超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
凄く不思議な、不思議な場所。不思議な…空間?…を、イリス達は調べている。ここは、よく分からない事だらけ。よく分からないのは、イリスの知識が足りないから?……違う。皆、分かっていない。
分からないから、調べる。調べて、分かろうとする。…では、分かった後は?イリス達は、どうする?……恐らく、何とかする…のだと、思う。
このままは良くない。危ない。駄目。…そう、感じる。この感覚は…多分、間違いではない。
「……っ…また…!」
エリナが、少し緊張した様子で言う。よく分からない空間が、みるみる内に変わっていって、森?…の様な景色に変わる。
「これは…最初の河原と一緒に発生した森…とは何か違う気がしますね…」
「確かに樹木の種類が違うな。流石に名称までは分からないが」
「いや、種類が違うって断言出来る時点で大したものよ…よく見てたし、よく覚えていたわね」
「まあ、俺の場合頭で記憶する必要はないからな」
ぐるり、とビッキィが見回して、影が腕を組む。セイツの言う通り、覚えているのは凄い。…と思ったけど、何か違うらしい。頭でないなら、どこで記憶する?…心?
「取り敢えずここも調査してみる?…まあ、そうは言っても……」
「既に見えてるね、明らかに気になるのが……」
すぐ近くにいるディールとエストが、じーっと見ている方向。そっちは、森が開けている。
その向こう、開けた場所に見えているのは、三角や四角の形をした布。入り口があって、小さな家の様になっている。あれは、確か…テント、というもの。
「遠巻きに見ててもよく分からないし、近付いてみようか。勿論注意は必要だろうけど…これまでの結果からして、過度に警戒しなきゃいけない事はなさそうだからね」
「同感ッス。それに…あんまりゆっくりしてる訳にもいかないッスから、ね」
話しながら、イリゼとアイが歩き出す。イリス達も、一緒に行く。そうして森を抜けて、幾つかのテントがある場所へ。
テントの近くには、椅子とか、外で料理をする為のセット?…らしきものもあった。皆は、それぞれ調べ始める。イリスも、調べる事にする。
「これ、絶対キャンプだよね。愛月君はキャンプ慣れてるんだっけ?」
「あ、うん。旅をしてる時は、キャンプ…っていうか、野宿をする事もしょっちゅうだからね」
「まだ小さいのに野宿がしょっちゅうなんて、凄いよね。そういえばカレーを作るのも慣れてたし…うん、立派だよあい君!」
「そ、そうですか…?…えへへ、ありがとう茜さん」
愛月が、茜に褒められて照れている。それを見て、何故かネプテューヌがふふんとしている。イリスは今、テントの一つを調べている最中。
見た目は、おかしくない。変な事のない、普通のテント。けれどまた、中は見ていない。よってここからは、中の調査……あ。
「ディール、エスト」
「え?イリスちゃん、どうしたの?」
「テント、ノック出来ない。良い音しない。どうすればいい?」
「……ノックの代わりに、声を掛けたらいいんじゃない…?」
「おお、その手があった。エストは頭が良い」
「…イリスちゃんって、ほんとに独特よね……」
「それは、まぁ…そうだね……」
調べる時も、ディールとエストは一緒。ロムとラムと同じ位、ディールとエストも仲良し。
そのエストに教えられて、イリスは呼び掛ける。でも反応はない。無反応という事は、誰もいないのかもしれない。そう思って、イリスはテントの入り口を開け……
「わっ」
……誰か、出てきた。ぶつかった。だけど、痛くなかった。出てきた…人?…は、イリスをすり抜けていった。
「イリス君、大丈夫かい?」
「大丈夫。でも、驚いた」
「私も見てましたけど、確かに今のはぎょっとしますね…。…ここの人も、また幻影…か……」
「音を発していない点も、これまでと同様だね」
びっくりしていると、ズェピアとピーシェが声を掛けてきた。出てきた人は、料理セットの方で何かしてる。
変な空間から、違う場所に変わるのは、これで三回目。一回目は河原で、二回目は遊園地だった。河原、遊園地、森…じゃなくて、キャンプ場。どれも、全然違う。これは、適当?それとも……。
「…やっぱり、これも夏…って事……?」
「そういう事な気がするよね…遊園地は季節関係ない気もするけど、河原で遊んだりキャンプしたりする季節は?…っていったらまず夏を思い浮かべるし、季節関係ないっていっても、夏の遊園地は大盛況……な気がするし」
「そーなると、さっきえー君が言ってた通りここでは塔の中と同じシステムが……あ」
うーん、とビッキィとルナが一緒に首を傾ける。次に茜が喋って…その途中で、ぴたっと止まる。
