超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
技術は日進月歩。今日の最新が、明日も最新だとは限らない。自分の知るものが、未来でもある確証はないし、逆もまた然り。発展ばかりではなく、新たに生まれ、時に時の流れの中に消えていくのもまた、世の中の常。良い悪いではなく、そういうもの。
女神はそれに、適応していかなければいけない。守護者であると共に先導者である女神は、新たな技術、新たな時代に適応出来なければ、その務めを果たす事も、求心力も保つ事も難しくなる。つまりそれも、努力の一つ。新しいを知り、自分をアップデートしていく事も…自分の道を貫く為には、凄く大切。
「でね、私は思うの。やっぱり皆と感想を共有するなら、アニメが一番だって。小説は勿論、漫画よりもアニメは情報量が多いし、色も動きも音も受け手の想像に頼らないからこそ、受け手毎の食い違いなく感想を共有する事が出来る。それに他の媒体より、同じタイミングで楽しんでいる、って状態になり易いのも大きいしね」
「確かにそれは一理あるわね。だけど、考察という観点においてはどうかしら。分からないからこそ、想像で補う必要があるからこそ、考察には一人一人の幅が生まれる。自分の考察を知ってほしい、皆の考察を聞いてみたいという思いは、ファンコミュニティを発散させる力になる。そして、最も想像の余地があるのは…言うまでもなく、小説よ」
「お二人共、ゲームをお忘れではなくて?攻略サイトの存在からも分かる通り、ただ見るだけ、読むだけではなく、プレイするからこその情報のやり取りや実績のアピールで多くの交流が生まれるのがゲームなのですわ。加えて現代においては、ゲーム配信という形で更にコミュニティを形成している点も大きいのでしてよ?」
ある日の事。私はうちに遊びにきた守護女神の四人と、お菓子を食べつつ駄弁っていた。話題はファンコミュニティが盛り上がり易い媒体は何かというもので…むむむ、と私はベール、ブランの二人と睨み合う。当然皆もアニメを挙げると思っていたけど、まさか二人は別意見だったなんて……。
「まあ、まあね?二人の言う事も分かるよ?だけどさ、媒体としての敷居の低さも忘れちゃいけないと思わない?お金の面も重要でしょ?」
「敷居の低さであれば、ゲームにも基本プレイ無料の物は数多くありますわ。それにお金が掛かっているからこそ熱くなる、同志を探したくなる気持ちの事も忘れてはいけませんわ」
「そういう事なら、小説にも電子書籍や投稿サイトがあるわ。もっと言えば、受け手から作り手となる面での敷居の低さなら、むしろ小説が最も長けてるんじゃないかしら」
『…むむむむ……』
ばちばちと、私達の視線が火花を散らす。二人がまるで引く気なしな以上、私も負ける訳にはいかない。
「イリゼってさー、ほんとに変わったよねー。前のイリゼなら、ここまで真っ向から張り合う事なんてなかったと思うし」
「ま、今のイリゼは守護女神なんだもの。ちゃんと自身の主張を持って、それを簡単には曲げない自分であらんとする事は大事だって思うわ。…その内容が俗っぽ過ぎるのは、置いとくとして……」
「うーん、そんな立派な事かなぁこれって。…因みにノワールはどの媒体が一番だと思う?」
「さぁ?でも、挿絵でも何でもいいから、キャラの外見は何かしら分かる媒体の方がいいわね」
「外見が分からなきゃ、コスプレのしようがないから?」
「そうそうそういう…って、私はコスプレなんて言ってないでしょ!?勝手に決め付けないでくれる!?」
一方ネプテューヌとノワールはこっちのやり取りに関わる事なく、緩めの雰囲気で話している。何か私についてどうこう言っていた気もするけど、今はそれよりも目の前の事。自らの考えを貫く…二人との戦いに勝つ事こそが、今の私にとっては最優先。
「…平行線ですわね」
「平行線ね」
「だったらここは、二人に判断してもらおうよ。それで白黒はっきりさせよう」
「ブランが白で、ノワールが黒なんじゃないかな」
『そういうのいいから』
