超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

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第十六話 全て撃ち落とせ

 縁日。これを最後に経験したのはいつか…というと、それこそ前回神生オデッセフィアを来訪した時になる。あれも間違いなく縁日ではあるが、かなり特殊なケースであり(それは今回もだが)、更にその前となると…かなり記憶を遡らなくてはいけないような気がする。それ程までに、自分と縁日は縁のないものだった。……縁だけに、という訳ではない。

 そんな中での、縁日空間。全く意味は不明だが、少なくとも現状での危険は感じられず、またアイ様やエスト様、それにルナさんが強い苦痛や不安を抱くような事になっていない点においては…不幸中の幸いだろう。

 

「駄目ッスねぇ……」

「えぇ、全く駄目ね……」

「もう、思い付かないよね……」

 

 嘆息と共に、アイ様達が呟く。行き詰まった状況、困り果てた中で零れた言葉。それぞれの口から、思いが漏れる。……頭にお面を付けて、片手にチュロスを持って、もう一方の手で水ヨーヨーを叩きながら。

 

「…あの、皆様…流石に少し楽しみ過ぎでは……?」

 

 側から見れば、完全に縁日を満喫している少女三人なアイ様達へ、言うか言うまいか迷っていた指摘を口にする。されど、少し高い台らしき物に座っているアイ様、エスト様は動じる事なく……ルナさんだけは、我に返ったように「はっ…!」…と言っていた。

 

「…ルナさん……」

「うぅ、すみません…二人に流されるばかりか、流されている事にも私は気付いていなかったです……」

「えっ、ルナそうだったの…?」

「それはウチ等も驚きッス……」

 

 なんと、一番異彩を放っていたのはルナさん。本人は肩を落とし、しょんぼりとし…なんだか本当に、少し小さくなっているようにも見えた。…勿論、そう見えただけだが。

 

「…ま、まあそれはともかく…聡明なお二人の事なので、無意識の内に根を詰め過ぎないよう、意図的にそうしている部分はあるかと思いますが、このようにルナさんにも影響が出てしまっているので……」

「ちっちっち、分かってないッスねぇワイトは。ウチ達は今、狙って楽しんでるんスよ」

「…狙って、ですか?」

「だって、運営や出店側でない限り、そもそも縁日って楽しむものでしょ?なら、その本来の在り方に沿うのも一手なんじゃないかと思った訳」

 

 勘違いしないでほしい、とお二人は言葉を返してくる。その内容、エスト様の説明には、一理あると感じさせられる。確かにこれまで自分達は闇雲に屋台を回っていたが、何を選ぶか、どうやるかだけでなく、精神の部分に着目するのも有りかもしれない。仮に楽しむ事そのものが突破口にはならずとも、これまでと違う心持ちで見る事により、何かヒントを得られるかもしれない…というのは、自分も思った。…思った、が……

 

「…その言葉、今即興で考えていませんでしたか…?」

『それは想像にお任せする(ッス・わ)』

 

 謎の余裕と共に、お二人は判断をこちらに委ねてきた。…まあ、それならばこれ以上追求はしないでおこう。お二人が相手では、煙に巻かれてしまう気しかしない。

 

「でも、それはそれとして…ワイトだって、楽しいとは思うでしょ?」

「いや、今は楽しんでいる場合では…勿論感情は制御出来るものではないので、そう感じる事自体を否定はしませんが……」

「ほんとお堅いッスねぇ、ワイトは。まあ、それでこそワイトって感じでもあるッスけど」

「あはは…でも、そうですよね。楽しいと感じるのと、楽しんでいいかどうかはまた別……って、あれ?…という事はつまり、ワイトさんも別に、楽しいと感じてるかどうかに対して否定をした訳じゃないんじゃ…?」

『…確かに』

 

 理解を示してくれた…かと思いきや、そこから頬に指を当ててルナさんは言う。その言葉にぴくっと肩を揺らしたお二人は、私の事をじーっと見てくる。

 

(しまった、軽率だった……)

 

 口は災いの元、雄弁は銀沈黙は金。そして何より…後悔先立たず。迂闊だったと思ったところで、既にどうしようもなく……お二人の視線からは逃れられないと観念した私は、小さく息を吐いて正直に答えた。

 

「……ルナさんの言う通り、否定はしていません。ただ…これが平時であれば、どれだけ良かったか…そう思っているのも、事実です」

「ほうほう…ふっ、素直じゃないッスねぇ」

「大人のプライドってやつじゃない?」

「…………」

 

 にや〜っと笑い、顔を見合わせるお二人。いいように取られてしまった…が、こういう時は下手に否定しても仕方がないもの。それはそれとして、女神のお二人が気分良くしているのなら、まあそれで良いかと自分は黙っている事にし……

 

「……うん?…あの、皆様。皆様が座っているのは、長椅子…ですか?」

「おっと、話を逸らそうとしても無駄ッスよ?というか、逸らそうとしているのがバレバレ──」

「違います。これは、真剣な質問です」

 

 言葉を遮るように、自分は言う。直後、それまでは愉快そうだったお二人の表情もふっと引き締まり…三人は台から降りて、視線を向ける。

 

「…言われてみれば、確かにこれ…長椅子、じゃないわよね…?」

「う、うん…椅子にしては高いし…っていうか、なんかカバー?の布に隠れる形で、下に何かあるような……」

 

