超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
どっかしらで戦いになるだろうとは思っていた。根拠がある訳じゃなく、何となくの勘でそう感じていた。そしてその通り、戦いになった。
そんな気がすると思っていたから、そこまでの焦りはない。むしろ妙な事が続くよりは、戦いの方が分かり易くていい。そう、考えているのは事実だが……思うように戦えない、今の姿で飛べないってのは…思った以上に、大きい。
「ちッ……!」
「むー、やりづらい〜!」
ばかすかと撃ってくる火球を、微妙な力加減で跳んで避ける。大きく跳び過ぎれば滞空中を狙われ、逆に抑え過ぎると爆ぜる炎に巻き込まれる。飛べりゃ幾らでも避けられるが、翼が出てこないんじゃどうしようもない。…ピーシェの言う通り、やり辛い。これまではあって当たり前だった飛行能力無しでの立ち回りを、強敵相手にいきなり強いられるのは流石に厳しいものがある。
「とにかくまずは機動力を削ぐわよ!ディーちゃん!ルナ!エリナ!」
相手の後方に回ったエストとディールの烈風魔法。広範囲に広がるその攻撃に続く形で、ルナとエリナもそれぞれ別の位置から電撃の魔法を撃ち込む。風で動きを鈍らせて、電撃で羽をぶち抜いてやろうってのが、四人の狙い。
だが、電撃は外れる。そいつは風をものともしない羽ばたきで素早く躱し、火炎放射で薙ぎ払ってくる。本当に速ぇな…それに、視野も広い……ッ!
「そうは……」
「させないよッ!」
広がる炎で四人を飲み込もうとする中、今度はイリゼと茜が仕掛ける。二人は跳んで左右から斬り掛かり…二人の長剣と大剣も、あっさりと躱される。躱されるが…こっちだって、そんな事は予想済み。避けるのを見越してワンテンポ遅く跳んでいたセイツが、回避先へと刺突で飛び込む。更にウチとビッキィも跳んで、先んじて避けられる場所を潰す。
向こうは図体がデカい割に速いが、デカいっつー事実は変わらない。そしてデカけりゃデカい程、隙間を縫うような躱し方は難しくなる。まだまだ向こうの底は見えちゃいないが、少なくともこの位置取りで楽々避けられるなんて事は……
「──なッ!?」
そう、思っていた次の瞬間、巨大の姿が眼前に現れる。勿論瞬間移動した訳じゃねぇ。ただ、ウチが回避先を塞いでいるのを全く意に介さないような勢いで突っ込んできて、そのままウチは弾き飛ばされる。何とか突っ込んでくるのに合わせて一発蹴ってやったが、碌に威力が乗ってない事は脚に伝わる感覚で明白。
吹っ飛ばされ、ウチは落ちる。翼がないせいで、宙に留まる事どころか減速する事も出来ない。出来る事といえば、受け身を取ってダメージを減らす事位で……だが、覚悟していた衝撃も、痛みも伝わってこない。あったのは、硬い何かに包まれる感覚と…ワイトの声。
「ご無事ですか?アイ様」
「…へっ、いつも頼りにしかならねーな」
咄嗟に動いてくれたのか、こうなる事も想定していたのかは分からねーが、ワイトは吹っ飛ぶウチと速度を合わせて、機体の腕でウチを掴んでくれていた。
そのままワイトは一度後退し、フォローするようにネプテューヌとピーシェが前に出る。ウチは大丈夫だって事を伝えて、手の中から降りる。
「遠距離攻撃一辺倒かと思いきや、速度を活かした突進も強いとはね…愛月君!トレーナーとして、君はこの相手をどう見る?」
「え!?あ、えっと…見た目的に、岩のタイプの攻撃が出来れば四倍位のダメージが入りそうかもです!」
「はは、同感だよ。そしてこの存在の呼び名がないのは不便だ。という訳で、炎を纏う鳥ならぬ、炎を纏う虫という事で、フェニセクトとでも呼ぶのはどうかな?」
「ちょっと…!?不死鳥の名前をモチーフにするのはどうかと……きゃっ…!」
幾つもの旋風を生み出し、それを攻撃ではなく撒き散らされる炎への盾としてズェピアが四方八方へ展開する中、発言に対してイヴが突っ込む。そのイヴは火球を躱しながら銃撃をしていたが、爆ぜた火球が放つ熱風に煽られて姿勢を崩す。そこを愛月のフロストが…というよりフロストの吐いた水流がカバーしてくれたおかげでイヴは追い討ちを掛けられる前に立て直せたが…バトルスーツを展開出来ねーイヴは、恐らくウチ等以上に厳しい状況。
だが、一旦逃げて作戦を…なんて事も、今は出来ない。この素早い存在…フェニセクト相手に、飛べないメンバーばかりで螺旋階段を駆け上がって一時撤退ってのは、流石に現実的じゃない。
「数で押し切る事は出来ない、か…ならやる事は一つだ。体力に自信のある面々に頼みがある!」
「何かしら、影!」
「とにかく喰らい付いてくれ、その間に攻め方と隙を見極めたい」
イヴと同じく銃撃で戦う影が、セイツに答える形で放った言葉。高速で飛び回り、炎を撒き散らすフェニセクト相手に喰らい付いていけっつー、シンプルで分かり易い無茶振り。
それにウチ等は、顔を見合わせる。避けながら、一瞬視線を交わらせ…そして、動く。
「そういう事なら…任せて頂戴!」
「なら、ファングも行って!」
「支援します…!」
真っ先にネプテューヌが跳んで、ウチ等も続く。ディールの声が聞こえた直後、後ろから遠隔攻撃が次々と飛ぶ。
仕掛けるのは、ウチにイリゼ、セイツにピーシェ、ネプテューヌにビッキィ…そしてワイト。多けりゃいいってもんじゃない。むしろごり押しで喰らい付ける相手じゃねーからこそ、支援の方も重要になる。……まあ、ウチは支援に回る事なんざ殆どねーから、そう思うってだけだけどな…ッ!
