超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

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第三話 仕事とは

 仕事において、大事な事は何か。頑張る事、皆と協力する事、クリエイティブ且つインタラクティブな思考を持つ事…どれも大切。どれかじゃなくて、どれもが大切。

 だけど、わたしは思う。それ以上に、大切な事があるって。誰もに該当する訳じゃない、でも上に立つなら忘れちゃいけない事、重んじるべき事が、間違いなくあるって。──そう!

 

「仕事というのは、任せられるものは出来るだけ任せちゃうのが大切なんだよ!」

「えぇー……?」

 

 ばんっ、と椅子から跳ぶように立ち上がったわたしは、胸を張って主張する。仕事の時間中、執務室へ来たネプギアから書類を受け取ったところで、これこそが大事なんだとはっきりと言い切る。

 

「また、なんていうか…大きく出たね…」

「うん!ちょっと某生徒会のちびっこ会長を意識しました!」

「そ、そうなんだ…確かにお姉ちゃん、要素的にはそこそこ似てるもんね…。…で、えぇと…仕事で任せられるものは任せちゃう、だっけ?」

「そうそう、任せちゃうのが大切にして大事なんだよ」

「……いーすんさんがいないからって、言いたい事言ってるね?」

「うっ……」

 

 ジトーっとした目で、わたしの考えを見抜いてくるネプギア。さ、流石ネプギア…わたしの事をよく理解してるね…。

 

「ま、まあでもさ、時には誰かに任せたり、これはこの人の仕事…って感じに完全に振り分けちゃうのも大事だとは思わない?」

「うーん、そうかな?確かに一人で何でもしようとするのは良くないと思うけど、そういうのとはまた別なんでしょ?」

「全く別だね。というかほら、頼るべきところを頼らない、自分の力と出来る範囲をちゃんと理解せずにいるとどうなるかは、身を以ってよーく知ったからね…」

「あ、そ、そっか…うん、そうだよね…」

 

 トラウマ…ではないし、結果的に自分を顧みて、ちゃんと前に進む事へ繋がったんだから、今では意味のある、価値のある失敗だったと思ってる……けどやっぱり、大博覧会絡みの失敗は、流石のわたしも全く笑いに出来ない事柄。ただでも、今言ってるのはそういう事じゃない。

 

「…でも、やっぱりちょっと分からないっていうか…自分がやるべき事はちゃんとやる、その上で自分だけじゃ上手くいきそうになかったり、どうしても自分じゃやれないような事は誰かに頼って、その分誰かに頼られたり助けを求められたりしたら、出来る限りしっかり応えるのがお仕事だって、わたしは思うな」

「うーむ…ほんとネプギアって、わたしの妹とは思えない程真面目で立派だよね。何をどうしたら、ここまで道を踏み外さずにいられるんだろうってレベルだよ」

「いや、まあ、なんていうか……お姉ちゃん、それは言ってて悲しくならない…?」

「ううん、全く。自分のアレさ加減もよく分かってるし、なんかもうここまで対照的だと逆にさっぱりした気持ちで受け止められるっていうか、シンプルにネプギアの事を誇れるんだよね」

「そ、そうなんだ。…わたしにとっても、お姉ちゃんは誇れるお姉ちゃんだよ?これまでも、今も、これからも…ね」

 

 冗談半分、本心半分で言った言葉。ネプギアがわたしと似ても似つかない程しっかりしてるなんて今更だし、そんなネプギアが誇りなんだとわたしが言えば、ネプギアは頬を掻いて…それから、にこりと笑う。誇りなのは自分もだって言ってくれる。うぅ、本当に…本当にネプギアは良い子なんだから…!世の中に妹は数あれど、ネプギア程の可愛い妹はそうそういな……

 

「まあそれはそれとして、流石にそろそろわたしもお姉ちゃんの事を、かなりアレな女神だってきちんと認識しようとは思ってるけど」

「ぎゃふんッ!」

 

……と思ったらこれだった。感激の真っ只中で、ばっさり斬り裂かれた。あまりのショックに、ぎゃふんとか言っちゃった。…よ、容赦がなさ過ぎる…。

 

「ね、ネプギアさ…なんかちょっと前から、わたしへの当たりが強くなったっていうか、遠慮なくなってない…?」

「…そうかな?」

(あー、これ無自覚だ…でもって多分、こうなったのはわたしが散々情けない姿見せたのと、アルテューヌもアルテューヌで多分情けない一面を見せたからなんだろうなぁ…)

