超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

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第二十八話 力の限りに

 一度倒した事のある相手が復活…っつーか再生してまた現れるってのは、まあ創作の中じゃ時々ある事。既に乗り越えた存在、倒し方も長所短所も分かってる相手ってのは、まず間違いなく過去に倒した時程の脅威にゃならない。なんならその時からの成長を示すのに丁度良い相手ってパターンすらある。

 だがそれは、そいつ単体を相手にすれば良い場合だとか、こっちがその時より遥かに強くなってる場合だとかに限る。ゲームとかだと、そもそも過去に倒した時より能力値を抑えられてる事なんかもある。そういう事情があるから、一度目よりも楽に倒せるってもの。

 なら、そうじゃない場合はどうなるか。別の相手と戦っている…それも苦戦している時に再生してきたら、しかもこっちがまだ大して成長してない時に現れたら……そうなっちまったらもう、前よりは楽に倒せるどころか、前以上の脅威にだって、十分なり得る。

 

「皆さん!上を見て下さい!」

「…見る前に、ちょっと心構えをしておいた方がいいと思うわよ?」

 

 絵日記へ弾丸をぶち込もうとしたワイトを横から突き飛ばした巨大猪相手に、ワイトのドリフティングスノーリペアは攻めあぐねている。そのワイトをどうサポートしたもんかと、飛んでくるスベールバナナを避けながら考えていたところに聞こえた、ディールとエストの声。どうも碌な事じゃねーと思いながら、ウチは視線を上げ……理解した。…はッ、確かにこれは心構えをしておいて正解だったな…!

 

「フェニセクト…!動植物…いや、その巨大猪を普通の動物にカウントしていいのかは怪しいが…が現れた時点で、可能性としてはあり得なくもないとは思っていたが……」

「ちょっとこれは…いいや、かなりこれは洒落にならないな……ッ!」

 

 影とイリゼが声を上げる。ウチが見上げた時点では、遥か上にいた存在…フェニセクトは、ただそこに浮いているだけだった。だがウチ等が気付いたからなのかは分からねーが、ウチが見上げる中で、フェニセクトは動き始める。ゆっくりと、こっちに向けて下がり始めて……ある瞬間から、加速する。一気にフェニセクトが突っ込んでくる。

 

「……ッ!炎が来るわよ、皆ッ!」

 

 炎が来る、とネプテューヌが言った直後には、宙から火炎放射が放たれる。咄嗟にウチ等が回避行動を取る中、炎は広範囲に広がり……

 

「……ッ!?い、今の炎で、ミサイルモロコシが焼きミサイルモロコシに…!?」

 

……いや、最初に気にするべきところはそこじゃねーよビッキィ…確かにウチも、「あ、飛んできてるもんも普通に巻き込むのな…つか、燃え尽きるんじゃなくて焼きミサイルモロコシになるのかよ…」とは思ったけどよ…。

 

「これは良くないな…諸君、今の火炎の熱量からして、我々が先に一度倒したフェニセクトと戦闘能力は殆ど変わらないようだ。もしフェニセクトにワイト君が狙われれば、一気にチェックメイトになりかねない…!」

「でしょうね…けど、やらせるもんですか…ッ!」

 

 火炎放射で薙ぎ払ったフェニセクトは、間髪入れずに飛び回る。上下左右、縦横無尽に動き回りながら、火球を乱射しぶち込んでくる。

 確かにその通り、今ここでワイトが狙われれば…そしてやられる事があれば、ウチ等は絵日記帳への攻撃手段を失う。最悪、その時点で全滅が確定…なんて事にもなりかねない。当然それを見過ごす訳もなく、先陣を切ったセイツを追う形でウチや他の面子も突っ込む…が、フェニセクトの厄介な部分は、炎による攻撃じゃない。それ以上に厄介なのは、フェニセクト最大の脅威は…その機動力。セイツの斬撃も、ウチの飛び蹴りも、続く攻撃も悉くが避けられる。回避しながら、フェニセクトは反撃の炎を吐いてくる。

 

「くッ…ワイトの支援どころじゃないわね……!」

「っていうか、このフェニセクトには攻撃が通用するの…?もし、通用しないんだったら……」

 

 高度を上げたところに放たれたイヴの射撃とルナの魔法も躱される。回避先へ突っ込もうとする中で、ルナの不安混じりな声が聞こえてくる。…あぁ、そうだ。ルナの言う通りだ。たとえ攻撃をぶち込めたとしても…通用しないんじゃ、どうにもならない。……けど。

 

「そんときゃそん時だ!今は、悩んでる場合じゃねぇぞッ!」

 

 プロセッサユニットの翼、その先の先にまで力を込めて、目一杯加速する。火の粉を撒き散らしながら飛び回るフェニセクト、その尋常じゃねー速度を相手に全力全開で喰らい付く。

 行き当たりばったりは百も承知。色々作戦を、『通用しなかった時』の事を考えておいた方が賢明だってのはその通り。だが…もう状況は、退けねぇところにまで来ている。今は何が何でも、フェニセクトに喰らい付いてワイトが狙われる事を避けなくちゃならねぇ。そしてそういう時に、何とかすんのが…自分も周りも奮い立たせるのが…女神ってもんだ…ッ!

 

「オラぁッ!」

 

 フルスピードで背後を取ると同時に、横薙ぎで蹴りを振り抜く。死角からの一撃を放った…筈だったが、フェニセクトには躱される。続く皆からの攻撃もフェニセクトは全て回避し、火球の連打でこっちの追撃を潰してくる。そんな迎撃の中を掻い潜って、もう一度ウチは肉薄するが…二度目の攻撃も、当たらない。クソッ…啖呵切っといてこれじゃ格好が付かねぇな……!