止まった理由は、イリスにも分かった。…また、見える景色が崩れ始めた。割れて、砕けて、なくなっていく。
「…また、崩れた…そういえば、河原の時も人…の幻影に触れた後に起きていましたよね?つまり、それが切っ掛けになる…って事でしょうか」
「かもしれない…ですけど、まだサンプルが少な過ぎますね。それに、何というか…段々崩壊の勢いが……」
「…早く、激しくなってる気がする、か?」
こくん、とエリナとピーシェが、影に頷く。言われてみると、そんな気がする。河原の時は少しずつだったのに…今は、あっという間。
「…どういう事だと思う?わたし達はここまで、空間が元に戻る度に移動をしている訳だけど、それによって『何か』に近付いてるから、或いは逆に遠ざかってるから、その影響で作り出される空間の維持能力も変化してる…とか?」
「んー…それよりは、この次元が持たん時が来ているのだ!…って事じゃないかな?」
「それな気がするわね。これ、下手するとここまで来て間に合わずジ・エンド…って事もあり得るわよ?」
「エストちゃん、縁起の悪い事は…と言いたいところだけど…その可能性は十分あるよね。でも……」
考え込むような顔をしたイリゼ。でも、の後をイリゼは言わない。どうして?…と思っていると、ディールが教えてくれた。時間がない、早く何とかしなきゃいけない。だけど、どうしたらいいか分からない…だから、何も言えなかったんだと。
「…諸君。それも気になるが、まずは目の前の事に対応しよう。また空間が変貌するようだ」
「みたいだね!よーし…上から来るよ!」
『そ、その台詞は……!』
「……?」
ネプテューヌの言葉に、皆がハッとする。…何故?ネプテューヌ、おかしな事を言った?
と、イリスが思っている内に、また新しい景色になる。今度はドームの様な場所。恐らくスポーツをする為の場所で……
『……え?』
だけど、止まる。途中までドームの景色になったところで、ぴたりと止まって…ぐしゃりと、潰れる。さっきまでとも、違う。溶けるように、ぐずくずになって……そのまま消える。
「い、今の…何……?」
「…分からんッス。分からんッスけど…いよいよ維持だけじゃなくて、夏っぽい空間を作り出す事も出来なくなってきてるとしたら……」
「…大分、ヤバいですね」
ぽかんとする愛月に、イリスは首を横に振る。アイが答えて、それにピーシェが反応する。
分からない。分からないけど…少しだけ、分かる。恐らく…これまでより、もっと今は……危ない。
「くっ…急がなきゃいけないのに、その為にどうしたらいいかがさっぱり分からないままなんて、歯痒い…!歯痒過ぎる……!」
「お、落ち着いてビッキィ。気持ちは分かる…っていうか、私も同じ気持ちだけど、こういう時こそ冷静に考えないと……」
「うん、エリナさんの言う通りだよ。焦りそうな時は、落ち着いて状況整理と振り返りをするの。…そう、私達がこの次元に迷い込んだ切っ掛けは……」
『振り返りそこから!?ルナこそ落ち着いて!?』
ぎょっとした顔のビッキィとエリナが、ルナに強く言う。言われたルナは、目を白黒させている。…白黒というのは、そういう表現。本当にルナの目が、白色になったり黒色になったりしてる訳じゃない。
と、そこでイリスは気が付いた。影とズェピア、二人が上を向いている事に。それから元に戻った二人は、口を開く。
「…あると思うか?」
「現状、手詰まりだからね。確かめてみてもいいとは思うよ」
……何を言っているか分からない。…ので、ディール達に訊こうと思ったら、ディール達も何を言っているか分からない、という顔だった。
「えーっと…えー君?えるなむさん?もしかして、何か気付いたの?」
「多分な。お手柄かもしれないぞ、ネプテューヌ」
「ねぷ?よく分かんないけど、これは胸張っていいやつ?」
「いいやつ?って既に張ってるじゃんネプテューヌ……」
イリゼの言う通り、ネプテューヌはもう両手を腰に当ててふふんとしていた。イリスも自慢出来る時は、あれをやろうと思う。ふふん、しようと思う。
「で、何に気付いたんッスか?」
「至極単純な話だよ。ネプテューヌ君が言っただろう?──上から来る、と」
「あぁ、言ってましたね。……えっ、だから上?」
「それ自体は単なる切っ掛けだが、空間が崩壊する時は決まって落ちるような消え方をしていたからな。根拠としてはやや薄いが、闇雲に探すよりは良い筈だ」
「言われてみると、そうだったかも…けど、上って……」
ぽかんとするビッキィに、影が説明。その後は愛月がうーん、って顔をして…さっきの二人の様に、上を見る。
つられてイリスも、上を見る。上は…同じような光景が続いている。前も、横も、下も…どこを向いても、同じに見える。ぐるぐる見回していると、段々自分がどこにいるのか分からなくなる。
