超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
天界の街…アルテューヌとクロワールが作り上げた、あり得ない筈の街の中で、イリゼは彼女達に出会った。三人に出会い、協力をした。協力する中で、絆を育んだ。そして…わたしもまた、三人の力を借りて、イリゼを取り戻した。
そんな三人と、わたしはまだ出来ていない事がある。勿論感謝は伝えた。依頼されたからじゃなく、友として協力したのだからとお礼の受け取りは拒否されたけど、それはそれとして戦いを終わらせられた事への打ち上げパーティーには参加してくれたし、そこでわたしも仲を深められたとも思う。だけどまだ、あれを出来ていない。わたしにとって大切な事が…果たせていない。
だからこその、今日。わたしと皆のこれからの為に、大事な今日という日。ずっと楽しみにしていた、それが何かと言えば……勿論!
「さぁ、わたし達のデー──」
「皆、行くよー」
『はーい』
「ちょっとぉ!?」
わたしを置いて、ぞろぞろと歩いていこうとする四人へ突っ込む。ひ、酷い!酷いじゃない!折角制御不能なカリスマっぽい前振りをした上で、この流れにぴったりな台詞を言おうとしたのに!
「うー…恨むわよイリゼぇ……!」
「…って言っているけど、いいの?」
「あーうん、気にしないで。セイツはその…変な姉だから」
「む、失礼しちゃうわ。イリゼだって、しっかりしてるようでしっかりしてない妹の癖に」
「なっ、それについてはセイツも人の事言えないと思うんだけど…!?」
姉であるわたしを軽んじるようなイリゼ。全く、随分と生意気になったじゃないとわたしが睨みを効かせれば、イリゼは真っ向から睨み返してくる。撤回する気もないらしいイリゼとわたしは睨み合い…イリゼへと問い掛けたスカネク、軽く肩を竦めていた東ザナちゃんと乙戦ちゃんの三人に、呆れの視線を向けられる。
「ふんっ、まあいいわ。実際のところ、そこまで引き摺るような事でもないし」
「こっちこそもういいよ。指摘そのものはほんともう、否定出来ないって自覚してるし」
「…これは、仲直りした…って事なのかしら」
「そもそも半分位はふざけていたのかもしれないな」
睨み合ってはいたけれど、わたしは別に本気で怒っていた訳じゃないし、多分それはイリゼも同じ事。だからわたし達は和解を果たし…二人でこほんと咳払い。
「じゃあ改めて、行こっか皆」
「今日は皆に、神生オデッセフィアをたっぷりと知ってもらって、たっぷりと楽しんでもらうつもりよ」
くるりと三人の方を向き直り、わたしとイリゼは順に言う。三人からの頷きを受けて、今度こそわたし達は歩き出す。
そう。今日は三人へ神生オデッセフィアを案内する日。三人が
「二人の国、二人からの案内。楽しみにさせてもらうわ」
「えぇ、大いに楽しみにして頂戴、東ザナちゃん。自慢じゃないけど、自信ならあるわ。わたし達の国への、ね」
「ふふ、本当に自信がある人間の顔だな。…あぁいや、二人は女神か…」
「自分の国に自信がなくっちゃ、女神として…国の長として失格だからね。…っと、そうだ。最初に訊いておくけど、気になる場所とか行ってみたい所とかはある?」
「私はないわ。本当に、この国の事はまだ殆ど知らないもの」
一応前にわたしが国防軍の基地から教会まで移動する時、道中に出来る範囲で案内したけど、逆に言えば本当にその程度。だから、殆ど知らないというのも当然の事。
また一方で、三人は神生オデッセフィアに移り住む訳でもなければ、ここを拠点に活動をする訳でもない。つまり、日々の生活に根付くような情報は…まあ、あって困る事はないにしろ、無駄になる可能性が高いって事。それにそもそも、『必要』と感じれば皆自分で調べたり、訊いたりする位は出来る筈で…だったら面白い、興味深いと思ってもらえるような場所や施設を案内するのが吉ってもの。
「じゃあ、今日一日で回れる範囲なんて限られてるし…大通りを中心に見ていく?」
「同感。皆もそれでいい?」
勿論。それが、三人の回答。方向性が決まった事で、わたし達は教会から伸びる道を進み、徒歩で神生オデッセフィアを回っていく。
「前に道中で街を見た時も思ったが…国としての技術レベルの割には、建物…というより街並み全体が、昔ながらという感じなんだな。…全体的にはそうというだけで、技術レベルにあった外観の場所もあるようだが…」
「こういう街並みも、中々素敵でしょう?歴史的景観…ってやつよ。…まあ尤も、歴史的に言えば神生オデッセフィアは全体がかなり新しいんだけどね」
