とある朝、保育園の園庭では赤ちゃん達が遊び回っていた。
「いっくぞ〜!」
「うんてんはまかせて!」
「ぼくもおす〜!」
乗り物が大好きなペンギン三兄弟がカートを猛スピードで走らせていた。
「もっともっと〜!」
「カーブくるよ〜!」
「そのまま!まがるわよ!!」
しかし、加速し切ったカートは遠心力に負けて片側が浮き上がった。
「わーっ!!」
兄弟達はカートと共に茂みに突っ込んだ。
「あーっ!またあぶないことしてる!!」
大声に気付き茂みから顔を出すと、そこにはフローラウサギの赤ちゃんが手を腰に当てて立っていた。
「あぁ…シエル…」
「スピードだしちゃダメです!ぶつかったらどうするの〜」
「いいも〜ん!」
「にげろ〜!」
ペンギン三兄弟はそそくさと逃げていった。
「まったく…」
シエルがカートに目をやると、異変に気がついた。
「これは…ママにほうこくです…!」
フローラウサギのアリアは娘に連れられカートの様子を見に来た。
「あら…これは…」
「タイヤがとれちゃってる!なおさなきゃ!」
「そうねぇ…でも、カートを直せそうなのは…あっ…!」
「なにかひらめいた?」
「車を直せる方なら、きっとカートも直せるかも…!」
その頃、風車小屋ではブルースがお昼ご飯を準備していた。
「リンネア〜できたよ〜」
「いくよ〜」
テーブルにはお魚のソテーが並んでいた。
「この前のお礼、マリーナさんに貰ったお魚だよ」
「おさかなおいしそ〜」
「よし、じゃあ食べよっか」
「たべる〜」
リンネアが席に着くと、2人で手を合わせた。
「いただきます」
「いただきま〜」
昼食を済ませて、リンネアと一緒に散歩へと出かけた。
丘の上には今日も暖かな風が吹いた。
リンネアと過ごす日常は安らぎと落ち着きがあった。
しばらく歩き、アヴリルさん達の家を通りかかった。
「挨拶してく?」
「する〜」
リンネアと手を繋ぎ玄関に向かうと、そこには誰かと話し込むアヴリルさんの姿があった。
「そうなのよ〜、ちょっと園のカートが壊れちゃって…」
「なるほどねぇ、今度の週末がお休みだから、ヴィンセントに子ども達を預けて直しに行こうかしら」
そんな時、後ろで立つ僕らの姿にアヴリルさんが気づいた。
「あら!ブルースじゃない!」
「こんにちは〜」
僕の挨拶で振り返ったのは、エプロンを着たウサギの女性だった。
「お客さんかしら?」
「最近村にきた、ブルースくんとリンネアちゃんよ〜」
「そうなのね…!どうもこんにちは、フローラウサギのアリアと申します」
そう言うと、アリアさんはペコリとお辞儀をした。
アヴリルさんに招かれ、家の中でお茶を飲みながらアリアさんの話を聞いた。
どうやら、園のおもちゃのカートが壊れてしまったらしい。
「それで直せるひとを探してたんですね…」
「はい…」
「という訳でブルースくん、申し訳ないんだけれど、良ければ私の代わりに行ってきてくれない…?」
「はい、僕で良ければ明日にでも!」
「ありがとうございます…!」
「ブルース、どこいくの〜」
「保育園だよ」
「ほいくえん〜?」
「行ったことないの…?」
「ない〜」
そう答えるリンネア前に、アリアさんが目線を合わせて屈んだ。
「あなたも一緒にくる?」
「うん、いくよ〜」
「わかったわ!お友達が沢山待ってるから、楽しみにしててね…!」
「うん〜」
リンネアは嬉しそうに足をばたつかせた。
「では、明日の朝お迎えに行きますね…!」
アリアさんはまたペコリとお辞儀をし、園に戻った。
「リンネア、明日は早起きだね」
「がんばる〜」
アヴリルさんに挨拶し、僕とリンネアは散歩の続きをしてから帰宅した。
夕食を食べ、片付けをしながらふと考えた。
「保育園か…」
リビングでくつろぐリンネアの姿を眺めていると、彼女の別の姿が浮かびあがった。
