「オオカミさ〜ん!」
そうなの、リンネアはオオカミなの。
「きょうはどのおようふくにする?」
みずいろのやつが、いいの〜
「あ、またひとりであそんでる」
「いいじゃない!べつに!」
「かせよ!こんなよわそうなオオカミいるわけないだろ。ガオー!おまえをたべてやる!」
「そんなこといわないもん!かえしてよ!」
そうなの、リンネアそんなこといわないの。
「あっ!」
あ、おてて、とれちゃったの…
「やば、せんせーにみつかるまえにすてなきゃ」
え、リンネアまだあそびたいの…
「もうこわれたからゴミだし、いいよな」
いやなの!まだあそぶの!
「こら、ユウトくん!今何か捨てたでしょ!」
「え?しらないよ?」
「知らないじゃないよ、今ミノリちゃんから聞きました」
あ、あかるくなったの。
「まだ治したら大丈夫そうだね」
よかったの…まだリンネアあそべるの…
「リンネア、リンネア」
あ、せんせーのこえなの
「リンネア、おきて」
「うぅ〜」
僕の呼びかけに、リンネアはうっすら目を開けた。
「おはよう」
「おはよ〜」
「キャンプに遅れちゃうよ、準備しなきゃ」
「わかったの…」
リンネアはあくびをしながら考えた。
「なんか、むかしのゆめみたの」
僕たちは朝食を食べ、身支度を整えた。
「よし、行こうか」
「う〜ん」
僕は黄色いスカーフを首に巻き、リンネアは探検帽を被った。
今日も自転車はシルバニア村を駆け抜けていった。
「そろそろかな…」
湖の辺りに到着すると、すでに数台の車が停車していた。
「あ!きたきた!」
ブルースが着いた頃には、ハスキーファミリーを中心に沢山のファミリーが揃っていた。
「皆さん早いですね…!」
「ブルースくんのお願いだから、みんな張り切っちゃってね」
ヴィンセントさんと話す僕に近づいてきたのは、パトリックさんだった。
「やあブルースくん、久しぶりだね」
「パトリックさん!」
「お手紙見たよ。寂しくはなるけど、君が決めたことだもんね」
「はい…」
「まぁ、とにかく今日は楽しもう!」
その時、2台の車が到着した。
「ごめんね!ギリギリになっちゃった!」
「マイラさん!」
マイラさんの車から、続々とシーサイド村のファミリーが降りてきた。
「またせたわね!」
「なんでえらそうなのよ…」
リンネアはマノンとパフィに気がついた。
「またあえたの〜!」
「リンネア!げんきそうね!」
「まぁ、このまえあったばっかりだけどね」
「リンネアげんきなの〜」
「それで、ほかにはだれかいるの?」
「リンネアちゃん!おひさしぶり!」
聞き覚えのある声に彼女が振り返ると、そこには3人の赤ちゃんが立っていた。
「シエルなの!」
「メイベルちゃんからきいて、きちゃいました!」
シエルの後ろにはカレブとアデレードも立っていた。
「ども〜」
「リンネアちゃん!ひさしぶりだね!」
「ほいくえん!みんななの!」
「ほかのこたちはようじなので、わたしたち3にんとメイベルちゃんがきました!」
リンネアが遊んでいる頃、僕はミックとやる事を確認していた。
「今日は本当にありがとうね」
「いえいえ!ブルースさんにはご恩がありますし、それに僕も楽しみだったので!」
「よかった…」
「みんな今日の為に沢山準備してきましたから。楽しいキャンプにしたい気持ちは同じですよ!」
そんな時、パトリックさんがみんなに呼びかけてくれた。
「皆さん揃ったみたいなので!そろそろ始めましょう!」
みんなが湖の辺りに集まり、僕は真ん中に立った。
「では、皆さんを招待してくれたブルースくんから挨拶を…」