 違和感があるのだ、という意図を理解してくれたお二人やルナさんは、揃って下を覗き込む。それからごそごそと中を探り……引っ張り出したのは、古めかしいデザインの銃。

 

「…いや、椅子っぽい台の下から銃って何よ…どこぞの杉崎家じゃあるまいし……」

「……エスト様、それはひょっとしてコルク銃では?」

「え?あ、ほんとだ…って、事は……」

 

 沈黙の中、自分達は頷き合う。縁日、椅子にしては高い台、コルク銃…これ等が示す答えは一つ。

 

「射的…よく考えたら、縁日における定番の一つなのにどの屋台にもなかったッスね…」

「…けど、これが射的だとして…何を狙えば良いのかな?」

「的…っぽいものも、景品っぽいものも近くにはなさそうよね。っていうか、台と銃だけっておかしくない?これじゃ射的が成立しない──」

「…いえ、どうやらあるようです。スコープを覗いた状態で、あちらの扉の上を見て頂けますか?」

 

 お三人が話す中、私はスコープ付きコルク銃を顔から離す。コルク銃にスコープ?…と思ったが、まあそれは置いておくとして、そこから私はこの場の奥にある扉を指差す。そして、お三人は順番に覗き込み…言う。

 

「な、なんか扉の上の…枠?…に、ぬいぐるみとかお菓子の箱とかあったんだけど…!?」

「あったッスね…エスト、うさちゃんとかくまちゃんのぬいぐるみがあったッスよ」

「うん、なんでわたしを名指しなのかは訊かないけどそうね。…ちょっと、どころかかなり遠いし、普通に考えたらこんなのコルク銃で届く訳ないけど……」

「台がここにある以上、ここから狙えという事でしょうね」

 

 先程エスト様と話した、敢えてルールに反するという発想もある…が、まずはまともにやってみるべき。私達はそう判断し…最初の挑戦に、アイ様が名乗りを上げる。

 

「ものは試し。まあちょっと、ウチの射撃をご覧あれッス」

 

 軽い調子で銃にコルクを詰めるアイ様。構えるまでは、完全におどけた様子で…されどスコープを覗いた瞬間、アイ様の雰囲気は一変。一気に研ぎ澄まされたその空気感に、思わず自分は息を呑む。

 

「……エスト、これって…」

「えぇ…ものは試しなんて言いつつ、一人で全部落としそうな雰囲気じゃない……」

 

 その豹変へ同様に圧倒された様子のルナさんとエスト様が呟く。我々が見つめる中、緊迫した雰囲気の中、歴戦の狩人が如き横顔を見せるアイ様は、静かに引き金へと指を掛け…コルク弾を、放つ。そして銃口から撃ち出された弾丸は、コルク銃とは思えない程の勢いで空を裂き、標的へ向けて駆け抜け……

 

 

……外れた。それも最初の一発は…とかではなく、恐らくは1ゲーム用であろう、小皿に乗ったコルク弾を全て使い切り…全弾外れた。景品には、擦りもしなかった。

 

『え、ええと……』

「…ふぅ。……泣いてもいいッスか…?」

 

 そっとコルク銃を置き、吐息を漏らすと共にアイ様は言う。…なんというか…誰も、何も言えなかった…。

 

「……あー…気を取り直して、頑張るわよ!」

『お、おー…!』

「うぐ、そういう言われ方をするのもちょっとダメージが……」

 

 びくっ、と肩を震わせるアイ様へ何とも言えない視線を向けた後、二番手としてエスト様がコルク銃を持つ。じっくりしげしげと眺めた後、最初の一発を銃に込める。

 

「とはいえ、わたしも銃の扱いはよく分からないのよね…ワイト、狙う上でのコツとかってある?」

「まあ、あるにはありますが…正直、言われてすぐやれるような、小手先の技術で何とかなりそうかと言われると……」

「そうよねぇ。正直、これ使うより魔法撃ち込む方が当たる可能性高い気もするけど…アイが先陣切って試したのに、わたしはやらずに無理だと言い切っちゃうのは格好悪いわよね」

 

 やれるだけの事は、とエスト様は構える。その構え方は、やはりと言うべきか素人のそれで…ただ、ちゃんと腋が締まっていたり、無駄な力が全身に入ってはいなかったりと、『武器』を扱う上での心得はしっかりと持っていた。

 そのエスト様による狙撃。見たところ、撃った瞬間に腕を動かしてしまう、というありがちなミスも少なく……それでもアイ様同様、全弾外れる。かなり惜しい位置に飛んだ弾もあったものの、景品に当たった弾は一発もなかった。

 

「…あっちゃー…案の定の結果とはいえ、やっぱりちょっと悔しいわね…射的といえば、当たったのに倒れないとか、倒れたけど落ちなかったから駄目とかがあるあるなのに、そもそも当たらないなんて……」

「距離が距離ですし、コルク銃も明らかに我々のよく知るそれではないようですからね。そう悪くない射撃だったと思いますよ」

「そッスよエスト。ルーザーはルーザーらしく、ここで大人しく見てるッス」

「えぇ…?…まあ、いいけど」

 

 何故か体育座りをし、隣をちょんちょんと指で指し示すアイ様に言われた通り、隣へちょこんと座るエスト様。そうする事の必要性…は恐らくないが、別段困る事でもないのだから、これには触れない事にする。

 

「ルナさん、次は君がやるかい?」

「え…っと、はい。私も、ちょっと試してみてもいいですか?」

「勿論」

 

 一つ頷き、コルク銃を渡す。するとルナさんは、早速弾を込めて銃を構え……うん?