「行ってみましょ。飛んでみて、違ったと思えばまた別方向に行ってみればいいだけの話なんだから」
「私もエストさんに同感です。薄くても根拠がある以上、確かめるのは間違いではない筈ですから」
二人の言葉に、皆もこくんと頷く。決まったら、次は実行。ディール達は女神化をして、皆を連れて飛んでいく。イリスはディールとエストに片手ずつ握ってもらって、ぷらーんと飛ぶ。
「歩いてる時も思ったけど、こんな空間じゃ自分が真っ直ぐ上昇してるのかどうか不安になるね……」
「自分の位置、状態を把握する上で、如何に周囲の存在が重要なのかひしひしと感じるね。…更に言うならば、そもそも上下自体が絶対的なものではなく、相対的なものでしかない。セイツさんが不安に感じている事を含め、ここからも全員で固まって行動する事にしよう」
運んでもらうだけのイリスは、周りを見回す。あっちこっちにある残骸が、近付いたり離れたり、上にあったり下にあったりする。
それ以外にする事がないので、時々ディールとエストの手をにぎにぎしてみる。すると、ディールとエストはにぎにぎを返してくれる。…やっぱり、二人の手は、好き。ディールとエストの手は、ロムとラムと同じ温かさがあって……だけど、大きい気もする。殆ど変わらない筈なのに…大きい。
「……!セイツさん、これって……!」
「また空間が変わるみたいね…!皆、どうする…!?」
「行ける筈だ、このまま突っ切れ…!」
ルナの声、セイツの質問と、影の答え。それからすぐに、また景色が変わって……違う。今度はもう、何かも分からないまま、崩れてバラバラになって消える。
「……何か、寂しいわね」
「…寂しい、ですか?」
「えぇ。なんていうか…作りたい形が、描きたいものがあるのに、もうそれは叶わなくて届かない…今の光景を見ていると、そんな風に感じるの」
崩れる中で、上昇を続ける。その中で、ネプテューヌがエリナと話す。…イリスに、その感覚は分からない。でも、イリスはいつも日記を書いている。日記を書くと、その日の事を思い出せて、胸の辺りがぽかぽかする。
だけどもし、日記を書けなかったら…多分、イリスは、悲しい…と、思う。
「……え、あれ?また…!?」
そんな風に思っていたら、また景色が変わりそうになった。これまでは、こんなにすぐまた起きるなんて事はなかった。
これも、おかしくなっている…のが、進んでいるという事?…そうなのかもしれない。この後も、何度か同じ事が続いた。形にならない空間の変化が何度か起きて……それから、止まる。
「…ディール?エスト?」
「……何か、あるわね」
「うん。多分だけど…何か、ある」
何かがあると、二人は言う。でも、イリスには何も見えない。ここまでと、何も変わらないように見える。だけど、ディールとエストが言うのなら……多分、間違いない。
「ああ、私も二人に同感だよ。ここから先に、何かある。何があるかは、直接確かめる他ないだろうが…ね」
「踏み込んだ瞬間即戦闘…って事もあり得るわな。全員、覚悟しとけよ?」
「りょーかい!まかせてっ!」
「あっ、ちょっ、ピーシェ様!?今手を離されたら落ち……え?」
びしっ、とガッツポーズを取るピーシェ。その時ピーシェが手を離した事で、運んでもらっていたビッキィは落下……しなかった。ビッキィは、飛べない筈なのに浮いていた。
「び、ビッキィが何もないところで立ってる……?」
「…いや…違う、愛月。ここ、ちゃんと足場がある…」
「へ?…あ、あれ?ほんとだ、立てる……」
「本当?ディール、エスト、手を離して」
イリゼの手を掴んだまま、愛月が何かを踏むような動きをする。大丈夫?と二人に訊かれたイリスは大丈夫だと答えて、手を離してもらう。
落ちる感覚、ない。立ってる感覚、ある。歩ける。ジャンプも出来る。イリス、何かに立つ。
「一体何がどうなって……あ、でも…」
「あぁ。そもそも飛ぶ以前から、俺達は足場なのかどうかもよく分からない場所を歩いていた訳だからな。何がどうなってるのかは俺にも分からない…が、恐らくそういうものなんだろう」
「それなら…皆、一度降りる?」
頬に指を当てた茜に、影が頷く。それからイリゼが、飛ぶのを止めて降りる。他の皆も、同じようにする。
「何があるか分からないけど、確かに何かはある気がする…漠然とでも分かってるだけいいと見るか、漠然にしか分からないから逆に困ると見るか、微妙なところね」
「分かるわ、セイツ。だけど、なんであれ…きっとこの先にあるのは、この次元における中核の中核、根源の部分…そんな気がするわ」
「…最終決戦、なのかな……?」
「かもしれませんね。戦いになるとも限らない…とは思いますけど…」
最終決戦と、ルナが言う。ディールがそうかもしれないと返す。最終決戦…前の事を、イリスはよく覚えていない。途中までしか覚えていなくて…気が付いたら、終わっていた。