 

「その時はその時……うん、そうだ。分からなくても、挑むしかない時はある…そうだよね、フロスト!ファング!」

「そうね、ローズハート様の言う通りだし…愛月の言う通りだわ…!」

 

 フロストが放つ水流と、ファングの突撃。それを避けた先へエリナが打ち込む電撃。士気はまだ落ちちゃいない。やってやるって心は、伝わってくる。

 だがそれも、フェニセクトにゃ届かない。前と違って、今はウチもイリゼ達も食べるが、代わりにミサイルモロコシやらスベールバナナやらを避けながら戦わなきゃならない上、ワイトもこっちにゃ来られない。前と今と、どっちがキツいかっつったら…どっちもキツいに決まってる。…だとしても、やるしかない。

 そう、ウチが思う中、フェニセクトはディールとエストの魔法を急降下で回避。巨大な氷塊二つが虚空を切り……降下したフェニセクトへ迫るのはルナ。

 

「お願いします、ズェピアさん!」

「任せ給え」

 

 後方からズェピアが放った旋風で加速したルナの、大上段からの跳躍斬り。跳んだルナと、一瞬目が合う。その瞳に、さっきの声に滲んでいたような不安の色はない。ウチが発破を掛けた結果?…はッ、違ぇな。切っ掛けにはなったかもしれねーが、今ルナの心の中にある思いは、ルナ自身で燃やしてるもんだ。

 そうして打ち込まれる、旋風の勢いを乗せた斬撃。当たりゃかなりの威力になるのは間違いねぇ一撃で…だがそれも、当たらない。ルナの斬撃が届く一瞬前にフェニセクトは上昇し、回避と同時にルナの上を取り……

 

「ぴぃぃぃぃ……ぱーーんちっ!!」

 

 その更に上から飛来した閃光が…一瞬閃光と見間違える程の急降下を掛けたピーシェが、フェニセクトの頭部へ鉤爪と拳を叩き込む。ぐしゃり、という音が聞こえ……ピーシェの一撃が、頭部を抉る。でもってそれを見たウチは、ズェピアの支援を受けたルナの一撃が、本命に見せかけた陽動だったんだと気付く。

 

「やたっ!さくせんどーり!」

「わっ…!そ、そうだね…ばっちり決まったね…。…でも出来れば、次からハイタッチする時はもうちょっと優しくやってほしいかな……」

 

 ばちーん!…とハイタッチをするルナとピーシェ。狙った訳じゃないが、全員でフェニセクトに高度を落とさせた事と、陽動と、その上で本能的な部分はピカイチなピーシェの強襲が、今の一撃に…直撃に繋がった。

 その結果ウチ等が得たのは、二つの事実。一つはフェニセクトに対し、ピーシェの一撃が通った…ウチ等の攻撃が通用するんだって事。そして、もう一つは……

 

「……あ。ルナ、ピーシェ、危ない」

『え?うわわっ!?』

 

 危ない、というイリスの声が聞こえた直後、ルナとピーシェのいた場所が炎に包まれる。間一髪、ルナの腕を掴んだピーシェが飛び退いた事で二人は無事で済んだ……が、まだ全く安心は出来ない。

 確かに頭部を潰されたフェニセクト。だが炎の前には、未だ健在のフェニセクトがいた。潰された筈の、潰した筈の頭が……凄まじい勢いで、再生していた。

 

「おいおい…冗談じゃねぇぞ、ここにきて……!」

 

 薄く長い羽が震える。即座に突っ込み押し潰すように再度頭を踏み抜いてやろうと思ったが、寸前にフェニセクトは飛び立ち躱す。通用しない訳じゃねぇ。だが…喰らってもピンピンしてるって意味じゃ、結局のところ変わらない。

 

「あはは、困ったね…こうなると、いよいよ本当にフェニックス感があるかな……ッ!」

「そもそも喰らわないのと違って、一応ダメージそのものは通るんだから…とは、とても言えないわね…ッ!」

 

 茜の飛ぶ斬撃とセイツの突進が、躱したフェニセクトを追い掛ける。だがこれまでの攻撃と同じように、フェニセクトには回避される。…セイツの言いてー事は分かる。ダメージがあるなら、再生上限を超える事で倒せる可能性もあるんじゃねーのかとはウチも思ったが…その上限を迎えるのが、いつになるかは分からない。上限がある…ってのも、確定してる訳じゃない。それに何より…こうも速いんじゃ、攻撃を当てる事自体もままならない。

 一発入ったという希望が崩れていく。そんときゃそん時、と言ったのはウチだが……こっからの一手、次の策が、全く思い浮かばない。勿論、だからって諦めるつもりなんざないが…だったら、どうする?どうしたら、フェニセクトを仕留められる…?

 

「──よし、これで…ッ!」

 

 そんな中で聞こえた、スピーカー越しのワイトの声。ちらりと見れば、ワイトは巨大猪を倒していた。

 それを見て、思った。ワイトが絵日記帳を何とか出来りゃ、それで終われば、フェニセクトを倒す必要もねぇんじゃねーかと。このまま一気に決まるんじゃねーかと。…だが、そう上手くはいかない。巨大猪を倒した直後…フェニセクトは、ウチ等に背を向けワイトへ突っ込む。

 

「させるか…ッ!」

「ワイト君を狙うというのなら…!」

 

 真っ先に反応した影とズェピアによる、未来位置を予測した攻撃。交差するような軌道で放たれた弾丸と魔術が、真っ直ぐ突っ込むフェニセクトへ同時に直撃する…が、止まらない。再生力にものを言わせるように、一気にワイトの機体へと迫る。

 ウチが今いる場所からじゃ、どうやっても間に合わない。仮に間に合ったとしても、押し留められるだけのダメージを与えられる確証はない。そして、ウチが次の事を考えるよりも前に、フェニセクトはドリフティングスノーリペアへと襲い掛かり……

