軍が割れ内戦となった結果地球圏は満身創痍なのですよ?この傷を癒すには何十年も時間が掛かるのは当然です」
(そうだねぇ、情けない話だが今の地球連邦に余裕など全くないのだ)
官僚達の発言を聞いたゴップ議長は内心で溜息をつく。一年戦争やデラーズ紛争、グリプス戦役によって地球圏は大きな被害を受けており、復興を最優先したい官僚達の気持ちはゴップ議長も理解できた。
「しかしネオ・ジオンの例もある。放置していれば地球連邦の脅威となるかもしれん」
「お気持ちはわかりますが、火星という僻地にわざわざ大規模な艦隊を派遣する必要はありませんし余裕もないですよ。その予算を地球圏のインフラ整備に使う事を優先すべきです」
「……ならば小規模な派兵ならどうだろうか?」
軍高官の発言にゴップ議長は意識を向ける。
「ふむ、少数の精鋭部隊を投入すると?」
「はい議長、火星のジオン残党達はニュータイプ、失礼しました。スペシャル達を量産しているという情報がありました。しかもソロモンの亡霊のクローンまでいるとか……だとすれば並のパイロットでは歯が立たないでしょう。我々が製造したスペシャルならば対抗できるかと」
「ああ、あの少年の事か」
ゴップ議長は軍高官の言うニュータイプ兵士ことスペシャル……連邦の白い悪魔であるアムロ・レイのクローンなら確かに対抗できるだろうと納得する。
「ニュー・ムラサメはオリジナルに比肩する性能であり、地球圏に潜伏する残党達の掃討作戦で驚異的な戦果を上げています。そしてサナリィに開発させた新型ガンダムの力も加われば向かうところ敵なしでしょう。新型のテストにはちょうどいいと思われます」
「なるほど、確かに彼ならば勝てるだろうな……いいだろう。地球連邦政府としても今の火星を放置するわけにもいかないし、小規模とはいえ軍を派遣すれば地球連邦は火星を見捨てないという証明にもなる。私の方から議会に提案するとしよう」
そうしてゴップ議長は精鋭を火星に派遣する事を決断し準備を始めるのであった。
「よし、この件は新生ジオン公国にも伝えておこうか。赤い彗星殿はソロモンの亡霊と男女の関係だったそうだし無関心ではいられないだろう。彼等も軍を派遣する可能性が高いし足並みを揃える必要があるからね」
「というわけで火星への派遣が決まったわ」
「へぇ、火星かあ。木星程じゃないけど随分遠い所に行く事になったね」
ムラサメ研究所ではニュー・ムラサメの派遣に向けて調整が進められていた。担当であるナミカー・コーネル主任はニューの調整を行いつつ、ニューの保護者役である強化人間の女性と話し合っていた。
「ニュー君も大変だなあ。わざわざ火星まで出張する羽目になるなんて。まあニュー君ならソロモンの亡霊擬きでも余裕で勝てると僕は信じてるよ」
「他人事のように言っているけど貴方も一緒に行くのよ」
「えっ、アラサーの僕に無茶言わないでよ」
「いないよりはマシでしょ?長年の訓練のお陰で今の貴方はニューの背中を任せられる位の技量と性能はあるのだから自信を持ちなさい」
「はぁ……まあ僕に拒否権はないしやるだけやってみますよ」
楽は出来ない事を悟った強化人間の女性は溜息をつきつつ火星行きを受け入れるのであった。
「でも新生ジオン公国も精鋭を派遣するらしいね。ニュー君が深緑の彗星やオリジナルと遭遇するかもしれないけど大丈夫なの?もしニュー君がオリジナルと対面したら非常に面倒な事になりそうだけど。国際問題に発展するかも」
「大丈夫よ、向こうもウチが白い悪魔のクローンを製造したのは把握してるでしょうけど、深緑の彗星やプルシリーズを製造していた連中がとやかく言う資格なんてないわよ」
「まあそうか、向こうも後ろ暗い事をしているしお互い沈黙した方がいいよね」
「……認めたくないものだな。ララァのクローンなどとは」
「そうだな。だがカイが聞いたラ、ラという声は間違いなくララァ、いやララァのクローンの仕業だろう。そんな事ができるのはララァだけだ」
「ああ、わかっているさアムロ」
その頃新生ジオン公国ではカイから報告を聞いたシャア総帥が無表情となっていた。
「ララァのクローンを造ったのはレジオンか。ネオ・ジオンもプルシリーズやフィーリアス少尉といったクローンを製造していたから一方的に非難する事はできないが……到底受け入れられん。アムロ、頼めるだろうか?」
「任せろ、俺としてもララァのクローンは認められないからな」
「頼んだぞ。念には念を入れてフィーリアス少尉も行かせるとしよう」
シャア総帥は自分が一番信用する戦士ことアルバス・フィーンド特務大尉ことアムロ・レイに火星へ行く事を依頼し、アムロも即座に了承していた。
「しかしララァのクローンを製造するとは、レジオンはララァの遺伝子情報を何処で入手したんだ?確かレジオンはギレン派閥だろう?キシリア派に所属していたお前やララァとは接点がないはずだが」
