超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
全員での休息、リフレッシュの為の時間にするというイリゼ様達の提案は、筋の通った話であると思った。少々強引な方法で私も休まされてしまったが…もしかすると自分は、あのような言い方をしなければ休もうとしない人間だと思われているのかもしれない。…最低限の休息さえあれば大丈夫、最低限とすら言えない休息で持ち堪えた経験もこれまでにあるのだから、という思考は実際頭の中にあった為、それについて否定は出来ない。
ただ、全員での休息というのは、きっちり全員にリフレッシュしてもらう為…というだけではないのかもしれない。特異な次元での生活という、決して日常ではない状態、一方で緊急事態という程差し迫った問題がある訳でもない状況という点を踏まえれば、下手に交代制での休息とすると、不必要に『有事』である事を意識してしまい、心置きなく気を休める事が出来なくなる…そういう事も、あるのだと思う。
まあ要は、難しい事を考えず休め、という話なのではないだろうか。少なくともこれを推した女神様方は、我々にそうしてほしいと考えたからこそ、少々強引な形でも休ませ…自分達もまた、率先して休んでいるのだろう。
「にしてもやっぱり、あれは迂闊だったんじゃないッスか?自分が追い立てるって言っておきながら、シカだかトナカイだかよく分からないあの生物の群れにまるっとスルーされるとか、迂闊な上にプレッシャーも足りないというか……」
「むっ…そんな事言うなら、アイこそ想像力が足りないよ?セカンドプランがああもがっちり嵌まったのは、あの場で私がフリーになったからだし、むしろやたらシカカイに群がられたアイこそ、私より袋叩きにするのが楽そうだと思われたんじゃないの?」
「おっ、自分のミスを棚に上げるとは、イリゼもやるようになったッスねぇ。というか、シカカイってなんッスかシカカイって。どっちだか分からないから、シカかい?って言いたいんスか?」
「シカカイって名付けたのはアイだよねぇ…!?っていうか、セカンドプラン自体私の発案だからね?百歩譲ってスルーされたのはミスでも、セカンドプランの成功で十分カバー出来てると思うんだけど?」
「いやいや、だったらそのセカンドプランが成功したのは、群がられたウチが即この状況を利用しようと機転を効かせたからッスからね?イリゼのミスをミスじゃなくしたウチに、感謝してほしいもんッス」
「利用、ねぇ…群がられた事を良いように捉えるアイも大概だよね。やるじゃん、アイ」
「…………」
「…………」
薄く笑みを浮かべ、煽るような視線を向け、一触即発の雰囲気を放つイリゼ様とアイ様。…率先して休んでいる…の、だろうか…これは……。
「わぁ…またイリゼとアイがバチバチしてる……」
「してるねぇ、バチバチ…もう何度か見てるから、流石にちょっとは慣れてきたけど……」
全員で砂の城を作ってから、少しの時が経った今。いつ手が出るか、それとも足が出るかという状況の中、近くにいたルナさんとネプテューヌ様が、困ったような声を漏らす。更にここへエリナさんがやってきて…困惑気味に、言う。
「あの…もしかして二人って、仲が悪いんですか?」
「んーん、そうじゃないよ?だよね、二人共」
「うん、全然仲悪くないよ?むしろ仲良いって感じだし」
「ただそれはそれとして、このような光景はよく見るね。煽り合いで済まない事も何度かあったかな」
「ええぇ……?」
同意を求められた私は、ルナさんに続く形で返答。されど私達からの答えに、エリナさんは表情に浮かんだ困惑を深める。…まあ、それは仕方のない事。明らかに喧嘩しそうな状態で仲が良いと言われ、その上でこれやこれ以上の事もよくあると言われれば、一層困惑するのも当然の話。
とはいえ、このまま放置していいかどうかは微妙なところ。お二人共弁えているという事なのか、互いに大きな怪我をするようなレベルの争いは基本しないものの、今は平穏状態といっても有事。この辺りで仲裁したほうがいいかと考え…たところで、ある呼び掛けがこちらへ届く。
「ねーねー皆、ビーチバレーやらなーい?」
その声にくるりと振り向けば、声の主たる茜さんがボールを手に駆けてくる。あまり驚きではない…が、ボールもここにはあったか。
「お、いいねビーチバレー!後、今思ったけどビーチバレーとピーチパフェってちょっと似てるよね」
「似て…なくもないけど、そんなわざわざ言う事かなぁ。…あ、私もやりまーす」
「そういえば、ビーチ…ではないにせよ、バレーは前にもやっていたね。丁度ルナさんに茜さん…それにアイ様イリゼ様の四人で」
「でしょ?だから折角だし、またバレーをって思ったんだけど…二人はどうー?今は忙しい感じー?」
懐かしいな、と思いつつ軽く肩を竦めれば、茜さんは女神のお二人にも声を掛ける。とはいえ、こちらが会話をしている間にもヒートアップしていたお二人がそう簡単に矛を収める事はなく……
「全然忙しくないから大丈夫、私もやるよ。…っていうか…確か前って、私とアイが逆転負けされたんだよね?」
「あの時は結局、茜にしてやられたんッスよね。じゃ…ここはリベンジマッチといこうじゃないッスか」
……と、いう事もなく、普通に参加を表明してきた。なんなら二人で頷き合い、早くも同チームで協力する姿勢だった。
「えっ?…これは、一体……」