 

「あはっ♪飛んで火に入る夏の虫…ってね!」

 

──次の瞬間、フェニセクトが爆発した。…いや、違う。エストの声が聞こえた直後、フェニセクトが自らの炎とは別の爆発を諸に浴びる。

 

「…エストちゃん、今のって……」

「忘れた?わたし達が錬金で作ったのは、何も弾薬だけじゃないのよ?」

 

 爆発を受けて落下したフェニセクト。その爆発は、凄まじい程の規模…って訳じゃなかったが、むしろそういうレベルの爆発じゃなこったにも関わらず、先の攻撃や、ピーシェの一撃以上に効いている。それを見て、イリゼが呟き…いつの間にか先回りをしていたディールと共に、エストが愉快そうに笑う。そして、そのエストの手にあるのは……見覚えのある、導火線付きの爆弾。

 

(…はは。そうか…そういや、それがあったな)

 

 それを見て、思い出す。ディールとエストに、錬金術の説明を受けた時の事を。丁度その時作っていたのが、その爆弾だった事を。

 今のではっきりした。錬金で使ったものなら、フェニセクトに大きなダメージを与えられる。通用するかどうかだったこれまでと違って、こっちは明確な特効手段になる。んでもって、巨大猪も倒した今、今度こそ絵日記帳へ攻撃を……

 

「さぁて、それじゃあこれで駄目押し──」

「……ッ!エスちゃん飛んでッ!」

「へ?うわぁ!?」

 

……なんて、上手い具合にはいかなかった。エストが手にした爆弾でもう一発浴びせようとした瞬間…そのエストに、巨大猪が襲い掛かった。

 

「ちょっと、ワイト!?倒したんじゃなかったの!?」

「申し訳ありません、エスト様…!ですが、間違いなく倒しはしました…!ですので、これは……」

 

 エストがディールに続く形で宙へ退避し、ワイトが巨大猪を押さえに入る。ワイトの機体と、巨大猪がぶつかり合う。その猪の身体に…傷はない。

 

「まさか、別個体…?だとしたら、これは……」

「倒したところで、新たな巨大猪が…或いはやられる前の状態で再度現れた個体が襲い掛かってくるだけ…その可能性は否めないね」

「いつも通り貴方はクールね。だけど、もしそうなら……」

 

 動揺の声を上げたビッキィに、ズェピアが答える。そして、その可能性に対してネプテューヌは、言葉でこそ最後までは言い切らなかったが…その先は、言うまでもない。これが、相当不味い事は、考えるまでもねぇ。

 

「皆、そっちもそうだけど、こっちもまだまだ気を抜けないようだよ……!」

 

 直後、イリゼの声で全員がフェニセクトへと視線を戻す。エストがぶち込んだ爆弾で墜落したフェニセクト。これまでとは違い、明確にダメージを負ったフェニセクトだが……そいつが今、再び浮かび上がっていた。爆破された部分は殆ど回復しないまま、その部位に炎を揺らめかせた状態で…巨大な火球を、ワイトの機体へ向けて吐く。

 

「ここは……いや、フロストは消火をお願い!ファングはアクアテール!」

「フェニセクトを引き剥がすわよ、皆…!」

 

 飛来した火球を、ディールが障壁で防御。すぐさま愛月が指示を出し、フロストは障壁を突き破ろうとする火球を津波で消す。ほぼ同時にファングがフェニセクトの背後から仕掛け、そこにイヴが攻撃を合わせる。

 

「グリモアシスター様、爆弾は後幾つありますか!?」

『後一つ(です・よ)!』

「あ、いや、今のはエスト様の方…だったけどいいか、ありがとうございます…!けど、後一つって事は……」

「確実に、最大の効果を発揮するタイミングで使わなければ勝機はないだろうな…!…やるぞ、茜」

「まっかせて!」

 

 連続攻撃で、ウチ等はフェニセクトを引き剥がす。とにかくすばしっこいフェニセクトはダメージを負った状態でも相変わらず避けまくるが、そのおかげでワイトからの距離を空ける事だけならそう難しい話でもなかった。…だが、当たらない。やっとの思いで一発二発当てても、錬金で用意した訳じゃねー攻撃手段じゃ、すぐに回復されちまう。

 その中で、宙を切るように飛ぶのは影の遠隔操作武器。射出されたそれと連携するように、茜も突っ込む。端末はそれぞれが別の挙動と軌道でフェニセクトに迫り、回避を引き出す。そして、避けた先にいるのは…茜。

 

「……ッ、惜しい…!えー君、もっかいお願い!」

「…イリゼ、前の時みたいに貴女も合わせられそう?」

「どうかな。無理、とは言わないけど……」

「待ってろ。下手に追い込むと、無差別に炎を撒き散らしてくる可能性があるからな」

 

 紙一重で空を斬る茜の大剣。すれ違うように避けたフェニセクトは、反転と同時に火球を放…とうとしたところで、一瞬早く複数の端末が砲撃を撃ち込む。フェニセクトは回避を優先し、おかげで茜が躱す余裕も生まれる。

 下手に追い込むと…つった影だが、確かにそんなに大きくもねぇ端末で炎に突っ込んだらすぐに大破しちまうんだろうが、それだけが理由じゃねー事は見れば分かる。端末一つ一つに別々の役割を持たせ、一つの部隊の様に操っている今の影にとっちゃ、変に加勢されるよりも、体力の温存でもしていてくれる方がいい…って話なんだろう。影にゃ、フェニセクトの回避を選ばせ、回避先へ追撃し、そこからの反撃を誘い込む一連の動きを一人で行う力がある。その上で、端末に足りない決定力は、本命の一撃は…茜が、担っている。

 

