超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
アルテューヌとの戦いが終わり、俺達に日常が戻ってきた。何ともまあ賑やかで、日常というありふれた言葉で括るには良くも悪くも刺激の強い、うずめやくろめ達との日常が。……って表現するとアレだな。なんか最終話とかエピローグみたいだな…。
と、そんな風に俺は思い…それからふと気付く。俺は元々、この時代の人間じゃない。言ってしまえば、今俺がいるのは、別次元…って程ではなくとも、俺本来の『普通』からはかなり離れた場所。けど…いつの間にかそんな今の時代が、今いる場所が、今の俺にとっての日常になっていたんだな…って。…って、これもなんか締めのシーンみたいだな…まぁ、いいか。
「やっぱさ、結局肉だよな肉。世の中美味いものは色々あるし、そん時食べたいものを食べるのが一番っちゃ一番だけど、肉を選んでおきゃ間違いねぇんだよ」
「力説してるところ悪いが、中身が薄過ぎて全然内容が入ってこないね。しゃぶしゃぶよりも薄いよ」
「あぁ?肉だけにってか?そっちこそ大した事言ってねぇじゃねーか」
「それでも【俺】よりはマシだと思うけどね」
むっとした顔を見せるうずめと、冷ややかに煽りを重ねるくろめ。…うん、なんで早速喧嘩するかな、この二人は……。
「じゃあいいよ、ここは公平にウィードに決めてもらおうぜ?」
「構わないよ。どっちの発言の方が中身があるか、はっきりさせてもらおうじゃないか」
(しかもこっちに飛び火してきた…!?)
あんまりにもきっつい振りをさも普通の事のように言われ、俺はぎょっとする。な、なんちゅう問いをしてくるんだ、この二人は…!しかもこの表情、当たり障りのない事言って誤魔化すのなんて許してくれない気しかしないぞ…!?
「…答えなきゃ駄目?」
『駄目』
「正直に言わなきゃ駄目?」
『絶対駄目』
やはり生半可な答えじゃ納得してくれそうにない二人。なんでよく喧嘩する割には、こんな息が合ってるのかねぇ…!喧嘩する程仲が良い、って言葉もあるけど、多分二人の場合は違うだろこれ…!
…と、心の中で文句を付けたところで状況が変わる訳もなく、だからと言って口にしたら更に面倒な事になるのは必至。だから俺は諦め……意を決する。
「…分かったよ、言うよ。うずめとくろめ、どっちの発言の方が良かったかって言うと…ど……」
「ど?まさかドローって言うんじゃねぇだろうな?」
「ウィード、そういう中途半端な発言が一番良くない──」
「どんぐりの背比べだな」
『かと思ったらばっさり斬ってきた!?』
ショックを受けたように目を見開いた後、うぅ…と二人は軽く落ち込む。全く、身から出た錆だからな?ここで某子供勇者と自称大魔導師みたいに泥試合と言わなかっただけ、まだ温情かけてるんだからな?
「…こほん。まあそれはともかく、内容の話で言えばうずめに同感だ。取り敢えず食事に肉があれば、それだけでちょっと嬉しいし」
「だろ?ははっ、ウィードなら分かってくれると思ってたぜ」
「…けど、それに関しちゃくろめも同感なんじゃないのか?」
「…それは、まぁ」
俺が問えば、くろめは小さくだが首肯を返す。何だよお前、なのにケチ付けたのかよ…という感じで、うずめはくろめを半眼で見る。
実際のところ、同じ『うずめ』から別れたような存在であるうずめとくろめの好みは、基本的に重なっている。だからうずめが好きなものは大概くろめも好きだし、くろめが嫌いなものは大体うずめも嫌いで、だから食事を選ぶ時なんかは二人共同じものを選択する…って事もしばしば。そして同じになった事に対し、面白くなさそうな顔をする事もまたしばしば。
「だけどさうずめ、肉っていったらやっぱり熱々の時に食いたいだろ?だからお土産としちゃ向いてないと思うぞ」
「…言われてみると、確かに…」
「言われるまでもない事だろう、それは……」