「はい…今日は急なお願いに集まってくれて、ありがとうございました…!お手紙に書いた通り、僕はもうすぐ元の場所に帰ります。でも、最後に皆さんと楽しい思い出が作れたらと思い、ミックくんやメイベルちゃんに協力してもらってキャンプをすることにしました…!今日はよろしくお願いします…!」
僕の挨拶が終わると、みんなが暖かい拍手で包んでくれた。
「では、まずはお昼の準備をしましょう…!」
お昼はみんなでカレーを作ることになった。
僕は火おこしの係になった。
「まずは燃料を探さなきゃね…」
「はいはい!」
元気に手をあげたのはハイデンだった。
「僕ね、カラカラの木!生えてる場所しってるよ!」
その言葉を聞きつけたのは、フローラファミリーのレノンだった。
「もしかして、南の林かな…?」
「え!なんで知ってるの!」
「僕もよく肥料を探しにいくんだ。あそこの枝は粉にして土に混ぜると柔らかくなるんだよね」
「うわぁ…!」
レノンの話にハイデンは目を輝かせた。
「ねね!一緒に枝取りにいきながらお話ししようよ!!」
「もちろん、君の見つけた植物について、ぜひ聞かせてよ」
「わかった!じゃあ、行ってくるね!」
そういうとハイデンは尻尾を振りながら彼と林の中へと向かった。
「あの2人…お昼前にちゃんと帰ってくるかな…」
その頃、リンネア達は野菜の準備をしていた。
「そうそう!リンネアちゃんじょうず!」
アデレードに褒められながら、彼女は玉ねぎの皮を剥いていた。
「かなしくないのに、なみだがでるの…」
「たしかに、ちょっとしみちゃうよね」
「ずっと…むけるの…」
「そんなにちいさくなったら、もうだいじょうぶだよ…」
その横ではパフィとカレブが木に寄りかかっていた。
「いいにおいだなぁ…」
「ねむねむ…」
2人を覗きこんだのは、マノンとシエルだった。
「ちょっと!パフィもてつだいなさいよ!」
「カレブくん!おさぼりはいけません!」
2人は襟を掴まれ、テーブルまで引きずられた。
「ちょっと〜!」
「ねむい…」
その様子を、リンネアとアデレードは見ていた。
「あいかわらずだね…」
「マノンとシエル、ちょっとにてるの」
アヴリルさん達はお肉やお米を準備していた。
「マイラ!そろそろお鍋の用意を!」
「オッケー!」
「アヴリル、お肉の下準備は終わったよ!」
アザラシのモーリスさんがハンマーを片手に彼女に声をかけた。
「相変わらずスタミナあるわね…!」
「もちろん、今も毎日泳いでますから!」
2人の会話を聞きながら、マイラは笑顔を浮かべた。
「なんか懐かしいね!こういう感じ」
「アヴリルの家でお菓子とか作ったっけ」
「そうそう…!モーリスが不器用で、クッキー生地のボウル飛ばしちゃってね」
「いつまで話すんだよ〜!」
「いつまでも話すよ〜」
「やっぱりアヴリルがいると楽しいなぁ…!よかったらシーサイド村に戻ってきたら…?」
「そうねぇ…ちょっと考えておこうかしら」
「本当に〜?」
「ちょっと、信じてないでしょ!」
「そんなことないも〜ん!」
3人の笑い声がに響いた。アヴリルさん達の気持ちは、まるで幼い頃に戻っていた。
楽しい料理はあっという間に終わり、カレーの匂いが湖畔に漂った。
「たっだいま〜!たくさん薪を取ってきたぞ〜!」
ハイデンがレノンと一緒に元気よく戻ってきた。
「えっと…もうできちゃった…」
僕がそう言うと、彼は薪をポトっと地面に落とした。
「えっ…えぇ〜!!」
みんなでカレーを盛り付け席についた。
「では、いただきます…!」
パトリックさんの掛け声で僕たちは昼食を食べ始めた。
「けっこういけるね」
