ブルース様
初めまして、マイラと申します。
最近、我が家のキッチンのコンロが壊れてしまいました。
夫の大好きなクラムチャウダーを作ってあげられず困っています。
シルバニア村からは少し離れてはいますが、我が家まで直しに来てはいただけませんか?
よろしくお願いします。
マイラ
手紙の主が誰かは分からない。
けど、困っているのなら…
「よし…行こう、リンネア…!」
「うんっ」
僕たちは早速自転車に乗り込んだ。
「出発だ…!」
自転車はどんどんスピードを上げて行った。
そして向かった先は…
「こんにちはー」
「あら、ブルース!いらっしゃい!」
シーサイド村ではなくハスキーファミリーの家だった。
「お久しぶりです」
「本当ね!しばらく来ないから心配してたのよー」
「ごめんなさい…お仕事が忙しくて…」
リンネアは3つ子ちゃんのベッドを覗き込んだ。
「リンネアきたよ〜」
久々のリンネアに3つ子は嬉しそうに笑った。
アヴリルは僕たちの様子を見て何かを察した。
「もしかして、何か困りごと…?」
「はい…それが…」
僕はアヴリルさんに手紙のことを話した。
「まさか、シーサイド村まで自転車で…?」
「と思っていたんですけど…」
「そう…あそこまで自転車で向かったら丸1日はかかるわよ…?」
「そうですよね…」
その時、買い物に出かけていたヴィンセントさんと子ども達が帰ってきた。
「ママただいま!!」
「おかえりなさい」
「あっ!ブルースだ!」
ハイデンとポーリーンは僕を見るとすぐに駆け寄ってきた。
「久しぶりだね!」
「あ!ブルース何か持ってる!」
2人は手紙を手に取ると、唖然としながら目を合わせた。
「これって…」
「シーサイド村だよっ!!」
「やったぁ!!」
「やったぁ!!」
「ハイデンと、ポーリーン、最近また行きたがってたものね。じゃあ、パパ運転よろしくね」
「あっ…えっ…?」
シーサイド村、とある草むらの中に2つの動く影があった…
「こらっ!ちゃんとついてきなさいっ!」
「でも、せんちょーがはやいんだよ」
「あたりまえでしょ!せんちょーなんだもん」
「もうすこし、ゆっくりいこうよー」
「だめっ!てきのふねがきたら、どうするのよっ!」
「うぅ…」
「まって、なにかきこえるわ」
遠くの道路を走るのは、大きな2台の車だった。
「たいへん!ふねにもどるわよ!」
そう言うと、ラッコの赤ちゃんは駆け出した。
「わっ!まってよーぉ!ふぐぅ!」
アザラシの赤ちゃんはつまずいて転んだが、すぐに立ち上がって追いかけた。
「おいてかないでー!」
その頃、僕らは車で海岸沿いを走っていた。
「すみません、わざわざ2台も出してもらっちゃって」
「大丈夫よー。3つ子ちゃん達が生まれてから、家族全員で乗れる車はないもの」
「なるほど…それにしても、アヴリルさんもヴィンセントさんも、運転がお上手なんですね…!」
「そうねぇ、やっぱり好きなものは勝手に上達しちゃうのかしら」
「好きなもの…」
リンネアは後ろを向きながら3つ子ちゃんをあやしている。
白い灯台の横を過ぎると、一気に村が広がった。
「さぁ、そろそろ着くわよ…!」
白い家が並び立つ海辺の村、シーサイド村だ。
2台の車はとある家の前で止まった。
「ここがマイラ達のお家よ」
「綺麗なところですねぇ」
シーサイド村の家は壁が白く、屋根の色だけがバラバラだった。
マイラさんの家は鮮やかなオレンジ色の屋根だ。
「あら!アヴリルじゃない!」
元気な声が玄関から響いた。
「マイラ!久しぶりね!」
アヴリルさんはラッコの女性とハグをした。
「ちょうど1年くらいかしら?」
「そうね、仕事が忙しくって。でも子ども達は毎日来たがってたわ」
「マイラおばさーん!」
「マイラおばさーん!」
後ろの車からポーリーンとハイデンが飛び出してきた。