「色々あって生まれた土地と街、それを活用して始まったのが神生オデッセフィアなんだ。その辺りの話は長くなるけど…聞く?」
「それはまた改めてにするわ。折角の案内なのに、長々と立ち話をするのも勿体無いもの」
それなら、とわたし達は成り立ちの話を打ち切り、案内に戻る。商業施設や観光スポット、それにわたしやイリゼがそれぞれによく行くお店なんかを三人に教え、その都度三人は反応を返してくれる。
『ここは……』
「そう。皆も知っての通り、ここは神生オデッセフィアでも最大のライブ会場…ではなく、多目的ホールだよ。専らライブとかコンサートとかで使われてるけど、プロレスの興行の舞台とかで使われる事もあるからね」
ある程度歩いたところで行き着いたのは、遠くからでも目立つ巨大ホール。それが見えたところで、三人はぽつりと声を漏らし…わたしは、あの時の事を思い返す。
三人はここを知っている。だってここは、イリゼの帰還ライブ…三人も出演してくれた、あのイベントの会場になったホールなんだから。
「ほんと、あの時はびっくりしたわ。三人共、本職としてやっていけそうな位ばっちりだったんだもの」
「やっていけそうも何も、東ザナは実際本職らしいしな」
「まさかこっちで、アイドルとしてパフォーマンスする事になるとは思ってもみなかったけどね。けど、驚いたという事であれば、それは私も同じよ。乙戦さんはこういう事にあまり馴染みがなかったって話なのに、短時間でかなりのレベルにまで仕上げていたし、スカネクさんはその、なんというか……」
「あれ?別人?…って思う位、カメラや人前とそれ以外とでキャラが違うんだもんね」
「演出って、そういうものでしょう?」
何か問題でも?…とばかりに言葉を返してくるスカネクに、わたし達は揃って苦笑。確かにそれはその通り。舞台の上と私生活とで在り方に違いがあるなんて当たり前の事だし、かく言う東ザナちゃんや、更には乙戦ちゃんも、ステージの上では普段よりテンションを上げていたのは間違いない…けど、スカネクの場合は最早切り替えというか豹変レベル。普段はクールそのものな彼女が、ステージの上では明るく元気で一生懸命な感じに振る舞っていたんだから、これを『演出』の一言で済ませるというのは……中々に中々よ、えぇ。
「そうだ。もし良かったら、また出てみない?三人共、かなり好評だったしさ」
「…それは、国の長としていいの?長がアイドル活動をするのは、周囲が受け入れているようだからいいにしても、私達は全員別次元の人間…それもアイドルという点では、東ザナ以外所詮は素人よ?」
「いいのいいの。大切なのはプロかどうかじゃなくて、見てる皆が楽しんでくれるかどうかだし…凄く限定的ではあるけど、別次元の友達とユニット組んで活動した事なら、私これまでにもあるしね」
「…聞けば聞く程、女神という存在の自由さには驚かされるよ。その上で、多くの者に受け入れられているのだから、やはり凄いものだ。イリゼも、セイツも」
話の流れの中で、乙戦ちゃんはわたし達を凄いと言ってくれる。色々な感情を思わせる表情を浮かべ、わたし達へと言う。
その表情の意味、そこに籠もった感情がなんであるかなんて分からない。だけど、苦しみの色ではない事は分かる。当たり前だけど、乙戦ちゃんには乙戦ちゃんの、皆には皆の経験や常識があって、けれどそこに大きな溝を作るのが次元間交流ってもので…もしかしたら今乙戦ちゃんが抱いた思いを、話してくれる事があるかもしれない。だからその時はちゃんと…でも内容によっては固くなり過ぎず、わたしは聞きたい。
「さてと。ここまでざっと案内してきたけど、ずっとただ見て回るだけじゃ皆も面白くないでしょ?」
「そうでもないわ。知らない土地、知らない街を見て回るのはそれだけで色々と刺激があるし、学びになる部分もあるもの」
「あ、そ、そう…そうね、そういう事もあるわね……」
「……?…あぁ、ごめんなさい。何かやりたい事があったのね」
「うっ…いや、そうだけど…!そうだけども…!」
不思議そうな顔をしたのも束の間、軽く笑って東ザナは言う。その反応でからかわれたと、わたしの意図を理解した直後にからかう事へシフトしたのだと気付いて、なんだか恥ずかしさが込み上げてくる。くっ、反応からしてきょとんとした時点では、本当に分かっていなかった筈…なんて頭の回転の速さをしてるのよ、東ザナちゃんは…!しかもそれを活かすのがこれって…!