 

 別にそれが嫌って訳じゃない。ネプギアの中でわたしへの理解が更に深まったんだと思えば、それはそれで…って受け止められる。……って事にしよう、うん。というか、無自覚にばっさり斬ってくるのって、割と前からだったし。

 

「ま、まぁうん、それはともかくとして…ネプギアの言う、自分のやるべき事はちゃんと…っていうのは分かるよ?でもさネプギア、それって本当に自分のやるべき仕事だと思う?」

「へ?ど、どういう事…?お仕事って、やるべきだからあるんじゃないの…?」

「確かにね。だけどネプギアはさ、自分で気付いた事を追加でやったり、有事の時にはその場その場の判断で仕事をこなしたりはした事あると思うけど……そうじゃない、普段からやってる仕事については、最初から『自分がやるべきもの』だと思って、それが当たり前だと思って、自分がやるべきなのかどうかは考えた事ないんじゃない?」

「…それは…確かに」

「それってさ、そのままでいいと思う?普通に会社とか教会とかに勤めてる人ならそれも問題ないのかもしれないけど、わたし達は女神だよ?国のリーダーが、自分の仕事について考えないで、ただ『これが自分のやる事』って思ってこなすなんて…そんなの女神として正しくないでしょ?」

「そ、っか…うん、そうだよ。その通りだよお姉ちゃん…!女神なんだから、自分の仕事についてもよく考えなくっちゃ…!」

 

 瞳にやる気の色を浮かべて、ぐっと胸の前で拳を握るネプギア。そうして今度こそ向けられる、憧憬の視線。それにわたしは、ゆっくりと深く頷いて……

 

(計画通り…!)

 

 我ながらここまで上手く乗せられるとは…と内心ちょっと驚きつつも、わたしは某死神のノートを取り戻した瞬間ばりににやりと笑うのだった。…勿論、ネプギアが見てないタイミングでだよ?

 

「ふふん、分かってくれたようで嬉しいよ。という訳で今日は、お姉ちゃんと一緒に自分の仕事が本当に自分のやるべき事なのかどうか、考えてみよー!」

「うん!…あれ?でも、自分がやらなくちゃいけない事じゃない…って仕事があったとして、だからってそれがイコール誰かに任せていいって事にはならないんじゃない?」

「あー…っと、それはほら、何でもかんでもやるより、やるべき事を集中してやる方が効率的でしょ?それにさっきも言った通りわたし達は女神なんだから、『人を動かす』って事も適切にやれないと…ね?」

「それも確かに…凄い、凄いよお姉ちゃん!今日は一体どうしちゃったの!?」

 

 更に羨望の視線を向けられて嬉しいような、しれっとまた言の葉攻撃を受けてダメージを負ったような…そんな微妙な心境になりながら、わたしは腰に手を当て胸を張る。

 ともかくこれで、ネプギアを巻き込む事に成功。後はネプギアの知恵を借りて、必須じゃない仕事とそれへの理由をでっち上げる事が出来れば……あっ、も、勿論ネプギアに語ったのは、本心100%の言葉だダヨー?体良く仕事を減らそうとか、そういう事は考えてないヨー?

 

「こほん。じゃあまずは、何が任せてもいい仕事か考えなくちゃね。ネプギアは自分の仕事の中で、これは…っていうのある?」

「うぅーん…多分ある、と思うけど……」

「…けど?」

「任せてもいいかどうかって、何を基準に判断したらいいのかな…?っていうか、これって『誰に』任せるかも関係してくるよね?」

「誰に、かぁ…言われてみると、それもそうだね。ある程度経験が必要な仕事を、新人さんに任せちゃう訳にはいかないし」

 

 執務室のソファに座り直したわたし達は、うーん…と考えながら顔を突き合わせる。任せちゃっていい仕事なんてすぐに判断出来ると思ったけど、これが意外と難しい。わたしだって何でもかんでも任せちゃえー、だなんて思ってないし、任せた結果大きな失敗に…なんてなったら困っちゃうから、ここは慎重に選ばなきゃいけない。そう思って、わたしもネプギアも暫くの間うんうん唸りながら頭を捻り…その結果、十数分後にはなんと!……早速行き詰まってしまうのだった。

 