「ガチトーン!?三人揃ってガチトーン!?」
ぎょっとするネプテューヌの反応はスルーして、私達は頷き合う。持論は合わないけど、ここでの判断は完全に一致。そして早速私達は、二人に対してどれが一番だと思うか訊こうとし……
「い、い、イリゼぇぇ……っ!」
『え?』
リビングの扉が開いたと思うや否や、廊下から今にも泣きそうな…もとい、もう既に泣いているオリゼが現れた。
「ど、どうしたのオリゼ。びっくり箱でも開けちゃった?それとも最初は酸っぱいグミをそうとは知らず食べちゃった?」
「某人気ハードの2の抽選販売に当たったんじゃない?」
「いや、どう見ても嬉し泣きのそれじゃないでしょう…」
「イリゼも流石にオリゼを幼く捉え過ぎではなくて…?」
「え、でもオリゼだよ?割とこういう事で泣くよ?」
『そうなんだ……』
ネプテューヌにはノワールが、私にはベールが突っ込みを入れてくる。けど私が言ったのはボケではなく、本当の事。私の返しで何とも言えない顔になった皆を他所に、私は一先ずオリゼを撫で、食べていたお菓子をあげて落ち着かせる。
「落ち着いた?オリゼ。今日は一体何があったの?」
「うぅ…そ、その…これ……」
ソファに座らせたオリゼに改めて訊けば、オリゼはずっと持っていたタブレット端末を差し出してくる。もしや、壊しちゃった?…と思ったけども、破損しているようには見えないし、起動もちゃんとする。となると、これは……。
「…ひょっとして、何か分からない事があった?」
「は、はい…あ、アプリがどっかに、逃げちゃって…他のも、バラバラになっちゃっ、て……」
「に、逃げた?アプリが逃げる訳ない…と、言いたいところだけど…多分、そういう事ではないんでしょうね」
コートの袖越し…ではなく、そのコートを脱いでいる今は普通に顎に指を当てているブランに、私は頷く。
逃げたといったって、物理的…いや、アプリだから電子的?…に勝手に動いてどっかに行ったという可能性はまあまずない。つまり、逃げたというのは言葉の綾で、実際には誤操作や勘違いでどっかにやってしまったんだと思う。
「逃げた、逃げた…アンインストールしちゃったって事?」
「あ、杏仁…豆腐…?」
「うん、アンインストールね。要は削除しちゃったのかって話」
「さ、削除…?…ふぇ…削除、しちゃったから…なくなっちゃったん、ですか…?」
「おわっ、また泣きそうになってる…!えぇと、ほーらオリゼお菓子だよ〜?お菓子あげるから、泣き止もうねー?」
再び泣きそうになるオリゼだったけど、ネプテューヌがお菓子をあげてキャンセル。流石ネプテューヌ、小さい子への対応力が高い…。……いや、オリゼは小さい子じゃないけど…私の親みたいなものなんだけど…。
…というやり取りを経て、オリゼとの会話再開。逃げたというアプリの名前を聞いて、それを一覧から確認するけど、それはちゃんと残っている。そしてその事を伝えると、オリゼは安堵の表情を浮かべた後、ならどこに?…という問いを返してきて…ふむ、何か答えが分かった気がする。
「んー、と…えーっと……あ、あった。オリゼ、ほらここ。別のアプリと纏めた状態になってただけだよ」
「……!よ、良かった…良かった、です……っ!」
「あー、単に移動させるだけのつもりが、うっかりフォルダに……はアプリあるあるですわね。となると、バラバラというのも……」
「アプリの配置がバラバラになっちゃった、って事かしら?」
分かる、と数度頷いたベールから引き継ぐ形でノワールが問えば、オリゼもそれにこくこくと首肯。ここまで分かれば、後は簡単。私はアプリのフォルダ化を解除し、移動の方法を伝えて端末を返す。オリゼは若干迷いながらも、記憶を頼りにアプリを配置し直して…問題、解決。
「ふぅ…な、直りました…!み、皆さん、ありがとう…ございますっ」
「いいって事よ!ふふん!」
「いや、ネプテューヌは何もしてないでしょうが」
「えー、してるよ?オリゼが泣きそうになった時に何とかしたのはこのわたしだよ?」
「まぁ、それはそうだけども…」
