超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

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第二話 再臨の形

 原初の女神。信次元における最初の女神であり、初めて国を興した存在であり、人の未来を切り開いた…形ある奇跡として人を救い、守り、導いた存在。その生まれ方故に規格外の力を持つ…私の、私達の創造主。

 その原初の女神、もう一人の(イリゼ)…オリゼは再び、今の時代に現れた。嘗ては期せずして…そして今は、私達が望む事で、その為の道の先へと辿り着いた事で、もう一度オリゼとの日々を過ごせるようになった。

 でも…オリゼはオリゼだけど、あの時の…別れた時そのままのオリゼじゃない。今、私達と共にいるオリゼは、オリゼであってオリゼじゃないし…原初の女神であって、原初の女神では…ない。

 

「当たり前ではあるけど、建国当初に比べると大分移住者が減っちゃったな…今はもう、兎にも角にも人口をって段階じゃないとはいえ、移住者の減少を皆が感じると国の魅力度低下を連想しちゃうだろうし、何か手を打たないと……」

 

 仕事用の端末で推移のデータを見ながら、私は呟く。呟いているつもりは微塵もなかったけど、気付いたら口にしていた。…いつになっても、私の悪癖は治らないらしい。今回は誰もいない場だったから良かったとはいえ…くっ、どうにかならないの…!?……こほん。

 ともかく私は、執務室にて考える。新たな国が生まれたという、最大のブーストがかかっていた時期と同等規模の移住者を望むのは無理だとしても、移住者の減少にストップを掛けて、もう少し神生オデッセフィアが成長を果たすまでは、移住による人口増加を図っていきたい。成長と言わず、成熟するまで…というのは、流石に望み過ぎかな…けど、まだ成長途中なのに人口増加が停滞、或いは最悪減少に転じちゃったら、国として致命的だし…。

……と、今度こそ口に出さず、頭の中でごちゃごちゃ考えていた真っ最中に聞こえた、執務室の扉をノックする音。続けて届いた廊下からの声で、私は誰なのかを理解し…言葉を返す。

 

「大丈夫、入ってきて」

「は、はい」

 

 聞こえたのは失礼します、っていう言葉じゃなく、入ってもいいかどうか確認する声だったから、私は返答。すると若干上擦ったような返答が聞こえて…扉が開く。その奥から、声の主が入ってくる。

 

「い、イリゼ。備品の確認、終わり…ました」

「ありがと、オリゼ。…こめんね?各備品の場所を把握してもらう為とはいえ、こんな雑用みたいな事やらせちゃって」

「き、気にしないで、下さい。お仕事をしたい、って言ったのは私、ですし…その分、職員さんのお仕事が一つ、減った…筈、ですからっ」

 

 みたいな、というか完全に雑用。それを私にとって偉大な女神の先人であり、親でもあるオリゼにさせるっていうのは、中々気の引ける事だったけど…当の本人は何も気にしていないようで、ほっと一安心。

 それから私は備品のチェックリストを確認し、ちゃんと備品が必要数ある事と、オリゼがきっちり探せた事の両方を把握。…因みに備品の中には普段私が使わない物や、使うけど基本用意は職員の皆に任せちゃってる物も少なからずあって、「あ、そういえばこういう物もあったんだっけ」とか、「あれ?場所移動したんだ、これ…」…みたいになった備品もちらほら存在するんだけど…それは内緒。

 

「…で、だけど…何か困った事はなかった?」

「ほぇ…?…えと…あ、ありませんでした…」

「それなら良かった。…うん、困る事なんて無いに越した事ないんだから、そんな申し訳ない顔しないでね?いやほんと、こっちが逆に申し訳なくなるから申し訳ないなんて思わないでね…?」

「あっ…ご、ごめんなさい…そう、ですよね…そんなの当たり前、なのに…私……」

(あぁしまった逆効果だった…!)