あの時、皆苦しそうだった。…あれは、嫌。だからまた、皆が苦しそうな時は…イリス、頑張る。
「…連絡、繋がるかな…あ、繋がった。イヴ、ワイト君、状況を伝えておくね」
「はい。お願いします」
「それならこっちも状態を話しておくわ」
小さな機械、インカムを使って、イリゼがイヴ、ワイトの二人と話す。まずイリゼが話して、それから二人が教えてくれる。…ここの外は、どんどん酷くなっている。どんどん亀裂が出来て、広がって…ボロボロになっている。二人は、そう言っていた。
「まさか、外もそこまで酷くなってるとは…こうなるともう、一旦引き返して立て直す…なんて事は出来ませんね」
「いいじゃない。大して消耗してる訳じゃないし、そもそもここに踏み入った時点で、皆簡単に戻れるとは思ってななかっただろうし。それともビッキィは、一旦引き返す事を考えてたの?」
「まさか。むしろそれならそれで、迷う必要がなくてすっきりする位ですよ、エストさん」
「…決戦…流石に、緊張するわ……」
「だいじょーぶだよ、りなちゃん。緊張は、そこそこあった方がいいものだからね」
「いやあの、緊張するかどうかじゃなくて、多分この先にある物事の大きさを気にしてるんだけど……。…でも…ありがとう茜。今ので、少しだけ気持ちが楽になった気がするわ」
「茜は天真爛漫に見えてしっかりしてる…けど、それはそれとしてやっぱりどっかズレてるとこあるからな」
「そうそう。ちゃんとしてる部分と独特な部分が微妙なバランスを保ってるのが茜というか、そこに変な唯一無二性がある的な…ね」
「えーと…これ、私はどんな反応すればいいのかな……」
うんうんと、腕を組んだイリゼとアイが頷き合う。言われた茜は困った顔をして頬を掻く。それを見ていたセイツは、気分が良さそうににこにこしていて…それからこほんと咳払い。
…これは、セイツが風邪を引いている訳ではない。皆に注目してもらったり、話を変えたりする時に、わざと咳払いをする事もある…らしい。
「それじゃあ、皆……準備はいいわね?」
大丈夫、とイリスは言う。ディールやエスト、皆も答えたり、頷いたりする。
作戦会議?…の様なものがないのは、何も分かっていないから。けれど問題はない。こういう時、イリスはどうすればいいか知っている。こういう時は、高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に……
『いやそれ駄目なやつだからね!?』
「…そうなの?」
「うん、ほんとに駄目なやつだから…勿論実際に動く時には必要な考え方ではあるけども……」
「動く前も前、初手に出しちゃったら、それはちょっと……」
……駄目らしい。イリス、ディールとエストにしっかり駄目だと言われたので、気を付ける事にする。
「き、気を取り直して行こうか…余裕のない状況だからこそ、焦って前のめりになったりはせず、一時撤退の選択肢も常に頭の隅に置いておこう、皆」
ゆっくり見回したイリゼの言葉を聞きながら、またイリスはディールとエストに持ってもらう。そうしてイリスはふわりと浮いて…イリスには見えない、だけどきっと何かがある場所へと飛び込む。
……ところで、ディールとエストはさっき、イリスの頭の中の言葉に反応をした。
これも、魔法?それとも、イリスの頭の中はディールとエストに把握されている?…どちらだとしても、ディールとエストが凄い事には違いない。
*
私が次元の亀裂…それも建造物と混ざり合ったような裂け目を見ても頭がパンクしたりしない理由を、えるなむさんは「特殊過ぎて、頭が認識不能なものと判断している」…って事なんじゃないかと言っていた。実際のところはどうか分からないけど…多分、そんな感じなんだと思う。で、外から見てもそうだったのと同じように、中に入ってからもやっぱり大丈夫だったし…状態を、構造を、いまいち読み取れなかった。私の目は把握出来てるのかもしれないけど、頭の方が「うーん、無理!分かんない!」…ってしてるのかもしれない。
しょーじき、助かった。流石にずっと目を瞑ったままじゃまともに行動出来ないし、足手纏いになるから一人で待機…なんて嫌だから、むしろ把握出来なくて良かった。いつもなら何でも分かるのに、伝わってこないものがあるっていうのは、それはそれで不安だけど…りなちゃんにだいじょーぶだって言った私がびくびくしてたら、そんなの格好が付かないもんね。ここは…じゃないね、ここも頑張らなくっちゃ。
でも、私が把握出来ない事象がこうも大規模に…なんて、ほんとびっくりだよね。……別次元とも違うあの空間での事といい、仮想空間での事といい、これまでにもちょいちょい似たような事はあった気もするけどね!
