超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
守護女神となってから…ううん、その前から、イリゼは頑張っている。信仰してくれる人達の為、国の為に頑張る姿は姉として誇らしいし、同じ神生オデッセフィアの女神としても胸を張れる。
とはいえ、頑張るばかりが良い訳じゃない。オリゼ…原初の女神位の規格外な女神ならまだしも、わたし含め普通…何を以て普通と言うかはまあ別として、とにかくオリゼ程色んな意味で桁違いな訳じゃない女神には、休息だって必要になる。でも、それで良いのよね。だって女神は、人を導きつつも、一緒に歩むものなんだから。先に一人で歩き続けるものじゃないんだから。
「ふふふっ、今日はなんだかツイてそうだわ♪」
紙の箱を持ちながら、教会の廊下を進む。箱の中に入っているのは、あるお菓子屋のシュークリーム。毎日限られた数しか作られないそれを、今日は買う事が出来た。それも丁度、残り二個だった。
これを今から、食べるつもり。勿論イリゼと食べるつもり。今日はわたしとイリゼも休みの日だし、これを食べてのんびり楽しく過ごせれば良いなと思っていた。──思って、いたのに…。
「んふふ、心配する事はありませんわ。わたくしが、手取り足取り教えて差し上げますもの♪」
「いや、ちょっ…だから私は、別に……」
リビングに入ったわたしを待っていたのは、衝撃的な光景だった。何故かうちのリビングにベールがいて…後ろからイリゼを抱き締めていた。
「ね…寝取られてるぅぅぅぅううううううッ!!?」
「ぶ……ッ!?お、お姉ちゃん!?」
あまりのショックで、思わず叫んでしまうわたし。衝撃が大き過ぎて、危うくシュークリームも落とすところだった。シュークリームは落とさなかったけど、わたしのハートは落っこちて粉々になったかもしれない。
「あ、セイツ帰ってきたんですのね。…しかし何故、『また盗まれてるー!』のテンションで…?」
「そんなテンションで言ってないんだけど!?ちょっと、何やってる訳!?」
「ゲームですわ」
「そっちじゃなくて、なんでイリゼに抱き着いてるのかって言ってるの!」
「…え、寝取られ云々には触れないの…!?」
我に返ったわたしはシュークリームの箱をテーブルに置き、速攻強襲。うんまあ確かにわたしもちょっと寝取られに直接言及がなかったのは「えっ…?」…って思ったし、そもそも言葉選びが流石におかしいとも思ったけど…今はそれどころじゃないわ!
「とにかく!まずは!離れなさいッ!」
「あーん!」
依然としてイリゼに抱き着いたままのベールの首根っこを掴み、無理矢理引っ剥がす。もし抵抗するようなら更なる実力行使を、と思っていたけど、結果ベールは無抵抗。それどころか、わたしは掴まれた時点でイリゼから手を離していて…このイリゼへの配慮がまたちょっとむっとする。…配慮に込められた感情は素敵だけども。こういう状況じゃなきゃ、「あ、良い…これ良い……」ってしみじみしてるところだけど…!
「むぅ、酷いですわ…勢い任せにソファへ投げるだなんて」
「むしろソファに投げただけ有情だと思う事ね!ふんっ」
「…因みにその辺りの情がなかった場合はどうなるんですの?」
「床に投げた上でそこの本棚からダイビングエルボードロップを叩き込んで、更にパラダイスロックを掛けるわ」
「あ、結構本格的に攻め込むんですのね……」
取り敢えず引き剥がす事は出来たけど、まだわたしの気持ちは収まらない。…そう。離れたからこれで良し、とはならない。
「…で、なんでベールがうちにいる訳?」
「遊びに来たからですわ」
「…本当に?」
「う、うん…遊ぶ予定とかは特になかったんだけど……」
「イーリゼちゃん、あーそーぼー、ですわ。…と言ってお邪魔したんですのよ?」
「そんな情報要らないから…っていうか一国の長が、他国の長のところへアポ無しで遊びに行くってどうなのよ……」
「ネプテューヌは割と普段からそうですわよ?知りませんの?」
『…………』
言われてみれば、確かにそう。うちにもそんな感じにネプテューヌが遊びに来た事もあったし、わたしの知るもう一人の女神のネプテューヌ…超次元の彼女もそうである気がする。けど、そういう問題じゃない。
「…まあ、いいわ。そこはもうこの際いいわ。それより問題は、イリゼを抱き締めてた事よ。あれは一体何のつもり?」
「姉が妹を抱き締める、そこに問題は何もないでしょう?」
「そうね、その通りよ。ベールがイリゼの姉じゃないって事を除けばね!」
「……!?そんな…セイツ貴女、記憶が改竄されて……」
「ませんけど!?そっちが事実の捏造をしてるだけですけどぉ!?」
愕然とした、みたいな顔をするベールへ怒りと共に激しく突っ込む。くッ…あくまでそういうスタンスな訳ね……!