若干目を逸らしつつ認めるうずめに、今度はくろめが半眼を向ける。…うん、それは本当にそう。食材としての肉ならまだお土産として分からなくもないけど、うずめの場合まず間違いなく調理済みのものを考えてただろうしな。
「そういう訳だから、お土産は別のやつにしよう、別のやつに」
「…まぁ、そうだな」
お前がそう言うなら…みたいな顔で、うずめは頷く。普通の事言っただけなんだけどなぁって気持ちと、うずめにそう思ってもらえるのは悪くない…って気持ちは半々ってところで、取り敢えず俺は肩を竦める。そして、改めて俺は考える。…海男達の所へ行く上での、お土産は一体何がいいかを。
「ウィード。ずっと思っているんだが、無難に菓子折りじゃ駄目なのかい?」
「いや、菓子折りはもう何度か持ってってるもんでさ。最悪それでもいいんだけど、別のものの方がいいな…って」
「そうか…なら、カタログギフトとかは……」
「それは流石に注文と配達の面で問題があり過ぎる……」
既に俺とうずめは何度も海男達が住んでる場所に会いに行っているが、くろめは今回が初めて。つまりお土産選びもくろめは今回が初めてな訳で…まさかくろめ、仮に注文しても見た目と今住んでる場所の問題で受け取るのが困難な事を失念……してる訳ないか。つまり、ふざけたんだろうな。こっちは真面目に考えるってのに…。
(肉も菓子折りも否定はしたけど、やっぱり食べられるものが一番だよな…んで、当然食べ物系っていっても、調味料とか植物油とかは貰っても困るだろうし…うーん、ハムとか良さそうな気もするけど、うずめの案を否定した手前、肉類も挙げ辛いっていう……)
腕を組み、うむむ…と頭を捻る。今いるのはプラネテューヌにある、とあるショッピングモールの休憩コーナーで、見て回りながら考える事も出来るんだが…多分見て回ると、今度は選択肢が色々生まれ過ぎて、逆に決められなくなりそうなんだよな…。
って訳で、考える事数分。考えようと頭を捻ろうと、一向にこれだ、ってものは浮かばず…そこで不意に、うずめがぽつりと声を漏らした。
「…そういや、零次元でも土産じゃないが、食べられるものを見つけて持って帰る…って事をよくしたよな」
「あー、したな。で、食材何かを見つけた時は、何とか料理しようと俺もうずめも四苦八苦してさ」
「ははっ、調理失敗して食えなくなったら最悪だからって、冒険したり手の込んだものを作ったりなんかを極力避けていった結果、ただ切って火を通しただけ…みたいなパターンばっかりになったよな。ほんと、いりっちやぎあっちが帰ってからは料理出来る事の大きさを改めて痛感したっていうか、どうして『料理』ってもんが発展していったのか、その一端を感じられたような気がしたぜ」
「素材の味を…なんて表現もあるけど、やっぱ基本は素材そのままよりしっかり調理された物の方が美味いし、食べ易かったりもするもんな。マジで料理が十分に発達した時代に生まれて良かった……って、あ…すまん、くろめ。自分に分からない話をされても、くろめは退屈なだけだよな…」
現代は勿論、俺が本来生きていた時代も、料理や調理されたものがありふれていた。当たり前過ぎて意識した事もなかったが、それはありがたい事だったんだな、と俺は零次元での事を思い出し…そして、気付く。くろめが、じっと俺達を見ていた事に。
しまった、これじゃくろめが完全に蚊帳の外じゃないか。そう反省し、この話を打ち切ろうとした俺。けど、くろめは首を横に振る。
「…料理で、いいんじゃないか?」
『料理?』
「お土産だよ。海男達は身体が身体だから、今も料理には縁遠いだろう?だから料理…それも買ったものじゃなく、手作りのものをその場で作るか、作って持っていくかするのはどうだろうかと思ったんだよ。…まぁ、オレも料理は大して出来ないが…しっかりレシピを用意して、料理出来る人にアドバイスも貰えば、それなりのものは出来るんじゃないかな?」
不満を持っているかと思いきや、くろめが口にしたのはお土産の案。それを聞いた俺とうずめは顔を見合わせ…それだ!と即答。よし、そう決まれば……あ、待った。
