超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
二度目の認識干渉。おかしい事をおかしいって思えなくなる、それが普通だって思っちゃう、正気に戻った後でも暫くの間は混乱が続くような、異常な事態。そうなっても気付けるよう、自分なりに身構えていた筈だったのに、いつの間にかそうなっていた。二度目もまた、エリナさんに気付かされた。
本当に、どうしたらいいか分からない。こんな事が続いたら、どうにもならない。そう、思っていた時だった。ズェピアさんが、『見えてきた』と言ったのは。
「見えてきた…つまり、ズェピアはこれまで見えていなかった?なら、ちゃんと目は開けた方がいい。目は、開けないと見えない」
「いや、見えてきたというのはそういう事ではなくてだね……」
ズェピアさんが見えたものって一体…と、期待と緊張を抱きながら次の言葉を待つ中、ズェピアさんより先にイリスが言う。その凄く勘違いしている発言に、私達全員が苦笑いする。い、イリスらしいなぁ…。
「ズェピア君、見えてきたっていうのはどういう事?説明、してくれるんだよね?」
「勿論。とはいえ今し方言った通り、あくまで断片的に…だ。だから把握出来ていない部分もあれば、そもそも解釈が誤っている可能性もあると思っていてくれるかな?」
前置きのように発された言葉に、私達は頷く。それでいい。全然全く問題ない。だって、私には何も見えてないし、分かってないんだから。
「では…まず振り返りたいのだが、二度の認識干渉が起こった時、その直前に我々が行っていた事を思い出してほしい」
「直前…一度目は、フェニセクトを倒したんだったよね?」
「そーだね。で、二回目は…っていうかさっきは、休憩をしていたでしょ?」
「うん、その通りだ。ただ、二回目に関しては、休憩そのものではないと私は見ている」
「……?どういう事です?」
「休憩中にしていた事…って訳か。その上で直前というと、今後の話……休憩共々、ズェピア自身が提案した内容だな」
小さく首を傾げながら、一度目を愛月君が答えて、それに頷いてからネプテューヌが二度目を言う。でも二回目はちょっと違うみたいで、ビッキィが質問したところで影さんの方が口を開く。…そういえば、確かに休憩も、その話を振ったのも、ズェピアさんなんだっけ…って事はズェピアさん、ちょっと前からこうなんじゃないか…って予想があって、それを確かめる為に提案してた…って事?
(す、凄い…何かよく分からないけど、凄い……!)
具体的にどう凄いのかは上手く言葉に出来ない…っていうか私自身分かってないけど、やっぱり凄い。…って、よく考えたらまだ、多分話の入り口だよね…ここでこのテンションになってたら、最後まで持たないよ?私。
「フェニセクトの撃破、今後の話…この二つに共通点があるようには思えませんが、そうではないと?」
「いいや、その二つ自体はピーシェ君が言った通り、共通点がある訳ではない。だが撃破の後…或いは戦う最中の時点で、我々は多かれ少なかれ考えていた筈だよ。きっとこれで、何かが見えてくると。現状を打開し、『今』から進める筈だと」
「…ああ、そういう事。それなら確かに、どっちも『先の事』を考えてるって共通点があるわね」
成る程、とエストが一つ首肯。そっか、とエストの返しで私は思って…それから、気付く。
「……って、事は…先の事を考えたら認識がおかしくなっちゃうなら、これは先の事を考えさせないようにしてるって事…?」
「……!ズェピア、そういう事なの?」
「私はそう見ているよ。察しが良いね、ルナ君」
ふっ、とズェピアさんが笑う。そのズェピアさんに訊いたセイツさんも、私に対して「やるじゃない」…って感じの視線を送ってくる。い、いやぁ…まあでも偶然、偶然だよね!セイツさんからそういう視線を向けられるのは光栄だけど、ほんと偶々だよね、うん!だって私だし…!