「うん?どうかしたッスか?というかエリナはやるんスか?」
「あ、えと…じゃあ私もやります。…っていや、そうじゃなくて……」
「じゃ、皆コート作るから手伝ってくれる?」
『はーい』
ぽかんとなるエリナさんと、茜さんの指示を受けてコートを作り始めるイリゼ様達。そのエリナさんも、参加するのに自分だけ何もしていない、という状況は嫌だったのか、遅れる形で準備に参加。まずはぱぱっと砂浜に線を引き、その内側を六人で軽く均していく。
「皆さん、私も何か手伝いましょうか?」
「それなら、柱を持ってくるのを手伝ってもらえるかな?」
「柱って、ネットを張る柱だよね?そんなのもあるの?」
「んーん、だからさっき私が木を斬ったんだ。で、多分そろそろせーちゃんが良い感じのサイズに加工してくれてると思うから、今度はそれを取りに行くよー」
小首を傾げたルナさんの質問に答えた茜さんは歩き出す。柱は木から切り出した、というサバイバル感の強い返答に私達は苦笑し……一度即席コートを離れた私達は、柱の準備をしてくれていたセイツ様、それにもう一人の参加者であるイリスさんと共に二本の丸太を担いで戻る。
「皆、丸太は持っているな!」
「いやネプテューヌ、状況的に言いたくなるのは分かるけど、それだとズェピアを倒しに行くみたいになっちゃうから……」
「はいはーい、それじゃあ皆柱を立てるよー。せーのっ!」
セイツ様の突っ込みを経て、二本の丸太を砂浜に立てる。普通ならば、人力で立てても大して深くは刺さらない…が、ここにいるのは約半数が女神。その女神様方が力を合わせる事で、丸太は深々と突き刺さり…残るはネット。しかしもう、そのネットも『一応は』確保済み。
「よいしょ、よいしょ。…あうっ」
「っと、イリスちゃん大丈夫?広げる時は、ネットを踏まないように歩かないとね」
「…茜さん。これは…使ってもいいのかい…?」
「作ってくれた二人には許可取ってるからだいじょーぶ!それにこのネットはじょーぶだからね!」
「…大丈夫だけに?」
「そう!じょーぶだからだいじょーぶ!」
まさか、という顔でルナさんが問えば、茜さんは胸を張って返答。一方転びかけたところをイリゼ様に支えられたイリスさんは、そのイリゼ様と共にネットを広げ、そこから全員で柱へと張る。
このネットも、勿論元からあったものではない。では何かというと…これは、魚を捕る為に使った漁業網。それをビーチバレーのネットへと転用していた。…いいのだろうか…確かに丈夫である事は間違いないが……。
「ふぅ、これで準備は完了ですね。後はチーム分けですけど……」
「二人はリベンジマッチをって言ってるし、ルナちゃんと茜も同じチームの方がいいよね?…あ、でもよく考えたら、今は九人……」
「自分は審判をやるつもりですので大丈夫ですよ。前回もそうでしたしね」
人数が足りないならともかく、奇数ならばと私は遠慮。そういう事なら、と残る四人でチーム分けを行い…結果、アイ様とイリゼ様のチームにはネプテューヌ様とエリナさんが、ルナさんと茜さんのチームにはセイツ様とイリスさんが加入する。
「よーし、皆頑張るよー!」
『おー!』
「ぜーちゃん達の方はやる気じゅーぶんだねぇ。それじゃあこっちも、何か掛け声……」
「はふぅ、やっぱり前向きな感情は見ていて爽やかな気持ちになるわ…!始まる前から楽しめるなんて、これは思わぬ収穫ね…!」
「…をやったらせーちゃんがもうバレーに集中出来なくなっちゃいそうだから、止めておこっかなぁ…」
ぐっ、とネプテューヌ様の掛け声でイリゼ様達は拳を上げ、自らの肩を抱いて身体をくねらせるセイツ様の様子に、茜さんは何とも言えない顔をする。恐らくだが、私も似たような顔になっている。
そうしてチーム分けも済み、次はコートと最初のサーブ権選択へ。とはいえこれはチームが決まった時点で「女神が多いこっちの方が有利みたいなものだし」と、初めからイリゼ様達が譲っていた。譲られたセイツ様達は短い話し合いの後、コートの選択を取っていた。ただ、これについては女神の人数のみではなく、イリゼ様とアイ様の「完全勝利でリベンジを果たしたい」という意図もあったように思う。
(…思えば、前回の水中バレーはコートの『広さ』が勝敗を決していたな。そして今回も、コートの選択に茜さんが関わっている以上、その面でセイツ様達側が不利になるという事は恐らくない。そこまで踏まえて、敢えてそれでも選択権を譲ったのか、それとも……)
それぞれコートに入り陣形を組む中、ふと考える。整備されていない場所且つ、動けるエリアが敵味方で完全に別れているルールで行うビーチバレーはコート選択が重要であり、戦う場所を選べる事が大きなアドバンテージになるのは戦闘においても言える事。選ぶ時点で、もっと言えば選択権をどうするかの時点で勝負は始まっていると言っても過言ではなく…だがそこまで考えたところで、私は軽く頭を振った。これが真剣勝負である事は間違いない。だが、真剣だろうと遊びは遊び。あまり固く考え過ぎるのも違うというもの。
「それじゃあ、いきます!」
コート選択権の代わりにサーブ権を得たイリゼ様達は、最初のサーブをエリナさんに委ねる。そして、深呼吸の後軽くボールを放り…手を強く打ち付ける音と共に、試合が始まる。
「いいサーブね、けど…ルナ!」
「うんっ!茜お願い!」
「まっかせてッ!」