「…で、何をやりたいの?」
「この流れでスカネクも普通に訊く…!?貴女も結構遠慮がないわね…!」
「…駄目だった?」
(あ、違う…多分これ天然だわ……)
そして意外な形で発覚する、スカネクの天然要素。活字だから分からないと思うけど、今本当にきょとんとした顔で、小首傾げてたわ彼女…。
「はぁ、んもう…わたしが言いたかったのは、この辺りでちょっと、ゲームセンターにでも寄らない?って事よ。…なんで普通の事言ってるだけなのに、そこはかとなく恥ずかしくなってくるのかしら……」
「あぁ、ゲームセンター…さてはセイツ、ゲーセンが目に入ったから体良く寄ろうとしたね?」
「でもほら、あそこのお店は多分最近出来たばっかりでしょ?新しく出来たゲーセンって、入ってみたくなるでしょ?」
「だからって案内の最中にその気持ちを満たそうとするのはどうなのかな…まぁ、私は構わないというか、皆とゲーセンで遊ぶのも楽しそうだとは思うけど」
突っ込みを入れながらも、なんだかんだ賛成をしてくれるイリゼ。ほんとイリゼは良い子よね、と出発時点での事なんてすっぱり忘れて私が思っていると、三人もゲーセンへの立ち寄りに同意。それ自体は嬉しい…けど、三人共精神面が大人だからか、あまり自分からは要求してこないっていうか、わたし達のしたいようにしてくれていい…ってスタンスっぽいのよね。でも三人が楽しめなくちゃ意味ないし、気を付けておかないと。
なんて事を思いながら、わたし達はゲームセンターへ入店。途端にゲーセンらしい賑やかさが耳に響いてきて、わたしはくるりと振り返る。
「皆、やりたいゲームはある?っていうか、皆はどんなゲームが得意?」
「えっと、私はテニスゲームが得意かな」
「イリゼには訊いてないわよ…しかもテニスゲームって、アーケードゲームにはあんまりないじゃない…」
「…イリゼさんって、セイツさんにはそこそこふざけるわよね」
「姉妹だからこそでしょうね。分かるわ」
「あぁ、わたしも分かる」
「そ、そう。…何かしら、急に蚊帳の外感が……」
何で真っ先にイリゼが答えるのよ、三人に知ってもらうにしても最初はおかしいでしょ…と今度はわたしが突っ込んでいると、いつの間にやら東ザナちゃんがほんのり物悲しそうな顔をしていた。…何かしら?とイリゼと顔を見合わせても、お互い首を傾げるだけ。
「えー、っと…で、皆はどう?」
「わたしはゲーム自体、これまであまりやってこなかったな。別に嫌いという訳ではないが……」
「私もそこまでやる訳じゃないけど、ゲームセンターのゲームでいえば…釣りとモグラ叩きとUFOキャッチャー、後はカード位かしら」
「位と言いつつがっつり色んなのに手を出してるね…スカネクは?」
「そうね、私は…レトロなゲームをやる事が多いわ」
「へぇ、意外だわ。それならネプテューヌと気が合いそうね」
返ってきたのは、三者三様の反応。東ザナちゃんとスカネクについては意外で…乙戦ちゃんもあまりやってこなかったからこそか、その表情は何となくだけど興味深そう。
「そういう事なら…って訳じゃないけど、ちょっと勝負してみない?」
『勝負?』
「全員で同じゲームを幾つかやって、総合成績で勝負…って事よ。そして優勝者には……近くのスーパーでわたしが好きなものを買ってあげるわ」
「お手伝いのご褒美みたいな景品ね…」
「あまり心惹かれる景品ではない…が、こんなところで高級品を用意されても気が引ける事を思えば、むしろ妥当かもしれないな」
「まあ、景品は何でもいいわ。勝負…するんでしょう?」
「…やる気だね、スカネク」
「貴女にしろセイツにしろ、近くで見てきた女神と少し腕試しがしてみたい…そういう事よ」
冷静に闘志を燃やすスカネクに、わたしも勝負への欲求を刺激される。それはイリゼも同じなようで、小さく薄く笑みを浮かべる。
そこでふと横を見れば、そこには肩を竦める東ザナちゃんと乙戦ちゃんの姿。けれど二人に勝負はしないのかと問えば…返ってきたのは、「まさか」という答え。しっかりやる気な二人へ今度はわたしが笑みを見せ…勝負開始。公平にという事で、一人ずつやるゲームを選んで、五番勝負で勝敗を決める。
「…あっ、そうだ」
「セイツ、どうかしたの?」