「ピーシェ様!ネプ姉さん!」
「うんッ!」
「えぇッ!」
両腕を振り抜きビッキィが手裏剣を打つ。それに合わせてピーシェとネプテューヌが跳び、鉤爪と大太刀で左右から挟撃。飛んでくる手裏剣を火球で飲み込んだフェニセクトは、挟撃も鋭いターンであっさり躱す。避けられた二人に火炎放射が迫り…けど焼かれる寸前、ピーシェとネプテューヌはお互いを突き飛ばす事で、飛べないままに火炎から逃れる。
「流石二人共、機転も判断力も冴えている。であれば、私達も負けていられないな…ッ!」
「はッ、別に競うつもりなんざないんだけどな…ッ!」
火炎の下を潜り抜ける形で突っ走り、ウチは接近。イリゼがシェアエナジーで精製した短剣を撃ち込みながら迫るのに合わせて、ウチも跳躍。真下から、突き上げる形で飛び蹴りを放つ。
タイミングは悪くなかった。それでもウチの蹴りも、イリゼの射出も避けられる。宙に上がったウチは、またフェニセクトから狙われる。…が、そんな事は予想の範疇。避けられたウチは身体を捻って姿勢を変え、まだ飛んできている短剣の内二本を両手で掴み、火球より一瞬先に投げ放つ。更にウチの投擲を読んでいたように、イリゼが側面から斬撃を合わせる。イリゼの想定通りに動いてた、っつーのはちょっとばかし癪だが…威勢の良い事を言うだけはあるな…!
「畳み掛けるわ!ワイト!」
「合わせます…!」
また、避ける。だが今度は、反撃自体は潰せた。落下するウチ等と入れ替わる形でセイツが飛び込み、反対側へ回り込みながらワイトが射撃を仕掛ける。ワイトの射撃はばら撒くもの。さっきウチとビッキィがやったのと同じ、回避を抑制する為のもの。対してフェニセクトはといえば…そのばら撒かれた弾丸を無視してセイツを躱す。図体の割に速いフェニセクトは、速い割に脆い…って訳でもないらしい。
ただ、それもまたセイツ達の読み通りだったらしい。大剣状態で斬り掛かっていたセイツは、そのまま流れるように斬っ先を避けたフェニセクトへ向け、圧縮シェアエナジーを撃つ。フェニセクトが撃っていた火球とシェアエナジー弾はぶつかり、激しく炸裂。衝撃波が起こる中、ワイトの射撃がフェニセクトを狙う。
「私達も合わせるわよ!」
「う、うん!」
そこへルナとエリナの魔法が続く。着地したウチは、すぐにまた走り込み…声を上げる。
「ちょっと肩借りるぞ、ファング!」
「ぐぁう!」
丁度良いところにいたファングへ飛び込み、肩を足場に再び跳躍。四方八方飛び回るフェニセクトよりも高い位置まで飛び上がり、脚を振り出して上下反転。そこから狙いを定めて…オーバーヘッドの要領で、シェアエナジーの斬撃を蹴り込む。
「ルビー・アマリリス!」
「32式エクスブレイド!」
『アイスコフィン!』
大剣と氷塊。ウチの斬撃と同じ、シェアエナジーの遠隔攻撃が宙を掛ける。どれかが囮で、どれかが本命…なんて事はない。それぞれが読んで、示し合わせなしに読みを重ねた、四重の本命攻撃。個々でサイズも速度も違うからこそ、一瞬で性質全てを見切り、回避ルートを導き出すのは困難。
そしてウチが見込んだ通り、ウチ螺四人の…いや、ここまで積み重ねてきた連携と猛攻が、フェニセクトの回避能力を超える。斬撃を避け、大剣を躱し、ディールの氷塊も回避しやがったフェニセクトだったが、遂にエストの氷塊が軌道に捉える。その巨体へ、氷の魔法が直撃し……フェニセクトは、燃え盛る炎に包まれる。
「……!これって、もしかして急所か何か……」
「──ううん、それは違うよ!」
期待を帯びた愛月の声。それを否定する、茜の返し。初めは違うという茜の言葉が分からなかったが…すぐに全員、その意味を理解する。
氷塊が直撃した、それは間違いない。炎に包まれたのも事実。だが…その炎は、防御の為のものだった。全身に纏った炎が、直撃した氷塊にも広がり、飲み込むように溶かしていく。
一度炎が氷塊をも包んでからは、あっという間。氷塊は溶かし尽くされ…最初に現れた時の様に、再び炎の中から姿を現す。
「…ふん、やってくれるじゃない。だったら……」
「…いや、待て。全員、そのまま聞いてくれ…!」
「そのままって…まあ、持ち堪えながらって事だよね……!」
面白くなさそうに鼻を鳴らしたエストを、影が声で制する。その言葉でウチ等は意図を理解し、イリゼの言うように耳を傾けながら攻撃続行。
「ここまでの攻防で、幾つか分かった。まず、フェニセクトは遠近共に隙がない。このレンジで攻めれば…なんて考えは通用しないだろう」
「でしょうね…!ピーシェ様、援護します…!」
