「サイド3から艦隊が派遣されるのか。火星の連中が大人しく従えばいいんだが……無理だろうな」
火星へ遠征隊を派遣するというニュースが報道されているモニターを眺めつつ休憩していた建設作業員のレンチェフ元少尉は、火星で活動している残党であるジオンマーズ達について思いを馳せていた。
「わざわざ火星に遠征するなんてビックリですね。でも先輩は彼等が抵抗すると考えてるんですか?」
「サイド3が正式に独立した後も独自行動を続けてる奴等が今更素直に投降するわけがない。ジオンマーズもレジオンも確実に抵抗するだろうよ」
「迷惑な連中ですねぇ、こちらに従わず火星で好き勝手したいのならジオンと名乗らないでほしいですよ」
「ああ、そうだな」
後輩の新米作業員と会話しつつレンチェフ元少尉は何とも言えない表情を浮かべる。
「どうしたんですか先輩?」
「……かつての俺も火星の連中のように抵抗を続けていたのを思い出したのさ。一年戦争が終わった後も地球に残りゲリラ活動を行っていたが、当時の俺はサイド3にいる共和国の人間を売国奴だと唾棄していた」
過去を振り返ったレンチェフ元少尉は当時の自分の所業を思い出し、自分に火星の残党達を非難する資格がない事を自覚していた。
「火星の奴等も馬鹿だが、昔の俺も救い難い馬鹿だった。敗戦を受け入れられず見苦しく足掻いた末に逮捕され本国で収監されたが……収監されて頭が冷えてよかったかもしれないな」
「ふーん、俺の親父と同じように先輩も色々あったんですねぇ。そういや一年戦争の先輩は特殊部隊でブイブイ言わせてたって本当なんですか?」
「おう、今じゃ草臥れたオッサンだが昔はキシリア様直属のエリート部隊である闇夜のフェンリル隊の一員だったのさ」
「へぇー、確かに先輩はMSを上手く使いこなしてますよね。自分も先輩みたいに上手くなりたいですよ。あ、でもそれなら建設作業員より傭兵か警備会社に勤めたらよかったんじゃないですか?」
レンチェフ元少尉の過去を聞いて感心しつつも後輩作業員はどうして建設作業員をしているのか疑問を覚える。元特殊部隊出身で腕に覚えがあるのなら傭兵になった方が稼げるのではないかと。
「俺も恩赦で釈放された後、仕事を探している時に同じような事を考えていたよ。でも時間の流れは残酷だ。一年戦争の時と比べたら腕も随分と落ちちまった。昔のようなヤンチャはできないぜ」
加齢による肉体の衰えを自覚しているレンチェフ元少尉は苦笑しつつ今の自分ではMSに乗って戦うのは厳しいと理解していた。
「それに嫁にも言われてるんだ。もう危ない事はするんじゃないとな」
「ああ、あのおっとりした綺麗な人ですか……女性とは縁がなさそうな先輩が結婚していたのを知った時は本当にビックリしましたよ」
「失礼な奴だなお前。それとソフィは見かけによらず怖い女だぞ」
色々と失礼な後輩に溜息をつきつつもレンチェフ元少尉は火星のジオン残党達については自分には関係ないと忘れて仕事に集中する事にしたのであった。
「でも火星のジオンマーズはキシリア様の遺児を擁立しているらしいが、俺はキシリア様に子供がいたなんて聞いた事がないぞ」
「隠し子じゃないですか?親父から聞いたんですけどシャア総帥の親衛隊に所属しているグレミー・トトって人はギレン・ザビの隠し子らしいですし。火星にザビ家の隠し子がいても別に不思議じゃないですよ」
「確かにそれもそうか」
「ジオンマーズが擁立している遺児がキシリア・ザビのクローンとは。世も末だな」
新生ジオン公国の首都ズムシティにある政府官邸ではダルシア首相がジオンマーズについての調査結果を読んで思わず溜息をついていた。
「彼等も愚かな事をしました、組織の象徴となる人物をクローンで用意するとは。この事実が公表されればジオンマーズは組織を維持できなくなるでしょう」
「うむ、しかしジオンの悲願であるサイド3の独立は達成されたというのに火星で抵抗を続けるとはな。カルト集団と化したレジオンはともかく、ジオンマーズは意地を張らずに大人しく合流すればいいだろうに。かつて同格であったネオ・ジオンの配下になる事が受け入れられないのだろうが愚かな話だ。下らない面子など捨てればいいものを」
「しかし父上、その下らない面子をあっさり捨てられる殊勝な人間は極少数かと」