「おそらくフラナガン機関の研究者がララァのDNAを確保していたのだろう。戦後になってジオン残党は地球圏や暗礁地帯、そして火星に潜伏していたが研究者も残党に付いて行き、プルシリーズの研究をしていたレジオンに参加しララァのDNAを提供したのかもしれん。推測だがな」
「レジオンもあのソロモンの亡霊のクローンが造れるなら喜んで受け入れるか。ララァは戦いをするような人じゃなかったが、それでも彼女の力は圧倒的だ。利用できるなら当然利用するだろうな」
ララァについて話す二人であったが、ふとアムロは形容し難い表情を浮かべる。
「しかし酷い世の中だ。プルシリーズだけでなくお前のクローンであるフィーリアス少尉、火星にいるララァのクローン、そして地球連邦のムラサメ研究所には俺のクローンまでいるそうじゃないか。人間のクローンはそんな気軽に造っていいものじゃないはずだが」
「……それだけニュータイプの、スペシャルの力は脅威なのだ。一騎当千の力があるスペシャルをクローンで安定して量産する事が出来るというのは軍からすれば非常に魅力的だ。私やアムロと、そしてララァはあの一年戦争で突出した戦果を上げていたからクローンを造られるのは無理もない」
「じゃあ最悪の場合地球連邦で俺のクローンが量産されて戦場に集団で現れるかもしれないな」
「いや、恐ろしい事を言わないでくれアムロ。お前が集団で襲ってきたら誰が勝てるというのだ。フィーリアス少尉でも無理だぞ……まあ心配する必要はない。地球連邦政府や我々ジオンに戦うつもりはないからな」
「そうだといいがな」
シャア総帥とアムロは自分達のクローンが造られた事に何とも言えない気持ちを抱きつつも、火星への艦隊派遣の為に準備を始めるのであった。
「……………あら、とうとう来るようね。彼や大佐のクローンが来るなんて向こうも本気だわ」
「お姉様?」
「心配しなくてもいいわダイアナ。貴方にとって悪い未来ではないもの」
<人物紹介>
●ゴップ議長
→地球連邦議会のトップとして頑張っている。火星の現状を把握しこれは放置できないなと思い小規模だが艦隊を火星に派遣するよう調整した。
アムロのクローンであるニュー・ムラサメについては驚異的な性能である事は認めているが、クローンを製造する事については倫理的にダメだろうと渋い顔をしている模様。
●地球連邦政府
→当分の間は地球圏の復興を最優先としている。本当にボロボロだからね、仕方ないね。
●地球圏
→現在も復興作業が続いている。一年戦争で総人口の半数が死んで地球にコロニーが2回も落ち、グリプス戦役で地球連邦軍が内ゲバしたせいで地球圏はボロボロであり地球圏の復興完了には何十年も掛かると推測されている。
●地球連邦軍の精鋭
→ニュータイプ兵士ことスペシャルのニュー・ムラサメを派遣する事にした。サナリィに依頼して開発させた新型ガンダムのテストも兼ねているようだ。
●新型ガンダム
→この世界のサナリィは早い段階で地球連邦軍直轄となっており、フォーミュラ計画も既に始動している。そしてサナリィとアナハイムが協力して滅茶苦茶頑張った結果とある機体が史実より数年以上早く登場した。一体何89なんだ……なお安全性とパイロットの負担は一切考慮しない模様。
νガンダム?ユニコーン?そんなものウチにはないよ……アクシズ落としがないのでνガンダムが造られるわけもないし、地球連邦政府とアナハイムが地球圏の復興を優先しているのでそもそもUC計画が存在しないのだ。
●ムラサメ研究所
→ニュー・ムラサメの調整を行いつつ今回の派遣で成果を出して更に予算を貰おうと気合を入れている。コーネル主任や姉役の強化人間の女性も付いて行く事になった。
●シャア・アズナブル
→ララァのクローンが造られていた事にブチギレつつも、ネオ・ジオンもプルシリーズやフィーリアス少尉を造ってたよなと冷静になる。そして冷静にブチギレつつアムロとフィーリアス少尉を派遣する事を決定したのであった。
●アルバス・フィーンド(アムロ・レイ)
→シャアやララァ、そして自分のクローンが造られていた事を知り酷い世の中だと嘆く。シャア総帥程ではないが非常に不愉快になったようだ。
乗機はZZガンダムの他に総帥専用の新型MSを借りる事になった。一体何ザビーなんだ……
●火星の褐色美少女
→地球連邦と新生ジオン公国が火星に軍を派遣するのを感じ取ったスーパーニュータイプ兵士。一体誰ラァ・スンのクローンなんだ……親衛隊の中でいじめられていたクローンの子を自分の従者にして保護してあげているようだ。
前作のような更新速度は難しいですが頑張って書いていこうと思います。
現在別のWARHAMMER二次小説も書いたりしておりますが、今後は少しずつ投稿していく予定なのでよろしくお願いします。