「次に、生半可な攻撃は全て避けられるだけだ。これに関しては、仮に全員が万全の力を発揮出来たとしても恐らく大して変わらない。全く、見た目から連想する通りに素早いな」
「同感よ。悔しいけど、今の私じゃ追い付けないわ」
ビッキィとイヴが、それぞれに返す。それを聞きながら、ウチはフェニセクトの正面へ走り込んで注意を引く。攻撃を引き付ける形で皆のアシストをし…影は、更に話す。
「隙がなく、速く、仮に攻撃が届いても防御策まである。はっきり言って、すこぶる厄介だ。厄介だが…結局のところ、フェニセクトは純粋にスペックが高いだけだ。訳の分からん事をしてくる訳でもなければ、概念的な何かを操っている訳でもない。だったら、やりようはある」
「見かけの強さに騙されるな、その本質に注目せよ…という事か。成る程、確かにそうだね。して、具体的には?」
「その前に一つ、試しておきたい事がある。イリス、頼めるか?」
「任せて」
試したい事。その言葉に続く形で呼ばれたのは、ここまでずっと待機をしていたイリス。任せてという返したイリスは、真っ直ぐフェニセクトへ駆けていく。
何をするか分からない。だが、狙いがあるなら援護するのみ。ウチ等は連撃を仕掛け、イリスが狙われないようにする。同時に逃げられないよう、目一杯喰らい付く。そして、ある程度の距離まで近付いたイリスは……言う。
「初めまして。イリスはイリス。貴方の名前は?フェニセクトと呼んでも──」
「フロスト!」
「イリスちゃんッ!」
見上げたイリスが発したのは、まさかの自己紹介と質問。当然フェニセクトが自己紹介を返すなんて事はない。その自己紹介に対して返ってきたのは、イリスを見据えた直後の火球で……それがイリスに到達する直前、愛月の声に続く形で床に氷のラインが引かれる。更にそこを、イリゼが駆け抜け…イリスを抱いて、火球から逃れる。
「影、駄目だった。フェニセクト、何も答えてくれなかった。…声、聞こえない」
「そのようだな。前の時みたいに、イリスが何か情報を得られるなら…と思ったが、無理なら無理で仕方ない。むしろ、イリスが意思疎通出来ない事そのものが、一つの情報だと見るべきか…」
「うん、冷静な思考をするのは良いけど、落ち着いてるなら事前にもっとちゃんと説明してくれないかな…!今のかなりギリギリだったんだよ…!?」
「…フロストのサポートがあれば、イリゼなら大丈夫だと見込んだ上だったんだがな」
「イリスもそう思っていた。ありがとう、イリゼ」
「こっちこそありがとう!私が言いたいのはそういう事じゃないけど、ねッ!」
氷のラインが途切れると共に跳んで着地したイリゼは、イリスを降ろすとすぐにフェニセクトへ向かっていく。イリスは自分じゃ真っ向からぶつかるのは無理だと理解しているのか、すぐに退避し距離を取る。
「えー君、それじゃあ改めて聞かせてくれる?えー君が、どうやって倒そうとしてるのかを」
「ああ。色々と考えたが…所詮スペックが高いだけなら、ごちゃごちゃと考える必要もない。だから、単純に、確実に──それ以上の力で、押し潰すぞ」
そうして影は語る。言葉にしてしまえば簡単な、確かに単純な作戦を。押し潰す為の、『力』の一手を。
必要なのは、時間と準備の邪魔をされない事、即ち気取られない事。こっちの狙いに気付かれちまえば、気付かれずとも準備の最中に集中攻撃を受けちまえば、成功は遠退く。
「うぅ、出来るかな…これまでも色々皆と連携はしてきたけど、今回のは特に難しそうっていうか……」
「私も正直不安だわ。こういう事は、初めてだし……」
「安心し給え、ルナ君、エリナ君。難易度の高い事だからこそ、私と茜君が二人掛かりで観測し、同じく私と影君の二人掛かりで構築、調整の為の計算を常時し続けるんだ。だから君達は、全力を出す事に専念してくれれば大丈夫だよ」
「フロストに話す時は、イリスが伝える。イリス、フロストとファングなら、沢山お話し出来る」
「うん、フロストは任せるよ。僕もその間は、ファングの指示に専念するからね」
後方から聞こえる打ち合わせ。あっちがここからの、勝利への主役。そして、あっちに加わらないウチ等の役割は…これまでと、変わらない。
「さぁて、インテリジェンス溢れる芸当はからっきしなわたし達は、身体使って時間を稼ぐわよ!」
「おーっ!」
「なんでそんな卑下するような言い方すんだよ…ピーシェも乗るなよ……」
「…言っておくけど、自分も少しは向こうみたいな芸当も出来るわよ?」
「いや別に、皆セイツの発言を間に受けてはいないと思うけど……」