「やるゲームを選ぶ順番を決める為に、まずはそれ用の勝負をしないと……」
「二度手間…!そ、そこはジャンケンなりなんなりでいいじゃん!何そのワイバト的な回りくどい発想!」
…というわたしのボケとイリゼの突っ込みを挟んで、普通にジャンケンで順番も決定。そうして始まる、五番勝負。
「……っ、速い…!」
「選択画面のデータ通りなら、相当ピーキーな性能をしている筈なのに…きっちり乗りこなしているわね、乙戦さん」
一番手となった乙戦ちゃんが選んだのは、レースゲーム。五人で一斉にレース…といきたいところだったけど、筐体の数が足りないって事で、勝負はタイムアタックに決定。自分が選んだゲームなんだからと、乙戦ちゃん自身が一番最初にやる事を志願してきて…あまりゲーム慣れしてないらしいのに大丈夫かしら?…というわたし達の懸念を覆すように、乙戦ちゃんは抜群のドライビングテクニックを見せ付けてきた。最初を取る事で、わたし達に大きなプレッシャーを与えてきた。…彼女、大概の乗り物は乗りこなせる能力があるって話だったけど…まさか、今も使ってるっていうの…?というかその能力は、ゲーム上の車両にも反映されるの…?
「…ね、セイツ」
「うん?何かしら?」
「前に聞いたけど、ネプテューヌとネプギアが神次元に初めて行った時も、こうして一緒に出掛けてゲームしたんだよね?もしかして今日は、それも意識した?」
「別にそんな事はないわ。でも、偶然このタイミングで新しいゲームセンターを見つけたのは、ちょっと運命的なものを感じちゃったわね」
「…なんかちょっと軽くない?その運命……」
「…うん、まぁ…それは、まぁ……」
じっくり見たらどこでどう曲がるのが良いか、コースの難所はどこか…といった情報が、後の番の人程溜まって不公平だ、と思ったわたしとイリゼは、自主的に乙戦ちゃんのプレイをぼんやり眺めるだけに留める。
そんな中でのイリゼの問いに、わたしは軽く肩を竦めて返答。そうこうしている内に乙戦ちゃんが走り終え、二番手以降も順に走っていく。それぞれに選んだ車両で、ベストを尽くして走っていき…けれど、乙戦ちゃんのスコアには届かない。わたしも乙戦ちゃんと同じ車両を選び、純粋な技術で超えてみせようとはしたけど…データ上は僅かな、けれどその実大きな差を埋める事は出来ず、敗北で終わる。
「ふぅ…逃げ切った、と言うと少し変な気もするが……まずはこれで、わたしが優勝へ一歩リード、かな?」
最後にプレイしたイリゼも乙戦ちゃんのスコアに届かず終わった事で、一位が確定した乙戦ちゃんは頬を緩める。一見落ち着いているようだけど…わたしには分かるわ!乙戦ちゃんの心の動きが、喜んでいる事が!……え?頬が緩んでるんだから、それ位誰にでも分かる?…それはまぁ、そうね…。
「…女神二人との腕試しのつもりだったけど…情報の面で一番不利な一番手の貴女に、全員負けるとはね…」
「ただのゲーム対決とはいえ、こうも負けるのは面白くないわね。次の勝負は、私が勝たせてもらうわよ?乙戦さん」
全員完敗の結果はスカネクと東ザナちゃんにも火を点けたようで、二人はクールに闘志を燃やす。二番手である東ザナちゃんが、店内を見回しどのゲームにするか選んでいく。
思い付きで提案した勝負だけど、これは相当盛り上がりそう…この時わたしはそう思った。そして感じた通り、最初から最後まで白熱した戦いになった。わたしやイリゼは女神化こそしないにしても、女神のスペックを割と遠慮なく発揮したり、三人も普通に各々の能力を活用して勝ちを掴みにいったりと、気付けば…いや、考えてみれば最初から結構ガチな勝負になっていた。ただ、一つだけ誤算があって……
「…えー…もう皆分かってるかもしれないけど、一応結果発表するわ。五番勝負の結果は…全員が自分の選んだゲームで一位になった結果、通算としては全員ドロー!……これ、どうするの…?」
『いやそれをこっちに訊かれても……』
勝負の内容そのものは充実していたけど、終わってみたらまさかの全員が横並び。全員一勝のみという、団子状態。勿論各勝負の順位をスコア化して、きちんと総合成績を出してみれば一位をはっきりさせる事も出来るんでしょうけど…ただの遊びでそこまで厳密に決めるのも、ねぇ…?
