竜は今日も幸せな夢をみる   作:ものもらい

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12.旦那様は強そうでか弱い

 

「はい、これ、お小遣いね」

「「「やったニャー!!」」」

「ありがとうございますニャ」

 

今日は、「黒兎祭り」である。

 

実は今回の祭りの主役こと童話の「雪山に住む黒兎」は、元々この街に住んでいたハンターとその兎のことで、あの童話――この街では伝承だが――の続きには、「なんやかんやあって街を襲う危険な竜を前に幾人ものハンターが倒れたが、颯爽と現れた黒兎とその背に乗ったハンターが竜を倒した」となっている。

 

実際そんなことがあったのかどうかは分からないが、とにかく記念すべきこの日に勇敢な兎とハンターを称える祭りをするのである。

祭りでは花火を盛大に上げ、あちこちに林檎の形をした提灯がぶら下がる。賑やかで少し可愛らしい祭りのせいか旅行客も多く、それを狙っての露店も多い。

 

また、あちこちでハンターたちの勝負が起こるので、その試合結果に賭けをするなど男も楽しい祭りだ。

 

 

―――今はまだ夕方だが、お祭りの本格的な始まりに外は賑やかである。アイルーたちは嬉しそうにお金の入った袋を手にすると、出し物の書かれたチラシを手にあれを食べようこれを見ようとはしゃぎ始める。

その中で小梅だけは相変わらず静かである。

 

「ニャー、小梅さん、このプーギー大回転切りってなんだろうニャー。知ってるニャ?」

「え…ああ、ごめんなさい、知らないニャ」

「そっか…よかったニャ」

「え?」

「先輩たちはこれ、知ってるっていうから…ちょっと寂しかったのニャ。よかったら小梅さん、一緒にこれ見に行こうニャー」

「……。―――うん、わかったニャ」

「ニャー!」

 

ニャンニャンニャンニャン楽しそうに鳴いているねこ丼たちのそばで、ねこ丼たちの輪に少し近づいた小梅を見つめていた桜妃(さき)は、くすりと笑みを零してから静かに賑やかな猫たちから離れる。

その先では、アーシェが作り終えた林檎型の提灯を玄関先に吊るしていた。

 

「アーシェ、アーシェ」

「ん?なんだ?」

「プーギー大回転切り、私も見てみたい」

「………あれ、こんがり焼いたプーギー(と思われるもの)を双剣使いがいかに観衆を魅せて切り分けられるか、っていう勝負だぞ」

「「えっ」」

 

ねこ丼たちは「プーギー危機一髪!」を見に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、アーシェの作った提灯が一番可愛いわね」

「……そうか」

「だって、林檎の提灯にウサギの影があるだなんて、とっても素敵だわ!アーシェは本当に器用よねえ」

「………そうか」

 

 

夜。桜妃とアーシェは二人っきりでお祭りを楽しむ。

 

はぐれないように手を繋いでいたアーシェは桜妃の褒めっぷりに思わず顔をそらすと―――「きゃっはーい!」とはしゃぐ女が目に入る。

射的用の銃を手に、楽々と落としていくのは全て落としにくく設置された商品ばかりだ。

 

提灯の明かりを見事な銀髪の髪で照り返す女に、射的屋の親父は「もういいじゃないですか!もう勘弁してくれてもいいじゃないですか!」と泣きついている。

そのあまりの泣きっぷりに、恋人なのか彼女の戦利品を代わりに持っていた青年は「ほら、たこ焼き奢ってあげるからあっち行こう?な?」と腕を引く。それに女は「えーっ、プーギーじゃなきゃヤダー」と我が儘を言う。

 

「わかったわかった、プーギーでもアイルーでも何でも食っていいから…」

「あ、あんたが切り分けてね」

「やだよー!!勘弁してよぉ!!もうアレしたくないよぉぉぉぉ!」

 

アーシェはまたも顔をそらす。

すると桜妃もまた射的屋を前に騒ぐ二人を見ていたようで、アーシェの視線に気づくとニコッと笑う。

 

「アーシェ、射的やりたい」

「………じゃあ、あっちにしような」

 

二人を避けるように一つ店を挟んだ射的屋に入ると、ニコニコしている若い女がちょうど商品を補充しており、「二人で遊ぶのかい?」と聞いてくる。

 

見渡せば台には複数の綺麗な銃と、五つの弾がそれぞれ木皿に乗せられている―――女向けの商品が多いことを確認すると、アーシェは桜妃を前に押し出して五回分の料金を出した。

 

「じゃあこれ―――あーっと、お嬢ちゃん詰めれる?」

「詰める……」

「…こう、だ」

 

弾と銃を交互に見ては不思議そうな顔をする桜妃の手から二つを受け取ると、アーシェは手早く詰めてやった。

桜妃はそれを嬉しそうに見つめ、「ありがとう」と笑う。頼りない構え方で狙うのは、黒兎のぬいぐるみである。

 

「―――むぅ」

「あはは、残念だねえ!」

 

よほど欲しかったのか、全ての弾をぬいぐるみに使った桜妃だが、下手過ぎてまったくかすりもしない。

流石にしょんぼりとしている桜妃を見兼ねて、アーシェは追加の弾代を出した。

 