「あんた、ほとんどつくってないでしょ!」
パフィの言葉に相変わらずマノンが突っ込んでいる。
彼らと僕の間にはリンネアが座っていた。
「リンネア美味しい?」
「おいしいの〜」
向かいにはラテネコ兄妹の2人がニコニコしながらこちらを見ていた。
「リンネアちゃんとブルースさん、やっぱりなかよしですね!」
「本当に!いつまでも見てたいなぁ…いつまでも…」
そう言うと、ミックは俯いて涙ぐんだ。
「ちょっと!おにいちゃん!きょうは、たのしくすごすってきめたでしょ…」
「そうだけど…やっぱり僕寂しいよ…!」
お兄ちゃんにつられメイベルも泣き出してしまった。
そんな時、リンネアが立ち上がり、テーブルを潜って2人の元に移った。
「よしよし…だいじょうぶなの…」
そう言いながら、リンネアはそっと彼らにハグをした。
「リンネアちゃん…ありがと…」
少しすると2人は泣き止み、一緒にカレーを食べることができた。
食器を片付けた後、午後からはお山の探検が待っていた。
「では!気を取り直して!」
「わたしたちが!あんないします!」
元気に宣言したミックとメイベルは、みんなに手作りの宝の地図を配った。
そこには宝箱が眠るお城までのルートが記されていた。
「みんなで鍵を見つけて!宝箱を開けに行こう!」
「さいしょはツリーハウスですっ!」
2人の案内で僕と子どもたちは大きな木の下にやってきた。
「ここがツリーハウス?」
「違うよ!」
そう言って飛び出してきたのはポーリーンだった。
「このさらに上がツリーハウスなんだけど…私がみんなの為にリフトを作ったのです!」
自信満々に彼女は木の根元にあるカゴを指差した。
そこにはロープで吊るされた2つのカゴが置いてあった。
「これで楽に上まで登れるってわけ!」
「でも…」
僕たちはロープの先を見上げた。
「だれかがひっぱらなきゃダメですね…」
シエルの言葉にポーリーンは目を見開いた。
「あっ、わたしが…!」
コアラのアデレードはスイスイと木を登り、ロープの根元まで辿り着いた。
「まずはシエルちゃんから〜」
シエルがカゴに乗ると、アデレードがロープを引っ張った。
「アデレードちゃんありがとっ!」
木の上に着くと、2人はハグをして頬を擦り合わせた。
「つぎはカレブくんがのって…!」
「うぅん…」
カゴに揺られウトウトしながら、カレブも2人に合流した。
「おつかれぇ…」
「ちょっと!ついたらてつだう!!」
「うぅ…」
シエルに叩き起こされ、渋々ロープを握った。
「じゃあ、そろそろ私も上がれるかな!」
ラッコのマリーナが3人に引き上げられると、順調に他の子どもたちも木の上に到着した。
「さいごはブルースさんです…!」
子どもたちみんなのおかげで、大人の僕もカゴに乗って上がることができた。
「みんなありがとうね…!」
僕がカゴから降りると、みんなも嬉しそうに僕の周りを囲んでくれた。
(なんか…懐かしい感じがするなぁ…)
昔を思い出して目から涙が溢れたのを、リンネアだけは気づいていた。
「もうすぐツリーハウスにつきますよ…!」
メイベルの案内で辿り着いたのは、大きな谷だった。
下には川が流れており、対岸には大きな木が生えている
「あの木まで行かなきゃいけないの…?」
「あら、これは」
そう言いながら、アリスは太いツタを見つけた。
「これなら向こうまでいけるかしら…?」
彼女はいきなり崖に向かって走り出した。
「ちょっと!大丈夫!?」
「ご心配なく〜!」
地面から投げ出されたアリスの体は、崖の下に消えていった。
「えぇ!?」