「けど、困ったね…もう一戦何かやって、真の優勝者を決める?」
「白黒はっきり付けるにはそれが一番だとは思うけど、そうなるとここまでの五戦がなんだったのか、最初から一回勝負で良かったんじゃないかって話になるわね…」
「もう一戦やるなら、何のゲームにするかという問題もあるな。全員が得意、或いは不得意のゲームでなければ、どうしたって不公平感が生まれてしまうだろう」
全員に公平な条件で…というのが、乙戦ちゃんの言う通り難しいところ。かといって実力がほぼ関係しない運勝負、例えばガチャガチャでレアな景品を取れるかどうかの勝負とかにしちゃうのも、なんだかここまできてそれ…?…って感じがある。だからわたし達は頭を悩ませ…そんな中で不意に、スカネクが声を上げる。
「…セイツ。貴女はさっき、全員ドローと言ったわよね?」
「え?えぇ、言ったけど……」
「全員が同率で並んでいる…つまりこれは明確な敗者のいない、順位を表すなら全員が一位とも言える状態よ。ならもう、それでいいんじゃないかしら」
「いいんじゃないかしら…って、いいの?スカネクは、最初から勝負に意欲的だったよね?」
「その通りよ。でも正直、私は貴女達との腕試しがしたかっただけで、勝敗についてはそこまで拘ってないわ。だから引き分けで終わらせてもいいし、セイツ次第で丸く収まると思っただけ」
「わたし次第で?え、どういう事?」
突然提示される、わたし次第で丸く収まるという言葉。全く意味の分からない提示に対し、わたしは困惑…するけど、何やら皆には伝わったようで、あー…という反応を見せる。
ほんとにどういう事なのか。どうやったら、わたしが丸く収められるのか。答えを求めてわたしは皆の事を見る。そして皆は顔を見合わせ…代表するように、イリゼが言った。
「ほら、セイツ言ったでしょ?優勝者には、スーパーで好きなものを…って。だったらセイツが買った相手が、優勝者とも表現出来るよね?だから……」
「あぁ…だからわたし次第で丸く収まる訳ね。わたしが全員に買えば、それで丸く収まる…と」
納得と共に浮かぶ苦笑。確かにそれはそうかもしれない。そもそも真の優勝者も白黒もこの勝負における『納得出来る結果』の為に挙げられたんだから、これでいいかと思える結論があるなら、ここで終わりに出来るのも道理。ただまあ、その場合わたしの出費が嵩む訳だけど……
「…いいよね?セイツ」
言い出したのはセイツだもんね?とばかりの視線を送ってくるイリゼ。同じくじぃっとこちらを見てくる三人。決して圧力がある訳じゃない…筈なんだけど、何故か逃れられない気がする四人の視線に見つめられたわたしは、思わず一方後退り……わたし含め、五人分の買い物をする事になるのだった。
*
「ね、皆。ここまでどうだった?皆の住む次元とは、結構違ってた?」
テーブルを挟んだ反対側へ座る三人に向けて、イリゼが問う。スーパーで買い物を終えたわたし達は、いい時間だから…って事で、お昼ご飯の為にレストランへと訪れた。
入ったのは、普通のレストラン。女神も普段は普通のお店に行くんだって事を伝える為に、敢えて高級店ではなくチェーン店を選んだ…とかではなく、本当にただ、近くにあったから選んだだけ。
「違うものもあれば、同じものもある…と言ったところかしら」