 

 なくてごめんね、とばかりにしゅんとするオリゼへ言葉を返した私だけど、オリゼは気を取り直すどころか、余計にしゅーんとしてしまう。…オリゼのびっくりする位のよわよわメンタル、その事は十分に理解している筈なのに、今でも中々オリゼの落ち込みは回避出来ない。時には某変身が得意な精霊並にぶっ飛んだネガティヴ思考をするオリゼだから、どこにどんな落とし穴があるか正直分かったものじゃない。

 

「…えぇ、と…それはともかく、チョコ食べる?っていうか、食べよ?」

「ぅ…はい…い、頂き、ます…。……ほわぁ…♪」

 

 引き出しを開け、一口チョコを幾つか取り出しオリゼへ差し出す。受け取ったオリゼは早速一つ口にして…口の中でチョコが溶けるように、オリゼの表情もほんわかと緩む。…オリゼが泣きそうになった時は、とにかく飴とかチョコとか甘いものをあげると一先ず何とかなる。それはまあ、良かったんだけど…前に知ったこれが今も普通に通用する…というか、私と同じ容姿をした、それでいて私を創り出した存在であり、原初の女神でもあるオリゼがこんな手で気を持ち直してしまうというのは、凄く…凄ーく何とも言えない気持ちになるものだった。

 

(…変わらないんだよね。殆どは変わらない。殆どは、あの時のオリゼのままなんだ)

 

 幸せそうに二つ目のチョコを口にするオリゼ。本当に私と何も変わらない、当たり前だけど同一人物そのものな姿形をした、もう一人の私。その要素の殆どは、前と変わらない。突然現れ、実質的に敵対し、けれど和解出来て、短い間だったけど共に過ごせたあの時のオリゼと、今ここにいるオリゼとは、本当に殆ど変わっていない。

 けれど、全て同じという訳じゃない。私と、あの時のオリゼと、今のオリゼ…それぞれほんの少しだけ、違うところもある。例えば……

 

「…ねぇ、オリゼ」

「うぇ…?…な、なんです、か…?」

「今日も髪、ぴょこんとしてるね」

 

 きょとんとしたオリゼの頭頂、そこで存在感を放つのは、一房の髪。寝癖とか、癖っ毛とかではない…なんというか、明らかにそこだけ何か違う、ぴょこっとした髪。所謂──アホ毛。私にはない、あの時のオリゼにもなかったそれは……何故か、今のオリゼにはあった。オリゼと再会した当初から、あの瞬間から…ずっとアホ毛が、そこにある。

 

「これ、何しても…直らない、んです…。ど、どうしたらいいん…でしょう……」

「そ、それは私も分からないっていうか…。…けど、私はそれ可愛いと思うな」

「…そう、です…か…?…そ、それなら…良かった、です」

 

 そう言いながら、オリゼはアホ毛を手で撫で付ける…けど、その度にアホ毛は立ってしまう。中にバネでも入ってるんじゃないかって位、即座に元に戻ってしまう。どうもアホ毛については、オリゼもよく分かっていないみたいで…ほんとになんなんだろう、これ。某吸血鬼擬きの人間みたいに動きまくったり、某騎士王の英霊みたいに抜くとオルタ化するとか、そういう事はない…よね……?

 

「…こほん。話は変わるけど…オリゼ、この国には…神生オデッセフィアには慣れた?」

「それは…はい。こ、この国は…オデッセフィアは、元々私の守護していた国…です、から」

 

 気を取り直すように、私は問う。それに対する返答を受けて、確かにそれもそうだと思い直す。実際ここ、神生オデッセフィアも浮遊大陸もオデッセフィアとその時代の信次元が縮小再現されたようなものなんだから、地理に関しては慣れているどころか、私以上に熟知している可能性すらある。

 けど私は何も、土地としての話に限定して訊いた訳じゃない。人だったり、雰囲気だったり、オデッセフィアにはない現代ならではのものだったり、そういう色んなものを引っくるめた意味で、私は訊いた。そしてオリゼはそれを理解した上で、答えてくれたんだと思う。たとえ色々と差異があっても、この国のベースはオデッセフィアで、守護女神ももう一人の自分なんだから、慣れない訳がない…そういう自負も、あったのかもしれない。

