超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
「追い込むわよ、イリゼ!」
「うん…ッ!」
攻撃と、回り込み。それを交互に繰り返す。私が攻撃する時にはお姉ちゃんが回り込み、お姉ちゃんが攻撃する時には私が回り込む事で、着実にモンスターを消耗させ、追い詰めていく。
標的は、凄まじく逃げ足の速いモンスター。女神であっても手を焼くレベルの俊敏性。でもそれは、一人で相手にした場合の事。一人では手を焼いても、二人なら…お姉ちゃんとなら、逃しはしない。
「お姉ちゃん!お願いッ!」
「えぇ、任せてッ!」
急降下からの、大上段斬り。それを寸前のところでモンスターは躱すけれど、私は初めから、その回避を引き出す事を目的としていた。狙い通り、モンスターは私が目論んだ方向へと飛び退き…回り込んでいたお姉ちゃんの間合いに、自ら入る。
直後、お姉ちゃんが振り抜く研ぎ澄まされた一閃。横薙ぎが、モンスターの身体を強かに捉え…一撃で、仕留める。
「やるね、流石お姉ちゃん」
「ふっ、ざっとこんなもの──」
やたらめったら逃げて手こずらせてくれたこれまでとは対照的に、あっさりとモンスターは絶命。いっそ拍子抜けな位だけど、倒せたんだからまあよし。という訳で私は得物を降ろし、お姉ちゃんもふふんと肩を揺らした……その直後だった。絶命したモンスターが、お姉ちゃんを巻き込む形で爆発したのは。
「…へっ?あ、お…お姉ちゃーんッ!?」
突然の爆発、それも絶命した筈のモンスターがどかーん!…と爆発をした事で、私は仰天。なんで!?なんで爆発したの!?どういう原理!?粘液とか爆鱗とか鬼火とか!?…と一頻り驚いた後、お姉ちゃんの事が心配になる。……いや別に、お姉ちゃんの優先度が低い訳じゃないよ?ただ、驚きはしたけど爆発の規模も勢いもそこまで凄い訳じゃないし、お姉ちゃんなら…女神なら大事には至らない筈だって思っただけで…。
「けほっ、けほっ……」
数秒後、煙の中から聞こえてくるのは咳き込む音。それと共に、段々と煙が晴れていく。
聞こえた咳き込みからして、一先ずお姉ちゃんは無事…ではないにせよ、大丈夫な様子。それに私はほっとしつつ、煙が完全に晴れるのを待つ。次第に煙が消えていく事で、お姉ちゃんのシルエットが見えてきて、私は再度の爆発が起きないか警戒しつつも声を掛け……
(……って、あれ…?)
…ようとして、気付いた。何か、小さい事に。女神の姿となった私とお姉ちゃんは、身長に差なんてなかった筈なのに、今目の前にあるシルエットは、自然に視線を下へと向ける位にはなんだかやけにちっこい事に。
見間違い…ではない。違う誰かが巻き込まれた…って事もないと思う。それにさっき聞こえた咳の音も、何か微妙に違和感があった…ような気もする。…と、いう事は…いや、まさか…まさかとは思うけど、これって──。
「……ほぇ…?」
「…ち……小さくなってるぅぅぅぅううううううっ!!?」
私を見上げる、ぽかんとした瞳。完全に煙が晴れた事で見えてきたのは、一人の女の子。その子がお姉ちゃんである事は、一目で分かった。何せ妹なんだから。その容姿には、お姉ちゃんっぽさがあったから。でも、明らかに、明確に、間違いなく……どういう訳か、爆発に巻き込まれたお姉ちゃんは、小さな女の子になっていた。
*
意味の不明な、お姉ちゃんの幼児化から数時間後。苦労しつつも教会に戻った私は、プラネテューヌから駆け付けてくれたイストワールさんと合流した。…取り敢えず、初っ端イストワールさんの目が点になった事は…多分、言うまでもない。
「…で、爆発が収まった時にはもうこうなってまして……」
「そうですか…また、奇妙な事になってしまいましたね……(~_~;)」
困惑がありありと見える顔をしたイストワールさんに、私は頷く。そりゃ困惑する。困惑するに決まってる。だって、私もまだ困惑が抜けきってないんだから。そして、私達は頬を掻き…お姉ちゃんを、見やる。
「ほぇぇ、ちっちゃい…ほんのようせいさん…?」
リビングにある、私が座りイストワールさんがその上を浮いている食卓へ両手を引っ掛け、顔の上半分を出すような格好でイストワールさんを見つめているお姉ちゃん。どうもお姉ちゃんは単に背が縮んだだけじゃなく、全体的に幼児化しているみたいで、喋り方も舌足らずな感じ。それに幼児化の影響は、身体だけに留まらない。