 

「…ルナさん?」

「…あれぇ…?向きは合ってる筈なのに、スコープを覗くと見えなくなる…どうして……?」

「あぁ…覗く時に、ルナさんは少し銃を下げてしまっているね。構えたところに顔を近付けるんじゃなくて、顔へ銃を近付けてみるのはどうかな?」

「逆に、って事ですか?……あっ、見えました!」

 

 頭や上体の動きで、無意識に腕の角度が変わってしまうのは火器を扱う時以外でもあり得る事。私が指摘した通りに試してみると、ルナさんは景品を捉える事が出来たようで…ただ正直、アイ様やエスト様に比べると、不安感は否めない。

 

「よーし…これで後は肩に構えて……」

「いや、それって……」

「ルナー、それはキレイな顔をフッ飛ばす時の構え方ッスよー…?」

 

……まあ、うん…色々思うところはある…が、一方で私は期待もしている。技術ではない、『引き』の部分でルナさんなら何か起こすのではないかと、自分は思っている。

 そうしてお二人に突っ込まれて構え直したルナさんは、意識を集中させる。少し力が入り過ぎている気もするが…今の集中具合を思えば、気になる点があっても声は掛けない方が吉。そう思って私は見つめ…ルナさんは、撃つ。一発毎に一喜一憂しつつも、案外最後まで調子を崩す事なく撃ち切る。そして、撃ち終えたルナさんは…肩を落とす。

 

「だ、駄目だったぁ…うぅ、予想してたよりずっと難しい……」

「ルナでも駄目ッスか…外れたと思いきや、跳弾しまくってヒット…みたいなのを期待してたんスけど……」

「なんていうか…明後日の方向に飛ぶ訳じゃないけど、特に惜しくもない、コメントに困る結果だったわね……」

「うっ…そ、そうだけども……」

 

 誰に言われるまでもなく、ルナさんもアイ様エスト様の隣に移動。三名で揃って膝を抱える。お三人はそれぞれに試し、されど全員当てる事は出来ず…残るは、自分だけ。

 

「ファイトッスよワイト!ウチ等が体育座りトリオになるか、それとも体育座りカルテットになるかは、ワイトに懸かってるッス!」

「あ、はい。……さて」

 

 アイ様からの非常に独特なエールを受けつつ、前装式の銃にコルク弾を装填する。腕を持ち上げ、両脚で踏み締め、ゆっくりと構える。

 手に馴染む感覚はない。射撃の中でも特に難しい狙撃、それを慣れない武器で、一発本番で行うというのは、無謀が過ぎる。だが、そもそも軍事において想定外など日常茶飯事。それにお三人は、同じ条件でやってきた。ならば自分だけが尻込みなど、出来る筈がない。

 

(…そういえば、前にも狙撃を担った事があったな…。あの時は……)

 

 嘗ての事を思い出す。そして…小さく笑う。思えばあの時は、動く相手が目標だった。であれば、あの時も自らの務めを完遂した事を思えば、何も恐れる事はない。

 スコープに映るレティクルの中心に、的を捉える。それからお三人の射撃をそれぞれ思い出し、自分の勘と擦り合わせ、少しだけ腕を動かす。ゆっくりと息を吐き、息を止め……トリガーを、引く。コルクの弾丸を、狙撃として放ち──扉の上のぬいぐるみを、弾き落とす。

 

「あ…当たった……!?」

「流石ッスねワイト!大したもんッス!」

「えぇ、ほんとに凄いわ。やっぱりプロは違う……」

「皆様、お静かに。気が散ります」

『あ、ごめんなさい』

 

 失礼を承知で、ぴしゃりと制する。何回までチャンスがあるかというルールは示されていない。故に、リトライが許されない可能性もある。だからこそ…お三人の失敗を『情報』として活用させてもらっているからこそ、失敗などは出来ない。

 そう考える事で、自らを追い詰める。追い詰め、極限の集中を奥から引き出す。そして二発目も装填し、再び狙い……直撃させる。

 

「──三つ。……四つ」

 

 一発一発が勝負。私の集中を汲んでくれたお三人は一切の声を発さず、コルク銃を扱う音と、コルクが撃ち出される音だけが鼓膜を震わせる。撃ち続け、放ち続け……そうして残る目標は一つ。残った弾丸も一発。これが…最後の勝負。

 

「これで……仕舞いだ」

 

 体力と集中力の残りを全てここに注ぎ込む。それ位の気持ちで景品を狙い、ここだという位置を定める。そうして引き金へ添えた指に力を込め…最後のコルク弾が、発砲音と共に宙を駆ける。真っ直ぐに、一直線に、弾丸は景品へと伸びていき……だが僅かに、ほんの僅かに、狙いが逸れる。景品を芯で捉える事が出来ず、コルク弾が端に当たった景品は扉の上でぐらぐらと揺れる。

 詰まる息。最大級の緊張で締め上げられる心臓。背後からも、息を呑むような音が聞こえてくる。景品はぐらりぐらりと前後に揺れ、傾いた状態のままふっ…と止まり、そして……落ちる。

 

『……っ、はぁあぁぁぁぁ……』

 