「でしょー?にも関わらず、何もしてない呼ばわりなんて…酷いやノワール!名誉毀損でチョップするよ!」
「何でチョップなのよ、この流れなら訴えなさいよ…いや訴えないでよ!?危なっ、変な返しするところだった…!」
「今日も今日とて、二人は仲良しですわねぇ」
「一緒にいるとほぼ必ず一度は漫才みたいなやり取りするわよね」
いつも通りのやり取りを交わすネプテューヌとノワールの姿に、私達は肩を竦め合う。何かこう、いっそ安心するレベルだよね、こういう二人のやり取りって。
「まぁ、それはそうと…見たところ、大分アプリの配置がぐちゃぐちゃになってしまっていた様子。一体何があったんですの?」
「な、何も…ないです、けど…あ、あれ?って思って、直そうと思ったら…どんどん、変な感じに、なっちゃって……」
「…なんというか、あれね…原因といい陥った状態といい、お婆ちゃん感があるわね……」
「うぐ……ま、まあ原初の女神だからね…一番の長生き…長生き?…さんではあるからね…」
自分と瓜二つの姿をした、自分の親同然の存在をお婆ちゃんと言われる…それに対する何とも言えない気持ちが、私の中で急速に募る。いやまあ、分かるよ?分かるっていうか、お婆ちゃん感あるなとは私も思うけど…なんかこう、なんかこう…ね…。
「…イリゼ、は…そ、そういう事…ないん、ですか…?」
「私?私はない…かな。ほら、私の場合はずっと眠っていた関係で、こういう現代の技術にまっさらな状態で触れてきた訳だし」
「あー、もしかしてあれ?オリゼって調子悪い機械は叩いて直したり、カセットも端子部分をふーふーしたりしてた世代?」
「えっ…い、今はや、やらないんです…か…?…やります、よね……?」
『ジェネレーションギャップ…!』
目を丸くするオリゼの返しに、本当にそういう世代だった…!?…と驚く四人。世代っていうか時代だし、オリゼの場合はそういう時代を作ってきた側なんだけど…流石にこれは突っ込みとしても少し細か過ぎるかな、と思って私は飲み込む。
「ふぇ?うぇ…?で、でも…今のリモコン、とかも…叩くと、調子良くなったり…し、します…よ…?」
「あぁうん、接触不良とか錆の問題とかなら、叩く事で改善されたりもするけど、精密機械に衝撃を与えてる事には変わらないんだから、対処としてはあんまり良くないのよ。端子を吹くのも、息に含まれてる水分が付着する事で、一時的に通電し易くなるのと引き換えに錆の原因になったりするから、やるならクリーナーとか復活剤とかを使うべきね」
「ノワール、何だか説明口調ですわね」
「い、いいじゃない別に。実際説明してるんだから」
「あはは…けどさ、現実的な問題として叩くのもふーふーも機械が使えなくなってるからやる訳で、そこで『後々の故障の原因に〜』って言われても、ならば今すぐ機械全てを直してみせろって話だよね。今困ってる相手に将来の問題を指摘する事自体ナンセンスだし」
「…イリゼがそんな事言うなんて、珍しいわね…こういう発言は、ネプテューヌかベールの方がしそうなものだけど……」
「うーん…あ、分かった!こういう問題ありそうな発言を原作キャラに言わせるのは不味いだろうって判断で、イリゼが言ったんだよきっと!」
「だとしたら凄まじくメタい理由ね……」
ぽんっ、と手を打って予想を口にするネプテューヌに対し、ブランが微妙そうな顔をして返す。実際のところはどうなのかって?んー…それは皆の想像にお任せしようかな。
「ところで今更ですけれど、わたくし達もまだ実はふーふー現役世代なのでは…?わたくし達が云々ではなく、元ネタ的な意味で……」
『いやまあ、それは…うん……』
ベールの呟きにより、今度はネプテューヌ達が何とも言えない顔になる。それに対し私もオリゼもなんと声を掛ければいいか分からず…気付けばリビング内は、何とも妙な沈黙状態。けれど勿論、この沈黙は長くは続かない。こういう雰囲気…というかだんまりな状況そのものが苦手なネプテューヌが、すぐにまた口を開く。
「ねぇねぇオリゼ、オリゼって昔のゲームを知ってるんだよね?」