 

「そっか。なら、もっと私の…私達の国を知ってね?神生オデッセフィアは私達の大切な国で、あの時私達にオリゼが力を貸してくれたからこそある国で…ここには今も、オリゼの事を思う人達がいるんだから」

 

 私は知ってほしい。私が築いた、皆と築いてきた神生オデッセフィアを。オデッセフィアを基礎として受け継ぐ…けれどきっと違う国になっていく、これまでとこれからを。そしてこの国は…オリゼを知って、オリゼを信仰する人達の為の国でもある事を。

 この問いに、言葉としての答えはない。この問いに、私の思いに…オリゼは静かに、頷いた。…それで、十分。それだけで…ちゃんと、伝わってくる。

 

「…よし。じゃあオリゼ、少し待っててもらえる?今日は私も、オリゼの日課に付き合いたいから」

「わ、分かりました。…え、と…なら、それまで…に、何か……」

「そうだね…だったらインフラ関係のこの資料、目を通しておいて。これはオリゼにも把握しておいてほしいし」

 

 そのまま待っててくれればいい…と言うとまた落ち込みそうな気がした私は頼み事を一つし、自らの仕事に戻る。端末で国民からの投書を一つ一つ読んで、皆の意見や不満を把握すると共に、どう対応していくかを考え振り分けていく。この内の多くは私が対処するんじゃなく、うちの職員や関係各社に対応してもらう事になるけど…だとしても、まず私が見て、考える。そうする事が大事だって、私は思う。

 そうして十数分後、残りの分へ全て目を通してひと段落付けた私は、端末から顔を上げる。終わった事をオリゼへ伝え…私達は、教会の外へ。

 

「イリゼ。インフラの改修に関して、国民の…皆さんに、情報提供…を、募るのは良い、と思いますけど…インフラは、見えない所…にも、沢山あります。だ、だから……」

「皆からの情報提供に頼り過ぎると、見えない部分の改修が疎かになる…って事?確かにそれはそうだね。当たり前だし皆も分かってるとは思うけど、念の為言及自体は増やしておいた方がいいかな」

「そ、そう思い…ます。特に、オデッセフィアのもの…を、そのまま活用している部分…は、気を付けて…下、さい」

 

 道を歩きながら、オリゼと言葉を交わす。メンタルよわよわ且つ私以上に子供っぽい…私も子供っぽいと認める形になるのは不服だけど…オリゼではあるけど、思考はやっぱり女神のそれ。再現されたオデッセフィアのものをそのまま使ってる…つまり、建国時点で既にある程度の消耗をしている状態だって事は失念しがちだし、指摘してもらえるのは本当に助かる。

 とまあ、そういう会話をしつつ街中を歩いている訳だけど、別にこれは散歩じゃない。散歩ではなく…オリゼにとっての、重要な日課。

 

「…………」

 

 街行く人達を、じっと見るオリゼ。ただ見るだけじゃなく、聞こえるやり取りに耳を傾けてもいる。歩いている人だけじゃなくて、お店で仕事をしている人や、公園で遊んでいる子、更には乗り物に乗っている人まで、色んな人の事を見て、観察している。

 これが、オリゼの日課。私はさっき、オリゼにもっと神生オデッセフィアの事を知ってねと言ったけど…そんな事を言うまでもなく、オリゼは国民の皆を、知ろうとしている。一人一人の言動、その一つ一つを記憶に収めている。

 

(…凄いな、オリゼは。私もこうやって、皆の普段の生活を直接見て回る事はあるけど…集中力が、全然違う)

 

 今でこそ無言で観察しているオリゼだけど、私と会話をしていた時も、同じように見ていた。会話と観察を両立していた。…もしかすると、人を見る事、知る事は、オリゼにとって特別意識や力を向けるようなものじゃない…何か別の事をしながらも集中出来る位に、自然な事なのかもしれない。…だとしたら、やっぱり凄い。

 