「……ね、アイ」

「んぁ?」

「一つ、協力してほしい事があるんです」

 

 一度目は紙一重で避けられた茜の攻撃が、二度目は浅くだが入る。更にその次は、よりしっかりとフェニセクトを斬る。一撃毎に、茜はフェニセクトを捉えていく。どうもフェニセクトはウチ等が何か狙っている事を察知しているようで、何度かこっちへ向かってこようとする素振りを見せているが……それを、茜と影が封殺している。

 とはいえ、だからってのんびり眺めるつもりなんざない。…と、思ったところで掛けられる声。

 

「協力?」

「そ。アイならもう気付いてると思うけど…あれじゃ倒せない。むしろすぐに息切れするわ」

「…まあ、だろうな。幾ら影がお膳立てしてるとはいえ、あの速度のフェニセクト相手に先回りして攻撃し続けるなんざ、元から消耗が激しい茜に向いた動きじゃねーし…そのお膳立てをしてる影の方は、あんなのいつまでも続けてたら頭がフットーしそうになるだろ」

「わたし達も、そう思ってます。…あ、いや、頭がフットーしそうになるとまでは思ってませんけど…というかその言葉、今の状況に合ってます……?」

 

 頬を掻きつつ訂正するディールに、律儀だな、とウチは軽く笑う。…どう考えても、二人の攻勢は無理がある。相手に再生能力がある以上、時間稼ぎにしかならねぇ。

 それなのに、どうして二人は実行したのか。無理がある事に気付けねぇような二人じゃねーだろう事を思えば…むしろ時間稼ぎこそが、二人の狙いだって考えるのが自然。待ってろっつってウチ等の加勢を拒否したのも、時間稼ぎに参加するより次の一手を考えろって事だろうしな。

 

「ま、だから二人が封殺してる間に勝つ為の策を用意しよう…って事だろ?そりゃ構わねーが…どうしてウチなんだよ」

「だってほら、おねーさんとセイツおねーさんは魔法の才能が全くないっぽいし、ピーシェに感覚で合わせられるタイプ以外の連携を求めるのは厳しそうだし、ネプテューヌちゃんは女神っていっても次元…じゃなくて世界からして色々違い過ぎる以上、力を合わせる上での不安がどうしてもあるのよ。だから、アイって訳」

「消去法かよ…これでしょぼい連携だったらキレるからな?」

 

 どうも連携は、女神の方がいいらしい。他じゃ駄目そうだからウチに…ってのは本当に引っ掛かるが、んな事に拘っていられる状況でもない。そう自分の中で切り替えて、ディールとエストの話を聞く。二人の考える、勝つ為の策を聞き……考える。

 

「…やれそうですか?」

「どうだろうな。ウチだって別に、魔法が得意な訳じゃねーし。…ただまぁ、いい加減フェニセクトにブンブン飛び回られるのも目障りだからな。いいぜ、乗ってやるよ」

「ありがと。それじゃあ…期待してるわよ?」

 

 ウチの答えに、ディールは黙って頷き、エストはにっと口角を上げる。いつも一緒にいるのに、こういう時の反応が対照的な辺り、本当にディールとエストはルウィーの双子の女神…って感じだよな。

…なんて事も考えながら、ウチはゆっくりと息を吐く。説明を聞いたとはいえ、ぶっつけ本番の連携になる。ディールとエストは以心伝心だろうが、ウチはそうもいかない。この連携が失敗するとしたら、そもそもの作戦に無理があったか、ウチがミスるかの二択。だが…上手くいきゃ、恐らく状況を覆せる。勝機が見えてくる。だったら、リスクを負う価値はある。いや…たとえリスクが莫大でも、臆するつもりなんざねぇ。だから……やってやろうじゃねぇか。全力で。全身全霊で。

 

 

 

 

 黒切羽を、全神経を集中させて操作する。…別にどこぞの呼吸法をしている訳じゃないが、意識の殆どを黒切羽とフェニセクトに向ける。

 

(分かってはいたが、脳への負担が凄まじいな…。茜にしろ俺にしろ、持って後……どれ位だ?ちっ、相変わらず分からん……)

 

 この空間でも尚、時間を正しく認識出来ない。そういう状態だと知って以降、時間の把握は出来ずとも、こうして時偶に時間に対する思考が出来るようになったが、これが全員そうなのか、それともエリナだけが意識への干渉を受け辛かったように、俺にも何かしらの理由が…それこそ例えば、昔は時間に干渉する類いの力もあった事が関係しているのか、その辺りは全くの謎。だがまあ、今はそんな事どうでもいい。今意識を向けるべきは、そこじゃない。

 

「茜、まだいけるか!?」

「まだ、だいじょーぶ…!えー君が踏ん張ってるんだから、私も無理だなんて言わないよ…ッ!」

「なら、引き際を見誤るなよ…!」

 

 飛び上がり、擬似魔力を足場に鋭く方向転換し、茜は俺が誘導したフェニセクトへ肉薄する。懐に飛び込んだ茜の斬撃が、真後ろに下がるフェニセクトの腹部らしき部位を捉える。致命傷と言える程ではないが、確かに入った一撃であり…されど、すぐに再生する。何発攻撃を与えようと、やはりこの次元由来の存在でなければ一瞬のダメージにしかなり得ない。

 その状態でも心折れる事なく動き続けてくれる茜の胆力は、今も昔も変わらず頼もしい。…だからこそ、引き際は俺が見極めなければいけない。このイレギュラー続きの空間ではまだどんな力が、どこで役に立つか分からない以上、途中で体力が尽きるのは避けるべき事。

 

(俺の集中力もそうだが、そろそろ黒切羽のエネルギーが尽きるな…間に合うか……?)