「ベール、貴女がイリゼと仲良くするのは良いわ。一向に構わないわ。だけど貴女はイリゼの姉じゃないし、イリゼのお姉ちゃんはこのわたしよ!……後イストワールよ!」
「流れ的にイストワールにも言及するべきかちょっと迷ってましたわね…?…まあそれはそれとして…分かっていませんわねぇ、セイツは。遠い親戚より近くの他人。大事なのは、血の繋がりよりも共に過ごした時間ですわ!」
「ふん、結局他人は他人よ。血の繋がりに勝る縁ではないわ!」
「女神が心の繋がりを二の次にするとは…というかそもそも、女神にとっては血の繋がり自体が怪しいものでしてよ?それを思えば、やはり姉指数が高いのはわたくしの方でしょう?」
「血縁云々を言い出したのはそっちでしょう…!?っていうか何よ姉指数って!どこの義妹と実妹よ!」
「あ、あの…二人共、喧嘩しないで…?」
「ほら、イリゼちゃんもこう言ってますわよ?」
「さも当然のように速攻で変わり身するの止めてくれない!?」
イリゼに止められ、一旦は矛を収めるわたし達。だけど勿論、これで終わらせるつもりはない。イリゼの姉として、真の姉妹として、終わらせられる訳がない。
「まあまあセイツ、イリゼちゃんが見ている前でもありますし、お姉ちゃん同士仲良くすると致しましょう?」
「だから貴女は姉じゃないんですけど!?イリゼの姉は!わたしとイストワールなのよ!」
「あくまで共存は出来ない、と。ならば、わたくしも引く訳にはいきませんわね!このわたくしこそ、イリゼちゃんを導くお姉ちゃんですわ!」
どう考えたっておかしな事を言っているのはベールの方なのに、今日に限っては全く退く気配がない。そしてそうなれば当然、わたしもなあなあで済ませる気なんてなくなる。…さっきから既にそんなスタンスじゃないように見える?それはそうでしょう、だってわたし間違ってないもの!
「むぐぐ……!」
「むぅぅ……!」
「え、や、あの…だから二人共、喧嘩は止め──」
「だったら、勝負よ!」
「なんで!?」
「乗りましたわ!」
「乗った!?」
対話で解決出来ないのなら、戦うしかない。戦って、示すしかない。そして聞き分けのないベールも、実力で示す事への理解だけは早かった。
「ま、まさかとは思うけど、殴り合いとかする訳じゃないよね…?」
「流石にそこまではしないわ。それに勝負な以上、正々堂々とやりたいし…ベール、三番勝負といきましょ?」
「構いませんわ。一発勝負ではまぐれで勝敗が決まってしまう可能性もありますし、勝負の内容で得手不得手がはっきりしてしまった場合、勝っても負けても蟠りが残ってしまいますものね」
「それじゃあ、勝負の内容はイリゼに決めてもらう?それとも一本目二本目は、お互い決める?」
「いえ、何種類か内容を決め、それをくじでイリゼちゃんに引いてもらって決める形の方が良いと思いますわ」
「わっ、急に二人共建設的な意見を出し合い始めた…お姉ちゃんもベールさんも、基本しっかりしてるよね…その基本から大脱線した結果、今は訳の分からない状況になってるけど……」
話し合う事数分。ベールの提案したくじ引き案にわたしも同意をし、二人で数枚ずつくじを用意。それを折って適当な箱に入れ、かき混ぜ…そしてイリゼに引いてもらう。そうして出てきた紙に書かれていた内容を、イリゼが読み上げる。
「ゲーム…対決…?」
「ふっ、どうやら一戦目はわたくしの勝ちのようですわね」
「随分と早い勝利宣言ね。まだ何のゲームで勝負をするか…ううん、それどころかコンピューターゲームで勝負かどうかすらも分からないっていうのに」
「え、普通にアクションゲームですわよ?紙をよく見て下さいまし」
「へ?…あぁっ、よく見たらちっちゃくそう書いてある!?」
見せてくれた紙を凝視すれば、確かに真ん中に書かれた『ゲーム』という文字の他に、端っこに脚注の様に『※アクションの』と書かれていた。な、何よこの姑息な契約書みたいな手法は…!くじ引きでやる内容を決めるんだから、こんな騙しなんて何の意味もないのに…!
「という訳で、早速勝負ですわ。…あ、でも流石にもしやった事のないゲームであれば、練習する時間位は差し上げますわよ?ゲーマーとして、アンフェア過ぎる勝負は望むところではありませんし」
そう言ってベールが見せてきたのは、わたしが入ってきた時にイリゼとやろうとしていたゲーム。それ自体はやった事ないけど、前作はやった事のあるという、経験としては何とも微妙なライン。……でも。
「そんな情けは必要ないわ、だってこれは真剣勝負だもの。…後……」
「後?」
「新作、もう発売してたのね。……ベール的に、評価は?」
「結構有り、ですわ」
ぐっ、とベールが見せるサムズアップ。ベールがそう言うなら、とわたしも新作の購入を内心決めて、それから2Pのコントローラーを持つ。
不利な勝負である事は明白。だけどこれで臆するようなら、イリゼの姉なんて名乗れない。真っ向から勝負し、その上で勝ってみせてこそ、イリゼのお姉ちゃんってもの。だからイリゼ、見ていて頂戴。わたしの…お姉ちゃんの、勇士を!
