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「魔力を得られる予感がするんだ」
「遂にとち狂ったか……」
いやわりと元からとち狂ってたな。と、やや灰色がかった黒髪の青年が、木刀片手に呆れた様なドン引く様な目を、マイペースに下着を着け始めた少女に向けた。
森の中で一人、何の躊躇もなく全裸になるだけならまだ露出狂で説明が出来た。何せ、ついさっきまでがそうだったのだから。
しかもそれだけに飽き足らず、自分の親友―――彼女がそう思っているだけで、その親友は一切欠片としてそんな事は思っていない―――に、自分の頭を木刀で叩いてくれと頼み込んだ始末であった。
もういっその事、このまま脳天かち割ってやった方がコイツの為になるのではないだろうか? なんて考えが過ぎった青年だったが、犯罪者にはなりたくないのでそれを抑えながら適当な力で叩きまくった。
何故そんな馬鹿げた事をしているんだと聞かれれば、少々説明に困る所だ。いや、経緯の説明自体は出来るのだけれど、如何せん納得するのが難しいのだ。
「なぁ。もう何度も何度も聞いてるから、流石のお前もそろそろ執拗いなと思っている事は承知の上で聞くんだけどよ……これ何の為にやってんだ?」
「もう何度も何度も答えている事は承知の上で答えるけど、魔力を得る為だよ?」
「バカだよお前。バカの究極系であり完成系だよ、バカのトップオブエースだよ」
そう、これである。
この少女は魔力を得る為に、このカルト教団がやってそうな行為を続けていて、そして彼はそれにかれこれ数年は付き合わされている訳である。
本人曰く、
「世界中のあらゆる格闘技をどれだけ極めたとしても結局のところ生身じゃ核には勝てないんだから、魔力を得ないとね!」
との事らしいが、青年は「現実見ろ」とばっさり切り捨てた。にも関わらず付き合わされるのだから、何とも哀れである。
「究極であり完成だなんてそんな、急に褒めないでよ。照れるなー」
「都合のいい所だけ切り取るなバカ。つか、さっさと着替えろよ。いい歳した女が下着姿で森彷徨ってて、その背後に木刀持った男が居るとか誰かに見られた瞬間に通報案件なんだわ」
「視界がぼやけてるし、頭がくらくらするから、上手く着れないんだよ……はっ! やっぱりこれは魔力を得られる事への予感が」
「うん、それ脳震盪だね? ファンタジーの要素なんざ欠片もない、科学的にも医療的にも理解し切ってる既知既存の事象だね?」
適当な力で木刀で何度も頭をぶっ叩かれたのだ、脳震盪くらい起こっても何ら不思議な事はない。現在、この少女は視界がぼやけてる上に頭もチカチカしている事だろう。
だが、青年には何の罪悪感もありはしない。これが普通の人間なら、この行為に対して罪悪感だとか背徳感とかそういうのが生まれたりするのだろうが、この青年に限ってはそうではない。
ぶっちゃけた話、青年はこの少女を女として認識していないのである。
別に美少女という訳ではないけれど全体的に見ればわりと整っている方ではある顔を見ようが、大きいとはいかないまでも決して小さい訳でもない平均的な胸を見ようが、興奮はおろか気まずさすらも欠片として感じない。
彼にとって、この少女は狂人以外の何者でもない。理解の外側で全力疾走してる訳の分からん何かなのだ。
そんな相手に性的な感情を抱く?
「よし、やっと着替え終わった。はー、今日も良い修行が出来たなぁ」
「ただ脳震盪起こしただけの無駄極まりない馬鹿げた修行の間違いだろ。このままいけばアレイスター・クロウリーにも並ぶぞ」
「つまりこのまま精進しろって事だね! 素直じゃないなー、本当に」
「もう本当にヤダこの狂人……」
着替え終えて何事も無かったかの様に帰路を辿りながら、だらだらと駄べる二人の学生。
今年が高校生最後。つまりは3年生となった訳で、本格的に進路を見据えて行動を起こさなければいけない時期だが、この少女はどうにもそういうのとは無縁らしい。
青年は少女とは別だ。彼は少女の巻き添えで色々とやらされた結果として槍術に興味を持ち、そのまま多くの武術を修めて道場の跡継ぎになる予定だった。
まさか嫌々ながらに巻き添えを食らわされたのが、槍術にハマる切っ掛けになるなんて、世界とは斯も不思議なものである。
「あー、くらくらするー……覚醒するー…」
「気絶しかけてるだけだろ。おい、せめて家帰るまでは意識保て。ぶっちゃけて言うと個人的にはそのまま捨て置きたい事この上ないが、そうすると俺の社会的評価がガタ落ちするんでな。お前を介抱せにゃならん」
「じゃあ今から落ちるよ」
「ふざけんなバカ女。とっとと歩け」
「冷たーい。……あれ?」
怪しい光が、少女の視界に移った。
ゆらりゆらりと揺れ動く、怪しげな光。正体を明かしてしまえば、それは怪しさなど欠片もない、ただのトラックのライトでしかなかった。
だが、今の少女にはそんな事は分からない。木刀で頭を叩かれまくった結果として起きた脳震盪で、今の彼女の視界はぼんやりとしたままで、意識も正常に働いているとは言い難いのだ。
「―――魔力だ」
「は?」
「魔力が、そこにある…!」
「いやいや何言ってんだよ何処からどう見てもトラックだろうがッ!」
「魔力が手に入るぞー!」
「おい待て行くなら一人で逝け! 安心しろ一応の墓参りには行ってやるよ哀れだからな! だから俺の腕引っ張るなおい話聞いてんのか!? ってかマジで力強過ぎんだろゴリラかテメェ!?」
振り解こうにも振り解けない少女の細腕。『陰の実力者』という存在に憧れて、あらゆる格闘技に全力で打ち込んだ熱心さは伊達ではないらしい。
一応、それに巻き込まれた彼もかなり鍛え込んだ筈なのだが、少女はそれを上回っていた。
「イヤだァァァァ!!!! 自分の生殺与奪の権利すらもこの気狂い野郎に決定されるとかマジでイヤだァァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そんな不満たらたらの絶叫と共に、青年少女は怪しい光の中へ―――もとい、トラックへと突っ込まれに行ったのだった。
青年(巻き込まれ系主人公)
本作の主人公。前世での名前は家守健介。陰の実力者に憧れる狂人(原作主人公)とは中学校からの付き合いで、周囲からは幼馴染と言われているが本人は断固として否定している。
中学時代に思春期特有の捻くれを発動していた所為で、不良共の争い事に巻き込まれ、それに善戦している所を原作主人公に見られ、気に入られたのが切っ掛けとなった。
原作主人公を女だと思ったのは初対面の時だけで、それ以降は人間として認識していない。
少女(TS原作主人公)
原作の主人公(メス)。原作主人公がTSする作品最近ねぇなー、作るか! という作者の考えから生み出された。性格は殆ど変わらない。オリ主を相方であり親友と認識している。
本名は