 

 黒切羽とフェニセクトへ意識の大半を割いた上で残った、僅かな余裕。それを用いて、散発的に射撃も混ぜる。遠隔操作端末はそれぞれが本体…要は操る側とは別で動けるのが長所の一つであり、俺自身は時々射撃する以外は棒立ちっていう今の状況は折角の長所を活かし切れていないとも言えるが、今は黒切羽の操作に全力を注がなければ瓦解するのだから仕方ない。

 むしろ問題は、回収しての再充填が出来ない事。一基でも下げれば、一気に構築した戦線は崩れ、残った端末が落とされるのは必至。かといってこのまま動かし続ければ、すぐに全基機能停止になるのもまた確実。どちらを選んでも結果はほぼ同じであり…そんな中で、背後から声が掛けられる。

 

「影君。君の黒切羽は、まもなく活動限界となるのではないかな?」

「…よくご存知で」

「前の戦いで、あの端末群の事をよく学ばせてもらったからね。という訳で…これを用意した。性能はオリジナルの約85%、機能もこの場で必要だと思われるもの以外を全て廃した模造品だが、もし使えると思うのであれば役に立ててほしい」

 

 ちらりと視線を向ければ、背後のズェピア…その周囲に、俺が今操っているのと同数の黒切羽……の、模倣品が浮かんでいた。…全く、相変わらず並外れた事をいとも容易く言ってくれるな。だが……

 

「…ありがたい。使わせてもらうぞ、ズェピア」

 

 どうせズェピアの事だから、こっちの操作方法にも対応させているんだろう。そう考え、一瞬意識を模倣黒切羽へと向け……接続を確認。即座に俺の黒切羽を離脱させ、同時に模倣黒切羽を突撃させる。

 

「わっ、なんか降ってきた!?」

「ルナ、それにイヴ、余裕があれば今落ちた黒切羽を回収してほしい。ちょっとそこまでやれそうになくてな…!」

「構わないわよ。さっき加勢を止められて手が空いていたところだもの」

 

 離脱と模倣版の再展開までに生まれた数瞬の内に、茜はフェニセクトに距離を詰められる。その茜を援護すべくまずは一斉掃射をし、続けて各基を散開させる。ふん…何がもし使えると思うのであれば、だ。確かに性能は少し落ちているが、十分役に立つレベルじゃないか…。

 

「はは、流石は影君。性能が足りない分を、よりコンパクトな動きをする事で補うか。しかしその場合、追い詰める力は落ちて、茜君の負担は増えそうなものだが……ふっ、それも織り込み済みなのだろう?」

「そういう事だ。どちらにせよ、茜も一度下がらせたいところだったからな。出番だ、女神連中!」

 

 本当に余力ギリギリの状態で下がらせようとすると、上手く離脱出来なかった場合のリカバリーが利かなくなる。だからその一歩手前で声を上げ……真っ先に、イリゼが動く。

 

「女神連中って…全く、影君もギリギリの状態なのは分かるけど言い方が良くないよねほんと!」

「……っ!えー君、ぜーちゃん、私はまだ……」

「でも、パフォーマンスは落ちてるよ?影君に加えて私の目でもそう思うんだから…そんな事ない、とは言わないよね?」

 

 圧縮シェアエナジーを用いた加速でイリゼはフェニセクトを側面から強襲し、セイツとネプテューヌが遠隔攻撃で追撃を掛ける。茜はまだやる気だったようだが、それをイリゼが説き伏せる。俺の名前を出す辺り、イリゼもよく分かっている。

 

「悪いがイリゼ、今回合わせてやる余裕はない。だから…上手く合わせてみせろ」

「あまり悪いって思ってなさそうな言い方を…。…まあ、でも…心配は無用だ。それを望むのなら、完璧に合わせてみせよう」

 

 言うが早いか、イリゼは後退。フェニセクトを引き付けながら、俺にアイコンタクトを取ってくる。それを受けて、俺は頭の中でイリゼ用にプランを練り直し、挟撃する形で模倣黒切羽を動かす。

 二手に分かれた模倣黒切羽を、挟み討ちの瞬間に更に前後で分ける。十字砲火を躱したフェニセクトの注意を前衛端末に向けさせて、後衛端末で次の攻撃を更に行う。フェニセクトの動きに合わせて常に編成を組み直し…全基を結集させる。当然そうすれば、フェニセクトは一網打尽にしようとし……その背後に、イリゼが舞う。

 

「まずは、一撃ッ!」

 

 イリゼの斬撃は、斬っ先が僅かに掠めただけに留まる。すぐにフェニセクトは背後を取り返し、火炎放射で反撃してくる…が、イリゼは翼を閉じ、失速する事で落下して避ける。回避と共に素早く離れて黒切羽を突っ込ませる隙間を作る。

 

(…全く、言うだけの事はあるな。だが……)

「はッ…はッ…ふ……ッ!」

 

 数度、繰り返す。茜と同じように、イリゼの攻撃も段々とフェニセクトを捉え始める。

 だが、イリゼの消耗は茜より早い。ズェピアが言った通り、今のイリゼは茜が黒切羽と共に仕掛けていた時より負担が大きく…それに何より、イリゼの戦闘スタイルが真価を発揮するのは、ある程度以上の知性を持つ存在が相手の場合。そうではない相手に対しても、女神なんだから対応出来ないって事はないだろうが、間違いなく難易度は茜の時より高いだろう。

 とはいえ、イリゼがそれを分かっていないとも思えない。だとすれば……

 

「セイツ、ネプテューヌ…お願い!」

『了解!』

 

 右手に持った長剣の一撃をギリギリで躱したところへ、左手の片手剣が打ち込まれる。斬り裂かれながらもフェニセクトはすぐさま火球を吐いてくるが、イリゼは振り抜いた片手剣を振り上げる要領で投げ放ち、火球を迎撃。続けて弾かれるように後退し……そこに呼ばれた二人が飛び込む。

