超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

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第四話 何があるか、何がいるか

 なんだか凄く個人的な理由を感じる…というか完全に個人的な理由から提案された、水着選び。少し驚きではあったけど、水着なら涼しいだろうし、わたしは賛成して、皆さんもそうしようって事になって、それぞれに水着を選んで着た。…涼しい、大事。暑くない、とても大事。

 そうしてわたし達は倉庫を出て、男の人達と合流。改めてこれからの事を考えないとね、と食堂エリアに集まった。

 

「さて、ここからの行動方針…いや、一先ず次にやる事を決めようか」

 

 各々着席したタイミングを見計らって、影さんが言う。茜さんに続いて、今度は影さんが妙な事を…?…という空気が一瞬流れたけど、それを察した様子の影さんは、「違うぞ?」という視線を送ってくる。というか影さんは別に仕切るつもりなんかないみたいで、その後は沈黙。

 

「んー…まぁ、さっきビッキィが言ってたけど、食料の確保は必要だね。ここの冷蔵庫や倉庫にもまだそれなりに食料はあるけど、この人数だと消費も早いだろうし、調査も兼ねて探しにいくのはどうかな」

「そうですね。食料の調達は、そのままこの島の環境把握に繋がります。植物であれなんであれ、それぞれ生息し易い環境というのはある程度決まっていますから」

「うん、私もイリゼさんに同感だよ。ただ、この島…いや、次元はここの様に、あり得ないものが成立し得るというのもまた事実だ。だから例えば、通常ならば水田でなければ上手く育たないような植物が、森の中で普通に生えている…なんて事もあるかもしれない。その点は念頭に入れておいた方が良いのではないかな」

 

 頬に指を当てた後に提案したイリゼさんへワイトさんが、ワイトさんの発言にはズェピアさんがそれぞれ反応。因みにワイトさんは今、ライトグレーに白のラインが入ったラッシュパーカーと黒のハーフパンツ型水着、それに薄茶色のサンダルを身に付けていて、ズェピアさんは赤のアロハシャツと白のハーフパンツ型水着、黒のサンダルを身に付けている。…ええっと…もっと印象とか感想とかがほしい場合は、別の人に頼んで下さい。

 

「じゃあ、まずは調査も兼ねた食料の確保…でいいのかしら?もしいいなら、次に決めなきゃいけないのは……」

「チーム分けじゃない?こんなに人数がいるんだから、何チームかに分けた方が調査も捗るし、色々やり易いでしょ。色々」

「色々…?エスちゃん、色々って…?」

「んもう、分かってる癖に〜」

 

 イヴさんに答えたエスちゃんの返しが気になってわたしが問うと、エスちゃんはやれやれ、と言いたげに肩を竦める。…うん、まぁ、分かるけど…人数が多いと何かとややこしいし、少人数の方が話も進むしね…。…何が、とは言わないけど……。

 

「となると、チーム分けの方法は…今度こそぐーちーですか?ぐーぱーですか?」

「いや、ここはぐっちー又はぐっぱーッスよね?」

「なんで二人はそこに拘り持ってるのよ…しかもそれだと2チームにしかならないでしょ。ここはもう少し分けた方がいいんじゃない?」

「だったらここからは、チーム分けのドラフト会議で一話使っちゃう?」

『いやいやいや……』

 

 それは流石に…と全員で突っ込み。これにはエリナさんも突っ込んでいた。というか、またメタ発言…。

 

「そういえば、前の時もチーム分けしたよね。あの時は私達、チームのバランスが良くなるように…って選んだんだっけ?」

「うん、そうだったと思うよルナちゃん。今回もそうする?」

「その方がいいんじゃないかなー。なんだかんだ私達はここまで危ない目に遭わずに済んだけど、危険な生き物がいる…って事も考えられるし、いざって時は対応出来るよーにしておかないと、ね」

「危ない目……」

 

 それはそうだ、と皆さんが茜さんに頷く中、イリゼさんは影さんにじとーっとした視線を向ける。けど影さんは無視。それに反応一切なし。…あ、イリゼさんが頬膨らませた。

 

「では、早速チームの編成を……」

「あぁ、であればその前に一ついいかな?ディール君とエスト君には、頼みたい事があってね」

「頼み事…わたし達にですか?」

 

 話を進めようとしたピーシェさんに待ったを掛けたズェピアさんは、わたし達へ顔を向けてくる。なんだろう、わたし達だけ…って事は、魔法関連かな…?と思ってエスちゃんを見ると、エスちゃんも同じような事を考えていたみたいで、「何かしらね?」…と顔に書いてあった。…それ位は見れば分かるよ?双子だし。

 

「ふぅん…ま、いいわ。それじゃあわたし達抜きで編成するとして…七人ずつ、陸上チームと水上チームの二つに分けるとか?」

「あ、それなら僕は水上チームでいいかな?僕…っていうより、フロストは陸上でも活動出来るけど、やっぱり泳ぎの方が得意だし」

「なら、イリスもそっちにする。イリス、フロストともう少しお話ししたい」

「いやイリス、目的は調査と食べ物の…って思ったけど、イリスは意思疎通が出来るし、むしろその方がいい…のかな?」

「まあ、何か見つけた時、その内容を正確に把握出来る人材がいるかいないかは大きいだろうな」

 