「むむ…これはただの通過点だと思ってたのに、思った以上に難所かも……」

「うん、だけどそれも当然かも。だってこれまでになかった視点で、自分の仕事を見直してる訳だし」

「まーそうなんだけどさー。なんかこう、アレだよね。部屋の片付けをする為に必要ないものを選んでいこうとしたら、どれも必要な気がして全然進まないー…って時っぽくなってきちゃってるよねぇ」

「あー、確かに…。…じゃあさ、逆に『これは自分がやるべき仕事』って断言出来るものを挙げてくのはどう?」

「消去法で選ぼうって事?いいね、それならなんかいけそうかも」

 

 分からない時は消去法で、なんて何だかテストみたいな感じ(まあ、学校とか試験のテストなんて受けた事ないけど)。それを思い付く辺り、やっぱりネプギアは賢いし、ネプギアを巻き込んだわたしの目に狂いはなかった…ってね。

 

「だとすると…まず、戦闘系は外せないよね。有事の時は当たり前だけど、平時の時もわたし達のところにまで話が来てる時点で、大概は女神が対応した方が良いレベルの事だしさ」

「だよね。それから式典の挨拶…っていうか、参加も誰かに任せちゃう訳にはいかないんじゃないかな?こういうのって能力云々じゃなくて、わたしやお姉ちゃんそのものが求められてる訳でしょ?」

「そうなると、女神としての視察なんかも外せないし…あっ、メディア系もだよね。わたしの代役なんて、それこそおっきいわたしとか別次元のわたしとかの、裏技的方法じゃなきゃ務まらないし」

「…って事は…人前に出る、誰かと直接接する系の仕事は大体自分でやらなくちゃいけない事になるのかな。考えてみれば、それって当たり前の事だけど」

「ふむふむ、じゃあここで更に逆の発想…通称、チェス盤のひっくり返しを発動!誰かと接する系が外せない仕事なら、逆に個人で行う仕事だったら誰かに任せちゃっても大丈夫な筈!つまり!」

「つ、つまり?」

「…あっ、ごめんちょっと待ってね。結論は今考えてるから…」

「まだ結論思い付いてないのに、つまり…って言ったんだ…ほんと、凄いバイタリティしてるよね……」

 

 両手の人差し指を頭に当てて考える、某とんちが得意なお坊さんスタイルで考えるわたし。休むなら一休みなんて言わず、全休したいよねぇ…と余計な事も考えながら、結論を導き出そうとするわたし。そしてわたしは考えに考え…これだ、という答えへ至る。

 

「えー、っと…向き合う相手が人じゃない仕事…つまり、書類仕事こそが誰かに任せてもいいお仕事なんだよ、うん!…うん……」

「書類仕事かぁ…うん、一理あるかも。……って、お姉ちゃん?」

「…書類仕事って…実際口に出してみて思ったけど、深く考えた割には答えが普通過ぎない…?」

「そ、それはまぁ…はは……」

 

 明らかに答えに困った様子の、ネプギアの乾いた笑い声。…よ、よし。気を取り直そう、わたし!何はともあれ、一歩前進したんだから!

 

「…あ、けど書類仕事って言っても結構幅があるよね?まさか、全部任せちゃうつもり?」

「そうだねぇ、取り敢えず……そこに溜まってる書類を整理して、それこそ必要不要に分けるのは、わたしじゃなくても出来る筈!」

「そ、それは仕事の割り振りじゃなくて、単なる後始末って言うんじゃ…。…後、そういう書類の必要不要こそ、当人じゃないと判別付かないものじゃない?」

「…むぅ、分かったよ…まさかネプギアに、いーすんみたいな事言われるだなんて……」

 

 ネプギアがしっかり者に育ってくれてるのは嬉しいけど、いーすんみたいな事を言われるようになったと思うと、素直には喜べない。…そういえば、ちょっと前にセイツに書類整理をしてもらった事があったっけ…あの時セイツは何なく整理してたけど、整理にもコツってあるのかな?それとも、分からない範囲は最初から手を付けないようにしてて、分かる範囲だけをテキパキやってたとか?……後、セイツの整理って、ちょっと駄洒落っぽいよね。あんま面白くないけど。

 

「でも実際、書類仕事は割り振る対象として有りなのかも。モンスターの討伐とか、行事の挨拶とかと違って、何か間違えてたり失敗したりしても、ある程度なら後からやり直しが効く訳だし」

「でしょでしょ?じゃ、割り振る仕事は書類系って事にして…次はそれを誰にお願いするかだよね。お願いするといえば、やっぱり信頼と実績のいーすん──」

「……?」

「…の仕事を今増やすと、いよいよ本当に神生オデッセフィアに行っちゃいそうな気がするから、いーすん以外で考えるとして……」

 