「……あっ」

「うん?どうかしたの?」

「にゃんこさんが、いました…!と、とっても可愛い、にゃんこさんで…あー……」

 

……と思ったら、普通に猫に目を奪われていた。見ている内に猫は去ってしまい、オリゼは見るからに残念そうな顔をしていた。

 

「…ふふっ」

「……?」

「何でもないよ。ここからはどうする?もう少しこの辺りを回る?」

「そう、します。もう少し…ゆっくり、見て…ま、回りたい、です」

 

 こういうところも、やっぱりオリゼはオリゼで、オリゼらしい。そう感じて、私はちょっぴりほっとした。

 そうして私はオリゼと共に、今暫く周辺を回る。じーっと見ているものだから、時には街行く人に見ている事を気付かれたりもするけど、その度にオリゼは微笑み掛けて軽く手を振る。流石にオリゼも慣れていて、いつもみたいにあたふたはしない。……遠巻き且つ自分から見ていたんだから、相手に気付かれたり目が合ったりしたところであたふたしたりしないのは当然というか、それで慌てるならそもそも見ない方がいい…と思ったりしなくもないけど、まあそれは置いておくとして…。

 

(…学ばせて、もらわないとな)

 

 人を見つめ、知るオリゼを、私が見つめる。なんのかんの言ってもオリゼは大先輩で、私にとっては目指すべき存在。そのオリゼが、どんな風に人を見ているのか、オリゼの視点はどこにあるのか…それを私は、隣で見て学ぶ。私はまだまだオリゼには敵わないからこそ、経験も実績も及ばないからこそ、私は自らの更なる成長の為に、神生オデッセフィアの皆や信仰してくれる人達の思いへより応える為に、すぐ側でオリゼから学び……

 

「…あっ」

「あっ…」

「…………」

「…………」

「…ど、どうも……」

「こ、こちら、こそ…どうも…」

 

……オリゼと、目が合ってしまった。ぐるり、と見回すように首を動かしたオリゼの視線と、見つめていた私の視線が、真正面からばっちり交錯した。

 沈黙の後、何故か私達はお互い会釈。…まあ、気不味かった。それはもう、気不味いったらありゃしなかった。ごめんなさい、前言撤回です。遠巻き云々はともかく、自分から見つめていようと目が合ったら普通に気不味いし、変な反応になります…。…うん、やっぱりオリゼの場合は、単に慣れてるだけなんだろうね…。

 

「あー、っと…そ、そうだオリゼ。この後私はギルドからのモンスター討伐依頼に対処するんだけど、オリゼもこの後時間があるなら……」

 

 漂う気不味さを誤魔化すように、私は次の予定を口にする。危険度だったり場所だったり、或いは政治的な都合だったりで通常の依頼として扱えないものが教会に…女神の下に回ってくる不文律は当然神生オデッセフィアでも機能していて、私がやろうとしているのもそんな依頼。私一人でも対応出来るとは思うけど、折角(?)だからと私は誘い…オリゼは、頷く。ふっ、と真面目な顔になって、無言で首肯を返してくれる。

 

「…イリゼ。そ、その依頼は…急を要する、ものでは……」

「勿論ないよ。急を要するものなら、もっと優先的に対応しているからね」

「そ、それなら良かったです。どんな依頼、なのか…教えて、もらっても…いいです、か…?」

 

 そんな訳ない、と私は軽く肩を竦める。するとオリゼも安堵したようで、問われた通りに私は依頼の内容を伝える。そして人の暮らしを見る事なら、後でも明日でも出来る、それより依頼を果たす事の方が優先するべきだというオリゼの言葉を受けた私は、オリゼと共にそのモンスターの生息場所へと向かう事にした。

 

 

 

 

 依頼の内容は、民間の研究機関が調べたいという地域に生息するモンスター…その中でも、一際強力で凶暴な個体を何とかしてほしいというもの。その機関は他にも調べたい場所があって、今はそちらを優先している…という事を予めギルド経由で聞いていたから、私は他の仕事や、オリゼに付き合う事を優先していた。