 

「影。わたし達はイリゼや茜レベルで貴方に合わせる事は出来ないわ。だから……」

「その分二人掛かりでやらせてもらうわ…!」

「だと思った。そうなるとむしろ、こっちはより大変なんだがな……!」

 

 注意が分散すればする程、動きを読み辛くなる。厳密に言えば相手の取り得る行動パターンが増えて絞り込みが大変になるって事だが…まあ、そこは大した問題じゃない。

 頭をフル回転させて、再度変化した状況に対応する。ネプテューヌとセイツも大変である事を理解してくれているようで、初手から思い切り飛び回り奮戦をしてくれている。俺自身、模倣黒切羽に慣れてきた事もあって、何とか持ち堪えられている。

 

「そっち行くわよ、セイツ!」

「みたいね、本当に速い…ッ!」

 

 回避からの高速移動でフェニセクトはセイツを狙い、セイツは急降下を掛けて避ける。追おうとするフェニセクトを模倣黒切羽の包囲攻撃で足止めし…上を取ったネプテューヌと、急降下からイリゼ同様圧縮シェアエナジーを使って無理矢理急上昇に切り替えたセイツが、上下からの同時攻撃が叩き込む。

 

「ネプテューヌ!このまま真っ二つに両断して…くぁッ!?」

 

 急降下の勢いを乗せた大太刀が突き立てられ、縦連結の剣が振り上げの動きのまま深く食い込む。そして二人は、フェニセクトを完全に裂く事でこれまでとは違うダメージを与えようとした…が、速さは力に直結する。フェニセクトが暴れるように飛び回った事で、斬り裂く前に二人は強引に振り払われる。

 すぐさま二人は宙で立て直すが、フェニセクトの反撃はそれよりも早い。あっという間に傷を再生させながら、二連続で火球を撃ち込む。それを俺は模倣黒切羽半数の砲撃で落とし、残る半数はフェニセクトへと向かわせ……だが、外れる。避けられたのではなく、狙った位置から僅かに逸れる。

 

「……ッ…!下がれネプテューヌ!セイツ!」

 

 偶然ではない。気が抜けた訳でもない。この失敗は…俺が限界を迎えたという事。そして、限界故のパフォーマンス低下は、気力ではどうしようもない。

 声を上げると共に、模倣黒切羽全基をフェニセクトへ突っ込ませる。どの端末も、ズェピアが常時魔力を送り続けている事は操作感覚で把握している。であれば、恐らく……

 

「えー君、もしかして……」

「…そういう事だ。くそ…もう少し持ち堪えるつもりだったんだが……」

 

 推力最大で突っ込んだ模倣黒切羽の内、過半数は撃ち落とされる。残りも次々躱され、辿り着いたのは一基のみ。それでも触れた瞬間、エネルギーをオーバーロードさせた瞬間、黒切羽は魔力の爆発を起こし、ダメージと共に目眩しをフェニセクトへ浴びせる。

 ディールとエスト、それにアイが何か狙っている事は分かっていた。その準備が済むまで時間を稼げればいいと仕掛けた訳だが…足りない。恐らくまだ、三人は実行に移れない。

 

「大丈夫だよ、影君。足りないって言うなら、ここからは私が……」

「自分達が、稼いでみせるわ!」

 

 近くに着地する、イリゼ達女神三人。ダメージと目眩しからフェニセクトが復活する中、三人は再び仕掛けようとし……だがそこに、声が響く。

 

「いいや、ここからは我々に任せてもらおう。ルナ君、ビッキィ君、エリナ君!」

「はい!」

「えぇ!」

「せーのッ!」

 

『サンダーライト・フォースッ!』

 

 直後、轟音と共に宙を駆け抜ける多数の電撃。落雷という言葉があるが、本来雷は地上から空の雲へ向けて登るもの…それを思い出させるような、激しい光が何条も宙へ、フェニセクトへ向けて殺到する。

 一口に電撃と言っても、その色や性質はそれぞれ違う。四方向から放たれた電撃は、取り囲むようにフェニセクトへ迫り…しかし、当たらない。速度も範囲も十分ではあるが、やはりフェニセクト相手には一手足りない。…そう、俺は思っていた。だがそれは誤りだった。この攻撃に対し、俺は二つの誤認をしていた。

 

『今(だよ・です)、ピーシェ(様)ッ!』

「まっかせてっ!えいやぁああああぁぁぁぁッ!」

 

 四種の電撃が迸る中、フェニセクトが火の粉を垂らしながら回避する中、更に一つの存在が宙を駆ける。電撃にも匹敵する迅速で以って、ピーシェがフェニセクトへ肉薄をする。

 

(この電撃の嵐の中を駆け抜けるか…正に適材適所、だな……)

 

 先程俺は、女神の頭数にピーシェを入れなかった。女神化している時のピーシェが黒切羽に合わせられるとは思えなかったし、俺もピーシェの動きを読むのは難しいと判断していた。そのピーシェが今、考えて避けるのは困難であろう空間を猛烈な勢いで飛んでいる。フェニセクトすら動きが鈍る中で駆け抜け、既に複数回の打撃を与えている。

 ただそれでも、連続して電撃を放ち続ければすぐに四人も…いや、ズェピアはガス欠になった姿が想像出来ないが…消耗しきってしまう筈、…そう、考えていたのが二つ目の誤り。

 

『……!電撃が、曲がる…!?』

 