「料理って言っても色々…ほんと色々あるよな?作るってのは賛成だし、出来れば向こうで作って食べてもらいたいけど…具体的には、何にするよ?」
「何って…こういう時に作る定番って言えば、アレだよな?」
「あぁ。気が合うのは少し癪だけど、アレしかないね。アレだったら、オレ達もちゃんと手順通りにやれば作れるだろうし」
「アレ…?え、どれ……?」
「よーし、決まったし食材買いに行くぞ」
「そういえば、自分で作るのはいつぶりだったかな…」
「ちょっ、だからアレって何!?なんで教えてくれないの!?」
さっさと歩いていってしまう二人を、慌てて追い掛ける俺。どうして二人隠すのか。まぁ多分わざとなんだろうけど、隠したところで大して面白くもならない筈。それに何より、もにょっとする。二人だけ分かってて、俺は追い掛けるしかないってのは凄くもにょっとするものがあって……けれどそれは、二人が選ぶ食材を見ていく中で、段々と消えていく。もしや、あれか…?というものが浮かんできて…その料理の核、答えをそのまま示すような商品のコーナーに来たところで、俺は確信した。あー…アレって、コレね。
*
お土産の買い物に行った翌日、海男達の所へ行く当日。俺達は準備を整え、忘れ物がないか確認し、出発。プラネテューヌから、神生オデッセフィアへと移り…とある森林地域へと入る。
「そういや、さっき連絡した時に、ついでにいりっち達も誘えば良かったかもな。まぁ、いりっちは仕事中だったっぽいし、誘われても…って話かもしれないけどよ」
「あぁ…けど、ここは神生オデッセフィアだし、イリゼもセイツ達と時々来てるみたいだから、別にいいんじゃないか?もし引っ掛かるなら、次の時に誘えばいいしさ」
「しかし、助かるものだね。自然の整備と保全を海男達が担っているとはいえ、土地を丸ごと提供してくれてるようなものなんだから」
道なき道、自然そのままの地面を歩きながら、記憶を頼りに進んでいく。場所によって傾斜や段差があったり、木の根で躓きそうになったり、かといって下ばかりに意識を向けていると背の低い木の枝に頭から突っ込む羽目になったりと、中々に進み辛い道だが、今となっては慣れたもの。ほんと、零次元で鍛えられたものである。…あんまり身体能力そのものは上がってないけど。
「…因みに、方向は合っているのかい?どんどん森が深くなっている気がするんだが、まさか迷子になんて事は……」
「なってないから安心しろ、くろめ。確かにどんどん住み辛そうな環境になってはいるが、ここを抜ければ……」
わざわざ言わなくても、どうせすぐに分かる事。そう思って俺は、結論部分を言わずに段差を飛び越え(あ、もしや昨日二人が言ってくれなかったのも、似たようなものか…?)、更に進む。そして数分後、それまでは鬱蒼としていた草木がふっと開け…目的地に、到着する。
「ここは……」
「──やあ、よく来たね。待っていたよ、三人共」
ここまでとは一転しての、見晴らしの良い開けた場所。そこに出たところで、くろめはぐるりと周囲を見回し…次の瞬間、渋い声が聞こえてくる。その声と共に、一見すれば…いや、どこからどう見ても真顔の人面魚にしか見えない存在が、設置されていたテントの一つから姿を現す。
「よっ、海男」
「今回は前に連絡した通り、くろめも連れてきたぞ」
「そのようだね。ふふ、神生オデッセフィアの自然保護区兼、オレ達の住処へようこそ、くろめ」
軽く手を振った俺達に、ふよふよ浮いて移動する人面魚…海男は胸鰭…だと思うヒレを振って返す。それからくろめの方を向き直り、これまた良い声でくろめへと言う。
そう。ここは、生活圏外から少しだけ離れた神生オデッセフィアの自然保護区。自然保護の為、一般の人の立ち入りは禁止という事になっていて、だからモンスターである海男達も人目を気にせず生活出来る。
「あ、ああ。歓迎感謝するよ…で、いいのかな…?」
「歓迎と言っても、今いるのはオレ一人だけどね。さて、それじゃあ皆を呼んでこようか。それとも先に、お茶でも出そうか?」