『……!』
『そこ』を抜けた瞬間、その内側に踏み込んだ瞬間、感じるものがあった。上手くは言えないけど、何かが変わった…そう、私は感じた。多分、それは皆もそう。
「今のは……皆、大丈夫?何か変だったりしない?」
「大丈夫…だけど、何か違和感があるような……」
「私もちょっと違和感が……って、あれ?…ない……」
すぐに動きを止めて、ねぷちゃんが振り返る。それにまず、あい君が答えて、次にるなちゃんが答えて…それから、首を傾げる。
その時に言った、ない…っていう言葉。それで、私達も気付く。二人の言っていた違和感が何なのかって。一体、何がないのかって。
「…ねーな、残骸が」
「ここにあった残骸がなくなったのか、元からここにはなかったのか…これだけでは、判別が付かないね」
「それもそうだけど、敵は?いないなら拍子抜けだけど、もし隠れてるとかなら……」
「んー?ねぇねぇ、なんかある!」
えすちゃんの言葉を遮ったのは、ぴぃちゃんの大声。今度は、『ない』じゃなくて『ある』。そして、声を上げながらぴぃちゃんが指差した先にあったのは……
『…ノート?』
本…っていう感じじゃない、開かれた紙の束。厚みとか、ぱっと見の作り的に、やっぱりそれはよくあるノートみたいなもの。そういうものが、何もない空間に浮かんでいた。
「や、やたら意味深な感じのノートですね…絶対何かありますよ、アレ……」
「あるわね、むしろこれで何でもないただのノートだったら逆に驚きだわ……」
「…うん、そーだね。あのノート、ただのノートじゃないよ」
「…何か見えたのか?茜」
「ううん、逆。この空間と同じように、殆ど分からない…だからきっと、普通のノートじゃない」
身構えるきぃちゃんとりなちゃんの言葉に頷く。あれが普通のノートなら、素材とか作りとかが読み取れるけど、全然見えてこない。私にとって普通じゃない見え方をしてるんだから、それは普通のノートじゃないって事。
じゃああれは、何のノートか。普通じゃないみたいだけど、危ないノートか、それとも役に立つノートなのか。多分皆、こういう事を考えていて……その中で、ぜーちゃんが一歩前に出る。
「…取り敢えず、触ってみる。皆は何が起きてもいいように注意してて」
「なら、わたしが後ろに付きます。即座に防御出来るようにしておくので、変だと思ったらすぐに後退して下さい」
「ふふ、ありがとディールちゃん。心強いよ」
なら私も…と言おうと思ったけど、あんまり大人数で一ヶ所に集まると、瞬時に動こうとしても互いが邪魔になる危険がある。それにあのノートは誘い出す為の餌で、近付いた拍子に別の方向から攻撃が…なんて事もありそうだったから、私は皆と一緒にその場で構えて結果を待つ。
真っ直ぐ歩いていったぜーちゃんは、浮かんだノートの前に到達。それからゆっくり、ぜーちゃんはノートに触れて……何も、起きない。
「…イリゼ、何か異変は?感じるものとかない?」
「今のところはない、かな……」
なぞるようにぜーちゃんはノートを触ってから、ページを捲る。ぺらりぺらりと、数回それを繰り返す。でもまだ、何も起こらない。さっきからずっと静かなままで…その内にぜーちゃんは首を傾げる。
「…うー、ん…?これって……」
「ぜーちゃん、何か気になる事があったの?」
「気になる事、っていうか…これ、ノートというより日記帳…みたい」
『日記帳?』
どうしてこんなところに日記帳?…と思った私達だけど、よく考えたらノートでも日記帳でも驚きに差はない。それからもやっぱり、ノート…じゃなくて日記帳は、うんともすんとも言わなくて……私達も、近付いてみる事にした。
「本当に日記帳ね…日記といえば、夏休みの宿題にあったりもするけど……」
「……?この日記、絵がある。イリス、描いた事ない…」
「あー、イリスちゃんって普段から日記付けてるんだっけ?ま、これは絵日記ってやつよ」
「日記じゃなくてレポートなら、僕もよく書いてるなぁ…何故かは分からないけど、コンテストに出る時とか、通信をする時とかも書かないといけないし……」
これも夏絡みの事?とねぷちゃんも首を傾げる。書かれている絵や文章は、普通の絵日記って感じで……だけど一つ、凄く気になる事がある。
「…筆跡が違うな」
「うん。筆跡もそうだけど、絵のタッチ…っていうか上手さ?もページ毎に違う気がするってゆーか……これ多分、違う人が書いてるよね?」
「いや、全てのページが違う訳ではなさそうだよ?ただ何にせよ、複数人が関わっている事は間違いなさそうだね」
だよね、とえー君に同意する。その後のえるなむさんの発言で見返してみたら…確かに、同じ筆跡のページもあった。