 まるで今の今まで息をするのを忘れていたような、そんな勢いでお三人が息を吐き出す。…というか、自分自身も似たような吐息を漏らしていた。流石に今のは……ビビった。

 

「ひ、ひやひやさせないで頂戴…最後の最後で駄目かと思ったわ……」

「す、すみません…油断はしていなかったのですが……」

「けど…凄い、凄いですよワイトさん!全弾命中ですよっ!」

「ありがとう、ルナさん。けど、これはお三人のおかげです。この成功は、お三人の射撃を見る事が出来たからこそです」

 

 コルク銃を置き、振り返る。これは自分一人の成果ではないのだと伝えると、立ち上がっていたアイ様達は顔を見合わせ…機嫌良さそうに笑う。

 

「いやぁ、そう言われると悪い気はしないッスね。因みに一番参考になったのは誰ッスか?」

「参考、ですか…えぇと、強いて言えばアイ様ですが……」

「お、やっぱりッスか?早速名前を挙げられると、照れるもんッスねぇ」

「…いや、喜んでるとこ悪いけど、なんか言い方の歯切れ悪くない?ワイト、本当に参考になったの?」

「え、えぇ、参考になったのは間違いありません。……一番見事に、ある意味安定して外していたからこそ、コルク銃の癖を見抜く参考になったという意味ですが…」

 

 今一度言うか言うまいか迷った末、私は言った。結果、それまでご満悦だったアイ様の目が点になり……全員が沈黙する中、再び体育座りとなるアイ様だった…。

 

「こ、こほん。…さて、たった今全ての景品を落とした訳ですが……」

「…何も、起きないわね」

 

 間違いなく、自分は扉の上に設置された景品を全て落とした。勿論もっと探してみれば、扉の上以外にも景品があるのかもしれないが…そうなると、景品の数がコルク弾の数を超えてしまう。一発で複数落とす前提というのは…流石に、考え辛い。

 だとすれば、想定され得る可能性は二つ。一つは、別の条件に合致しなかった…例えば、挑戦出来るのは一人だけだったといった理由で無意味だったか、さらにそれ以前の問題…この射的が道を開く事に繋がるという考え自体が誤りだったか。何れにせよ、これが失敗であったのなら、いよいよ本当に手詰まりで……

 

「うーん……え、えっ!?あれ!?」

 

 そう、思っていた時だった。恐らくは、何気なく落ちた景品を取りに行ったルナさんが、全て拾い上げた瞬間……それまで何の反応もなかった扉が、開き始めた。

 単なる時間差か、それとも落とした景品を拾うところまでが元から必要だったのか。どちらであるのかは分からない。分からないが…扉は、開いた。その奥には、下へと続く螺旋階段がある。

 

「…行って、みますか?」

「勿論。だってその為に、わたし達は試行錯誤してたんだもの」

「だよね。…あ、でも待って!ぬいぐるみ…はまあ持っていく気はないけど、それでもどこかには飾ってあげないと可哀想っていうか……」

「ルナは優しいッスねぇ。そういうところ、良いと思うッスよ」

((あ、復活してる……))

 

 近くの屋台の台に景品のぬいぐるみを飾ったルナさんと、いつの間にか平常運転に戻っていたアイ様。お二人が合流し、我々は開いた扉を潜る。その先にある、階段へと進む。

 

「…………」

「……?ワイトさん、どうかしたんですか?」

「…いや、何でもないよ」

 

 機体の中、ふと縁日空間の方を振り返る。何かあった訳ではない。ただ、少し…ほんの少し、名残惜しさを感じただけ。

 

(…出来る事なら、何も気にせず…もう少し楽しんでもらいたいものだった、な……)

 

 今、それを思っても仕方のない事。進むべきであるのは言うまでもない。それでもふと…多かれ少なかれ苦労をしているであろうお三人や、別の場所を攻略している方々が、出来る事なら気兼ねなく楽しめれば…そんな風に思ってしまった、私であった。…やはり、なんだかんだで自分もこの空間を、面白い…と思っていたのかもしれない。

 

 

 

 

 時間が分からなくなる、分からない事すら気付けなくなる、かなりヤバげな事態を前に、一体どうしたらいいのか。そんな窮地を打開する為、我々ねぷ調査隊は森林の奥地へと向かった。

 

「うん、最後おかしいよね。既に私達、もうそのフェーズは終えて今は奥にあった建造物内部の調査と攻略をしてる最中だよね?」

「流れるような地の文読みと指摘…くぅっ、イリゼの突っ込みは沁みるなぁー!」

 

 ボケればボケるだけ突っ込んでくれるイリゼがいると、一体どれだけ楽しい事か。その楽しさを自分は噛み締め、ぐっと拳を握る。いやぁ、将来的には一家に一人イリゼの時代が来るかもね!