「それはわかっておる」
息子のモナハンと会話しつつダルシア首相は今後について考えていた。
「今回の派遣で火星の愚か者達を排除できるだろう。ソロモンの亡霊のクローンがいるようだがこちらには最新鋭機に乗った白い悪魔と深緑の彗星がいるのだから」
「ええ、それに地球連邦は白い悪魔のクローンを参加させるようですし負ける要素がありませんな」
「私も遠征隊の勝利を疑ってはおらんよ。残党達を掃討した後は火星の復興は地球連邦政府に任せればいい……それと話が変わるが、そろそろ私も引退しても許されると思うのだがな」
ダルシア首相が自身の引退について言及するとモナハンは少し困ったような表情を浮かべる。
「父上のお気持ちはわかりますが、後任となる人物がまだおりません。父上にはもう少しだけ我慢していただきたいのですが」
「いつまで年寄りを酷使するつもりだ?お前も政治家として成長しているし首相の座を譲っても構わんぞ」
「お待ちください。父上から認められたのは私も嬉しいですが、私が首相になるのは問題があります。傍から見れば世襲にしか見えません」
「むっ、ではハマーン・カーンならどうだ?今の落ち着いた彼女ならば首相になっても問題ないはずだ」
「落ち着いてください父上。彼女の手腕は確かですが首相になるには若過ぎます。他の者達が絶対に納得しませんよ」
「ぬぅ」
その後もモナハンから説得されたダルシア首相はとりあえず諦めたものの、一体何時になれば引退できるのかと盛大に溜息をつくのであった。
「火星の元軍人達から連絡がありました。我々は嵐が通り過ぎるまで隠れると」
「そうか、それはよかった。彼等も賢明な判断をしてくれたな」
「TR計画は無事完成を迎え、TR計画の集大成であるTR-6は既に量産体制に入りました。TR-6は無限の可能性を持った無敵の機体です。数を揃える事ができれば地球連邦政府の打倒も夢ではありません」
「確かにそうかもしれん。だが今はまだその時ではない。今は雌伏の時であり我々は来たるべき時に備え準備を進めるのだ……元軍人達の中で我々の思想に賛同した者達はいるか?」
「ご安心ください。少しずつですが着実に同志の数は増えております。地球圏を導くのは堕落した連邦政府ではなく真の貴族達であると賛同してくれました」
「うむ、それはよかった。いずれ時がくれば彼等はコスモ貴族主義の尖兵として活躍してもらうとしよう」
<人物紹介>
●レンチェフ元少尉
→元ジオン残党のテロリストだったが今は堅気になって建設作業員として働いている。昔は残忍な性格だったが年を取ってある程度落ち着いた模様。
収監されて恩赦で釈放されるまでの間色々と考えた結果「何やってたんだ俺」と反省し、ジオンが無事独立したのを素直に喜ぶ。火星のジオン残党達については呆れつつも自分に彼等を非難する資格はないと理解し沈黙するのであった。
●ダルシア首相
→ジオンマーズの内情を知り何処もかしこもクローンだらけだと溜息をついていた。個人としてはクローン人間は受け入れがたいが必要ならば容認できる政治家の鑑である。
そろそろ本気で引退したいが息子達から止められている。息子のモナハンについてはある程度成長したなと認めているようだ。
●モナハン
→父親の側近として活動しており、ダルシア首相から見ても評価できるくらいには頑張っている。最近は引退したがる父親を宥める事が多くなり「老いたのですね父上」と思ったとか。でも首相の座については謹んでお断りした。
●謎の貴族主義者達
→一体何ッホ・コンツェルンなんだ……来るべき貴族の時代の為に元軍人達を説得し自分達の同志となるよう仕向けるなど色々と準備をしているようだ。
TR計画で開発された機体を見て「うわ何これつっよ」と感心し地球圏でも自分達の戦力用に量産する事にした。
●TR計画
→ティターンズが推し進めていたスゴイ開発計画。グリプス戦役時に開発が完了していればエゥーゴとネオ・ジオンに勝ち目はなかっただろう。この世界では貴族主義者達の協力の元無事計画が完了しTR計画の集大成となるTR-6が秘密裏に量産される事になった。
前作のような更新速度は難しいですが頑張って書いていこうと思います。今後は少しずつ投稿していく予定なのでよろしくお願いします。