大きく後方宙返りを掛けて火炎放射から逃れたネプテューヌが、着地し構え直しながら言う。イヴが弾倉を入れ替えながらも突っ込みを入れる。
インテリ云々はともかくとして、こっちだって重要な役目。作戦が上手くいくかどうは向こう次第だが、作戦が実行出来るかどうかはウチ等次第。…まあ、より適してる面子がいるからこっちに回ったってだけで、ウチもやろうと思えば力技以外も出来るけどな。
「皆さん、こっちも急ピッチで準備を整えます。だから……」
「それまでの間、お願いします…!」
『応ッ!』
準備を始めると共にこちらへ声を送ってきたビッキィとディールへ、ウチ等全員で言葉を返す。既にイリゼとワイトは突撃している。機体の巨大さを活かして向こうを背に隠しつつワイトは斬り掛かり、避けられたとなれば即座に後退。入れ替わる形で跳躍していたイリゼが大上段斬りを仕掛け、回避を前提にそこへセイツが回り込む。これも十中八九避けられる。その前提でウチも走り、予想通りセイツの攻撃を急降下で躱したフェニセクトへ向けて、勢いそのままに回し蹴りを放つ。
こっからは体力勝負。準備が間に合うか、それまでに集中力かパフォーマンスが落ちてフェニセクトを抑え切れなくなるかの二択。ウチ自身で勝負を決められない事へのもどかしさはない。
ウチが決められなくても、味方がきっと決めてくれる。その為のアシストが出来る。任せる事は任せて、任された事に全力を尽くす。…それが、協力ってもんだ。そういう戦い方も出来て、そういう勝ち方を望めるってのが……仲間ってもんだ。
*
単純に強い相手を、単純により強い力で押し潰す。作戦…というにはちょっと、いやかなりシンプルなやり方を、影さんは言った。
でもそれは、ただのゴリ押しじゃない。何も考えずゴリ押すんじゃなくて…ゴリ押せる力を用意する。その為に考えられた作戦。その作戦を…今から、形にしていく。
「第一段階。必要なのは水と炎。ここに細かな制御は必要ない。とにかく大量の水を、速攻で熱してくれ」
「フロスト、お水を沢山出せる?」
「水より氷の方が得意なんだけど…ま、スルスロットルでやればいいんでしょ?だったら簡単ね」
やる事を聞いたイリスちゃんがフロストに伝えて、エスちゃんが早速大きな水の塊を作り出す。わたしも杖を構えて、床に魔法陣を展開。そこから炎を噴出させる。
「わたしもいきます。ふ……ッ!」
「水の無い所でこのレベルの水遁を発動とは…流石だね、ビッキィ君」
「なら、私はグリモアシスター様に合わせます。……あっ、ディール様の方です」
「わたしとエスちゃんで違う事やってる場合だと、ほんとにややこしいですね…すぅ、はぁ……」
深呼吸をし、炎の出力を上げる。エリナさんの魔法も加わる事で、炎の勢いは増していく。そして、巨大な火炎となったところで、エスちゃん達の作り出した水の塊や水流が撃ち込まれる。水が炎に突っ込んで…すぐに、水蒸気となって消えていく。
「もっとだ。そのまま続けてくれ」
「ディール、エスト、疲れたら言ってね?二人の為なら私、カラッカラになるまで搾り出すから!なんならむしろ、搾ってくれてもいいから!」
「うん、普通に意味が分からないから…。…ルナって、その…
「ちょっとぉ!?わたしの名前をそんな当て字で使わないでくれる!?」
「えぇっ!?そんな、セイツさんみたいだなんて畏れ多いよ…!」
「褒めてないのになんでそんな反応になるのよ…っていうか、またわたしが突っ込み役になってる……」
飛べない中、圧縮シェアエナジーの解放を使って空中での軌道変更を掛けていたセイツさんが、わざわざこっちに突っ込んでくる。一方でその呼び水になったエスちゃんは、不服そうな表情を見せる。…でも、仕方ないよね。エスちゃん、いつも自由奔放に振る舞ってるけど、常識自体はちゃんとあるみたいだし…。
それはともかく、細かく押し寄せる水が、火炎に熱されて次々と水蒸気に変わっていく。塊のままじゃないのは、それだと火の勢いが弱まっちゃうし、水蒸気になるペースも落ちるから。わたしは炎が消えないよう、集中し、力を込め……ふと、思う。
「…もしカイトさんがいたら、多分炎役はカイトさん一人で賄ってましたよね…」
「かもねぇ。カイトくんの炎は、ほんととびきり凄いもん」
「……すみません。私が間違って入っちゃったばかりに…」
「あ、いや、そんなつもりじゃ……」
何気なく口にしていた、カイトさんの事。それを聞いたエリナさんは申し訳なさそうな顔をして、わたしは慌てて謝ろうとして…でもそれより先に、影さんが言う。
