「寒い…冷たい…苦しい…」
段々と薄れる意識の中、そう感じていたのも忘れ始めた頃…
おきて、おきて」
「うぅ…」
目をそっと開けると、小さな動物が覗き込んでいた。
「おきた、おきた」
「えっと…」
上体を起こしながら目を擦った。辺りを見回すと、森の中で開けた茂みに座り込んでいた。
隣にいたのはハスキー犬の赤ちゃんだった。
「おきた」
「君…だれ…?」
「わかんない〜」
女の子だということは声から分かった。
「そっか…」
その時、大事なことを思い出した。
「あっ、ポケット」
上着のポケットに手を入れたが、中は空っぽだ。
「いや、なんでポケットなんて…」
「なにしてるの」
赤ちゃんが話しかけてきた。
「いや、分からない…」
「そっか〜」
立ち上がり、ズボンについた土を手で払った。
感覚に違和感を覚えたが、目が覚める前のことは何も思い出せない。
「君も何も思い出せない?」
そう問いかけると、彼女は足に抱きついてきた。
「えっ…」
急な出来事に戸惑いながら再び辺りを見回すと、遠くに煙が上がっているのが見えた。
もしかしたら誰かいるのかもしれない。
「行ってみるか…君は?」
「いっしょにいく」
「…。分かったよ…」
彼女の手を取り、煙が見える方へ歩き始めた…
シルバニアファミリー
森の迷子さん
緑の山を越えると、そこには大きな村が広がっていた。
「綺麗な村だな…」
心地いい春風が吹き、木々を揺らしていた。煙立つ家も村の中に建っていた。
「とりあえず、近くの家を訪ねてみよう」
「うん」
赤ちゃんも頷き、2人は最初に目についた白い家を訪ねた。
玄関の横にはピンク色の2人乗り自転車が泊まっている。
「あのー」
呼びかけても返事がない。
「すみませーん」
しばらくすると、扉がそっと開いた。
隙間から顔を覗かせたのはハスキー犬の女の子だった。
しゃがみながら、少し不安げな彼女に目線を合わせ話しかけた。
「あの…お父さんかお母さんいるかな…?」
バタッ
と女の子はドアを閉めた。
「まさか子どもが出てくるとは…怖かったかな…」
「なか、はいれない?」
「そうだね、他を当たろうか」
そうやって2人が振り返ると、後ろからドアの開く音が聞こえた。
「ほらね!やっぱりハスキーのお友達よ!」
「ほんとだ!僕らと一緒!お友達!」
先ほどの女の子と、少し大きい男の子が大興奮で飛び出してきた。
「ねぇ!中で一緒に遊びましょ!」
「僕のコレクション見せてあげる!」
「えぇ…!?」
男の子にグイグイ手を引っ張られ、家に連れ戻された。
「あなたもおいで!工作好きかしら?」
「こうさく?」
「まぁいいわ!後で教えてあげる!」
そう言うと女の子は赤ちゃんを抱き抱え、家に入ってから玄関をバタッと閉めた。
部屋に入ると、リビングの椅子へ引っ張られた。
「ちょっと待っててね!」
そう言い残し、男の子は2階へ上がった。
「その…急に…」
「あっ!自己紹介がまだだったわね!私はポーリーン!さっきのはお兄ちゃんのハイデンよ!」
「そこじゃなくて…」
ポーリーンの勢いに押されていると、ハイデンが小さな箱を持って降りてきた。
「みてみてー!」
蓋を開けると、葉っぱがぎっしり詰まっていた。
「僕のコレクションなんだ!どれが気になる?」
「ちょっと待ってよ、急にそんな…」
「遠慮しないでよ!おんなじハスキーなんだからさ!」
同じ?ハスキー?