「せんせ〜、またおててが取れちゃった」
「どれどれ〜」
保育園の部屋で女の子が駆け寄ってくる。
彼女から手渡されたハスキーの人形、左腕が外れてしまっていた。
「また外れちゃったかぁ…」
どこか寂しそうな表情にみえるハスキーの人形を、僕は優しく撫でた。
「じゃあ、先生が直してあげるから、他のお人形さんと遊んであげて!」
「はーい!」
僕はそのまま、受け取った人形をポケットに入れた。
「ブルース〜」
ふと意識が戻ると、リンネアが足を揺さぶっていた。
手元を見ると、水が跳ねて服がびしょ濡れになっている。
「わぁ!」
「タオルあるよ〜」
蛇口の水を止め、リンネアが差し出してくれたタオルで服を拭いた。
「ありがと…」
その夜、布団に入りながら今まで浮かんだ記憶を思い出した。
間違いない、今まで直した家具も乗り物も、全て以前の姿の自分が直したものだった。
僕は保育士だった。
ある日の帰りに橋から海に落ち、そのままこの世界に来たんだ。
「戻れない…のかな…」
ふと考えこむと涙が止まらなかった。
まともに仕事をこなせなかった自分、子ども達と最後まで向き合えなかった自分、惨めで何もできなかった自分…
「よしよ〜し」
リンネアが泣いているのに気づき、僕を撫でてくれた。
「ねんねだよ〜」
「うん…そうだね…」
悲しさで張り裂けそうな気持ちを抑えながら、彼女を抱きしめた。
ふわりとした毛が僕の気持ちを和らげてくれた。
「ありがとね…」
「うん〜」
安らかな気持ちに包まれ、眠りについた。
翌朝、家の前に1台のバスが停まった。
「どうも、おはようございます!」
「おはようございます〜」
アリアさんに挨拶をし、リンネアと共にバスに乗り込んだ。
運転手もアリアさんと同じフローラウサギだった。
「おはよう、君がブルース君だね〜。僕はノーラン、よろしく〜」
「ノーランさん!よろしくお願いします!」
「よろしくね〜」
リンネアも挨拶をした。
座席の方に向かうと、1番前の席に1人の赤ちゃんがポツンと座っていた。
「あっ…!」
僕と目が合うと彼女は立ち上がり、通路に出てきた。
「どうもおはようございます。シエルともうします…!」
元気よく挨拶をすると、アリアさんの様にペコリとお辞儀をした。
「うちの娘のシエルです。この子ったら、私の挨拶をよく真似てて」
「だって!ママみたいなせんせ〜になりたいもん!」
恥ずかしそうに頬に手を当てるアリアさんを見て、シエルは嬉しそうに話した。
「お母さんのこと、大好きなんだね」
「はい!おかあさんもおとうさんもだいすきです!」
僕はリンネアと一緒にシエルの反対に座った。
バスが出発すると、横を向いて園の説明をしてくれた。
「このほいくえんには8にんのおともだちがいます!」
「それは楽しそうだね…!」
「ひとりづつおむかえにいくので、じゅんばんにしょうかいします!」
バスは早速とある家の前で停車した。
「シエルちゃんおはよ〜」
「おはよ〜!しょうかいします!コアラのアデレードちゃんです!」
「あなたがしゅうりやさんね〜、おはようございます〜」
「おはよ〜」
僕が挨拶を返すと、アデレードはニコッと微笑んだ。
「アデレードちゃんはしんゆうなんですっ!」
シエルがそう言うと、彼女に顔を擦り寄せた。
「シエルちゃんくすぐったいよ〜」
「ずっとこうしてたいですっ!」
リンネアも2人の真似をして僕の腕にスリスリと頬を当てた。
「僕らも仲良しだね」
「なかよしなの〜」
しばらくすると、次の子の家へ到着した。
「ふわぁ…おはよ…」
「おはようございます!かれはフェネックのカレブくんです!」
「そうだよ〜、ついたらおこしてぇ…」
そう言うとカレブはブランケットから耳だけ出して眠りについてしまった。