こんなの、絶対変。だって、絵日記っていうのは一人で書くものだから。勿論交換日記ってパターンもあるし、学校で日直の子に「その日の事を書いてね」って感じでノートを回したりする事もあったりはするけど、交換日記だとすると関わってる人が多過ぎる(交換日記は相手のを読むのが醍醐味なのに、これじゃ中々回ってこない)、日直のノートだったとしたらどのページもちゃんと書き過ぎてる。大概は適当に書く子がいるものだし、そうでなくとも絵まで毎回描くってなったら、日直の子の下校が毎回遅くなっちゃう。だから多分、どっちも違う。
「最初のページは、プールですね。その次は、お祭りですか…」
「更にその次は野菜の収穫で……あっ、こ…これは……っ!」
『夏の、祭典……!』
最初から読み込んでみようって流れになって、でぃーちゃんがページを戻す。その隣でえすちゃんも読み込んでいて…開かれた四ページ目の内容を見て、私達ははっとする。お祭りはお祭りでも、普通のお祭りとは違う、でも熱量は凄まじいらしいそのお祭りの存在で。
「このページだけ、段違いに絵が上手ぇな…まさかサークル参加組か……?」
「サークル?どういう事?」
「あ、それ僕も教えてほしいな…なんて……」
「あー…よしルナ、任せた」
「なんで私!?え、えぇー……私も説明出来る気がしないから、誰か手伝っ…ってちょっと皆!?全員揃って目を逸らさないでよぉ!?」
ごめんねるなちゃん、でも私もまだ小さい二人にこの祭典の話をするのは嫌だから…と丸投げすると、るなちゃんは四苦八苦しながらも、ざっくり説明をしていた。お疲れ様、るなちゃん。
…って感じで一度空気が緩んだけど、すぐに戻って絵日記の確認が進む。そうしていく内に、私は…ううん。多分皆が、ある事に気付く。
「コンサートに、キャンプに、砂浜…あの、これって……」
「…どれも、見たきがするかも?」
りなちゃんとぴぃちゃんの受け答えに、皆が頷く。この絵日記を通して見た場合に思う事…それは、その多くに見覚えがあるって事。全部って訳じゃなくて、見たり聞いたりした覚えのないのもあるにはあるけど…ここに書いてある事と、私達がこの次元で経験してきた事が、無関係だとは思えない。
ここにあるもの、起きた事が、この絵日記に描かれるのか、それともこの絵日記の内容がこの次元に作用するのか。どっちだったとしても、これとこの次元とはきっと深い関係が、もしかするとこの次元の根幹とかに関わる何かが……
「…って、あれ?ここで終わり?」
ぺらぺらと捲っていった末、最後のページ。そこには……何も書いてなかった。そこだけ白紙のままだった。絵日記は最後のページまで書かなくちゃいけない…なんてルールはないし、よく考えなくても別に変な事ではないんだけど…なんていうか、意外だった。
でも、本当に意外だったのはここから先。見覚えがあるって事は凄く気になるけど、それ以上の事は分からない。最後のページが白紙だった事で、そういう雰囲気になり始めていた……その時。
『……!?』
急に、何の前触れもなく、最後のページに表れた変化。いきなり、突然、文字と絵が浮かび上がってきて、白紙のページに内容が出来る。
「だ、誰か何かしましたか…?」
「いや、ウチは…じゃねぇな、誰も何もしてねー筈だぞビッキィ」
「何もしていないのに、勝手に浮かび上がってきた…となると、元々一定の間隔で内容が増えていくとか、そういう事か…?或いは……」
顎に親指と人差し指を当てて考え込むえー君。もっと余裕のある状況なら、推理してる感じのえー君の姿を眺めていたいところだけど、その後にすぐ、更なる変化が表れる。今浮かび上がってきた内容で、最初から最後まで完成した絵日記帳……それが今度は、溶けるようにして消えていく。
「ちょっ、今度は何事!?一体何がどうなってる訳…?」
「そ、それを私に訊かないでよセイツ…。……しかもこれ、全部のページが消えてる…?」
「…これ、内容が全部消えちゃったから、この次元の異常も全部直った…なんて事は……」
「もしそうなら嬉しいですけど……そういう事でも、なさそうです」
るなちゃんの言葉を、でぃーちゃんが否定する。そのでぃーちゃんは、最初のページを開いていて……そこにもまた、じわりと内容が浮かび始めていた。ついさっき、全部のページの内容が消えて、今また最初の一ページが出来上がる。暫くしたところで、二ページ目も浮かんでくる。
(…あれ…?でも、この内容って……)