「む、昔のゲーム…です、か…?え、えと…んと、昔の…昔の、ゲーム……」
「あー…っとオリゼ。別に難しく考えなくてもいいと思うよ?ネプテューヌ…というか現代の人からすれば、オデッセフィアのゲームはどれもこれも昔の作品になる訳だし」
そういう事か、と理解したオリゼはネプテューヌへと頷いて返す。現代の女神であるネプテューヌから見た昔と、今こうして現代にいるけれど、過去の時代の女神であるオリゼから見た昔は違う…当たり前だけど、ここの食い違いには気を付けなきゃだよね。
「だよねっ、じゃあさオリゼ一推しのゲームって何?レトロゲー好きなわたしを唸らせるような、レトロオブレトロって感じな一品はある?」
「れ、れとろおぶれとろ…?…えっ、と……あっ。い、一推し、っていうか…凄く、思い出…に、残ってる作品は…あり、ます。…あ、ち、違いますよ…!?皆さん…の作った作品は、どれも素晴らしくて、魅力的で、本当に努力の結晶って感じで……」
「ちょ、ちょっと待ったオリゼ。その話はまた改めて、イリゼ辺りに聞かせてあげるって事にして、今は貴女の思う特に思い出に残ってる作品の事を教えてくれないかしら?」
「ちょっ、なんで私!?」
話が長くなりそうだ、と気付いた様子のブランは即座に私へぶん投げ軌道修正を図ろうとする。しかもネプテューヌ達三人は、うんうんと頷いてそういう事にしようとしてくる。くっ…なんて嫌な連携…!
「そ、それじゃあ…えと、私の中で凄く、思い出に残ってる…作品、は…オデッセフィア、の…い、いえ…信次元最初の、家庭用…ゲーム、です」
『……!』
また改めてという言葉に応じて、話を戻したオリゼ。そのオリゼの紹介に、ぴくっと全員が肩を震わせる。…当然だ。信次元最初の家庭用ゲーム…それは正に、ゲームの歴史における大きな転換期そのものなんだから。
「それはちょっと、私も気になるわ…」
「わたくしもですわ。流石は原初の女神、家庭用ゲーム史の始まりをその目で見た事があったとは……」
「そ、それでそのゲームって、どんな感じだったの…!?」
なんだか壮大な話になってきた中、ネプテューヌは身を乗り出して問う。レトロゲーム好きなだけあって、その瞳に興奮の色を灯らせる。
そしてそれは、ネプテューヌだけじゃない。興奮という形でこそないものの、ノワール達もはっきりと興味を示している。…勿論、私もそう。信次元最初の家庭用ゲーム機がどういうものだったのかも気になるし…間接的にオデッセフィアの事を知れるって意味でも、凄くこの話は聞いてみたい。
「最初の、ゲームはですね…な、なんと、ボタンがなかったん、です…!す、スティックも、なくて…ぐるぐる回す、パドル二つ…で、操作する…んです…!」
『おお……!』
「し、しかも今のゲームと、違って、ハードとソフト…の、区別がなかったんです…!つまり、そのゲームを買う、だけでゲームが…そ、それも、幾つもゲーム、が出来たんです…!しかもしかもっ、銃の形をしたコントローラーも、あったんです、よ…?」
『おおぉ……!』
「そ、そしてそのゲームの…き、切り替えに使うのが、ゲームカードと…オーバーレイ、です…っ!」
『お…オーバーレイ…!』
「はい…っ!そ、その、オーバーレイを…な、なんとTVに──貼り付けて遊ぶん、ですっ!」
『おおーーっ!……へ?』
盛り上がる。更に盛り上がる。更に更に盛り上がる。そうして盛り上がりに盛り上がって……最後の最後で、あれっ?…となった。は、貼り付ける…?…と、全員揃ってぽかんとなった。
一方オリゼもぽかんとした顔。よく分かっていない私達と、何がよく分からないのよく分かっていないオリゼ…そういう状況となっていた。
「お、オーバーレイを貼り付けるの?え、ネットワークを構築して特殊召喚するんじゃなくて…?」
「……?そ、そうです、よ…?それで、テニスゲーム、とか、ボードゲーム…とか、さ、さっき言った銃型コントローラーを使った、シューティングゲーム…とかを、遊ぶん…です」
「…皆、どういうゲームか想像出来る…?」