*
偶然か否か、勝負内容のゲームも二本先取で勝利の三番マッチ。一本目は、多少食い下がったもののベールに完敗し、二本目は辛うじてわたしが勝利し、決戦の三本目となった。そしてその三本目も…今は、大詰め。
「くッ、まだよ!まだ終わらないわ…ッ!」
激しく情け容赦のない猛攻を、なんとか凌ぐ。でも凌ぐので精一杯で、攻勢に移れない。少しずつ、こちらの体力が削られていく。
二本目、わたしは取り返した。でも二本目のベールは、目の前のストレート勝ちに手を出すのではなく、三本目で確実に、三番マッチとして勝利する為に、手札を温存し、わたしの動きを分析していたように思う。逆にわたしは一本取られた時点で追い詰められていたから、全力を尽くす他なく…その結果が、今の窮地に繋がっている。悔しいけど、この勝負は初めからずっとベールのペースだと言わざるを得ない。
「えぇ、そうでしょうね。ですからこれ以上粘らせる事なく、チャンスが訪れるより先に…終わらせますわ!」
だけど、だからと言ってまだ負けるつもりはない。圧倒的劣勢である事は認めるけど、まだ負けた訳じゃない。だから私は指を走らせ、ボタンを打ち、回避と防御に注力する。カウンターを決められる瞬間を待つ。
でも…それすら恐らく、ベールの予想の範疇だった。わたしを削りに削った上で、温存していた策やテクニックをフル投入し、勝負を決めにかかってくる。そこに焦りはないから隙もないし、これを乗り越えられれば勝機はまだあると分かっていても…乗り越える壁が、大き過ぎる。届きそうで届かない力の差が、わたしに重くのしかかり……そしてわたしは、敗北した。
「…負け、ね…。…認めるわ、ベール。この勝負、わたしの完敗よ」
「セイツも良い腕前でしたわ。また今度、勝負して下さるかしら?」
結果だけ見れば一本取った上での敗北とはいえ、流れとしても気持ちとしてもこれは完敗。悔しさの募る負けで…でも全力は尽くした。だからベールから差し出された手に応じて、わたし達は軽くだけど握手を交わす。
「…ええ、っと…何か良い感じの終わり方したっぽいけど…まだ三番勝負の一戦目だよね…?」
「それは勿論。次こそ勝つわ」
大丈夫、お姉ちゃんは負けないから。そんな風にわたしが拳を握って見せれば、イリゼは何とも言えない感じの表情で頬を掻く。むぅ、ここは応援してほしかったけど…仕方ないわね。この勝負自体、イリゼからすれば驚きのものだったみたいだし。
「イリゼちゃん、次のくじを引いてもらえまして?」
「あ、はい。…じゃあ、これで…えーと、内容は……」
再び用意した箱に手を入れ、くじを一枚引くイリゼ。そして抽選された二戦目の内容は…料理対決。
「料理…これはわたしが書いたくじだけど、正直微妙なところね…」
「そういえばセイツは、あまり料理をしないんでしたのね。因みに何の料理にするのかは決めてるんですの?それとも、自由に作るという想定でして?」
「あ、それについてはイリゼをより満足させた方の勝利ってルールで、今冷蔵庫にある食材のみを使って…みたいな感じにするつもりよ。買うところから始めるんじゃ流石に時間がかかるし、購入スタートだとどれだけお金を掛けたかの勝負になっちゃうかもしれないでしょ?」
「高ければ良い訳ではないとはいえ、食材の質の勝負になってしまっては対決の趣旨から外れてしまいますものね。…であれば、脂っこいものやボリューミーなものはなし、というルールにしません事?」
「へ?…あ、そっか。今は食事を摂るには微妙な時間だものね」
細かなルールをベールと話しながら詰めて、料理対決の準備を整える。うちの料理担当であるイリゼに冷蔵庫の中のものを使う事の了承も得て、わたし達は台所に立つ。
「…あのさ、一応言うんだけど…食材使って良いかどうかって、ルール云々より先に了承得るべき事だよね…?」
「それは…まあ、そうね」
「真っ当な指摘ですわね」
『てへっ☆』
ご尤も過ぎる指摘に対し、わたし達は自分の頭を軽く叩く。それにイリゼは呆れたような顔で肩を竦め…わたしとベールは、手を洗う。
「それじゃあ、ここから勝負開始よ」
「ふふ、わたくしは料理も出来るのだという事を見せて差し上げますわ」
互いに薄く笑い合い、わたしは卵を、ベールは野菜をまず冷蔵庫から取り出す。生卵を割る音と、野菜を洗い包丁で切る音が台所で聞こえ始め…そこからわたしもベールも集中する事で、会話はなくなる。
(見たところ、ベールの料理は野菜が多めね…けどまさか、野菜サラダって事はないわよね。カレーとかシチューって感じでもないし、何を作るつもりかしら……)
卵をボウルで溶きながら、ちらりとベールの調理を見る。さっき自分で言っていたように、ベールは料理も出来るみたいで、その所作にぎこちなさのようなものはない。一方わたしは、全く料理をしない…って訳じゃないけど、普段はイリゼに任せてるし、何か作る場合も基本簡単に出来るものを…ってパターンが多いから、純粋な腕前勝負で優位に立つのは多分難しい。
