超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
耳が幸せ、って言葉があるよね。気持ちの良い音とか声とかがしている時に使う言葉だと思うけど、この言葉は半分正解で、半分間違いだと思う。確かに、耳が幸せだ…って感じる瞬間はある。そういう声は、存在する。
だけど…本当に幸せな声を、音色を耳にした時は、耳が幸せ…なんかじゃ済まない。耳だけじゃなくて、頭も、心も、全部全部幸せになる。幸せの絶頂…って言葉もあるけど、ほんとにそういう感覚になる。だから、つまり……はい。私は今…とんでもなく、幸せです。ふへ、ふへへ、ふへへへへぇ……。
*
「ルナ、次は何をしてほしい?ルナは、どんな事がお望み?」
「ほらほら、素直になっていいんスよー?」
イリゼの声は、優しい声。心を撫でられるような、そんな気持ちしてくれる声。…素敵。凄く素敵。
アイの声は、弾みのある声。いつでも、どんな時でも元気にさせてくれそうな声。…素敵。とっても素敵。
──マスター。
「ルナさんのお願い、頑張って応えますね。…その、まだちょっと恥ずかしいですけど……」
「だから、してほしい事を教えて?それとも…ふふっ、何をするか秘密にしてほしい?」
ディールの声は、柔らかい声。心にじんわり染み渡るみたいな、癒しの声。…素敵。とびきり素敵。
エストの声は、胸踊る声。ずっとドキドキさせてくれる、ときめきが溢れ出す声。…素敵。すこぶる素敵。
──マスター!
「へぇぇ…そうだなぁ、それじゃあ次は……」
そんな皆に、皆の声に包まれる。自然と頬が緩む。幸せって色んな形があると思うけど、多分これは、今ここにあるのは、幸せにおける一つの極致で……
『マスター!』
「ふぇっ……!?」
そう、思っていた時だった。イリゼでも、アイでも、ディールでも、エストでもない…ここにいる誰でもない、でも凄く親しみのある声が聞こえてきたのは。
「こ、この声は…相棒……?」
『漸く声が届きました…大丈夫ですか、マスター』
「……?大丈夫、だけど……」
急にどうしたんだろう…と思いながら、取り敢えず声を返す私。なんか、穏やかなじゃない感じだけど…何かあったのかな……。
『…その反応…やはり、無自覚なのですね……』
「無自覚…って、何が……?」
『…時間を、見てみて下さい』
結構深刻そうな言い方に、ちょっと不安を抱きながらやり取りを交わす。その中で時間を、と言われて、私は部屋の時計を見る。えぇと、今は……って、
(す、数時間経ってるぅ!?)
その事に気付いた瞬間、私はぎょっとした。い、いつの間にこんな…え、おかしくない!?流石におかしいって!だって、あれだよ?最初に茜とアイがやって、次にイリゼとピーシェがやって、その後茜がソロでやった後、ディールとエストが来て、イリゼとアイがもう一回やって……あ、あれ…?その後って、どうだっけ…?イリゼとアイに恋人シチュで…はぅ、恋人シチュ…私本当に、恋人シチュでやってもらったんだ……じゃ、なくて!…それをやってもらったのが、結構前な気がする…って事は、本当に数時間経ってるって事…?え、だとしたら何でその後の事を私は覚えてないの…?というか、どうして皆も数時間経ってる事に何の疑問も持ってない感じ……
…………。
「…ねぇ皆、『ご飯にする?お風呂にする?それとも……』…って言ってほしいって言ったら、やってくれる?」
『勿論♪』
み、皆がおかしくなってるぅぅううううううっ!?ちょっ、待って待ってどういう事!?今のはそんな、快諾しちゃっていいようなお願いじゃないよ!?言っといてあれだけど、流石にこれは引くのが普通の反応だよ!?というか、私も私で何を例えに出してるの!?それとも…って、私は何を求めてるの!?