何が同じなのかさっぱり分からない。
「ハスキーってどういうこと…?」
「どういうって、お兄さん面白いね!」
「だって僕は…」
戸惑いながら赤ちゃんに目をやると、ポーリーンと一緒に切り絵を楽しんでいた。
2人を見てもピンとこない。
自分の姿を全く頭に描けなかった。
「確かに、あんまり自分の顔って見ないもんね。おいで!」
ハイデンに手を引かれ、洗面台に連れられた。
「ほら、やっぱり僕たちそっくり!」
「これが…自分の顔…」
鏡に映っていたのは、青緑色の毛並みをしたハスキー犬だった。
「ね!おんなじハスキーなんだから、もう友達でしょ?」
全く違う自分の顔を両手で撫でた。長い口、ピンと立った耳、鏡と同じ形が手のひらに伝わってきた。
何かが違う見た目。しかし、違和感の正体は全く浮かばなかった。
そんな時、玄関から扉の開く音がした。
「ただいまー」
「あっ!お父さん!」
玄関では幼い3つ子のベビーカーを引くお母さんと、双子の赤ちゃんを抱き抱えるお父さんが帰宅した。
「ハイデン、ポーリーン、いい子にしてた?」
「うん!あのね、お客さんが来てたから一緒に遊んだよ!」
「お客さん…?」
お母さんはテーブルで切り絵を楽しむ見知らぬ赤ちゃんに目をやった。
「えぇ!?どこの子…!?」
「あれ…お父さんとお母さんのお友達じゃないの…?」
「お母さん!」
ハイデンが飛び出し、お母さんに抱きついた。
「あら…ハイデンは何をして…」
彼を撫でた後にお母さんが視線を上げると、僕と目が合った。
「お邪魔してまぁす…」
「えぇー!?」
一旦リビングに座り、驚く両親に今までのことを説明した。
「あら…何も思い出せないのね…」
「記憶喪失ってやつか…」
「はい…いきなり上がって驚かせてしまい、ごめんなさい…」
「ごめんなさい…」
「ごめんなさい…」
僕に続けてハイデンとポーリーンも謝った。
「そういうことね。いい?今日は悪い人じゃなかったけど、次からは絶対知らない相手を家に入れちゃダメよ?」
「はぁい…」
「はぁい…」
「では…自分達はそろそろ…」
そう言い、赤ちゃんを抱き上げて玄関へ向かおうとした時…
「ちょっと待って」
お父さんが僕に声をかけた。
「君たち、行く当てはあるのかい?」
「いや…特には…」
その言葉を聞くと、2人は顔を見合わせてた。
「じゃあ、今晩はここに泊まっていきなさい」
「えっ…いいんですか…?」
「もちろん、困った時はお互い様よ」
「明日の朝、パトリックのところに行ってみよう。2人が住めるところがあるかもしれない」
「あっ…ありがとうございます…!」
「そうだ、まだ名前を名乗っていなかったね。私はヴィンセント」
「アヴリルよ。あなた達は…?」
「えっと…実は名前も覚えてなくて…」
「あら!でも名前がないと不便よね」
「アヴリル、君が名前を考えてあげたらどうかな。いつも子ども達に素敵な名前をプレゼントしているから」
ヴィンセントさんの言葉にアヴリルさんは照れながら自分の耳を撫でた。
「そうねぇ…じゃあ、あなたはブルース、そしてお嬢さんはリンネアかしら」
「リンネア、すき、うれしい」
「僕にも素敵な名前を…ありがとうございます…」
「喜んでもらえて嬉しいわ…」
「じゃあ、そろそろ夕食にしようか」
その後、夕食をご馳走になってからその日は眠りについた。
僕とリンネアはソファと毛布を貸してもらい、リビングで横になった。
「いいひとたちに会えて良かったね…リンネア…」
「うん〜」
「今日はおやすみ…」
「おやすみ〜」
リンネアの熱を微かに感じながら目を閉じた。
なんとなく、誰かの温もりを感じながら寝るのは久しぶりな気がした…
「おい!」
「あっ、はい」
「どうするの?先週分の書類もまだだけど」
「すみません…」
「すみませんじゃないよ!」
「あの…残ってやるのは…」
「なんで君の非効率にこっちがお金払うんだよ!!」
「おきて」
「えっ…?」
「おきて、おきて」
「はっ!?」
目が覚めると、息が上がり冷や汗をかいていた。
リンネアが体を揺すって起こしてくれていた。
「大丈夫…?」
横にしゃがんでいたハイデンが声をかけてくれた。