「あのね、おね…じゃない、セイツちゃん。この人は妖精さんじゃなくて、イストワールさん。私とセイツちゃんの、お姉ちゃんだよ」
「…でも、ちいさいよ…?」
「うんまあそうなんだけど…うーんと、どう説明したものかな……」
「…イリゼおねえちゃん、こまってる…?」
「…お姉ちゃん?(・□・;)」
まず左に、その後は右に首を傾げてお姉ちゃんはきょとんとする。そしてお姉ちゃんの発した「おねえちゃん」という言葉に、今度はイストワールさんがぽかんとする。
そう。幼児化したお姉ちゃんは、記憶喪失…或いは記憶も幼児相当(女神だから、過去の姿になってる…訳ではないと思う)になっているようで、私の事も分からなくなっていた。そこで私と容姿が似ている事とか、お姉ちゃんの好きなものを当てるとかで、何とか…ほんと四苦八苦して時間をかけて、何とか家族である事は分かってもらえたけど、今度は私の事を、自分の姉だと誤解するようになってしまった。今のお姉ちゃんは小さな女の子状態だし、そのお姉ちゃんからすればどう考えても私の方が『姉』に思えるだろうから、それはもう仕方ないとはいえ…なんというか、むず痒い。
「えぇ、と…不思議かもしれないけど、イストワールさんは、小さいお姉ちゃんなの。小さくても、優しくて物知りで、凄いお姉ちゃんなんだよ?」
「う…目の前でそう言われると、ちょっと照れますね…(〃ω〃)」
「ちいさい、おねえちゃん…じゃあ、イリゼおねえちゃんは、おおきいおねえちゃん…?」
「ううん、さっきも言ったけどね、セイツちゃんが私のお姉ちゃんなの。だから、セイツちゃんは中位のお姉ちゃんなんだ。分かる?」
「……?…………?」
「…あの、イリゼさん…セイツさんが理解力オーバーみたいな顔になってません…?というか、中位のお姉ちゃんとは一体……」
「いやでも、今なら私が姉だっていう誤認を解けるかもしれませんし…後、中位の妹って言葉は存在するので、中位のお姉ちゃんもきっと……」
今なら誤解を解くチャンスなんじゃないかと、私は再度の説明を試みる。確かにややこしい話になっちゃうけど、やっぱり解けそうであれば解いておきたい。その思いで私は話し、お姉ちゃんはむむむ…と頭を捻る。考えて、考えて、考えて……
「…ふぇ…やだ…イリゼおねえちゃんは、おねえちゃんがいい…うぇぇ……」
「えぇっ!?あ、ちょっ…ご、ごめんねセイツちゃん!大丈夫、やっぱり私がお姉ちゃんだから!イリゼお姉ちゃんで良いからっ!」
考え抜いた末、お姉ちゃんの目尻にはじわりと涙が浮かんでしまった。幼くあどけない顔が、あっという間に泣きそうな表情となり、私は慌てて撤回する。
「…ほんと…?イリゼおねえちゃんは、おねえちゃん…?」
「そ、そう!イリゼお姉ちゃんは、お姉ちゃんなのである!」
「おぉー…おねえちゃん、なのであるー…!」
「…なんだかちょっと、イリゼ様の様ですね( ̄▽ ̄;)」
「ですよね…実はイストワールさんが来る前、おやつをあげていた時にも、ジュースを零しちゃっただけで泣いちゃいまして……」
勢いで変な口調になりつつも私が胸を張って見せれば、お姉ちゃんは表情を明るくすると共に私のポーズを真似する。…正直、可愛い。そうは言ってもお姉ちゃんだから複雑な感じだけど、こうして真似する姿にはなんだか癒されるものがあった。
という訳で、私は誤解を解く事を断念。イストワールさんの事も、混乱しそうだからって事でこれ以上お姉ちゃんだとは言わないでおく。そして仕切り直すようにして、私は本題を切り出す。
「それで、イストワールさん。この症状…というか事象について、何か心当たりはありませんか?」
「あるかどうかで言えば、ありませんね…勿論、調べてみようとは思いますが…(・ω・`)」
「お願いしますね。…因みに、結構時間掛かりそうです?」
「本当にただ、調べるだけならそこまでは掛からないと思いますが…一度、セイツさんに精密検査を受けてもらった方がいいと思います。起こっているのが幼児化だけとは限りませんし、本人の身体を調べれば何かしらの情報が得られる筈ですしね(´・∀・`)」
確かにそれもそうだ、と私はイストワールさんの言葉に首肯し、早速検査が出来る機関へと連絡を入れる。向こうの都合もあるから、基本的には避けているけど、今回は緊急という事で時間を融通してもらい、早速お姉ちゃんの精密検査をしてもらう。で、その結果……
「ある種のウイルスによる影響、ですか…」