急いで下を覗くと、彼女はゆっくり振り子のように反対側に上がってきた。
「よ〜し!」
そのままツタを放すと、フワリと対岸に着地した。
「しっかり捕まってくださいね〜!」
アリスの真似をして、みんなも次々にツタを握って飛び出していった。
「あれ…」
僕も渡ろうとした時、カレブが居眠りをしていた。
「あらあら…起きて、僕たちが最後だよ」
「むにゃむにゃ…」
目が覚めそうもなかったので、仕方なく背負って渡ることにした。
「こんなとこ…はねがあればとべるのに…」
「きっと夢の中で飛んでるのかな…」
対岸の木の上には、いくつかの小屋が建っていた。
「ツリーハウスです!」
メイベルを先頭にみんなでハウスに登ると、シルバニア村を一望できた。
「ミニチュアみたいだ…」
遠くの家では煙突から煙が上り、道を歩くみんなはお人形のようだった。
「あ、あそこになにかあります!」
シエルが指を指した先にはとんがり屋根の建物が見えた。
「あれは、お城だね…」
ラテネコ兄妹は顔を合わせると、地図を改めて見直した。
「そうなんです!あのお城に宝物があるんです!」
「みんなで、おしろまでのみちをさがしましょう!」
ツリーハウスの上から、僕たちはお城の方を眺め、行き方を考えた。
「滝の横から降りていけば着きそうだよ!」
みんなでルートを確認してから、僕たちはツリーハウスを後にした。
少し山道を下ると、大きな滝の上に出た。
「たかいですね…」
下を覗くと、その迫力にみんな息を呑んだ。
滝壺が見えないほどの激しい水しぶきが上がっていた。
「気をつけて、ゆっくり降りれば大丈夫だよ!」
ミックを先頭に、滝の横にある石の階段を一列になって少しずつ降りていった。
僕は最後尾でみんなを見守ることになった。
「いくわよ!リンネア」
「うん〜」
マノンに呼ばれ、リンネアは急ぎ足で石段に向かった。
その時だった
「あっ…」
足を滑らせたリンネアは身体がよろけ、滝の方に向かって倒れた。
「リンネア…!」
僕は真っ先に手を伸ばし、彼女の手を握った。
しかし、既に僕の身体も落下する水に呑まれていた。
リンネアを抱き抱えると、僕は滝壺へと落下した。
「リンネア!…」
見回すと、僕は透けた体で保育園にいた。
見たところ、ツリーや手作りのリースが飾られており、クリスマスの時期だ。
「これは…」
ふと下を見ると、沢山のプレゼントが置かれていた。
「リンネアがきたひ、なの…」
足元には、僕と同じように半透明な姿でリンネアも立っていた。
しばらくすると、1人の子どもが部屋に入ってきた。
「なにこれ!」
「まだ開けないでね、みんなが来てから一緒にだよ」
確かに僕がいた保育園のはず。しかし、現れたのは知らない先生だった。
気がつくと、少し時間が進み、10人ほどの子どもたちがプレゼントを囲んで座っていた。
「では、いい子にしていたスミレ組のみんなに、サンタさんがプレゼントをくれました…!」
子どもたちは大はしゃぎ、先生は1人1人にラッピング袋を手渡した。
「これ、リンネアのやつなの」
彼女が見つめた先の女の子の袋からは、小さな箱がひとつ出てきた。
その箱には、「ハスキーの赤ちゃん」と名前が書いていた。
「かわいい〜!」
その日から、リンネアはこの保育園の子どもたちと過ごした。
またしばらく時が流れ、夏の日になった。
「じゃあ、今年はもう最後だから、乾いたプールはしまっておいてね」
「わかりました!」
先生が園庭に行くと、干したプールの上に子どもたちが人形を置いて遊んでいた。
「ちょっと!お部屋のおもちゃは持ってきたら汚れちゃうでしょ!早く戻して!」
「はーい!」