 特に反対意見が出なかった事で、まずは愛月さんとイリスちゃんが水上チームに決定する。その愛月さんは水色ベースで白の水玉が描かれたハーフパンツ型水着を着ていて、履き物は赤と白に黒のラインが入ったサンダル。それから鼠?…っぽい見た目のポケモンらしきイラストの付いた浮き輪を持っていて…え、なんでそんなものがここに?…と思ったら、普段から旅をする時に持ち歩いている、愛月さんの自前の浮き輪だって事だった。そして何故かもう一人の男性…影さんは水着に着替えず私服のままだった。

 それはともかく、チームで大事なのはバランス。でも今回は色々調べる為のチーム分けだから、割と戦力以外の部分も気にしなきゃいけなくて……あ。

 

「そういえば皆さん、女神化って……」

「出来るッスよ?出来るッスけど……」

「今は得られるシェアエナジーが限定的なので、可能な限り温存したいですね」

「こっちもよ。というかわたし達の場合、シェアエナジーを節約しないと…ね?」

「うん。まあ勿論、いざって時はいつでも使うけど」

「パープルハート様はどうですか?」

「自分も一応大丈夫かな。とっておきのタイミングでエリナちゃんに女神の姿を見せてあげるから、楽しみにしててっ!」

 

 念の為、と思って確認をすれば、全員反応は予想通り。わたし達も魔法は使えるけど、女神化については皆さんと似たような状態だから、今回はそれを意識しておかなくちゃいけない。

 その事も念頭に、チーム分けスタート。当たり前だけど、水上チームは泳ぎ以外で水上や水中を移動出来る方法のある人が優先的に選出されて…数分後、それぞれのチームのメンバーが決まる。

 

「わたし、ピーシェ様、愛月、イリス、茜さん、影さん、ワイトさん…今気付きましたけど、男性の比重が大分こちらに偏りましたね…」

「言われてみるとそうね。誰かこっち来る?今なら両手どころか全面に華よ?」

「興味ないな」

「遠慮しておきます」

「え、えっと……」

 

 セイツさんが変な事を言ったばかりに、微妙な感じとなる雰囲気。その後、セイツさんが全員から半眼で見られたのは、言うまでもない。

 

「…あ、イリス気付いた。まだチーム名を決めていない。チーム名は何がいい?」

「んー、そうだねぇ…水上チームだし、アクアとかにしちゃう?」

「はっ!イリゼ、ウチ等のトリオユニットから、茜が学生アイドルに移籍しちゃいそうッスよ!?」

「そんな…こんなところでユニット解散だなんて……!」

「シノちゃん、ぜーちゃん…ごめんね二人共…!私はどこにもいったりしないよ…!」

「…楽しそうね、三人共」

「お、イヴもデビューするッスか?」

「い、いや、それは…ちょっと……」

「というか話、逸れてますよ?」

 

 脱線どころか別の路線に乗りかけていた流れを断ち切る、ピーシェさんのクールな指摘。当たり前だけど、残りのメンバー…イリゼさん、セイツさん、アイさん、ルナさん、ネプテューヌさん、イヴさん、エリナさんが陸上担当。なんだかズェピアさんの言う事は時間が掛かるみたいだから、わたしとエスちゃんは少なくとも今日の調査はお休み。

 

「それじゃあ、チームごとに準備をして出発する?…あっ…『食料確保』と『調査』の両方やらなくっちゃあならないのが辛いところだけど、準備はいい?自分は出来てるよ」

「なんで今言い直したのよネプテューヌ…ここから暫く外に出っ放しになるんだから、わたし達もちゃんと準備はしておきましょ?」

「そうだね。ところでえー君、えー君はどうして着替えてないのかなー?」

「どうしても何も、別に必須じゃないだろう。そもそも俺は、濡れたとしても気にはしない──」

「着替えようね?」

「いやだから、俺は……」

「着替えようね?」

「……はい」

「イリスも、着替えてくる」

 

 謎の圧を見せる茜さんに影さんが連行されていく中、イリスちゃんも奥へと走っていく。その行動に、わたしとエスちゃんは顔を見合わせ…数十秒後、イリスちゃんは戻ってきた。…水着姿のまま、マフラーを首に巻いて。

 

「えぇと…イリスちゃん、もしかして寒かったの?」

「寒い、違う。でもディール、水着の上に一枚着てる。エストもそれを真似した。だからイリスも、これ」

「それ確か、元はお姉ちゃん…ブランさんのよね?」

「そう。これはイリスの、お気に入り。ブランがいてくれるみたいで好き。後、ブランの匂いもする」

 

 口や鼻を隠すようにマフラーを持ち上げるイリスちゃん。…イリスちゃんの次元の…ブランさん、本当に慕われてるんだなぁ…多分嗅いでるって知ったら怒るだろうけど。……と、思っていたら、おもむろにアイさんが近付いて、顔を寄せる。

 

「おー、確かにこの良い香りはブランちゃんの匂いッスね」

「な、何故分かるんですか…というか分かるようになってるんですかアイ様は…」

「ふっ、あれからどれだけ経ったと思ってるんッスかワイト。これがブランちゃんの親友としての──成長ッス」

「なんか格好良く決めてるところ悪いけど、成長の内容がそれって流石のわたしも軽く引くわよ…?……あ、でも、匂いといえば…ディーちゃんももしかして分かるようになってたり?」

