シルバニアファミリー 森の迷子さん   作:蒼マル

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サイドストーリー 波打ちぎわの一歩 [前編]

「パフィちゃん、げんきでね…」

 

「パフィちゃん、むこうでもがんばってね…」

 

「うん…ありがとう…」

 

街の広場で、パフィは友達に別れの挨拶をしていた。

 

「パフィ…」

 

ひとりの友達が、彼に駆け寄った。

 

「ぜったい…わすれないからね…」

 

「うん…」

 

パフィは車に乗り込んだ。

彼の車が見えなくなるまで、友達は手を振り続けてくれた。

 

「パフィ、ごめんなぁ。パパのお仕事のせいで」

 

「ううん…大丈夫だよ…」

 

彼はボーっと窓の外を見ていた。

後ろに飛び去っていく木々を眺めながら、生まれ育った街での思い出を振り返っていた。

 

「さぁ、到着したぞ〜」

 

家族に続いて、パフィも車を降りた。

目の前には一面に海が広がり、風に煽られ波を作っている。

 

「新しい家のカギを貰ってくるけど、パフィはどうする…?」

 

「あっ…ぼく、ここでまってるよ…」

 

「そうか…気をつけるんだぞ…」

 

パフィは1人で海を見つめた。

この町の風は、いつもより冷たかった。

 

〜現在〜

 

「ただいま〜」

 

夕焼けに照らされた我が家に、パフィは帰ってきた。

 

「あら!おかえり!」

 

お母さんのアモラが、庭で迎えてくれた。

 

「ママどうしたの?」

 

「それがね…あら!きたきた!」

 

大きなトラックに牽引されてきたのは、一隻のボートだった。

 

「なにこれ!?」

 

「ブルースくんを見てたら、私も何かチャレンジしたいなって思っちゃって…夢だったの!船のオーナー…!」

 

「そっか…ずいぶんおもいきったね…」

 

「そうだ、パフィにお手紙届いてたから、リビングに置いてあるわよ!」

 

「うん、ありがとね」

 

アモラにそう言うと、パフィは玄関に入った。

言われた通りリビングに行くと、テーブルの上に淡い緑色の封筒が置かれている。

 

パフィへ

 

そう書かれた封筒を彼はそっと手に取った。

急いで階段を駆け上がり、自分の部屋の机に座った。

 

一呼吸をつくと、封筒を開けた。

 

 

ひさしぶり、パフィはげんきだった?

みんないつもパフィのはなしをしているよ。

わたしもさみしいです。

また、まちにあそびにきてね、てがみのへんじもまってます。

 

  〜より

 

送り主の名前は滲んで見えなかったが、パフィには誰かすぐに分かった。

家族以外の友達は彼を「パフィちゃん」と呼ぶ。

小さくて可愛らしいから、みんなそう呼んでしまうのだ。

彼はそれが少し恥ずかしかった。

 

しかし、パフィと呼んでくれるひとが2人いる。

手紙の送り主と、マノンだ。

 

「パフィ、ひさしぶりなの〜」

 

「あ、もうひとりいた…えっ!?」

 

「ここがパフィのへやなの〜」

 

いきなり部屋に入り、周りを見回していたのは、リンネアだった。

 

「なんでいるの!?」

 

「リンネア、おひっこしするの〜」

 

「なるほど…というか、それぼくのフィナンシェ!」

 

「ふぇなんしぇ、おいしいの〜」

 

パフィは急いでリビングへ駆け降りた。

 

「ちょっと!なんでリンネアがいるの!」

 

「あら?リンネアちゃんが泊まりたいって言うから、オッケーしちゃった!」

 

「ママ、ふぇなんしぇありがとうなの」

 

「きみのママじゃないでしょ!あとフィナンシェとらないで!」

 

「まあまあ、明日パフィの分も買ってくるから」

 

「もう!どうしてこうなるの〜!」

 

その夜、パフィはベッドに入った。

横のソファでは、リンネアが既にぐっすりと眠っている。

 

「ひっこしかぁ…」

 

自分がシーサイド村に引っ越した時のことを考えながら、パフィは眠りについた…

 

 

パフィが引っ越した翌朝、彼はダンボールに囲まれたベッドで目が覚めた。

 

「あれ…」

 

窓の外には見慣れない風景が広がっている。

 

「そうだった…」

 

彼はベッドを後にし、リビングへと降りた。

そこには嬉しそうに荷解きをする母の姿があった。

 

「あらパフィ!おはよう!」

 

「おはよ…」

 

「ついに今日からシーサイド村での生活が始まるのよ!」

 

「うん…そうだね…パパは…?」

 

「パパは村長さんにご挨拶に行ったわよ」

 

「そっか」

 

「パフィも少し荷解きしたら遊んでおいで…!

