超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

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第八話 回顧

 お土産として計画、準備をしたその場でのカレー作りは、成功した。カレーの味、出来そのものは凡庸だったと思うが、皆は喜んでくれた。…それが、一番大事。……いや別に、歌ってないですよ?歌のフレーズをぶっ込んだ訳ではないですよ?

 けれど勿論、お土産のカレーを振る舞ってはいさよなら、なんて事はない。何せまだ、お土産を渡しただけなんだから。

 

「いやぁ、食べたなぁ」

「カレーってついつい沢山食べちまうよな」

「全く、オレ達は振る舞う側だというのに……ついオレもおかわりしてしまった…」

 

 呆れた発言…と思いきや、自責の念に駆られているだけだったくろめに、俺は苦笑。ただまぁ…その通りではある。お土産としてのカレーなのに、三人揃っておかわりとか、中々の暴挙である。…反省しよう。

 と、考えている俺は今、うずめ、くろめと共に、食器を洗っている真っ最中。三人もいるんだから、各々手が空いたタイミングや煮込みで待っている間に片付けの方を進めておけば良かったのに、誰もそういう事をしていなかったのも……反省しよう。

 

「よし、終了っと。後は仕舞うだけだが……」

「ここまで全部やってもらったんだ。それ位はオレ達が……」

「って言われるから、速攻で片付けようぜ?」

 

 すっ、とヒレを伸ばしてきた海男の先を越すうずめに、俺とくろめは首肯。そのまま素早く片付けていき…その間、海男は曖昧な笑みを浮かべて俺達を見ていた。

 

「本当に、ありがとう三人共。凄く良いお土産だったよ」

「おう。けど、そんな気にしなくていいからな?カレーにしたのだって、毎回ただそれっぽいものを買っていくだけじゃ詰まらないよな…って思っただけだしさ」

「そうそう。それに、俺達と海男の仲だろ?」

「だからこそ、だよ。君達は否定するだろうが、これまでオレ達は何度も君達に世話になってきたし、ここに移り住んでからも、こうして気にかけてもらっている。そう、思っているんだよ。オレも、皆もね」

 

 そう言って、また海男は笑う。柔らかな笑みを、真顔が印象的な顔に浮かべる。…そんな顔をされてしまえば、それこそ否定なんて出来ない。いや…否定なんて、する必要ないんだろう。そう思ってる、感じてるっていう思いを、間違っているなんて言うのは違うし……

 

「…そういう事なら、俺達も海男達に色々世話になったよな?」

「なったな。海男達のサポートがなきゃ、戦闘も探索もずっと大変だった筈だぜ?」

「ふふ。では、お互い様…という事にしておこうか」

 

 それが良い、と俺もうずめも深く頷く。…俺も、うずめには世話になってる…って、今言うのは止めておこうかな。…なんかこう、今言ったら普通に受け止めてくれそうだけど、そうなるとお互い恥ずかしくなりそうだ…。

 

「…む……」

「うん?あ…悪いくろめ。別に、蚊帳の外にするつもりはなかったんだが……」

「…別に、それはいいさ。オレだけ話に付いていけないなんて、予想の範囲内なんだから。ただ……」

「…ただ?」

「…ウィードと【俺】が通じ合ってる感じなのが、ちょっと不服……」

「あ、あー…そっか……(くっ、可愛ぇ…!くろめのやきもち、めっさ可愛ぇ……!)」

 

 本人は良い気分じゃないみたいだからぐっと堪えたが、代わりに心の中でガッツポーズ。ちょっと口を尖らせて、うずめや海男には聞こえないよう小声で言ってる辺りもまた可愛いんだよなぁ、もう!

 

「……こほん。えー…ところで海男。畑は最近どうなんだ?上手くいってるのか?」

「…ウィード、なんかわざとらしいな……」

「い、いいだろ別に。そんな事言うなら、うずめには見せてやらないぞ?」

「見せてやらないと何も、ウィードがやってる畑じゃねぇだろ……」

 

 速攻でわざとらしいと言われて、思わず変な事言ってしまった。今のはうずめの言う通り過ぎる。なんだ、見せてやらないって…ついさっき状態訊いた奴の台詞じゃねぇって……。

 

「…畑、というのは?」

「暫く前から始めたものでね。百聞は一見に如かず、うぃどっちも気になるようだし、見ていくかい?」

 

 まあそれはさておき、俺達は見に行く事にする。海男を先頭に、その場から移動し…自然保護区域を流れる川、その近くに作られた畑へと着いて見回す。

 

「これは、また……」

「どうだい?中々それっぽくなっただろう?」

 

 自然と口を衝いた声。驚く俺達の様子を見て、海男はちょっぴりとだが得意げに言う。

 耕された土壌に幾つも作られた畝。そこで青々と育った、様々な草花。まだ実を付けているものはなさそうだが…どれも、立派に成長していた。そこにあったのは、正に『畑』だった。

 