「し、しないよ!?しないし、そんなスキルツリーわたしにはないからね!?」

 

 引くと言ったのも束の間、エスちゃんはわたしの方を向いてにやりと小さく笑ってくる。や、止めてほしい…これなんか、お約束のネタになりそうな気配がするけど本当に止めてほしい……(因みにアイさんの発言は、今回も冗談だったらしい)。

 

「こちらも準備を整えましょうか。…まあ、二名程着替えに戻っちゃってますけど」

「準備…僕はこれでよしっ!」

「わたしもこれでヨシ!」

「あ、麦わら帽子似合ってるね愛月君。ビッキィもライフジャケットとホイッスルで準備バッチリ…って、何そのセット!?サングラスといいそれ等といい、ビッキィはライフセーバーにでもなりに行くの!?」

 

 今回も冴え渡るイリゼさんの突っ込み。それを聞いて、見るからにご満悦そうなビッキィさんの表情。そんなこんなで準備は進んでいき、陸上チーム、水上チームはそれぞれ出発。わたし達はそれを見送って…くるりとズェピアさんに向き直る。

 

「で、わたし達は何をすればいいの?」

「頼み事、でしたよね?」

「あぁ。だが、百聞は一見に如かず。これは説明するより、まずは実際に見てもらうとしよう」

 

 そう言って、ズェピアさんは建物の奥へ歩いていく。それにわたし達が着いていくと、ズェピアさんはさっきわたし達がいたのとは別の倉庫…というより、空き部屋っぽくなっている場所に入る。

 ここで一体何をするのか。何を見せてくれるのか。全然予想が付かないわたしが首を傾げる中、ズェピアさんは部屋の真ん中でこっちに反転。それから小さく笑みを浮かべて……

 

『こ、これは……!』

 

 ズェピアさんが、見せてくれたもの。わたし達へ見せた事。そしてその目的は…わたし達が、全く予想しないものだった。

 

 

 

 

 別次元…それも普通じゃない次元に迷い込んでしまったのは、多分私の人生の中でもトップクラスの危機。下手をすれば、最初から万事休すになっていたかもしれない訳で…それを思えば、私の知る女神様ではないにしろ、パープルハート様や、カイトの事を知っている人達に出会えたのは、不幸中の幸いだったと思う。

 正直まだ、色々と掴みかねている。皆にどう接するか、どうやって接すればいいか…それに悩む。知り合ったばかりの相手との距離感が難しいなんて当たり前の事だけど、皆は全員既に交流があって、それがないのは自分だけというのは、少し居心地の悪さがある。でもそれは、誰かが悪い訳じゃないし、敢えて言うなら、こういう事になった私の運が悪かっただけ。だから…頑張りたい。少しでも、皆との距離を縮められるように。

 

「食料…っていっても、食べられるかどうかってどう判断すればいいのかな?」

「それは勿論、実食ッスよ。もしウチ等が全員ぶっ倒れたら…後は、任せるッス」

「待って、そんな穏やかな顔で私に託さないで…!私なんて、一口…いや二口齧るのが精一杯だよ…!?」

「いや、そもそも実食は危ないから止めておきなさい。さっきはアイ達が食材の毒味してたみたいだけど、それとこれとは話が別よ」

 

 微妙にズレているルナの返しに、イヴが突っ込む。それは本当にその通りで、あくまで腐ってるかどうかの確認で済んでいた(と思う)さっきと違って、今回は本当に毒を食べてしまう可能性もある訳だから、そう易々とやる訳にはいかない。…私としては、腐っているかどうかの確認についても、パープルハート様にやらせるなんて…って気持ちだったし、やる前に知っていたら絶対止めていたところだけど。

 

「とはいえ、食べられるかどうかは結局のところ食べてみないと分からないのよね。少なくとも素人のわたし達じゃ、それ以外でどう確かめるんだって話だもの」

「でもイヴの言う事も尤もだし、現実的なラインとしては、見た事があるか、知ってる食べ物に似てるか以外のものには極力手を出さない…って辺りかな。その上で、食べる場合は誰かがいる状態且つ、私達女神の内誰かか食べる…で、どう?」

『意義なーし』

 

 オリジンハート様の提案に、皆は同意。さっきも毒味役をしていたとはいえ、危険の伴う事を自然に引き受けられる事も、それを躊躇う事なく了承出来るパープルハート様達も、やっぱり女神というのは凄いと思う。凄いと思うし…それを普通に受け入れているルナやイヴからも、パープルハート様達への信頼を感じる。勿論私も、『女神』の強さを疑った事なんてないけど……少し、違う。二人の向けてる信頼は、きっと…敬意や信仰じゃなくて、友情。

 

「…けど、こうして探索してると旅をしてた時の事を思い出すなぁ」

「あ、それ私も。全然知らない場所に歩いていくのって、大変だけどちょっと楽しいよね」

「私は…前の時の事を思い出すわ。あの、天然の温泉に入りに行った時の」

「あの時も色々あったッスねぇ。あそこって、あれから観光スポットなり何なりで活用してるんッスか?」

 