「えぇ。恐らく爆発というのもその散布がそう見えたという事でしょう。発生源のモンスターがもういない以上、はっきりさせるにはもう暫く調べる必要がありますが、モンスターがウイルスそのものだったにせよ、宿主に過ぎなかったにせよ、絶命時に新たな増殖先を得るべく最後のアクションを起こした…これが検査の結果を踏まえた、わたしの見解です(´・ω・)」
「となると…治すには、モンスターを攻撃しまくる必要があったり…?」
「いや、モンスターが原因といっても、そのウイルスではなくて…というかイリゼさん、それは発症する前に克服する為の方法です…(~_~;)」
話を受けてから約三時間後。検査をし、その結果を受け取り、私は再度イストワールさんと話す。…因みにお姉ちゃんは、イストワールさんの事をじっと見ていた。イストワールさんが笑い掛けて手を振ると、えへへ〜と笑って大きく手を振り返した。…やっぱり可愛い。お姉ちゃんだけど。
「こほん。じゃあ、治すには一体どうすれば良いんです?それはまだ調査中ですか?」
「いえ、検査のデータを見る限り、セイツさんの体内ではウイルスが免疫反応でやられているようなので、何もせずともその内治るかと思います。勿論、治るまで見ていてあげるべきではありますけども( ̄▽ ̄)」
「あ、そうなんですね。…良かった、起こった事の割に重症な感じではなくて……」
「同感です。全く、姉妹に揃って心配を掛けるだなんて、悪い子ですね(。-∀-)」
冗談めかして言うイストワールさんの言葉に、私はくすりと笑う。そして私達がお姉ちゃんを見れば、何も分かっていないお姉ちゃんは目をぱちくりとさせていた。
「…さて、イリゼさん。わたしは今し方、何もせずともその内…と言いましたが、これはあくまで推測に過ぎず、同じような前例が過去にあった訳でもありません。よって念の為、更に調べたいのですが……(´Д` )」
「代わりにお姉ちゃんの事を見ていてほしい、って事ですよね?勿論良いですよ、だって私のお姉ちゃんですし」
「ふふ、では宜しくお願いします(^人^)」
そんなの頼まれるまでもない、と私は頷き、その上でイストワールさんを呼び止める。もう時間としてはちょっと遅いけど…お昼ご飯に、イストワールさんを誘う。
「さ、セイツちゃん、イストワールさん。出来立てほやほやの焼き飯を召し上がれっ」
「うんっ!いただきます!」
「セイツさん、ご飯は逃げませんから慌てなくてもいいですよ(´∀`)」
「ふぁーい…!」
ぱぱっと作った焼き飯をスプーンで掬い、大口を開けて頬張るお姉ちゃん。口をもごもごさせながらの返事、本当に分かってるのか怪しいその反応に、私とイストワールさんは顔を見合わせ苦笑い。
訳も分からないままお姉ちゃんが幼児化しちゃった時にはぎょっとしたし、そこから家族である事を説明したり、さっきも大人しく検査を受けてもらったりする為に苦労はしたけど、何とかなりそうで一安心。けど、本当に安心出来るのは、お姉ちゃんが元に戻ってから。それまではちゃんと見ててあげなきゃいけないし、何かあったら大変だからと、私は気持ちを引き締め…けれど頬にお米を付けながらも美味しそうに食べるお姉ちゃんの姿を見て、やっぱりちょっと気持ちが緩んでしまうのだった。
*
事が事だから、今日の予定は急遽キャンセルし、私はお姉ちゃんのお世話をしていた。精密検査の時もそうだったけど、こういう場合守護女神の立場は凄くありがたい。自分の仕事も、誰かに何かお願いする時もかなり融通が利くというのは、緊急時程助かるというもの。勿論乱用する訳にはいかないけど…こういう立場の使い方なら、悪くはない筈。
ただまあ、この立場も絶対的って訳じゃない。ある場合については、利き辛い…というか、こっちが遠慮してしまう。…自分と同じにして、ネプギア達のお姉さんでもある守護女神の皆さん絡みの場合には。
「そ、そんな事になってるんですの?」
「そんな事になってるんです…あぁセイツちゃん、そこは登るところじゃないよ…!」
守護女神の一人、ベールさんと電話の最中、ソファの背もたれへよじ登るお姉ちゃんを見て私は慌てて止めに入る。幼児化してるとはいえ女神だし、落ちたところで大した事ないだろうけど、だとしてもひやひやが凄い。
「ふふ、大変そうですわね。…因みにそのモンスター、ウィッチと呼ばれていたり、レベルトリックと呼ばれていたりは……」
「し、してないと思います…そういう話にはならないと思います、多分……」