「過ぎた事も、ここにいない人間の事も言ったところでどうにもならん。だから気にするな」
「うん、影君の言う通りだね。それに…彼は計算して、今ここにいる面子でも出来ると思ったからこそ実行に移しているんだ。なら、もしもを気に病む必要もない筈だよ」
二人の言葉に、エリナさんは無言で頷く。…確かに、その通り。これは気にしても仕方ないし…エリナさんだって、強い。だから…大丈夫。
水蒸気は、目に見えない。エスちゃんのは魔力が元になっているから、意識すれば何となく感じ取れるけど、ビッキィさんやフロストのは、本当に分からない。でも、わたしには分からなくても…ここには、分かる人がいる。
「うん、良いちょーしだよ!これならもうすぐ…!」
ぐるりと見回した茜さんは、天井を見上げながら言う。それならと、エスちゃん達はラストスパートを掛け、わたしとエリナさんも炎の維持に力を尽くす。
そうしていつしか、髪が揺れ始める。渦を巻きながら、気流が上に昇っていく。
「影さん、これって……」
「ああ、ここからは第二段階だ。ビッキィ、エリナはそのまま維持。フロストは指示に合わせて調整。ディールとエストは風にシフトだ。炎の方は俺が見る。風と上の状態は任せるぞ」
「まっかせて!えるなむさんもお願いね!」
「心得た。それから、影君含め疲れた者は言ってくれれば私が代わろう。まだ私は余裕があるからね」
「ほんと、底知れないわね…じゃ、ディーちゃん合わせていくわよ!」
「うん、やり過ぎないよう慎重にいこう…!」
ビッキィさんの言葉に影さんは頷いて、指示を変更。わたしはコンロのつまみを捻るようにゆっくりと火を消していって、エスちゃんと向かい合うような形で立つ。顔を見合わせ、頷き合って、二人で同じ風魔法を発動させる。
でも勿論、これは炎を消す為の風じゃない。そうじゃなくて、発生した水蒸気の気流の動きを加速させる為の風。尚且つ炎の勢いを強くする狙いもあるけど、これ二つを両立させるのは難しい。向き、勢い、厚み、その他諸々を絶妙に調節しないと上手くいかないし、むしろ炎を弱めてしまう。それは、ただ魔法を制御する能力だけじゃ叶わないもので…だから必要なのは、お二人のサポート。
「そうそうそんな感じだよ!あ、でももうちょっと上向きの方がいいかな!二人共だけど、ディールちゃんの方が気持ち強めで上向きな感じで!」
「流石は二人だね、出力そのものは完全に同調しているようだ。だが…ここで一度ストップ。完全に止めて……再開だ、先程までの80%程度で吹かせてほしい」
きっと全部見えている茜さんと、なにか全部分かってるんじゃないかと常々思わされるズェピアさんによる、リアルタイムの調整指示。茜さんの方はちょっとふわっとした指示だったけど…そこはもう、何度も共闘してる経験でカバー。
正直、難しい。何度も微細に、瞬時に色々な要素を調整しなきゃいけないのは、ただ全力で放つよりも遥かに大変。氷の魔法ならもう少し楽だったと思うけど、風は風でも吹雪にしてしまったら、冷えてしまうからやる事は出来ない。
「そう。今のペース、今の角度だ。フロストの…波乗り、だったか。…は、元々こういう使い方をする技じゃないようだからな。イリス、フロストの状態はよく気にしてくれ」
「分かった。フロスト、大変だったらすぐに言う。いい?」
「ふー、ぅ…こんな長時間魔法を使い続けるのは初めてかも……」
「大丈夫ですか?わたしは火遁も使えるので、一旦休んでも……」
「ううん、大丈夫。頑張ってるのは皆も同じだし…私にだって、意地はあるわ」
大変なのは、皆も同じ事。わたし達は今、そういう事をしている。わたし達もそうだし…イリゼさん達も、そう。
「避けるって事は、避ける必要があるって事だ!とにかく攻め続けるぞッ!」
「皆ならきっと、打ち倒せるだけの力を用意してくれる筈…!ここで力を出し尽くすわよッ!」
蹴撃と斬撃、二つの横薙ぎがフェニセクトへ迫って、直前で避けられる。回り込んで放たれた反撃の火球を、イヴさんとネプテューヌさんはイリゼさんが射出したシェアエナジーの武器…ではなく棒を掴む事で、間一髪逃れる。
その次はワイトさんが、更にその次はセイツさんとビーシェさんが攻め込む。イヴさんとファングも、フェニセクトが回避から誰かに反撃したタイミングに合わせる事で喰らい付いている。時間を稼げばいい…なんていうと楽にも聞こえるけど、裏を返せば自分達じゃ決着を付けられない戦いをし続けるって事。精神的にはイリゼさん達の方がもっと辛い筈で…だから、失敗はさせられない。
(……!来た……!)