「地理や歴史はまるっきり違うが、文化や人が作り上げてきたものは割と似通っている気がするな。例えば、それこそこのレストランという業務形態や、レストランという言葉自体が指すものも、わたしの知る『レストラン』と基本的には変わりないようだ」
「その辺りは天界…の街に迷い込んだ時点でも思っていたけど、今振り返ってもやっぱり、何もかも違う場所に来てしまったというより、同じ国の別地方に来たような感覚だわ。確か、セイツさんも別次元から来たのよね?」
「そうよ。厳密に言うと、この信次元出身で、長い事別次元…神次元にいたって感じだけど」
確かにそんな気もする、とわたしは東ザナちゃんの表現に同意。神次元における女神メモリーだったり、信次元であればどの大陸も実は宙に浮いている(そういう意味では浮遊大陸ら神生オデッセフィアだけの要素じゃないのよね)事だったり、それぞれの次元独自の要素があったりもするけど、普通に生活するだけならどこに行っても自分の知識や常識が概ね通用する位には、わたしの知る限りどの次元も似通っている。
「…あぁ、それで言えば、これは『似ているけど違う』…に当たるかな」
「あ、ちょっ、それは……」
と、そこで乙戦ちゃんが取り出したのは、先程スーパーで買ったお菓子。それを見て、スカネクも東ザナちゃんもくすりと笑う。
「ふふ、いいでしょ?神生オデッセフィアで今話題のお菓子、イリーゼ」
「もしかしてこれは、イリゼさんがプロデュース……」
「してないよ!?か、勝手に作ってるだけだからね!?」
どこかで見た事ある気がするウエハース菓子、イリーゼ。その名前の元ネタは…言うまでもなし。この商品の名前を考えた人は、センスあるわね。もし仮にイリゼが販売企業に名前の変更を要求したとしても、同じ女神であるわたしが擁護に回ってあげなくっちゃ。
「うぅ…そうやって余裕ぶってると、その内セイツも似たような目に遭うんだから…世の中そういうものなんだから……」
「いやそれはないでしょ。イリゼの場合、イリゼ自身がお菓子作り好きなのも一因でしょうし」
「言ったね!?もしもスイーツならぬセイーツ菓子とか出ても、私は知らんぷりするからね!」
「スイーツは特定のお菓子の名前じゃくて、ジャンルじゃない」
「そうだけども!そうだけど、言いたいのはそういう事じゃないから!」
んもー!とぷんすか怒るイリゼも可愛い、と思いながら更に何度かわたしはからかう。からかい過ぎると本気で不機嫌になったり、場合によっては実力行使に出る事もあるけど…わたしは他でもないイリゼの姉。どの程度までだったらセーフかなんて、もうとっくに熟知済み。だからそのラインを超えるギリギリまでからかおうとして…けれどそれよりも先に、聞こえてきたのは柔らかな声。
「…本当に、二人は仲が良いのね」
「えぇ、勿論。だって姉妹なんだもの」
「これを見て仲良いって言うかなぁ普通…!」
「この立て続けに真逆の事を言う辺り含めて、確かに仲がいいわよね。私も同感よ」
「気心の知れた仲だからこそ、というやつだな」
「だ、だから…もう……!」
今発した声と同じように柔らかな笑みをスカネクが浮かべ、東ザナちゃんと乙戦ちゃんもそれに続く。初めこそ否定していたイリゼだけど、こうも言われてしまえば言い返せないようで…はふぅ、ほんとにイリゼの心はいつも生き生きしてるというか、表情と同じでいつ見ても飽きないわっ!まあ別に、見てて飽きる心っていうのもあんまりないけどね!