「アーシェ?」

「………」

 

無言で構えた彼は、分からないまま力んで構えていた桜妃と違って力を抜いた――至って通常通りと言わんばかりの顔で、気楽な様子だった。

 

その力まぬ姿に「あっ」と気づいた女だが、弾はすでに撃ち放たれていた。

ぬいぐるみはぐらんぐらんと撃たれるたびに揺れ、最後の弾を詰めたとき、アーシェは内心失敗したなと思った―――可能な限り早く撃ってきたが、客から隠されるようにこっそり仕込まれた"支え"が邪魔して落とすことができない。

最後の弾でも結果は変わらず、黒兎のぬいぐるみはゆらゆらと大きく揺れるのみだった―――。

 

 

「ふっへへへへ」

 

酔っ払いの笑い声と共に、一発の銃弾が兎の顔にめりこむ。

ちょうどぬいぐるみは背後の方へ体をそらしていたため、思わぬ追撃を受けたぬいぐるみはあっさり下に落ちる。

思わず全員が狙撃手を見つめると、狙撃手は銀髪の髪を掻き上げた。

 

 

「お礼はいらないぜ、蒼の王者と桜色のお姫様!」

「……!?」

 

弾代を台に乗せて、女は背を向ける。

アーシェは慌ててその腕を掴み、「待ってくれ!」と叫ぶと不思議そうに見上げる女を見下ろした。

 

「おまえ……俺の―――」

 

そこまで言って、アーシェはなんと続ければいいのか分からなくなる。

無言になり、それでも腕を離さずにいると、どこからか慌ただしい足音が聞こえた。

 

「見つけたァ!おま、ひとに回転切りさせといて何で最後まで見てないん……はっ」

 

半べそをかく青年は、アーシェが女の腕を掴んでいることに気づくと、彼女の掴まれていない方の腕を取り、

 

「あ、あああああ、あのッ……すいませんでしたッッ!!」

「え、ちょっ……待っ…!!」

 

急な相手の謝罪に驚いていると、その隙を狙って女を引っ張る。するりとアーシェの手から女の腕が抜けた。

慌ててその後を追いかけるが、男の足が早いのか人ごみに紛れるのが上手いのか、すぐに二人の後ろ姿を見失ってしまう。

 

 

思わず舌打ちしたアーシェは、結局トボトボと来た道を戻る。……最悪なことに、あの店の中に桜妃一人を残してしまった。

 

怒ってたらどうしようと情けないことを考えつつ、射的屋に顔を出すと―――そこには桜妃の姿がなかった。

 

「……!?」

 

一瞬で血の気が引いたアーシェだが、ちょうど台の下にある荷物を引っ張り出していた女が「ああ、おにいさん」と呼ぶのに縋る思いで「俺の連れを知りませんか」と尋ねた。

 

「いやね、さっきのお客さんが多めにお金置いていってくれたからさ、余った分を持たせてお嬢ちゃんに向こうの射的を勧めたんだよ。ほら、あそこの…あの店主は私の妹なんだよ」

 

女が指差す先に、確かに桜色の長い髪が見える。

アーシェは口早に「ありがとう」と言うと、店から飛び出した。

 

 

「桜妃!」

「―――あ、アーシェ」

 

振り返った桜妃は、無邪気な笑みを浮かべてアーシェを見上げる。

 

「ごめんなさい、やっぱり動かない方がよかった?」

「ああ…まあ……うん…だけどいいよ。今回は俺が悪かった」

「………さっきのひと、知り合い?」

「いや……、それより、今度は銃じゃなくて弓か?」

「うん!こっちは慣れてるから、どれもちゃんと当たっているのよ」

 

そう言うが、どの的にも矢は刺さっていない。

不思議に思っていると、アーシェは的が置かれた壁の左端―――だいぶ可愛らしくデフォルメされた青いリオレウスのぬいぐるみが吊るされているのに気づいた。

 

その腹に矢が幾つも貫いているのを見たとき、思わず店長の女と同様にアーシェは震えた。

そして無言で多めの金を置くと、無残なお腹のリオレウスを貰った……。

 

ぬいぐるみの名前は「アーシェ」にされた。

 

 

 

 

 

.

 

 







なお、「黒兎伝説」は本当にあったことで、すごく凶暴な竜が襲撃し街が壊滅状態になると、倒れたハンターたちを飛び越え果敢に竜と戦ったという…。

↓こんな感じです。


兎「この街を!!貴様のッ好きにはッッさせぬわあああああああ!!!」
狩「いや待て。俺、粉塵も何も持ってな」
兎「うおおおおおおおお!!!」
狩「聞いてくれよちょっと。下ろしてくれマジで」
兎「私のッこの手がッッ真っ赤に――――燃えたァァァ!!熱いー!熱いよー!!飼い主さん熱いよー!!」
狩「おま……本当に駄兎だな……」


なんとか竜を倒したハンターさん。その後、黒髪美少女を嫁にしてのんびり暮らしたらしい……とオチを付けつつ、これで今年最後の更新となります。
この作品にお付き合い頂きありがとう、そして来年も何卒よろしくお願いいたします。



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