 原初の女神…オリゼも今はまたいる訳だし、そうなると神生オデッセフィアには妹二人に親までいて、国自体にも自分の生まれ的にかなりの関わりがあるのがいーすんな訳で、正直いつ神生オデッセフィアに移籍しちゃっても不思議じゃないというか、下手するとそっちにいる方がしっくりくるんじゃないかってレベル。勿論実際にはそんな話なんてないし、むしろ「おや?ネプテューヌさんは、わたしに神生オデッセフィアへ行ってほしいんですか?(。-∀-)」…って言いそうな気もするけど、一応…ほんっとうに念の為として、今はいーすんの負担を増やしたり、怒らせたりしないようにしようとわたしは思っている。……今やってる事自体、知られたら怒りそうだけどねっ!だからこそいない内に、しれーっと進めておこうと思ってるんだけどねっ!

 

「んー…頼み易いといえば、こんぱとかあいちゃん?」

「えぇ…?確かに頼み易くはあるかもしれないけど、コンパさんやアイエフさんは流石に門外漢過ぎない…?」

「そっかぁ、となるとやっぱりノワールとか?」

「うん、普通に違う国の人だし、人っていうか女神だね。流石に頼める訳がなさ過ぎる……」

「だったら…そうだネプギア!書類仕事をしてくれるロボットを開発すればいいんだよ!」

「そっか、その手が……って、仕事を減らす為にロボット開発なんて仕事を増やしたら本末転倒だよ…!?」

「え?でもネプギア的には、ロボット開発は苦でもないでしょ?」

「そしてやっぱりわたしが開発する寸法だった…!?いやまあ仕事としてロボット開発が出来るならわたし的には嬉しいけど、なんかこう…やっぱり方向性として色々おかしいんじゃないかな!?」

 

 流石に駄目!とネプギアから猛反対&猛突っ込みを受けて、ロボット開発計画は断念。まあ実際にはノワールの時点で冗談半分だったし、別にいいといえばいいんだけど…そうなると、ほんとにどうしよっかな…。

 

「うぅーん…捻りも面白みもないけど、教会の中で任せられそうな人を探す?」

「なんで仕事の割り振りに捻りとか面白みとかを求めるの…普通にそれでいいと思うよ…?」

「やっぱそうだよね。じゃ、早速探しに行くよ!」

「え、いきなり!?いやあの、既に話し込んじゃってる時点で今更だけど、わたしもまだ仕事が……」

「えー、じゃあ訊くけどさ、ネプギアはわたし一人で行かせるつもり?わたしが一人で次々と教会の部署を回っていったら、何が起こるか分からないの?」

「な、何がって……はっ、まさか…途中から似たような事の繰り返しに飽きてきたお姉ちゃんは、段々と職員の皆さんを驚かせたり困惑させたりするようなボケに走り始める…!?」

「ふっ…その可能性は、無きにしも非ず!」

 

 戦慄するネプギアの前で、わたしは腕を組んで仁王立ち。そして数秒後、ネプギアはがっくりと肩を落とし…そんなネプギアをお供に連れて、わたしは部署巡りの旅に出るのだった。

 

 

 

 

 書類仕事を任せる為の相手探し。その為にわたし達が最初に訪れたのは……財務部。

 

「真面目に仕事してるねぇ」

「当たり前の事だけどね…」

 

 ほんの少しだけ扉を開けて、中の様子を伺う。財務部は…っていうか、殆どの部署はプラネタワーの中で区域毎に分けられていて、ちょっぴり開いた扉の隙間からじゃ全体なんて全然見えない。だけどそれでも雰囲気は伝わってくるし、本当に皆真面目に、真剣に仕事をしてるって事は、一目見るだけでも十分に分かる。

 

「ところでネプギア、ネプギアってお小遣い帳はちゃんと付けてたりする?」

「へ?…えぇっと、入出金管理の表はちゃんと作ってるか…って事?」

「そーそーそーゆー事。あ、お小遣い帳って言うと凄く子供っぽいけど、入出金管理表って言うと途端に賢い感じが出てくるね。今度からわたしもそう言おっと」

「いやまぁ、印象が全然違う事には同感だけど…あれ?これって、『わたしお小遣い制じゃないよ!?ちゃんと女神として働いた分の収入があるよ!?』…って突っ込んだ方が良かった?」