「先の事を考えさせないようにしてる……となると、時間を認識出来なくなってるのも、ここに辿り着けないようになっていたのも、考えさせない…というより、先に進ませない、『今』に留まらせる為の干渉だった…という事でしょうか」
「そんな気がするッスね。……つまり、ズェピアはこう考えてるんッスか?この次元に起きている事、ウチ等に対する干渉は、誰かの意思によるものだ…と」
これまでの事を振り返ったディールの発言。それに私が「あ、成る程」と感心する中、いつもの調子から、ふっ…とトーンを下げてアイが言う。その言葉で、皆へと緊張が走る。
誰かの意思によるもの。もしそうなら、私達にそうした黒幕が…『敵』がいるって事になる。まだ絶対そうだって決まった訳じゃないし、黒幕がいるにしても、ワンガルーみたいなパターンの可能性もゼロじゃないけど……やっぱり、ドキッとする。
「…否定はしないよ」
「そのまま肯定するつもりもない、と言いたげな返しだな。ズェピア的に言えば、100点の回答ではないといったところか?」
「えー、それなら部分点位は欲しいッス」
「貰ってどうするんですかアイさんは…。…もし影さんの言う通りなら、どう考えてるんです?ひょっとして、最初に言っていた把握出来ていない部分がこれなんですか?」
突っ込みからの流れで、ピーシェがズェピアさんに問う。そしてピーシェの、皆の視線を受けたズェピアさんは……首肯。
「誰かの意思によるものなのか…これについてはまだ、分からない。恐らく自然なものではないのだろうが、誰かの意思という形では、結論として抽象的過ぎるからね。ただその上で、手掛かりはあると思っている」
「手掛かり?…推理は、続く?」
「はは、そうだね。…ここに至るまでの四つの塔、その空間内にあったのはそれぞれ、縁日、ライブ会場、プール、懐かしさを感じる家だった。…まあ、最後のは人によって解釈が分かれるだろうが、一先ずそうだとして…これ等四つの空間と、この次元そのものの事を考えた時、何か思い浮かぶ事はないかな?」
ズェピアさんからの、私達への質問。訊かれた私は、皆と一緒に考える(っていっても、話し合った訳じゃなくて、皆黙々と考えてたんだけど)。最初はそんな事言われたって…って思ったけど、考えていく内に、ひょっとして…と思うものが頭に浮かぶ。
自信はない。え、そんな事?…って我ながら思う。だけど、私が思い付くのは…その一つだけ。
(ま、まあここは皆の答えを聞こうかな。別にクイズ勝負をしてる訳じゃないし、私より皆の方がきっと確率も……)
「…ふっ、やはり今日のルナ君は冴えているようだね。答えを聞かせてくれるかい?」
「えぇ!?」
まるで私の思考を読んだみたいな、ズェピアさんからのご指名。私はぎょっとしてそのまま拒否しそうになったけど…ズェピアさんの視線が逃してくれない。…目、瞑ってるのに。
「うぅ…間違ってても笑わないで下さいね…?」
「大丈夫だよ、ルナ。間違ってても、それを笑うような人なんてここにはいないんだから」
「ピーシェ…。……うん、その通りだった…それなのに変な事言ってごめんなさい…」
「えぇ…?今の返し受けて逆に落ち込むパターンってある……?」
しょんぼりする中、エストに変な目で見られる私。でも、うん…私もそう思います、はい…。
…と、更に落ち込んだ私だけど、本当にピーシェの言う通りだと思う。だから私は小さく深呼吸をして…言う。
「…夏とか、バカンス…とか……?」
口に出してみると、余計に「そんな事?」…と思ってしまう。なんだか恥ずかしくなる。けど、それに対して返ってきたのは……だよね、って声。
「うんうん、あかねぇもそう思うなー。縁日なんて、それこそ前回神生オデッセフィアに遊びに行った時に皆で回ったもんねー」
「ここの暑さは夏、って感じだもんねー。水着だって今の格好だって、夏以外の季節に着てたら変な感じだし」
「いやねぷ姉さん、スク水に関しては学生じゃないわたし達が揃って着てる時点で季節関係なく変な気が……」
「それは多分言わなくていい事よビッキィ……」
エリナさんの突っ込みで、また皆はちょっと苦笑い。だけど、ほっとした。皆も私と同じ想像をしていたみたいだから。
「あくまでこれは連想に過ぎない…が、部分的ではなく全てに共通するもので且つ、全員が同じものを思い浮かべたとなれば、まるっきり間違っているという事もないだろう。…とまあ、ここまでがある程度の自信を持って語れる部分かな」
「ありがとう、ズェピア君。…因みにその言い方だと、自信はないだけで、もう少し可能性として思い浮かんでいるものがある…って感じにも聞こえるけど、それはどうなの?」
「お察しの通りだよ。一つ目として話した『先の事を考えさせない』と、二つ目として話した『夏』…この二つを結び付けた場合の答えにも一応の予想は付いているのだが、あまり自信がなくてね」
軽く首を横に傾けつつイリゼが聞く。その通りだと言って、ズェピアさんが肩を竦める。あのズェピアさんでも自信がない…ってなったら、今度こそ私に答えられる訳がない。第一全く思い付いてもいないし……と思っていた私だけど、そこで私は、ネプテューヌがきょとんとしている事に気付いた。最初はネプテューヌも全く分からないのかな?と思ったけど、どうやら違うみたいで…不思議そうな顔をしたまま、ネプテューヌは言う。