「なにかにつつまれるのがだいすきなカレブくんです!いつもねてるんです…じゃあ、つぎのこをむかえにいきましょう!」
次に停車した家の前には、ラテネコの男の子が立っていた。
「じゃあねおにいちゃん!あっ…たいちょー!」
「どっちでもいいけどね、無事に戻ってきたまえ!メイベル隊員!」
ラテネコの兄妹はビシッと敬礼し、妹がバスに乗った。
「ラテネコのメイベルちゃんは、いつもおにいちゃんとたんけんしてます!」
次は双子の猫の赤ちゃんが乗車した。
「ごきげんよ〜」
「ごきげんよ〜」
お淑やかに挨拶する2人に僕もお辞儀した。
「カールミミネコのバロウくんとマロウちゃんです…」
「なんか、シエルちゃん2人を睨んでる…?」
「きひんがあるとみせかけて…」
「ん…あれっ、僕のカバン!」
「キシシッ、バックとれたよ」
「なかみちゃお〜」
一瞬すれ違っただけなのに、いつの間に2人の間で僕のバッグを漁っていた。
「イタズラコンビなんです…こらっ!かえしなさーい!!」
最後に、ペンギンの三兄弟が乗車した。
「キッピー、パール、ロッキーです!いじょう9めい!ようこそ、おひさまほいくえんに!」
シエルはペコッとお辞儀をしたが、後ろは大騒ぎだった。
「賑やかな保育園だね〜」
「にぎやかすぎてこまっちゃいます…あっ!カレブくんのブランケットとらないの!!」
そんなシエル達を、アリアさんは微笑みながら見守っている。
大変そうに感じたが、不思議と彼女の表情には幸福が見える気がした。
「さぁみんな〜、着いたよ〜」
「はーい!」
バスから下車すると、太陽がてっぺんに輝く保育園が現れた。
白い壁にピンクの屋根が特徴の華やかな雰囲気だった。
「可愛らしい園ですね…!」
「ありがとうございます。私とノーランでデザインしたんです、自分達ならこんな保育園に通いたいなって思うものを」
「素敵です…!夢が詰まってるんですね…」
見惚れる僕の前に、シエルがビシッと向かい合って止まった。
「そうなんです!わたしもこのほいくえん、だいすきです。なのでごあんないします!」
「ありがと〜、じゃあシエル先生、案内お願いします」
僕の先生という言葉に、シエルは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ついてきてください!」
まず向かったのは大きな滑り台だった。
「はれのひはすべりだいでおおはしゃぎです!」
「これは楽しそう…!」
「みんなじゅんばんになかよく…やりたいですね!」
「そうだね」
「でも、いつもけんかします!」
「あらら〜」
「では、なかにいきましょう」
玄関に向かうと、他の赤ちゃんたちが靴を脱いでいる。
「おはようございます!」
靴の脱げた子から元気に挨拶をして中へ入っていく。
僕らも続けて靴を脱いだ。
「げんかんではあいさつがきこえます!あさのはじまりですね!」
ふとリンネアを見ると、みんなの真似をして必死に靴下を引っ張っていた。
「とれないよ〜」
「ちょっと貸してごらん」
リンネアの靴下を引っ張り、かかとだけを外してあげた。
「もう一回やってみよ」
「うん〜」
彼女は改めて靴下の先を引っ張ると、スポッと足から抜けた。
「リンネアぬげたよ〜」
「凄いね…!次もまたやってみよ!」
「またやる〜」
僕も裸足になり立ち上がると、シエルがジーッと見つめてくる。
「あなたもせんせいみたいです」
「そっ…そうかな…?」
「まぁ、いいですね…なかをあんないします!」
シエルについていくと、中ではみんなが朝の支度をしていた。
「おしたくがおわったら、あさのごあいさつします!」
アリアさんがピアノの前に座ると、みんなが周りに集まってきた。
「どうも、おはようございます!」
「おはようございます!」
アリアさんの挨拶に合わせて、子どもたちも一斉に返事をした。