全く分からないといった様子のネプテューヌが、私達の方を見てくる。私も皆も、それにふるふると首を横に振って返す。多分、オリゼの説明が下手過ぎる…って訳じゃない。私達の理解力が低過ぎるって訳でもないと思いたい。
伝わっていない事を理解してくれたオリゼは、更にあれこれ説明してくれる…けど、やっぱり分からない。どうにも想像出来ない。という訳で私達は、信次元初の家庭用ゲーム機について検索。遥か昔のものだから、あまり情報はないかもしれない。そういう事も想定した上で、各々調べてみた結果……
「…凄く…レトロです……」
『そ、そう(だ)ね……』
……なんだかまた、微妙な雰囲気になってしまった。調べた事で、一応は分かった。あ、こんな感じか…と理解出来た。…だからこそ、想像以上のレトロさに何とも言えない心境となってしまった。
いや、うん…時代の事を考えれば、超レトロなのは当然なんだよ?むしろ、遥か昔のゲームなのに現代のゲームと似た感じだったら、その方が大して技術の発展がないじゃんってなってたと思うよ?ただ、その、なんていうか…ほんっと当たり前の事ではあるんだけど、オリゼの話してくれたゲームは、私達の想像するデジタルゲームって感じじゃなくて、TVを活用してはいるけど、ゲーム的にはアナログゲームの延長線上にありそうな感じというか…や、実際やってみたら面白いんだろうけどね!新鮮な体験が出来ると思うけどね!それにこのゲームはこれまでなかった、あり得なかった道を切り開いた、家庭用ゲームの始まりを担った存在なんだし、その時点でもう十分過ぎる位に価値ある偉大な存在なんだけどね!
「…ええっと…オリゼはこのゲーム、やった事あるの?」
「ありますよっ、イリゼ。えへへ…あ、あの時は、感動…しましたっ」
『へ、へー…』
ぐっ、と胸の前で両手を握るオリゼの回答に、私も皆も良い返しが思い浮かばない。やっぱりどうしても、現代のゲームを知っている私達としては、拍子抜けしてしまう部分があって……そんな中、オリゼは「あぁ…」と何かに気付いたような声を漏らす。
「…そ、その…もしかして、期待外れ…で、でした、か…?」
『あっ、いや、そんな事は……』
「…………」
『……はい…』
じーっ、と見つめてくるオリゼの視線に耐えかね、私達は頷いて返す。気分は何だか怒られている子供のそれ。ただ、馬鹿にしてる訳でも、軽んじている訳でもない。そこは誤解しないでほしい事を伝えると、オリゼは小さく肩を竦め…苦笑。
「です、よね…わ、分かります。い、今のゲームは…凄い、ですから。こんな小さい、端末…でも、私の時代とは比べものに、ならない位のゲームが、出来るん…ですから」
「…だよね。私もそう思うよ。ゲームも、他の技術も…色んなものが、凄いって」
「そ、そうなんですっ。今の、時代は、色んなものが凄いん…ですっ!それぞれの時代で、それぞれの人が、頑張って、積み重ね…て、それをずっ…と繰り返したからこそ、今の凄さが…あるんですっ。い、今の凄さは、今と、これまでの人々の、努力の結晶だから…凄いんですっ!」
「…えぇ、そうね。誰かじゃなくて、誰もが頑張ってきたからこその、今がある…そう思うと、私は誇らしいわ」
「同感よ。誇らしいし、わたしも…わたし達も未来に向けて、更に良いものに磨き上げていかなくちゃいけないとも思うわ」
目を輝かせ、オリゼは語る。凄い技術の裏には、人の努力と積み重ねがある。人の歩み、進んできた道を示すものだからこそ良いのだと、興奮の面持ちで言う。
それに、ノワールとベールが答える。今を凄いと思うのは、過去の存在だからじゃないと、今という時代も未来への通過点に過ぎないのだと、それぞれの思いを言葉にして返す。その言葉に、オリゼはゆっくり頷いて…また、笑う。今度は柔らかな笑みを見せる。
「でも…ですね。オデッセフィアの、皆さんも…凄いん、です。み、皆ずっと苦しんでいて、やっと安心…して、生きられるようになって…で、でもそれで終わるんじゃなくて、そこからどんどん、色々なものを作り始めて、いって……ゲームも、そうです。楽しむ余裕も、中々なかった人達が、新しい発想で、試行錯誤して…今までなかったものを、作り上げた。それは、凄く、凄く、凄い事で……だから、思い出のゲーム…なんです」