「うーんと…それって難しい話かな?その二つから連想する事なんて、一択じゃない?」
「お、ネプテューヌは自信有りッスか?」
「自信有りっていうか、いやほんとに連想出来る事なんて…『夏休み』以外にないでしょ?」
「あ、だよね。小さい子はそうでもないけど、学年が上がっていくとそーゆー風に思う子が増えるんだよねぇ」
夏休み。そう言ったネプテューヌに、茜が頷く。そしてその答えに対して出てきたのは…あー、という反応。強くもなければ弱くもない、そうかそれがあったか…って感じの反応で……だけど、仕方ない事だと思う。だって……
「夏休みかぁ…馴染みないなぁ……」
『だよねぇ…』
ぽつりと呟いた私の言葉に、女神の皆を中心とした、かなりのメンバーが同意をする。
そう。私は学校に通うって事をしていない。だから、夏休みっていう長期休暇を経験した事もない。勿論夏休みが学校に通ってる人だけにあるものって訳じゃない事は知ってるけど、やっぱり夏休みといえば学生のもの…ってイメージはあると思う。
「ズェピア、さっき貴方が一応予想は付いている…って言った内容も、今ので合ってるかしら?」
「合っているよ、セイツ君。しかしやはり、ピンときていない面々の方が多いみたいだね」
「勿論知識としては知っているんですけど、ね。…夏休み…となると、先の事を考えさせないっていうのも……」
「休みが終わった後の事を考えたくない、って感じですかね…」
そういう事でしょう、とピーシェとエリナさんが頷き合う。そうしてズェピアさんの話は終了。語られた内容は、すんなりと納得出来るもので…だけどまだ、大きな問題が残っている。だってまだ…『ならどうするか』を何も話していないんだから。
「夏の、夏休みの終わった後を考えたくない…それが全ての根底にあるとして、それならわたし達はどうすればいいんでしょう?というかそもそも、どうにか出来る事なんです…?」
「うーん…そこはほら、国のトップの皆に頑張ってもらって、夏休みの長さを通常の三倍…いや、更にそこにいつもの三倍の回転を加えて九倍にするとか?」
「いや、回転を加える事で三倍に増える夏休みって何…?それ以前に三倍の長さにするの時点で無茶苦茶だし、第一どこの何の夏休みを増やすつもりなのネプテューヌは……」
「っていうか…夏休みがどうこうって気持ちが、こんなとんでもない事を起こせるの?」
『それは……』
難しい顔をするディールに、ネプテューヌが提案…っていうかボケ?…を返して、イリゼが突っ込む。そこから愛月君が首を傾けながら質問をして…私達は、回答に詰まる。
「…え…あ、あれ?僕、不味い事訊いちゃった……?」
「…いや、大丈夫だよ愛月君。それに…愛月君の言う通り、そんなのあり得ないと思う。少なくとも、こんなのは普通じゃない」
あり得ない。イリゼはそう言いきった。詳しいところまでは知らないけど、私よりも多くの次元を訪れた事があるらしいイリゼがそう言うんだから…やっぱり、きっとそうなんだと思う。
そして、そこで一度やり取りは途切れる。愛月君の言った事は勿論だけど、その前のディールの疑問に対しても、考えてみればボケ以外の回答は出ていなくて…ズェピアさんも、何も言わない。
「…一旦、最初に入った大部屋も調べてみます?ここまでの話とか、それに関係するものが見つかるかどうかは怪しいですけど、元々予定していた事でもありますし……」
「それもいいかもしれないわね。今の話を踏まえた上で調べれば、何かを見つけられたり気付けたりするかもしれないし、ここでただ考えてるだけよりは有意義なんじゃないかしら」
暫く沈黙が続いたところで、ビッキィが提案する。それにセイツさんが乗っかる。それもそうだよね、と私も賛成をして……私達は、今度こそ最初の大部屋に戻る。
「よーし皆、今度こそ何か見つけられるように頑張ろーね!」
『おー!』
茜の掛け声で、私達は拳を上げる。そのままやる気を胸に、私達は調査を開始して……
「…特に、何もなかったッスね……」
「見事なまでの即堕ち2コマ的落着ね……」
結果、こんな感じになりました。…エストが即堕ちって言ったけど、別にあっという間に調査が終わった訳ではないよ…?ほんと、何もなかったのは事実だけど……。
「うぅん…こうなると本当に手詰まりですね…。四つの塔についても、全員で一ヶ所ずつ調べ直してみます?」
「そうするしかないのかなぁ。でも正直…アレ、だよね」
アレ、と濁すネプテューヌ。多分ネプテューヌは、こう言いたいんだと思う。それは正直、面倒…って。よくない考えではあるけど、既に地下空間とここっていう、広い場所で二回連続収穫なしの結果に終わってるから、ここから更に四ヶ所…それも一度は調べてるところをもう一回やるなんて、どうしても気持ちにブレーキが掛かっちゃう。
だけど、待っていても何も変わらない。何かやってみなくちゃ、今の状態から進まない。だから取り敢えず、思い付く場所があるうちはそこを一つ一つ確かめるのが……なんて考えていた時だった。
「…なら、一つ試してみるか」
「確かめる?何か思い付いたんです?」
「まあな」
訊き返したピーシェに、影さんが軽く肩を竦める。そういえば、フェニセクトの撃破作戦も影さんが考えたんだったよね…もしかしてまた、何か凄い事を思い付いたのかな…。