 まだ研究が進んでいない、研究以前に調査もあまりされていない地域が少なからずある神生オデッセフィアにおいて、こうして民間で調べてくれようとする組織があるのはありがたいもの。だから最優先にこそしていなかったけど、私にとってこの依頼の重要度は高い。この依頼には、依頼主の頼みに応える…それ以上の、意味がある。

 

「確かに、これはッ、中々、凶暴…だなッ!」

 

 暴れるような連続攻撃を、バックステップと長剣による受け流しで凌いでいく。触れる瞬間後ろに引く、受け流しにより攻撃を逸らす、この二つを組み合わせる事で力を逃して負担を減らしながら防ぐ。

 守るだけでは勝てない。守るっていうのは『負けない』為の事であって、既に相手の自滅は時間の問題だとか、勝利条件が揃うまでの時間稼ぎさえ出来れば良いとか、そういう特殊な状況下でもない限り、攻めなきゃ勝ちには繋がらない。

 けれど勿論、だからって守る事、防御する事が無駄かといえば、そんな事はない。防御の必要があるとか、防御を強いられているとか、そういう状態でなくとも…戦闘における防御の価値は、攻撃と比較しても引けを取らない。

 

「……ッ!ここだッ!」

 

 幾度目かの攻撃、それを私が凌いだ瞬間、ぐらりと姿勢を崩すドラゴン系統のモンスター。その瞬間を、私は見逃さない。片手持ちの長剣で受け流した体勢から、受けた衝撃を利用して回転すると共に両手持ちへと素早く切り替え、カウンターの回転斬りをモンスターの胴へと叩き込む。

 勿論これは、ただモンスターが姿勢を崩した訳じゃない。これは敢えて攻撃を控える事でモンスターの攻勢を誘発し、徹底的に受け流す事で防御している私よりもモンスターを大きく疲労させ、その上で受け流す…つまり相手が本来想定していた形とは違う力の流れにしてしまう事で動きそのものを狂わせる効果を利用した、私が狙った通りの結果。崩したのではなく、崩させた。それが真実であり…戦術的な防御の一つ。

 

(これで崩れた…モンスターの姿勢も、流れも…ッ!)

 

 カウンターとダメージで怯んだ隙を逃さず、もう一回転して斬撃を上乗せ。苦痛の咆哮を上げながら飛び退くモンスターに対し、私は地面を蹴ると共に展開した圧縮シェアエナジーの解放をプロセッサユニットの翼へ受ける事によって、急加速からの肉薄を掛ける。再度片手持ちに切り替えながら、得物の長剣を片手で振り上げ…恐らくは反射的な防御姿勢をモンスターが取ったところで、その逆側、フリーとなった左手での掌底を打ち込む。意識も防御も長剣側に向いていた事を示すように、放った掌底は防御をすり抜け諸に入る。

 武器の持ち方や武器そのものを切り替える私の戦法は、高度な思考を持つ存在程通用し易くて、逆に本能で戦うモンスターや、心理の存在しない機械なんかには通用し辛いものだけど…全く通用しない訳じゃない。工夫次第で、やりようはある。

 

「オリゼ!そっちは……大丈夫、みたいだね…ッ!」

 

 怒るモンスターの反撃、回転からの大木の様な尻尾を振り抜いてくる攻撃を大きな横跳びで躱した私は、ちらりと一瞬後方を見やる。視線の先、そこにいるオリゼの姿を確認し…私が相手にしているのとは別のドラゴン系統モンスター、比較的小型且つ武器を持ったモンスターの内一体の首をバスタードソードで刎ねるさまを見て、心配無用であると確信。ならばと着地し、私は地面を踏み締める。飛び掛かるような突進と、その勢いそのままの噛み付きを真正面から引き付け…サマーソルトキックで顎を鋭くカチ上げる。そして、大きく仰け反るモンスターへ向け…全力の力を込めて、刺突。

 

「終わりだッ!」

 