加えて今は、一戦目の三本マッチと同様、先に一本取られた状態。でも、わたしに焦りはない。わたしには、勝つ気しかない。
「…あ、お姉ちゃん。溶く時はぐるぐるかき混ぜるだけじゃなくて、菜箸を縦や横に動かしたりもすると均一に混ざるよ?」
「へぇ、そうなのね。アドバイスありがと」
「ベールさんも、野菜を切るなら繊維を意識した方がより美味しく出来ますよ。…まぁ、目的によっては繊維に沿うんじゃなくて、敢えて断ち切る方が良い…って事もありますけど……」
「という事は、上手く繊維を意識した切り方が出来ていなかったんですのね。わたくしとしては気を付けているつもりでしたけれど、中々難しいものですわ」
調理を進める最中、台所に入ってきたイリゼがわたしとベールへそれぞれ助言をしてくれる。それをわたし達は受け取り、感謝と共に自分の調理へ反映させ……って、
「アドバイスを受けたら料理対決にならないじゃない……」
「えっ?あ、ごめん……」
「けれど気持ちは嬉しいですわ。判定役であるイリゼちゃんを思って作りますから、リビングでゆっくりしていて下さいな」
「…じゃあちょっと、近代の経済の勉強でも……」
「判定役のイリゼちゃんが判定への心構えを整えず、ゲーム以外にうつつを抜かすなど、流石のわたくしも許しませんわ…!」
「何故ここにきて怒るんですか…!?しかもしれっとゲームは有りにしてるし……!」
珍しく天然みたいな事をしていたイリゼに突っ込み、ソファでゲームをやりつつ待っていてもらう。何かちょっと残念そうにソファへと向かっていったイリゼの後ろ姿に顔を見合わせたわたしとベールは、思わず苦笑してしまい…それからそれぞれの料理に戻る。
「…ふぅん、ベールは……」
「あぁ、それを使っていたんですのね」
ある程度調理が進み、お互い相手が何を作っているのか大方の予想が付く。もしわたしが料理上手なら、ここでベールの料理を踏まえて自分の料理に工夫を加えたり、某十傑の様に相手の料理の長所を潰す作戦を打ったりする事も出来たのかもしれないけど、そんな知識も技術もないわたしは、最後まで素直に自分の料理へ精を出す。
(…って、あら…?)
わたしの料理は完成目前。後は盛り付けるだけとなった段階で、わたしはベールが切った食材の内、一部が使われていない事に気付く。初めは多く切り過ぎただけかとも思ったけど、よく見れば余っている食材はどれも、今ベールが仕上げに掛かっている鍋には入っていなくて…結局その理由は分からないまま、わたしもベールも調理終了。完成した料理を持って、リビングに戻る。
「お待たせ、イリゼ。お姉ちゃん特製の料理が出来たわよ」
「左に同じくですわ」
「だから貴女はお姉ちゃんじゃないっての」
料理は先に完成した方から食べてもらう。そういうルールになっていたから、ベールに先んじてわたしがまずはテーブルへとお皿を置く。
「さ、召し上がれ」
「わっ、美味しそう…スクランブルエッグ作ってくれたんだね」
「……うん、まぁ…そうよ」
『……?』
ゆっくりとわたしが視線を逸らす中、イリゼは小首を傾げるのを経てスプーンを持つ。完成品であるスクランブルエッグを掬い取り…一口ぱくり。
「……!…これは……」
食べた瞬間、目を見開いたイリゼ。それからイリゼは咀嚼し、飲み込み…もう一口食べる。二口目は、一口目よりゆっくりと食べていた感じで…二口食べたところで、イリゼはスプーンを一度置く。
「ごめんね、お姉ちゃん。折角作ってくれたんだから、このまま最後まで食べたいところだけど……」
「料理対決な以上、比較して食べたい…って事でしょ?分かってるわ」
いいのよそれ位、と軽く肩を竦めて返せば、ありがとうと言ってイリゼは小さく笑う。ふふん、こういうやり取り羨ましいでしょう?…と思ってベールの方を見ると…予想通り、というか予想以上にがっつり悔しがっていた。もし料理の乗ったお盆を持っていなければ、ハンカチを咥えて引っ張っていたんじゃないかと思う程の悔しがりっぷりだった。…ほんとにベールはイリゼを妹にしたいのね…あげないけど。
ともかく一旦わたしのターンは終わり、ベールのターンへ。ベールはテーブルを挟んでイリゼの反対へと立ち…スープを、差し出す。
「わたくし謹製、野菜スープですわ。まだちょっと熱いですから、ゆっくり食べて下さいまし」
「野菜スープ…なんかちょっと、意外です。ベールさんなら、もっと豪華なものを作るのかな…と思ってたので……」
「うふふ、安心して下さいな。見た目は普通でも、味は上品そのものですわ。……多分」
「あ、多分なんですね…じゃあ、頂きます」