 

「私を量産でもする気!?」

「…あの、オリジンハート様…?貴女は一体、何に反応を……?」

「え?あ、いや…そっか、エリナにはまだ見えてないんだね……」

「……?」

 

 目を瞬かせ、ぽかんとするエリナちゃん。…冷静になってみると、なんで当たり前のように地の文が読めるようになってるんだろうね、自分達…。…って、普段からメタ発言よくする自分が言っても説得力ないか。

 

「盛り上がっているところに悪いが、また扉だ。見たところ、この扉以外に進む道はなさそうだな」

「ほんとに?実はガラス製の階段があったりとかはしない?」

「すると思うなら、探してみる事だな。行くぞ、二人共」

「あ、ちょっ!反応冷たいってー!」

 

 地の文にまで踏み込んでくれるイリゼとは対照的に、影君の反応は凄まじくクール。うーん、影君も時々突っ込んでる場面があったと思うんだけど…まあ、いっか。

 とかなんとか思っている内に、影君は扉に手を掛ける。特に何か言う訳じゃないけど、警戒しておけって雰囲気を発していて…静かに、ゆっくり、扉が開く。

 

「イリゼ」

「うん」

 

 即座に戦闘になってもいいように、自分はイリゼと揃って前に。開いた扉の向こう側、広がっているのは多分塔の中の光景で……

 

「……ええっと、これは…」

「…どゆ事?」

 

 中に入った自分達は、困惑する。だって、自分達が見たのは、外から見た印象通りの内装って感じでも、ダンジョン!って感じの光景でもなくて…広い空間と、その奥にある大きなステージだったんだから。

 

「…また、奇妙な場所だな」

「これって、イベントとかで使われるステージ…ですよね?どうしてこんなものが……」

 

 追って入ってきたエリナちゃんと影君も、怪訝そうな顔をする。二人の言葉に、自分達は首を傾げて……その次の瞬間、誰も触ってないのに扉が閉じる。あっ、不味い!…と思って自分もイリゼも扉へ向けて飛んだけど…ギリギリ、間に合わない。

 

「……っ、油断した…勝手に閉じる扉なんて、こういう時の定番なのに……」

「だね…こんなお約束的展開を忘れてるだなんて……」

「…そういうものなんです?」

「さてな。…というか二人共、今扉に激突しかけてなかったか……?」

 

 影君の言う通り、慌てて飛び込んだせいで自分もイリゼも危うく扉へヘッドバットするところだった。…まあ、それはともかく…閉まった扉は、思いっきり押したり引いたりノックしたりしてみても、ぴくりとも動かない。斬れるかどうか試してみようかとも思ったけど、どうせ無駄だろうと影君が止める。

 

「目一杯力を込めても揺れすらしない時点で、力技は通用しないだろうさ。それより考えるべきは……」

「ステージの事、だよね。あれに何か、脱出なり先に進むなりの糸口があるかもしれないし」

 

 そう言って、イリゼと影君がステージへ歩いていく。自分とエリナちゃんも頷き合って、奥のステージを調べてみる。

…けど、これは先に教えちゃうね。調べた結果…特に変なところはなにもありませんでした!普通のステージでした!…まあ、普通のステージがどんなものか説明出来るかって言われたら、多分難しいけど…。

 

「うぅん…これは、って思うようなものは何もないですね…。というか、そもそも何故こんな所にステージが……?」

「まあ、それを言ったらこの建造物自体がなんでこんな所に?…って感じだしね。…ところで、ステージってなるとあの時の事思い出さない?」

「あの時…って、仮想空間で最後に歌った時の事?」

「そうそう。実はねエリナちゃん、さっき外で話した仮想空間での戦いの後に、自分達は……」

 

 あの時は楽しかったなぁ、と思いながら、エリナちゃんに話をする。するとその最中、「訊かれる前から自然に伝えるなんて…こういう時のネプテューヌって、ほんと気遣い上手だよね」とか、「だな。本人は何気なくやってるんだろうが」…みたいなやり取りが聞こえてきて…やー、照れるね。…多分二人の言う『ネプテューヌ』は、自分だけを指してる訳じゃないんだろうけど…さ。

 

「ライブ、ですか…女神様がそんな事までするなんて、驚きです」

「まあ、切っ掛けは色々あるんだけど…やっぱり、楽しいし嬉しいからね。皆に見てもらえて、盛り上がってもらえて、見てよかった…って思ってもらえるのは」

「いやぁ、やっぱり守護女神の言葉は違うねぇ。よっ、格好良いよイリゼ!」

「何を言っているんですかパープルハート様。パープルハート様も、とびきり格好良いですよ」

「ふっ、知ってるんだなーそれは!…そうだ、折角だし自分の美声を聞かせてあげるよ!」

「い、いいんですか!?」

 

 真顔で賞賛してくれるエリナちゃん。でもそれは褒めるっていうより、当たり前の事を言ってるみたいな感じで…嬉しいような、でもなんかむず痒いような感覚を抱いた自分は、だったら…と歌う事を提案。するとエリナちゃんは、目を輝かせくれる。うんうん、やっぱりこういう反応してくれた方がこっちも気分が上がるよね。

 

「って訳で、ちょっと歌ってもいいかな?」

「あー…まあ、いいんじゃないかな?エリナも凄く聴きたそうだし。影君はどう?」

「構わん。現状じゃ何も情報を得られてないが…こうもあからさまにステージがある以上、仮に何かを隠す為のフェイクだったとしても、取り敢えずステージをステージとして使ってみるところから試した方が良いだろうしな」

 

 二人からもOKを貰った自分は、ステージの真ん中へと走る。それから観客席(?)の方を向いて…胸に手を当てる。

 

「こほん。ねーねー、ねーぷーぷー」

「え、な、何?突然何?」

「何って、発声練習だけど?」

「ず、随分独特な発声練習だね…」

 

 良い歌を歌うには、準備が必要。特に誰かに聴いてもらうなら、上手く歌いたいものだしね。

 そうして喉の調子を整えた自分は、観客席に移動したエリナちゃん達に視線を送る。ゆっくり一つ深呼吸をし……言う。

 