 両手で持ち、引き、狙いを澄まして突き出す。狙う先は、二連撃で斬り裂いたモンスターの胴体。狙い違わず、私は貫き…駄目押しとばかりに、刃の根元まで長剣を押し込む。

 長剣越しに感じる、致命傷。それを感じた上で、私は内側から斬り裂くようにしながら長剣を抜く。私という支えを失ったモンスターは、ぐらりと私の目の前で倒れ…絶命。この地を縄張りとしていた、小型のモンスターを配下としていた大型のドラゴンモンスターとの戦いは、終わる。

 

「──ふっ。…な、中々悪くない、動き…でしたよ、イリゼ」

「うん。そっちもお疲れ様。引き付けてくれていてありがとね」

 

 私が絶命を確認し振り向いた時、オリゼもこちらを見ていた。そのオリゼの背後に、最後の一体となったモンスターが迫り…けれどモンスターが武器を振り上げた瞬間、振り下ろそうとしたその直前で、瞬時にバスタードソードを順手から逆手に持ち替え、片手で背後へ向けて突き出したオリゼの刺突が、モンスターの顔面を突き刺す。そこから横薙ぎをするような動きでオリゼは得物を振り、モンスターの頭部を捌いて沈める。

 最早モンスターを見てすらいない、そうなる事が決まっていたかのように滑らかで無駄のない始末。中々悪くない、という上からの評価も、これを見てしまえば頷けるというもの。…まぁ別に、見てなかったとしても不満は特に抱かないけど。

 

(…ほんと、技術はそのまま…どころか、多分更に向上してるんだよね、きっと。…けど……)

 

 圧倒的にも程がある強さを持つオリゼ、その強みは規格外の基礎能力と、無限にも思える程のシェアエナジーが中核ではあるけど、ゴリ押しだけがオリゼの強さじゃない。基本ゴリ押しでも一方的に勝つに決まっているだけで、本当は技術も凄まじい。でなければ、私にバスタードソードという癖のある剣を始め、多種多様な武器を扱えるだけの下地がある訳がない。

 だからオリゼは、多勢に無勢でもモンスターを完封していた。徹頭徹尾余裕だった。…でも、本来なら、本来だったら、完封にすらならない筈。そもそも戦うまでもなく、一手で一掃する事だって可能だった筈。だけどそうはならない、それは実現しない。だって……

 

「…オリゼ。その、さ……」

「……?」

「…やっぱり、辛くない…?──本来の…女神の姿に、なれないのは」

 

 私は言う。私は訊く。本来の時代のオリゼと、今のオリゼ…その両者の間にある、最大の差を。女神化という、女神の在り方そのものに直結する部分が、オリゼから欠落してしまっている事についてを。

 これは、避けられなかった事。どうしようもなかった事。だってオリゼは、ここにいるオリゼは、過去から時間を超えて再び現れた訳でも、過去からずっと生き続けていた訳でもなく…私の、私達の手で、再び『個』としての形を得た存在なんだから。

 嘗てオリゼ…原初の女神は、オデッセフィアの、その時代を生きる人と、これからの時代に生まれ生きていく人達を信じて、自ら歴史の表舞台から去った。信じて、期待して…皆に託した。その時点で、オリゼの『オデッセフィアの女神』としての歩みは幕を閉じて…けれどオリゼはそれで終わる事なく、自らの膨大なシェアエナジーを用いて、自分自身すらもそれに還元して、信次元を包み込んだ。それは決してシェアリングフィールドの様な特異なものではなく、誰にも認知される事はなく……ただ、ほんの少しだけ、何気ない幸せが、ふと感じられる心の温かさが増えるように、ささやかな奇跡として見守り続けた。──そして、今ここにいるオリゼは、そこから形となった存在。信次元を包む願いそのものとなった原初の女神から、『オリゼ』として再び歩む事を受け入れてくれた、オリジンハートの一欠片。だからオリゼではあっても、私達の知る原初の女神そのものではないし…女神という概念すらない時代に、究極にして絶対の存在として望まれ生まれたオリゼを現代で再現する事なんて、努力関係なしに不可能。女神としての姿を持たない…即ち、これまでと同じようには女神化の出来ない、オリゼという原初の女神の一側面を再現するのが、私達には精一杯だった。