オリゼが本当に、本当に嬉しそうに話す。まるで家族の事の様に、幸せそうに。
それは、ゲームそのものを見ているんじゃない。現代の話も、オデッセフィアの話も…ゲームを通じて、オリゼは人を見ている。人の進む道を、喜んでいる。だから、伝わってくる。オリゼがどれだけ、人を好きなのかが。オリゼは皆々、大好きなんだって事が。
「オリゼ…じゃあさ、神生オデッセフィアの人達の事も、沢山見てね。神生オデッセフィアの皆も、凄いから。どんどん凄くなっていくから」
「ふふっ、知ってます。神生オデッセフィアの、人も…四ヶ国の人も、そうじゃない人も…わ、私は皆の事を、見てます…から」
そうだよね、とオリゼの言葉に軽く肩を竦めて返す。確かにオリゼからすれば、言われるまでもなかったかもしれない。何せ普段から、今の人達を知ろうとしているオリゼなんだから。…っていうか、こういう話は最近もやったんだったね。
何はともあれ、オリゼにとってこのゲームが思い出深い理由はよく分かった。なんだか、聞いているこっちまで嬉しくなるような話で、今は凄く穏やかな気持ちで……
「……あのさ、今『深イイ』って言うのは流石に不味いかな…?」
「普通に不味いと思うから止めておきなさい…」
「わたくしも、新しい発想と試行錯誤、そして今までなかったものを作り上げるというのは全て、オンラインゲームガチ勢におけるプレイヤーの在り方そのものだと思ったのですけど、それについて言うのは止めておいた方がいいのかしら…」
「オリゼならそれはそれで凄いと言いそうだけど、微妙な空気になりそうだから自重した方がいいと思うわ…」
……こんな時でも、ネプテューヌとベールは平常運転だった。ノワールとブランは半眼で突っ込んでいたけど、全く以ってその通りだと思った。い、良い感じの空気感が台無しだよもう…。……今のままの空気感だった場合、それはそれで話が続かなかった気もするけど…。
「…あれ?そういえばオリゼ、オリゼって別に時間を超えてきた訳じゃなくて、ずっと信次元に存在してたんだよね?いつも、見ているぞ…状態だったんだよね?なのに操作方法分かってなかったの?」
「いやそんな、オリゼはラスボス…みたいな強さではあったけど、そういう存在ではないし…。…見守っていたっていうのは比喩的なものであって、直接見ていた訳じゃない…んだよね?」
「うぇ…?あ、は、はい…」
「まあ、仮に文字通り見ていたとしても、近くでしっかり見ていない限り、操作方法なんて正確には分からないのでは?見ているだけなら、説明も当然受けられない訳ですもの」
「あー、それもそっか…よっし!じゃあ良い話のお礼に、操作で困ってる事があれば教えるよ!…ノワールが!」
「なんで私なのよ!?」
「えっ、教えてあげる気ないの?ノワールひっどーい」
「そ、そうは言ってないでしょうが!くっ、卑怯な手を…!」
再び始まったネプテューヌとノワールの漫才に、再び私達は肩を竦める。今度はオリゼも肩を竦めていて…そこでそうだ、とブランが声を上げる。
「オリゼ。丁度良い流れだし前から訊いてみたかったんだけど、貴女のお勧めの本はあるかしら?」
「お、お勧めの本、ですか…?…そ、それって……」
視線を向けるオリゼに対し、ブランは首肯。するとオリゼは目を輝かせ、ぱっとソファから立ち上がる。そしてくるりと踵を返し…リビングから出ていってしまう。
「え?あの…えぇ……?」
どういう事?…とわたしを見てくるブラン。でもこれは、私だって訳が分からない。別に逃げ出した訳じゃないんだろうけど、だからこそむしろ何が何だか分からなくて…数分後、オリゼは戻ってくる。一冊や二冊じゃない、大量の本を抱えて再びリビングに姿を現す。
「よ、よくぞ聞いて、くれました…!あのですね、あのですねっ、一杯です…!い、一杯、あるん、です…!」
「そ、そうなの?それは読書好きとして嬉し「ま、まずはこの人、ですっ。この人は」いや最後まで言わせてくれないかしら…!?…って、うん?この人?」