「影、何を思い付いた?イリス、教えてほしい」
「ああ。といっても、別に大した事じゃない。要は、今という状況から、夏から進む事を拒んでいるんだろう?なら……」
そこで一度、影さんは言葉を切る。そして私達が注目する中、溜めを入れた影さんは……言った。
「──終わらせてやろうじゃないか。物理的に、力尽くで」
*
わたしもこれまで色んな次元や世界を旅してきたけど、ここまで特殊な次元は初めて…だと思う。まだ推測の段階、断言は出来ない状態だけど…夏休みとか、その先を考えたくない思いがとかが可能性に上がる時点で、特殊以外の何物でもない。
「よいしょ、っと。こうやって見ると、この島?…もほんと広いわよね」
ぐるりと一周見回して、わたしは言う。元々ここはちゃんとした次元だった訳じゃないし、規模的にもかなり小さい方だとは思うけど…それでも今見えている景色は、凄く凄く広い。…まあ、次元としての規模と、その次元の中にある空間の広さは、多分分かり易い比例関係とかって訳じゃないんだろうけど。
「こんなに広いのに、やれるのかな……」
「大丈夫よ。フェニセクトの時と違って、焦る必要なんてないんだし」
不安そうなディーちゃんに、わたしはいつもの調子で返す。ほんとディーちゃんって、今も昔も自分への自信に欠けてるのよね。わたしの姉なんだから、もっとどーんと構えていればいいのに。
「んーっ、風が…強い!すっごい強い!」
「まあ、それはそうでしょうね。だってここ、かなり高いですし」
「だけどほんと、見晴らしは抜群だね。ここに観測装置を設置出来れば、結構有用かも」
気持ち良い…じゃなくて強い、と叫ぶ茜にビッキィが突っ込む。その隣で、おねーさんもゆっくりと景色を見回す。…ビッキィって、身体能力は凄まじく人間離れしてる割に、結構性格は突っ込み気質っていうか、常識的なのよね。
「景色を見るのも良いが、そろそろ始めるぞ」
それから次に声を発したのは影。それにわたしは頷いて、ふぅ…と一つ息を吐く。
今わたし達がいるのは、建造物…の上。四角錐を逆さまにしたような部分の上に来ている。で、なんでここにいるかっていうと……
「さぁて、それじゃあ…吹雪、起こすわよ?」
「いやそんな、隕石落とすみたいに言われても…。……実際問題、やれるの?瞬間的に、局地的にやるのとじゃ訳が違うでしょ?」
「それはまあ、ね。けどやるのはわたしとディーちゃんよ?その上でサポートも受けるのよ?それなのに出来ないと思う?」
見縊らないでよね、とわたしは左手を腰に当てながら返す。するとセイツおねーさんは、まあそれはそうかと納得をしてくれる。
どうしてわたし達がここにいるのか。吹雪を起こそうとしているのか。…それは、この次元の環境を変える為。真っ向から上書きして……夏らしさを、否定する為。そしてそれが、影の言う『終わらせる』って事。
「では、一応確認をしておこうか。我々はこれから吹雪を起こし、その吹雪でこの島を包む。具体的なプランとしては、ディール君とエスト君が魔法で吹雪を発生させ、それを私達が魔術や魔法等で後押しする。そして、夏を思わせるこの環境を激変させる…夏とはとても言えないような状態に変えてしまう事で、反応を見る…要約すると、こんなところかな」
「…セイツさんじゃないですけど、本当に出来ます?気候…というか、天候を力技で変えるのは、それこそフェニセクトの時も擬似台風の形でやってましたけど、その時とは規模が桁違いですよね?」
「ピーシェの言う事も尤もだ。だが別に、根底から天候を変えてしまう必要はない。あくまで必要なのは、季節を冬に変える事じゃなくて、夏らしさを覆しようがないレベルで否定する事だからな」
「それも十分難しい気がするけど…やるのは二人だもんね。出来ない訳、ないよねっ」
「イリスもそう思う。ディールとエストの魔法は凄い。だからきっと、出来る」
ルナとイリスちゃんからの、期待と確信に満ちた視線。さっきセイツおねーさんに言葉を返したわたしだけど、こうも曇りのない瞳で見られると、流石にちょっと緊張する。
だけど吹雪…氷属性ってなったら、擬似台風の時とは違って、完全にわたしとディーちゃんの領分。だったらわたし達がメインを張るしかないし、誰かに譲るつもりもない。
「じゃ、今度こそ始めましょ?」
「…そうだね。ワイトさん、イヴさん、暫くしたらそっちにも影響があると思いますので、気を付けて下さい」
「えぇ。こっちもそのつもりでいるから大丈夫よ」
「機体含め、こちらの作業の事は気にしないで下さい。何せ、元よりルウィーの軍用機ですからね」
さっきと同じように、インカムで向こうにも連絡を入れる。そしてわたしとディーちゃんは頷き合い…女神化。
「念の為訊くけど、わたし達は思いっきりやればいいのよね?」
「勿論!思いきりやっちゃって!」
「ネプテューヌの言う通り、フルパワーでやってくれればサポートはするッスよ。…ウチ等以外が」
「ですよね…。……じゃあ、いきます」
なんで直接サポートをする訳じゃないメンバーの二人がこんなに堂々と言うのか…っていうのはさておき、わたしはディーちゃんと同時に魔法を発動。二人で魔法陣を重ね合わせて、術式を同調させる。魔力を、シェアエナジーを注ぎ込んで、どんどん魔法陣を広げていく。
「ふー、ぅ…まだ足りないわね」
「うん、もっともっと必要かな」