新しいお友達、できるかもよ?」

 

「そうかなぁ」

 

「大丈夫よ!パフィは優しいんだから。あ、そういえば、これ!」

 

母は彼に1枚のカードを渡した。

そこには船の絵とウサギのマークが描かれていた。

 

「これは…?」

 

「クルーズボートのパスポートよ!パパのお友達がパフィにってくれたの…!」

 

「なるほど…」

 

「今日は1時に出港するみたいだから、行っておいで…!」

 

部屋の片付けを済ませたパフィは、ベッドに飛び込んだ。

 

「ふぅ…つかれた…」

 

部屋には微かに海の香りが漂っていた。

枕元を見ると、さっきもらったパスポートが乱雑に置かれている。

 

「クルーズボート…か…」

 

パスポートの裏には手紙が添えられていた。

 

 優しいパフィへ 君の新しい日々が楽しくなりますように。

 P.R

 

パフィは体を起こし、窓の外を見つめた。

思い出したのは、街にいた頃の友達の言葉だった。

 

「シーサイドむらにいったらさ…たのしいおもいで、おてがみできかせてね…!」

 

その言葉が、彼を後押しした。

 

「よし…いこう…」

 

パフィは貝殻のポシェットをかけ、海辺の桟橋へと向かった…

 

 

「パフィ、おきるの〜」

 

「う…だれだよぉ…」

 

薄っすらと目を開けると、リンネアがパフィの身体を揺らしていた。

 

「リンネア…!?」

 

「リンネアなの」

 

「なんで!?」

 

少しずつ頭が回り始めると、昨晩の記憶が戻ってきた。

 

「そっか…おとまりしてたんだった…」

 

「パフィ、おねぼけさんなの」

 

みんなで朝食を食べてから、パフィはリンネアと2人で外へ出かけた。

 

「ふぇなんしぇ、かいにいくの〜?」

 

「まだおみせ、あいてないよ」

 

そんな話をしながら、2人は桟橋へと向かった。

 

「ブルースとはどうなの?」

 

「ゆめであってるの〜」

 

「そうなんだ」

 

「フコーカ、いったの」

 

「フコーカ?なにそれ?」

 

「やわやわの、おうどん」

 

「それおいしいの…?」

 

そんな話をしていると、桟橋に到着した。

今日もクルーズボートは大人気だ。

 

「リンネア、チケットもってるの?」

 

パフィが尋ねると、リンネアはスッと一枚の紙を取り出した。

 

「ねんぱす、なのっ…!」

 

「おぉ…」

 

早速クルーズボートの乗り場へ向かうと、船長のシェーンがいつも通りみんなを出迎えていた。

 

「あ、パフィくん!リンネアちゃん!」

 

大きく手を振るシェーンにパフィ達は駆け寄った。

 

「ひさしぶりなの〜」

 

「リンネアちゃんひさしぶり〜、あれ?マノンちゃんはいっしょじゃないんだね」

 

「マノンはかぞくりょこうにいってて」

 

「そうなんだね、そしたら、2人にお願いがあって…」

 

「おねがい…?」

 

「うん、おーい!そろそろ出港するよ〜!」

 

シェーンが桟橋の先に向かって呼びかけた。

その方向に目をやると、帽子を被った赤ちゃんが海を向いて立っていた。

 

「だれ…?」

「みたことないの〜」

 

「とうっ!」

 

その赤ちゃんは後ろ向きで飛び上がり、空中で一回転を決めると、パフィ達の前に着地した。

 

「やあ!はじめまして!!」

 

「紹介するね。シルバニア村に住んでる、トラのスパイク君です!」

 

シェーンの紹介で、スパイクは帽子を胸に当てた。

 

「スパイク・ティグルスです!どうぞよろしく!」

 

そう言うと、彼は深々とお辞儀をした。

 

「シルバニアむら…リンネア、しらないの?」

 

「むりはないさ、しばらくパパといっしょにたびをしてたからね」

 