「2人とも久しぶりー!元気そうでよかったわ〜!」
「すっごい楽しみだったんだよ!」
「そうなの!また一緒に海に行きたい!」
「そうなのねー!なら明日は1日中マイラおばさんが水泳教室しちゃうぞー!」
微笑ましいやり取りを見守っていると、マイラさんは僕の方を見た。
「あなたね、噂の修理屋さんって…!」
ヴィンセントさん達はマイラさんへ挨拶を済ませると、宿へと車を走らせた。
僕とリンネアは早速中にお邪魔して、キッチンへ向かう。
「こちらですか?」
「そうなの〜。数日前から全く火がつかなくて」
「それは困りますね…」
コンロの周りを見回したが、ぱっと見ではおかしい場所は見当たらなかった。
「原因がわからないので、まずはそこから探してみますね」
「お〜、なんか頼もしいわね…!」
しばらく1人で見回していると、リンネアが後ろから覗いてきた。
「ブルース、たいへん?」
「そうだねぇ、ちょっと大変かも」
リンネアの顔を見ながら、頭を撫でた。
「火が出て危ないかもしれないから、今回はハイデン達と遊んで待ってられる…?」
「わかったよー」
そう言うと、彼女はスタスタとキッチンを後にした。
「終わったら、たくさん海で遊んであげるか」
僕は再び作業に戻った。
リンネアはスタスタと歩いて玄関を出た。
「いしあつめるの〜」
ウキウキで歩くリンネアだった。
「あれ」
庭の茂みから、微かに輝くものがチラチラと見えた。
「きらきら!」
テクテクと駆け寄ると、おもちゃの宝石の山があった。
「きらきら!いっぱい!」
リンネアは宝石に飛びついた。
顔をすりすりしていると、突然何かが飛んできた。
「わっ…!」
リンネアは驚きながら絡みついたものを退けようとしたが、中々外れなかった。
「やっぱり!わたしのおたからをねらってきたのね!」
「だれ?」
「いい!わたしはかいぞくのマノン!マノンせんちょーよ!」
そう言うと、マノンは腰に手を当ててポーズを決めた。
「それで、こっちはふくせんちょーのパフィよ!」
「パフィ…?」
「ん…?」
マノンが後ろを振り返ったが、そこには誰もいなかった。
「ちょっとパフィ…!どこいったのよ…!」
「とれた〜」
マノンが慌てている間に、リンネアは網から抜け出した。
「ちょっと!かってにぬけないでよ!」
「うぅん」
「あなた、どこのかいぞくだんよ!」
「リンネア〜」
「なるほど、リンネアかいぞくだんね!おたからをうばいにきたって、そうはいかないわ!」
「リンネア、わるものじゃないよ〜」
「そう、ならいいわ…」
しばらくしても、パフィが来ない。
「あなた、わたしのかいぞくだんにはいるならみのがしてあげる!」
「キラキラいっこ、ちょーだい」
「え?」
「キラキラ、ちょーだい」
「まったく、しかたないわね。いっこだけよ…!」
「やった〜」
「じゃあさっそく、ふくせんちょーをさがしに!」
「いっこえらぶ〜」
「もー!みんなせんちょーのいうこと聞きなさーい!!」
僕はキッチンで作業を続けていた。後ろからマイラさんがお茶を差し入れてくれた。
「無理せず休憩してね〜」
「ありがとうございます…!」
キッチンの椅子に腰掛けながらひと休み、その横ではシンクでマイラさんが洗い物をしていた。
「ブルースくんは最近引っ越してきたの?」
「はい、引っ越しというか…記憶がなくて…」
「記憶喪失なの!?」
「はい…実は…」
「なるほどね。確かに、アヴリルとヴィンセントなら面倒見ちゃいそう」
「アヴリルさん達とはお知り合いなんですか…?」
「実はね、幼馴染なの。あの2人も昔はシーサイド村に住んでたのよ〜」
「そうだったんですね」
「うん、2人は昔から優しくてねぇ。何事にも真剣に向き合ってたわ」
「確かに、お仕事にも全力って感じします」