立て続けに起こる、謎の現象。それを言ったら、この空間そのものがまず謎なんだけど…それはそれ、これはこれ。新しく浮かんだページとその内容を、私達は全員で見て…すぐ、気付く。
一ページ目には、プールの事が書いてある。それも娯楽施設のプールじゃなくて、授業や競技で使うプールが絵になっている。二ページ目にはお祭りの内容が書かれていて、何を食べただとか、でも途中で落としちゃったとか、何をしていたのかが日記を読むと伝わってくる。だけど、それは…そこに書いてあるのは……消える前と、同じ内容。一字一句正確に覚えてる訳じゃないけど、絵も細部まで記憶してる訳じゃないけど…少なくとも、同じ話題で、同じような文と絵が載っている事は間違いない。
「…繰り返されている、という事かもしれないな」
「自分もそう思うわ。最初のページから最後のページまで順々に書かれていって、最後までいったら全部消えて、また最初から同じ内容が書かれていく…でも、何の為に?」
「…先に進まない為だろうね。これが夏の日記なら、これの終わりは夏の終わりを意味する事になる。まあ現実的には関連性なんてある訳がないけれど…ここは普通の空間でも次元でもない。或いは逆に、日記が終わると夏も終わるから繰り返しているんじゃなく、終わらないという状況が、繰り返される日記という形で現れているのかもしれないね。何故現れているのか、現す必要があるのかについては…案外、意味なんてないのかもしれないが」
分からないけど、そうかもしれない。えるなむさんの言葉に私はそう思った。皆も似た感じで考えている気がする。
その後も暫く私達は観察していたけど、それ以上の変化はもうなかった。まだ全部のページが埋まってはいないから、本当に繰り返されているのか、それとも全ページ消えちゃうのがさっきの一度だけの事なのかの確認は出来てないけど…多分繰り返されているんだろうなって、感覚的にそう思う。
「…まだ、見てる?」
「えー、それじゃあつまんなーい」
「ならば、ピーシェも書く?イリスはいつも日記を書いているから、書き方を教えてあげる」
「ほんと?やたっ!」
「いやいやいや、状況を思い出して下さいピーシェ様…。…精神年齢が下がっちゃう事だけが、女神の姿になったピーシェ様の難点なんだよね……」
「た、大変ねビッキィも…。…ですが実際、どうしますか?もう暫く様子を見ますか?」
「いいや、もう十分じゃないかな。女神化だってノーコストで維持出来る訳じゃないんだし…皆、薄々思っているでしょ?きっとこれを何とか出来れば、終わらせられるって」
「うん、僕もそんな気がする。…でも、どうやって?」
「さぁね。まあでも、最初に試してみるとすれば…やっぱりこれでしょ」
ぴっ、と立てた左手の人差し指の先に、魔法で小さな炎を出すえすちゃん。元凶…な気がする存在を何とかするなら破壊するのが一番手っ取り早いし、日記帳…というか紙なら、誰だって燃やすか破くのをまず思い付く。だからこれは、普通の事。
「でも、燃やしちゃっていいのかな…?結構安直な気もするんだけど……」
「けどディーちゃん、色々考えたところでそれを判断する材料が碌にないんだから、まずは試してみるのが一番でしょ。大丈夫、本を燃やせば勝てるって、週刊の少年誌で学んだから」
「それ魔本だよね…!?王様を決める戦いの話だよね…!?」
「まあ、取り敢えずやってみて頂戴。皆もそれでいいわよね?」
くるりも振り向いたせーちゃんの言葉に私達は頷く。それじゃあ、とえすちゃんが指先に炎を出したまま左手を構えて、銃を撃つようにして軽く振る。その瞬間、炎は火の玉に変わって、絵日記帳へと直撃する。
流石に、これでこのまま燃えて終わり…にはならないと思う。多分何か起きるし、戦いになってもおかしくはない。でもそういう事が起こるつもりで、そういう覚悟を持って、私達はここにいるんだから……そう、思っていた時だった。
「……え?あれ?」
ぽつんと零れるような、えすちゃんの困惑した声。その声が聞こえた時、私も、皆も、困惑していた。だって…えすちゃんの放った火の玉が、絵日記帳に崩されたんだから。真っ直ぐ飛んでいった火の玉は、開いた状態の絵日記に当たった事ですぱーんと…ではないけど、二つに分かれてそのまま消えていっちゃったんだから。
「…茜。今のは……」
「うん…魔法が妨害されたとかじゃなくて、単純に通用しなかっただけ…だと思う」
「…ただの絵日記帳じゃないって事は分かってたし、何かしらあるとは思ってたけど…こうもあっさり凌がれると面白くないわね。だったら……」