「あ、相棒…!?皆が、皆がおかしくなっちゃってるんだけど…!?私もちょっとおかしいんだけど……!?」
『…はい。状況は把握しています。そして…それは、マスターが原因です』
「わ、私…!?」
ヤバいよヤバいよ!…と助けを求めた私に返ってきたのは、更なる衝撃の事実。自分が原因だと言われてもう完全に混乱した私へ、月光剣は静かに話す。
『落ち着いて聞いて下さい、マスター。現在マスターの力…特に
「ぼ、暴走…?なんで、そんな事が……」
『それは…マスターが過度に興奮しているから、ですね……』
「あ、そういう……」
愕然としている私へと明かされたのは、私が過度に興奮してるからという、ぐうの音も出ない理由。…でも、それは本当に仕方ないと思うんです。こんなに魅力的な女の子達から、こんなに魅惑の囁きをしてもらえているんだから。
「…あれ…でもそもそも、
『本来はそうです。しかし今はマスターの興奮により制御を失った結果、皆様からシェアエナジーを大量に吸収し、取り込んだシェアエナジーにマスターの強い感情を乗せた状態で返還するという流れをサイクルとして何度も行う事より、皆様へマスターの思いをも反映させてしまっているのです」
「私の思い…私のこうしてほしい、って気持ちまで取り込んじゃってるって事…?けど、そんな事、これまで一度も……」
『はい。ですので暴走し、制御を失った事により、通常あり得ない形で能力が拡張されてしまっているのだと思われます。加えて瞬間的に大量のシェアエナジーが吸収される事で、急性の枯渇状態に陥った皆様は、返還されたシェアエナジーを精製する事なく取り込んでしまっている…謂わば、不純物をフィルターでカットする行程を飛ばしてしまっているが故に、このような事態が起きていると私は見ています。…それでも、ここまで常軌を逸した事象などそうそう起きない筈ですが……マスターと皆様との間に深い信頼関係があり、互いに心的な隔たりが薄かった事や、この信次元という場所の性質も、悪い形で相互作用を引き起こしてしまっている…そうとしか、考えられません』
月光剣は、丁寧に説明をしてくれる。だけど正直、私は何がどうなっているのか理解しきれていなかった。同時にまだこの時は、私の興奮につられて皆も変なテンションになってる…なんて程度にしか思っていなかった。
そんな私の状態を、月光剣は察したのだろう。一拍置いて、一度黙って……そして、言う。
『…マスター。
支配。その言葉を聞いて、流石に目が覚めた。私も今の状況を、どれだけ不味いかって事を、理解した。
「…これって、いつから起きてたの?」
『分かりません。ただ…今把握出来ている状況からして、かなり早期からその予兆はあった可能性があります。今、マスターとは別の部屋にいる私の声が届いている上、暫く前からマスターの異常を感じられたのも、マスターの力が妙な形での拡大をしている一環と思われますので』
「そっか…それじゃあ、もう一つ教えて。どうしたら、今の状況を止められる?」
『…あくまで推測ですが、見立て通りマスターの過度の興奮が原因ならば、マスターが平常心を保ち続ける事で、暴走も次第に収まっていく可能性が高いです』
この場にいない相棒へ向けて、私は頷く。それだけ分かれば十分。もう、やるべき事ははっきりしている。
…実を言えば、これはこれで…って思いもあった。だって、本当に幸せだから。こんな状況、滅多にない…どころか、これまでもこれからもあり得そうにないレベルなんだから。だけど、違う。私は皆が好きだけど、私が好きなのは私なんかに支配されてる皆じゃないし、そんなの私の知ってる皆じゃない。
うん、そう。そうだ。これは違う。こんなのは絶対違う。こんな形は望んでない。望むとしても、それは自分で掴むんだ。だから私は、本当の皆を、皆との本当の繋がりを取り戻……
「んもう、さっきから誰と話してるんスか、ルナ」
「うぇっ!?あ、や、その、相ぼ──」
「──ウチの声、もっとちゃんと聞いてほしいッス」
ああああ無理無理ムリムリぃぃぃぃぃぃっ!こんなの聴くしかないじゃん!誠心誠意、アイの声だけに集中するしかないじゃんっ!?だってアイ、今私が座ってるソファの後ろに回って、そこから首に軽く腕を回してるんだよ!?ソファ越しに緩くバックハグして、その状態で後ろから左の耳元へ囁いてるんだよ!?しかもこんな、甘えるような猫撫で声って…これを突っ撥ねる人がいたら私は言いたいねっ!何考えてるの信じられないッ!って!
「ね、ルナ。ルナは今、楽しんでくれてる?」
「ぁ…そ、それは…勿、論……」
「ふふっ、それは良かった。──私もルナに私の声、いっぱい聞いてもらえて嬉しいな♪」
ちょっ…ちょっ、ちょっとぉ……!なんでアイだけでもスペシャルに素敵なのに、ここでイリゼまで来るのぉ……!こんなご褒美耐えられないよ、我慢出来る訳ないよぉ…!だって、だって…イリゼ今、私の両脚を跨ぐみたいにソファに膝立ちになって、アイとは逆に前から耳元に囁いてきてるんだよ…!?イリゼの顔、近い近い近い近いぃぃ…!囁いてる時点で、これまでもずっと近かった?違うんだよ、違うんだって…!正面からだと、近いのが目に見えて分かるのが凄過ぎるんだよぉ…!あぁ…しかも、この匂い…このふわっと甘い香りは……
「……アップルパイ…?」
「あ、うん。さっき焼いたんだ。後で、皆で一緒に食べよ?」
「うん、食べる……」
ぽけーっとしていく頭で、私は頷く。それから、絶対の摂理を感じながら…言う。
「ごめん、相棒…私には、無理かも……」
『そ、そのようですね…。…一つ、手があります。試してみますので、マスターはこのままどうか、耐えて下さい』
駄目だなぁ、私は。うん、ほんと…駄目だって分かってるんだよ。いつ頑張るの?今でしょ、って心の中では思ってるんだよ?だけどね、このドキドキと二人の魅力に抗えないっていうか、抗う意思も心も二人には全部溶かされちゃうっていうか……
「そうだ、言ってなかったよね。──ご飯にする?」
「──お風呂にする?」
『ルナは(私・ウチ)と(アイ・イリゼ)、どっちとする?』
ほらもうこれだよぉおおおおぉぉぉぉっ!こんなの反則じゃん!こんなの誰が耐えられるっていうの!?なんかちょっと私が言ったのとは違うけど、それはそれとして破壊力が超必殺級過ぎるって!え、っていうかどっちとするって…これ変な意味じゃないよね!?具体的にどう変なのかは私にも分からないんだけど、ご飯やお風呂を…って話だよね!?じゃなかったら私、多分爆発するよ!?F/ACEのファンみたいになっちゃうよ!?