「ですわよね。…そういう事であれば、日を改めた方が宜しいかしら?」
「あ、い、いえ!元々私の為に時間を作ってもらってる訳ですし、今日で大丈夫です!」
電話越しだけど、思わず首を横に振る私。そんな私の反応が伝わったのか、またベールさんの笑う声が聞こえてくる。
ついさっき、ベールさんから掛かってきた電話。それは、私がこれまでも何度か受けてきた、ベールさんの守護女神とはなんたるか勉強会。既に立場としては対等且つ、他国の守護女神という競合相手にもこうして手助けをしてくれるベールさんは、やっぱり優しい。…恐らく…というか間違いなく、私を妹にしようとする目論見の一環だとは思うけど、だとしてもありがたいものはありがたい。神生オデッセフィアの国としての長所、持ち味は先を行く四ヶ国の中じゃリーンボックスが一番近いし、女神としてだけじゃなく国としても競合し易い相手と有効的な関係を築けるチャンスとして見ても、ベールさんからのこの申し出は出来る限り断りたくない。
そう。私は守護女神。立場には責任がセットだし…お姉ちゃんだって、自分のせいで私が貴重な機会を逃したって知ったら、後で気にしちゃう筈。
「すみませんベールさん、少し待っていてもらえますか?…セイツちゃん、ちょっといい?」
「……?なぁに…?」
「実はね、今から大事なお仕事があって、出掛けなくちゃいけないの。だから、セイツちゃんにはお留守番をしていてほしいんだけど…出来るかな?」
首を傾け、ちょっと期待を込めるような声音で言う私。留守番といぅても勿論一人にする訳じゃなくて、うちの職員さんに見ていてもらうつもりではあるけど…だとしても素直に受け入れてくれるかどうか分からなかったから、お姉ちゃんの自尊心を刺激するべく、私は言い方を工夫した。出来るよっ!…と答えてくれる事を望みながら、私はお姉ちゃんに訊いてみた…ん、だけど……。
「…やだ……」
「う…やだ?」
「やだ、おねえちゃんといっしょがいい。…イリゼおねえちゃんと、いっしょがいい…っ!」
「そ、そっか。でもねセイツちゃん、これはほんとに大事な事で……」
「やだっ、やだやだやだぁ!イリゼおねえちゃんといっしょにいるのーーっ!うぇええええぇんっ!」
「わわっ!?せ、セイツちゃん!?」
ふるふる、とさっきの私の様に首を横に振り、セイツちゃんは嫌がる。説得しようとしたものの、セイツちゃんは断固として嫌がり…そのまま大泣きしてしまう。嫌がるだけならともかく、号泣し始めるなんて思ってもみなかった私はびっくりし、慌ててあやしにかかるけど、セイツちゃんは嫌な一点張りで中々泣き止んでくれはしない。
「ど、どうしよう…困ったなぁ……」
「あー、イリゼちゃん?聞こえていまして?」
「っと、聞こえてます…!ごめんなさい、お恥ずかしいところをお見せ…じゃない、聞かせてしまって…!」
「気にする必要はありませんわ。それよりも…どうしてもという事であれば、セイツも一緒に来て下さって構いませんわよ?」
よしよしと抱き締め背中をさする中、通話状態のままテーブルに置いておいた携帯端末から聞こえてくるベールさんの声。数秒間の逡巡の末、それが一番かもしれないと私はベールさんの申し出を受ける事にした。
「…セイツちゃん、ごめんね。お出掛けだけど、やっぱり一緒にいこう?」
「ぐすっ、ぇぐっ…一緒に"、ぃ"ぐぅ"…!」
「あはは、声が凄い事になってるよセイツちゃん…ほら、顔拭いて?」
ハンカチを使い、お姉ちゃんの顔を拭く。初めはまだ嗚咽を漏らしていたお姉ちゃんだけど、顔を拭き終わる頃には少し落ち着いてきたのか、どこに行くの?…と聞いてきた。どこに行くかではなく、誰と行くか…ううん、誰といるかこそが大事なのだと、セイツちゃんからは伝わってきた。
…けど、思えばお姉ちゃん…セイツはずっと、私より遥かに長い間孤独だった。勿論友や仲間、信仰してくれる人達がいた事は間違いないにせよ、家族のいない孤独の辛さは私にも分かる。だからもしかすると、単に幼くなっているからというだけじゃなく、これがお姉ちゃんの心の中にある思いの一端…なのかもしれない。
「でもねセイツちゃん。私はこれからお仕事に行くんだから、良い子にしてなきゃ駄目だよ?出来る?」
「うんっ!」
こくんっ、と元気良く…或いは調子良く頷くお姉ちゃん。その反応に私は苦笑しつつ、まあでもこれまでも無邪気な言動はあっても悪い事をしようとする感じはなかったし…と信じる事にし、早速準備を整える。