「あぁ…ごめんね…ちょっと怖い夢をね…」
「ハイデン…!ご飯ができたぞ…!」
ヴィンセントさんの声がリビングに響いた。
朝食を食べながら、みんなは僕を心配してくれた。
「今朝は随分うなされてたけれど…」
「はい…よく分からないんですけど…多分昔の夢かと…」
不安げな自分にヴィンセントさんが声をかけてくれた。
「辛いことがあったんだね…まぁ、今はこの村での生活のことを考えよう。きっと楽しいことだらけだよ…!」
「そうですね…」
リンネアは不安そうに僕の顔を見上げていた。
朝食を食べ片付けをすると、ヴィンセントさんに連れられて外へ出た。
改めて見る村の風景はやはり美しかった。
「綺麗な村だよね」
「はい、とっても」
「私もこの村が大好きでね。村長を任された時は張り切って、恥ずかしながら空回りしちゃったけど」
「ヴィンセントさん、村長だったんですか…!?」
「一応ね。とは言っても一時的なものさ、これから会いに行くパトリックが、正真正銘の村長なんだ」
リンネアと僕を後部座席に乗せ、ヴィンセントさんの車は出発した。
村の道は綺麗に舗装され、横には花壇が作られている。
しばらく村を走ると、木造の大きな家が現れた。
「さぁ、ついたよ」
ヴィンセントさんは家の庭に車を停めた。
僕らが車から出るのと一緒に、家の玄関からクマが出てきた。
「やぁヴィンセント!元気だったかい!」
「パトリック!おかげさまで元気だよ」
「ならよかった…!おや?」
彼はヴィンセントさんの後ろに立つ僕とリンネアを覗き込んだ。
「君たちは初めましてかな?」
「はい、ブルースと言います。この子はリンネアです」
僕のお辞儀を見て、リンネアもペコッと頭を下げた。
「そうかいそうかい!私は村長のパトリックだ。よろしく!もしかして、ヴィンセントのご親戚かな?」
「いや、親戚ではないんだけど、ちょっと色々あってね」
「なるほど、まぁ立ち話もなんだ、ぜひ上がってくれ…!」
家の中に入ると、中には沢山の古い写真が飾られていた。
1枚の写真には「シルバニア村」と書かれた看板の周りに動物たちが並んでいた。
「もうすぐ40年か…」
パトリックさんが後ろから呟いた。
「私が生まれる少し前にこの村が出来たんだ。美しく幸せな村に…そんな場所を目指してみんなで過ごしてきた…」
「そんなに長く…」
「過ぎてみればあっという間さ、どんなこともね。さっ、少しリビングで待っていてくれ」
3人でテーブルを囲み座っていると、パトリックさんがキッチンから紅茶を持ってきてくれた。
「妻のドーナツによく合うんだ。ぜひ召し上がってくれ」
「あっ…ありがとうございます…!」
「いえいえ、リンネアちゃんにはホットミルクをあげよう」
「みるく、おいしい」
「よかったよかった。では早速、2人について聞かせてくれるかい?」
僕とヴィンセントさんは今までの経緯を話した。
パトリックさんは優しくうなづきながら話を聞いてくれた。
「なるほど、つまり2人で住める場所が欲しいんだね?」
「そうなんだ、しばらくの間だけ村のどこかを貸してあげてくれないか…?」
「そうだな…あっ、いい場所があるぞ。あそこなら広々使えるだろう!」
早速ヴィンセントさんの車にみんなで乗り、パトリックさんの案内する場所へと向かった。
「ここだ!」
ついた場所は小高い丘の上だった。
赤い屋根の風車塔の横に繋がった家だ。
「少し前まで住んでいたお爺さんがいたんだが、彼が亡くなってから放置されててね…」
パトリックさんが扉を開けると、中はホコリだらけの空き家になっていた。
「まぁ、少し片付けが必要だがね」
「これは中々…」
ヴィンセントさんが心配そうに僕を見た。
「本当に大丈夫かい…?」
「確かに汚れてはいますけど…とりあえず片付けてみます…!」
「おかたづけ?」
リンネアが尋ねた。
僕はしゃがみ、彼女の頭を撫でた。
「お手伝い、してくれる…?」
「うん、おてつだいする」
僕たちは片付けに取り掛かった。
まずは全ての扉と窓を開けて換気をした。
「ばんっ…!」
「リンネアが開けたので最後だね」
「リンネアたくさんあけた」
「ありがとう…!」