「すごいわよねぇ、私はあんな風にはなれないかな。でも、元気なら負けないわよ!」
「そうですね!自分も元気いっぱいにならなきゃ!」
「うんうん」
マイラさんは僕を見て微笑んだ。
「ブルースくんにもブルースくんなりの良さがあると思うわ。私にははっきり言えないけど、素直な自分で大丈夫よ」
そう言うと、マイラさんは洗い物を終えて、タオルで手を拭いた。
「あっ、キッチンは直してもらわないと困っちゃうかな!」
「素直な自分でって言ったばかりじゃないですか〜」
「へへっ、じゃあ、ちょっと家族を迎えに行ってくるわね。お留守よろしく!」
「わかりました!」
マイラさんが出て行った後、静かな家を感じながら気づいた。
「あれ、リンネアは…?」
パフィは海辺のベンチでフィッシュフライをかじっていた。
「むふふ〜、おいし〜!」
「ちょっとパフィ…!」
彼が後ろを振り向くと、マノンが腰に手を当て立っていた。
「ぎくっ…」
「またかってにおやつたべて!せんちょーがやられたらどうするのよ!!」
「でっ…でもげんきそうだよ…?」
「せんちょー、げんき」
マノンの後ろからリンネアも水を差した。
「そういうことじゃなーーい!!」
リンネア達はビーチへと向かった。
「うみいくよ〜」
「まだおなかすいてるのに…」
パフィはマノンに引きずられながらお腹をさすった。
「はやくいかなきゃくらくなっちゃうでしょ!きょうはママにおつかいたのまれてるんだから!」
「おつかいなんかやだなぁ。リンネアもいやでしょ?」
「おつかいするの〜」
「うぅ…すごいやるきだ…」
ビーチに着くと、マノンは2人に道具を渡した。
「はい、これね」
「なにこれ?」
「パフィ!あなたはかいをほってバケツにいれなさい!」
「リンネアは〜?」
「あなたはあみのなかにかいをあつめるの」
「えっと…マノンは…」
「せんちょー!」
「せっ…せんちょーはなにするの…?」
「わたしはてきがこないかみはってる。じゃあ、あとはまかせたわよ〜」
「え〜!?」
「パフィはやくやろ〜」
「マノンはいっつもそうなんだから…」
リンネア達は貝を漁り始めた、マノンはただ遠くから2人の様子をながめている。
「これでいっぱいめ…」
「はぁい」
リンネアが網を広げると、パフィがバケツの中の貝をどさっと入れた。
「あの…そろそろこうたいしても…」
「いいよ〜」
リンネアはそう言うとパフィのバケツと熊手を預かった。
「いってくるよ〜」
「うん!ありがとね!!」
その様子をマノンも目を細めながら観察していた。
「パフィったら…またおさぼりして…まぁ、べつにいいわ!」
リンネアは海に近づくと、波が打ち寄せてることに気づいた。
「おみず、うごいてる」
彼女が追いかけると、波も海へ逃げていく。
「まって〜」
リンネアが波に追いつくと、足が砂にのまれた。
「ひんやり、へんなの」
足の指を動かしながら感触を楽しんでいると、突然大きな波が襲いかかってきた。
「わぁ」
転んだリンネアを、引き波が沖へ拐っていく。
「たすけて〜およげないの〜」
パフィがリンネアの声に気付いた。
「あっ!たいへん!!」
彼は急いで海に駆け寄ったが、波打ち際で足を止めた。
「ぼくも…およぐのこわい…」
「ちょっと!なにしてんのよ!!」
高く大きい声がパフィの背後から響いた。
「マノン!?」
「せんちょーでしょ!!あぶないから!あんたはさがってなさい!!」
マノンは勢いを緩めず海に飛び込んだ。
「くるしいよ〜」
リンネアは手をバタバタと動かしたが、服の重さでどんどん沈んでしまった。
「はやく!つかまりなさい!!」
マノンはリンネアに追いつくと、背中に彼女を乗せ、浜へ戻り始めた。
「リンネアおもいよ…」
「うるさい!せんちょーをなめるんじゃないわ!!」
マノンはさらにスピードを上げた。
「おーい!せんちょー!!」