「さぁ、行くよセイツちゃん!」
「おー…っ!」
拳を突き上げたお姉ちゃんを抱き上げ、女神の姿となってリーンボックスへ。お姉ちゃんが幼児化してしまった時に私は女神の姿だったからか、それとも子供特有の鋭さで女神の姿でも私と認識してくれてるのかは分からないけど、怖がる事なく私に抱っこをされてくれる。…因みに今のお姉ちゃんが女神化出来るかどうかは…謎。
ともかく私はお姉ちゃんと共に、飛んで神生オデッセフィアの教会を後にする。まだお姉ちゃんが元に戻る気配はない。今のお姉ちゃんは凄く新鮮だし、可愛くはあるけど…やっぱり、早く元に戻ってほしいな…。
*
空路でリーンボックスの教会に着いた私達は、裏手側の入り口へ回る。お姉ちゃんを降ろし、女神化を解き、チャイムを押してベールさんを待つ。そして出てきてくれたベールさんに、まずは挨拶。
「お邪魔します、ベールさん」
「…おじゃま…します…?」
「えぇ、ようこそいらっしゃい──」
ぺこりと私が頭を下げれば、お姉ちゃんも続いて言う。けどお姉ちゃんはおずおずといった感じで、私の横にぴたっとくっ付いたまま、ベールさんの事を見上げて言う。
そのお姉ちゃんの腕の中にあるのは、兎のぬいぐるみ。出掛ける準備と伝えたお姉ちゃんが最初に持ってきたのがこれで、お姉ちゃんはそれを胸の前で、両手でぎゅっと抱いていて……気付けばお姉ちゃんは、ベールさんに抱き締められていた。
「って、ベールさん何を!?」
「……はっ!?わ、わたくしは何を…!?」
「それを今私が訊いたんですけど!?」
「ふぇぇ…!?ふぇっ、ふぇ……!?」
突然の奇行に私はぎょっとし、お姉ちゃんも目を白黒とさせる。更に驚いた事に、ベールさんまで自分の行為にびっくりしていた。…何が怖いって、冗談とかじゃなくて、本当に自分でも驚いているっぽいんだよね…。
「…ベールさん。一応言っておきますけど、この子私のお姉ちゃんですからね…?」
「え、えぇ…分かっていますわ、分かっているつもりですわ……」
「…ちょいちょい私を妹にしようとしてした癖に、鞍替え早いですね…まぁ、ある意味ベールさんらしいですけど……」
「あ、ち、違いますわよ!?勿論今でもイリゼちゃんの事は可愛らしいと思っていますし…そう!言わばこれは、貴女達二人を纏めて妹にしたくなったという事ですのよ!」
「えぇ…?本気で言ってます……?」
「…我ながらちょっと、冷静さを欠いている気がしますわ……」
一先ずベールさんに離れてもらい、冷静な思考を取り戻してもらってから私達は教会の建物の中へ。私は(私やネプギア達を妹にしようとしてる事含め)ベールさんに慣れてるし、なんだかんだそのぐいぐい来るスタンスのおかげで接し易い気もするから、思わず半眼を向けてしまう事はあっても悪い印象は持っていない。でも今のお姉ちゃんからすれば、ファーストインプレッションが衝撃的過ぎる訳で…結果明らかに、お姉ちゃんはベールさんと距離を取っていた。常に私を間に挟むようにして歩いていた。
「こ、こほん。では改めて、イリゼちゃん、セイツ、二人共ようこそおいで下さいまし」
「あ、はい。…さっきのアレはともかく…ありがとうございます、お姉ちゃんの事に気を遣ってくれて」
「いいんですのよ、この位。…して、セイツの事はどうするつもりでして?わたくしは別に、イリゼちゃんの隣に座っていて頂いても構いませんけれど」
「それは流石に…セイツちゃん、はいこれ。私はここにいるから、ちょっと一人で遊んでてね?」
お姉ちゃんの事は気にしてるけど、学びに集中したいのも事実。だからベールさんの部屋に着いたところで、私はお姉ちゃんを座らせて……がらがらを、手渡す。
「いや、それは赤ちゃん用の玩具じゃありませんの…!?」
「え?あー、まぁそうなんですけど…ほら」
何故それを!?…と驚くベールさんだけど、がらがらを渡されたお姉ちゃんは、持ち手を掴むと早速振って遊び出す。軽快な音が鳴ると、お姉ちゃんはきゃっきゃと笑う。因みにこれは、あんまり音が大きくないタイプ。だから私とベールさんの会話の邪魔にはならない筈。
「他にも色々あるからねー、セイツちゃん」
「な、何か釈然としませんわ…」
言葉通り微妙そうな顔をしていたベールさんだけど、当のお姉ちゃんが楽しんでいるという事で一応納得してくれたのか、視線を私の方へと戻す。それから真面目な表情を浮かべ…ベールさんによる、勉強会が始まる。