「今日の天気は何かな〜?」
「はれです!」
ペンギンのロッキーが元気よく答えた。
「そうだね〜、今日は晴れの日です!」
アリアさんが壁のレバーを上げると、背景が切り替わり、綺麗な青空の絵が現れた。
園の仕掛けに子どもたちも大興奮している。
「今日は何をしようかな?」
「おにわであそぶ!」
「おひるね〜」
「おえかきがしたいなぁ」
思い思いに提案する中、シエルがまっすぐ手を上げた。
「はい!せっかくはれなので、おさんぽにいきましょ!」
シエルの提案に他の子たちも大喜びした。
「そうね〜、じゃあお散歩にしましょうか」
「はーい!」
子どもたちは急いで準備を始めた。
その様子を見つめる僕とリンネアにシエルが近づいてきた。
「おふたりもいっしょにきますか?」
アリアさんもこちらに来ると、シエルの頭を撫でながら話しかけた。
「一緒に行きたいけど、ブルースさんはおもちゃを直さなきゃいけないからね」
「そうですか…」
残念そうに俯くシエルだったが、リンネアが彼女の手を取った。
「リンネアいくよ〜」
「ほんとですか…!」
2人の様子を見て、僕もアリアさんに声をかけた。
「お昼寝中に直すので、アリアさんが良かったら一緒に過ごさせてください…!」
「わかりました…ぜひ、よろしくお願いします…!」
「はい!」
早速身支度を済ませ、リンネアと手を繋いで列の最後尾に並んだ。
僕たちの前にはシエルとカレブが歩いていた。
「では、出発しましょう…!」
「はーい!」
散歩が始まると、リンネアはワクワクした様子で歩みを進めた。
「お散歩、楽しい?」
「おともだちいっぱい、たのし〜」
その声を聞き、シエルも嬉しそうに振り返った。
「わたしもリンネアちゃんがいっしょで、たのしいです!」
「おひるねしたいよ〜」
「カレブくん!まだごはんもたべてないのに!がんばってください!」
「カレブがんばれ〜」
「ねむねむ…」
足が進まないカレブを、シエルは頑張ってグイグイと引っ張った。
「さあ!目的地に着きましたよ!」
到着したのは噴水の周りにお花畑が広がる庭園のような場所だった。
子ども達は早速それぞれ集まって遊び始めた。
僕がみんなの様子を見守っていると、アリアさんが隣に座った。
「リンネアちゃん、ブルースさんのことが大好きなんですね」
「いえいえ!そうなんですかね…」
「えぇ、ブルースさんと話す時のリンネアちゃん、いつも耳が動くんですもの」
「そんなところまで分かるんですか…!すごいです…!」
「そんなことないですよ〜。うちのシエルも嬉しい時、耳がピョコって少し跳ねるんです」
「シエルちゃんもアリアさんの事、大好きなんですね」
「確かに、そうなのかもしれないですねぇ」
少し遠くの原っぱで遊ぶシエル達を見つめる目は、やはりキラキラと嬉しさが溢れていた。
「やっぱり、子ども達といると楽しいですか…?」
「そうですねぇ、ちょっと困っちゃうところもある子たちだけど、それも含めて愛してあげたいなって思いますね…!」
「確かに…僕もやっていた頃はそうでしたね…」
「やっていた頃…?」
「あぁ、いや!子どもだった頃的な感じです!」
「なるほど!確かに、大人になると自分を愛してあげるのって難しくなりますよね」
「はい…」
少し俯いていると、遠くからシエルが走ってきた。
「ママ〜!もうじかんだよ〜!」
「あら、そろそろもどらなきゃね」
アリアさんはシエルの頭を撫でた。
「ありがとう、シエル先生」
その言葉に、シエルの耳が少し動いた。
「みんなをよんでこなきゃ!みんな〜!かえるじかんですよ〜!」
「じゃあ、私たちも戻りましょうか…!」
「はい…!」
リンネアの元へ向かうと、何やらモジモジとした様子でこちらを見ている。
「ブルース、あげる」
リンネアはそっと僕にお花を差し出してくれた。