パフィが近くにあった救助用の浮き輪を2人に向かって投げた。
リンネアを浮き輪に乗せ、マノンも後ろに捕まった。
「ひっぱるよ〜!!」
パフィがロープを引っ張って2人を砂浜に寄せた。
足がつくとマノンとリンネアはパフィの横に倒れた。
パフィも息を上げながらお尻をつけ座り込んだ。
「パフィ…おてがらね…」
「せんちょーがすごいんだよ…」
リンネアは恐怖と申し訳なさで涙を浮かべた。
「マノン…ごめんね…」
「ぶじならいいのよ…あと…せんちょーでしょ…」
「うん…せんちょー…ごめんなさい…」
「ありがとうでしょ…」
「せんちょー…ありがとう…」
マノンは起き上がると、リンネアを抱きしめた。
「せんちょーはみんなをまもるのよ、わかった?」
「うん…せんちょーすき…!」
「それなら、かいをあつめるわよ!ひがくれちゃうわ!」
「そういえば、なんでかいなんかあつめてるの?」
「それは、ママのキッチンをまほうつかいがなおしにくるからよ…!」
「まほうつかい…?」
「リンネアまほつうかい、しらない」
リンネア達はマノンの家に帰ると、煙突から煙が上がっていた。
「さぁ、ついたわよ!」
マノンが扉を開け中に入った。
「ただいま〜!」
声を聞いたマイラが3人を迎えた。
「おかえり〜!あら!パフィちゃん!」
「ども〜」
パフィは慣れた口調で挨拶をした。
「それにリンネアちゃんも!お庭で会ったの?」
「ちがうよ〜、おぼれたのたすけ」
「ちょっと!なんでもないの!それよりパフィ、あれだして!」
「う…うん…これ、どうぞ」
「あら!ありがとう…!3人で取ってきてくれたのね!」
「そうよ!それで、まほつうかいはきたの?」
「もちろん!バッチリ直してくれたわよ!今からお料理するから、パフィちゃんも良ければ食べてって」
「ありがとうございます…!」
みんなが靴を脱いで上がっているところを、奥から僕も覗いた。
「リンネア!おかえり!」
リンネアは僕と目が合うと、駆け寄って足に抱きついた。
「どうしたの…?」
「ブルース…まほうつかい…」
そう呟くと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「よく分からないけど…今日は楽しかった?」
「うん、たのしかったよ〜」
「よかったね…もうすぐヴィンセントさん達も帰ってくるから、みんなでマイラさんの料理を頂こう」
「うん。リンネアがかいとってきたんだよ〜」
「そっかぁ、それは楽しみだ…!」
どこか懐かしいやり取り、リンネアの笑顔を見ていると、とても安らぐ気がした…
「ただいま〜」
玄関に入ってきたのは、ラッコのお父さんだった。
「あらコリン!今日は久しぶりにあなたの大好物作るからね…!」
「ありがとう…でも、ミルクとバターなかったんじゃ…?」
「えっと…あぁ!?」
食材を買いに行くのを、マイラさんはすっかり忘れていた様だ。
気を取り直して、急遽レストランでの食事をすることとなった。
「では、久しぶりの集合に…かんぱーい!」
食事会には僕たちの他に、アザラシのフローターファミリーも合流した。
レストランでは美味しいシーフード料理を味わった。
1年ぶりの再会に、みんな話が弾んでいる。
僕は近くの浜辺で海を眺めていると、パフィが横に座った。
「うみすきなの?」
「うん…よく分からないんだけど、懐かしい気がして」
「そっかぁ…ぼくはね、うみがきらいだったんだ」
「そうなの…?ずっと海の近くだと怖いんじゃない…?」
「ぼくたち、ひっこしてきたから」
「そうなんだ…」
「でも、いまはへいきだよ〜」
「そっか…変わるきっかけって何だったの…?」
「だれかさんがね、およげなくてもいいよって、きづかせてくれたんだ」
「なるほどね…」
「おにいさんはないの?こわいこと」