「それじゃあ聴いて下さい!革命デュアリズム!」

『何故デュエット曲を!?』

 

 突っ込みを受けながら、熱唱スタート。演奏なんてないから、完全アカペラだけど…歌い始めちゃった以上、途中で止めるなんて格好悪い真似は出来ない。だからわたしは、どっちのパートも完全に歌いきり…ふぅ、と一つ吐息を漏らす。

 

「…どうだったかな?」

「どうって…勿論ばっちりだったよ、ネプテューヌ!」

「…まあ、悪くはなかったんじゃないか?」

「でしょー?これがプラントの歌姫やパレード星人と同じ声帯を持つ自分の実力だよっ!」

「前者はともかく、後者は言う必要あった…?」

 

 熱唱した後のすっきり感を抱きながら、胸を張る。これならきっとエリナちゃんも喜んで…って、あれ?そういえば、エリナちゃんの反応がないような…?…と、思って視線をもう一度観客席の方へ向けると……

 

「…う、うぅ……」

『な…泣いてるぅぅぅぅぅぅっ!?』

 

 まさかの、感涙ぽろぽろ状態だった。い、いや、うん…エリナちゃんの事だし、盛り上がるってより感動する可能性はあるんじゃないかなー?とは思ってたよ?思ってたけど…自分が今歌ったの、そういうタイプの歌じゃないよ…!?

 

「す、すみませんパープルハート様…パープルハート様が、私の為に歌ってくれたんだって思うと、感激する気持ちが止まらなくなって……」

「あ、謝る事はないよ…?なんであれ、良い歌だったと思ってもらえれば自分は嬉しい──」

「あ、ごめんなさい…割と序盤で感激が溢れて、正直歌はあんまり聞こえてませんでした……」

「え、えぇー……」

 

 別に怒りはしないし、怒るような事でもない。ほんと、そういう事ではないけど……何かこう、凄ーく複雑な気持ちになる自分だった。

 

「あはは…まあ、喜んだ事には変わりない……って、うん?」

 

 苦笑いをしていたかと思えば、急に目を瞬かせたイリゼ。何だろうと思って自分が首を傾げていると、エリナちゃんや影君も似たような表情を見せる。その顔で、自分を…っていうより、自分の後ろをじっと見ている。そして、気になった自分が振り返ると、そこにあった大型スクリーンに幾つかの色が浮かび上がっていた。

 真っ赤が一つに、それよりは薄い赤が二つに、薄っすらとした赤が一つ。ふむふむ……え、何これ?

 

「これは…何か装置が作動してるのかな?別に、もっと近くか遠くで見たら何かの形に見える…みたいな事もない、よね?」

「なさそうだな…何かの評価か?まあまだ、ネプテューヌの歌とは無関係という可能性もあるが……」

「評価…って、カラオケの採点システムみたいな?」

 

 自分としても、思い付いたのはエリナちゃんが言ったアレ。点数じゃなくて色で表示するなんて見た事ないけど…この感じだと、何かの評価はばっちりって感じかな?…多分。

 

「もしそうだったら、全部が真っ赤になったら何か起きそうだよね。よーし、もう一曲歌ってみるね!」

 

 という訳で、もう一度自分はアカペラで歌う。さっきはちょっと突っ込みを期待した選曲だったけど、今度は自分的に得意だと思える歌を選んで、全力で歌う。すると、なんと、色は!

 

「…あまり変わってないな」

「色の表示がきっちり四つに分かれてるみたいだけど、位置含めてぱっと見の変化は殆どないね…」

「あれぇ…?さっきより上手く歌えた自信があったんだけどなぁ…」

「…これ、実は全部真っ赤になったら…ではなく、一曲目も二曲目も今表示されている色が評価する上での上限…という事はないですか?それなら、どっちもパープルハート様が満点かそれに限りなく近い結果を出していたと解釈出来ますし」

「言いたい事は分かるが、その場合『何か起きそう』が満たされなくなるな。…まあ、なんであれ現状じゃ参考になるケースが少な過ぎる」

「確かにまだ二曲しか歌ってないもんね。じゃあ、もう何曲か歌って……」

「待った。もっと情報を欲しいって事なら、『何を』歌うかだけじゃなくて、『誰が』歌うかも着目するべきじゃない?」

 

 そう言って、イリゼもステージに上がってくる。さてはイリゼ、自分も歌いたくなったんだね?…と言ったら、イリゼは軽く笑って「あはは、バレた?」…と答えた。うんうん、こういう素直さはイリゼの良いところだよね。

 って事で、自分はイリゼとバトンタッチ。イリゼは少しの間考えて…それからよし、と小さく呟く。

 

「影君。曲を流せる機材ってなかった?」

「あったな。動かしてみるか?」

「あ、なんだあったんだね。……あったの!?あったなら言ってよ!?」

「…なんだ、普通にアカペラで歌い出したから、てっきり曲なしで歌いたいものかと……」

「それは普通に考えて少数派だよ!?た、確かに確認しなかった自分も悪いけどさぁ……!」

「だ、大丈夫ですパープルハート様!パープルハート様のアカペラは、文句の付けようがない程のものでした!いやむしろ、アカペラだからこそ純粋な、100%混じり気のない美声を拝聴する事が出来たとも言えます!そしてその結果を導いた事こそ、意図的ではなくともパープルハート様の聡明さが云々……」

 

 まさかの無駄アカペラという事実に、自分はがっくりと肩を落とす。エリナちゃんが即座にアカペラであった事の良さを語って励ましてはくれたけど、ショックなものはやっぱりショック。…というかエリナちゃん、段々某全然悪くない自称不良少女っぽくなってきてない…?