「ごめんなさい!」
子どもたちは慌てて人形を持って部屋に向かった。
「まったく…」
そう言うと、先生はビニールプールを畳んでしまった。
中に1体の人形があるとは知らずに。
「リンネア、ずーっとひとりだったの。くらくて、さむくて、こわかったの」
リンネアはプールに包まれながら、冬を過ごした。
誰にも遊ばれず、お日さまの光を見ることもできなかった。
そして、春になり…
倉庫の物を漁る音がした。リンネアが目を凝らすと、1人の男性が畳まれたプールを手に取った。
「あれ、なんでお人形が…」
じーっとリンネアの目を見ると、僕は何かを感じ取った。
「とりあえず、後でお風呂にしようか」
そう言うと、僕はポケットにリンネアをしまった。
夕方、休憩室の流しでリンネアを洗ってあげた。
ペーパータオルで水を拭き取り、その上に座らせてあげた。
「明日乾いたら、みんなと一緒に遊ぼうね」
僕はリンネアの頭を指で優しく撫でた。
翌朝、僕は自分のクラスのおもちゃ箱にリンネアを混ぜた。
自由時間になると、散歩の準備をする僕に園児のミノリちゃんが駆け寄ってきた。
「せんせー!みてみて!かわいいこみつけたの!」
そう言うと、昨日倉庫で見つけた人形を僕に見せてきた。
「あら、可愛いお人形さんだね…!」
「おみみがとんがっててかわいいの!たぶん、オオカミさんだね!」
「うんうん、沢山一緒に遊んであげてね」
「うん!」
それから、リンネアは初めての友達と毎日を過ごした。
少しずつ色は薄くなるけど、誰かと一緒に遊べることが、リンネアも幸せだった。
しかし、ある日…
「おい、なんだよこれ」
「えっと…」
テーブルの上には、左手が外れたリンネアが置かれていた。
「間違えて踏んだら壊れたんだけど、乳児が飲み込んだらどうするの?」
「それは…」
「どうするのか聞いてんだよ!」
園長は机を強く叩いた。
「一応…適時直してはいますし…乳児がうちの保育室に入ってくることはあまり…」
「そういう話じゃない!明日までに壊れそうなおもちゃは全部廃棄しとけ!」
僕はリンネアを握りしめ、更衣室へ向かった。
「ミノリちゃん、悲しむよね…」
無意識にリンネアを握ったまま、帰路についた。
橋の上で、僕は彼女をポケットから取り出した。
「どうしたらいいかな…」
夜の海を眺めながら、語りかけた。
「わかんないや…時間もないし…仕事は溜まっていくし…」
考えこむと頭を締め付けられるようだった。
涙が止まらなくなる。
「僕がいけないのかな…」
意識が薄れ、身体の力が抜けていくのを感じた。
「あっ…」
「リンネア…!」
気がつくと、僕は川の真ん中の岩に打ち上げられていた。
「あれ…リンネアは…?」
「たすけてー」
滝の上から、かすかに声が聞こえる。
「おりれないの〜」
目を凝らすと、飛び出した岩の上にリンネアが立っていた。
「リンネア〜!大丈夫〜!」
リンネアはつま先を少し迫り出したが、すぐに引っ込めた。
「こわいの〜」
「お水だから大丈夫だよ〜!」
「たかいの〜、こわいの〜」
「僕が下にいるから!大丈夫だよ!」
「わかったの〜」
リンネアは目をつぶってスタスタと岩の端に向かって歩き始めた。
勢いよく滝壺に飛び込んだ彼女を、僕は抱き上げて近くの岸へ上がった。
「よく頑張ったね…」
リンネアは黙って僕に抱きついていた。
彼女と一緒に森を進むと、小さな小屋があった。
「ここで少し休もうか…」
「うん…」
その頃、逸れたメイベル達は路頭に暮れていた。
「どうしよう…リンネアちゃんとブルースさんいなくなっちゃいました…」
「ふたりとも…まいごさんです…」