緻密に調整し続けた風、生み出し続けた水蒸気と上昇気流。そして、登っていった水蒸気は雲に変わる。渦を巻きながら、雲は膨らむように増えていく。
「おお、凄い…。これで、完成?」
「いいや、まだだよ。皆、油断しないように。これではまだ足りない、これが繰り返されなければ完成には至らない」
「そういう事だ。だが、じきに風魔法で促進しなくても上昇気流の勢いは跳ね上がる。そうなれば後は、積乱雲のペースに水蒸気発生が間に合うかどうかだ」
言われてみれば確かに、風の勢いは変えていないのに上昇の勢いは増している気がする。広がる積乱雲から、熱が伝わってきてるような感じもある。暑いのは嫌だけど…もう暫くの、我慢。
わたし達は続ける。続ける事で、上昇気流はより強くなる。雲が重なり、厚みを増して、どんどん巨大化していく。それでもまだ足りないと、影さんは言う。もうかなりの上昇気流が発生しているけど、これでもまだだと。
「まだ増大させるんですか…?向こうもかなりギリギリだと思いますし、実行出来るならもう実行した方が……」
「ううん、逆だよ。ギリギリの戦いをしてくれてるからこそ、失敗は出来ない。一度で確実に成功させなきゃいけない。だから、目一杯…限界まで巨大にしなきゃいけない。そうでしょ?えー君」
「ああ。とはいえディールの言う事も間違っちゃいない。ここは……」
「向こうに回る人員がいればいいって事でしょ?だったら、わたしに任せて頂戴!」
言うが早いか、くるりと背を向けエスちゃんは駆けていく。そのエスちゃんの背中には、風と電撃の魔法が輝いて…大きな翼の様になる。その翼をはためかせて…というより風と電撃を複合させた魔法を推進力にして、エスちゃんは飛び上がる。
「ほぅ、これは中々見せてくれる。…では、エスト君が抜けた穴は私が埋めよう。こんなものかな」
「なっ…さらっと炎と水を同時に使用、しかも即座に私の炎に合わせてくるだなんて……」
「とにかくここからが大詰めだ。全員、頼むぞ」
拡大する積乱雲、どんどん吹き荒れる風の中で、力を振り絞る。わたしも炎と水の魔法を同時に使って、茜さんの言う『限界』まで水蒸気を注ぐ。何度も何度も、何度も何度も、何重にも雲を積み重ねていく。そして……
「わっ……!」
「なんて、強い風……」
吹き下ろすような強風に、思わずよろける。呟きと共に、ビッキィさんがゆっくりと見上げる。その視線の先にあるのは、巨大な黒雲。荒々しく渦を巻き、轟音を響かせる──擬似台風。
これが、これこそが、わたし達の作り上げようとしたもの。強力なフェニセクトを真正面から押し潰す為の…より強い力。
「ら、らぷぅ……」
「さ、流石に疲れた……」
「これだけの規模になれば十分だな。これはおまけだ…!」
「私も…!はぁぁぁぁ…ッ!」
力尽きるようにフロストがぐてっとなり、エリナさんも膝を突く中、影さんが氷魔法を擬似台風へ飛ばす。ルナさんも、力一杯の一撃だと分かる電撃を放つ。擬似台風は氷と電撃を取り込んで、更に強く荒れ狂う。
「…影さんも、魔法使えたんですね……」
「まぁな。見ての通り、少しは使える…といった程度だが」
「さて、それでは文字通り最後の一押し、だ。ディール君、力を貸してくれるかな?」
多分初めて見る魔法の使用に思わず呟けば、影さんは擬似台風に目をやりながら答える。そしてわたしは、ズェピアさんの言葉に頷き…最後の魔法を、発動する。
「皆!準備かんりょーだよ!全員急いで退避して!」
「分かってる!全く、閉鎖空間でとんでもないものを作ったな…ッ!」
渾身の力で叩き込む、冷気を帯びた烈風。ズェピアさんの作り出す赤黒い竜巻にそれを纏わせた状態で、擬似台風へと叩き付け…回転に合わせる形でぶつけられた擬似台風は、わたしとズェピアさんの力を取り込みながら動き出す。衝撃波の様な突風を撒き散らしながら、フェニセクトへと向かっていく。
「これでいよいよ大詰めって訳ね。この台風、一気に加速したり、自動追尾してくれたりとかは?」
「多分しないです、ねぷ姉さん!」
「まあ、だと思ったわ。だったら、後は自分達で……」
『フェニセクトを、追い詰める…ッ!』
流石にもう、わたしもガス欠。イリゼさん達だってへろへろな筈で…だけどここで更に、イリゼさん達はやる気を漲らせる。
理由は、分かる。向こうからすれば、やっとゴールが見えたんだから。でもやる気があっても、体力が回復する訳じゃない。だからきっと、今皆さんを動かしているのは…根気と根性。
「押し込むわよイヴ、ワイト!銃身が焼け付くまで、撃ち続ける…ッ!」
「貴女のそれは焼けるような銃身があるの…?…けど、こっちは本当にそれ位してみせるわ…ッ!」
「その台詞は、私が言った方が良かったかもしれませんね…ッ!」