普通の戦闘、普通に攻撃をするんだったら、もう十分過ぎる規模の魔法陣。だけど足りない。今狙うのは、吹雪を叩き付けるのは、この島全体なんだから。威力はともかく、規模はこれまでわたしがやってきた魔法の中でも、最大級でなきゃいけないんだから。
「いやはや、二人で協力しているとはいえ、事前準備もなしにこの規模の術式を展開出来るのは流石と言わざるを得ないね。…ところで、同じ女神の君達は……」
「からっきしね。いやほんと、笑っちゃう位からっきしよ。わたしとイリゼの姉であるイストワールは、結構使えるんだけど……」
「あ、一応言っておくけど、自分は全く使えない訳じゃないよ?ディールちゃんエストちゃんと比べたら、手品レベルになっちゃうだろうけど」
「…イリスも魔法は使えない。でも、使ってみたい。……はっ、前にもそう思った事を思い出した…。……じー…」
「い、イリスちゃん…?…えぇっと…もしかして、見て覚えようとか、そういう感じ…?」
「も、もしそうなら、もうちょっと遠くで見てほしいかな……(おろおろ)」
更に規模を拡大しようと思っていたら、イリスちゃんが側に来た。単に近付いた、とかのレベルじゃなくて、ちょっと強く吹けば吐息が掛かりそうな位の距離にまだ来て、交互にわたしとディーちゃんを見ていた。きょ、距離感…距離感がおかし過ぎる……。
「イリスちゃん、邪魔になるから止めようね。…けど、魔法かぁ…僕も使ってみたいなぁ」
「…魔法がなくとも、愛月にはもっと色んな事が出来そうなポケモン達がいるのにか?」
「それはそうなんですけど、そうじゃないっていうか……」
「んもう、分かってないなぁえー君は。こういうのは憧れとか、夢の話なんだよ」
「そッスよえー君。そんな事言ってると、夢を忘れた古いゲイムギョウ界人になっちゃうッスよ」
「茜の呼び方を真似するんじゃない…」
((あ、古い云々はスルーなんだ……))
まずはわたし達が準備を整えないと始まらないって事で、皆は雑談を展開中。その中でわたしとディーちゃんは規模拡大を続けて、どんどんどんどん大きくしていって……いよいよ魔法陣は、この建造物を上から丸ごと覆えるような、そういうレベルにまで到達。そこまでいったところで、わたしは一度息を吐いて、皆の方へくるりと振り向く。
「お待たせ、準備が完了したわ」
「まさか、ここまで巨大な魔法陣になるとは…脱帽です、お二人共」
「ありがとうございます、エリナさん。…でも正直、これでやれるかどうかはまだちょっと不安があるっていうか……」
「不安っていうか、まあ正直未知数よね。だってやった事ないし」
「まあそうですよね。でもそんな時は、やってやるって!…の精神が大切ですよ」
ぐっ、と拳を握るビッキィに、わたしは気持ちでどうにかなるなら苦労しない…とは言わない。だってこれは氷属性の魔法、それなのにやってやるの精神も持てないなんて、わたしのプライドが許さないし。
それに、無理かも…って言ったって何も始まらない。擬似台風の時と違って一刻を争う訳じゃないんだから、そういう事を言うのは試してみてからでも遅くはない。
「じゃあ…皆、お願い」
こくり、とおねーさんの言葉にわたし達は頷く。そして、構築をした術式を起動。魔法陣が二つに分かれて、建造物の外縁部にまで移動する。青白く輝く魔法陣からは、冷気が漏れて……次の瞬間、猛烈な勢いで吹雪が噴出。雪と風が、暑いこの島に吹き始める。
「凄い吹雪…ここまでの吹雪を吹かせられるポケモンは、そうそういないだろうなぁ……」
「って事は、逆にこのレベルの吹雪を吹かせられるポケモンも少しはいるの?」
「いるよー。例えば、それこそ氷淵とかね」
「あー、確かに氷淵も凄かったわよね。…けど、わたし達の全力はこんなものじゃないわよ?」
愛月とネプテューヌのやり取りを聞きながら、更に魔法の出力を、吹雪の勢いを上げる。猛吹雪が吹き荒れ、雪が森林に落ちていく。
けどまあ当たり前だけど、雪はあっという間に溶けていく。ここは暑いんだから、雪が雪であるのはほんとに僅かな間だけ。
「むむむむ……!」
「ふー、ぅ…まだまだ……!」
「二人共、早々にガス欠にならないようにね。…では、我々もやるとしようか」
自分の中でエンジンをフルスロットルにして、魔力とシェアエナジーを注ぎ込む。だけどまだまだ環境は変わらない。今はただ、局地的に吹雪が吹いてるってだけの事。
その中で、ズェピア達も行動に移る。やるとしよう…その声が聞こえた次の瞬間には、全身に力の昂りを感じる。
「……っ、即効性がありますね…ズェピアさんの強化魔法…じゃなくて、魔術…」
「実は私も予めスタンバイをしておいてね。とはいえ他者の強化は中々に難しい、だから暫く集中させてもらうよ」
違う世界、違う法則で動く術の強化を受けて、より一層吹雪は勢いを増す。そこへエリナとビッキィがそれぞれ風の魔法と忍術を使って、吹雪を後押ししてくれる。三人のサポートを受けて、吹雪の効果範囲は拡大していく。
「よし、僕も。フロスト、冷凍ビームをお願い。でも、出来る限り弱めにね?ビームっていうか、こう…吹雪みたいにするのは大変だと思うから、凍える風みたいな感じで…えーっと……」
「フロスト、ディールとエストみたいにやれる?…うん、そう。そんな感じ。フロストは賢い、良い子良い子」