サーブにより飛んできたボールを、下がったセイツ様がレシーブ。ルナさんがトスする事で茜さんに繋げ、跳躍した茜さんはスパイク。滑らかな動きでボールを返し…されどイリゼ様の反応も早い。茜さんとほぼ同時に跳んだイリゼ様はネット間際でブロックを掛け、斜め上から打ち込まれたボールの軌道を逸らす。
弾き返す事は出来なかったものの、浮かせる形で軌道を逸らせた。それだけ見れば、茜さんとイリゼ様の攻防は引き分け。だがその直後、逸らした直後、アイ様がイリゼ様の背後から、セイツ様達からすればイリゼ様を飛び越えるような形で現れ…ボレーシュート。薙ぐような蹴撃がボールを捉え、一瞬で打ち返す。そしてボールはセイツ様達のコートへと叩き込まれ……イリスさんの正面の空間を貫いた。
「…流石アイ。ナイスアタック」
「イリゼこそ、ナイスアシストッス」
ブロックとアタック。それぞれに跳んだお二人は着地し、互いにネットの向こう側を見ながら言葉を交わす。
わざわざ意思疎通を図るまでもない…そう言わんばかりのやり取り。それは、女神同士だからこそ為せる技か、それとも前回も組んだ二人だからか、或いはその両方か。何れにせよ、ポイントの先取はイリゼ様達となり…ゆっくりとボールを拾い上げたイリスさんが、言う。
「バレーは、足を使っても良い?」
((あ、そこからかぁ……))
驚くでも、初めから蹴るつもりしかなかったような動きへ抗議するでもない、純粋な疑問。どうやらイリスさんには事前にバレーの説明がされていたらしく…ただそれはそれとして、何とも彼女らしい反応に、得点直後ながら全員気が緩んでしまうのだった。
「…こほん。アイの事だから、どっかで手じゃなくて足を使ってくるとは思っていたけど、まさか初手からとはね。やってくれるじゃない」
「前も凄かったんだよねー。んもう、シノちゃんってば足癖が悪いんだから」
「いやぁ、ウチの銀ならぬ赤色の脚が騒いだもので」
確かに前回もアイ様はよく蹴っていたな、と私が思う中、イリスさんからボールを受け取ったルナさんがコートの外へ。そのルナさんの「いくよー」という声で、試合は再開。先のエリナさんのものよりやや強い放物線を描く形で、ルナさんのサーブが打ち込まれる。
「この軌道なら…レシーブいきます!」
「だったらトスは私が!」
「そして決めるのは勿論自分!アターックッ!」
飛来したボールをエリナさんが受け、イリゼ様がネット際へ飛ばし、踏み切り跳躍したネプテューヌ様が打つ。ブロックの為に跳んだセイツ様の手を紙一重で躱す形となったボールは、そのまま砂浜へと突っ込み…だが落ちる寸前に、飛び込んできた茜さんが辛うじて拾う。今度はそれをイリスさんがトスし、前に出たルナさんが跳び上がり……
「ルナちゃん、十時の方向真ん中よりちょっとだけ手前!」
「とりゃっ!」
『……!』
威力や速度こそまずまずなものの、丁寧で正確なルナさんのアタック。茜さんの指示を受けて打ち込まれたそれは、丁度イリゼ様とネプテューヌ様の中間を刺すようにコートへと飛び込み…お二人が一瞬躊躇った事で、間に合わずボールが落ちる。
「やった!上手くいったよ茜!」
「うんうん、ばっちりだったよルナちゃん!」
「くっ…絶妙なところを刺してくるっていうか、ほんとどんな場面でも強力だね茜の目は……」
ぱんっ、と両手で茜さんとルナさんがハイタッチをする中、してやられた…とイリゼ様が表情を歪める。二人の中間、殆ど偏りのない位置へボールを飛ばす事により、自分が対応するべきか、それとも任せるべきか…という迷いを生じさせ、動きを鈍らせるという、茜さんの能力を存分に活用したセイツ様達側のお返し。これにより点差はなくなり…ここから勝負は本格化。どちらのチームも個々の力を発揮し、その上で連携もし、点を取り合う。
(…人数の多さもそうだが、今回は前回の水中よりずっと動き易い分、攻防戦が激しいな…)
かなり見応えのある、四対四のビーチバレー。ボールは何度もコートを行き来し…されどゲームが進む中で、少しずつイリゼ様達側が押し始める。
優勢になり始めたイリゼ様達側は、比較的背の高いイリゼ様とエリナさんが前衛を、アイ様とネプテューヌ様が後衛を務める陣形。ありふれた、しかしだからこそ堅実で大きな隙のないフォーメーションを取って、各々が自分の力を発揮している。その上で、必要に応じて瞬時に連携を取っている。
一方追い掛けるセイツ様達側は、前衛をセイツ様が、後衛を茜さんが担い、ルナさんとイリスさんが左右に分かれて中衛を行っている。セイツ様が攻防どちらでも活躍し、茜さんが後ろから全体を見て、ルナさんイリスさんがセイツ様のサポートに回るという、連携を強く意識した配置でここまで立ち回ってきている。
「貰ったッス!」
「そうはいかないわッ!」
アイ様のシュートをセイツ様がブロックし弾き返す。すぐさまエリナさんが拾い、トスでの調整を挟まずネプテューヌ様が再度打ち込み、イリスさんがレシーブをする…も、あらぬ方向に飛んでいってしまい失点。また一つ、両チーム間の点差が広がる。
思えば水中バレーでも、初めはイリゼ様とアイ様が優勢だった。その際は次第にお二人がコートの広さに苦しめられて逆転となった訳だが…今回はどうなるか、それはまだ分からない。
だからこそ、思う。先が読めない、分からないというのは、戦場であれば恐ろしいものだが…正々堂々とした試合であれば、分からないからこそ見応えがあると。そして……