「ぼくにくれるの…?」
「うん、すきなひとにはおはなあげるって、シエルがいってた」
リンネアの後ろでは、シエルとアデレードが優しく見守っていた。
僕はリンネアに視線を合わせて両手を握った。
「ありがとね、僕も大好きだよ」
「うん、しってるよ〜」
よく見ると、リンネアの耳がクイっと動いていた。
顔を上げると、アリアさんと目があった。
ほらね、と、そんな表情を浮かべ微笑んでいた。
その後、園に帰りみんなでお昼ご飯を食べた。
子どもたちが眠りについた頃、僕はカートを直しに園庭へ向かった。
物置きの横には、何やら2人のフローラうさぎが花壇を観察していた。
「流石レノンの作った肥料ね、お花さん達が嬉しそう」
「よかったぁ…貝の粉が効いたみたい、もう少し増やしてもいいかな。ちょっとお家から取ってくる!」
そういうと男の子は園の外に駆け出して行った。
残された女の子は僕と目があった。
「あら、お客さん?」
「どうも…お邪魔してます…」
「こんにちは〜、アリスと申します」
僕はカートを修理しながら、花壇に水を撒くアリスに話を聞いた。
「はい、私たちもこの保育園が大好きなので…!こうやってレノンと一緒に綺麗なお花を育ててるんです〜」
「家族みんなで作った園なんだね」
「はい!でも、1番頑張ったのはママとシエルです…」
数年前…
「レノン〜アリス〜、幼稚園のバスが来るわよ〜」
「は〜い!」
「は〜い!」
慌ただしく準備をする2人の様子を、まだ幼いシエルが見守っていた。
「ママ〜、わたしもいくっ!」
「あら、シエルも行きたいのね」
アリアは優しく彼女の頭を撫でた。
「でもねぇ、幼稚園はもう少し大きくなってからなの」
「うぅ…いきたいのっ!わたしもいきたいのっ!」
シエルは目を潤わせ、アリアに抱きついた。
「いきたいの…」
「そうねぇ…」
数日後、アリアはとある家を訪ねた。
「というわけで…ロイドさんに作ってもらいたくて…」
「分かりました、ぜひ私で良ければ…!」
「ありがとうございますっ…!」
それから、アリアはノーランとロイド達と一緒に園を建て始めた。
建築をしてくれるみんなの為に、彼女は休まずご飯を差し入れ、自分でも色塗りや花壇作りをした。
その様子をシエルは遠くから見ていた。
「ママ…」
とある日…
「アリア〜、花壇の様子はどうだ〜い」
ノーランが彼女の様子を見に行くと、頭を抑えて花壇の脇にしゃがみ込んでいた。
「アリア…!?」
ノーランは急いでベッドへ運んだ。
彼女を心配して、子どもたちも駆けつけた。
「ママ〜!!」
眠っているアリアの姿を、シエルは不安そうに見つめた。
「ママ…だいじょうぶ…?」
「そうだね…ちょっと頑張りすぎちゃったのかな…」
シエルは園を作る為に奮闘するアリアの姿を思い出した。
「おねえちゃん…おにいちゃん…シエルの…シエルのおてつだいしてほしいの…!」
数日後、元気になったアリアは保育園の様子を見に行った。
「休んじゃった分、また頑張らないと…」
予定地に着くと、アリアは息を呑んだ…
「うそ…どうして…!?」
そこにいたのは、ロイドやノーランだけではなかった。
「はい、次はこっちね」
「可愛い壁になりそう…!」
屋根の上ではコアラのお父さんがスイスイとタイルを貼り付け、壁にはフェネックのお母さんが絵を描いていた。
みんなの協力で園舎はほとんど完成しており、最後に内装を作っていた。
「あ、お母さ〜ん」
アリスが手を振りながら歩いてきた。
「アリス…!どうしてみんなが来てくれたの…?」
「あのね…実はシエルが村中のお家を回ったの」
「シエルが…?」
「うん、私たちもついて行ったけど…あの子が全部説明して、お願いします、ママの為にって」
「そんな…あの子ったら…」