「そーいえばえー君、今回は観測とか調整とかしなくていいの?」
「必要ない。とにかく吹雪を吹かせまくればいいだけだからな」
なんだかちょっと変な…光線?…みたいなのも加わって、わたし達だけでやっていた時より大分吹雪は強くなった。多分、パワーとしてはこれだけあれば十分。一度に島全域を包む事は出来ないけど、まずはこの建造物周辺を、次は森林を…って感じに、段々冷えた空間を広げていけばいい。
「こうやって見ると、氷のシャワーみたいで綺麗だよね。強く激しく美しい、的な…ふぇーっくしょん!うぅ、ねぷぅ……」
「当たり前だけど、段々寒くなってきたわね。…よく考えたら、寒くなるのなんて分かりきってた事なんだから、水着のまま作戦開始したのは物凄い失策なんじゃ……」
「今更それを言うんスか、セイツ…」
そうして更に、吹雪を続ける。擬似台風の時と違って繊細な操作は必要ないから、楽といえば楽だけど、フルパワーを出し続ける必要があるって意味じゃあの時より大変。
何より、幾ら得意な属性の魔法だとしても、ノーコストで出来る訳なんてない。むしろ魔力やシェアエナジーをじゃぶじゃぶ注ぎ込んでいるんだから、普通に考えれば目的を達成するより先に、わたし達の力が尽きる。だから、必要になるのは……皆の協力。
「…ルナ、そろそろいい?」
「任せて!私じゃなくて、皆に!」
「いやまあ、確かにある意味そうではあるけども、なんというか……」
「ほんとルナって、ポジティブに後ろ向きなところあるッスよね…」
何とも言えない感じの声を出すおねーさんとアイ。まあそれはともかくとして、ルナとおねーさん達がわたし達の方へ近付いてくる。そしてわたしの肩に、ルナの手が触れる。
「それじゃあまずはエストから。ネプテューヌ、いくよ?」
「ばっちこーい!」
野球でもやりそうな声が聞こえた直後、肩に触れたルナの手から、シェアエナジーが流れ込んでくる。それは、森林へ『道』を作り上げた時にもやった、ルナによるシェアエナジーの受け渡し。送られてくるのはネプテューヌちゃんのシェアエナジーで、暫くしたところでルナの手がわたしから離れる。代わりにディーちゃんの肩に触れて、同じように送っていく。
「これが、ルナさんから送られてくる感覚…なんかちょっと、不思議な感じ…かも……」
「けどこれでまた暫くはやれるわね。使わせてもらうわよ、ネプテューヌちゃんのシェアエナジー!」
回復した分のシェアエナジーを使って、吹雪を維持。自分のものじゃない…自分に向けられた訳じゃないシェアエナジーなのに使えるの?…と前の時も思ったけど、特に不都合は感じない。多分、単なるエネルギーとして使う分には問題ないんでしょうね。単なるエネルギーに留まらないのがシェアエナジーだし、より深いレベルで使おうとするなら話は変わってくるのかもしれないけど。
「…そういえば、ルナのその力って魔力の受け渡しとかも出来るの?」
「ううん、出来るのはシェアエナジーだけなんだ。ごめんね」
「何言ってるの、シェアエナジーだけでも十分に凄いんだから気にしないで」
「そうそう。それにシェアエナジーだけじゃなくて魔力まで持ってかれたら、自分カラッカラの唐揚げになっちゃうよ?」
「いや、カラッカラになったとしても唐揚げにはならないでしょ…唐揚げなら、どっちかっていうとカリッカリだろうし……」
「イリゼさん、その突っ込みは焦点がズレてません…?」
ピーシェの言葉に内心で頷きつつ、ここからのペースを考える。自前の分と写本グリモワールから引っ張ってこられる分で、まだ魔力の方は余裕があるけど、当然無限って訳じゃないし、無駄は省いていかなきゃいけない。…っていっても、術式構築の時点で節約出来るところは節約出来るように組んであるから、瞬間瞬間で生まれる無駄を見逃さないようにする位しかやれる事はない。…結局楽でもなくなってきたわね。
「あの、ルナさん。またお願いしてもいいですか…?」
「こっちもお願い、ルナ!」
「りょーかい!えと、次は……」
「わたしのシェアエナジーを送ってくれるかしら?」
「あ、う、うん。…えっと、どうして両手で……」
「だってほら、こうするだけでもルナって照れてくれるでしょ?その可愛い感情が見たくって」
また暫くやったところで、今度はルナの片手を両手で握ったセイツおねーさんからのシェアエナジーを受け取る。…不意打ちでルナの方から触ってあげれば、逆にセイツおねーさんの面白い姿を見れたのに…と思ったのは内緒。
そしてそこからも、ピーシェ、アイと順々に受ける。長く続ける事で、段々と成果が表れてくる。初めはまだ、涼しい程度だったけど…今はもう、はっきりと寒い。
「うぅ〜、本格的な冷えてきたねえー君……」
「…そうだな」
「さ、さりげなく茜が影さんにくっ付いてる…流石夫婦……!」
「アツアツだねぇ、二人共。それじゃあ自分も…エーリナちゃん、寒いからくっ付かせてっ!」
「わひゃあっ!?」
『うわぁ!?』
若干声が上擦っているルナと平常運転のネプテューヌちゃんのやり取りが聞こえた直後、突風が身体を横から叩く。何かと思えば…いや、考えるまでもなく、それはエリナが魔法の制御をミスった結果。全くもう、ネプテューヌちゃんってば……。
「…あれ、そういえばわたしはあんまり寒くない気が…寒いのに慣れてるからかな……」