(…前回も今回も、思った以上にやる事がない……)
果たしてこのビーチバレーに審判は必要なのだろうか。完全に観客状態の自分を顧みて、そう思わざるを得ない私であった。
*
本気であっても、真剣であっても、遊びは遊び。勝負に拘るつもりはないし、それよりも楽しむ事、楽しめる勝負にする事が大事。でなければ遊びとは言えない。勝負に拘る時と遊ぶ時は、きっちり分けるのが楽しむコツ。
ただまあ、それはそれとして…負ければ悔しいし、勝ちたいと思う。リベンジのチャンスがあるのなら、それを全力で掴みに行くのが、女神であり、ウチってもの。要は、こういう事ッス。勝負に拘るつもりはなくても、楽しむ事が前提でも、目指すは勝利一択。それ位に考えるのが、一番ってもんッス。
「必殺!ねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷ今何回ねぷって言った?アターック!」
「へっ?え、えっと多分十回以上……あぁっ!」
律儀に答えようとした結果、動きが甘くなったルナのブロックを破る形でネプテューヌのスパイクが決まる。無視すればいいのに反応する辺り、ルナも素直ッスよねぇ。
「うぅ、やられた……」
「ルナ、今のは十二回だった」
「よく聞いてたわね、イリス。確かに今のは十二回よ」
「あ、そ、そうなんだ…二人共、よく聞いてたっていうか、よく分かったね……」
イリスとエリナから掛けられる、慰め…ではなくクイズ(?)の答えに、むしろルナは困惑。聞いていたウチも軽く困惑。なんなら出題者のネプテューヌも困惑。いやぁ、イリスは勿論、エリナもネプテューヌが絡むと途端に独特なキャラになるもんスね。
まあそれはともかく、これでまたウチ等がリード。圧倒的ではないにせよ、今はウチ等が明確に有利。
「ここまでは狙い通りだね。後は向こうがどれだけ対応してくるか、どんな手を打ってくるかだけど……」
「相手は曲者のセイツと茜に、読めない部分のあるイリスと、何より奇跡のルナッスからね。けど、やり返して来てくれた方が面白いじゃないッスか」
「まぁね。後、ルナは情報収集を踏まえた戦術的勝利じゃなくて、ほんとに奇跡を起こしちゃうタイプだから…」
「なら合ってるじゃないッスか。何か問題でも?」
「大問題だよ、パロディとしてはね…!」
まだ油断は出来ない、けどその方が面白い。そんなやり取りをイリゼと交わし、ウチ等はそれぞれのポジションへ戻る。
序盤はウチとイリゼの連携で点を稼ぎ、向こうが慣れてきたところで今度はエリナのサポートを受けたネプテューヌがガンガン仕掛けていく、ウチとイリゼはその脇を固める…というのが、ここまでの立ち回り。
(さぁて、どう動いてくるッスかね…)
このまま終わるとは思っていない。期待とかじゃなく、これで終わる面子じゃないとウチは知っている。そしてウチの思った通り…向こうのチームが、動く。
「んー…そろそろ良さそうだね」
「そうね。これ以上点差が開くと巻き返しきれなくなる可能性もあるし…フォーメーションチェンジよ!」
フォーメーションチェンジ。その言葉を合図に、文字通り向こうのフォーメーションが変わる。前衛後衛一人に中衛二人の組み合わせから、茜とセイツが前衛、ルナとイリスが後衛のシンプルな陣形に変化する。
「これ、って……」
「何かありそう、ではありますけど……」
動いた事で軽く緊張したウチ等。けど陣形の組直しが済んだ時、聞こえたのはネプテューヌとエリナの怪訝そうな声。…理由は分かる。何せ、ウチも分からないから。この陣形の狙いが、さっぱり見えてこないから。まさか、基礎スペックの高い二人を前に出しただけ…なーんて訳がないッスし…。
「サーブ、イリスの番?……分かった。えい」
疑問に思っている内に、味方からの頷きを得たイリスがぽーんとサーブを放ってくる。一先ずそれをエリナがレシーブし、ウチがトスし、イリゼに回す。ブロックの為跳ぶ茜に対し、イリゼは右手を振り抜く…と見せかけて左手で打つという、いつもの戦い方みたいな手法で防御を躱してボールを打ち込み……けれど、ウチはすぐに気付く。イリゼの動きが、ほんの一瞬鈍った事に。
「今度こそ…ッ!」
「速攻を掛けるわッ!」
飛んでくるボールの先へ駆け込んだルナが弾き、落ちてこない内に跳んだセイツが打ち返してくる。何とかウチはレシーブを間に合わせるも、若干カーブが掛かっていた事でボールは狙い通りに上がらず、コートの外に飛んでいってアウト。
「っと、申し訳ないッス」
「私もごめん、今のはチャンスだったのに…」
「まいどんまいどん、まだこっちが勝ってるし大丈夫だって!」
「あのパープルハート様、それだと宇宙カタツムリに……あ、どうも」
何も言わずぱっとボールを取ってきてくれたワイト。受け取ったエリナがネプテューヌに渡し、ぐるんぐるんと腕を振った後にネプテューヌはサーブ。かなり勢いの乗ったサーブは相手チームのコートギリギリまで飛ぶ…が、イリスがきっちりレシーブで掬う。成功した事で、イリスはその場でぴょんと跳ねる。
そこからルナを経由し茜がアタック。イリゼとエリナのダブルブロックで弾き返すと、今度は即座にセイツが打つ。これはネプテューヌがレシーブし、イリゼがスパイク…と見せかけて横へトス。視線の動きでそれを読んだウチは合わせ、空中で脚を振り上げる。
(前が厚いなら、後ろに蹴り込むまでッス…!)