俯く妹たちを見つめて、ミックは考えた。
「ブルースさん…」
街で助けられたこと、不安になった時に励ましてもらったこと、そんな思い出が彼のなかに浮かんだ。
「僕、ブルースさん達を探しにいくよ…!」
ミックの言葉に、みんなは顔を上げた。
「どうやって探すんですか…?」
「滝の周りを歩き回れば、きっと…」
「じゃあ、僕も行くよ…!」
そう名乗りをあげたのは、ハイデンだった。
「リンネアちゃんも一緒にいるから分からないし、もし別れてたら大変だから…!」
「お兄ちゃん…」
心配そうに見つめるポーリーンを、ハイデンは優しく撫でた。
「大丈夫、きっと戻ってくるよ。だからポーリーンはみんなをよろしくね」
みんなで話し合い、ミック、ハイデン、マリーナの3人で探しに行くことになった。
「じゃあ、行こうか…」
勇気を振り絞り、ミック達は森の中へと入っていった。
僕たちは小屋の扉を開けた。
「お邪魔します…」
中には誰もおらず、ずっと空き家のようだった。
僕はリンネアを膝に乗せて、古びたロッキングチェアーに座った。
ふと天井を見上げながら、僕はつぶやいた。
「あの時、リンネアが助けてくれたんだね…」
しばらく沈黙した後、リンネアはコクリと首を振った。
「どうして…僕のこと助けてくれたの…?」
「リンネアのこと、たすけてくれたの」
「えっ…?」
「こわれたときも、すてられたときも、ブルースがリンネアのこと、なおしたりひろったりしてくれたの」
思い出した。
シルバニア村に来る前の僕は、確かにリンネアを見つけていた。
忘れられる寂しさや、捨てられる悲しさをリンネアが感じるような気がして、何度も拾っては直していた。
「だから、僕をここに…?」
リンネアは僕の胸に顔を埋めた。
「ブルースがたくさんたすけてくれたから、こんどはリンネアがたすけるの…」
「そっか…ありがとうね…」
僕はリンネアを撫でた。
彼女も力を抜いてくつろいでいるのが分かった。
それからしばらく、僕たちはゆっくりと揺れながら時間を過ごした。
ふと部屋の隅に目をやった。
そこには、大きな白い布が何かを隠していた。
「これは…?」
その頃、ミック、ハイデン、マリーナの3人は川を目指して歩いていた。
「滝は川になるはずなんだ!だから川を辿れば…」
「ミックくん、森に詳しいんだね…!」
「本当に!隊長みたいで頼もしいわ…!」
「そんなそんな…よくメイベルと歩いてるだけだよ!まぁ、歩かされてるというか…」
「そういえば、ブルースとは街で知り合ったんだっけ?」
「うん…妹と逸れちゃったところを助けてもらったんだ…1人で不安だったけど、ブルースさんに話しかけてもらったら、すごい安心して…」
「わかる!ブルースと話してると、なんか落ち着くんだよね」
「ほんとに…?ハイデンくんもわかる…?」
「もちろん!僕が初めて会った時も、怖いひとじゃないって、すぐ分かったんだぁ」
ハイデンはブルースと過ごしたことを思い出し、少し俯いた。
「いなくなっちゃうんだよね!もう…会えなくなっちゃうの…やっぱり寂しいな…」
ミックが振り返ると、ハイデンの目からは涙が溢れていた。
「ずっと一緒がいいな…僕、兄弟で1番年上だから…お兄ちゃんができたみたいで嬉しくて…」
「泣かないで…私も1番上だからわかるよ…本当にお兄ちゃんみたいに…」
ハイデンを励ますマリーナだったが、彼女もつられて泣いてしまった。
そんな2人の手を、ミックは優しく握った。
「少ししか一緒にいられないから…早くブルースさんを見つけなきゃだよ…!」