「いや全然」

「そ、そっか…。…そういう管理の表とかデータは作ってないかな…前は作った方が良いかな、良いよね…って思ってたりもしたんだけど、なんだかんだ書かずに今まできちゃったっていうか……」

「へぇ、ネプギアもそういう事ってあるんだね。けどやった方が良いって思うだけでも立派だと思うな。わたしなんて、お金は『ある』か『ない』の二択でしか判断してないし」

「それは流石に不味過ぎると思うよ…!?ちょっ、お姉ちゃん冗談だよね…!?冗談なんだよね……!?」

 

 信じられないものを見たかのような目をするネプギア。まあ、流石に冗談なんだけどねとわたしが返せば、ネプギアは胸を撫で下ろす。もー、今のを間に受けちゃうなんてネプギアはほんと素直だなぁ。……素直なだけだよね…?わたしならあり得るとか、そう思われた訳じゃないよね…?

 

「…こほん。で、なんだけどさ…取り敢えず、財務部に振り分けるのは止めよっか。ほんとすっごい、忙しそうだし」

「財務って、どんな国のどんな時代でも重要な事だもんね。…いや、他の部署を軽んじてる訳じゃないよ?」

「分かってるって。まあそういう事だから、次、いってみよー!」

「…もしかしてお姉ちゃん、次の場所も頼めそうになかったら、その時は駄目だこりゃって言うつもりだったり……」

「ボケの先回りは止めて…!?」

 

 ネタバレそのものであるボケの先回りをあっさりとするという、いとも容易く行われるえげつない行為に、今度はわたしが戦慄。そ、そんな事をしたらもうウケない、ボケる側からすれば地獄になるのが必至の空気が残るだけだって事を、ネプギアは壁芸人から学んでいないの…!?

…というやり取りも経て、わたし達は次の場所へ。法務部とか経済部とか厚労部とか、順々に回っていって…わたしは、ある事に気付く。

 

「…ねぇ、ネプギア。根本的な事、一つ言ってもいい?」

「な、なに?」

「教会って、国の中心じゃん?なら、そこに勤めてる人達って、誰でも忙しくて当然じゃない…?」

「…………」

 

 どこに行っても皆忙しそうで、少なくとも気軽に頼める雰囲気じゃない。多分わたしが言えば引き受けてくれるんだろうけど、わたしは職権濫用がしたい訳じゃないし、そうでなくても気が引ける。そんな思いがあって、わたしは感じたままの事を口にし……結果、ネプギアに呆れられた。何を当たり前の事を…とばかりの顔で、唖然とされた。…なんだろう、今回の件を切り出してから、どんどんわたしの評価が落ちていってる気がする…これ、大丈夫かな?今日が終わる頃には、お姉ちゃんから姉を名乗る不審者扱いにまで落ちぶれてたりしない…?

 

「困ったなぁ…ここは発想を大きく変えて、厨房の人に頼めないか見に行ってみる?」

「いやあの、厨房の人はさっき言ったコンパさんやアイエフさん以上に門外漢だと思うんだけど……」

「だよねぇ…っと、そうだ諜報部。諜報部だって事務方の人はいる訳だし、駄目元で行ってみない?」

「もう駄目元な自覚はあるんだ…」

 

 自分への評価の下落が心配なところだけど、ここで日和るようじゃわたしじゃない。自分を貫いてこそネプテューヌってもの。だからわたしは次なる目的地として、諜報部へ移動。着いてからは、これまでと同じようにひょっこりと覗いて…けれどこれまでと違って、見える人の数はずっと少ない。諜報部自体、これまでの他の部署より所属してる人の数も規模も小さいから、当たり前といえば当たり前だけど…今は結構な人数が出払っちゃってる感じかな…?

 

「困ったね、これじゃあ判断のしようがないよ…」

「全然人がいないって事は、やっぱり諜報部も忙しいって事じゃないの?仕事的に、出ちゃってるのが普通な訳だし」

「確かにそれもそうだけどさ、まだ皆一斉にお手洗いに行ってるって可能性もあるじゃん?」

 

 そんな訳ないよ…という突っ込みを期待して、またまたボケてみるわたし。対するネプギアは、「えぇー……」という、突っ込んでくれるかどうか怪しいような顔をしていて……

 

「…何してるのよ、あんた達」

「ねぷぅ!?」

「いったぁ!?」

 

 突如背後から掛けられた声に、わたしはぎょっとした。こ、これは…この声は……ッ!