 

(あの時、方法を教えてくれたのはオリゼだった。今ここにいるのは原初の女神の一欠片であって、今でも原初の女神は信次元を包み込んでいる…と、思う。だけど、それは私から見たオリゼ。教えてくれたのも、今のオリゼとは違うオリゼ。だからもし、今のオリゼが違う思いを抱いていたとしたら……)

 

 もしそうだとしても、私にはどうする事も出来ない。一側面、一欠片とはいえ、女神…それも原初の女神を実体化させるなんて、それこそ膨大なシェアエナジーが必要になるし、それだけでは足りないから、色んな準備をしてきた。実現の為のピースとして、仮想世界形成装置での幾度ものシミュレーションと、仮想空間で得られた多彩なデータ、現代の科学技術にオリゼ側で…オデッセフィア時代に仕込んでくれていた準備、更には原天界帰の情報すらも活用し、漸く形になった以上、今のオリゼが今出来る最大の状態。…だからこそ、怖い。私のエゴで、オリゼが抱えなくても良い辛さを抱えてしまったのだとしたらと思うのは。そして本当にそうだったら、何もしてあげられないのが恐ろしい。

 どうする事も出来ないのなら、こういう思考をしたところで意味がない。出来ないなら出来ないなりに、オリゼに何かしてあげられる事を…って思考をした方が、ずっと建設的だと分かってもいる。それでもオリゼの事、自分自身が招いた事だからか、どうしても後ろ向きな思考が優勢になってしまって……けれどオリゼは、首を横に振る。

 

「そんな事は…ないです、よ?も、勿論まだ慣れない、ですし…出来なくていい、とは思わないです、けど……ずっと前、にも同じ経験は、した事…あります、から…」

「え…?…あ、そっか…前に《女神化》を使った後、オリゼは……」

「それに…イリゼは、イリゼとセイツは…わ、私が女神として、また国を統べなくても大丈夫な位…皆を幸せに、するんですよね?」

「……っ…!」

 

 いつも通りの喋り方。だけどそこに感じる、真っ直ぐな意思。信用と、信頼と…決意がオリゼから、伝わってくる。だから私も、理解する。いや…本当は初めから、分かっていた。オリゼが方法を教えてくれたのは、改めて現代で人を守る為じゃないと。今もオリゼ…原初の女神の中にある、人の未来を人と、その時代毎に人から思われ信仰される、それぞれの女神に託す気持ちは、変わっていないんだと。

 ならば、私のやるべき事は当然、後悔でも、ましてや不安がる事でもない。オリゼが託してくれた…その事を真正面から受け止め、背負い、オリゼが信じて良かった、託して正解だったと思える女神で在る事のみ。

 

「…そう、だね…そうだ、そうに決まっている。オリゼがどうこうではなく、そんな事は関係なしに、私は私の愛する人々を幸せにする…それが私、オリジンハートだ」

「そ、その意気ですっ。…ぁ、で、でも、今の私にもやれる事はあります、し、やりたい事も沢山あります、から…!女神の姿になれない、事なんて、やらない理由になんてなり、ませんから…!」

 

 ぐっ、と両手を胸の前で握った後、わたわたと訂正(?)を入れるオリゼ。見るからにわたわたしているけど、同時にその瞳にはやる気が満ち溢れている。女神の姿になれずとも、オリゼはオリゼ。その事もまた、伝わってくる。

──でも、だけど…もう一つだけ、思ってしまう。果たしてこれは、嘗てのオリゼも同じ状況となれば、同じように言っただろうかと。違う状況だからこそ云々ではなく、同じ状況だったとしても、違う思いや言葉があったんじゃないかと。だって、今のオリゼを形作る上で最後の一押しになったのは、セイツの「過去の、あの時のオリゼに拘らなくていい。自分達が変わっているように、未来に進んでいるように、オリゼも変わっている筈だから」…という助言を受けて、私とイストワールさんの中から必要以上の固執が抜けた事だから。それ自体はいい事だけど、『オリゼも変わっている筈』という思考が逆に、オリゼにとって変わらない、本来変えられない筈の部分にまで影響をしてしまったんじゃないか…そんな風にも、考えてしまう。