「うん、あるね…思い出せない昔のこととか…知らない方が幸せなのかなって…」
「だいじょうぶだよ、なんとかなるさ〜」
それから、僕とパフィはしばらく海を眺めた。
軽いように聞こえる言葉だけど、不思議と彼の経験の深さがあるように感じた。
翌日、僕たちはみんなで海に出かけた。
「おーい!ブルースく〜ん!」
遠くからマイラさんが手を振ってくれた。
「こんにちは〜!」
マイラさん達の近くにいたフローターファミリーにも挨拶をした。
「昨日はそちらのお子さんが、うちのパフィと遊んでくれたみたいで、ありがとうございました…!」
「いえいえ!リンネアも楽しんでいたので、こちらこそありがとうございます…!」
リンネアもパフィの頭を撫でた。
「きょうもあそぼね〜」
「うぅ…なんでワサワサするの…」
「フサフサきもちぃ〜」
「そうなのね…」
「パフィ〜!リンネア〜!」
「あっ!」
リンネアが声のする方を向くと、マノンが歩きながら手を振っていた。
「せんちょ〜!!」
リンネアは彼女に駆け寄り、そのまま抱きついた。
マノンを強く抱きしめながら、顔を擦り付けた。
「こらこら!くすぐったいじゃない!」
「せんちょ〜とあそぶ〜!」
「あの…ぼくをわすれてない…?」
パフィは目を細めながら2人を見守っていた。
全員が揃うと、子ども達は早速遊び始めた。
僕はハイデンとポーリーンに連れられボールで遊ぶことになった。
「マリーナもおいでよ〜!」
「おっけー!」
コーブファミリーのマリーナ、母のマイラに負けない元気なラッコの女の子だ。
「ブルースさん!絶対負けないからね!」
「う、うん…!僕も頑張るよ…!」
「じゃあ、最初にボール落としたら負けね!いくよー!!」
ハイデンは掛け声と同時にビーチボールを空中に投げた。
「えいっ!」
ポーリーンは自分に落ちてきたボールを上手く跳ね上げた。
「マリーナ!いったよ!」
「任せて…!」
マリーナは空高く飛び上がると、空中でボールを捉えた。
「はーっ!!」
勢いよく振り下ろされた手から、ボールが素早く飛来した。
「ちょっと待って!?」
僕にはとても捉えきれず、顔に命中して倒れ込んだ。
「いてて…」
「ちょっとやりすぎちゃったかな?」
「でも、ブルースは触ってるから…」
「そっか…!間違えちゃった!」
マリーナは照れながら手を顔に当てた。
「まぁ、もう一回やろう!ね!ブルース!」
「うっ、うん…でも…次はもう少し優しく…」
「いっくよ〜!」
「全然…聞いてない…」
その頃、リンネア達は3人で砂のお城を作っていた。
「なんかさみしいわね」
「かざりつけるものないよ〜」
「リンネアさがしてくる〜」
1人で歩き出すリンネアの襟をマノンが掴んだ。
「こら!またなみにながされるでしょ!」
「そっかぁ、じゃあせんちょーといく〜」
「しょうがないわね…パフィ!みはっといてくれる!」
「え〜!」
「あんたがいちばんつくってたでしょ!きゅうけいでもしてなさい」
「あいかわらず、ごういんなんだからぁ」
「いくわよ!リンネア!」
「ご〜ご〜!」
2人が離れると、パフィは砂浜に寝転んだ。
「まぶしいねぇ」
そう言うと、帽子を顔に被りいびきをかきながら昼寝を始めた。
リンネアとマノンは砂浜を回りながら飾りを探していた。
「かいがらしかないわね」
「うみいく〜?」
「そうねぇ、でもあんたおよげないでしょ」
「うきわあるよ〜」
「それでもしんぱいよ…!おとながいればいいけど…」
「あっ!」
リンネアの視線の先には、覚えのある姿が見えた。
「ブルースいる〜」
「ん…?」
僕はリンネアの声に気づくと2人に近づいた。
「何してるんだい?」
「おかざりさがしてるの〜」
マノンはまじまじと僕を見つめた。
「ちょうどいいわ!いっしょにきなさい!まほうつかい!」
「ま…魔法使い…?」