といっても別に、授業形式で教わる…とかではない。どちらかと言うと面談みたいな感じで、ベールさんの方から色々訊いてきたり、私が近況を話したり、その中でアドバイスを貰ったり…という感じ。勿論お互い国を預かる身だから、あんまり具体的な事は言えないし聞けないけど…それでもベールさんの助言や、話してくれる経験談は、凄く為になる。
「つまり、押すのも引くのもタイミングが重要という事ですわ。そしてそのタイミングを見極めるのは、他でもないイリゼちゃん自身。交渉の場のみならず、普段からそれを意識し、練習とするのが上達への近道ですわよ」
「ですよね…はぁ、やっぱりベールさんは凄いなぁ…。なんていうかほんと、感服です」
「うふふ、イリゼちゃんにそう言ってもらえると嬉しいですわ。…お世辞とかではなく、割と本当に」
「あはは……」
これじゃあとても同格なんて言えないけど、学びを得ている時点で今更な話。だから私は隠す事なく、ベールさんへの敬意を示す。私の賛辞にベールさんは微笑みを浮かべ…本当だと、念押しをしてくる。…ベールさん、ほんと良い人…っていうか女神だし、こうして学ばせてもらってる恩もあるけど、それはそれとしてこの、私やネプギア達を妹にしようとするのだけはどうかと思うんだよね…正直、空回ってる気がするし……。
と、苦笑していたところで、私はお姉ちゃんがさっきから静かである事に気付く。ひょっとして、遊び疲れて寝ちゃったのかな?と思った私は、何気なく横を見て……こっちをじーっと見ていたお姉ちゃんと、目が合った。
「…へっ?あの、セイツちゃん…?」
ぬいぐるみも、がらがらも、私が用意していた玩具を全て放り出したまま、目を見開くようにしてこっちを見ているお姉ちゃん。一体何事かと私は困惑し、同じように気付いたベールさんも目をぱちくりとさせ……次の瞬間、お姉ちゃんは言う。
「すごい……」
『…凄い?』
「うんっ、すごい!すっごいのっ!」
凄い。その言葉に、私達は更に困惑。何が凄いというのか。私達の会話の内容を理解して、それを凄いと言っていたのか。私達が完全にぽかんとしてしまう中、お姉ちゃんは凄い凄いと繰り返し…そのまま突っ込むようにして、私に抱き着いてくる。
「うわっ!?お、お姉ちゃん!?」
「すっごい!すっごいのがね、すっごい!」
「な、何やら語彙が壊滅してますわね…くっ、しかし羨まし──ひゃんっ!」
ぐりぐり〜、と頭を私の胸元に押し付けたかと思えばこちらを見上げ、更にお姉ちゃんは凄い凄いと繰り返す。更にぱっと私から離れた直後、軽快にテーブルの向かい側まで走っていき、今度はベールさんへ同様に抱き着く。ぎゅーっと抱き締め、ベールさんの目を白黒させ…今度は部屋の中を駆け回る。あっちこっちへ走り回り、ぴょんぴょんと跳ぶ。
「すっごい!すっごい!すっご〜いっ♪」
「ええぇ…?…どうしちゃったの、お姉ちゃん……」
「……あ…もしやこれ、いつものアレでは…?」
「いつものアレ…?…あっ…」
まさか変なものでも食べたのか、或いはベールさんの部屋にある、良い子は見ちゃ駄目なものでも見てしまったのかと段々心配にすらなってくる中、ベールさんが頬に指を当てつつ言う。いつものアレ…その言葉を聞いて、私もはっとする。
お姉ちゃんといえば、感情に触れ、気持ちを感じ、心にときめく事が大好き中の大好き。そして私はベールさんと話す中で敬意を抱いていたし、私の言葉にベールさんは喜んでいたし、自分で言う事じゃないけど、熱意を持って私はベールさんから学んだいた。だから、お姉ちゃんがそれを感じ、普段のように『興奮』していたのだとしたら…そして幼くなっているが故に、自分の中の情動を上手く言葉に出来ず、けど興奮を抑えられなくて凄い凄いと走り回っているのだとしたら…なんというか、腑に落ちる。
「…幼児化したセイツは、割と大人しい子かと思っていましたけれど…やはりセイツはセイツですわね」
「で、ですね…っていうかお姉ちゃんって、小さい頃から感情大好きだったんだ……」
「それは断言出来ないのでは?あくまで『幼児』という状態になってしまっているだけで、過去の姿になっている訳ではないのでしょう?」
「っと、そうでした…でもまあ、なんというか……」
「えぇ、なんというか……」
『ほっこり、します(わ)ね…』