……って、あれ?…どっちと、する…?…え、と…これは…これっていうのは…。
「…ど、どっちか選ばないと…駄目…?」
「大丈夫だよ、ルナ。答えは、決まってるもんね?」
「そうッスね。選ぶまでもない事ッスよね?」
あ、ヤバい、これ修羅場だ。私が二人の魅力にやられまくってる内に、恋人二人が修羅場になってた。……あっ、違う、恋人なのはシチュだった…なんかずっとそのシチュで続けてくれてるから、私も自然に受け入れてた…。
「え、あ、それは…その……」
「…私、でしょ?」
「ウチ、って言ってくれればいいんスよ?」
「ぁ、うぁ…わ、私…私……」
自分の名前が出る事を信じて疑わないような、二人の声。そんな二人に、私は答えられない。どんどん頭の中が真っ白になっていって、全然考えが纏まらない。これはそういうシチュ、本当の事じゃないって分かってる筈なのに、イリゼって言う事も、アイって言う事も、私には出来ない。こんなの一番良くないって分かってるのに、そもそもこんな事になったのも全部私が悪いのに、それなのに私は何も言えなくて、凄く凄く自分が嫌に……
「…答えられないの?」
「答えられないんッスか?」
「それなら……」
「それじゃあ……」
『──(私・ウチ)達、どっちも満足させてくれないと(だ・ッス)ね?』
──なってる隙すら与えてくれないんだもんなぁ二人は!あぁもうほんとに素敵っ!こんな私だけど、これからも末永く宜しくお願いします!
「ちょっとー?なんで三人だけで楽しんでるのかしら?──ルナは、わたしの事も忘れてないわよね?」
これはもう、二人の声の専属リピーターになるしかないかもしれない…と思っていたところで、エストがイリゼとは逆側、私の左耳へ呼び掛けてくる。も、勿論忘れてないよっ!と私が連続で頷くと、エストは鈴を鳴らすみたいな耳心地の良い声音で笑ってくれて…うぅ、良い…エストの声で、心が洗われる……。
と、思っていたのも束の間、今度はイリゼ、アイ、エストの三人がバチバチし始める。流石に三人だと譲り合いなしじゃお互い邪魔になるみたいで、牽制し合うように三人は私からゆっくり離れて、視線をぶつけ合う。…あ、離れてっちゃう…と思わず思ってしまった私、ほんとに良くない。こ、今度こそ…冷静になった今度こそ、平常心を取り戻さなきゃ……!
「よいしょ、っと。…その、ごめんなさいルナさん。なんだかエスちゃん達、ルナさんを困らせちゃってるみたいで……」
「ふぇ…!?あ、う、ううん…!全然そんな事ないし、ディールが謝る事じゃないよ…!」
一人になった私の隣にちょこんと座ったのは、ここまで黙っていたディール。…あれ…なんかディールだけ、普段の調子とそんなに変わらない…?そういえばディールは皆程乗り気じゃなかったし、もしかしてディールには影響が薄い?
「そうですか?…それにしてもなんだか、皆変ですね。ルナさんは大丈夫ですか?」
「(や、やっぱりディールは落ち着いてる…!良かったぁ…!)だ、大丈夫…って言いたいところだけど、私も既に少し錯乱しているかも……」
「…じゃあ、深呼吸しましょうか。冷静になるには、それが一番ですから」
これはもう絶対落ち着いてるディールの存在が、私のメンタルを支えてくれる。冷静な人が(女神だけど)いるって分かっただけで、何とかなりそうな気がしてくる。深呼吸…うん、そうだよね。ここはディールに従おう…!
「う、うん。すぅ…はぁ……」
「もうちょっと深くです。思いきり吸って、ゆっくり吐けますか?」
「思いきり…ゆっくり…すーぅ…はぁぁー……」
「うーん…なんか違う気がします…」
「うぅ…ごめんねディール…まさか深呼吸すら満足に出来ないなんて……」
「ふふ、大丈夫ですよルナさん。それじゃあ今度は、わたしの真似をしてくれますか?」
どう違うのか分からないけど、ディールが言うんだからきっと駄目なんだ、と私が情けなく思っていると、ディールは励ましてくれる。それに私は頷いて、囁きながらアドバイスしてくれるディールに従……あれ?
「いきますよ?──すぅ…はぁ…すぅ…はぁ……」
(と、吐息…っ!ディールの吐息がっ、耳元にぃぃぃぃぃぃ……っ!)
はっきり聞こえる、規則正しいディールの息遣い。それが耳元で、ほんとに吐息を感じられる位の距離で、繰り返される。こ、ここにきて吐息を感じさせてくるなんて、ハイレベル過ぎるよディールぅぅ…!っていうか、改めて考えたら全然冷静じゃない…!ちゃんと振り返ったら、最初の時点でディール囁いてたもん…!ずっとASMRだったもん…!
「ちょっとちょっとぉー?わたしの隙を突いて抜け駆けなんて…ズルいじゃない、ディーちゃん」
「隙を突くっていうか、エスちゃん達が勝手に離れていっただけだよね?」
「む…けど、ルナもルナじゃない?ガードが緩過ぎるっていうか、来る者拒まずっていうか…ちょーっと、残念かも」
「うっ……」
戻ってきたエストからの、何も言い返せない指摘。はい、そうです…精神的に向上心のない者です、馬鹿です…。
そうして私がしょんぼりしていると、エストが側にやってくる。…ひょっとしてこれ、「でも……」って感じに、肯定もしてくれるパターン…?いや、でも、流石にそれは都合良く考え過ぎ……
「──ざぁーこ」
「……──っっ!?」
その瞬間、私の中で衝撃が走った。自分でも、何が何だか分からない。でも…こ、これ…ゾクゾクする……っ!