身体を捻り、斜め下へ打ち込む角度を取る。高さは十分。体勢もバッチリ。後は全力でボールを蹴り込むだけ……
「──な…っ!?」
そう、ウチは思っていた。脚を振り抜いた。されど蹴る直前、ある事に…イリゼの動きが鈍った理由に気付き……ウチも微かに躊躇ってしまう。結果100%の威力の蹴りにはならず、ルナに受けられる。そこからの攻防戦で、またウチ等が競り負け失点してしまう。
「…ローズハート様?何か今、おかしかったような……」
「…そういう事ッスか、イリゼ……」
「うん…まさかこんな手を打ってくるとは……」
「ど、どういう事?」
困惑するネプテューヌに続いて、エリナも怪訝そうな目で見てくる。それを受けたウチは、まんまとやられた悔しさで後頭部を掻いた後…言う。
「ルナとイリスッスよ」
『……?』
「アタックが来る度にちょっとびびった顔をするルナと、成功すれば跳んだり万歳したりして、逆に失敗すればその度にしょんぼりするイリスを並べられたら、向こうのコートの後ろ側なんて狙えないッス…!」
『あ、あー…そういう……』
そう。ウチが躊躇ったのは、後衛側へボールをぶち込むのに気が引けるような布陣だったから。いざ打とうとした瞬間にびくっとするルナと、成功しても失敗しても子供っぽい反応を見せるイリスが視界に入ったら、こんなもん全力で蹴られる訳がないッス…!
「んー…でもほら、遊びだしさ?別に直接ボールをぶち当てる訳じゃないんだから、そんなに気にしなくてもいいと思うよ?」
「それが出来たら苦労しないッスよネプテューヌ…」
「そうだよ、いざ跳んで見ると分かるけど、躊躇わせ力凄いからね?」
「躊躇わせ力って…んもー、二人共子供同士の遊び経験が足りてないよ。自分がお手本を見せるから、見てて!」
やれやれとネプテューヌは首を横に振って、試合再開。何度かボールが行き来した後、ネプテューヌがアタックの為に跳ぶ。そして……
「うぅ、駄目だった…二人の躊躇わせ力、半端ない……」
ものの見事にネプテューヌも同じ轍を踏んでいた。いやまあ、この流れは予想通りというか、いっそ様式美みたいなもんッスけど……。
「…どうする?アタックだけが得点手段じゃないし、前に落とす手もあるけど、無策だと多分すぐに追い付かれるよ?」
「じゃあ、目には目をで、こっちもアタックを躊躇うような布陣を…は、無理かぁ…二人は女神だし、エリナちゃんも普通に強いもんね…」
「と、いうか…この布陣の意図を、二人は理解してるんでしょうか?もし知らずにいるのなら、それに気付かせる事で向こうに不和を起こさせる事が出来るのでは?」
「いや、多分意図を説明された上でやってると思うッスよ。イリスは自分が未熟だって自覚してるみたいッスし…ルナはああ見えてネガティヴというか、前向きに自虐するタイプッスからね」
『前向きに自虐……?』
矛盾してない…?とネプテューヌとエリナは見てくるッスけど、実際そうなんだから仕方ない。現にイリゼは頷いている訳ッスし。
と、短いやり取りだけじゃウチ等は対策を立てられず、かといって勝手に「作戦ターイム!」なんて言って時間を取る事も出来ず、不味いと思いつつも再開。前衛の二人がブロックに動いた直後に別の位置へ打つとか、強く打つと見せかけて緩く、防御を飛び越えるようにして落とすだとかの工夫をして食い下がりはするも、やっぱりどうしても勢いは落ちる。逆に向こうは連続得点で波に乗って、立て続けに得点を重ねてくる。
「イリス、いけそう?」
「イリス、いける」
高く上げたルナのトスをイリスが追って、落下してきたところでジャンプ。大きく振り被ったイリスのスパイクは、慣れていないせいか動きの割にはかなり弱めで…だからこそ逆に、飛ばすんじゃなくネット際へ落とすような形になる。しかもイリゼもエリナも強いアタックになると思って動いていたらしく、完全に裏をかかれてしまう。
ヤバい、と飛び込んだウチは、スライディングの要領で何とか脚を滑り込ませ、蹴って打ち上げる。そこへイリゼが助走を付けながら跳び、対抗するように茜も跳ぶ。
「叩き落とす…ッ!」
「出来るかな、ぜーちゃん…!」
ボールが落下し始めたところで、上から叩いて落下の勢いを加算するイリゼ。対する茜も手を伸ばし…互いに押し合う形になる。
人の姿のイリゼと、装備を纏っていない茜とで、力に大きな差はない。だからこそ、落下分を加算出来る、上から押さえ付けられるイリゼの方が少しだけ有利。そしてイリゼはそのまま自分自身の落下も加えて、ダンクシュートの様にボールを押し込み……
「悪いけど、落とすのはこっちの方よッ!」
「く……ッ!」
押される茜、その手を一歩遅れて…というより、わざとタイミングをずらしたっぽい形で跳んだセイツが後押しした。一対一から、イリゼは二人に押される形になり、逆にこっちへ弾き返される。イリゼもボールも、纏めて落ちる。
(ちっ…ブロックの算段を立ててるのは分かってたッスけど、まさかこんな形での『二人掛かり』をしてくるとは……)