一度わたしの時にも言っていた食事の挨拶を改めて行い、イリゼはスープだけをまずは飲む。それを味わった後、野菜を口に運んで…何口か食べてから、再びわたしの料理に戻る。食べ比べるように、交互に食べては時折頷き…真剣に評価してくれてるっぽいイリゼの様子で、わたしとベールもなんだか静かになってしまう。
そうして食べ始めてから十分弱。スクランブルエッグと野菜スープを完食したイリゼは、ご馳走様と言い…わたし達を、見る。
「まずは、感想だけど…どっちも美味しかった。お世辞とかじゃなくて、本当に」
「えぇ、ありがとう」
「そう言ってくれるだけでも嬉しいですわ」
「…でも、これは対決…だもんね。だからしっかり、どっちの方がより良かったか答える…けど、その前に一つ。…お姉ちゃん。お姉ちゃんは、最初からスクランブルエッグを作ろうとしたの?」
「うっ……」
じっ、と見つめてくるイリゼの視線に、わたしは再び目を背ける。…やっぱりイリゼは誤魔化せないわね、と内心それを認めながら。
「どういう事ですの?」
「私も確信がある訳じゃないんです。ただ、スクランブルエッグとしてはちょっと違和感があったっていうか、多分これは……」
「…そうよ、イリゼ。本当は、卵焼きを作ろうとしたの。したんだけど……」
「あぁ…途中で崩れてしまって、スクランブルエッグに切り替えたんですのね」
そういう事かと話すベールに、恥ずかしさを覚えながら頷く。一応スクランブルエッグとしては完成したし、味見の結果も問題なかった訳だけど…だとしてもやはり、ちゃんと予定通り完成させられたらしいベールとの差は、勝敗を抜きにしたとしてもちょっと悔しい。
「まあ、失敗からのリカバリーもある意味で一つの技術だと思いますわよ?」
「…それはどうも」
「…じゃあ、判定をしてもいいかな?」
励ましてくれるベールだけど、その声音には明らかに「これは勝った」という余裕がある。既に勝利を確信したからこその言葉だと分かる。ただまあ、別にそれを非難はしない。多分同じ立場なら、わたしもそんな感じになってただろうし。
そんなわたしとベールのやり取りが終わったところで、イリゼがわたし達二人に問う。わたしとベールは共に頷き…一拍を経て、イリゼは言う。
「この料理対決、勝者は……ベールさんごめんなさい、お姉ちゃんです」
「な……っ!?」
「イリゼ……ふふっ、イリゼならわたしの料理を選んでくれると思っていたわ!」
きっと大丈夫、イリゼならわたしを選んでくれると思っていた。思ってはいたけど、やっぱりいざ選ばれると嬉しいもので、わたしは思わずイリゼを抱き締める。イリゼは温かい料理を食べた直後だからか、普段より少し温かくて、よく見ればほんのり頬を赤くなっていて…それを見ていたベールは、これまたベールは悔しそうにしていた。地団駄踏みそうな顔をしていた。
「ど、どうしてですの?料理の完成度は、わたくしの方が上だった筈。まさか、セイツが姉だから…ではありませんわよね…?」
「違います、そういう贔屓は私も好きじゃないので…。…だからちゃんと、理由があります。…お姉ちゃん、スクランブルエッグ…ううん、卵焼きに牛乳を入れてくれたよね?」
「えぇ。わたしなりに、イリゼがよく作る…イリゼの好きな卵焼きを作ったつもりよ。結果はあの通り、好き云々以前に卵焼きではなくなっちゃったんだけど……」
「だけど味は、私の好きな卵焼きに近かった。…嬉しかったんだ。美味しかったし…嬉しかった」
嬉しい。そう言われて、わたしも嬉しかった。その言葉も、イリゼがわたしの作ろうとしたものを理解してくれたのも、両方が。そして、その理由にベールは不満を発さなかった。これは、イリゼをより満足させた方が勝利の料理対決だったから。
「…羨ましい、ですわね。そういう事を、知っているのは」
「ベールさん…あの、さっきの野菜スープ、レシピを教えてもらってもいいですか?今度、自分でも作ってみたいので」
「イリゼちゃん…えぇ、勿論ですわ」
イリゼからのお願いに、ベールは嬉しそうに頷いて返す。多分イリゼは、気を遣ったんだと思う。だけど気を遣っただけじゃなくて、本心からの言葉でもあった…わたしには、そう感じられた。
「これで一勝一敗、五分五分よ。…とはいえちょっと、ズルい気もするわね。この勝負は本当に、初めからわたしが勝つと決まっていたようなものだし」
「気にする必要はありませんわ。それを言ったら、一戦目もわたくしが明白に有利だった訳ですし」
「まあ、それはそうなんだけど、それはそれとしてこう心にしこりのようなものが……」
「では、第二戦はお互いすっきりする為に、セイツの反則負けという事で……」
「え、それは駄目だけど?」
ズルいとは思うけど、結果は結果。そもそもこれはイリゼの親権ならぬ姉権を懸けた勝負なんだから、勝ちを譲る訳がない。ここで譲ったら、三戦目を迎える前にわたしの負けが決まっちゃうし。
「…ふぅ。食事したからかな、少し眠くなっちゃった……」
