忍者村は体を動かす事が出来る場所もいっぱいあるので、訓練は忍者村で行う事になった。
俺も腐っても勇者。製薬会社のエリートに遅れはとったが、筋骨隆々のエリートたちにも負けないぞ!
そういうことで、村民とエリート達を前に、俺は薬を用意する。
「ということで、まずは薬を飲んで下さい」
チャクラに目覚めてもらって、簡単な身体強化、戦闘系忍術、後、簡単な調合をできる用にして欲しいらしい。野外で野草を使って調合できるのがベストだそうだ。
それもう忍者じゃん。忍者志望でしたね。
「ではまずチャクラを感じてください……」
講義は順調に進み、簡単な身体強化と光弾を撃つまでは出来るようになった。
そして、翌日。
自習を頑張ったらしく、なんか習熟していた。
皆、勉強熱心すぎだろ。とりあえずカリキュラム通りに教えていく。毎日授業の後にも自習と教え合いをしているらしく成長速度がすごい。
そもそもバリアとバレット系の忍術で大体カバーできるでしょ。後は身体強化って思ってたけど、ボール系、礫系、ランス系と飛行系統などどんどん覚えていく。
基本、イメージ力が要だから、現代日本だと可能性無限大なんだよな。
国による医師や学者、何処からか雨後のタケノコのように生えてきた忍術学者のバックアップもあり、身体強化と治癒術の習熟が凄い。
後アイテムボックスを覚えたとかで祝杯をあげていた。
空間についての論文が書けると学者がガリガリと何事か書き散らしていた。
最強なのは科学でも魔法でもなく、科学を背景にした魔法なんだよな。
後は、戦場・災害派遣で役立つ調合を教える。
すごく喜ばれた。
すくすくと育つ忍者達。
こう見えても勇者だったから、そう簡単には負けんぞ!
だが敵もさるもの、日本国のエリートと現代にして忍者の修行を積むもの。
中々に手強かった。
なお、忍者村は営業もしているので、日本国民が、なんなら外国人も普通に見にこれる。日に日に派手になる忍者ショーとメニューが増える忍者飯にお客さんは大喜びだ。やはり忍者村はみんなの人気者であってこその忍者村なので。
自衛隊や警察の人達も、力を披露するのはいいモチベーションになるようだ。
そんな一般人の皆さんと首相と何故か米国大使が見学する中、ちょっと気合を入れえた忍者ショーと模擬戦闘を行う。
結構大変だったが、なんとか勝った。忍び頭の面目が守れた。
「ブラボー! いやー。私の目では追うことも出来ませんでしたよ」
「素晴らしい戦いでした!」
舞台裏に移動して、褒めてくれる要人2人に、俺達は跪いて静聴の構え。
「今度の合同訓練に期待が持てますね!」
「羨ましい。実に羨ましい。是非引き抜かせてほしい」
「お戯れを」
「いやいや、私は本気ですよ」
「貿易の関税をお安くしますよ」
「むぐぐ」
首相が揺れている!
「いやいや、アメリカにはヒーローがいるじゃないですか!! あっ」
勇者一人で魔王を倒せるわけはない。
勇者はチームだったのだ。
それにあいつ、地元でも自警団としてブイブイやってるって言ってたし目立ちたがりだし、ええやろ。むしろ俺の方が目立ってて怒ってるまである。いや、あいつは怒りはしないけど、寂しがりはしてるかも。
「いるんですか? ヒーロー」
「自警団として頑張ってるそうです。直接戦闘なら裏方の忍びよりずっと強いですよ」
「ほほう……」
理想の人間像。誰だって持っているだろう。
トムの場合は、それはムキムキマッチョで、明朗快活で、脳みそ筋肉な男だった。
こういう人間が立派なのだろうが、そうはなれない。そんな理想の人間像。
なりたい自分でも、理想の自分でもないが、掛け値なしの理想の人間像。
それが、僕にとってはムキムキマッチョメンだった。
どれだけ軽蔑しても毛嫌いしても敬遠しても嘲笑すらしても、嫉妬も強がりも全て削いだ自分の理想像は、結局はそれだった。
吐く言葉はヒーローもどきの綺麗事。顔には笑顔を。体は常にポージングを。
それがトムの理想の人間像だった。
召喚された時、トムは女神に願った。
女神は望みを叶えてくれて、トムは理想のヒーローになった。
トムが吐いた嘘は数知れない。名前以外は全部嘘だったと言っていい。
単なるナードだった癖に、トムはとことん自分を偽った。
自警団だったと言えば尊敬の眼差しをくれた。
本で読んだ自警団エピソードを語れば感心してくれた。
綺麗事を吐けば皆は苦々しく思っても結局は賛同してくれ、最後にはサポートしてくれた。呆れた顔で、でも認めて、頼って、信頼してくれた。