後衛のイリスが前に出る。その時点で、前衛の二人が反撃を見越していた事は分かっていた。だからそこまでは予想の内、そこからの動きは予想外。そして気付けば、もう同点。
「ふぅ。やっと追い付いたわね。皆、バテてない?」
「だいじょーぶ!まだまだいけるよっ!」
「イリスも大丈夫。ビーチバレー、楽しい」
「ふふっ、楽しいね。よーし、このまま勝つよっ!」
苦戦してるウチ等とは対照的に、向こうは絶好調。こういう雰囲気だと自然にミスも減るし、逆にこっちは焦る。このまま更に点を取られて逆転までされたら、流石にちょっと…いやかなり悔しい。
つまり、ここが重要な局面。次の点がどうなるか、取るにしろ取られるにしろどんな形になるかで、ここからの流れが決まる。当然ウチ等としては、何としても点を取りたい状況な訳で…そんな中、ネプテューヌが言う。
「むむ、こうなったら……皆、アレをやるよ!」
「……!本気ッスかネプテューヌ!」
『……アレ?』
決意に満ちたそうなネプテューヌの言葉に、ウチは振り向く。一方イリゼとエリナは首を傾げる。
「確かに上手くいくかどうかは分からない。危険かもしれない。だけど…勝つにはこれしかないよ!そうでしょ、皆?」
「…そうッスね。一か八か、アレに賭けてみるしかないッス。ウチは乗るッスよ、ネプテューヌの勇気に!」
「いやあの、アレとは一体……」
「…もう、二人共格好良いなぁ。そんな事言われたら…私も女神として、尻込みする訳にはいかないね!やろう!」
「オリジンハート様!?え、今ので分かったんです!?」
ぐっ、と拳を突き出すネプテューヌに、ウチは…そしてイリゼも応じる。エリナは一人、混乱気味に突っ込む。…え、結局アレがなんなのかッスか?それは勿論……
「…じゃ、具体的に何をやるか説明するんだけどさ」
「お願いするッス」
「一応訊くけど、実現可能な作戦なんだよね?」
「あ、なんだ、ノリに合わせてただけなんですね…。……分かってなかったのに、よくお二人共あんな自信満々に言えましたね…!」
この通り、ウチも分かってなかったに決まってるじゃないッスか。はっはっはっ。
という訳で、ウチ等三人ネプテューヌの提案を聞く。その内容は、ネプテューヌらしい突飛で、実際危険性もある気がするする事で…けれど誰も反対はしない。そりゃそうッスよね。普通の事じゃ何とかならない、仮に点を取れても運が良かった程度の内容じゃ変わらない空気を一変させるには…とびきりのインパクトが必要なんスから。
「皆、やれそう?」
「ま、ウチは出来ると思うッスよ。イリゼとネプテューヌが着いてこられるなら、ッスけど」
「へぇ、言ってくれるねアイ。…エリナは大丈夫?多分エリナの役目が一番難しくなっちゃうけど……」
「任せて下さい。パープルハート様から仰せつかった役目ですし…私だって、勝ちたいですからね」
「仰せつかったなんて、大袈裟だなぁ…。でも、大丈夫。エリナちゃんなら出来るよ!」
エールも込めたネプテューヌの言葉に、エリナはメラメラと燃えるような雰囲気を纏いながら首肯。そしてイリゼのサーブでウチ等は動く。まずは向こうのチームと打ち合う。
「何か作戦を立てたみたいだけど……」
「そう簡単にはやらせないわよ?」
向こうも今が重要な局面だと分かっているようで、防御は硬い。ウチ等も一回一回確実に拾って、飛ばして打つ。打って、返されて、返して、また打って…そうして何度もボールが行き来する中で、コートギリギリに落ちそうになったボールを何とか茜が拾った結果、そのまま緩い形でボールが返ってくる。
最大のチャンス、攻めるなら今。直感的にそう感じたウチはネプテューヌと共に前に出て、逆にエリナは後ろに下がる。そして……
「これで……決めて下さい!」
ダッシュで下がったエリナは振り向き、落ちてくるボールを蹴り上げる。大きく飛んだボールは、空中で電撃を…エリナが蹴りと同時に込めた魔法を纏って落下し、そこへ向けてウチ等は飛ぶ。
電撃を纏い、雷の様に飛来するボール。そのボールを、ネットの向こう側を見据え、ウチは蹴り飛ばす。ウチ等は三人で同時に全力の蹴りを放ち……エリナの魔法に女神三人の力を乗せた最大の一撃を、セイツ達の陣地へ叩き込む。
『えっ、ちょっ、これどう見てもイナズマブレイ……うわぁああああぁぁぁぁっ!!?』
衝撃波と共に舞い上がる大量の砂。着地するウチ達。そして砂煙が収まった時…ボールは、砂浜の奥深くへめり込んでいた。
『──ふっ、決まった(ッス)』
大技にセイツ達が唖然とする中で、ウチ等はゆっくりと立ち上がる。どんなド派手なアタックをしても、得られる点は同じ。だとしても、印象は違う。これだけの大技を成功させた事で、逆に向こうは完璧に決められた事で、ウチ等が押されていた雰囲気は完全に払拭……
「あー…気分が良さそうなところで申し訳ないのですが……計四回触っているので、反則です」
『あっ……』
……出来なかった。全員うっかりしていた結果、物凄く間抜けな形でセイツ達に逆転されるウチ達だった。