 驚愕の声を上げるイリゼ達。確かに、電撃は曲がっていた。四方向からバラバラに放たれた電撃同士が引き合うように、その軌道を変化させてフェニセクトを追い詰めていた。

 これも、魔法の電撃だからこそ出来る芸当?…いいや、違う。電気には、その極性によって引き合う、或いは反発する性質がある。所謂クーロン力というやつだが…それを用いて、四人は電撃の軌道を操作している。今、ズェピアがやたら細かく指示を出してそれぞれの電撃の出力やら向きやらを調整している事からもそれは間違いない。

 

「まだまだいくよーっ!とりゃりゃりゃりゃーっ!」

 

 その巨体もマイナスに働く事で、電撃の包囲網から逃れられないフェニセクトへ、ピーシェは着実に攻撃を与える。当然何発打ち込もうと再生されるが、深く当たればその都度動きが鈍る。足止めとしては、十分に機能している。

 後は、これがどれだけ続くかどうか。ズェピアの指示と、それぞれの体力が、どこまで途切れずにいられるか否か。

 

「…皆、手伝ってほしい事があるわ。協力を頼めるかしら?」

 

 そんな中、あっちこっちに落下した黒切羽を全て回収してくれた(途中まではルナもしてくれていたが)イヴがこちらに来る。イヴは協力の内容を話し……その内容を聞いて、俺達は愕然とした。

 

「…正気か?イヴ」

「い、幾ら何でも危な過ぎるよゆりちゃん…私も色々経験してきたけど、そんなエキセントリック自殺みたいな作戦にはドン引きだよ……?」

「エキセントリック自殺って…確かに危な過ぎるとは思うけど、だから皆に言ってるの。影に計算してもらった上で、四人に分担協力してもらえば…多分、なんとかなるわ」

「…本気なの?冗談抜きに、自分達へ命を完全に預けるようなものなのよ?」

「今ここでやれる事は全てやらなくちゃ、賭けにも出なくちゃ、私達は全滅する可能性も十分あり得る…そうでしょう?ネプテューヌ。それに…案外何とかなるかもしれないわ。だって私、似たような経験をそれこそ()()一度してるんだし」

 

 だから大丈夫と、イヴは笑ってみせる。バトルスーツで顔は見えないが、声にその色を滲ませる。……本当に、正気を疑いたくなる。ワイトと共に颯爽と現れたはいいものの、ワイトと違ってあまり活躍出来てないからヤケでも起こしたのか、と割と真面目に思ってしまう位には、危険な賭けをイヴは提示している。

 ただ…その声に、躊躇いは感じなかった。本気である事は、ひしひしと伝わっていた。…だから、茜達は頷く。覚悟を決めたように、表情を引き締める。

 

「…意外と無茶するタイプなんだな、イヴは」

「そうね、多分周りに感化されちゃったんだと思うわ」

「そうかい…なら、全員絶対に位置と速度を間違えるな。完璧以外はミスだと思え。茜も分かってるな?」

「勿論。大事な友達が身体を張ろうとしてるんだもん、失敗なんかさせないよ」

 

 話しながら視線を向ければ、ルナ達の顔付きは険しくなっていた。もうこの辺りが限界という事だろう。ならば、即実行に移す他ない。

 一つ深呼吸をし、俺は計算する。四人の電撃、茜はイリゼ達の能力、それに物理の法則…そんなあれこれを頭の中で演算して、こねくり回して……叫ぶ。

 

「話はイヴから聞いた!早速やるぞ!」

『……!』

「えっと、あれだね!よーしッ!」

 

 発した声に全員が反応し、茜達は飛び上がる。次の瞬間、残る力を振り絞るようにそれぞれの電撃が密度を増し、フェニセクトの退路を完全に塞ぐ。逃げる場所はない。一箇所だけ、空白があるが…そこにはピーシェが、電撃の暴威の中でも飛べる女神が既に身体を捩じ込ませている。

 突撃、肉薄。一瞬で迫ったピーシェの重い一発が、フェニセクトの腹部へ直撃。最初の一撃の様に、再びフェニセクトを叩き落とし……

 

「今だッ!茜!」

「うんッ!皆、私に合わせて!」

 

 宙に拡散していく無数の電撃。それを、女神三人に運ばれる事で超高速となったイヴが一気に追い越す。イヴ達が、広がる電撃よりも高高度へ到達し…次の瞬間、電撃は再び軌道を変える。その全てが、イヴ達へ…イヴへ向けて殺到する。

 

「……ッ!お願い、皆ッ!」

『(応・えぇ)ッ!』

 

 直後、イリゼ達三人は反転。急上昇から急降下へと瞬時に変わり、猛烈な速度で降りていく。

 それは、強靭な女神だからこそ出来る事。完成を真っ向から捩じ伏せる、女神でなければ身体がどうなるか分かったものではない行為。つまり…イヴからすれば、身体がバトルスーツの中でグチャグチャになるか、その前に意識が飛ぶかするような行い。だが…ここでイヴは、動く。耐え抜き、耐え切り……バトルスーツをパージ。展開状態のまま、排出されるように外へと出て、その腕をネプテューヌが掴む。そこからネプテューヌは、減速しながらイヴを連れて離脱し、逆にバトルスーツを掴んだままのイリゼとセイツは更に加速する。圧縮シェアエナジーを使う事で到達仕掛けていた電撃を引き離し、そのままフェニセクトへ向けて突っ込む。そして、二人がバトルスーツを離した瞬間、バトルスーツがフェニセクトに触れた直後──収束した四人の雷電が、フェニセクトを貫く。

 

「…まさか、本当に上手くいくとはな……」

「ふっ、流石に君もヒヤヒヤしたかい?…私も正直、ヒヤヒヤだったよ…」

 

 あ、これは本音だな、と分かるズェピアの声。雷光が迸り、フェニセクトが自ら発しているのとは別の火花が大量に散る。

 何の事はない。やったのは単なる、電撃の誘導。説明を聞く限り、イヴ自身にもズェピアが誘導を補助する魔術を掛けていたようだが…基本的には高高度へ昇る事で電撃を引き寄せ、そこからバトルスーツが常に最も高い位置になるようにしながら高度を下げていき、最後はバトルスーツをフェニセクトへ叩き付ける事で、電撃がスーツの表面を伝ってフェニセクトへ直撃するように仕向けていた。…全く…本当に無茶をする。それに、これ自体はイヴの発案らしいが、これの仕込みにも関わっているとか、本当にズェピアはいつの間に動いていたんだ…?