「え、エストっ、これやめっ……」
「ざーこ、ざーこ、ざーこ♪」
「はひんっ……!」
囁き声で繰り返される、ざこの連打。ざこ、ザコ、雑魚…どう考えても悪口なのに、馬鹿にされてるのに、何だか凄くゾクゾクする。な、何、何なの?エストの雰囲気とぴったりだから?自分で言っておいてアレだけど、これとぴったりってどういう事?それは良い事なの?悪い事なの?わ、分からない…分からないっていうか…エストに「ざーこ♪」って言われる度、思考力が奪われてる気がする…!私の頭の中で、エストのざーこだけが反響してるぅぅ……!だ、駄目…このまま聴いてたら私、何か変な扉を開きそうな気がしちゃ──
「──ざぁこ♪」
なんで今ディールが乗ってくるのぉおおおおおおぉぉっ!!もう無理だって!よく分かんないけどぴったりな気がするエストのざーこを何回も何回も聴いて耳と心に浸透させられたところで、ぴったりとは真逆のディールが「ざぁこ♪」なんて言ってきたら、ギャップに耐えられる訳ないでしょぉおおぉぉぉぉっ!?瞬間最大風速…!瞬間最大風速は、ディールが断トツ過ぎる……っ!
「ほほぅ、なんだか面白そうな事になってるじゃないッスか」
「ね、二人共。私達も混ぜて?」
「ひぃ……!」
しかもここに、イリゼとアイまで混ざってくる。四人がかりで、私をざこざこざーこしてくる。こんなのもう、ザコになるしかないじゃん…こんなの聴いたら、ザコになっちゃうしかないよ…。
(なんだか頭、ふわふわしてきたかも…なんかもう全部心地良いかも…。…あ、それは最初からか……)
私の頭はふわっふわ。皆の声がふかふかの綿毛になって、それにぎゅって包まれてる気分。ただの声なのに、軽く触れられたりはしてるけどそれ以上の事なんてないのに、もうずーっと幸せな気分。そんな気持ちでぽけーっとしている内に、また何か四人のポジションが変わっていて…次の囁きが、また私の耳を擽っていく。
「──ルナ、いつもありがとね。ルナが支えてくれてるのを、私いつでも感じてるよ」
「──わたしからも、ありがとうございます。ルナさんがいてくれると、すっごく頼もしいです」
「でもルナは、自分なんてそんな…って言うよね?自信を持って良いんだよ、ルナ。ルナが凄いって事は、私…ちゃーんと知ってるから」
「だけどやっぱり不安、って顔ですね…それじゃあわたし達、応援します。ルナさんが、自分に自信を持てるように」
『がんばれがんばれるーな♪ルナ(さん)凄い、とっても凄い♪』
まるでチアの格好で言ってくれてそうな、イリゼとディールの応援。嬉しい、嬉しい、嬉し過ぎる。これを聴いてるだけで、何があっても頑張れそうな気がする。ぼっこぼこにされても、うおーって立ち上がれそうな気がしてくる。そうだよ、そんなんだよ…イリゼもディールも、やっぱりその優しさが魅力なんだよ…他にも色んな魅力があるけど、やっぱりまずは優しさっていうか、この優しさなくして語れないっていうか…私がんばる。何をがんばるのかは分からないけど、がんばる。
「──ルナ。ルナは今、楽しいッスか?ウチはずっと、楽しいッスよ」
「──わたしも今、楽しいわ。やっぱりこういうわちゃわちゃしたのって、面白いわよね」
「それで、ルナは……あぁいや、やっぱり何も言わなくていいッス。言わなくても分かるッスから」
「ルナってば、すぐ顔に出ちゃうタイプだもんねー。だから、当ててあげる」
『ルナも、すっごくすっごく楽しい♪──そう(ッス)よね?』
明るくて爽やかな、アイとエストの声音。にしし、って笑ってそうな表情が、見なくても思い浮かぶ。二人の素敵な笑顔なんて、考えなくても頭に浮かぶ。そうそう、やっぱりアイとエストはこうでなくっちゃ…この引っ張ってくれる感じっていうか、全部見抜いて翻弄してくれる感じがもう尊い…楽しくない筈がないんだよね、うん。どんなに辛い気持ち、切ない状況だったとしても、こんな感じで二人と話してたら元気になれる……そんな気がするでしょ?しちゃうよね?