 

「はは…いや、ほんとにエリナはネプテューヌへの信仰が篤いんだね……」

「勿論です。オリジンハート様もご立派な女神様だとは思いますが、やはり自分にとってはパープルハート様が一番なんです。…たとえ、私がこれまで見てきたのは違うお方だとしても」

「そっかそっか。ふふっ、エリナにそう思ってもらえるエリナの次元のネプテューヌが羨ましいな」

 

 真っ直ぐ見つめて言うエリナの言葉に、イリゼは柔らかな笑みを見せる。その表情は、凄く朗らかで…気になった自分は、訊く。

 

「…嬉しそうだね、イリゼ」

「それはそうだよ。それが自分に向けられたものでなくても、『女神』を心から信仰してくれる人がいるっていうのは心地良いものだし…何よりエリナが、自分の思いに対して胸を張ってる事が伝わってくるもん」

「……こういうとこだよねぇ。イリゼの良いところって」

「ですね」

 

 悪意や敵意剥き出し…って言葉があるけど、それっぽく言うなら、イリゼから感じるのは剥き出しの善意。多分これを素で、本気で嬉しい事って考えているんだから…凄いよね、ほんと。

 

「それじゃあ影君、ちょっと流せる曲を見せてもらえる?その中から歌えそうなの歌ってみるから」

「あいよ」

 

 軽く答えた影君と一緒に、イリゼは一度ステージの裏へ。少ししたところで戻ってきて、そのイリゼが合図を出したところで音楽が流れ始める。

 

「さぁて…いくよ!」

 

 ふっ、と表情を引き締めて凛々しい顔付きになったイリゼは、イントロが終わる直前でばっと腕を上げる。そこから曲に合わせて、歌うのは勿論踊りも入れる。自分も歌っている間は楽しい気持ちでやっていたけど、イリゼも見るからに楽しんでるって感じで…でも、そういうのって大事だよね。楽しそうな人を見ると、自分も楽しくなるものだし。

 

「…ふぅ、どうだったかな?」

「ひゅーひゅー!イリゼいいよー!」

 

 そうして歌い終えたイリゼの問い掛けに、自分はテンション高めで答える。エリナちゃんも拍手をしていて…影君はステージの横から腕を組んで見ていた。 …なんか、雰囲気がマネージャーとかプロデューサーのそれな気がするんだけど……。

 

「ありがと、二人共。評価?…の方は……うん?」

「真っ赤ではない濃いめの赤が二つに、それより薄い赤が二つ…さっきとは違う結果ですね」

「という事は、誰が何を歌っても同じような結果になる訳ではないのか。…真っ赤はないが、かなり薄い赤もない…可もなく不可もなし、みたいな感じだな」

「そ、そこはバランスが良いって言ってよ…もう一曲試してもいい?」

 

 それは勿論、って感じに自分達は頷いて、イリゼは二曲目を歌う。二曲目はさっきよりもアップテンポな歌で、踊りも激しめ。そんな二曲目も、イリゼはしっかり歌いきって……でも自分の時と同じように、結果は一曲目と似たような感じだった。

 

「うーん…これって、同じ人が歌っても評価は大して変わらないシステムになってる、って事なのかな……」

「そうかもしれないが、断言するのはまだ早いな。連続ではなく間に誰かを挟んで歌った場合、難易度の高い曲を歌った場合、敢えて下手に歌った場合…判断するなら、最低限その辺りも試してからの方がいい」

「というか、二曲ともしっかり踊ってましたよねオリジンハート様。これって、アドリブ…ではないですよね?」

「まさか。どっちの曲も個人的にやった事があったから、知ってた…ってだけだよ。得手不得手とは別に、色んなジャンルの曲や踊りをやっておくのは無駄にならないだろうからね」

「もう完全にアイドルの思考だねぇイリゼ。じゃ、今影君が言ったのとか他にも思い付くような事、一先ず色々試してみる?」

 

 考えていても仕方ないし、と自分はまだステージに上がる。影君に曲を流してもらいながら、イリゼと交互に片っ端から試す。

 最初はそのつもりなんてなかったけど、段々イリゼと勝負してる感じになって、少しずつ熱くなっていった。イリゼもノリが良いから、楽しく競い合う事が出来た。けど、それがスクリーンに表示される色へ影響を与えたかっていうと、正直微妙なところで……。

 

「ふぅ、ふぅ…あー、また同じような結果ぁ……」

「駄目だね…ほんと、多少の変化はあるけど多少しか変化しないっていうか……」

「気になるのは、下手に歌った場合でもそこまで色が薄くならなかった事ですよね…勿論全体的に薄くはなっていましたけど、普通の採点システム的に考えるなら、もっと変化してもいいような……」

「…………」

 

 自分はどうしてだろうと首を捻り、イリゼとエリナちゃんは腕を組む。影君は考え込んだまま、何も言わない。

 こうなってくると、もっと試してみれば…って訳にもいかない。歌うのだって体力を使うし、女神だって歌いまくればその内喉は枯れる(筈な)んだから。つまりここからは、取り敢えずじゃない試し方をしなくちゃいけなくて……