「俺達は仲間であって客じゃねぇんだから、お茶の用意なんていいって。だからそれより、皆を呼んできてくれ」
「うずめがそう言うなら、そうするとしようか。少し待っていてくれるかな?」
相変わらず真面目だなぁ、とうずめが肩を竦める中、海男は宙を泳ぐようにして皆を呼びに行く。…今更だけど、海男はどうやって浮いてるんだろうな…海って付くし、どこぞの海竜種みたいに風を捉えて浮遊してるんだろうか。…って、そんな訳ないか……。
「お茶か…あの見た目で急須を使っていたり、電気ポットから湯を出していたりする姿を想像すると、何とも言えない気持ちになるね…」
「何とも言えないってか、シュールギャグだな…。…ってか…やっぱまだ、緊張するのか?」
俺からの問いに、くろめは小さく首肯する。零次元で起こったあれこれにおいて、言うまでもなく海男達は純粋な被害者であり、くろめは加害者。勿論くろめはその事を謝罪したし、海男達もそれについてどうこう言ったり、賠償を要求したりする事はなかったが…だとしても負い目や罪悪感、それによる緊張を抱いたりするの当然の事。
「…【オレ】。緊張するのは分かるし、すんなとも言わねーけどよ、元々次はくろめも…って誘ってくれたのは海男なんだ。だから……」
「分かってる。海男の気を悪くさせたり、変に気遣いさせたりする事のないよう、気を付けるつもりだよ」
「…なら、いいけどよ」
折角会いに来たんだから、もっと明るく…と言いたいところだが、そんな雰囲気じゃない。だから一先ず俺は口を挟まないようにし…数秒後、海男が皆を連れて戻ってくる。
「うずめ、ウィード、よく来たぬら。二人共元気だったぬら?」
「おー、ぬらりん。見ての通り、俺達も皆も元気だぜ?」
「ぼく達も元気だったのです。今日はゆっくりしていけるです?」
「そうしていくつもりだよ、エビフライ」
「エビフライじゃないのですー!」
眉毛が濃くてキリッとしたスライヌ、若旦那ことぬらりんの問いにはうずめが、遠目に見るとエビフライに似ている、でもよく見るとそうでもない気がするひよこ虫の問いには、愛称(?)と共に俺が答える。他の面々も、海男を追う形でぞろぞろ来ていて、あっという間に俺達は歓迎の輪に囲まれる。
なんというか、それだけでも嬉しい。歓迎されるのも、零次元で苦楽を…まぁ、苦と楽の比重は結構偏ってたが…共にしてきた皆が今も元気にしてるってのも、どっちも自然に嬉しいと思える。そしてうずめも同じように思っているみたいで、うずめが浮かべる表情は朗らか。
「ほぇー…やっぱりうずめさんとそっくりぬらー…」
「でも、くろめさんの方がクールで格好良い気がするぬら」
「えー?うずめさんの方が爽やかで格好良いぬらよー?」
「…だってよ?くろめ」
「か、格好良いか…うん、中々分かっているみたいだね」
「おっと待てよ、俺にも票が入ってるぜ?てか、お前は思考が後ろ向きなだけで絶対クールじゃねぇだろ」
「む…なら【俺】だって、爽やかじゃないだろ。どう考えても暑苦しいタイプだろ」
「…………」
「…………」
満更でもなさそうな表情をくろめがしていたのも束の間、二人は一触即発の雰囲気に。うん、気を悪くさせたり気遣いさせたりする事のないように…って言ったばっかりだよなぁ!?うずめも釘を刺してたよなぁ!?なのになんで、数分も経たない内に喧嘩直前の状態になるかなぁ!?
「あー…っと、海男、皆!今回はちょっと趣向を凝らして…って程じゃないが、いつもとは違うお土産を持ってきたんだ!だよな?うずめ、ぬろめ」
『…そりゃ、まあ』
「ほほぅ、それは気になるね。一体何を持ってきてくれたのかな?」
「それは…これだ!」
こっちの意図を察して乗ってくれた海男に内心で感謝しつつ、俺は食材と共に持ってきた道具の一つ、大鍋を取り出す。そして、興味津々で見てくる皆に向けて、言う。
「自然の中で食べる、こういう場所で皆で食べるものって言ったら…やっぱりアレが、食べたくなるよな?」
その一言、それに皆に見せた大鍋によって、全員が俺達の用意したお土産が何なのか、一体何を作るのかを理解する。理解し、おぉー!と歓声が上がる。