「えへへ…んふふ……」
鏡なんてないけど分かる。今の私が、人に見せられないような表情をしてるって。女の子としてそんな表情しちゃいけません!…って怒られそうな顔をしてるのは間違いない。だけどそれも、皆になら見せちゃっても良いかな…なんて思ったり。だってほら、溶けて水になっちゃった氷って、また凍らせても同じ形にはならないでしょ?だからイリゼ達に心を溶かされちゃった私は、今更取り繕うとしても普段の調子になんて戻せる訳がないって事。……何を言いたいのか分からない?うん、私もよく分かんないや。
「…ルナ、聞いてる?」
「聴いてるよーイリゼ…。…でも、こんなに良い思いしちゃっていいのかな…良い思いだけするなんて事、許されるのかな……」
『…………』
「……え?」
お買い物をしたり、お店で何かしてもらったら、お金を払うのは当然の事。友達が助けてくれたら、今度は自分が助けようってするのがきっと友情。でも私は今、何もしてないのに幸せを何度もお代わりしてる訳で、こんなの有りなのかなぁとふと思い……次の瞬間、急に四人は黙り込む。いきなり黙って、それからゆっくりと私を取り囲んでくる。
(あ、あれ…?何これ…何この、急に幻が解けたみたいな感じ……)
これまでふわふわぽわぽわな雰囲気だったのに、突然それが霧散する。静かに、じりじりと、私への包囲網が狭まってくる。…も、もしや…これ、気付いちゃいけない事だった…?それに気付いちゃったから、もう終わりだって事…?だとしたら…私、対価を求められる……?これって、まさか、一生分レベルの幸せを今感じた対価として、命を奪われ──
『──ルナ(さん)♪』
ぱーんと、私の中で何かが割れる。乾いた音で、何かが…ううん、不安が砕け散る。たった一言で、四人の私を呼ぶ声だけで、恐れの気持ちが全て吹き飛ぶ。そして気付けば、私はさっきのアイみたいに…しかも今度はディールとエストの二人から同時に首へ腕を回されて、さっきのイリゼと同じ事を、左右交代した状態で今度はイリゼとアイの二人にされていた。イリゼとアイの両手の指先が私の肩に触れていて…四人の声が、同時に耳元で聴こえてくる。四人の吐息が、前と後ろから私を包む。
「ルナ、不安だったんだね」
「もう、そんな心配しなくていいのに」
「だけど、もう大丈夫ですよ」
「そう思わなくてもいいように、安心させてあげるッス」
一言一言が、染み渡る。もうこれだけで不安なんかどっかいっちゃうし、さっきの時点で粉々になってる。だけどそれを伝えるよりも先に、そんな必要なんてないって示すみたいに、四人の顔が、唇が、多分私の耳に後ちょっとで触れそうな位近付いて……女神様の音色が、紡がれる。
「ルナ」
「るな」
「ルナさん」
「るーな」
「ルナルナ」
「ルーナ」
「ルナちゃん」
「るーなーちゃん」
『────大好き♡』
耳が、頭が、思考が、心が、感情が…もう全部蕩けていく。浄化されて、余計なもの全部が消えて、幸福な気持ちだけが残る。良いとか、悪いとか、凄いとか、心地良いとか、もうそういう事は全部関係なくて…ただただ幸福。ひたすら幸福。…うん、そうだ…そうだよね。なんかこれまでごちゃごちゃ考えたり、心の中で叫んだり、沢山パニックになったりしたけど…ただ受け入れて、幸せだなぁって思えば良いんだよ。ああ…ほんと、幸せだなぁ…私は皆とこうしている時が、一番幸せかも…。
(…ぁ──)
そうしている内に、なんだか意識が薄れていく。段々頭が働かなくなっていって、目の前も真っ白になって、皆の声が遠くなっていって……
『…すみません、マスター。今の能力が拡張されている状態を逆に利用し、私の方から力の発動を更に促進させて頂きました。当然マスターの負担は増大してしまいますが、それによって意識が途切れ…ば、当然今の状態も持続はしなく……結果として、暴走…収ま……」
最後に聞こえたのは、聞こえた気がしたのは、相棒の声だった。…なんだかんだ、相棒の声が一番落ち着くなぁ……。
*
凄く凄く疲れて寝た後は、起きた後も身体が重いような、そんな感覚があったりする。…今が、それだった。
「……はっ…!」
ぱちっ、と電源が入るみたいに、一気に私は目が覚める。目が覚めて、すぐに私は今の状況を思い出す。
「み、皆!大丈夫!?色々大丈夫!?」
ソファから起き上がって、私は首を振る。慌てて周囲を見回す。ここは神生オデッセフィアの教会、そこにあるリビング的な部屋。イリゼもアイも、ディールもエストもここにはいて…けど皆、私の言葉に振り返ると、数秒黙った後に首を傾げる。
「…急にどうしたんスか?ルナ」
「え?いや、あの…え?」
「や、『え?』はこっちの反応なんだけど……」
訳が分からずぽかんとしていると、エストに困ったような顔をされる。え、っと…これはほんとに、どういう事……?
「ルナさんこそ、大丈夫ですか…?その、大分混乱してるみたいですけど……」
「う、うん、大分混乱してる…まだ状況が飲み込めない……」
困ったような顔の後は、心配顔。ディールに言われた通り、本当に私は混乱&動揺していて……だけど段々と、ある可能性が私の中で浮かんでくる。
(…もしかして…全部、夢……?)