「いいや、強化のついでに少しばかり耐寒の術も付与してあるんだ。この作戦の要は君達である以上、集中を削がれる要素は出来る限り排しておくべきだと思ってね」
「確かにこのままだと、寒くて集中出来ないな…。……よし」
「わっ!?び、ビッキィ何やってるの!?」
「風遁を使いながら、その場で高速足踏みって…なんでそんな、某紅蓮隊みたいな事を……」
「こうすれば身体が暖かくなるかと思って!」
『…………』
奇行としか思えないビッキィの行動に愛月とピーシェが反応し、それにビッキィは答えた……けど、その答えに対する返答は、誰からもなかった。…さっきの常識的って評価、撤回した方がいいかしら……。
とまあ、ここまでは少しずつだったけど、順調だった。このままなら、想定通り最後までやれそうかも、って気がしてきた。そういう思いを抱き始めた……その時だった。
「…うん?ディール、エスト、勢いが弱くなってないか?」
「え?そんな筈は……」
「…ほんとだ、ちょっと弱くなってたかも…駄目ね、集中出来るよう配慮までしてくれたってのに、パフォーマンスが落ちてたなんて……」
影に指摘されて、わたし達は気付く。無駄を無くすよう気を付けていたとはいえ、ずっと同じ魔法を使うだけだったから、いつの間にか流れ作業になっていたのかもしれない。そう思ってわたしは気を引き締め、魔法に集中する。集中した。そのつもりだった。…けど……
「…あれ…二人共、また弱くなってるよ?ちょっときゅーけー入れる?」
「ディール、エスト、大変?なら、休むべき」
「い、いや…違うわ。確かに楽じゃないけど、まだまだわたしは疲れてなんか……」
「わたしもです。もっと集中しなくちゃ……」
「……いや、違う。二人にまだ余裕があるというなら…これは、俺が過去に辿り着けなかったのと同じ現象だ」
再びの指摘。自分で自分に困惑する中で、影が言った言葉。それを聞いて、理解する。これはわたし達が集中出来ていないんじゃなくて、認識に干渉されてるんだって。この次元に、邪魔をされてるんだって。
「まっずいわね…集中しても、そのつもりでも思った通りに動けないなら、対処のしようがないじゃない……」
「いいや、それだけでは済まないだろうね。大概こういうものは、何とかしようと思えば思う程ドツボに嵌まっていくものだ。そして、かといって仕切り直そうとすれば……」
「その間に雪が溶けて、本当に一からやり直しになっちゃうでしょうね…。けど、だったらどうしたら……」
「……一応、考えがない事もない。対策って程でもないが、な」
『…それって?』
「操作の精度が落ちても、多少のミスがあっても問題ない程の、膨大なシェアエナジーを注ぎ込めばいい。…それこそ、注ぎ込まなきゃ二人がパンクしそうになる程のシェアエナジーを」
「……!そっか、そういう事なら…ディールちゃん、エストちゃん、私に任せて!ルナ!」
順調だったところに立ち込める暗雲。心の中に生まれる焦り。けど、自分自身で一度それを経験しているからか、影は質の低下を量で補うっていう、確かに対策って程でもない単純なプランを口にする。それを聞いたおねーさんはぴくっと肩を揺らして…わたし達の側に来る。
そしておねーさんは女神化。その上で更に目を閉じて、意識を集中させる。初めは本当にただ目を閉じていただけだったけど、ある時おねーさんの周囲に二つの円環が現れて…次の瞬間、膨大な量のシェアエナジーが溢れ出す。
そのおねーさんにルナが触れて、わたし達にシェアエナジーを送ってくれる。だけどそれは、これまでの比じゃない。受けるこっちがぎょっとするようなレベルで、凄まじい勢いで送ってくる。
「あ、あの、ルナさん…!?これ、イリゼさん大丈夫なんですか…!?」
「大丈夫、まだまだ余裕だよ!けど、この姿は…リバースフォームはいつまでも使える訳じゃないから……」
「そういう意味でも、これ以上干渉される前に一気に決めろって事ね?だったら…出し惜しみなし、シェアエナジーも魔力もこのまま使い切るつもりでやるわよディーちゃん!」
気合いを入れるように声を掛ける。ディーちゃんからの首肯を受け取って、わたしは送られてきたシェアエナジーも、グリモワールに貯蔵してある魔力も、目一杯術式に流し込む。これまでは先の事を考えて、実際いつまで掛かるか分からないからこそ慎重にやってた部分を取っ払った結果、吹雪はこれまでで一番強い勢いになる。当然認識への干渉そのものはどうにもなってないから、勢いは安定しないままだけど……それでも、どんどん雪に包まれた範囲は広がっていく。
「ううぅ、寒い…だけど、これなら……!」
「えぇ、これなら……」
『いける…!』
震えるような愛月の声が聞こえる中、意図せず重なる、わたしとディーちゃんの声。後少し、後ちょっと…そんな感覚が、わたしの中にはある。どうなったらゴールなのか、その明確な形はなくて、だから何を以て後少しと考えるのかは、自分でもよく分からないけど…だとしても、わたしの直感がそう告げている。それは多分、信じられる。
「──聞こえますか、皆さん。こちらももう、かなり雪が到達しています。見える範囲の森林には、降り積もっています」
「砂浜にも雪が降り積もり始めているわ。さっきまで暑かった分、余計に寒いわね…!」
「よっし、後一息!(だけど、わたしももう魔力は尽きかけ…全く、ほんとに無茶な事をしてるわね……!)