満面の笑みを浮かべ、楽しそうに駆け回り跳ねるお姉ちゃんの姿は、本当に可愛い。ほっこりするし、癒される。別にお姉ちゃんに限らず、小さい子が元気一杯にはしゃぐ姿はそれが誰だってほっこりするだろうけど、普段はその…ちょっと個性がアレなお姉ちゃんが、こんなにも無邪気な姿を見せているというのは、ギャップがある分本当にほっこりとした。
ただ…こう感じるのと同時に、つい、こうも思ってしまうのだった。幼児の姿だと、こんなにも無邪気で愛らしいのに、どうして普段の…今の姿と比較して『成長している』いつものセイツは、ああいう感じなんだろう…と。
*
元々ベールさんからの連絡がお昼ご飯を食べた後という事もあり、神生オデッセフィアに戻った時にはもう夜遅くとなっていた。ちょっと話すだけなら別に電話でも…って話だけど、直接何かを見せてもらったり、その場に出向いたり、同じ場にいた方が都合良い事…って場合も多いから、今日も、これまでも、リーンボックスに伺わせてもらった。
「ふすぅ…すぅ……」
「セイツちゃーん、着いたよー?」
着地し、女神化を解いたところで、私はお姉ちゃんに呼び掛ける。でも返ってくるのは、静かな寝息だけ。
お姉ちゃんが大はしゃぎで走り回った後、もう時間も時間だから、と私達はベールさんと共に夕食を食べて、淹れてもらった紅茶で一服して…そうしている内に、お姉ちゃんは寝てしまった。はしゃいだのは勿論、行く前に大泣きしたのも疲労の一端になっているのかもしれないし、そもそも今のお姉ちゃんはウイルスに免疫が反応している状態だから、なんだかんだでかなり体力を消耗していたんだと思う。
「んー…セイツちゃん、お風呂入れそう?それとも、もうベットで寝る?」
「……ぅ…るぅ〜…」
(入るなのか寝るなのか分からない…)
困ったなぁ、と私は苦笑し、もう数度呼び掛ける。するとお姉ちゃんは目を擦りながらちょっとだけ顔を上げ、お風呂に入ると答えてくれる。
でも脱衣所に連れていってからも、入浴中も、殆どお姉ちゃんは寝ていた。これは流石に危ないな…と感じたから、お風呂は軽く済ませて、今度こそ部屋に…私の自室へ抱っこしていった。
「はい、到着。よいしょ、っと」
ベットにお姉ちゃんを寝かせると、お姉ちゃんは薄っすら目を開けて、左右をゆっくりと見て…それからまた、目を閉じる。けどお姉ちゃんの手は、私の寝巻きをきゅっと握っていた。…これじゃあ、離れる事は出来ない。元からお姉ちゃんを一人で寝かせるつもりはなかったけども。
「ふふ、なんだか本当にお姉ちゃんが妹みたい。…まぁ、若干娘みたいでもあるけど……」
もし本当にお姉ちゃんがお姉ちゃんではなく妹だったなら、こんな感じだったのかな…と少し思う。今のお姉ちゃんはロムやラムより幼い状態だし、仮に妹でもネプギアやユニ位だったらまた違うんだろうけど…姉妹の関係が逆だったらというのを想像すると、なんだか不思議な気持ちになる。
「…こんなに気に掛けちゃうものなんだな、お姉ちゃんって……」
私もベットに腰掛け、ふと呟く。今日一日、お姉ちゃんのお世話をしていて、私は思った。お姉ちゃんっていうのは、こんなにも妹の事を思うんだって。そこまで気遣いしてくれなくても大丈夫なのに…とよく私はお姉ちゃんに対して思っていたけど、これはお姉ちゃんが心配性だとか、私が自分で思ってるより頼りないとかじゃなくて…ただお姉ちゃんだというだけで、自然と気に掛けちゃうんだって。
それを私は、知る事が出来た。いつもの私とお姉ちゃんの関係は、今の私とお姉ちゃんとは全然違うけども…だとしても、これまでよりちょっとだけ、お姉ちゃんの事をより深く理解出来たような気がする。
「ほんと、いつもありがとねお姉ちゃん」
気持ち良さそうに眠るお姉ちゃんの頭を軽く撫でながら、妹として感謝を伝える。似たような立場になったからこそ分かった、感じる事が出来た感謝。そして……
「でも…私だってお姉ちゃんを支えてあげられるんだから、時には頼ってね?」
そう言って、くすりと笑う。お姉ちゃんが元に戻れば、関係もこれまで通りになるけど、時間が戻る訳でも、今私の中にある思いが消える訳でもない。だから…支えられなくても大丈夫な妹になるんじゃなくて、姉から妹へだけじゃなくて、もっと支え合える姉妹になろうと、私は強く思うのだった。
*
翌日、朝。あの後お姉ちゃんの隣で自分も横になって寝た私は目を覚まし…隣にお姉ちゃんがいない事に気付く。
「あれ…おね…もとい、セイツちゃん?」
部屋を見回し、ベットの下を覗き、もしや隠れてるのかな?…とクローゼットの中も見てみるけれど、姿はない。