その後はホコリを箒で履いた。
リンネアもはたきで家具の上のホコリを飛ばしてくれた。
2階に上がると部屋の中に木のボートが置いてあった。
「なんでこんなものが…」
よく見ると上に手紙が置いてある。
親愛なる友人へ、リースより
「リースって人からのプレゼントなのか…」
手紙に気を取られている間に、リンネアがボートの中で横になっていた。
「落ち着く…?」
「うん」
「僕も少し疲れたな…休憩にしようか…」
リンネアと一緒にボートでくつろいだ後、再び整理を始めた。
家具の配置を少しずつ変え、調整していく。
「ボートは仕舞える場所がないな…」
少し部屋を見回して、あるものが足りないことに気がついた。
「そうだなぁ…あれにしようか」
夕暮れ時、家具を並べ終わったところで、ヴィンセントさん達が様子を見にきてくれた。
「やあやあ、調子はどうだい?」
「ヴィンセントさん!だいぶ片付きましたよ…!」
気づけば夢中で片付けをしており、見違えるほど綺麗になっていた。
「あら、とっても綺麗じゃない!」
「私と見に来た時はあんなに汚れていたのに…!全部ブルースがやったのかい?」
「いえいえ!リンネアにも沢山手伝ってもらいましたよ…!」
頭を撫でられながら、リンネアは誇らしそうな表情を浮かべた。
「まだまだ質素な家ですが、ゆっくりして行ってください」
ハスキーの家族は家を隅々まで見て回った。
「くじらのテーブル可愛い!」
ポーリーンがそう言うと、ハイデンがソファに勢いよく座った。
「ふかふかだね〜」
風車の中をヴィンセントさんが覗くと、ギシギシ音を立ててカゴが降りてきた。
「ここはエレベーターになっているのか!」
下に到着すると、中にはリンネアが乗っていた。
「うえ、リンネアのおへや」
そう言い残し、リンネアはまた上がって行った。
「連れて行ってはくれないんだね…」
アヴリルさんは天井から吊るされたボートを見つけた。
「これは何かしら?」
「中にボートがあったので、ハンモックにしてみました。リンネアが落ち着くみたいなので」
「これも自分で作っちゃうのね…もしかして、ものを作るのが好きなのかしら」
「そうなんですかね…いつも気づいたら何時間もやってて…」
「分かるわ。私も自動車をいじってると楽しくて、すぐ時間が経っちゃうのよねー」
少し考えこんだアヴリルさんは思いついた。
「もし良かったら、村のみんなのものを直してあげたらどうかしら!」
「みんなのものですか…?」
「えぇ!村のものは自分たちで協力して直していたんだけれど、最近は村も賑やかになってきて、仕事で忙しい家族も増えたのよ」
アヴリルさんの提案に少し悩んだが、村の役に立てるならと思い、決心した。
「わかりました!是非やってみます!」
その夜、みんなが帰った後にボートに揺られながら寝転んだ。
「リンネア、明日から仕事に行ってくるよ」
「おしごと、いいなぁ」
「リンネアはお留守する…?それともアヴリルさん達のところがいいかな…?」
「ん…」
ギシギシ音を立てながら、僕は眠りについた。
翌朝、日が差し込み目を覚ました。
「あれ…」
ボートの中には僕しかいなかった。
「リンネア…?」
リビングに降りるとリンネアがソファに座っていた。
ビシッと服を着て、斜めがけのポーチを下げている。
「早起きしたんだね…アヴリルさん達に会うのが楽しみだったのかな…?」
「つれてって」
「えっ…」
リンネアはまっすぐ僕を見た。
「おしごと、つれてって」
「でも、汚れちゃうかもしれないし…怪我なんてしたら…」
「つれてって」
「はぁ…わかったよ…その前に朝ごはん食べよ」
朝食を済ませ、2人で自転車に乗り込んだ。
風を浴びながら走る朝の村は爽快だ。
「確かこの辺りかな…」
アヴリルさんが渡してくれた地図の場所に到着すると、黄色い壁の建物が建っていた。
「お店…?」
ショーケースの中には沢山のケーキが並んでいた。
美味しそうなケーキに見入っていると、後ろから声がした。
「あら?もしかしてあなたが何でも修理屋さん?」
「あっ、はい!」
振り返ると、そこにはトイプードルのお姉さんが立っていた。