フェニセクトを挟んで擬似台風の反対側に回ったセイツさんは、ワイトさんと、ワイトさんの機体の腕に乗って移動したイヴさんと共に、フェニセクトへと集中砲火。三人掛かりで、弾幕を張る。通常の弾と炸裂する弾が混じって飛ぶ。
「ぴぃたちも、いっくよーっ!」
「あ、おいタイミング…!…ちッ、わぁったよ合わせりゃいいんだろ合わせりゃ…ッ!」
「あっちは大変そうね…こっちは冷静にいきましょ?」
「はは、そうだね…ッ!」
両側面からは、ピーシェさんにアイさん、ネプテューヌさんにイリゼさんが攻める。弾丸の進路からは的確に外れながら、四人で次から次へと、躱されても躱されても別の誰かが喰らい付いて、その間に跳躍からの再突撃を仕掛ける。後ろと左右を潰されたフェニセクトは、火球を乱射しながら乗車をかけようとして…そこに降り注ぐのは、無数の氷の刃。
「残念。別に満員じゃないけど、逃げる事は出来ないわよ?」
宙からも、面制圧が襲う。翼の様に纏った風で氷の刃を加速させて、逆にフェニセクトの火球は風で軌道を逸らして、フェニセクトを下へ押し戻す。
後ろ、横、上をエスちゃん達が全力で塞ぐ。下は勿論床で、前からは擬似台風が迫っている。もし全員が本来の力を出せていれば、きっとこのまま押し込めた。でも、今は違う。どうしても、完璧な壁にはならない。途中までは追い詰められてもどこかで抜けられて、また包囲をして…が繰り返される。このままじゃ誰かの体力が尽きるかもしれないし…尽きなくても、エスちゃん達自身が擬似台風から逃げられなくなる。
「……っ、こうなったらわたしも…!」
「駄目だよきぃちゃん、きぃちゃんだってもうへろへろでしょ?それよりは私が……」
「疲労してるのは茜君も同じではないかな?君のその力、集中すれば相当な消耗をするのだろう?」
「けど…後少しなのに……!」
こっちも今は動けない。わたしとズェピアさんも擬似台風から皆を守る為の氷壁を維持する必要がある。
本当に、後少し。後少し何かあれば、押し込める。きっと勝てる。でもその後少しが、今は凄く遠くて……
「ズェピアの言う通りだ、休め茜。動くというなら…それは、俺の仕事だ。──イリゼ、跳べッ!」
「……ッ!」
──影さんが、動く。イリゼさんの名前を呼ぶと共に、遠隔操作端末を飛ばす。一瞬わたしは、それで攻撃をするものかと思ったけど……違う。
声に弾かれるように、イリゼさんは長剣を構えて跳躍。迫りながらの斬り上げは、これまでと同じように躱されて、イリゼさんはフェニセクトがいた場所を通り過ぎて……次の瞬間、イリゼさんの前に遠隔操作端末が滑り込む。直後にイリゼさんは足を突き出して、その端末を強く踏む。踏んで、蹴って、再度フェニセクトへ突進を掛ける。
「…やるじゃない、イリゼ。それに…影も」
「見せつけてくれるなぁ、二人共……」
跳ね返るような追撃を仕掛けるイリゼさんの姿に、セイツさんと茜さんが呟く。端末を利用した空中機動。それは一度限りのものじゃなくて、何度も続く。影さんはイリゼさんの攻撃とその向きを、イリゼさんは影さんが端末を移動させるタイミングを完璧に読んで、更に圧縮シェアエナジーの爆発と併用する事で、逃げるフェニセクトへ凄まじい勢いでの連撃を仕掛ける。
勿論エスちゃん達もただ見ているだけじゃなくて、攻撃を続ける。それにより、遂にエスちゃん達はフェニセクトをその場に捉える。
だけど、まだ足りない。このままなら擬似台風直撃まで押さえられるかもしれないけど…それだと、全員巻き込まれる。ここから更にもう一歩、押し込む事が必要で……誰よりも早く、その現状に対する理解と、対応を済ませている人がいた。もう、その人は動いていた。
「ここで、確実に……仕留める…ッ!」
『な……っ!?』
唸りを上げる、スラスターの音。迫る擬似台風の風を跳ね除けるような勢いで、フェニセクトへと突進するのは…ワイトさんの、アームズシェル。真っ直ぐに、一直線に、機体はフェニセクトへ肉薄し…武器を捨てた両腕部が、フェニセクトの羽を掴む。
射撃や剣による攻撃じゃなかったのは、まだフェニセクトに回避をする余裕があったから。だからワイトさんは、それより遥かに大きい機体そのものを使ってフェニセクトを捉え…そのままスラスター全開で押し込む。フェニセクトの抵抗に遭いながらも、擬似台風へと突っ込んでいく。
「無茶よ!そんな真似したら、貴方の機体も…ううん、ワイト自身だってどうなるか分からないわッ!」
「それ以前に、焼き尽くされるだろうがッ!止めろワイトッ!」
「いいえ、問題ありません。こいつは火炎放射をする時…一瞬、止まる…ッ!」
火球を装甲で耐えながら、アームズ・シェルは突進続行。言葉通り、火球から切り替える形で火炎放射が放たれそうになった瞬間、その一瞬でワイトさんはフェニセクトを離すと同時に機体の頭部で頭突きを仕掛けて、火炎放射を明後日の方向に放たせながら再度掴んで押していく。