 森の中を、小まめに見回しながら進む。既にお互い知った中で、緊張する必要もない…というだけじゃなく、全員多かれ少なかれ、こういう状況自体にも慣れているような気配を感じる。次元移動なんていう出来事そのものに慣れているのか、単に大変な環境や状況への経験が豊富なのかまでは分からないけど、そういう意味でもやっぱりちょっと気後れしてしまう部分が……そんな風に思っていたところで、不意に声を掛けられる。

 

「ね、エリナちゃんは旅ってした事ある?」

「え?…えぇと、ない…ですね。プラネテューヌから他国にまで行った事ならありますけど…」

 

 手を後ろに組んだ状態で、くるりと私の方を向いて呼び掛けてきたのはパープルハート様。まあ、旅行も含めればないとは言い切れないけど…流石に旅行も『旅』に含めちゃうのは、この流れでは違う筈。

 

「プラネテューヌって、信次元とかの自分やネプギアが統治してる国だよね?って事は、エリナちゃんはプラネテューヌ国民なの?」

「勿論です。これまでも、これまでも、私はパープルハート様とプラネテューヌ一筋です」

「いやぁ、自分の事じゃなくてもここまで即座に断言されるとなんだか嬉しくなっちゃうね!ふふん、羨ましいでしょ?」

「ふっ、甘いわねネプテューヌ。確かに羨ましい気持ちもなくはないわね。だけど…今はそれ以上に、エリナの熱のある真っ直ぐな思いと、ネプテューヌの機嫌の良い心を見られた嬉しさの事が上回っているわ!」

 

 問われる形でこっちの話に入ってきた…というか、少し前から私達の話を聞いていたらしいレジストハート様が、よく分からない理由でご満悦そうな顔をする。…この方の事は、距離感云々以前に時々訳が分からない。

 まあそれはともかく、私の知るお方ではないにしても、パープルハート様に嬉しいと思って頂けるなら光栄な事。…と、思ったところである事に気付く。

 

「…今の言い方…貴女はプラネテューヌの女神ではないのですか?」

「うん、自分の住んでる世界は皆の住んでる次元とは色々違っててね。だから自分も、ピィー子やイリゼ達の次元に行った時は驚いたなぁ…。…あ、因みに信次元に行った時は、自分以外のネプテューヌ三人に会ったりもしたんだよね」

「さ、三人…?…信次元は、同じ人間…もとい女神が普通に複数人いるんです…?」

「まさか。その場にわたしがいた訳じゃないから、詳細は分からないけど、多分信次元のネプテューヌの他に、別次元のネプテューヌが二人来ていた…ってだけだと思うわ。因みにネプテューヌって、次元によっては女神じゃなくて人間なのよ?」

「あ、それは私も知っています。…といっても、詳しくは知らないんですけど……」

 

 驚きでしょ?…という視線を向けてくるパープルハート様だけど、私からすればこの次元に来てしまって以降驚きの連続な訳だから、パープルハート様の住んでいる場所についての話も、信次元に複数のパープルハート様がという話も、実は私の中では色々ある驚きの中の一つでしかなかったりする。

 だけど勿論、それを口に出したり、悟られてしまったりはしないように努める。女神様相手にそれは失礼だし……

 

「…パープルハート様、レジストハート様、お気遣いありがとうございます」

「うん?どういう事かしら?」

「私の事を気に掛けて、話し掛けたり意識を向けてくれていたりしたんですよね?」

 

 一度足を止めて、感謝を伝える。最初から分かっていた訳ではないけど、話していればお二人の気遣いにも気付く。今は勿論、出会ってから食事をするまでも色々気に掛けてくれていたと思うし…多分オリジンハート様や、他の人達も私を気にしてくれていた、そんな気がする。

 そう思い、私が伝えた感謝を受けて、お二人は顔を見合わせる。それからパープルハート様は私の方へと向き直り…言う。

 

「え、違うよ?だって自分は、ただエリナちゃんと仲良くなりたくて、それでエリナちゃんの事を知ろうと思って話し掛けただけだもん」

「へ…?そ、そうなんですか…?」

「いやぁ、自慢じゃないけど自分はそんな上手に気遣い出来るタイプじゃないしね。だからさっきの感謝の言葉はセイツだけで十分だよ」

「そういう事なら、わたしだって要らないわ。だってわたしも貴女と仲良くなりたかっただけ…と、言いたいところだけど…うーん、駄目ね。嘘を吐きたくはないから正直に言うけど、確かにわたしは気遣いをしてたわ。だって、そうでしょ?こんな状況、不安じゃない訳がないもの」

 

 あっけらかんと、仲良くなりたかっただけだと言い切るパープルハート様。そのあまりにあっさりとした返しに私はぽかんとなり…そうしている内に、レジストハート様は頬を掻きつつ肩を竦める。その上で、更に続ける。

 

「…だけど、仲良くなりたいって気持ちはわたしも同じよ。だって、折角出会えて、知り合えたんだもの。なら、仲良くなれた方が嬉しいし、楽しいでしょ?」

「レジストハート様……」

「だから今、わたしは楽しいわ。こうして貴女と話せて、少しずつだけど貴女を知れて…そしてそんなエリナと、森林浴デートが出来てるんだものっ!」

「…そう、ですね。私も、そう思ってもらえるなら嬉し……え、デート?は、はい?」

「そう、デートよ!んふふ、もっと貴女の事を教えて頂戴、感じさせて頂戴♪」

 