たった今、私はソファで目を覚ました。目覚めたって事は、今までは寝てた…って事。そして、私の頭の中にあるのが、全部夢の出来事なら…皆が平然としてる事も、納得がいく。
「そ、そっか…夢、夢かぁ…。それなら、良かっ……」
──たのかなぁ?だって、夢だったって事は、全部現実じゃなかった…何にもなかったし、何も経験してなかったって事になるんだよ?全部私の想像(っていうのか分からないけど)に過ぎなかったって話なんだよ?幾ら何でも、それは勿体な……い、いやいや落ち着け私。良くない、良くないよこういう思考は。もし現実だったら私は皆に相当な迷惑を掛けてたって事になるんだから、むしろ夢で良かったんだよ。うん。
「うーん…まあ取り敢えず、ルナも起きたし食べる?」
「ん、そーね。因みにだけど、今ここにはいない人達の分は……」
「勿論あるよ?これの為だけにわざわざ全員呼ぶのもアレだから、皆の分はこのまま冷蔵庫に入れておくけど…食べちゃ駄目だからね?」
「イリゼはほんと、スイーツ作りが好きッスねぇ。まあ、そのおかげでウチ等は、毎日の様に食べられる訳ッスけど」
会話をしながらイリゼは台所へ行き、冷蔵庫から作ったらしいスイーツを取り出す。それをオーブンレンジに入れて、温めている間にお皿やフォークを用意していく。慣れた様子で、ディールとエストもイリゼに確認を取って冷蔵庫から飲み物を出したり、コップを並べたりする。アイはそれを、のーんびりと眺めている。
本当に、何の違和感もない光景。なんていうか…ほっとする。勿論皆からの直ASMRは刺激的だったし、ほんと夢みたいな体験だったけど、いつも通りの皆がいてくれる事に、安心と嬉しい気持ちが私にはある。…うん。やっぱりこれでいい、これでいいんだよ。こういう和やかな時間を皆と過ごせるだけで、私にとっては十分幸せ……
「……──え?」
「どうしたの?ルナ」
「あ、や、その…これ、って……」
「……?アップルパイだよ?」
温め直された状態で切り分けられ、お皿に載って運ばれてきた、イリゼお手製のスイーツ。茶色の焼き目と、格子状の生地の内側に見える、柔らかそうな果物。見るからに美味しそうなそれは──アップルパイ。
(…まさか…いや、でも……)
やっぱり…やっぱり夢じゃなかったのか。例えば…そう、皆は影響の余波で忘れてるだけとか、本当は忘れてすらいなくて、皆で誤魔化そうとしているだけとか……そういう可能性が、一気に頭の中で噴出する。
だけど、まだ分からない。普通に偶々、この部分だけ正夢になった…ってだけかもしれない。部屋に残る微かなアップルパイの匂いに刺激された事で、夢の中に出てきた…って事も、十分あり得る。どっちもありそうだから、判別が付かない。訊いてみれば分かるかもしれないけど…分からないまま、はっきりしないままにした方が良いような気もして、私は言うに言い出せない。結果、私は悶々とした思いを抱える事になり……イリゼ手作りのアップルパイも、今日だけはちょっとしか美味しく感じられなかった。
……そんな私は後日、『ヴィオレンス・ブルーム ASMRボイス 〜あなたの側で咲く私/ウチ達〜』が発売されるとかされないとかって情報をキャッチ。拝聴(左耳)用、拝聴(右耳)用、拝聴(予備)用1、拝聴(予備)用2、観賞用、保管用、布教用、装飾用、携帯用、おまけにもう一個買っちゃえ用で、計十枚の購入を即座に決断するのだった。
*
全く知らない次元である信次元の、未知の国である神生オデッセフィア。別次元という概念自体がまだイマイチしっくり来ていない私にとっては、この場にいる事自体がちょっと緊張するもので…それでも暫く生活する内に、少しずつ慣れてきた。
そんな中、そんなある日…私は見てしまった。ルナが、オリジンハート様達に迫られている(?)光景を。四人もの女神様に、耳元で囁かれている姿を。
「なっ…ななな……っ!?」
切っ掛けは、リビングに当たる部屋の扉が僅かに開いていた事。開けられているっていうよりは、ちゃんと閉まりきっていないような状態で、その時は何とも思わなかった。だけど通り過ぎようとした瞬間、中から甘美な声が聞こえてきて……思わず私は、扉の隙間から中を覗いてしまっていた。
(い、一体何をやっているの…!?何がどうして、こういう事に……!?)
囁いている内容は、囁き声だから当然分からない。分かるのは、ルナが女神様達に囲まれているという事と、女神様達が囁いているという事と、見ているだけでも魅惑の空間がそこにはあるという事。…ま、まさか…ルナと女神様達は、そういう関係なの…!?こうやって女神様達に、それも四人に迫られちゃうような、そういう関係だっていうの…!?だ、だとしたら……
「なんて羨ましい……じゃない、不敬よ不敬…!仮に仲が良くても、越えちゃいけない一線ってあるでしょう…!?」
覗き見なんていう良くない事をしてる自分を完全に棚に上げて、ルナに対して憤りを覚える私。女神様というのは、国の長であり、信仰の対象。憧れられ、羨望され、畏敬の念を向けられる…そういう存在。俗な言い方をすれば、絶対不可侵のアイドルの様なもの。だからこそ、私の様な尊敬を向ける側の人間が、踏み越えちゃいけないラインはある。下手に踏み越えれば女神様の迷惑になり得るし、立場のある相手とは節度を持って接するべきだし…何より信仰しているのならばこそ、自分の存在が高尚にして神聖な女神様の格を落とす可能性は排除すべき。完成された絵に、美術品には、一滴でも余計な色が混ざればそれだけで格が損なわれる事位、常に頭に入れておかなくちゃいけない。
だというのに、一体ルナは何をやっているのか。ルナの気持ちは分からないけど、私としては絶対に見過ごす事なんて出来ない……と、そこまで一度考えたところで、ふと私は冷静になる。
(…待った。でも…本当に、私が思っている通りの状況なのかしら…?本当に、その通りなのかしら……?)