目線は絵日記帳から離さないまま呼び掛けてくるえー君に、私は答える。攻撃が失敗する形になったえすちゃんは、本当に面白くなさそうな雰囲気で杖を構える。そうして構えた状態から魔法陣を展開して、そこからさっきより遥かに大きな火球を……
「……!まってえすと、何かヘン──」
放とうとした直前、ぴぃちゃんが発した叫び。その声が聞こえた次の瞬間、絵日記帳から鼓動みたいな音が聞こえて──絶叫が、響き渡る。絵日記帳が絶叫なんて、おかしな事。そんなの分かってるけど、絶叫としか言いようがない音が、耳をつんざくような爆音が轟いて……絵日記帳が、暴れるように捲れていく。
そして、私達が反射的に耳を塞ぐ中、浮かぶ絵日記帳を中心に、景色が変わっていく。建造物の中でも見た、プールの様な空間に変わっていって……大津波の様な、大量の水が押し寄せる。
『なッ…きゃああああぁぁぁぁぁぁッ!!』
咄嗟に回避…なんて間に合わなくて、私達は押し流される。鉄砲水(水鉄砲じゃないよ?)の凄いバージョンみたいな水流に飲み込まれる。何もない、広い空間だったおかげですぐに水流は拡散して、私達も立て直す事が出来たけど…それだけじゃ、終わらなかった。
「……ッ!また来るぞッ!」
立て直した私達に、色々なものが飛んでくる。モップにビート板にコースロープ、プールにあるような物が次々と私達を襲ってくる。
でも、勢いはともかく飛んでくるのはどれも危険なものじゃない。そう思って、私は弾き返そうとした……けど。
「うぇっ!?わ、わわっ!?」
「茜…!ちっ、迎撃システムか何かが作動した訳か…!やはりあの絵日記帳は破壊する必要がありそうだな…ッ!」
飛んできたコースロープの繋ぎ目を狙って振るった大剣。でも、コースロープは全く斬れずに絡み付く。そのまま私自身も絡め取られて、ぐるぐる巻きになって倒れる。
「うぐ…ッ!?」
「いったぁ!?ビート板なのに硬ぁ!?」
私と同じようにモップを斬り払おうとしたぜーちゃんも、ビート板を殴り付けたきぃちゃんも、逆に押し返される。それでも躱したえー君達は、絵日記帳へ向かって突っ込んでいくけど、そこでまた大量の水流が押し寄せてくる。膨大な水が迫ってきて…そこで前に出たのはでぃーちゃんとえすちゃん、それにえるなむさん。
「ディール君、エスト君、支援する。防御を…!」
「二度も同じ手は喰らわないっての!」
「皆さん、わたし達の後ろに…!」
瞬時に展開される魔力の障壁。すぐに皆はでぃーちゃん達の後ろに跳んで、二人の力とえるなむさんの支援を受けた魔力障壁が、真正面から水流を受け止める……と、思った。
だけと、三人がかりの障壁は破られる。幾ら凄い勢いっていっても、結局はただの水流。魔法が得意な女神の二人が、えるなむさんの支援まで受けて展開した魔力障壁なら、受け止められない筈がない。…そんな私の想像を超えて、魔力障壁が砕かれる。皆がまた、押し流されていく。…っていうか、この水流こっちまで来るよね!?私ヤバいよ!?コースロープが絡まったままだと、割と冗談抜きに溺れちゃうよ!?
「うわわっ、待って待って…!」
慌ててもがいて身体を捻って、ごろごろ転がって間一髪私は脱出。水には飲まれる事になったけど、辛うじて溺れる事にはならなかった。…でも……
「まさか…攻撃も防御も、通用しないって事……?」
戦慄したような、ねぷちゃんの声。どこにでもあるような物に、私達の攻撃は弾かれた。強力な筈の防御が、打ち砕かれた。今起こったばかりの結果を前に……誰もその言葉を、否定する事は出来なかった。
今回のパロディ解説
・「〜〜この次元が持たん時が来ているのだ!〜〜」
ガンダムシリーズ(宇宙世紀)に登場するキャラの一人、シャア・アズナブル(キャスバル・レム・ダイクン)の台詞の一つのパロディ。逆襲のエスト…なんかすっごい悪戯を仕掛けてきそうですね。
・〜〜イリス、何かに立つ
機動戦士ガンダムにおける、第一話のサブタイトルのパロディ。何かに立つ、だと全然迫力がありませんね。何に立ってるのか分からないので、当たり前ですけども。
・〜〜高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に〜〜
銀河英雄伝説に登場するキャラの一人、アンドリュー・フォークの代名詞的な台詞のパロディ。ディールとエストも言っていますが、実際必要な思考ではあるんですよね。最初からそれ言っちゃ駄目なだけで。
・「〜〜週間の少年誌〜〜」、「それ魔本〜〜戦いの話〜〜」
週刊少年サンデー及び、金色のガッシュ‼︎の事。因みに魔本というと、丁度ディールとエストには(写本)グリモワールがありますね。厳密にはこれは魔本ではなく魔導書ですけど。