 この方は、レジストハート様は、良い女神だ。隠さず自分の考えを、思いを伝えてくれる。私はあくまでパープルハート様を信仰する身ではあるけど、レジストハート様の良さも今は凄く伝わってくる……と思っていたら、突然出てきたデートという言葉。全く以って訳が分からず茫然とする中、レジストハート様は更に言う。謎のテンションで畳み掛けてくる。そしてそんなレジストハート様の姿に、パープルハート様は苦笑。

 

「セイツはこういうキャラだから、あんまり気にしない方がいいよ。信次元じゃ、変態で有名みたいだからね」

「あ、そうなんですね…覚えておきます」

「ちょっ、変態で有名とかではないんだけど!?」

 

 一転して突っ込むレジストハート様へ、パープルハート様は苦笑を深める。…仲良くなれたかどうかはともかく…この一連のやり取りで、レジストハート様の人となり(女神だけど)が、何となく分かった気がする私だった。

 

「もう、皆わたしの事を変態って言い過ぎよ。わたしはただ、人の心が好きなだけで……って、あら?」

 

 ふと足を止めるレジストハート様。何かと思えば、少し先を歩くオリジンハート様達がこちらへ手招きをしていて…合流すると、今度はある方向を指差す。それは崖の様になっている場所の上で、そこにあったのは……

 

『…バナナ?』

 

 大きな葉と、そこに実った多数の実。細長く黄色い、密集するようにして木に出来ているそれは…見るからに、バナナ。

 

「これはまた、絶好の食料ッスねぇ。アレがウチ等の知るバナナなら、ッスけど」

「大丈夫大丈夫!他の果物ならまだしも、バナナなら最悪食べられなくても『そんなバナナ!』って言えるんだからね!」

『…………』

「…あ、あー…えっと、今のは…その……」

「…と、取り敢えず採りに行ってみよっか……」

『そ、そう(だ・ッス)ね…』

 

 期待出来るものを見付けられた…と思ったのも束の間、一瞬にして凍り付いた空気。凄まじく微妙そうな顔をしたルナの言葉に、全員がぎこちない動きで頷く。…ごめんなさいパープルハート様、流石に今のは私も擁護出来ないです…。

 

「っと、待った。これ多分、崖を左に迂回するルートと、右に迂回するルートと両方行けそうだよね。ここまでは何も分からない場所だったから全員で動いてたけど、ここからなら目的地がはっきりしてるし、二手に別れない?」

「いいんじゃないかしら。どっちかのルートに問題があるかもしれないし、道中で別の発見があるかもしれないし、私は賛成よ」

「おっ、だったら本当に今度こそ「ぐっちー又はぐっぱーね?」んな…ッ!?セイツに、取られた……!?」

「ふっ…でも、思ってたんでしょう?三度目だから一捻り欲しい、良いオチが欲しい…って」

「くっ…!う、ウチは…そんな、事……」

 

 ふっ、と余裕たっぷりに微笑むレジストハート様と、悔しそうに震えるローズハート様という、突然始まった謎のやり取り。しかもその数秒後にはお二人共普通の顔に戻って、さぁ二組に分かれようと片手を出す。そしてオリジンハート様達はそれに苦笑いをしていて…やっぱり個性的よね、女神様って…。

 なんて事も思いながら、私達はぱぱっとチーム分け。結果私はレジストハート様、ローズハート様、それにルナの三人と組む事になり、パープルハート様、オリジンハート様、イヴの三人とは一旦別れて再度歩き出す。

 

「バナナかぁ…イリゼなら、バナナで何かお菓子作ってくれるかな?」

「かもしれないわね。っていうかもう、何か考えてたりして」

「あり得るッスねぇ。エリナも何か食べたいものがあれば、考えておくといいッスよ。イリゼならリクエストに応えてくれると思うッスから」

「いや、女神様にリクエストをする訳には…料理なら、私も出来ますし」

「あ、そうなんスね。しっかしワイトもッスけど、エリナも中々きっちりしてるというか、お堅いッスねぇ。別にウチはもっと砕けた喋り方でもいいんスよ?」

 

 肩を竦めるローズハート様に、ありがとうございますとだけ返す。そう言ってもらえるのはありがたいけど、女神様に砕けた口調で…っていうのは、かなりハードルが高い。…それと…ワイト、って確かあの、ガタイの良い男性だったわよね。自己紹介の時に軍人だって言ってたと思うし、それなら態度がきっちりしてるのも頷けるわ。

 

「それで言うと、カイトさんは最初からずっと今の感じだったよね。…あ…わ、私は敬語でも砕けた口調でも、どっちでも大丈夫だよ…?」

「(あ、ちょっと緊張してる…)カイトは…でしょうね。うちのカイトが遠慮知らずですみません…」

「いやいやなんら問題ナッシングッスよ。あ、ところで今の『うち』はウチの真似──」

「ではないです」

「んまぁそッスよね〜」

 

 そんな感じでやり取りをしつつ、迂回する事暫く。女神様二人は勿論、ルナも旅に慣れてるっぽいだけあって、多少の起伏や草むらなんかはものともせずに進んでいく。そして私達は、ぐるりと回って崖の上、バナナらしき木が沢山生えている場所へと到達する。

 