 結局のところ、オリゼは自然に、普通の女神の様に生まれた訳じゃない。そこにはどうしたって、私達の意図が、思いが混ざってしまう。新たに生まれる女神ならそれで良いけど、そうではない以上、今ここにいるオリゼが私達によって『歪められた』存在なんじゃないかって不安は、どうしたって無くせない。…けれど──それでも。

 

「あ、あのあのっ、それから私…嬉しい、んですっ。皆さんの前に立って、皆さんを守れるのも、幸せ…でした、けど、イリゼや、セイツや、イストワール…それに、皆さんの隣に立って、今の時代の人達と一緒に、歩むのも…凄く凄く、幸せ…ですからっ。隣に立つ、事で、これまで知らなかった人の強さ、素晴らしさが、見えてもきましたから…!だから、イリゼ…一緒にもっともっと、頑張りましょう…ねっ!」

 

 無邪気に…本当に無邪気に、屈託なくオリゼは笑う。それだけで分かる、感じる、思う。再会を望んだのは私だけど、私達だけど…オリゼもまた、望んでくれたんだって。今ここにいる、個として存在しているオリゼの心がオリゼそのものなのか、私達の思いが混ざってしまったオリゼなのかは分からないとしても、オリゼは今という時に在る事へ、喜びを感じてくれてるんだって。だから…良かったって。

 私は頷く。私は応える。一緒にもっと頑張ろうという、オリゼの言葉に。真っ直ぐな思いに。…そう。私達はオリゼとの再会を果たした。でも、まだ満足じゃない。再会出来たからこそ、新たな望みが…オリゼとの、皆との日々を、これからを望む、新たな願いが私の中にある。それに、オリゼと共に歩めるのなら、更に私は神生オデッセフィアの皆を…ううん、信次元の皆を幸せに出来るだろうし、幸せにしたい。だって私は女神だから。原初の女神に未来を託された…そして今、オリゼや皆と共に歩み、より良い明日を創り上げていく、女神なんだから。

 

「それじゃあ帰ろうか、オリゼ」

「そうです、ね。…あ、きょ、教会に戻るまでが、依頼です…よ?」

「ふふ、そうだね…と思ったけど、それは普通に違うよ…?依頼は報告するまでであって、教会に戻る事は全く関係ないからね…?」

 

 そうして障害となるモンスターを排除した私達は、教会へと戻る。何の事はない、普通の…これから普通になっていくオリゼとの日常を、私は皆と重ねていく。

 

 

 

 

 

 

「…因みにだけど…もし私が、女神として不甲斐ない姿を見せたら……」

「…そんな事、しませんよね?い、イリゼは私の、複製体なんですから…そんな事、しません、よね?」

「あ、は、はい…」

 

……物凄い圧、妥協なんて許さない在り方。…やっぱりオリゼはオリゼで、不安がらずとも原初の女神…なのかもしれない…。




今回のパロディ解説

・某変身が得意な精霊
デート・ア・ライブに登場するヒロインの一人、七罪の事。七罪のよわよわメンタルと四糸乃の気弱さを混ぜたようなのがオリゼ…かもしれません。そういえば割と初期は四糸乃もネガティヴ思考ありましたね。

・某吸血鬼擬きの人間
物語シリーズの主人公、阿良々木暦の事。アホ毛が特徴的なキャラというと彼をまず連想しますね。というか彼の場合、ギャグ描写でしょうがアホ毛に骨があるんですよね。

・某騎士王の英霊みたいに抜くとオルタ化する
Fateシリーズに登場するキャラの一人、アーサー(アルトリア)・ペンドラゴンの事。言及するまでもないかもしれませんが、ギャグでなければアホ毛を抜いたからってオルタ化する事はない…と思います。
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