「って訳で、早速作っていこうぜ?何せ俺達全員、手際良く作れる自信なんてないんだからさ」
「…………」
「…………」
『…おう』
顔を見合わせ、こくりと頷くうずめとくろめ。二人共、今いがみ合うのは違うと思ってくれたみたいで、それぞれに準備に取り掛かる。…まあ、今に限らず俺としてはいがみ合わないでほしい訳だが…今はこれで良い。今は、海男達に喜んでもらうのが大事。
「料理か…完成品を持ってきてもらう事はそれなりにあるけど、出来立てほやほやを食べる事は最近なかったから楽しみだよ。オレ達も何か、手伝える事はあるかい?」
「おいおい、これはお土産なんだぜ?そんな事気にせず、待っててくれよ」
「【俺】の言う通りだ。ここはオレ達に、全部任せてほしい」
「そういう事なら、楽しみに待たせてもらうとしよう。…因みにこれは、くろめの提案かな?」
「…分かるのかい?」
「ふふ、別に悪く言う訳じゃないが、うずめやうぃどっちはこういう洒落た案を思い付くタイプじゃないからね」
「い、言ってくれるな海男…実際その通りなんだけどよ……」
キャンプ用のテーブルを設置し、まな板を置き、食材を切っていく。その最中に茶目っ気を利かせながら海男が言い、うずめが軽く肩を落とす。…俺?俺は別にいいんだよ。事実を言われただけだし。
「っと、二人共切る時は手に気を付けてくれよ?」
「あー、切る時は猫の手も借りたい、だっけ?」
「借りてどうするんだようずめ、そこまで忙しくないだろ…」
作ってもらったレシピ(各工程で初心者が気を付けるべきポイントのメモ書き付き)を見つつ、俺は二人に注意喚起。猫の手なんて基礎中の基礎、俺だって知ってるレベルだが…固さや形状の関係で切り辛い食材だと、無意識の内についつい猫の手を忘れてしまう。だからあくまで意識してもらう為の呼び掛けとして、俺は丸めた手を見せつつ作業に戻……
「…………」
「…ウィード?手が止まっているけど、どうかしたのかい?」
「…ふー…うずめ、くろめ。いきなりだし、なんでこんなところでって思うかもしれないが…二人に、頼みがあるんだ」
包丁を置き、二人の方へ向き直る俺。佇まいを正した俺に対し、何事かと二人も俺の方を向く。恐らくは真剣な顔をしている俺を見て、手を止め俺を見つめてくる。そしてそんな二人へ向けて…俺は、言った。
「二人共──両手で猫の手を作って、にゃ〜…ってやってくれないか?」
「…よし、料理再開するぞー」
「ああ、そうしようか」
「ちょっ、そこはせめて『んなっ!?』とか反応してくれよ!そんな、一瞬で冷めた目にならないでくれよ…!」
取り付く島が微塵もなさそうな二人の反応に、俺は一人大ダメージ。海男は苦笑をし、若旦那達もまだ完成までは時間が掛かりそうだって事で、各々一旦解散していく。…分かってた…分かってたさ、即拒否される事は…。けど、見たかったんだよ…見てみたかったんだよ、俺は……。
「全く…手際良く作れる自信なんてない、と言ったのはどこの誰だったかな」
「はい…俺です、俺が言いました……」
「料理中に一番やっちゃいけねぇのは、ふざける事だと思うんだけどなー?」
「ご尤もです…ただでもほんと、思っちゃったっていうか…絶対可愛いから、見てみたかったんだよ…すまん……」
『…う……』
二人の指摘は、本当にその通り。やってくれるかどうかは別としても、今言うべきじゃなかった。別の機会にするべきだった。だから俺は反省し、料理に集中しようとする。そう、さっき思ったばっかりじゃないか。大事なのは、海男達に喜んでもらう事──
『…うぃ、ウィード』
「うん?どうし──」
『…にゃ…にゃーん……』
…………。
……………。
………………。
「感…無量……っ!!」
高さをずらした状態で両手を丸め、軽く前に倒し、恥ずかしそうに頬を染めながら、猫の鳴き真似をする二人。うずめと、くろめ。…最高だった。最高だった。最っ高だった。いやもう、ほんと…良い!マジ良い!超可愛ぇぇぇぇええええええええっ!!