「この人、ですっ。こ、この人は、私が生まれるよりも、さ、更に前の時代の人、なんですけど……」
鼻息荒く語り出したオリゼに、ブランも私達もぽかんとなる。そんな私達の状態に気付かないまま、オリゼは本の…いや、その本にて書かれている、遥か昔の人について熱く話す。ちらりと本の山を見てみれば、そっちも過去の人物、歴史に残る人絡みの本ばかりで…私達は、気付く。
「ちょ、ちょっと待ったオリゼ。確認だけど、貴女が語りたいのは……」
「…ほぇ?…い、偉人の話…ですよ…?立派な、人達の…は、話です…よ?」
「……わたしは単に、オデッセフィア時代にあった、今はもう情報としても残っていないような普通の小説や、その中で貴女が良いと思った本なんかを聞きたかったんだけど…」
何とも言い辛そうに話すブランの言葉に、嬉々としていたオリゼはぴたりと固まる。それから少しずつ、頬が赤く染まっていって…最終的には、オリゼの顔は真っ赤に染まる。
そう。オリゼが持ってきていたのは、全て過去の偉人について纏めた本。所謂伝記と呼ばれるジャンル。けどブランが望んでいたのは、話したかったのは、今言った通りの内容で…完全に、オリゼは勘違いしていた。ブランの首肯の時点で、二人の認識は大きく食い違っていた。そしてオリゼは早とちりしたまま、伝記本を掻き集めてきてしまっていた。
「あ、あぅ、ぅ…ぅぅうぅぅぅぅ……」
「いや、うん、まぁ…わたしも伝わってると思って具体的な事を言わなかったし、申し訳ない事をしたわね……」
「しかし、伝記本がこうもあるとは驚きですわ…ひょっとして、持ってきてないだけでまだ沢山保管していたりするのかしら……」
「オリゼからすれば、心踊るお勧めの本達なんでしょうね…」
真っ赤な顔で俯くオリゼにブランが謝る中、ベールとノワールが本の山をまじまじと見つめる。因みにベールの予想は正解で、オリゼの部屋にはこういう本が沢山ある。こういう本と、ぬいぐるみが、それはもう沢山置かれている。
「え、ぬいぐるみならイリゼの部屋にも結構あるよね?」
「わざわざ言わなくてもいいから!そんな事で地の文読まないで!?」
「そんな事じゃなくても、地の文は本来読むものじゃないんだけどね…」
「けれど、ゲームにおける看板と地の文は、あったら読んでみたくなるものだと思いますわ。…さて、オリゼ。それではわたくしも訊いてみたい事があるんですけど、宜しくて?」
「え、まだわたし目的の内容聞けてないんだけど…」
佇まいを正すように座り直し、今度はベールが問い掛ける。訊かれてなんだろうかとオリゼが小首を傾げれば、ベールは真面目な顔で問う。
「オデッセフィア時代にも、紅茶はあったのでしょう?その頃の紅茶の味や香りは、どのようなものだったんですの?それと、その頃紅茶に合うとされていたお菓子なんかも、もし分かるようでしたら教えて下さらないかしら」
「あ、そういう事なら私もオデッセフィアの時代の服飾、ファッションなんかを訊きたいわ。…も、勿論女性としての単純な興味と、遥か昔の信次元における文化を知りたいってだけの話よ?他意なんか……ないわよ?」
オンラインゲームと双璧を成す程に拘っている、紅茶に関する話をベールが問えば、乗っかる形でノワールも問う。二人の問いにオリゼは答えようとするけど、私が神生オデッセフィアの全てを知り尽くしている訳ではないのと同じように、流石にオリゼも何でも答えられる訳じゃないのか、答えられずに二人を見てはおろおろとする。助けてあげたいところだけども、私にとっても答えられるような内容じゃない以上、してあげられる事なんて……あ。
「…あのさ。そういう話なら、イストワールさんに訊いてみるのはどうるイストワールさんなら、正確な情報を記録してるだろうし」
記録者であるイストワールさんなら、二人の問いにも、ブランが訊きたかった事(オリゼの気に入ってる本、となると別だけど)にも答えられる筈。そう思い、私はやり取りに割って入って…けれど私の言葉に、ノワール達は頬を掻く。それはそうだけど…って感じの顔をする。