しかし、スパイクが顔を上げるとリンネアは何かを思い出した。

 

「あ!たきのおうちにしゃしんあったの…!」

 

滝に落ちた後、ブルースと訪れた小屋に写真が置かれていたのを、リンネアは思い出した。

 

「もりのおくのひみつきちかな?あそこはパパとぼくの、おきにいりのばしょだからね!」

 

「そうだったの〜」

 

「ボートにのって、のんびりかわをくだるんだ〜」

 

その一言で、パフィはふと思い出した。

 

「あれ、ボートってもどしたっけ…?」

 

「……」

 

リンネアは黙ったまま、ジッとパフィを見つめた。

 

「どうしたんだい?」

 

「いやいや!なんでもないよ!!」

 

すぐに打ち解けたスパイク達を、シェーンは見守っていた。

 

「パフィくんが初めて来た時を思い出すね…」

 

 

パフィは初めて桟橋にやってきた。

そこでは、既に沢山の子どもたちが、大きなクルーズボートに乗っていた。

 

「いっぱいいる…」

 

緊張するパフィはふと桟橋の入り口に目をやる。

そこにはシマネコのお兄さんが、ショコラウサギのおじいさんと話をしていた。

 

「船長服、似合ってるじゃないか」

 

「ありがとうございます…!」

 

「いよいよ、初めての船出じゃな」

 

「はい…まさか3ヶ月で認めてもらえるなんて…」

 

「君は昔から船についてなんでも聞いてくれた。だから上達が早かったんじゃ」

 

2人の会話を聞き、パフィは少し肩の力が抜けた。

改めてパスポートを手に取ると、ボートに向かって歩き始めた。

 

「あの…」

 

シマネコのお兄さんにパフィはチケットを見せた。

 

「やぁ、こんにちは〜」

 

目が合うと、パフィは恥ずかしそうに俯いた。

 

「君、はじめましてかな…?」

 

「うん…きのうから…」

 

「そっか、僕も今日が初めての操縦なんだ…!楽しんでね!」

 

「あっ、うん…」

 

お兄さんは笑顔で手を振ってくれた。

パフィも小さく手を振りかえすと、ボートに乗り込んだ。

中は既に子どもたちで賑わっていた。

 

「あっ、みて!あたらしいこだ!」

 

「ほんとだ!」

 

彼らはパフィに気づくと、すぐに周りに集まった。

 

「ねぇ、お名前なんていうの?」

 

「あっ…パフィ…」

 

「パフィ!よろしくね!パフィちゃん!」

 

「うん…よろしく…!」

 

クルーズボートが出港すると、パフィは船内を案内してもらった。

2階に上がると、大きなプールが真ん中に広がっている。

 

「ここのプールがたのしいの!」

 

そう言うと、友達はみんなプールに飛び込んだ。

しかし、パフィは一歩が踏み出せなかった。

 

「パフィちゃん?」

 

「あっ、うん…」

 

彼は水に入るのが怖かった。

きっかけは数年前、パフィがお父さんと海へ出かけた時のことだった…

 

「どうだパフィ、父さんの故郷は」

 

「うみ…!きれい…!」

 

パフィは桟橋ではしゃいでいた。

初めて見る海に、興奮が止まらなかった。

 

「おさかないるかな!」

 

「そうだなぁ、端っこに行けばいるかもしれないな!」

 

「ほんと?」

 

パフィは魚が見たくて桟橋を勢いよく走り抜けた。

 

「落ちないように気をつけるんだぞ〜」

 

「わかった〜!」

 

端に着くと、彼は身を乗り出し海の中を見つめた。

 

「いるかな…」

 

ジーッと目を凝らすと、波で飛び散った海水がパフィの目に当たった。

 

「わぁっ!?」

 

思わず手を顔に添えた時、パフィの身体はバランスを崩して、そのまま海へと落下した。

 

「パフィ…!!」

 

お父さんは急いで海に飛び込んだ。

バタつくパフィを海から救い上げると、砂浜に向かって泳ぎ続けた。

 

「パフィ…!大丈夫か…!」

 

強く握り締めたパフィの手は震えていた。

真っ赤な目からは大粒の涙がこぼれる。

 

「ごめん…ごめんな…」

 

それ以来、パフィは水に入るのが怖くなった…

 

 