「近くで見ると、ほんとにバナナね…試しに一本採って剥いてみますか?」

「待った、見た目はバナナでも触るとかぶれるとか、何か危険がある可能性もあるわ。だから……」

 

 言うが早いか、抜剣したレジストハート様は素早く横薙ぎ。その斬撃でバナナを一房落とし、更にその内一本も両断する。そうして見えた断面はバナナのもので…匂いもやっぱりバナナのそれ。

 

「やっぱりバナナっぽいッスねぇ。…なら」

「あっ…結局触れるのでしたら、やっぱり私がやった方が……」

「いやいや、見ての通りウチは足技主体ッスからね。こういう場合、もし何かあってもメインウェポンに支障がないウチがやるのが適任ってもんッス」

『見ての通り…?』

 

 ひょい、と持ち上げたローズハート様の発言に、私達は首を傾げる。ただまあ、触っても問題ないという事は判明した。後は、これが誰かの育ててるバナナじゃないか、って事だけど…全然土地が整備されてる感じはないし、多分大丈夫よね。

 

「…っと、うん?このバナナ、やたら皮が剥け易いッスね…軽く握っただけで皮が剥けるとは……」

「気を付けないと中身が飛んでっちゃいそうだね…それにしても、イリゼ達遅くない…?通れない場所が多くて、遠回りしてるとかかな?」

「かもッスね。まあ待っていればその内来る……ん?」

 

 確かに遅い…と思う中、不意に聞こえてきた何かの音。断言は出来ない…けど、何となくそれは声に聞こえる。それも何か、叫んでいるように思う。

 一体これは何なのか。声だとしたら、何事か。怪訝な表情で私達が顔を見合わせる中、段々とその音は大きくなっていき……

 

『ぁぁぁぁぁぁああああああああああッ!!』

 

──次の瞬間、パープルハート様、オリジンハート様、イヴの三人が現れた。…何故か、全力疾走で。鬼気迫る勢いと表情で。凄まじい程の、叫び声を上げながら。

 

『いや何事ぉ!?』

 

 意味不明且つ衝撃的過ぎる展開にぎょっとする私達の横を、パープルハート様達は駆け抜けていく。ただ一瞬、ほんの一瞬こちらへと向けられた目は、「助けて」と言っているようで……その意味も、直後に判明する。パープルハート様達が駆け抜けていった数秒後、同じように遠くから聞こえてきた地響きと共に、巨大な猪が現れた事で。

 

「…ええ、っと…これは、つまり……」

「追われてる、ッスね…」

 

 ルナの言葉に、ローズハート様が返す。その間にパープルハート様達と巨大猪の姿は見えなくなり…またこっちの方に来る。絶叫と共にパープルハート様達は逃走し、その後を正に猪突猛進な迫力で巨大猪が追い掛けていく。

 

「いやこれ不味いよね!?イリゼ達大ピンチだよね!?た、助けないと…!」

「そうね…一体何がどうしてこうなったのかは分からないけど、パープルハート様を傷付けようとする害獣は、早急に始末しないと……」

「へ…?え、エリナさん……?」

 

 今分かっているのは追われているという状況だけだけど、パープルハート様を害しようとしている…その時点で、許すという選択肢なんてない。猪だろうがなんだろうが、叩きのめすのみ。だから私は不届きな巨大猪を睨め付けると共に、剣を抜き……次の瞬間、私の前にレジストハート様が立つ。

 

「まあ待ちなさいエリナ。丁度良い機会だもの。ここでちょっと、わたしの…信次元と神次元の女神の力を、貴女に見せてあげるわ」

 

 振り向く事なく、背中越しに言うレジストハート様。その余裕と自信に満ちた言葉で、思わず私の足は止まり、逆にレジストハート様は駆けていく。二振りの剣を手に加速していき、全力疾走で現れては森林へ消えてを繰り返すパープルハート様達と、巨大猪との間へ割って入る。

 進路上に現れたレジストハート様に対し、巨大猪は減速する事なくそのまま突っ込んでいく。距離のある私でもゾッとするような迫力、勢い…けれどレジストハート様はほんの少しも動じる事なく、巨大猪を見据えて引き付ける。そしてぶつかる、激突する瞬間にレジストハート様は一気に地を蹴り滑るように斜め前へと躍り出て、その動きと共に剣を振るい……

 

「ぎゃああああああああああッ!!?」

「って、吹っ飛ばされたーーッ!?」

「おおぅ、見事なまでの即堕ち2コマッスね…あ、神次元って言ってもウチの住む神次元とは別ッスよ?あれを神次元全般の代表とは思わないでほしいッス」

 

……ご覧の通りだった。もうギャグにしか見えない流れで、レジストハート様は跳ね飛ばされていった。…けど、冗談みたいな展開ではあるけど…これは、笑い事じゃない。

 

(……っ…なんて軌道修正能力なの……!)