ギリギリのギリギリ、そんな状況だからか逆にテンションが上がる。深夜じゃないけど、深夜テンションみたいな感じになる。
まあでもいい、それはいい。今入ったワイトとイヴからの通信で、島の端にまで及んでいるって事が分かった。だから後少しで、本当に後ちょっとで……そう思った、次の瞬間だった。不意に、ルナからのシェアエナジー供給が途絶えたのは。
「ルナ…!?どうして……」
反射的に振り向いたわたしの目に映ったのは、片膝を突いた…人としての姿に戻っていたおねーさんの姿。…リバースフォームの、活動限界。おねーさんの、シェアエナジー切れ。
それからすぐに、わたし達の女神化も切れる。女神化を維持する分も術式に回していたからこそ、姿を維持出来なくなる。
「……っ…!もう少しで、いけそう…なのに……」
「くッ…こうなったらルナ、ウチからもう一度……」
「だ、駄目だよアイ!アイも皆も、もうへろへろでしょ…!?それなのにこれ以上シェアエナジーを貰ったら……」
「けど、ここで終わったら全部が水の泡です。私達一人一人のシェアエナジーは殆ど底を突いていても、全員から無理矢理絞り取ればもう少し位は……」
「──なら、私達のを使って。…いいよね?えー君」
シェアエナジー切れは、わたし達だけじゃない。皆ももう、立っていられない程ギリギリまでわたし達にシェアエナジーを送ってくれていて……そんな中で、聞こえたのは茜の声。そしてそれに、影が頷く。
「使って、って…でも、二人は……」
「ああ、女神じゃない。女神じゃないが…まあ、シェアエナジーを行使する存在とは、全くの無縁って訳でもないからな。全く何も出てこない可能性もあるが…やってみる価値はある筈だ」
「……分かりました。だったら…お願い……!」
祈るように両手を握ったルナが、二人に触れる。それからわたしとディーちゃんに触れて……感じる。伝わる。ほんの少し、本当にちょびっとだけど…送られてきた、二人の力が。
「…エスちゃん、術式の状態は維持出来てるよね?」
「当然。最後の一踏ん張り、わたし達にある最後の力…今度こそ本当に、使い尽くすわよ!」
ディーちゃんと背中合わせになって、杖を構える。再度の女神化はしない。後一押しだけなら、する必要もないから。
これで駄目なら、万事休す。作戦失敗は確定する。でも、大丈夫。そういうところで成功させてこそ……真の最強なんだから!
『いっせー、のー……でぇぇええええええッ!』
最後の最後、本当に最後にもう一度だけ吹き荒れる吹雪。同じように力を振り絞ってくれているエリナとビッキィの、更にはもう強化も必要ないって事でそっちに回ったズェピアの烈風に後押しされて、吹雪は舞い上がる。広がって、拡散していって、そして……
『──え?』
音が、消えた。不意に、突然に、それまで聞こえていた魔法じゃない風の音が聞こえなくなって、静まり返って……その、次の瞬間だった。地面が、水面が、空が──次元がひび割れ、巨大な亀裂が生じたのは。
今回のパロディ解説
・「〜〜通常の三倍〜〜」
ガンダムシリーズ(宇宙世紀)の登場キャラの一人、シャア・アズナブル(キャスバル・レム・ダイクン)の代名詞的な要素の事。同じガンダムシリーズ含め、三倍の速さ…は他の作品でもあったりしますね。
・「〜〜いつもの三倍の回転を加えて〜〜」
キン肉マンシリーズに登場するキャラの一人、ウォーズマンことニコライ・バルコフの代名詞的な台詞の一つのパロディ。所謂ウォーズマン理論というやつですね。
・「〜〜吹雪、起こすわよ?」
ONE PIECEに登場するキャラの一人、藤虎ことイッショウの台詞の一つのパロディ。これ単体では分かり辛いかな…と思い、返答でも触れる形でのパロディとしました。
・「〜〜夢を忘れた古いゲイムギョウ界人〜〜」
シンガーソングライター、新井正人さんの曲の一つ、アニメじゃない -夢を忘れた古い地球人よ-のパロディ。皆さんお分かりかと思いますが、「界人」は「カイト」ではありません。
・「〜〜某紅蓮隊〜〜」
閃乱カグラシリーズに登場するグループの一つ、焔紅蓮隊の事。具体的には、アニメ二期において五人がサンタの格好でのアルバイトをしていた時のパロネタです。