パフィとリンネアは、スパイクにクルーズボートの中を案内した。

 

「いいふねだね!みんなたのしそうだ!」

 

スパイクは笑顔でそう言った。

そんな彼の様子に、パフィも嬉しかった。

 

「スパイク、シェーンのともだちなの?」

 

リンネアは彼に尋ねた。

 

「そうだよ〜。かぞくでなかよしなんだ」

 

「たきのおうちも、シェーンしってるの?」

 

「シェーンもぼくも、ぼうけんがすきだからね!よくいっしょにもりであそんだなぁ」

 

「ぼうけん、かっこいいの…!」

 

「よし!じゃあ、まずはふねをたんさくだ!」

 

「お〜!」

 

スパイクとリンネアはプールの周りを駆け出した。

そんな2人の姿を見て、子ども達が声をかけた。

 

「あれ!あたらしいおともだちだ!」

「ほんとだ〜!」

 

スパイクの周りには、続々と子ども達が集まってきた。

 

「おなまえ、なんていうの?」

 

「やぁ!ぼくはスパイク!たんけんたいのたいちょーさ!」

 

そう言うと、彼はプールサイドでポーズを決めた。

 

「わ〜!」

「かっこいい!」

 

そんな時…

 

「あっ」

 

みんなに手を振っていたスパイクは足を踏み外してプールに落下した。

 

「スパイク!」

 

パフィとリンネアはプールサイドに駆け寄った。

 

「スパイクおよげるかな…?」

 

「たいちょーだから、たぶんおよげるの」

 

そんな2人の前で、泡だけが水面に浮かんだ。

 

「あっ、これまずいやつだ…」

 

みんなは急いでスパイクをプールから救出した。

 

「スパイク…?」

 

パフィは彼に声をかけた。

 

「やぁ、たすけてくれてありがとう」

 

スパイクは少し息を切らしていたが、意識はしっかりとあった。

 

「だいじょぶそう…?」

 

「あぁ、ごせんぞさまにあったよ」

 

「だいじょぶじゃなかったね…」

 

「かぐが、ぜんぶみどりいろだった」

 

「そっか…」

 

少しすると、クルーズボートは島の近くへ到着した。

いつも通り、みんなが海へ飛び込む様子を3人で見守った。

 

「これは、ボートをしまにつけないのかな?」

 

スパイクがパフィに尋ねた。

 

「おっきいふねは、あさせだからちかづけないんだって」

 

「そうか、パフィはいかないのかい?」

 

「ぼくもおよげないから、いつもはマノンがのこってくれるけど…

 

 

「パフィちゃんだいじょうぶ?」

 

友達が心配して声をかけたが、パフィはプールサイドに立ち尽くしていた。

 

「うん…ぼくはいいよ…みんなであそんで…!」

 

それからしばらくすると、ボートは小さな島の近くに停泊した。

 

「やったぁ!」

 

「いこいこっ!」

 

子どもたちは船の飛び込み台から次々に海へと落下し、島を目指して泳ぎ始めた。

 

「あっ、パフィちゃん…」

 

彼に声をかけてくれた友達は、パフィの手を取って飛び込み台へ向かおうとした。

しかし、その手は強く震えていた。

 

「あ…ごめんね!むりしないでだいじょぶだよ…!」

 

そっと手が離れ、その子は海へと消えていった。

また、ひとりになってしまった。

 

その夜、パフィはひとりで帰宅した。

黙ってリビングを通るパフィにお母さんが声をかけた。

 

「あら!おかえりなさい!」

 

「ただいま…」

 

「クルーズボート、楽しかった?」

 

「うん…。たのしかったよ…」

 

「そう、よかった!」

 

その夜、パフィは自室のベッドに寝転んでいた。

今日の出来事が彼の頭を埋め尽くしていた。

 

「うっ…うぅ…」

 

手を離された光景が何度も映し出された。

不安と悲しさでパフィの目からは涙が溢れる。

 

「かえりたい…まちにかえりたいよ…」

 

身体を震わせながら、唸るように泣いた。

気がつくと、彼は生まれ育った街に戻っていた。

 

「あれ…」

 

隣を見ると、パフィの親友と一緒にベンチに腰掛けていた。

 

「パフィ、ひさしぶり…!」

 

「えっ…」

 

彼女はパフィの手を取ると、優しく頭を撫でた。

 

「またあえてうれしいね」

 