「セイツセイツ、お腹溜まって眠くなっちゃうイリゼちゃん、凄く可愛いと思いませんこと?」
「溜まったって程じゃないでしょ。凄く可愛いのは間違いないけど」
「き、聞こえる声でそういう事言わないでくれない…!?」
「あ、悪かったわねイリゼ。…ベール、小声で話の続きを……」
「小声ならいいって事でもないんだけど…!?」
これはチャンスだ、とわたしはイリゼをからかう。こういう反応してくれると、姉としても感情に触れるって点でも凄く良いのよね。…うん、ほんと良い…とてもとても、良い……。
「こほん。ではイリゼちゃん、勝敗を決する最後のくじ引きをお願いしてもいいかしら?」
「涼しい顔してますけど、さっきのはベールさんにも言ったんですからね…?もう……」
不満を表情と声にちらつかせつつも、イリゼはくじの入った箱を持つ。最後の勝負、その内容がこれから決まると思うと、少しだけ緊張が湧き上がる。
何かしらの理由で引き分けや無効試合にでもならない限り、次で決着が決まる。わたしとベール、どちらが姉に相応しいか白黒付く。今思えば、わたしに何のメリットもない、仮に負けたところでベールが『自称姉』である事が変わったりはしない…謂わば意味なんてない勝負だけど、自分から叩き付けた勝負な以上、手を抜く気もないし、負けたくもない。それに、わたしはイリゼの姉としての自信がある。誇りがある。だから…たとえこれがふっかけられた勝負だったとしても、きっと全力を尽くしていた。
その勝負、最後の内容がこれから決まる。公平な勝負になるか、どちらかが有利になるか。何れにせよわたしは、力の限り戦うだけで……
「…ぅ…ぁれ……?」
──そう、思っていた時だった。イリゼの困惑したような声が聞こえ…その直後に、立っていたイリゼがふらついたのは。
「おっと。大丈夫でして?イリゼちゃん」
(あ……)
反射的に、わたしは飛び出そうとした。けどわたしよりも一瞬早くベールは動いていて、倒れそうになったイリゼの肩を両手で支える。…まるで、こうなる事を予想していたかのように。
「ご、ごめんなさいベールさん。おかしいな、立ち眩みかな……」
「だから言ったではありませんの。このままではイリゼちゃんは、お仕事中毒になってしまいますわ、と」
「お、お仕事中毒…?」
「ええ、これはお仕事中毒のよく見られる初期症状で……」
「ちょっ、実在しない病気をそれっぽく説明しようとしないで!?わたしはそんな事を言っていたのか…的な意味で疑問系にしただけだから!そんな病気あるの…?って気になった訳じゃないからね!?」
急な出来事に翻弄され、思わず全力で突っ込むわたし。そんなわたしの反応に肩を竦め、ベールはイリゼを座らせる。それから手袋を取ると、直接額に手を当てる。
「…やはり、少し熱いですわ」
「…ほんとに?イリゼ、ちょっとわたしも触るわよ?」
少し熱い。その言葉を受けわたしも触ってみれば、確かに平熱ではないように思える。流石にイリゼの平熱を把握してる訳じゃないけど、少なくとも今のわたしの額よりは明らかに熱い。
「イリゼ…体調、悪かったの…?」
「い、いや…そんな事はない、と思うんだけど……」
「けれど、額が熱いのは事実ですわ。それに、女神が理由なくふらつくなどまずあり得ない…そうでしょう?」
自分自身でも困惑しているようなイリゼへ、窘めるようにベールは言う。わたしもそれに頷いてみせる。
「という訳で、イリゼちゃんは休んで下さいな。まだ野菜スープはありますし、後で食べられるよう、果物も用意してありますわ」
「あ…そっか、だからさっき使ってない食材までカットを…(って、うん?じゃあベール、貴女は……)」
「それは…そうは、いきませんよ。私は元々、今日はじっくり勉強するつもりだったんです。もし三本目の勝負も判定が必要なら、ここまで付き合った訳ですし私がやりますけど、そうじゃなきゃ今度こそ……」
「分かっていませんわね、イリゼちゃん。女神とは即ち国の象徴。その女神が体調も満足に整えられていないというのは、それそのものが国への評価へ良くない影響を与えるものですわ。それに今はお互いプライベートとはいえ、他国の守護女神であるわたくしに体調管理の甘さを見られてしまうというのも、脇が甘いですわよ」
「……っ…」
それまではイリゼを気遣うような面持ちをしていたベールは真面目な顔になり、イリゼを見つめる。その口振りも、少し鋭いものになって…ぱん、と一つ手を叩く。
「ですから今日は、わたくしからの助言だと思って素直に休んで下さいまし。或いはわたくしとセイツの為に、身体を大事にして下さいな。体調が悪いのに休む事も出来ないなど、悲しいですわ。そうでしょう?」
「…えぇ、そうね。勉強したい事があるなら、今度わたしも付き合うから、今日はちゃんと休んで、イリゼ」
「……そこまで、言うなら…」
「偉いですわ、イリゼちゃん。…では、イリゼちゃんが眠れるまでわたくしが添い寝を……」