 

 真正面から吹っ飛ばされたレジストハート様だけど、確かにレジストハート様は激突の直前、突進を躱していた。ギリギリまで引き付ける事で、すれ違うようにして躱し、それと共に側面から斬り裂く為の動きをしていた。にも関わらず吹っ飛ばされたのは…レジストハート様の回避に合わせて、巨大猪も軸合わせを行ったから。一瞬前で躱したレジストハート様に対して、更にその一瞬の内に軌道修正をしてきたから。…はっきり言って、まともじゃない。凄まじいどころの騒ぎじゃない。もし私が止められずに巨大猪へ仕掛けていたら…きっと、同じようになっていた。

 

「ぎゃふんッ!」

 

 パープルハート様達を飛び越えるように吹っ飛んだ末、レジストハート様は地面へヘッドスライディング。巨大猪の勢いは変わらないまま。パープルハート様達も追い掛けられたまま。そしてパープルハート様達の逃げる先には、うつ伏せで腰…というかお尻だけが上がった状態という、何とも情けない格好のレジストハート様が倒れていて……あっ。

 

「えっ、ちょっ…きゃあッ!?」

「ふぎゅう!?」

 

 驚愕の声。新たな叫び。パープルハート様達とレジストハート様の位置が重なり…レジストハート様が、イヴに蹴っ飛ばされていた。イヴはすっ転び、走る脚の動きで蹴られたレジストハート様は衝撃で跳ね起き…「ひッ…!」という声が聞こえた直後、イヴの姿が巨大猪の起こす砂煙で見えなくなる。まさか、と背筋が凍り付く中、次第に砂煙は晴れていき……完全に砂煙が晴れた時、イヴはまだそこにいた。辛うじて無事なようで…そのイヴと入れ替わるように、今度はレジストハート様がパープルハート様、オリジンハート様と共に追い掛けられていた。

 

「あ、だ、大丈夫ですかイヴォンヌさん!」

「はーッ…!はーッ…!はーッ…!はーッ…!」

「…い、イヴォンヌさん…?」

「はーッ…はーッ…だ、大じょ…ぅ"ッ……!」

「あー…ルナ、今は暫くそっとしておいてあげるッス」

 

 大丈夫だと言いかけて、吐きそうになるイヴ。…なんというか…今の彼女は息が上がり過ぎて、顔が凄い事になっていた。女性がしちゃいけないような顔になっていた。まあ、でも、そうよね。そうしなきゃ大変な事になるとはいえ、人の姿の女神様二人とほぼ同じペースで走り続けてたんだもの…。

 

「…イヴ。気休めにしかならないと思うけど、ちょっと失礼するわ」

「あ……ありが、ぅぶ……ッ!」

「ちょっ、吐かないで…!?」

 

 片膝を突き、イヴに回復魔法を掛ける。怪我で具合が悪くなってる訳じゃないから、本当に大した効果はないかもしれないけど、一応掛けるだけ掛けて…再び巨大猪を見据える。

 

「ローズハート様、ルナ、彼女の事はお願いします。…引き付けてのカウンターが通用しないのなら、近付かれる前に魔法で仕留めるまで…!」

「あ…それなら、私も……!」

「おっと、待つッスよ二人共。確かに仕留めるだけならそれでも良いかもしれないッスけど…あの勢いじゃ、仮に仕留められても止まらないッス。そして制御を失った猪に突っ込まれて、そのまま木なり地面なりと挟まれたら……」

 

 軽い調子の声と、それとは裏腹に冷静な面持ちなローズハート様の言葉で私もその危険性を認識する。巨大猪はかなりの速度だから、横や後ろから攻撃をしても当たらない可能性が高いし、あの巨体を仕留めるられるだけの攻撃をした直後に大きく回避行動を取るのも確かに難しい。そしてもし押し潰されるような事があれば…どうなるかは、あまり考えたくない。

 

「でも、それならどうすれば……」

「そうッスねぇ…最悪女神化すれば正面から撃破する事も出来ると思うッスけど、それは最終手段にしたいッスね。イリゼ達が逃げ回ってるのも、それが理由だと思うッス」

「…回避優先で、少しずつ遠距離攻撃でダメージ与えてみます?」

「有りッスね。けど、ウチ的に欲を言えば、一撃且つ外傷は少なめで仕留めたいところッスよ」

「どうしてですか?」

「そりゃ、上手くいけば大量の猪肉ゲットじゃないッスか」

『あー…』

 

 今はそれよりパープルハート様達の事を…と一瞬思ったけど、食料確保だって重要な事だし、ローズハート様の言う通り、大部分を使える状態で確保出来ればかなり大きい。ただそうなると、本当にどうやってあの巨大猪を倒すかという話になる訳で……

 

「うぁ……っ!?」

 

 何か弱点はないか。そう思い、角度を変えて(といってもずっと縦横無尽に走っているけど)巨大猪を見ようとした瞬間、足が滑って転びかける。けど丁度それはローズハート様とルナのいる方向で、二人は私を受け止めてくれる。

 

「っとと、大丈夫?」

「え、えぇ…ありがとう、助かったわ」

「けど、どうしたんッスか?もしや、昔矢を受けた膝が…?」

「いや受けてないです…誰の事の勘違いしてるんですか…。…そうじゃなくて、どうやら落ちていたバナナの皮に足を取られ……」

 

『あ』

 

 その瞬間、同時に、私達は思い付く。巨大猪に対する、作戦を。下手に近付く必要もなく、上手くいけば傷だらけにもせずに仕留められる策を。

 一応私達は、思い付いた事を口にして確認。そこから細かい動きを打ち合わせ、頷き合う。そしてくるりと振り返り、準備の為走る。

 

(もう少しだけ待っていて下さい、女神様方…!)