「うん…」

 

親友に寄りかかると、パフィは本当の気持ちを呟いた。

 

「ずっとここにいたい…」

 

「だめだよ」

 

「えっ…?」

 

次の瞬間、パフィはベンチに沈み始めた。

 

「ちょっと…ちょっとまってよ…!」

 

身体はみるみる飲み込まれ、暗い底へと沈んでいった。

 

「たすけて…!いかないで…!」

 

「まってよ!!」

 

気がつくと、ベッドの上で目が覚めた。

窓から差し込んだ朝日が、手に付いた汗で反射していた。

 

パフィはもう一度だけ、クルーズ船に遊びに行ったが、船の上から友達を眺める寂しさに耐えられなかった。

次の日からは家族に心配されないように出かけ、村の外れにある高台へ出かけるようになった…

 

 

パフィはリンネアとスパイクと一緒にボートの上で遊んでいた。

 

「みんなおよげないの」

 

「そうだね〜」

 

「およげないなかまが3にん!こころづよいね!」

 

「げんきにいうのね…」

 

そんな時、遠くから声が聞こえた。

 

「おーい!パフィ〜!」

 

パフィ達が船の端から海を見ると、小さな船が近づいてきた。

 

「パフィのしりあいかい?」

 

「だれなの〜」

 

「あれはもしかして…」

 

見覚えのある船を操縦していたのは、アモラだった。

 

「お待たせ〜!」

 

アモラは船をクルーズボートの真横へつけた。

 

「どうしたの?」

 

「パフィたちも島に行きたいと思って!小さい船だからギリギリまで送ってあげられるの!」

 

「パフィのママすごいの〜!」

 

「ではでは、おことばにあまえて」

 

リンネアとスパイクは躊躇わずに船に乗り移った。

 

「ほら、パフィもいらっしゃい!」

 

「うっ…うん…」

 

パフィとスパイクは船の船首に座って海を眺めた。

 

「やっぱりうみはいいね…!」

 

「スパイク、うみはすきなんだね」

 

「もちろん!ワクワクするじゃないか!」

 

そんなスパイクの目はとても輝いていた。

 

「そういえば、マノンっていうのは、きみのともだちかい…?」

 

「あっ、うん。いまはりょこうちゅうだけど」

 

「なるほどなるほど、きっと、すてきなともだちなんだね」

 

「どうして…?」

 

「マノンのはなしをするとき、すこしえがおになるから」

 

「そうなの…?まぁ、そうかな…

 

 

「パフィ!いってらっしゃい!」

 

「うん…いってきます…」

 

アモラはパフィの違和感に少しずつ気づいていた。

高台に来ても海の様子を、ぼんやりとひとりで眺めているだけ。

家族への土産話も全く出来なかった。

 

「こんなんじゃ…ともだちできないや…」

 

そんな時、いきなりパフィに何かが被さった。

 

「えっ!?」

 

手で払おうとしたが、もがくほどそれは体中に絡まり取れなかった。

 

「ちょっとあんた、みないかおね!」

 

目の前に現れたのは、カラフルなワンピースを着たラッコの少女だった。

 

「きみ…だれ…?」

 

「なまえをきくなら、じぶんからいいなさいよ!」

 

「えぇ…」

 

彼女はムスッとした表情でパフィの顔を覗きこんだ。

 

「パフィ…だけど…」

 

「あぁ、あんたがパフィね」

 

「え…?」

 

「まいにちここにいるの?」

 

「あっ…うん、べつにやることないし…」

 

「なら、つきあいなさいよ」

 

そう言うと、彼女はパフィに絡まった網を外した。

 

「じゃあ、いくわよ」

 

「えっ…あっ…」

 

パフィは颯爽と歩き出す彼女を呼び止めた。

 

「なまえ…きみのなまえは…?」

 

「マノンよ、せんちょーってよびなさい…!」

 

マノンに連れられ、パフィは海岸へとやってきた。

 

「ついたわよ!」

 

打ち付ける波に、パフィは身震いしていた。

 

「あぁ…うみだ…」

 

「どうしたのよ」

 

「わかるでしょ…?きみもおよげないから、クルーズボートにはのらないんでしょ…?」

 

「なにいってるの?およげるけど?」

 

「えっ…?」

 

マノンは海に飛び込むと、仰向けのまま波に打ち上げられて帰ってきた。

 