涙ぐむアリアは、壁の色塗りを頑張るシエルを見つけた。
彼女もアリアを見ると、道具を置き駆け寄った。
「ママッ…!!」
「シエル…!」
彼女はシエルを抱き上げ、強く抱擁した。
「ありがとうね…!シエルの為に私…!」
「ママはがんばりすぎなの、だからシエルもおてつだいする…!」
「そうだね…本当にありがとうね…」
「それから、村のみんなの協力もあって、保育園は無事に完成しました」
「そんなことが…」
アリスは昔のことを思い出して微笑んだ。
「シエルもお母さんも、お互いを思いやってて、そんなふたりを見るのが私たち家族も大好きなんです…」
「確かに、アリアさんの優しさはいつでも見える気がするなぁ…」
彼女と話をしていると、アリアさんが僕たちの様子を見にきた。
「あら、アリスも来てたのね」
「お母さん!今ね、ブルースさんに保育園を作った時のことを話してたんだ〜」
「そうだったのねぇ」
「アリアさんもシエルちゃんも、おふたりの思いが詰まった保育園だったんですね」
「いえいえ…シエルの気持ちに答えようとして、気づくと張り切ってしまう自分がいるんです…」
アリスは立ち上がり、アリアさんの手を握った。
「私はそんなお母さんが大好きだよ〜」
アリアさん達を見ていると、微笑ましさと同時に羨ましさを感じた。
そんな時、ポケットから一輪の花が出てきた。
僕にも大切に思ってくれる家族がいる。
でも…本当の家族もどこかにいるんだろうか…
「それでは、皆さんさようなら〜」
「さようなら〜!!」
アリアさんの挨拶に子どもたちも元気よく返した。
僕もリンネアと一緒に帰りのバスに乗車した。
「おやつおいしかったよ〜」
「よかったねぇ」
リンネアの頭を撫でると、嬉しそうに顔を擦り寄せた。
「では、出発しまーす!」
ノーランさんの掛け声でバスは発車した。
前の席に座っていたシエルが振り返り、僕たちを見つめる。
「ほいくえん、たのしかったですか…?」
「もちろん、僕もリンネアも楽しかったよ〜」
「よかったです…!」
「シエルちゃんなら、アリアさんみたいに優しい先生になれるよ…!」
「がんばります!ブルースさんも、ブルースさのママがすきですか?」
「僕のママ…?」
「はい!」
「うっ…うん…もちろん大好きだよ…!」
「ふふっ…いっしょですねっ!」
「そうだね…一緒だね…!」
バスは子ども達を送り届け、最後に僕とリンネアも家まで送ってもらった。
「またあそびにきてくださいねっ!」
「うん、いくよ〜」
リンネアとシエルはぎゅっと抱きしめ合った。
その頃、僕もアリアさんに挨拶をしていた。
「また何か壊れたら連絡してください…!」
「はい、壊れなくてもぜひ訪れてくださいね。子ども達も喜ぶと思うので!」
「わかりました…!」
丘を下るバスを見送ってから、僕たちは家に入った。
眠りにつく前、僕はアリアさん達のことを思い出していた。
「僕のお母さんは…」
ふと気がつくと、別の場所にいた。
「おかあさん…?」
僕は病院の一室で座っている。目の前には痩せ細った女性が横になっていた。
「あら…来てくれたのね…」
「おかあさん…だいじょうぶ…?」
「大丈夫…だよ…」
おぼろげに見える画面の波が少しずつ落ちていくのがわかった。
「おかあさん…いかないで…」
握りしめた手はとても冷たかった。
「あなたは優しいから…きっと色んな人が周りに集まるわ…」
「そんな…」
「だから…そのままのあなたでいてね…」
部屋の隅にあった機械から大きな音が鳴り、病室が慌ただしくなった。
大勢の大人が、彼女の周りに集まってきた。
「おかあさん…!おかあさん…!!」
その後、僕は目を覚ました。
「そっか…」
また布団にこもっても、陽が登るまで眠りにつくことはなかった。
夢で見た母の言葉が、頭の中で繰り返されたままだった…
つづく…