「そ、それよりほら、注文した食べ物来たよ!ほら食べる食べる!」
強引に流れを断ち切るように、運ばれてきたメニューをイリゼは受け取っていく。なんともまあ強引だけど、もうわたしもお腹空いているし、メニューが来たのに食べる事もせず会話続行…っていうのもお店に失礼。だからわたしも注文したミートドリア受け取り…皆で食事の挨拶をしてから、早速スプーンで口に運ぶ。
「ん、ふっ…あっつい、けど…美味し…♪」
出来立てだからこその熱さと共に、ふわりと口の中でクリームソースとチーズ、それにお肉の濃厚な味が広がっていく。すぐにわたしは二口目を食べ…熱を帯びた吐息を漏らす。
スープパスタに肉と野菜のあんかけ定食、具材たっぷりのサンドイッチと皆も各々頼んだメニューを口にし、美味しそうに食べる。イリゼもイリゼでオムライスを食べている…んだけど、まだちょっと腹を立てている様子。
「…イリゼ、ご飯は楽しい気持ちで食べた方が美味しいわよ?」
「誰のせいでこうなってると思ってるのかなぁ、セイツは…っていうか、このオムライスは気持ち関係なく美味しいし…玉子はとろっとしてて、チキンライスも玉子とよく合ってて凄く美味しいし……」
「…不満はあれど飯うまし?」
「うんまあそうだけど、それに私はなんて返せと…?」
本当にイリゼは不満そう。だけどラインを超えてしまったか…とわたしは不安になったりはしない。だって食べてる内に段々機嫌が治るって分かってるもの。現に今も、一口毎に少しずつ表情が緩んでいるし。
「あ、そうだ。スカネクと乙戦ちゃんには姉妹がいるのよね。やっぱり可愛い?」
「勿論。可愛いし、わたしにとっては頼れる妹達だ。…恥ずかしい話だが、私生活では本当に世話になってばかりだからな…」
「そんなの何も恥ずかしい事じゃないわ。わたしも基本、イリゼ頼りだもの」
「それは胸を張って言わないでほしいな…」
「分かってないわねイリゼ。頼れる妹がいるって話なんだから、胸を張るのは当然の事じゃない」
「……むぅ…」
わたしが乙戦ちゃんにシンパシーを感じている中、イリゼはぷくっと頬を膨らませる。オムライスを頬張っているとかではなく(それはそれで可愛いだろうけど)、そういう言い方はズルいじゃん…みたいな感情の発露として、頬を膨らませてこっちを見ている。…ね?ね?分かるでしょ?イリゼ可愛いでしょ?
「まあ、わたしもイリゼは頼れると思うよ。戦闘でも、それ以外の面でもね」
「…ありがと、乙戦ちゃん。…って、あれ?スカネク、姉妹の話になると割と積極的だったと思うけど、やけに静かだね」
「別に、静かにしてたつもりはないわ。ただ、そうは思わないと思っていただけよ」
「へ?え、もしかして最近姉妹と喧嘩でも──」
「私のお姉ちゃんは、可愛いなんて言葉で言い表せるものじゃないわ。優しいし頼れるし可愛いし美しいし真面目だし優しいし優しいし…何より優しい、最高のお姉ちゃんだもの」
((お、多い…!優しいの割合が多過ぎる……!))
割とどころか超積極的、超前のめりなスカネクの姉推しに、わたしは…いや、わたし達全員が舌を巻く。ほ、ほんとにスカネクはお姉ちゃんが好きっていうか、クールな性格からは想像も付かない程のシスコンよね…。後、貴女のお姉ちゃんは何なの…?スカネクのお姉ちゃんの半分は、優しさで出来ているとでも言うの…?
「…なんというか、こういう話をしていると少し羨ましくなるわね」
「そういえば、東ザナは姉妹も兄弟もいないのだったか」
「私じゃなくて私の仲間には、鬱陶しがってるように見えつつ姉の事を大切に思ってる子とか、何だかちょっと妹みたいで可愛い後輩もいるけど、私自身には…ね。…でも、やっぱり姉妹や兄弟って、良い事ばかりでもないんでしょう?」
『そんな事ないわ』
「あ、そ、そう…そうなのね…」
真顔で返すわたし…とスカネクに、東ザナちゃんは若干たじろぐ。そこでいやいやいや、とイリゼと乙戦ちゃんが訂正に入って…わたしとスカネクは、肩を竦め合う。
「良い事ばかりよねぇ?」
「その通りよ。…まあ、でも…兄弟仲に悩んでた事のある仲間は私にもいるし、姉妹や兄弟も人それぞれだと思うわ。当たり前だけどね」
自分自身はそうでもなくとも、と言うスカネクへ、確かにねと肩を竦める。当たり前の事…えぇ、本当にそうよね。家族であろうとなんであろうと、『誰か』との付き合いに決まった形なんてないし、だから明確な正解なんてものもない。難しいものだけど…それでも誰かと繋がりたい、仲を深めたいって思うのが人であり、女神なのよね。