「ほ、ほら!やってやったんだからさっさと続き作るぞウィードっ!」
「ま、待ってくれ!後五分…いや四分五十八秒でいいからこの感動に浸らせてくれっ!」
「殆ど譲歩していないじゃないか…!いいから再開しろ、再開して今見たものは忘れろ馬鹿…!」
「…くろめのその、動揺すると昔の口調に近くなるところ…凄く、良いと思う」
「殴るぞ…!」
今なら殴られてもいい、何なら自分の中で勝手に猫パンチであると認識して更に感動出来る気すらする。…が、そんな事を言ったら殴られるどころかランニングラリアットからの卍固めをされる事だろう。何ならうずめと連携してクロスボンバーとかしてくるかもしれない。
「…まあうん、すまん。こっからは真面目にやる」
「おっと、ならもうそちらを見てもいいかな?」
「海男もすまん、気遣いありがとう…」
わざわざ後ろを向いていてくれた海男に感謝し、料理に戻る。野菜を切り、肉を切り、ある程度やったところで残りは二人に任せて俺は米を炊く準備に入る。
「どっこいせ、っと」
「これはまた、大量だね。しかも既に水に浸してあるとは…」
「やっぱり外でやる以上、省略出来るところはしないとな。…まあ、それで言うと食材を切るのも、出発前にやっておいた方がって話だが……」
「それはこっちでやってこそだろう、と二人共言ったんだろう?」
「…ほんと、よく分かってるな海男は」
「分かるさ。うずめの事も、くろめの事も…オレは、よく知っているからね」
「……そっ、か」
最初に出したのとは別の大鍋を設置し、火にかける。火の状態を確認し、携帯端末でタイマーをセット。…炊飯器って、便利だよな。電気が必要だし、一度に大量に作るのには向いてないけど、ボタン押せば後は完成まで全部やってくれるんだからさ。
「…なあ、海男。やっぱさ、こういうところで生活するのは不便じゃないか?勿論、色んな意味で安心して暮らせるのはここかもしれないけど…ここじゃ電気だって、生活圏内に比べれば十分には使えない訳だしさ」
「まあ、それは確かにね。だけど零次元に比べれば普通に暮らせるだけでも十分良いし、発電機やろ過装置を用意してくれたおかげで街中程ではないにせよ、ここで生活する上でのインフラは最低限あるし、食事に関してもこうして君達が持ってきてくれたり、いりっち達が『自然保護区域管理の正当な報酬』として色々提供してくれるから、実はそんなに苦労していないんだ。それに、何より……」
「何より?」
「…やっぱり、オレも皆もこういう身体だからだろうね。自然の中で生活する事を、全然苦だとは思わないんだよ」
不思議なものだね、と海男は肩を竦める。…前言撤回。肩はないから、竦めるっぽい動きをする。
その言葉や表情に、気を遣わせまいとする意思は感じられない。…いや、ずっと真顔なんだけど。なんだろう、喋るモンスターは真顔だったり無表情だったりするのがトレンドなんだろうか…そんな訳ないけど。若旦那とか、喋れて表情も豊かなモンスターも普通にいるけども。
「お、何の話してるんだ?」
「いや何、ここでの生活は意外と悪くないって話をね。うずめ達こそ、現代…君達視点での『未来』の生活には慣れたかい?」
「まぁな。つっても、俺の場合は記憶がねぇから未来って言われてもって話だが…あーいや、零次元も技術レベル的には今の信次元と比べて過去…なのか?」
「オレはまあ…今に至るまでに、幾つかの次元を見てきたからね。今の時代というものに、そう抵抗感はなかったかな」
食材を全て切り、炒める段階に入ろうとしていた二人も俺達の会話に入ってくる。因みに俺はというと、最初は色々と驚いたが、今は慣れたし馴染んでいるつもり。何せ俺はまだまだ若いからな、うん。
「そうか、記憶か…すまない、うずめに対しては不適切な質問だったね」
「構わねぇよ。それこそもう記憶がない事にも慣れちまったし、慣れちまえば気にもならなくなるしな。記憶がないのに全然そう感じさせないねぷっちの気持ちが、今はよく分かるってもんだよ」
「…こういうところが、うずめの強さだね」
「違うぞ海男。こういうところ『も』、うずめの強さなんだ」
「ふっ、確かにそうだね。うん、その通りだ」
「ちょっ…そ、そういうやり取りは本人に聞こえないようにやるものだろ…!?恥ずいから、聞こえるところでやられると凄く恥ずいからな…!?」
(わざとなんだよなぁ…)