まだ別次元云々については理解していない部分も多い私だけど、似ている面や同じ事が多いからって、何もかもがそうである訳じゃない…例えばプラネテューヌを始めとする四ヶ国と、それぞれ四名の守護女神様達や女神候補生様達の存在は共通していても、この信次元には私の知らない神生オデッセフィアやオリジンハート様、レジストハート様が存在しているように、大きく異なっている要素もあるんだって事は把握している。だから、女神様に対するルナの意識…ルナの次元における、女神様の在り方自体が私の認識とはかなり違っている可能性もある。
それに何か、勘違いがあるのかもしれない。現に私からは、ルナの顔や反応は見えない。当然どんな内容を囁いているのかも聞き取れない。という事は、ルナが気絶していて、女神様達は心配して声を掛けている…まだ原因が分からないから、下手に動かしたりする事も出来ず、その上で今出来る事として声を掛け続けている…なんて可能性も、ゼロではない。何か凄く甘美な感じがしたのも、女神様達に迫られて囁かれている…って状況から、私が勝手に思い込んでるだけっていうのも…まあ、あり得なくはない。それなのに、一方的に不敬だと思って怒りを抱くなんて…ごめんなさい、ルナ。私は多分、冷静じゃなかったわ。
「…………」
そう、私は冷静じゃなかった。よくよく考えれば、ルナはちょっと変わっているけど、素直で善良な子だって事を私は知っている筈なのに、一緒に苦難を乗り越えた仲間なのに、どうして悪い方面で考えてしまったのか。…どうしてなのか、何故私は冷静じゃなかったのか、その理由はといえば……
(……っ…やっぱり羨ましい……!)
我ながら駄目だとは思うけど、ほんと人の事をどうこう思う前に自分の不敬さを是正するべきだって自分を恥じるけど……どうしても、羨ましいって気持ちを拭えない。私が信仰するのはパープルハート様で、私にとっての至上がパープルハート様である事は揺るぎないけども、それはそれとして女神様に…それも複数名に囁いてもらえるのは羨ましい。オリジンハート様も、ローズハート様も、二人のグリモアシスター様も、尊敬出来る方だと知っているからこそ、そんな女神様達に迫られている状況を「良いなぁ…」と思ってしまっている自分がいる。
なら、どうするか。邪な念を抱いてしまった今、どうしたらいいか。そんなのは…一つしかない。
「…うん、私は何も見なかった。見なかったし、聞かなかった。そうよ、そうでしょ私」
ぶつぶつと、自分へ向けて言い聞かせる。こうするのが一番、というかこうするしかない。
そうして私は何度か繰り返し、自分の自制心を引っ張り出す。心を鎮め、冷静さを取り戻し、この場を離れる事を決める。そして後は、まるっきり全部忘れて……
「──何をしてるのかしら、エリナちゃん」
「ふぇッ…!?」
突如聞こえた声。凛々しくも柔らかい、素敵なお声。驚いた私は、反射的に振り向き……目の前にいた女性と、パープルハート様と、対面する。
「ぱ、パープルハート様…!?どうして、ここに……!?」
「どうしてって…遊びに来たのよ。イリゼの友達が、また信次元に来てるって聞いたから」
「…え、あれ…?…その、もしかして……」
「……?…あぁ、ごめんなさい。わたしは貴女の知るパープルハートじゃなくて、この次元のパープルハート…ネプテューヌよ」
思わず後退りをしてしまった私だけど、何か言葉選びが変だと気付く。そんな私の反応から、パープルハート様も私の疑問に気付いたみたいで、軽く自己紹介をしてくれる。…まさか、こんな流れで信次元のパープルハート様ともお知り合いになれるだなんて…じゃ、なくて…!
「どうして、私の名前を……」
「それは昨日、貴女達と一緒に来た方のわたしにエリナちゃんの話を聞いたからよ。…それより…エリナちゃんは今、何をしていたの?」
「そ、それは……」
覗きをしていました、なんて言える訳がない。パープルハート様に隠し事をするなんて…って思いもあったけど、初対面なこの次元のパープルハート様からの第一印象が「覗きをしていた人」になるなんて、流石に嫌過ぎる。だからまた、私は自分でも気付かない内に数歩後退りをしてしまっていて……
「おっと」
「きゃっ…!?…え…れ、レジストハート様……!?」
突然、後ろから何かに掴まれた。掴まれた直後に、私の背には柔らかな感触が伝わってきた。驚いた私は、両肩を掴まれたまま、首だけで背後を振り向き……そこにいたレジストハート様の存在に、更に驚く。
「な、なんで…なんでレジストハート様までここに……?」
「なんでって…ここ、わたしの国の教会よ?」
「あ……」
言われてみれば、その通り。なんでも何も、自分の国の教会なんだからいるのは当然の事。私は動揺のあまり、変な事を言ってしまっていて…そうこうしている内に、パープルハート様が近付いてくる。更にその途中で扉の隙間に気付いたのか、中を覗いて、目を丸くして……これから、にやりとした顔で私を見る。
「ふぅん、そういう事…確かにこれは、言える訳がないわよねぇ」
「ぅ、あ…ご、ごめんなさ──」
「違うわ、エリナちゃん。わたしは貴女を咎めるつもりなんてないの。だって…あの状況を誰かに見られてたなんて知ったら、皆凄く恥ずかしい気持ちになる筈だものね。だから、エリナちゃんは黙っていてあげようとした…そうでしょ?」