 

「…ネプテューヌ。ここは一つ、エリナに試してもらうのはどうかな?」

「へ?わ、私ですか?」

「うん、それは自分も思ってた。どうかな?エリナちゃん」

 

 これまで試してきたのは、自分とイリゼだけ。だからエリナちゃんに試してもらうっていうのは普通の事だと思うんだけど…エリナちゃんは、首をぶんぶんと横に振る。

 

「そ、そんな…!私はパープルハート様やオリジンハート様の様に上手に歌う事なんて……」

「大丈夫だよ、エリナ。歌の上手い下手は関係なさそうだっていうのは、もう分かってる事なんだから」

「け、けど……」

「まあ、人前で歌うのって緊張するよね。だけど…イリゼも言った通り、大丈夫だよ。ここにはエリナちゃんの歌う姿を笑うような人なんていないんだから」

「パープルハート様……」

 

 そうだよね?と自分が視線を送れば、イリゼは勿論、影君も頷く。自分を、それから二人を見たエリナちゃんは、呟いた後に一度黙って……その瞳に、やる気が灯る。

 

「…これは、遊びじゃないんですもんね…分かりました。私も、やってみます!」

「うん、その意気だよエリナちゃん!……遊びじゃないって言われると、楽しんじゃった自分的にはちょっと後ろめたいけど……」

「それは、まあ…同感……」

 

 駆け出し、ステージに登るエリナちゃん。すぐに影君に流せる曲を見せてもらって、一曲選んで…エリナちゃんは、歌い始める。

 緊張を感じる、エリナちゃんの歌声。人前っていうのは勿論だけど、やっぱり自分が見ている前だから…っていうのもあると思う。でも、だからって聴かないようにするとか、そんな事はしない。だって、エリナちゃんは頑張ってるんだもん。なら、聴かないようにするなんて、むしろ頑張るエリナちゃんに失礼だもん。

 

「…なんか、良いね」

「だね、良い」

 

 呟くように言ったイリゼに、自分は同意する。謙遜してた割には普通に上手だったし…やっぱり一生懸命にやってる姿は、良いって思う。

 そうして、エリナちゃんは歌いきった。最後まで歌ったエリナちゃんに、自分とイリゼは拍手を送る。

 

「はぁ…はぁ…け、結果は……!?」

 

 ばっ、とエリナちゃんは振り向く。自分達も、後ろのスクリーンに目を向ける。するとそのタイミングで、またスクリーンには色が表示される。

 映った色は……濃い赤二つに、薄い赤一つに、その中間位の赤が一つ。なんていうか…イリゼの時と、大きくは違わない感じの結果。その結果を見て、エリナちゃんと影君は黙る。自分とイリゼは顔を見合わせて……そして、言った。

 

『あー…やっぱりかぁ……』

「えぇぇ…!?い、いやまあ、目を見張るような結果ではないと私も思いましたけど…や、やっぱりって……」

 

 うん、やる気にさせておいて悪いとは思うよ?思うけど…正直、「エリナちゃんがやったら驚きの結果に!」ってなる可能性より、「エリナちゃんも多分自分達と似た結果に……」って可能性の方が高いと思ってた自分達的には、本当に予想通りな結果だった訳で……つい、本音が漏れてしまった自分達だった。…いや、ほんと歌そのものは良かったんだよ?読者の皆も、それは勘違いしないでね?




今回のパロディ解説

・「〜〜どこぞの杉崎家〜〜」
生徒会の一族シリーズの主人公、杉崎鍵の実家の事。ソファ下からバズーカが出てくるのが生徒会の一存で、長椅子の下からコルク銃が出てくるのがOTです。…いや、実際は長椅子じゃないんですけど。

・「〜〜キレイな顔をフッ飛ばす〜〜」
覇王♡愛恋に登場するキャラの一人、世界一腕の立つ殺し屋の台詞の一つの事。でも実際、ルナは銃の知識がないので変な構え方になりそうです。前二人のやる姿見てなかったの?…という話でもありますが。

・〜〜そんな窮地を〜〜奥地へと向かった
水曜どうでしょうの企画の一つ、探検隊シリーズにおける代名詞的なフレーズのパロディ。ネタにされる事も多いこれですが、意外とこれまで使った事はなかった…気がします。

・「〜〜実はガラス製の階段があったり〜〜」
カイジシリーズにおけるギャンブルの一つ、電流鉄骨渡りにおける要素の一つの事。当然そんなものはありません。普通に目の前の扉を開けて進む事が出来ます。

・「〜〜革命デュアリズム!」
歌手である水樹奈々さんこと近藤奈々さんとT.M.Revolutionによるデュエット曲の一つの事。でも、落ち着いて考えたら別にデュエット曲を一人で歌っても特に問題はないんですよね。

・「〜〜プラントの歌姫やパレード星人と同じ声帯を持つ〜〜」
ネプテューヌ(原作シリーズ)の声優である、田中理恵さんの事。因みにプラントの歌姫はガンダムSEEDシリーズのラクス・クライン、パレード星人はストレッチマンのまいどんの事です。

・〜〜某全然悪くない自称不良少女
ばっどがーるの主人公、優谷優の事。KING OF EVILというフレーズがありますが、これを聞いて新日本プロレスのKING OF DARKNESSこと、EVILさんの事を連想した私です。
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