「ブルース!まほうつかい!」
2人にぐいぐいと背中を押されて、気づけば波間に連れてこられた。
「いっしょにうみはいるの」
「なるほど…」
「あんたはリンネアのうきわをおしてあげなさい。わたしがもぐってかざりをさがすわ」
リンネアは浮き輪を腰まで上げ、スタスタと歩き出した。
「ぷかぷか〜」
しばらく進むと足がつかなくなり、すぐに浅瀬に戻されてしまった。
「いけないよ」
「押してあげるから、足を上げてごらん」
「わかったよ〜」
リンネアが足を上げると、僕は浮き輪を押して沖の方へ進み始めた。
「ほら!はやくきなさい!」
先に泳いでいたマノンに追いつくと、早速3人で海の中を探し始めた。
ゴーグルをつけて海を覗くと、色とりどりの魚が泳いでいた。
マノンは海の底まで潜り、珊瑚を取っていた。
「僕らも少し潜ろうか」
「うん」
リンネアを抱き抱え、顔を水中に沈めた。
全身が海に包まれる感覚、どこか覚えがあった。
(なんだろう…前にもリンネアと…)
「どうしたらいいかな…」
夜の海を眺めながら、僕は橋に立っていた。
「わかんないや…時間もないし…仕事は溜まっていくし…」
考えこむと頭を締め付けられるようだった。
涙が止まらなくなる。
「僕がいけないのかな…」
意識が薄れ、身体の力が抜けていくのを感じた。
「あっ…」
ふらついて柵に掴みかかった時に、何かが手から溢れた。
咄嗟にそれに手を伸ばすと、僕はそのまま海へ落下した。
「ブルース〜」
(はっ…!?)
気づくとリンネアが僕の顔を覗き込んでいた。
知らぬ間に息が苦しくなっており、2人で海面へと戻った。
「ブルースだいじょうぶ〜?」
「うん…!ちょっと考えごとしてて…」
マノンも珊瑚を抱えて浮上してきた。
「ふたりともボーっとして!もうあつまったからかえるわよ!」
そう言うと彼女は砂浜に向かって泳ぎ始めた。
「戻ろうか…」
「うん〜」
リンネアと泳ぎながら段々とはっきり思い出した。
自分はもう、違うものになってしまったのかもしれない。
恐怖に囚われた頭に、リンネアの声が響く。
「ブルース〜」
「ん…どうしたの…?」
「ぷかぷかたのしいね〜」
まっすぐ彼女に見つめられると、考えていたことが消え去ってしまう。
2人で一緒に泳ぐ海は輝いて見えた。
その頃、パフィは昼寝から目覚めた。
「うぅ…」
「わぁ〜」
「おっと…ねすぎたかな…」
帽子を被り直し目を擦った。
目の前にはハスキーファミリーの双子が座っていた。
「きみたち、リンネアのとこの…ぎゃっ!?」
2人の奥には、ボロボロに崩れたお城が残っていた。
その上には妹のマフィが堂々と乗っていた。
「ふぃ?」
「ちょっと!おりて!!」
パフィは優しく彼女を持ち上げてお城から下ろした。
「マノンたちになんていえば…」
「よんだ?」
「ぎぇっ!?」
声をかけられ振り返ると、そこにはマノンとリンネアが立っていた。
「あっ…いや!その!はやくかえってきてほしいな〜とか…!」
「せんちょー、おしろないよ〜」
「ちょっと!?」
マノンはパフィを睨んだ。
「どういうこと…?」
「あっ…これは…そのっ…」
「もーっ!」
「あっ!マノ〜ン!」
遠くからマノンを呼ぶ声がした。
「このこえは!」
彼女に駆け寄ってきたのは姉のマリーナだった。
「おねえちゃーん!」
マノンは幸せそうに微笑んで姉に抱きついた。
「何してるの?」
「あのね!おしろつくってたんだけど!だけど…」
「なるほどね」
マリーナは少し残った砂の山を見て事情を理解した。
「じゃあ、お姉ちゃんも手伝うから、もう一回作ろっか!」
「うん!つくる!」
姉に甘えるマノンの姿を、リンネアとパフィも隣から眺めていた。
「パフィ、たすかったね〜」
「そうだね…なんとか…」
「ふぃっ!」
「ふぐっ…!」
妹のマフィに寄りかかられ、パフィは砂に倒れた。