顔を上げたハイデン達と目が合うと、彼は優しく微笑んだ。
「うん…そうだね…」
「頑張って探しに行こ…!」
2人は立ち上がり、ミックと共に歩き出した。
しばらくすると、彼らは川の辺りにたどり着いた。
「やっと着いた…」
3人が水面をのぞいた時、後ろの草むらが突然揺れだした。
「なになに!?」
草むらからは、突然2つの影が飛び出した。
「いたた…」
「ちょっと!あんたがおすからバレたじゃないの!」
影の正体は、パフィとマノンだった。
「マノン!?」
「あ…おねえちゃん…」
「いやね…ぼくはとめたんだよぉ…でもマノンがリンネアをほおってはおけないっていうから…」
「あたりまえでしょ!ともだちなんだから!」
そんな時、川の向こうから声が聞こえた。
「おーい!みんな〜!」
僕はリンネアと一緒にボートで川を渡り、ミック達のところまで辿り着いた。
「ブルースさん…!」
僕はみんなに手を振った。
リンネアも旗を上げ、マノン達に呼びかけた。
「リンネア!あんまり揺らすと…!」
「わぁ」
僕の予想通り、彼女はバランスを崩し、そのまま川へ落下してしまった。
「リンネア…!」
マノンは驚く暇もなく、すぐに川に飛び込んだ。
「ちょっとちょっと…!」
パフィも彼女の後を追い、咄嗟に水面に身を投げた。
2人が作った波はすぐに静まり、僕たちは川をのぞいた。
「ぷはぁ!」
「あんたね!もうちょっとしんちょうになりなさいよ!」
「ごめんなの〜」
「つられてとびだしてきちゃ…」
リンネアとマノンはパフィを見つめた。
「あんたおよいでるの…?」
「うん…およげた…みたい…」
「リンネアのおかげなの?」
「いや、ちがうでしょ…」
僕とリンネア達は川岸に上がった。
水を払うと、すぐにハイデンが僕に駆け寄る。
「よかった!本当に心配したんだから!」
「ごめんごめん!」
「ミックがいなかったら、見つからなかったかもしれないからね!」
「ミックくんが…?」
僕はゆっくりミックに歩み寄った。
「ミックくんが言い出してくれたんだね」
「うん…」
「ありがとね」
「大丈夫、街の時の…お返し…だから…」
ミックは我慢していた涙を溢れさせた。
僕は泣き出した彼の頭を優しく抱き寄せた。
「嬉しいよ…本当にありがとうね…」
「うん…ううん…」
その横で、マノンはふと、リンネアの耳に何かが引っかかっていることに気がついた。
「なにかあるわよ?」
「ん〜?」
リンネアが自分の耳を撫でると何かが手に引っかかった。
「カギなの」
「なんの鍵なんだろ…?」
みんなは不思議そうに鍵を見つめた。
「たぶん、そのうちわかるの」
リンネアはケロッとしながら鍵の紐を首にかけた。
「とりあえず…みんなのところに戻ろうか」
「うん!」
僕たちはミック達がたどった道を戻った。
しばらく歩くと、遠くに白いお城が見えてきた。
「やっと着いた…」
その頃、シエルやポーリーンはお城の入り口で僕たちを待っていた。
「あぁ…!」
ポーリーンはすぐに気づき、大きく手を振ってくれた。
「お〜い!」
僕も疲れた足をなんとか動かして、手を振り返した。
みんなとの再会を喜んだ後、僕たちはお城の中へと入った。
夕日が窓から差し込む先には、小さな宝箱が置かれている。
一番にメイベルが宝箱の蓋に手をかけた。
「カギがかかってる…」
「カギあるの〜」
そう言うと、リンネアは首にかかった鍵を宝箱に差し込んだ。
「あいたの」
「開いたの!?」
呆然とする僕たちをよそに、リンネアは宝箱の蓋を上げた。
中からは小さな冠が出てきた。
「キラキラなの〜」
リンネアはそれを持ち上げると、僕の前へと歩いてきた。