「ふー…やっぱりいい、本当にいいわ」
「ドリアの事?」
「ドリアも美味しいけど、デートの事よ。こうやって皆の心に触れられる、皆の事を知れる、これまでよりも一歩深い関係になれる…これだからデートは辞められないわ。辞められないっていうか、辞める気なんてないんだけどね」
「気持ちは分かるけど、ほんと言い回しが宜しくないよセイツ…軽い女感が凄まじ過ぎるって……」
「というかそもそも、これはデートと言えるのか…?いや、元からそういう意味のデートではない事は分かっていたが、それにしてもこれは……」
「ただの案内、ただのお出掛けにしか思えないって事?いいじゃない、大事なのは言葉の意味や使い方じゃなくて、中身なんだから。…それとも、皆はそういう意味での『デート』をしたかった?」
デートという言葉の使い方が変なのは自覚してる。っていうか、分かった上で、敢えてデートって言葉を使う事で、本当にただのお出掛けをするより相手の心の動きが見易くなる…っていうのがわたしの狙い。だから、実際にデートっぽいかどうかは関係ない。楽しければ、色んな感情を見られればそれで良いし…それで相手も楽しんでくれたなら、どんな内容でもわたしは満足。だからわたしはその思いを伝え、おまけで軽く訊いてみる。皆がちょっとでもドキドキしてくれたらいいな位の感覚で、冗談めかして言ってみる。狙いはそこにあるんだから、この問い自体への答えなんて割とどうでも良くて……
『へっ…!?…そ、それは……』
「……!?」
──その瞬間、わたしははっとする。わたしの琴線に、ジャストミートで引っ掛かる。こ、これは…この反応は…っ!
(恋する、乙女のハート……ッ!!)
駆け昇る興奮。沸き立つような高揚感。ほんのり頬を染め、気恥ずかしそうに目を逸らす三人の姿、その心の揺れ動きは…間違いない!間違いないったら間違いない!んもうっ、何よ…三人揃ってそんな素敵な思いを秘めていたなんて、わたしに秘密にしていたなんて人が悪いじゃない!そんな反応を見たら…そんな感情に触れちゃったら、わたし…黙ってなんていられないわっ!
「ふ、ふふっ…ふふふふふふっ……♪」
「えっ、ちょっ、セイツ?あの、今顔が見るからに変態のそれに──」
「恋バナよ」
『え?』
「さぁ、するわよ恋バナ!聞かせて頂戴、教えて頂戴、貴女達の恋を!好きだって気持ちを!その可憐で綺麗で情熱的な思いを、わたしに全て見せて頂戴っ!」
『ひぃっ!?』
身を乗り出し、昂りのままに求めるわたし。びくぅ!と三人は顔を震わせ、後退ろうとする…けど、三人は今座った状態。後ろには下がられない状態。つまり…そう簡単には、逃げられない。
隣のイリゼが本気で呆れた顔をしてるけど、そんなの気にしない。大丈夫よ、皆。わたしだって女神、お店や他のお客さんの迷惑になるような大声は出さないわ。それにわたしは聞くだけ、知って一人でゾクゾクするだけ。それ以外は別に何もしないから…その思いを全部、わたしに感じさせて♡
……という事で、わたしとしては大満足な一日となるのだった。もう最後は全く案内なんてしてなかったけど、本当に充実した一日だった。…後日、わたし抜きで改めてイリゼが案内をしたって話もあるけど…それは、まぁ…うん…。
今回のパロディ解説
・「さぁ、わたし達のデー──」
デート・ア・ライブにおける代名詞的な台詞の一つのパロディ。セイツは知り合った相手と取り敢えずデートしようとするので、この台詞を使おうと思えば結構使えるんですよね。
・〜〜制御不能なカリスマ〜〜
プロレスラー、内藤哲也さんの事。「〜〜勿論!」の部分がそうです。全くそのつもりはなかったのですが、時事ネタみたいになってしまいました。先週の投稿であれば、よりタイムリーだった訳ですが…。
・「〜〜ワイバト〜〜」
いろはに千鳥の企画の一つ、千鳥のワイワイバトルスピリッツの事。これが分かった方は、いろはにちどらー…かもしれません。…いろはにちどらーが分かる人こそが、ちどらーなのかもしれません。
・「〜〜イリーゼ」
ブルボンが発売しているお菓子の一つ、エリーゼのパロディ。場合によっては派生商品のオリーゼとかも出てくるかもしれません。後、イリーゼの為に、って曲もその内作られるかもしれないです。
・「…不満はあれど飯うまし?」
日々は過ぎれど飯うましのパロディ。暫くの間私は、これがオリジナルアニメだとは知りませんでした。凄く、原作がありそうな作品というか…同じように思った方、きっといると思います。