「待ってたわー!私達のお店へようこそ!」
中に入ると、棚には色とりどりのケーキやタルトが並んでいた。
「ブルースさんって言うのね…!」
「はい!」
「素敵なお名前…!あ、私メリンダって言います!よろしくね!」
「メリンダさん…」
ほのかなクリームやフルーツの香りが店内を漂っていた。
「美味しそうなケーキですね」
「そうでしょう!私のママが作ったんです!」
「けーき、たべたい」
リンネアはキョロキョロと店の中を見回していた。
「それで、お困りのものは…?」
「実は…」
メリンダはお店の奥へと僕を案内した。
「これなんです…」
彼女の後ろには、大きなリボンの形をしたピンク色のオーブンが置かれていた。
「可愛らしいオーブンですね〜」
どこか見覚えがある気がしたが、気のせいだろうか。
「もしかして…蓋が閉まらない…?」
「えっ!?どうして分かったんですか…!?」
「あっ、えっと…なんとなく…?」
ふと思い出した。確かに僕は以前これを直したことがある。
「凄い!きっとプロの勘ってやつね…!」
「えぇ…」
いつ直したか考える暇もなく、僕はオーブンの修理に取り掛かった。
「やっぱりここか…」
不思議と思い浮かぶ直し方を真似しながら、気付けばすぐに蓋は閉まるようになった。
「ブルースさん、お茶を持ってきたので、作業に疲れたら…」
「もう直りましたよ」
「えっ…えーっ!?」
リンネアとケーキをご馳走になり、お土産のスイーツも貰ってその日は家に帰った。
「けーきっ、けーきっ」
「わかったわかった、今出すから待ってて」
リンネアは待ち切れずにキッチンまでついてきた。
「座ってれば持ってくのに」
「リンネアがもってく」
落とさないように気をつけながら、テーブルまで持って行った。
「美味しい?」
嬉しそうにケーキを頬張るリンネアを見て、気持ちが安らぐのがわかった。
「次はお客さんとして行こうか」
「いく、またケーキたべたい」
「そうだね…そうしよう」
その夜、布団に入りながら昼間のことを考えた。
「あんなオーブン触るなんて…一体どこで…」
魔法のように浮かんだ直し方、理由はさっぱり分からない。
「まぁでも、喜んでもらえたし…悪いことじゃないからな…」
せんせー?
「あっ…さきちゃん、どうしたの?」
「またうとうとしてたよ?眠れてないの…?」
「ううん…大丈夫!先生は元気だよ!」
「よかった…!」
「ありがとう…それで、何かあったかな?」
「あっ!それがねー」
「はっ…!!」
また気付けば夜が明けていた。
「なんの夢なんだ…」
まだ眠りについているリンネアの横から抜け出し、朝食のパンと卵を焼いた。
「おはよー」
「おはようリンネア、ご飯できたよ」
「ありがとー」
リンネアと一緒にトーストを頬張った。
「今日も一緒にくる?」
リンネアは口をモグモグさせながら頷いた。
「よしっ、食べたら出発しよ」
それから、僕たちはみんなの持ち物をどんどん直していった。
理由は分からないが、直し方は不思議と浮かんでくる。
そして、なんでも直す凄いハスキーがいると、僕たちの噂はどんどん広まっていった。
そんなある日…
「郵便でーす!」
「ビリーさん!いつもありがとうございます!」
「いえいえ、直してくれた自転車の調子がいいからねー。そういえば、珍しく遠方からの手紙があったよ」
「本当ですか?」
「うんうん。確か、シーサイド村からかな?ブルースくんの噂、広まってるのかも?」
「まさかぁ」
「あり得るよー。村ではみんなの評判なんだから」
「へへっ…ありがとうございます…」
「おっと、そろそろ次のお家に向かわなきゃ。またね…!」
「はーい!」
赤い自転車で遠ざかるビリーさんに手を振り、部屋に入って手紙を開けた。
「これだな…」
水色の便箋は貝殻のシールで封をされていた。
「えっと…」
ブルース様
初めまして、マイラと申します。
最近、我が家のキッチンのコンロが壊れてしまいました。
夫の大好きなクラムチャウダーを作ってあげられず困っています。
シルバニア村からは少し離れてはいますが、我が家まで直しに来てはいただけませんか?
よろしくお願いします。
マイラ
つづく…