「あげるの」
「えっ、僕に…?」
リンネアはこくりと頷き、僕の手に冠を握らせた。
「あっちでもがんばるの」
「うん…頑張るね…」
他の子どもたちも、僕を笑顔で囲んでくれた。
あの時失った時間が、戻ってきてくれた気がした。
その晩、僕はアヴリルさん達に最後の別れを告げた。
ハイデンとポーリーンは僕に葉っぱで作った貼り絵をくれた。
「ブルース、元気になったら絶対遊びにきてね…!」
「わたしもずっと待ってるから!」
「わかった、絶対遊びにくるからね…!」
ヴィンセントさんは一輪の花をボトルに挿して僕に手渡した。
「村の花壇に咲いた花なんだ…息子がいなくなるような、そんな気持ちだよ…本当に…」
涙が溢れるヴィンセントさんの背中を、アヴリルさんは優しく撫で下ろした。
「ごめんなさいね。彼、こう見えて涙脆いのよ」
そう言うと、彼女は僕の手を握り、まっすぐ目を見つめた。
「私たちがついてるからね、リンネアのことも心配いらないわ」
「はい…」
アヴリルさんは僕とリンネアを一緒に抱きしめた。
「いつでも帰っておいでね…私の子どもたち…」
「うん…わかった…」
ベビーカーを覗き込むと、みつご達がニコニコしながら手を伸ばしてくれた。
「また、会いに来るからね…」
僕はリンネアの手を握り、風車小屋へと戻った。
半年ほどのシルバニア村での思い出が、木の香りと共に蘇る。
僕はリンネアと一緒にボートで横になった。
「リンネア、アヴリルさん達のこと好き…?」
「すきなの」
「よかった…あんまりわがまま言わないようにね…?」
こくりと頷いたリンネアは、僕の身体を引き寄せると、服をギュッと強く握った。
「さみしいの…」
「ごめんね…でも、夢で会いに来るからね…」
「ぜったいあいにくるの…」
抱き寄せた彼女の頬は、みんなの前では見せなかった涙が流れていた。
「うん…絶対会いに来るよ…!」
「ぜったいぜったいなの…!」
「ぜったいぜったいだよ…!」
「ブルース…だいすきなの…」
「僕もだよ…リンネア…」
翌朝…
リンネアはノックの音で目覚めた。
「入るわよ〜」
リンネアが目をこすりながら起きると、ボートの上だった。
「リンネア…!」
ドアを開け、アヴリルさんが入ってきた。
「おはよう…なの…」
「おはよう…」
リンネアの隣に空いた空白を、アヴリルさんは見つめた。
「行ったのね…」
数秒目を閉じて、彼女はリンネアを抱き上げた。
「さあ、彼が朝ごはんを作って待ってるわ…!」
リンネアは少し風車小屋を見回してから、アヴリルさんを見つめた。
「ジャム、あるの…?」
「ええ、もちろんよ…!」
その頃、僕もゆっくりと目を開いた。
「うぅ…」
外には黄色くなったイチョウが広がっていた。
首元に当たる風は、少し冷たかった。
「ここは…」
白いベッドに、優しい緑の壁が部屋を囲っていた。
「おはようございます…えっ!?」
「あっ…おはようございます…」
声が掠れたが、なんとか挨拶を捻り出した。
「ちょっと待ってくださいね!今先生を呼びますから…!」
看護師さんは急いで病室を後にした。
「えっと…」
少し考えると、僕はポケットに手を当てた。
「あっ…リンネア…?」
窓の脇に目を向けると、すみっこに彼女がちょこんと座っていた。
「よかった…」
痛む身体を動かし、僕はリンネアを優しく握った。
一緒に海に落ちたからか、少し汚れが残っていた。
「帰ったら…お風呂に入ろうか…」
わかったの〜
窓の外から、彼女の声がかすかに聞こえた。
風が届けてくれたのだろうか。
緑の山と深い森をいくつも越えた、その先まで。