 

「まさか、あいちゃん!?」

「そうだけど?っていうか私の事より先に、ネプギアの心配してあげかさいよ」

「ギアちゃん、大丈夫ですか?」

「あぅぅ…顎が、顎に響くような痛みがぁ……」

 

 片手を腰に当てたわたしの友達、あいちゃんの指摘を受けて横を見れば、そこには顎を押さえてしゃがみ込むネプギアの姿。覗き込む時、串に刺さったお団子みたいにわたしとネプギアの頭が連なっていたから、驚いた拍子にわたしはネプギアの顎に頭突きを喰らわせちゃったみたいで…同じくわたしの友達であるこんぱが、ネプギアの顎を診てくれていた。

 

「あちゃー…ごめんね、ネプギア。こんぱ、ネプギアは大丈夫?」

「はいです。何ともなっていないですから、大丈夫ですよ〜」

「災難だったわね。…で、二人は何してたの?」

「んー…諜報部の諜報?諜報員として、わたし達の覗きに気付けるかなっていう抜き打ちチェック?」

「…ギアちゃん、そうなんです?」

「あぁいや、そうじゃなくて……」

 

 半信半疑な様子のこんぱと、明らかに信じてない感じで半眼を向けてくるあいちゃん。酷いなぁ、二人して怪しいと思うだなんて。…まぁ、嘘だし別にいいけどね。

 

「ふぅん、仕事の割り振りねぇ…段々ねぷ子も変わってきたみたいだって最近は見直してたけど、やっぱりねぷ子はねぷ子だった訳ね」

「でも、三日坊主じゃないだけ偉いです!」

「いやこんぱ、それは褒めてるようで全然褒めてないっていうか、むしろ遠回しにdisってる感が……」

 

 あ、三日坊主程度に思われてたんだ…と、こんぱの言葉にちょっぴり凹む。ネプギアもだけど、こんぱも結構無自覚に容赦ない事言ってくるよね…本人は確実にわたしを肯定してくれてる感じだから、ストレートにdisられるよりある意味キツい……。

…と、軽くダメージを負っていたわたしだけど、このまま言われっ放しで終わる訳にはいかない。だからわたしは一拍置いて、それからこほんと咳払い。

 

「舐めてもらっちゃ困るよ、二人共。確かにわたしは、自分の仕事をある程度誰かに任せようとしてる。だけどこれは、自分を顧みたからこそでもあるんだよ?」

「…そうなんです?」

「うん。だってさ、二人共わたしが事務仕事をバリバリやる事を期待してる?自分から言っちゃうけど、そういう事は期待してないでしょ?」

「…それは、まぁ」

「ね?で、女神の一番の使命は何かっていえば、それは勿論信仰してくれる皆の思いに、期待に応える事。だったらあれもこれもやろうもするんじゃなくて、期待されてる事に精一杯になった方がいい…ってわたしは思うんだ。…他の守護女神の皆なら、期待されてる事もそうじゃない事も頑張れるんだろうけど…わたしはまだ、そんな立派な女神でもないしね」

「…ねぷ子……」

「ねぷねぷ……」

 

 驚いたような、でもそれだけじゃなさそうな顔を見せる二人。ちらりと見てみれば、ネプギアも二人と同じような顔をしていて…流石にここからボケる気にもなれないわたしは、軽く肩を竦めてみせる。

 

(…嘘じゃないよ?ただ、それだけじゃない…ってだけで)

 

 今のわたしに、何でもやるだけの力が、能力があるとは思えない。だからこそ大きな失敗をした訳だし、そんなわたしが前に進むなら、一歩一歩、遠くじゃなくて目の前を向いて歩いていくしかない。…そう思っているのは、本当に事実。だけどやっぱりわたしはわたしっていうか、時にはぐでっとしたりのんびりしたりしてこそわたしな訳で…つまり!わたしはよりよりわたしを目指しつつも、今あるわたしらしさを捨てたりはしない為に、自分の仕事の割り振りをしようとしているのです!…あ、これを読んでる皆は今、体の良い言い訳をしてると思ってるね?ネプギアを乗せた時と同じように、それっぽい事言ってるだけでしょって考えてるね?そんなのわたしにはお見通し……え?なら、実際のところはどうなのかって?…それはまあ…内緒って事で。

 