『…………』
「くっ…こうなったらもうなりふり構っていられないッス!イリゼ、ハリケーンいくッスよハリケーン!ほんとはブランちゃんとやりたいところッスけど、今回は妥協してイリゼとスカイラブッス!」
「なんでそんなやる気を削ぐような言い方するの!?やるのはいいけど、だったらアイが発射台になってよね!」
「いやそれ以前になんでまたサッカーの技やろうとしてるのよ!これバレーよバレー!」
「…っていうか…三人共、さっき物凄くビリビリいってるボールを蹴ってたよね?大丈夫だったの…?」
「え?ルナちゃん、そりゃー勿論──」
『滅茶苦茶痺れた』
「だよねっ!それはそうだよね!か、身体張り過ぎじゃないかなぁ!?」
正直まだ脚が痛いと思いながら、半ばヤケ状態でウチ等は続行。ただ、結果的にさっきの攻撃が「この調子だと、またとんでもない事をしてきそう…」と向こうに思わせる事に成功したようで、逆転はされたものの、少しだけ向こうの勢いは落ちた。おかげでブロックからの点取りはある程度通るようになって、ウチ等は喰らい付く。流れを引き戻す事は出来ずとも、点数に差を付けさせはしない。
「流石にぜーちゃん達も慣れてきてるね…もう一踏ん張りだよ、皆!」
「こっちももう一踏ん張り!締まっていくぞー!」
『おー!』
「あっ…お、おー!」
ネプテューヌによる部活的なノリに、今度はエリナも遅れつつ参加。こっちも向こうも前のめりに、一つ一つのラリーに力を尽くす。
そうしていよいよ、お互いにマッチポイント。ここで取れば勝てる、取られれば負ける、最後の攻防。緊張感の中、セイツがサーブし、イリゼがレシーブ。トスにスパイクにブロックと、何度も打ち合う。何度もボールが飛び交った後、ネプテューヌからのトスを受けたウチが、ネット越えのジャンプからアタックを仕掛ける。
「抜かせ、ないわ…ッ!皆ッ!」
ブロックの為に跳んだセイツの手を弾きつつも浮いたボール。真ん中辺りに落とす筈だったそれはコートの後ろ側に構えたルナにレシーブされ、イリスがジャンプをしながら前にトス。前進の勢いが乗ったボールを打つのは茜で、気迫と共に腕を振り抜く。
強烈なスパイク。阻むのはネプテューヌ。さっきのセイツと同じように、パワーを落としつつもブロックを弾いたボールは山なりに飛び…それをウチは追う。コートを大きく越えるコースのボールを全力で追って、手を…ではなく脚を伸ばす。
「イリゼ!エリナ!任せたッス!」
直前で踏み切り、サマーソルト。落ちる前にボールを蹴り付け、前に飛ばす。真っ直ぐに飛ぶボールをエリナはしっかりと捉え、スパイクを掛けるように打つ事で更に強く前に放つ。
そしてイリゼが跳躍。しなやかに跳び、腕を後ろに引く。対するセイツと茜も跳んで、イリゼのスパイクコースを塞ぐ。その状態でもイリゼは動じる事なく身体を逸らし、恐らくは直感でボールの位置を察知して……ボールへ掌底を叩き込む。空中からの一撃を、ウチとエリナの力が籠った状態で更にイリゼの力を受けたボールは爆ぜるような勢いとなり、セイツと茜のブロックを弾き飛ばす。
ウチには分かる。この一発は、レシーブも許さないと。ウチ等の力を結集したこのスパイクは、正真正銘この試合最後のアタックに……
……なると思ったスパイクは、直撃した。何に?誰に?──イリスの、顔面に。
「あ"ッ……」
「い、イリスぅぅぅぅぅぅっ!」
びたーんッ!…と音が響く中、ゆっくりとイリスが後ろに倒れる。完全に倒れる直前にルナが駆け寄って、その背中を支える。
訪れる無言。やってしまったという空気。微動だにしないイリスの様子に、ウチ等は不安を掻き立てられる。そうして誰も動けなくなる中、顔面に張り付いていたボールがゆっくりと落ち……イリスは、言う。
「……顔面は、セーフ…?」
その言葉に、全員がワイトを見る。審判であり、判断の権限を持つワイトの見解を求める。そんなウチ等の視線を受けたワイトは、だらり、と冷や汗をかき──ドッジボールじゃないけど、可哀想だしセーフにしよう。というかむしろ、顔面は打った側の反則にしよう。…全員の合意でその判断が下され、ビーチバレー対決は茜、ルナ、セイツ、イリス組の勝利となるのだった。…ま、仕方ないッスね。
*
八人による、ビーチバレー対決。その余談。イリゼ達がイリスに平謝りし、木の柱とネットを片付け、完全にビーチバレーが終了してからの、とあるやり取り。
「最後の最後でイリスの顔面に直撃させるなんて、やっぱりちょっとイリゼは迂闊ッスね。そういうところ直さないと、いつか女神としても足元掬われるッスよ?」
「うぐ…確かにそれは認めざるを得ない…。…けど、迂闊だったのはアイも同じでしょ。私が一回向こうの布陣チェンジによる作戦にやられたのを見てたのに、同じ事に引っ掛かってたんだから」
「先に引っ掛かった自分の事を棚に上げてそれ言うんスか?」