これは一体どういう事か。お姉ちゃんに何かあったのか。それとも単に、私より先に寝てたし、先に目が覚めて部屋を出ただけなのか。何れにせよ、この部屋にいない事は間違いなくて……と思っていたところで、部屋の扉がノックされる。
「あ、はーい」
「…お、おはようイリゼ」
返事に対して聞こえてきたのは、お姉ちゃんの声。それも、聞き慣れた声音。まさか、と私が思う中、扉は開き…お姉ちゃんが、入ってきた。幼児化したセイツちゃんではない──いつも通りの、お姉ちゃんが。
「お姉ちゃん…!…よ、良かったぁぁ……」
「その…迷惑、掛けたわね…」
「そんな、迷惑だなんて…もしトドメを刺したのが私だったら、幼児化してたのも私だっただろうし、気にしないでよ。それに…もしそうなってたら、お姉ちゃんは私をお世話してくれたでしょ?」
「それは勿論…!」
恥ずかしそうにするお姉ちゃんへ、私は肩を竦める。まぁ、そう言いたくなる気持ちは分かるけど、私は微塵も迷惑だなんて思ってないし、良い経験…って言うのはアレだけど、一つの糧にはなったと思ってる。
「けど、もう大丈夫なの?何か違和感があったり、不調を感じてたりしない?」
「心配しないで、もう完全に…というか目が覚めた時点でばっちりだから」
「あぁ、そうだったんだね。…起きたのは、結構前?」
「ううん、ついさっきよ。…ほんと、ごめんなさいね…?」
「だからいいって。なんだかんだ、嫌な気持ちになんて一度もならなかったし」
「本当に…?本当にそう…?」
やけに幼児化していた事を気にするお姉ちゃん。しかもまだちょっと恥ずかしそうだし、不安そう。ひょっとすると、お姉ちゃんからすればモンスターを倒してからの記憶がなくて、且つ朝になっていたんだから、そこがどうしても気になってしまうのかもしれない……と、思ったけど…その割には、幼児化していた時の自分については、特に何も訊いてこない。何があったのかを気にするような素振りもない。…これって、もしや……。
「…お姉ちゃん、実は幼児化していた時の記憶があったり……?」
予想の言葉を聞いた瞬間、お姉ちゃんはびくっと肩を震わせる。どうやらやっぱり記憶があるらしい。それならここまでの反応…特に、私の気持ちを訊いてくる心理も納得出来る。うん、それはそうだよね。自分が幼児化していて、妹の事をお姉ちゃんと呼んでいて、お世話してもらってたのを覚えていたら…恥ずかしくも、なっちゃうよね。
ともあれこれで一件落着。元に戻ってくれた事に私は安堵し、イストワールさんにもすぐ連絡しようと思い…それから今の、普段よりちょっと大人しいお姉ちゃんの様子にセイツちゃんの面影を感じた私は、ちょっぴり口元を緩めつつ言う。
「また何かあっても大丈夫だからね。セイツちゃん♪」
「ちょっ…も、もぉぉっ!」
からかうような私の言葉に、お姉ちゃんは顔を真っ赤にする。それはもう、恥ずかしがる。
ちょっと…ちょっと?…アレな部分もあるけど、優しくてしっかりしてて、凄く凄く頼りになる。それが、私にとってのお姉ちゃん。でも昨日から今日にかけて、私はこうも思うのだった。…実は、可愛いところもあるのかも…って。
今回のパロディ解説
・〜〜粘液とか爆鱗とか鬼火〜〜
モンハンシリーズに登場するモンスターの一体(三体)、ブラギディオス、バゼルギウス、マガイマガドそれぞれの特徴の一つの事。でもこの中で明確に爆破属性を扱うのはブラギディオスだけなんですよね。
・「〜〜中位の妹〜〜」
物語シリーズの登場キャラの一人、阿良々木月火の台詞の一つ…というか、一部の事。本当に単なる台詞(ギャグ)の一部というだけなので、分からない方も多いかなと思います。
・「〜〜治すには〜〜必要があったり?」
モンハンシリーズに登場する要素の一つ、狂竜ウイルスに感染した場合の対処(克服)方法の事。ウイルスであったり散布であったりの説明があった為に、イリゼはこれを連想したのかもしれません。
・「〜〜ウィッチと呼ばれていたり〜〜」
デート・ア・ライブのヒロインの一人、七罪の事。幼児化といえば彼女の関わる展開を思い出します。そして同じくオリキャラであるDEM(私の作品)の主人公も、短い間ですが幼児化させられたりしています。
・「〜〜レベルトリック〜〜」
原作であるネプテューヌシリーズのアニメ(のOVA)に登場するキャラ(モンスター)の一体の事。イリゼとセイツが戦っていたのはこのキャラじゃないです、なんなら攻撃も受けてませんしね。