「そういう訳だから、さ…あいちゃん、わたしの仕事をちょっと…いや大分割り振ってもいいかなー?」

「無理よ、単発ならともかく継続的にやれる程私も暇じゃないし」

「いやここは『いいともー!』って返す流れでしょ!?」

「その場のノリで仕事増やされて堪るか…!…はぁ、良い事言ってた気がするんだけど、何か釈然としないのよね…」

「むー…じゃあ、こんぱお願い!わたしの力になって!」

「えっと…うー、ねぷねぷの頼みなら……!」

 

 取り付く島もないあいちゃんとは対照的に、こんぱはやろうとしてくれる。うぅ、やっぱりこんぱは優しいね…!だからついつい甘えたくなっちゃうけど、甘えるだけなんて流石に駄目。今回はこんぱに頼ろうと思うけど、もし今後こんぱが困るような事があれば、その時は真っ先にわたしが……

 

「ねぷねぷ、わたし頑張るです!多分その為に一杯お勉強しなきゃですし、その分ねぷねぷにプリンとか他のお菓子とかを作ってきてあげる時間はなくなっちゃうですけど、お仕事の方がずっと大事──」

「あっ、ごめん今の無しで!こんぱにはこんぱのやるべき事、やりたい事があるでしょ?優先するべきは、そっちだよ!」

「ふぇ?て、撤回するです…?」

「……女神の在り方は信仰によって定められる、だから人の様な普通の成長はしない…とは言うけれど、ほんとねぷ子は変わらないわね…」

「あ、あはははは……」

 

 がしっとこんぱの両肩を掴み、もっと重要な事があるんだよと説得するわたし。あ、危ない危ない…危うく大事なものを失うところだったよ…イリゼのお菓子を食べられる機会も減っちゃったし、これでこんぱまで作ってくれなくなっちゃったら、わたし的に致命的だよ…。

 

「ふぅ…残念だけど、こんぱにもあいちゃんにも頼めそうにないね…」

「あいちゃんは本当に忙しいですからね。…そういえば…前々から思ってたですけど、ちょーほーいんって具体的には何をしてるんです?」

「諜報員は諜報…つまり、情報を得る事を目的にする仕事よ。それも基本的には秘密の情報、隠されている情報を直接潜入したり、情報網から探ってみたりして得るの。一応対象の範囲で言えば、他国もそうだけど…基本的には犯罪組織の残党とか、怪しい企業とかが対象になってるわね。…基本的には」

「き、基本的には…ですか……」

「気持ち的にはもやもやする事でも、やらなくちゃいけなかったり、決断しなきゃいけなかったりする事ってあるでしょ?コンパでいえば、大きい災害があった時とか」

「それは…そうですね。わたしも皆さんも、全員助けようとするですけど、その気持ちを持った上で『誰から助けるか』の順番を決めなきゃいけない時はあるですし…」

「…って訳で、私がもやもやするような仕事をしょっちゅうやらなくても済むように、ねぷ子もネプギアも頑張ってよね?」

「あ、は、はい!…任せて、下さい」

 

 急に振られた事で、ネプギアは狼狽える…けど、あいちゃんの言葉にはっきりと答える。それにわたしも、深く頷く。いきなり始まった話ではあるけど…今の言葉は、ちゃんと受け止めようと思う。わたし達は国のトップなんだから…しっかり受け止めなくっちゃね。

 

「さてと、諜報部も無理っぽいし、次行こっかネプギア」

「だね。コンパさん、アイエフさん、お仕事中に失礼しました」

「気にしないで頂戴。少しだけ用事があってこっち来ただけで、今日は私もコンパも休みだし」

「ねぷねぷとギアちゃんもお休みなら一緒にお出掛けを…と思ってたですけど、また今度の方が良さそうですね。二人共、頑張って下さいですっ」

「そんなー!?ちょっ、二人ばっかりズルい!」

『いやいやいや…』

 

 それからわたし達は二人を見送り(うぅ、そういう事なら一緒に遊びたかったのに…)、後ろ髪を引かれる思いでもう何ヶ所か部署を回る。ぐるーっと回っていって…最終的に、わたしの執務室に戻る。

 

「…………」

「…………」

「…結局どこも、任せられそうにはなかったね……」

「仕方ないよ、皆それぞれ大事な仕事があって、それを頑張ってるんだもん」

 

 無駄足になってしまった、とわたしはがっくり肩を落とす。そんなわたしにネプギアは苦笑していて…でもなんだか、ネプギアの表情は明るい。

 