「パフィたちもなかよしね〜」
リンネアはそう言うと、また彼の頭を撫でた。
「いっつもこう…うぅ…」
その後、リンネア達はみんなで砂の城を作った。
ハイデンやポーリーンも加わり、陽が沈む頃には立派なお城が完成した。
お城の完成を見守り、僕は波打ち際で夕焼け色の海を眺めていた。
昼間に思い出したことが頭を巡った。
「なにしてるの〜」
そう声をかけながら、リンネアが横に座った。
「ん?あぁ、海が綺麗だなぁと思ってたんだ」
「そだね〜」
「リンネアは、自分がどこから来たか覚えてないの…?」
そう尋ねると、彼女は真っ直ぐ海の方を指差した。
「海から来たの?」
「そうよ〜、ブルースもだよ〜」
「僕も…?」
確かに海に落ちたのは覚えているが、その前後の記憶は曖昧だ。
「ブルース、まだだからね〜」
「どういうこと…?」
「ないしょ〜」
「何それ」
チグハグなやり取りに、少しおかしくなって笑った。
「また、一緒に来ようね。シーサイド村に」
「うん、またくる〜」
「おーい!」
遠くからハイデンが手を振った。
「もう帰るよ〜!」
「わかったよ〜!」
僕は立ち上がり、お尻の砂を払った。
「行こうか」
「うん〜」
僕たちは夕焼けに照らされながら、車に荷物を積んだ。
リンネアは2人の友達に別れの挨拶をしていた。
「またね〜」
「いつでもあそびにきなさいよね!」
「うん、いけたらいくよ〜」
「それ…こないときのやつじゃん…」
ため息を吐くパフィの頭をリンネアが撫でた。
「パフィもげんきでね〜」
「はいはい、ちかいうちにきなよね」
「わかったよ〜」
僕もマイラさんに挨拶をした。
「2日間ありがとうございました。楽しかったです…!」
「よかったよかった!うちで良ければいつでも泊まりにおいでね。次こそは手料理作ってあげるから!」
「そうですね…楽しみにしてます!」
仲良く話す僕たちの姿を、リンネアはじっと見つめていた。
それに気付き目線を合わせると、彼女は目を逸らし、少し寂しそうに空を見上げた。
僕たちは車に乗り込み、シルバニア村へと出発した。
マイラさん達がみんなで手を振ってくれるのが、トンネルに入るまで遠くに見えた。
リンネアと約束した通りまた来たい、そう考えながらオレンジ色の海を眺めた。
その夜、シーサイド村での思い出を話しながらリンネアとベッドに寝転んだ。
「マイラさん、優しいお母さんだったね」
「うん」
「リンネアも、みんなと仲良くなれた…?」
「うん」
「よかったねぇ」
「ブルース…」
「ん…?」
あまり感情を出さないリンネアが、寂しそうな目で僕を見つめた。
そして、息を吐くように声を漏らした。
「ママ、あいたい…?」
「僕の…?」
しばらく考え込んだ。頭に浮かぶ家族はいなかったが、本当の家族がいるのなら、答えを知りたかった。
「会ってみたい…どんな人か分からないけど…」
「うん…」
その言葉を聞いた途端、リンネアは突然泣き出した。
「リンネア…?」
彼女はすすり泣きながら、僕の胸に顔をうずめた。
「大丈夫…何か嫌なことあった…?」
「ううん…ちがうの…」
僕はリンネアの頭に手を当て、優しく撫で下ろした。
その時、僕は自然とある歌を口ずさんだ。
「君の悪い夢も…私が全部食べてあげる…痛いの痛いの飛んでいけ…安らかな歌声を…」
おぼろげに思い出した記憶、僕は母の膝の上にいた。
「もう…パパかえってこないの…?」
「うん…でも大丈夫だよ。ママが一緒にいるからね…」
涙ぐむ僕に、母はあの歌を歌ってくれた…
ふと気づくと、リンネアは安らかに寝息を吐いていた。
「ゆっくりおやすみ…」
そう声をかけると、リンネアも寝言を呟いた。
「ブルース…もうだいじょうぶだよ…」
「…そうだね。ありがとう…」
僕も彼女を抱えながら、そのまま眠りについた…
つづく…