ふわり。
しおちゃんが――振り返る。
鏡の中。淡いワンピースの裾が、
静かに、でも確かに揺れた。
「……さとちゃん、これ……似合ってる……?」
その声が、小さくて――もう、完璧に愛おしい。
私が選んだ、私だけの天使。
だからその戸惑いも、 表情も、
息遣いすらも――全部、私のもの。
「似合ってるよ、しおちゃん」 私は、笑った。
この笑顔が、本物じゃなくてもいい。
本物になるのは――
“ふたりでいる時間”のほうだから。
天野陽菜「にっ…似合う…?」
星野ルビー「うん、ものすごく似合うよこの制服!」
有馬かな「あんたもついに高校デビューね…」
memちょ「マックのバイトより絶対そっちだよ〜w」
天野陽菜
「高校生か…なんか…緊張する…私、友達も…」
有馬かな「はぁ…?なにいってんの…?」
星野ルビー「ここにいるじゃん!」
memちょ「そうだよ〜wあたし別の高校だけど」
星野ルビー「陽菜…、約束したんでしょ…あの人と…」
天野陽菜「そうだったね…」
長野原みお「ねぇ…ばしゃめ…まだ…?」
ばしゃめ「まだですよ〜」
長野原みお 「はやくしてよ…こっちは
焼き鯖しか 食べてないんだよ…
朝からなにも食べてない…」
ばしゃめ
「焼き鯖食べてるじゃないですか」
長野原みお「いや、そうだけど…… 」
……やかましいなぁ。 あの子たちは、なにもわかってない。
しおちゃんが笑うたびに、 その目が誰かに向くたびに、
――胸の奥に、小さくて赤い“何か”が灯る。
でも、いいの。笑ってていい。
今だけは。 今夜だけは。
その代わり……朝になったら――
また、“おうち”に帰ってくるんだよ、しおちゃん。
ふたりだけの部屋。 静寂のなかで、
誰にも邪魔されず、 甘くて、静かな、
ふたりきりのシュガーライフを。
私以外の人に笑いかけないで。
私以外の人に「かわいい」って言われないで。
だって、その服を選んだのは――私。
震える手でタグを選び、素材を確かめて。
“天使にふさわしい”ものを探した、その執着を、
誰が知ってる?
「かわいい!」 「それ似合ってる!」
そう言われるたびに―― この胸の奥の、
柔らかな境界が、じわじわと溶けていく。
でも、私は耐える。 今だけは。ここだけは。
私は覚えてる。 しおちゃんが笑った時、
どこを見てたか。 誰の名前を呼んだか。
どんな声だったか。
私は記憶していた。 だってそれが――
“証拠”だから。
しおちゃんが、私だけを見ていた証明。
それだけが、私の呼吸を、安定させる。
――でももし、奪われそうになったら。
私は、この1室ごと――壊す。
そう。 《排除しなきゃ》
音も匂いも、思い出も、
高級レコードプレイヤーも。 全部、
跡形もなく壊して、燃やして、
灰になった床の上に、ふたりきりで座るの。
誰にも触れられない場所へ、連れて帰る。
この世界のどこにも地図に載らない、
“ふたりだけの国”へ。
絶対に。
絶対に――しおちゃんだけは、離さない。
たとえ、しおちゃんが泣いても。
たとえ、しおちゃんが私を怖がっても。
それでも私は、手を離さない。
誰が来てもいい。 誰が止めようとしてもいい。
私は、笑うだけ。
そして、こう答えるの。
「――うるさいなぁ。ここは、
わたしたちのおうちなんだから」
扉は、閉ざされたまま。 外の声なんて届かない。
甘くて、密やかな、ふたりの時間。
――それが、 私の願い。
私の幸福。 そして、私の――
ーシュガーライフー
シュガーライフ