「…楽しそうだね、ネプギア」

「え?そう?…んー、そうかも」

「何か、面白い事でもあったっけ?」

 

 どうしてだろう、とわたしが首を傾げれば、ネプギアは小さく肩を竦める。それから柔らかい顔をして…ネプギアは、言う。

 

「だって、職員の皆さんが毎日どんな風に頑張ってるのか、知る事が出来たんだもん。勿論これまでも、それぞれの部署でどんな仕事をしているか…っていうのは分かってるつもりだったけど、これまでにない視点で…ううん、自分の仕事を見つめ直すって意識があった上で見た事で、より深く知る事が出来た気がするんだ。これってさ、女神として凄く大事な事だと思うし……ふふっ、お姉ちゃんはこれをわたしに分かってほしくて、わたしを誘ってくれたんでしょ?当たり前の事として、深く考えずにお仕事をしていたわたしに、その意味を考え直させて、更に皆の仕事への見解も深めさせる…そういう事だったんだよね、お姉ちゃんっ」

「そ、それは……そう、その通り…かなー!?いやー、やっぱりネプギアは優秀だね!立派な妹を、女神候補生を持てて、お姉ちゃんは嬉しいよ!」

「えへへ、それもこれもお姉ちゃんのおかげだよ。だからお姉ちゃん、わたし達も頑張ってる皆さんに負けないように、全力でお仕事をしていかないとねっ!」

 

 ぱぁっと咲いたような笑みを浮かべて、ぎゅっと胸の前でガッツポーズを作るネプギア。それからネプギアは、まだ残ってる仕事をやらなくっちゃと軽快にわたしの執務室から出ていく。

 本当に、本当にネプギアは真面目で、前向きで、しっかりした子。頼もしい、心強い妹であり、女神候補生。そんなネプギアがやる気に満ちた顔で出ていくのを見送ったわたしは、ふー…とゆっくり息を吐き……

 

「…日を改めて今度こそ任せられる相手を探し出そう、って言いたかったのに、これじゃあ言える訳ないってぇぇぇぇ……」

 

 眩しい位の前向きさに目論見を打ち砕かれた事で、膝から崩れ落ちるのだった。…とほほ、わたしの仕事はどうやら減らないみたいです……。




今回のパロディ解説

・「〜〜某生徒会のちびっこ会長〜〜」
生徒会の一存シリーズに登場するヒロインの一人、桜野くりむの事。小さい、天真爛漫、周りを振り回すタイプ、でもカリスマ性がある…と、中々似てますよね。でも、恐らく背丈はネプテューヌの方が上です。

・〜〜某死神のノートを取り戻した瞬間ばりに〜〜
DEATH NOTEの主人公、夜神月のあるシーンの事。要は直前でネプテューヌが思っている、計画通り…のやつですね。ネプテューヌがあそこまでの悪い笑みを浮かべてる姿は…中々想像出来ません。

・「〜〜チェス盤のひっくり返し〜〜」
うみねこの鳴く頃ににおける、一部キャラの台詞…というか考え方の事。私は最初、上下ひっくり返して勝負を台無しにする事かと思っていました。同じように誤解していた方は、他にもいると思います。

・〜〜某とんちが得意なお坊さん
一休さんの主人公、一休の事。休むなら一休ならぬ全休をしたい…この気持ち、分かります。とても分かります。…いや、分かるも何も、それを書いたのは私なんですけども。

・「〜〜次、いってみよー!」、「〜〜駄目だこりゃ〜〜」
コメディアンやミュージシャンであった、いかりや長介こと、碇矢長一さんの代名詞的な台詞の一つ(二つ)の事。どちらも結構汎用性のある台詞ですよね。

・〜〜壁芸人〜〜
有吉の壁に出演する芸人の通称の事。別にこの番組に限った話ではないですが、ボケを先回りされて(それを言われて)滑ってしまうといえば、やはり有吉の壁が思い付くかな、と思います。

・〜〜姉を名乗る不審者〜〜
Fateシリーズに登場するキャラの一人、ジャンヌ・ダルクの水着verの事。今回はネプテューヌが言及してますが、ネプテューヌシリーズだと、ベールがこれに該当しそうですね…。

・「〜〜いいとも〜〜〜」
森田一義アワー 笑っていいとも!における、代名詞的な掛け合いの一部の事。もう終わって久しい番組ですが、やはりまだ多くの人に通じるネタだと思っています。…伝わってますよね…?
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