終わった……という思いを払拭してくれる、パープルハート様の言葉と笑み。九死に一生、勘違いのおかげで救われた私。その事に、私は一瞬安堵して……けれど、首を振った。
「…違います、パープルハート様。私は…ただ、覗きをしていた事を隠したくて、言えなかっただけです…パープルハート様が思うような、立派な理由じゃありません」
私は自分から、チャンスを手放した。自分で、覗きをしていたのだと自白した。…だって、このままじゃパープルハート様を騙す事になるから。保身の為に、パープルハート様の優しい思考を利用する事になるから。そんなのは、駄目。そんな事をする位なら、パープルハート様に侮蔑される方が、ずっといい。だから私は正直に明かして、さっさと覗くのを止めていれば良かったと後悔しながらも、全部受け入れるつもりで目を閉じ……次の瞬間、ぽふりと肩に手を置かれる。
「ふふっ、だったらやっぱりエリナちゃんは立派ね。何も言わなければ、自分が得をする形で丸く収まるのに、それを良しとせず真実を明かした…それが出来る子が、立派じゃない訳がないもの」
肩と二の腕の境を掴んでいるレジストハート様よりも、首に近い位置に置かれたパープルハート様の手。その手と共に、パープルハート様は微笑む。微笑んでくれる。
…感激だった。失望される事も覚悟していたのに、こんな言葉を掛けて頂けるなんて。こんなにも慈愛に満ちた笑みを向けて下さるなんて。私の胸は、それだけでもう一杯になって……
「ほんと、メイテューヌが言ってた通りの女の子ね。…ねぇ、エリナちゃん。これから一緒に話さない?どこかの部屋で、二人でゆっくり」
「うぇ…っ!?あ、や、そんな、畏れ多い……」
「ちょっとネプテューヌ、しれっとわたしを除け者にしようとしないでくれる?わたしにも、エリナとデートする予定があるんだからね?」
「ちょっ…!?わ、私はデートするなんて言ってな…というか、今更ですけどどうしてお二人共女神の姿なんですか!?」
「こっちの方が、エリナちゃんが驚いてくれると思ったから?」
「ネプテューヌが女神化してたから、何となくのノリで?」
物凄く予想の斜め下をいく理由に、唖然とする私。それより良くない。凄く良くない。胸が一杯になっていたところで、二人きりで話したいとかデートとか言われたら、ドキドキしない筈がない。
自分の顔なんて見える訳ないけど、きっと今私は顔が真っ赤になっている。だって頬が熱いんだもの、これは間違いない。そしてそんな私を見ていたパープルハート様はまた笑って、しかも今度は悪戯っぽい(でも素敵な)笑みを浮かべて、背後からもくすりとした声が聞こえてくる。その笑みに見惚れてしまった私は身体が固まり…次の瞬間、パープルハート様の腕が私の首に回される。パープルハート様に、私は抱擁されてしまう。
「ねぇ、良いでしょエリナちゃん。わたし──エリナちゃんと、仲良くなりたいの♪」
「エリナ、このままわたしとお家デートしましょ?わたし、エリナの事──もっと知りたいの♡」
「あ、あ…ああぁぁぁぁ……」
もうそれだけで、パープルハート様に抱擁されただけで、私の頭はパンクしそうになる。というかパンクする。絶対パンクまで秒読み状態だった……のに、そこから更にパープルハート様は顔を寄せ、私の耳元で囁いてくる。しかもその直後、背後からもレジストハート様に抱き締められて、反対側の耳へと囁かれる。あっという間に私は二人の女神様に捕まって、抱かれて、前後から耳を刺激される。魅惑的過ぎる声で、パープルハート様とレジストハート様に誘われてしまう。
きっと、パープルハート様の行為はリビングを覗いたからこそ。レジストハート様の行動も、パープルハート様の動きを見た上での事。でも、そんな事どうでもよかった。どうでもいいというか…遥か彼方の事のようだった。あのパープルハート様に抱かれている。耳のすぐ側で囁かれている。同じ事を、レジストハート様にもされている。…こんなの、耐えられる訳がなかった。抗える筈がなかった。至福で、幸福で、訳も分からない程満たされ過ぎいて……気付けば私は、パープルハート様とレジストハート様に、どこかへ連れてかれていた。
──そこから先の事は、よく覚えていない。そこから先どころか、それ以前の事も曖昧になっていて…だからパープルハート様とレジストハート様に抱かれて囁かれた事も、扉の隙間から見たものも…それ等全てが本当にあった事なのかどうかも、定かじゃない。
今回のパロディ解説
・ヤバいよヤバいよ〜〜
お笑いタレント、出川哲朗さんの代名詞的な台詞の一つの事。単純且つ短い台詞である為汎用性は高いかと思いますが、同時に言い方が特徴的な台詞である為、活字だと分かり辛いですね。
・〜〜F/ACE〜〜
多聞くん今どっちに登場するアイドルグループの事。パロネタとしては、そのファンが爆発するというギャグ描写の事ですね。ヴィオレンスブルームとの、アイドルネタ繋がり…という事でもあったりします。
・〜〜幸せだなぁ〜〜幸せかも〜〜
加山雄三さんの曲のひとつ、君といつまでものフレーズの一つのパロディ。このフレーズ自体は結構知名度高いと思いますが、これも活字だとかなり伝わり辛いかな、と感じました。
この番外編を以って、今回の合同コラボも終了となります。ここまでお付き合い下さり、誠にありがとうございました。
しかし、まだ毎回恒例のコラボあとがきがあります。ですので、そちらも読んで下さると幸いです。