真面目だし気遣いも出来るし、その上でノリも良い海男と今度はこっそり笑い合いつつ、料理を進める。まずは肉、次は野菜と火が通り辛い順に炒め、水を加える。この火が通り辛い順に…っていうのも、教えてもらってなかったら見落としてたんだろうなぁ俺達…。
「いつも思うんだがこの段階だとただの野菜スープとかポトフに見えるよな。ソーセージじゃなくて肉入ってるけど」
『あー、分かる。……げっ』
「いやいいだろ、今ので声が揃ったって…なんでそれだけの事で、同時に『げっ』って言うんだよ……」
「だって、なぁ?」
「ああ、気に食わないんだから仕方ないんだよウィード」
声は完全にハモるしある意味気持ちも通じ合っているのに、なんでこうも気が合わないのか。流石にシェアリングフィールドの展開とか、戦闘が絡めば私情よりその場で必要な事を優先してくれるんだが、逆に言えばそういうレベルでもない限り、仲良くする気はないという…。…まあ、同じ自分だからこそって感じなのは前にも聞いたし、なんだかんだ言い争う事はあっても手を出したりはしない辺り、二人なりに自重はしてくれてるんだろうけども。
と、そんな事も思いながら、アクを取りつつ煮込む事十数分。しっかり煮込めたところで、この料理の核となるものを入れる。それを入れ、溶けるように混ぜる事で、一気に完成へと近付いていく。
「うん、いいね。この匂いがしてくるだけで、食欲を駆り立てられるよ」
「だろ?おーい皆ー、もう少しで完成するぞー」
ふふんと胸を張ったうずめに呼ばれ、皆がぴょこぴょこやってくる。二つの鍋の中身がそれぞれ完成するまでに、皿やカトラリーの準備も整える。そして……
「ふぅ。これにて……カレーの完成だ!」
『おぉー!』
じゃん!と炊いた米…それに大鍋で作ったカレーを皿によそい、皆に向けて見せる俺。続けてうずめやくろめと共に、全員分をよそっていく。
「やっぱりこういうところで食べるって言ったら、カレーだよな」
「別にキャンプをしている訳ではない…が、確かにそうだね。因みに味付けは……」
「甘口にしたよ。折角のカレーなんだ、辛くて美味しく食べられない…となる子がいたら、オレ達も残念だからね。…っと、そうだ。並んでもらったけど、君達はお皿は……」
「大丈夫ぬら。頭の上に置いてほしいぬら〜」
「そ、そうなのかい?なら……」
若干困惑しつつ、言われた通り若旦那の頭の上にカレーの皿を乗せるくろめ。すると若旦那は頭上で皿を安定させ、そのままぴょこぴょこ持っていく。他のスライヌ達も、同じように慣れた様子で自分の分のカレーを運ぶ。
「…す、凄いな…君達なら、戦車や海賊船も動かせそうな気がしてきたよ……」
「おっと、それが出来るのが若旦那達だけだと思うなよ【オレ】。エビフライ達だって出来るんだぞ?」
「何度も言うですけど、エビフライじゃないのですー!でも、その通りなのです!」
「あ、因みにこっちは出来合いのものだが、トンカツとか唐揚げもあるぞ?勿論、エビフライもな!」
「それじゃ共食い…って、だからエビフライじゃないのですよーっ!」
ぷんすか怒るエビフライに、笑ってしまう俺とうずめ。ちらりと見てみれば、くろめも肩を竦めながら笑っていて…当のエビフライも、俺達が笑う事自体は嫌じゃないのか、全くもう…と言いつつもその怒りを収めてくれる。…エビフライには、カレーのトッピングをおまけしてあげよう。
「…あ、共食いっていえば、海男は魚食べるのに抵抗あったよな。今もなのか?」
「ふふふ、そういう事もあったね。今思うと、懐かしいやり取りだよ」
「その反応…ひょっとして海男、今は……」
「まだ抵抗感があるよ?」
「いやあるのかい!」
今度は突然始まったうずめと海男の漫才?…に、俺やくろめ、それに若旦那達も揃って笑う。そんなやり取りもしながら、俺達の分含め全員よそい終わり、飲み物も用意。そして後は、食べるだけ。
「さ、それじゃあ皆食べてくれ。あんまり沢山じゃないが、おかわりもあるぞ」
「ウィード…カレーでそれを言うと、毒ガス訓練感が……」
「た、食べる前にそんな事言うなようずめ!やらないからな!?」
「はは…なら、折角作ってもらったんだ。ここは三人の内の誰かに、食事の挨拶を言ってもらうのはどうかな?」
「お、いいなそれ。ならうずめかくろめに……」
「よし、任せたウィード」
「頼むよ、ウィード」
「だからなんで妙なところで意見が即合うんだよ二人は!」
さも当然のように俺に振ってくる二人に反論する…が、二人は聞く耳持たず。それどころか皆に同意を求めて、あっという間に俺がやる雰囲気になっていってしまう。くっ、やられた…油断するとすぐこれだ…!