「ういてればいいだけよ、かんたんじゃない」

 

「そっか…じゃあ、どうしてクルーズボートにいかないの?」

 

「べつに、ひとりがたのしいから」

 

「そっか…」

 

考え込むパフィに、マノンは熊手とバケツを手渡した。

 

「じゃあ、かいをあつめるわよ!」

 

「えっと…かい…?」

 

「きょうはパパのたんじょうびだから、クラムチャウダーのかいをたくさんあつめるの」

 

「わかったけど…どうぐ、いっこづつ…?」

 

「あんたがほるのよ!わたしはみはり!」

 

「えぇ…!?」

 

「じゃあ、たまったらおこしてね〜」

 

「そんなぁ…」

 

断りたかったが、やることもないのでパフィは仕方なく貝を掘り始めた。

1時間ほどすると、バケツの中は貝でぎっしりになった。

 

「いがいと、あっというまだった…」

 

「あら、はやかったじゃない」

 

「なんか、どこをほってもでてきたから…」

 

集まった貝を見ると、マノンは満足そうに笑みを浮かべて、砂浜に背を向け歩き出した。

 

「ちょっと!どこいくの!」

 

「かえるのよ!あしたもここにきなさいよね!」

 

そう言い残すと、彼女はスタスタと去っていった。

 

「いっちゃった…」

 

パフィは腰を下ろして砂浜に座り込んだ。

 

「もうこんなじかんだったんだ…」

 

彼が気づいた時には夕日が山にかかり、村が赤くなっていた。

 

「あしたも…ね…」

 

昨日までにはない、少し満たされたような気持ちで、パフィは帰路についた。

 

翌朝、彼は言われた通り砂浜にやってきた。

 

「おそい…!」

 

「うぅ…」

 

マノンは腕を組んで、パフィを待っていた。

 

「きょうはなにするの…?」

 

マノンは彼の後ろに回ると、いきなり何かを被せてきた。

 

「うわっ!?」

 

身体に巻き付いていたのは、水色の縞模様が入った浮き輪だった。

 

「なにこれ…?」

 

「うきわよ」

 

「いや、そうじゃなくて…」

 

「うみにでるのよ」

 

「え…?」

 

そう言うと、マノンは彼を波際に向かってグイグイと押し始めた。

 

「ちょっと!ちょっとまってよ!」

 

「またない!」

 

怯えるパフィの足に、少しずつ白波が迫る。

 

「ぼくおよげないんだって!」

 

「だいじょうぶよ!」

 

幼い時の記憶がパフィの頭を巡った。

一度踏み出したら戻れないような、そんな恐怖が彼の足を止めた。

 

「むりだよ…」

 

「パフィ!」

 

突然の呼び声に、彼の頭は真っ白になった。

そう呼ばれたのは久しぶりだったからだ。

顔を上げると、そこにはキラキラと波立つ海が広がっていた。

 

「きれい…」

 

光る海に魅了され、パフィは手を伸ばした。

気がつくと、彼の足元を波が包んでいた。

 

「えっ、うわぁ!みずだ!」

 

「いまじぶんで、はいったじゃない!えいっ!」

 

「ひぃっ!」

 

マノンはパフィの身体を海へ突き飛ばした。

思わず目を閉じると、恐怖で開けることができなくなった。

 

「いまどうなってるの…!?」

 

「だいじょうぶだってば、めをあけなさいよ」

 

パフィは少しづつ目を開いた。

 

「わぁ…」

 

浮き輪のおかげでパフィは海に浮かんでいた。

太陽が照り付け、風が心地よく吹いていた。

後ろを振り返ると、いつもの街が遠くに広がっている。

 

「ほら、だいじょぶじゃない」

 

後ろでは、マノンが仰向けでぷかぷかと浮いていた。

 

「マノンがおしてきてくれたの…?」

 

「そうよ、きのうのおれい」

 

「そっか…」

 

「あんたは、うきわでもつかえばいいのよ!」

 

「うん…わかった…!」

 

その日から、2人は砂浜に集まっては浮き輪で海に出た。

山に入っては海賊ごっこをした。

 

「ただいま!」

 

「おかえり〜!今日も楽しかった?」

 

「うん!」

 

マノンと過ごす時間は、いつもあっという間に過ぎた…

 

〜続く〜 




8月7日 後編公開
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