「一回目と二回目は違うでしょ。…あ、いやでもこれは私も悪いか。ごめんアイ、私が引っ掛かった時点で言うべきだったよね。教えてもらえれば、アイも気を付けられたよね?」
「…………」
「…………」
「ふんッ!」
「でぇいッ!」
やれやれとわざとらしく呆れた様子を見せるアイに、こちらもわざとらしく謝るイリゼ。それから二人は沈黙し…次の瞬間、蹴撃と殴打が激突する。そのまま二人は軽快なステップを踏みながら、互いに打撃を放ち合う。
「ま、またやってる…というか、完全な喧嘩に発展してる……」
「まだあんなに動けるなんて、やっぱり凄いなぁ…。…あれ、でもこれで二人が互角?…っぽいのは意外かも。剣を出してない分、イリゼが不利になりそうなのに……」
「んー、そうでもないと思うよ。確かにシノちゃんはキックが得意だけど、そのシノちゃんが普段履いてるのは戦闘用っぽいブーツだからねー。だからそのブーツの頑丈さとか、仕込んである刃を前提にした動きが出来ない分、シノちゃんもいつもの動きは出来ない…ってところなんじゃないかな」
「…さっきもルナに訊いた事だけど…本当に二人は仲が悪い訳じゃないの…?確かにビーチバレーの時は、ばっちり連携してたけど……」
対して驚く事もなく眺めるルナと茜へ、怪訝そうにエリナが問う。結局仲が良いのか悪いのか。そんな質問に対し、ルナと茜は顔を見合わせ…返答。
「うーん…喧嘩する程仲が良い…っていうより、喧嘩はするし仲も良い…みたいな?」
「あれも手抜きゼロのじゃれ合いみたいなものだと思うよ。可愛いよね、二人共」
「そ、そう…」
いまいち腑に落ちないと思いつつも、エリナは頷く。回答を受けてもまだ謎な訳だが、自分よりも付き合いの長い二人がそう言うのなら、きっとそうなのだろうと考えながら。
その間も続いていた二人の取っ組み合い。いつの間にか砂浜から水上へと移っていた二人は、水の抵抗を殆ど感じさせない動きで腕を突き出し、脚を振り抜き、水飛沫を浴びる。掌底と膝蹴りがぶつかり合い、互いに後ろへ跳んだかと思えばまた接近する。
どんどんと熱を帯びてくる彼女等の勝負。女神化こそしていないものの、本当に二人の攻撃には一切の躊躇いがなく、エリナはこれは流石に止めた方がという思いに駆られる……が、次の瞬間状況が一変。それまで激しく動いていた二人が不意に止まったかと思うと、突然二人してしゃがみ込む。
『……?』
エリナは勿論茜とルナもこれは予想外だったようで、三人は揃って首を傾げる。そして何があったのだろうと見つめる中…聞こえてきたのは、二人の声。
『み、水着取って……』
「へっ?…あ、ほんとだ流されてる!?」
「二人共一編にって…ほんとに仲良いねぇ、二人は」
「水着でそんな事するからですよ…ちょっと待って下さい、今取りますので……」
ぷかぷかと浮く、二つのトップス。顔を赤くし恥ずかしそうに水中で胸元を押さえる二人。驚きであったり呆れであったりとそれぞれの反応を見せながらも、エリナ達は水着を取りに行く。水中に入り、水着を拾い、動けなくなった二人へ渡しに行こうとし……気付く。まだ他にも、浮遊物がある事に。片やサファイアブルー、片や黒の色をした……ビキニのボトムスまでもが流されている事に。
『いや何をどうしたらこっちまで脱げるの!?』
ご尤も過ぎる三人の突っ込みと、恥ずかしそうに更に顔を赤らめる二人。流石にこんな事が起きては続行など出来ないという事か、上下セットで取ってもらった二人は大人しくなり……その後仲良く木陰で談笑をするイリゼとアイの姿を見て、茜とルナの言葉の意味が分かったような、むしろ一層二人の関係性がよく分からなくなったような、そんな感覚に陥るエリナであった。
今回のパロディ解説
・「〜〜銀ならぬ赤色の脚〜〜」
機動武闘伝Gガンダムに登場するキャラの一人、ミケロ・チャリオットの技の一つの事。アイの女神化時の能力(技)的には、虹色ならぬ金の脚…もやれますね。
・「〜〜奇跡のルナ〜〜」、「〜〜情報収集を〜〜戦術的勝利〜〜」
コードギアスシリーズに登場するキャラの一人、藤堂鏡志朗の異名及び、主人公の一人であるルルーシュ・ランペルージ(ヴィ・ブリタニア)の台詞の一つのパロディ。奇跡や幸運といえばやはりルナです。
・「まいどんまいどん〜〜」、「〜〜宇宙カタツムリ〜〜」
ストレッチマンに登場するキャラの一人、まいどんの事。まいどんの事を知っている方はそれなりにいるでしょうが、宇宙カタツムリである事を知っている方は少ないのではないかと思います。
・『〜〜イナズマブレイ〜〜』
イナズマイレブンシリーズに登場する必殺技の一つ、イナズマブレイクの事。元ネタは三人でやってるのですが…反則というオチと、誰かを仲間外れにはしたくないという意図から、四人でやる事になりました。
・「〜〜ハリケーンいく〜〜スカイラブッス!」
キャプテン翼に登場する技の一つ、スカイラブハリケーンの事。イナイレネタからの流れですが、こちらは一応超常的な技ではありません。多分イリゼのアイなら女神パワーで無理矢理やれるでしょう。