「…まぁ別に、いいんだけどさ…んじゃあ、こほん」
『…………』
「た、大した事しないんだからそんな見つめないでくれ…。…えー…頂きます」
『頂きまーす』
皆で声を合わせ、食事の挨拶。スプーンを手に取り、炊いた白米とカレーを掬い…口に入れる。…こ、これは……。
「……まあ、普通だな」
「だな」
「オレ達が作ったんだから、可もなく不可もなしなだけで上出来だけどね」
決して不味い訳じゃない。どちらかと言えば、美味い。けどこれは調理人の腕っていうより、単に『カレー』という料理そのものの美味しさって感じで…けどくろめの言う通り、俺達が作ったんだからこんなもんだよな、と三人で顔を合わせて肩を竦める。
ただ、大事なのは俺達がどう思うかじゃない。俺達より、海男達がどう思うか。そして、海男達の反応はといえば……
「そんな事ないよ、三人共。これは美味しい、間違いなく美味しいカレーだ」
「その通りぬら。久し振りに食べた事もあって、とっても美味しく感じるぬら〜」
「それに、外で食べるカレーってだけで、何だか楽しい気持ちになるのですー!」
わいわいと、賑やかにカレーを食べる皆。俺達にとっては普通でも、皆にとっては満足みたいで…ならば成功、大成功。それに皆に美味しいって言われると、さっきよりも上手く感じる、そんな気がする。
「こうやって喜んでもらえるなら、次も何か作りたくなるよな」
「だよな。次はもうちょっとだけ凝ったものも作ってみるか?」
「や、まだ凝ったものを作るのは早い…っと、どうかしたか?まだおかわり…じゃないよな?」
食べ進めつつうずめと話す中、ふとあるスライヌに見られている事に気付いた俺。その子は期せずしてうずめ達の全裸を見てしまった時、その直前の襲撃で間一髪助けに入るのが間に合ったスライヌで…そう、野生のスライヌの個体毎の見分けは付かなくても、こうして仲間として暮らしてきた皆の事なら見分けが付くのだ。…だからなんだって話だが。…ともかくその子の視線に気付いた俺が問うと、スライヌはとにかく純粋そうな目をして言う。
「ウィードさん、うずめさんにあーん、しないの?」
『ぶっ……!』
「おっと、ならオレからも訊いてみよう。くろめにもしないのかい?」
『ぶふ……っ!』
まさか過ぎる問いに、俺もうずめも揃って咽せる。しかもそこで海男が乗ってきて、今度はくろめが、俺なんか二連続で咽せてしまった。
「し、しないのかって…そりゃ、俺的にはしてもいいんだけど……」
『ちょっ……!』
恥ずかしさはあるものの、別に全然嫌な事ではないし…と答える俺。そうやって俺が答えた事で盛り上がり、うずめとくろめが目を見開く中一気に拒否し辛い空気が形成されていく。…さっきのお返しって意図も…なくは、ない。後、やりたい。ふつうにあーん、やりたい。
空気感を前にうずめとくろめが食い下がれなくなる中で、俺はしれっと二人それぞれのスプーンを手に取り、一口乗せる。ゆっくりと、二人の顔へ、口へと近付けていく。ある程度近付けたところで、合図のようにあーんと言う。そして、どんどん顔が赤くなっていった二人はいよいよ観念したのか、ぴくりと唇を震わせ、しんと静まり返った皆の注目を浴びながら俺は二人にあーんを……
『…って、こんな見られてる状況で出来るかぁああああぁぁぁぁっ!!』
……する事が、出来ませんでした。思いっきり二人に逃げられてしまうのでした。ですよねー。
今回のパロディ解説
・某子供勇者と自称大魔導師
ぼくのゆうしゃの主人公及び登場するキャラの一人、ミカミトオルとファルディオ・メルクリウスの事。ドローではなく泥試合、このネタが中々印象に残っている私です。
・どこぞの海竜種
モンスターハンターワイルズに登場するモンスターの一体、ヒラバミの事。浮いている事に対し、原作シリーズで誰も気にしていないのは、一部の浮遊モンスター同様そういうものと認識してるから…ですかね。
・「〜〜戦車や海賊船も〜〜」
ドラクエシリーズの一つ、スラもりシリーズの要素の一つ(二つ)の事。要は2と3のメイン要素の話です。でも若旦那達は戦闘能力がないと思われるので、砲戦は出来ても侵入や迎撃は厳しそうですね。
・「〜〜毒ガス訓練感が……」
狂四郎2030における、代名詞的なシーンの一つの事。さぁ今から食べるぞ、という時にこれを言うのは、流石にタイミングが悪過ぎると言わざるを得ません。