トムはヒーローだった。
その期間に、自分が嫌いつつも本当は理想に思っていた人間がどれだけ裏で努力していたか、大変な思いをしていたか、いかに心根が聖人のようだったか、とことん突きつけられた。それでも、トムは演じ切った。
魔王を倒し、アフターフォローし、ボランティアに終始し、元の世界、元の時間に戻った時は倒れてしまってのたうちまわったほど。
でも、トムは頑張った。頑張ったのだ。
女神様にも沢山お褒めの言葉をいただいた。
帰ったトムは、陽キャマッチョメンをまっすぐ肯定的に見れるようになったし、こいつホモかもと恐れられつつも、多少は話せるようになった。
大冒険の後、人間的に成長したという奴だ。
勉強も頑張るようになり、少しだけ変われたし、娯楽のない世界で元気づけも兼ねて頑張った為に音楽の特技もできた。絶対相容れないと思っていた演技のモデルにしたマッチョメンの友達も、音楽関係の友人も、女の子の友達も出来た。
自伝……もちろん、フィクションとして発表するつもりだ……仲間に読まれてもバレない程度に脚色もしている……の執筆も進んでいる。すでに賞にも応募して、優勝している。音楽も副業として成り立つ程度には役立てられているし、ネット友達も増えた。
メンバーで唯一派手に動いている全然忍んでいないアホ忍者の事をやらかしてんなー、あいつと思いながら、完全に他人事である。
そう、チートを手に入れたからって現代で暴れて得するかというとそれはまた別の話なのである。普通は黙ってる。誰だってリアルにそんなことができるようになったら黙ってる。宝くじに当たるより凄いことなんだから、その後の生活がめちゃくちゃになることなど自明である。頭ロックな隠密はわかってなかったようだが。
アメリカが何やらヒーロー省など作って忍者のような超人を募集しているようだが、それに応募するアホなどいるはずもない。
トムは生活に困っているわけでもない。
ナードではあるが、趣味の金額は許容範囲内に収まっているし、仕事もある。
このまま、生涯穏やかに暮らしていく事にしたのだ。
理想の自分なんてもう真っ平。
あんな努力したのは人生で一度だけで、一回やればもう十分。
もらえたチートは、音楽や料理の腕前、話のネタ、少しの成長だけで十分。
今日は、自分が主催のこっちでは初めてのホームパーティーを開くのだ。
ありがたい事に、幅広い層の知り合いがお祝いを申し出てくれた。
書籍化を祝うささやかな宴。
特にアレクにはちょうどいい賞を紹介してもらって、そこに応募して書籍化されたのでお礼を言わねばなるまい。
「ふんふふんふーん」
転移前より少し達者になった鼻歌を歌い、熱いコーヒーを淹れる。
少し緊張しながら、朝から一生懸命料理を作る。
そうこうしている内に、お客が訪れ、ささやかなホームパーティーは穏やかに過ぎていった。
「絶対にこれは流行るよ!」
「これで君も有名人だね。応募したのは正解だね!」
「いや、そんな……そうかな?」
そこでベルが鳴る。
「おっと? もうお客様は皆来てるはずだけど」
「行ってみなよ」
ドアを開ける。軍服の人間に囲まれた高級スーツの男がいた。背後には記者が沢山いた。
「は?」
「やあやあやあやあ、ヒーローが随分と慎ましやかな生活をしているのですね。あ、これ皆さんで食べてください」
高級デザートを押し付け、スーツの男は言う。
「私、忍さんのご紹介を受けてスカウトに来たヒーロー省のものです。拒否権はありませんのでよろしくお願いします」
「アメリカに潜んでいたヒーロー! 是非インタビューを!」
「ジャパニーズ忍者に負けたことがないとは本当ですか!」
「自伝の映画化について一言!!」
ぐるっと部屋の中を見ると、謝るポーズの友人達。
「あんの馬鹿忍者ー!!!!!!!」
「はっはっは。いけませんなヒーローがそんな汚い言葉を使っては」
「理想の自分、いいじゃないですか。一緒にそんなヒーローを目指しましょう!」
ふざけんなバーカ! こいつらの記憶消して……ああっ どれくらいの範囲消したらいいかわからん! くそっ!!!
マシュマロ
https://marshmallow-qa.com/lucaluca
今度からマシュマロ返信していくことにしたので、よろしくお願いします!
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