追い詰められる中、フェニセクトはまた全身に炎を纏う。アームズ・シェルも炎に包まれる。それでもワイトさんは離さない。突進を、止めない。
「ちょっ、ほんとに燃え尽きるわよ!?今ならまだわたしが消火出来るからッ!だから止めなさいッ!」
「止めればこいつは逃げます…ッ!私はこれでも、可能性があるのなら限界までそれを追求したいタイプなのです…!だから……ッ!」
エスちゃんも声を上げる。もう既に水の魔法を用意しているけど…放てない。だって、今の状態で、勢いに乗っているアームズ・シェルへ当たるようにするには攻撃位の速度で放たなきゃいけないし、多分もうかなりダメージを追っているアームズ・シェルにそんな事をしたら、燃え尽きる前に粉々になるかもしれない。助けるどころか、ワイトさんにトドメを刺す事になるかもしれない。…だから、出来ない。
いよいよ溶けて崩れ落ちる装甲。何かワイトさんには考えがあるのかもしれないけど、正直そうは見えない。でももう、わたしの位置からじゃ何も出来ない。イリゼさん達は何とかしようと追い縋っている…けど、何とかする策があるのかどうかも分からない。そして遂に手の部分も崩れる。それなのに諦めるどころかワイトさんは胴体部を押し付けて突っ込む。更に炎に包まれたアームズ・シェルには、本当にもう何も出来なくて……
「──後は頼む、愛月くんッ!いけぇぇぇぇッ!」
「はいッ!ファング、アクアテールッ!」
「ぐがぁああああぁぁぁぁッ!」
その時、声が響いた。愛月さんの声が響いて…これまで最後の追い込みに加わっていなかったファングが、擬似台風とフェニセクトの間に躍り出る。雄叫びと共に、ファングは身体を回転させ…下から水を纏った尻尾を、フェニセクトへと打ち付ける。
晴れれば氷も鋼も溶かすフェニセクトの炎。けど、ファングが纏った水は負けていない。炎が水を、水が炎を、それぞれ消し合いながらも拮抗し…その状態で、尻尾は振り抜かれる。振り抜かれた尻尾と、アームズ・シェルの膝蹴りがフェニセクトを打ち上げて……荒れ狂う擬似台風へと、フェニセクトは叩き付けられる。
「……っ!総員、退避!」
叫んだイリゼさんは愛月さんを、セイツさんとピーシェさんはファングを抱える。アイさんはイヴさんを、炎上するアームズ・シェルのコックピットから転がり出てきたワイトさんをネプテューヌさんが掴んで、出てくる最中に燃え移った炎をエスちゃんが水をぶっかける事で消火する。そうして全員が、擬似台風の左右をすり抜けてこっちにくる。氷壁の裏へと、暴風に煽られながら飛び込んでくる。
間一髪で間に合ったエスちゃん達とは対照的に、フェニセクトは唸りを上げる擬似台風にあっという間に飲み込まれる。凄まじい勢いで回転に飲まれて、防御の炎も、羽の炎も瞬く間に吹き飛ぶ。身を守る手段を引き剥がされたフェニセクトへ、鋭い氷と電撃が、烈風と共に押し寄せる。…これは、ただの台風じゃない。台風が生まれる原理で作られた…けれど色々な力を組み込み取り込む事で作り出された、台風の形をした極大の攻撃。
(いける、これなら…これだったら……っ!)
貫き、抉り、引き裂かれる。初めに羽が、次に手脚の様な部位が千切れて吹き飛ぶ。その内一つがわたし達の近くにまで飛んできて…ち、近くで見るとやっぱり気持ち悪い……。
でもそれが、それ程までの攻撃が必要だった。本来の力を発揮出来ない人が多い中だからこそ…この攻撃が、勝負を決める。勝負が、決まる。
吹き荒れ続ける擬似台風。砕け散っていくフェニセクト。その内擬似台風の雲は周囲に拡散していき、わたし達の方にも来る。視界が白く染まっていく。そして、そして…そして──。
今回のパロディ解説
・「〜〜それは違うよ!」
ダンガンロンパシリーズの主人公の一人、苗木誠の代名詞的な台詞のパロディ。この台詞、汎用性高いですよね。それは違うぞ!verもあるので、元ネタそのままで使える事も多いですし。
・「水のないところでこのレベルの水遁を〜〜」
NARUTOにおけるモブキャラ(暗部)の一人の発した名台詞のパロディ。ビッキィは忍術を使うので、水遁…の部分を変える事なく、こちらも元ネタそのままで使えるんですよね。
・「〜〜銃身が焼け付くまで、撃ち続ける…ッ!」
機動戦士ガンダム 第08MS小隊の主人公、シロー・アマダの名台詞の一つのパロディ。指摘された通り、セイツの遠隔攻撃は圧縮シェアエナジーをバレルにしてるので、特に焼け付く事はありません。
・「〜〜満員じゃない〜〜出来ないわよ?」
ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズの主人公、空条承太郎の台詞の一つのパロディ。ただ空中なので、エスト自身が言っている通り全く満員ではありませんね。