え、ど、どういう事?私、何か変な事言っちゃった?…と困惑する私。普通の事を言ったつもりだったのに…というか、普通の事を言ったつもりだからこそ、余計に訳が分からない。
そんな私の困惑を察したのか、ネプテューヌは小さく肩を竦める。そして私の方を見て…ネプテューヌは、言う。
「ちっちっち、分かってないなぁイリゼは。これはさ、『オリゼ』に訊くから意味があるんだよ」
「あ……」
その瞬間、腑に落ちる。そっか、とすんなり納得がいく。…つまり、これは皆からの、オリゼとのコミュニケーションなんだ。勿論質問の内容は本当に訊きたい事なんだろうけど、同時に質問を通じて、オリゼと話したいんだ。二人も、ブランもネプテューヌも、オリゼと仲を、深めようとしてくれてるんだ。
(皆……)
和解し、志を同じくする仲間になれたとはいえ、それ以前のオリゼは皆を、今の女神を徹底的に否定し、本気で始末しようとしていた。皆は大怪我を負う羽目になったし、女神として散々侮辱もされた。だから、心の中に蟠りがあってもそれはおかしくない事で…けれど皆は、こうして新たに『今』という時代を歩もうとしているオリゼを受け入れてくれて、仲間としてまた手を取り合おうとしてくれていて…それが、嬉しかった。オリゼの家族としても、皆の友達としても、本当に嬉しかった。…確かに、それじゃあ私の発言は、無粋ってものだよね。
「…オリゼ。分かる範囲で、答えてあげて。これもオリゼから、原初の女神からの学びの一つだと思ってさ」
「ふぇぇっ…!?そ、そんな事、言われても……」
「…無理そう?」
「…む、無理じゃ…ない、です…けど……」
原初の女神からの学び、そう言われたら引く訳にはいかない…も思ってくれたのか、オリゼは頭を悩ませる。悩ませ、ちゃんと答えようとしてくれる。そんなオリゼを、皆は柔和な表情で見つめている。やっぱり皆からしても、今のオリゼは(というか多分、過去に女神化出来なくなってた時期も)偉大な信次元最初の女神、って感じではないみたいだけど…いいんだよね、それでも。だとしても、仲間は仲間なんだから。
今日一日で、仲がぐっと深まる…かどうかは分からない。だけど深まれば良いし、それ程でなくても大丈夫。だってこれからも、話す機会、一緒に過ごす機会はあるんだから。私も、オリゼも、皆も…今は『今』という時を、同じように歩んでいるんだから。…さてと。用意していたお菓子はもう少なくなってきちゃったし…ここは一つ、皆が話している間に私が作ってこようかな。
今回のパロディ解説
・「〜〜最初は酸っぱいグミ〜〜」
味覚糖が発売しているお菓子の一つ、シゲキックスシリーズの事。普通のやつなら決して耐えられない程酸っぱい訳ではないですが、そうとは知らずに食べたらびっくりしますよね。
・「某人気ハードの2〜〜」
任天堂が発売する予定のゲームハード、Nintendo Switch 2の事。これも時事ネタの一つですね。これに該当するハードは、ゲイムギョウ界でも中々手に入らないのかもしれません。
・「〜〜ならば今すぐ機械全てを直してみせろ〜〜」
ガンダムシリーズに登場するキャラの一人、シャア・アズナブル(キャスバル・ズム・ダイクン)の名台詞の一つのパロディ。今使えないのに未来の話をされても、論点ズレてるよって感じですよね。
・「〜〜ネットワークを構築して特殊召喚〜〜」
遊☆戯☆王オフィシャルカードゲームにおける要素の一つ、エクシーズ召喚の事。オーバーレイネットワーク…これは実際にあるコンピューター関係の言葉ですが、とにかく響きが格好良いと思います。
・「…凄く…レトロです……」
くそみそテクニックの主人公、道下正樹の代名詞的な台詞の一つのパロディ。○○です…の部分を変えれば色んな場面、色んな展開で使えますよね、この台詞。
・「〜〜深イイ〜〜」
人生が変わる1分間の深イイ話における、判定の一つの事。この深イイ、も結構色んな場面で使えそうですが、その場の空気は言った瞬間ちょっと変になりそうですね。