「し、しなくていいですから…!お姉ちゃんもいいからね、要らないからね…!?」
一人で眠れるから、と釘を刺されたわたしだけど、ふらついていた以上、部屋まで付き添う事は譲れない。だからわたし達は、イリゼの部屋まで着いていった。イリゼが部屋に入ったところで、わたしは扉を閉めたけど、こっそりイリゼが勉強をする…って事は、ないと思う。そういう『嘘』は好まないのが、イリゼだから。
「一先ずこれで安心ですわね。見たところ酷く悪いという訳ではないようですし、明日まできちんと休めば大丈夫だと思いますわ」
「…ねぇ、ベール。貴女はいつから気付いていたの?」
リビングへと戻る道中、わたしはベールへと問う。ベールがあのふらつき以前から、イリゼの体調が悪いと…少なくともいつも通りではないと気付いていたのは間違いない。あの反応の早さも、体調不良と分かっていたなら納得がいく。そしてそんなわたしの問いを予想していたのか、ベールは軽く肩を竦めて言う。
「いつかと言われれば、初めから…セイツが戻ってくる前からですわ」
「……そう、なのね…。…ありがとうベール、イリゼを気遣ってくれて」
「可愛いイリゼちゃんの為ですもの、当然ですわよ」
わたしがベールと三本勝負を始める前から気付いていた。…そう言われて、正直ショックだった。ベールがそんな前から気付いていた事が。それなのにわたしは、全く気付けなかった事が。
であれば果物は勿論、野菜スープに関しても、イリゼの体調を考えて選んだんだと思う。イリゼが勉強しようとしていたのを変な理由で止めたのも、きっとこれ以上負荷を掛けさせまいと思っての事。…その割にイリゼが突っ込みたくなるような発言もしていたけど…多分それは普段の調子が抜けなかっただけ…でしょうね。
「…駄目ね、わたしは。姉を主張しておきながら、その実全然イリゼの体調不良に気付けなかったなんて」
軽い段階で分かって良かった…とは思えない。流石にこれは…わたしでも落ち込む。
思えば、わたしにも気付くチャンスはあった。現にわたしはイリゼに抱き付いた時、イリゼがいつもより少し温かくて、頬も赤くなっている事を認識してたんだから。それなのに気付けなかったのは、わたしが姉としてまだまだ未熟だって事。大事な妹の事なのに気付けなかった、その事実は凄く情けなくて、不甲斐なくて……そんなわたしの肩へ、ベールがぽふりと軽く手を置く。
「姉だからこそ…身近にいるからこそ、気付けない事もありますわ。わたくしも、チカの事はよく知っている、分かっているつもりでも、気付くべき事に気付けなかったという経験はありますもの」
「…悪いわね、わたしにまで気を遣わせちゃって」
「気遣いではなく、ただ自分の経験を語っているだけですわ。それにわたくしに限らず、毎日共に過ごしている家族より、久し振りにあった親戚の方が、子供の成長へすぐに気付くという事もあるでしょう?」
「それはまた別の例っていうか、単に前回との変化の幅に大きな開きがあるってだけだと思うんだけど…」
「まあ、それはそうですわね。けど、少なくともわたくしはセイツが駄目だとは思いませんわ。わたくしも、気付いたはいいもののイリゼちゃんを上手く休ませる手が浮かばず、せめて勉強以外に気を向けようと強引にゲームに付き合わせるのが精一杯だったんですもの。だから…感謝していますわ、セイツ。セイツのおかげで栄養のあるものをイリゼちゃんにあげる事が出来て、結果的にはこうして休ませる事も出来ましたわ」
「ベール……」
まさか、こんな事を言われるとは…ベールに励まされて、感謝までされるとは思っていなかった。感謝はわたしがしなきゃいけない事なのに、ベールがイリゼの事でわたしにお礼を言っていて……うん、分かる。分からない筈がない。その思いの根底にあるのは、イリゼへの気持ちだって。ベールはイリゼの事を、本当に大事に思ってくれてるんだって。
なら、わたしはどうするべきか。姉として、どんな態度を見せるべきか。…そんなの、決まってる。
「…本当に、ありがとうベール。わたしは今日の事、反省するわ。ベールの言う通りかもしれないけど、それを仕方ないなんて思ったりせず、もっと見てあげる事にする」
「…貴女も強情ですわね。けど…そう考える方が前向きになれるのであれば、それも良し…かしらね」
「そういう事よ。だから…安心して頂戴。これからは、こういう事がないよう…イリゼがいつも元気で、無理なく女神としての道を一歩一歩進めるよう、ちゃんとわたしが支えるから」
「…ええ、であれば安心ですわ。イリゼちゃんが元気でいられる事…それが何より大事ですもの」
気にしないなんて事は出来ない。今回はベールのおかげで大事にはならなかっただけで、もしベールが遊びに来てなければ、もっと悪くなっていた可能性は十分にあるんだから。だからわたしは、これを失敗だと、わたしの至らぬ部分だと認めて…糧にする。イリゼの、大切な妹の為に、これを必ずこれからに繋がる。それをベールへと宣言し…それが良いと、ベールは微笑んだ。