 

(だが、これは四人がかりの全力だ。ピーシェの一撃を受けた直後のこれならば、たとえあれだけの再生能力があったとしても──)

 

 イリゼ達もルナ達も膝を突く。これでも恐らく撃破出来ていないと思うと末恐ろしいが、十分に時間を、それを用意出来るようなダメージを稼げた筈。だから、後は……そう、思った時だった。地を走るような火炎が、凄まじい勢いでディール達の方へと伸びていったのは。

 

『な……ッ!?』

「……ッ!フロスト、ファング!」

 

 そんな馬鹿な。…そう驚く感情が思考を遮り、反応が遅れてしまう。瞬く間に火炎が迫る中、咄嗟に動いた…というより、三人の護衛をするべく構えていた様子の愛月が反応し、辛うじて炎を防いでくれたが……だから安心だ、とはならない。

 融合した電撃でズタズタとなった、そうなった筈のフェニセクト。だがそのフェニセクトは、まだ再生し切らない内から飛び上がる。炎を吐き出し、周囲に撒き散らしながら、ディール達へと向かっていく。

 おかしい。フェニセクトの耐久力は推測でしかないとはいえ、あれだけのダメージなら、もう少しの間は動けない筈。収束した、一つとなった電撃を完全に浴びている状態で、こうも早く動ける訳が……

 

(…いや、違う…!動けているという事は、前提が違っているのか……ッ!)

 

 確信はない。だが、イヴにも電撃の誘導を補助する魔術が付与されていたのなら、そしてそのイヴの負担を減らす為にネプテューヌが減速しながらの離脱をしていた事を思えば……電撃の一部が離脱した後のイヴに引き寄せられて、フェニセクトから逸れてしまっていたとしてもおかしくはない。

 理解は出来た。出来たが、今出来ても仕方がない。必要なのは、フェニセクトを足止めする手段だが…撒き散らされる炎が、接近を許さない。何とか撃ち込んだ射撃も、一発二発じゃ止められない。

 

「ディールちゃん!エストちゃん!アイ!」

 

 叫ぶイリゼ。皆飛ぼうとしているが、既にフェニセクトはかなりの距離まで迫っている。もう、間に合わない。どうしようも…ない。

 そうしてフェニセクトは、肉薄。炎の勢いでフロストとファングを強引に退かす。ディール達は気付いていないのか、それとも動けないのか、目を閉じたまま動かない。回避も最早、遅過ぎる。そして三人を真正面に捉えたフェニセクトの口内に、膨大な業火が燃え盛り……

 

「──させないッ!お願い、ハートフル!サイコショック!」

 

 その時だった。三人とフェニセクト、その間へと放られた一つのボール。そこから、白と桃色の体色に、リボンの様な部位が特徴的な、フロストともファングとも違うポケモンが現れたのは。その直後、ハートフルと呼ばれたポケモンの周囲に小さな物質が複数現れ、それ等が一斉にフェニセクトへと撃ち込まれたのは。

 それは、正に直前の直前で放たれた攻撃。これ以上ない程のタイミングで直撃する、カウンターの一撃。諸に受けたフェニセクトは仰け反り、吐き出された火炎は三人の頭上を焼くに留まる。強烈な火炎…されどそれは、当たりはしない。

 

「よしッ!続けてハイパーボイス!いっけぇッ!」

「ひゅーいぃっ!」

 

 間一髪の、三人の窮地を救った瞬間。だが愛月はそこで気を抜かなかった。続けざまに次の指示を出し、ハートフルが強烈な音波を追撃として放ち、フェニセクトを押し返す。どうも今の技はあまりダメージには繋がっていないらしく、フェニセクトは怯んだ様子しか見せなかったが……恐らく愛月自身、ダメージは狙っていない。愛月の狙いは押し返す事、ほんの僅かにでも時間を追加で稼ぐ事であり……次の瞬間、ディール達三人の立つ場所に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 

「…お待たせしました、皆さん」

「漸く準備が整ったわ。…いけるわね?アイ」

「ああ。やるぞ、ディール、エスト」

 

 三人の静かな声と共に、この広大な空間の中へ、一気に冷気が満ちていく。青白い魔力が、シェアエナジーの光が、瞬く間に広がっていく。そして……

 

『──アブソリュート・ローゼスタール』

 

 立ち上る、樹木が如き多数の氷柱。絡み合うように広がる、無数の枝。芽生えた蕾は、青と白の花となり……凍て付く薔薇の領界が、顕現する。




今回のパロディ解説

・「〜〜頭がフットーしそう〜〜」
げっちゅー♥︎の主人公、椎名安俚の代名詞的な台詞のパロディ。台詞の内容の時点で恋愛絡みだよね、とは察せる台詞ですが、元ネタのシーンはかなり驚きのものだったりします。

・〜〜どこぞの呼吸法
鬼滅の刃における用語の一つ、全集中の呼吸の事。全集中ってそんなに言葉としても複雑じゃないですけど、よくよく考えてみると、案外これまでなかった言葉ですよね。

・『……!電撃が、曲がる…!?』
ガンダムSEEDシリーズの主人公の一人、キラ・ヤマトの台詞の一つのパロディ。この台詞は前にもパロネタにした気がします。これ、時々使いたくなるんですよね。
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