 

 相手は巨大。半端な事をしても通用しない可能性が高いし、学ばれてしまわない為にも、確実に一度で成功させる必要がある。だから私達は十分に、たっぷりとかき集め、準備を整え、そして……

 

「さぁ、やるッスよ二人共」

「ま、待って…ここは…私も……」

「イヴォンヌさんはまだ休んでて。…というか、多分全力疾走し続けた上で転んだからだと思うんだけど…その、水着がかなりギリギリの状態まで捲れてるっていうか……」

「へ?……──っっ!」

 

 本当にかなり際どい状態になっていたイヴは、かぁっと顔を赤くして胸元を隠す。それに私達は苦笑した後もう一度頷き合い…走る。向かう先は勿論…パープルハート様達と、それを追う巨大猪。

 ぐるりと回り込む形でパープルハート様達の前に出て、任せてほしいという思いを視線に込める。それが伝わったかどうかは分からない。だけどやる、やってみせる。

 すれ違い、真正面に捉える巨大猪の姿。やっぱり巨大猪の迫力は生半可なものじゃなくて、反射的に避けたくなる。でもそれをぐっと堪え、いつでも動けるように足へと力を込め……その瞬間が、来る。

 

「今ッス!」

 

 ローズハート様の掛け声に合わせ、私達は横へと大きく跳ぶ。それと共に腕を振るい、抱えていた物を……大量のバナナの皮を、三人で撒く。

 当然私達が回避行動を取っている間にも、凄まじい速度で巨大猪は突っ込んでくる。私達の内誰かに狙いを定めて軌道修正してくる事も十分あり得る。けどそれでいい。それも踏まえて、三人で大量にばら撒いたんだから。そしてあっという間に巨大猪は距離を詰め、私達に肉薄する。肉薄し、減速する事なく幾つものバナナの皮を踏み……その巨大が、宙に浮く。足を滑らせ、前転するように飛んでいき…巨木に、直撃。その木をへし折りながら更に進み、奥の木にも衝突し……沈黙。

 

「や、やった…やったよアイ!エリナさん!」

「えぇ!(…けど、ほんとになんて勢い…むしろなんであのレベルの衝突をされて、レジストハート様は普通に走れてるの…?)」

「お二人さん、喜ぶのはまだ早いッスよ!あの猪が起き上がる前に、総攻撃で一気に仕留めるッス!」

 

 完璧なまでの作戦成功に、自分の…いや、私達での成功に、声が弾む。でもローズハート様の声で冷静になり、即座に剣を抜く。狙うは勿論頭部。ただ転倒しているだけか、気絶しているのかは分からないけど、ともかく速攻で致命傷を与えて、確実に終わらせる。

 一斉に走る私達。まだ振動でバナナの木が揺れている中、全速力で距離を詰める。そうして剣の間合いへ入ると共に、私は頭部へ狙いを定め……

 

 

──次の瞬間、私の目の前でバナナの皮が落ちる。それも、一本や二本の皮じゃない。恐らくは巨大猪の衝突で、その振動で、剥け易いらしいバナナの皮が次から次へと剥けて落ちる。それを認識する事は出来たけど、勢いに乗った状態で急に止まれる訳もなくて…バナナの皮を、踏んでしまう。私は、私達は、思いきり踏んでスリップし……すっ転ぶ。

 

「あぅっ!……あ…」

 

 すてーん!…と音が聞こえそうな位に、三人揃って転倒。幸い周辺は背の低い草で覆われていたから、それがクッションになる事で大して痛くはなかったけども、だとしても衝撃には襲われる。

 よりにもよって、このタイミングで落ちてくるなんて。そう思いながら、私は起き上がる。起き上がり…目が合う。合ってしまう。丁度ほぼ同時に起き上がった、巨大猪と。

 数秒の沈黙。突然の静寂。誰も何も声を発さない中、静かに巨大猪は鼻を鳴らし……

 

「…これは、あれッスね…こんなにも転倒を誘発するんッスから、スベールバナナと命名を……」

『そんな事言ってる場合じゃないと思うんだけどぉぉぉぉおおおおおおッ!?』

「そッスよねぇええええええぇぇぇぇッ!!」

 

 それから経つ事暫くの時。巨大猪も今ので結構ダメージがあったようで、何とか私達はその巨体の殆どに傷を付ける事なく仕留める事が出来た。…出来たには、出来たけど…巨大猪との戦闘が終わった時、立っていられた人は誰もいなくて……パープルハート様達含めた全員が、さっきまでのイヴの様になっていた。




今回のパロディ解説

・「〜〜アクア〜〜」、「〜〜学生アイドル〜〜」
ラブライブシリーズに登場するユニット(グループ)の一つ、Aqoursの事。イリゼ、茜、アイでスクールアイドルは…まあ、無理ですね。学生じゃないですし。それどころか就学経験すらないと思いますし。

・「〜〜『食料確保』と〜〜自分は出来てるよ」
ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風に登場するキャラの一人、ブローノ・ブチャラティの名台詞の一つのパロディ。どうしても『ブローノ』が『流浪の』に聞こえてしまう私です。

・「〜〜ヨシ!」
ネットスラング(というかキャラクター)の一つ、現場猫の代名詞的な台詞のパロディ。でもヨシ!…と言っているからといって、ビッキィがあのポーズをしている訳ではないと思います。
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