…認めざるを、得ないわね。姉を主張する事には、わたしはこれからも否定を叩き付けるけど…イリゼを思う気持ちは、きっとわたしやイストワールにも劣らない。ベールもまた、イリゼを本当に心から思ってくれてる。それは認めるし…感謝するわ、ベール。
*
あれから素直に休んでくれた事もあって、見立て通り翌日にはすっかりイリゼは元気になった。でも、イリゼ自身体調不良になってしまった事や、ベールからの指摘には思うところがあったようで、翌日も仕事はせず、静養として一日ゆっくりしてくれた。体調不良そのものは喜ばしい事じゃないけど、それを機に姉妹揃って学びを得た…そういう面は、あると思う。
「お邪魔するわ、ベール」
「ベールさん、お菓子作ってきたんです。紅茶に合うと思うので、良かったらどうぞ」
「まぁ、嬉しいですわ。それにイリゼちゃんがすっかり元気になったようでほっとしましたわ。では早速紅茶を淹れますから、お二人は寛いでいて下さいな」
体調が回復した時点で連絡はしたけど、直接会って改めて感謝を伝えたい。そう思ったイリゼと共に、後日わたしはリーンボックスへと訪れた。早速用意する、という言葉の通り、ベールは部屋にあるティーセットで紅茶を入れてくれて、その良い香りが鼻腔を擽る。イリゼもお菓子の包みを開き、甘い香りが部屋へと広がる。
「わたくしの紅茶と、イリゼちゃんのお菓子…これは間違いなく、姉妹ならではのコンビネーションと表現しても過言「ではあるわよ」…むぅ、言わせてくれてもいいではありませんの」
「駄目よ、姉妹じゃないんだから」
「お堅いですわねぇ。まあいいですわ。早速イリゼちゃんのお菓子を堪能……」
「あ…その前に、一ついいですか?」
楽しみだとばかりのベールへ待ったを掛けたイリゼ。何故?とベールが首を傾げる中、イリゼは小さく深呼吸し…微かに照れを表情へと浮かべながら、言った。
「ベールさん。この前は、すみませんでした。あの時の事は、反省してますし…同時に感謝もしてるんです。あの時は勿論、これまでも色んなところでベールさんは私を気に掛けてくれたり、手助けしてくれたり、これは私が守護女神になる前ですけど、一人の女神として頼りにしてくれたり…そういうベールさんがいたからこそ、私は今、守護女神をやれてると思っています」
「イリゼちゃん……」
「だから、その……い、いつもありがと、ね?…ベール…お姉ちゃん」
話をしながら更に赤くなっていくイリゼの顔と、その上で発されたベールお姉ちゃんという言葉。その言葉に、ベールは一瞬固まり、無言になり……
「…ぅ、うぅ…やっぱり…やっぱり大好きですわっ、イリゼちゃぁぁぁぁぁぁんっ!!」
「きゃあっ!?ちょっ、べ、ベールさんっ!?」
感極まったとばかりに涙を流し、ベールはイリゼを抱き締める。漫画やアニメみたいなレベルで号泣しながらイリゼをぎゅーっと抱き締めるベールの反応は、ある意味予想通りであり…私はイリゼがベールをお姉ちゃん呼びした事や、それに対するベールの反応に憤慨するよりも先に、思わず苦笑をしてしまうのだった。
……え、悔しがったりなんてしてないわよ?いやいや、流石に今回ばかりはしないわ。イリゼも一回だけ特別にお姉ちゃん呼びしたみたいだし、ベールには恩があった訳だから、こういう時位は見逃すに決まってるじゃない。それが姉の余裕ってものだし。…し、してない!してないったらしてないの!後でイリゼとベールに、「そういえばさっき悔しそうに頬を膨らませてなかった?」とか言われたりもしてないんだからねっ!
今回のパロディ解説
・「〜〜また盗まれてるー!〜〜」
怪盗ロワイヤルのCMにおける、代名詞的な台詞の事。もうこのCMも怪盗ロワイヤル自体も大分前のものとなりましたが、今でもこの台詞だけは割と覚えています。
・「〜〜どこの義妹と実妹よ!」
デート・ア・ライブに登場するヒロインとキャラの一人(二人)、五河琴里と崇宮真那の事。妹指数があるなら姉指数もあるのでしょう。因みに私の作品(DEM)だと真那も色んな意味でヒロインです。
・「〜〜このわたくしこそ〜〜お姉ちゃんですわ!」
機動戦士ガンダム00に登場するキャラの一人、リボンズ・アルマークの名台詞の一つのパロディ。リボンズとグリーンハートだと、髪色が近いという共通点がありますね。だからこそのネタではないですが。
・〜〜某十傑〜〜
食戟のソーマに登場するキャラの一人、叡山枝津也の事。作中でもセイツ自身が触れていますが、セイツに相手の料理を妨害するような技術はありません。そもそも普段あまり料理しないですし。
今回の話にて、一旦仮想空間での物語は終了となります。次話は一先ず本編に戻りますので、お楽しみに。