「確か前に来た時は、まだ芽が出始めた位で、何もやってない畝なんかもあったよな…それがこんなになってるなんて、びっくりだぜ…」

「少し前から、ぐんぐん成長するようになってね。水やりや雑草の処理、剪定なんかは勿論やる必要があるけど、しっかりと成長している、弱っても持ち直してくれる姿が見られると、オレ達としてもやる気になるってものなんだよ。そういうのは、農作物だけに限った話ではないんじゃないかな?」

「…そうだね。成果はモチベーションに直結する。それが過程だとしても、一目で分かるものがあれば、頑張ろうと思える。にしても、凄いな…この畑も、一から作ったんだろう?」

「オレ達には、時間がたっぷりとあるからね。それに零次元では、本当にただ僅かに残ったものを消耗していくしかなかったけど、ここでは作り出す事が出来る。やりたい、作ってみたいと思ったものを…まぁ、上手くやれるかどうかは別としても、色々と試せる。…詰まるところ、面白いのさ。こうして自分達の住む場所を、自分達のやりたいように『開拓』していく事がね」

 

 そう言って、海男は腕を組むようにヒレを動かしながらウインク。更に続けて、実がなった時は振る舞うよとまで言ってくれる。

 前向きに語ってくれた海男だが、実際には色々大変だろう。上手く育たなかったり、虫に食われたり、そもそも農作物を育てられるような土壌を作る段階で、相当な苦労をしてきただろう。だがその上で、それを踏まえて、面白いのだと、これぞ開拓だと言っているのなら…やっぱり、海男は強いと思う。海男達は、凄いと思う。

 

「そっか…よっしゃ、じゃあここは一つ、俺達もちょいと協力しようぜ?農業なんてさっぱりだが、雑草を抜いたり、鍬を使ったりする位は出来るしよ」

「へぇ、珍しく気が合うじゃないか、【俺】。海男、何かオレ達にも出来る事はあるかな?」

「いや、君達の手を煩わせる事は…と、思ったけど…折角の申し出なんだ、ありがたく受けるとしよう。さっき面白いと言ったけど、力仕事に関しては、毎回心底苦労しているんだ」

「おう、任せろ…と言いたいところだけど、俺にはあまり期待しないでくれよ?俺は二人と違って、パワータイプじゃないからさ」

『誰が脳筋女神だって?』

「そこまでは言ってないんだけどなぁ……」

 

 二人に限らず、意外と女神は皆脳筋…なんて言ったら後が怖いから黙っておく事にして、俺達は早速作業に入る。頼まれたのは、今後活用したいと思っている場所に転がっている、岩や倒れた木なんかの撤去。

 

「確かにこれは、海男達にゃ難しい作業だ…なッ、っと」

「重機があれば別だが、ここまで重機を持ってくるのは、それだけでもかなりの大事だろうし…ねッ」

(その重機の代わりを平然とこなしている辺り、やっぱ女神って凄ぇ…さっきは冗談で言ったけど、ほんと女神ってパワータイプだ……)

 

 大きな岩も大木も退かしていくうずめとくろめを尻目に、俺は自分でも運べる位の小さな岩や大木ならぬ小木(って表現すると別の意味になるんだが…)を撤去していく。その内に若旦那達も「何やってるんだろう?」という感じに集まってきて…気付けば皆に応援されていた。応援された事でうずめはペースを上げ、対抗心からくろめも勢いを増し、俺もそんな二人に触発されてこれまでは避けていた大岩や巨木にも挑戦……したものの玉砕した為、大人しくこれまで通りに作業を続ける。くっ!ガッツが足りない…!

 

「ふぅ、これで一通り片付いたか。…片付け、っていうとほんとにただそれだけだが、開拓の一歩目って考えると、確かにちょっとワクワクしてくるな…」

「ここも畑にするのは良い…良いけど、それだけで終わりにするのは少し勿体無いな…。環境は良いし土地もあるんだから、農業だけじゃなくて家畜を育ててみたり、川があるし釣りも試してみたり…そうだ、自然保護区域の中には、山になっている場所もあった筈。ひょっとすると、そこで鉱石なんかも……」

「お、おーいくろめー…?なんかこう、発想が某牧場の物語っぽくなってるぞー…?」

 

 大分綺麗になった(まだ雑草だらけだったり、地面もボコボコしてるけど)土地をうずめがぐるりと見回す中、女神として刺激されるものがあったのか、結構真剣に考えていたくろめ。そこに俺が突っ込みを入れると、くろめは誤魔化すように咳払いをし…海男達は、それに苦笑。…ただ、単なる絵空事とも思わなかったらしくて……

 

「鉱石…は流石に難しいだろうが、畑以外もやってみるというのは悪くないね。農作物だけに限ったとしても、田んぼであったり果樹であったり、まだまだ試してみたいところだ」

「お、いいな。けど、【オレ】の言っていた事もそうだが、そんなに色々やってもいいのか?ここは自然『保護』区域だろ?」

「勿論新しい事を試す時は、いりっち達に相談をするよ。でも、そうだね…君達の熱い一押しを受けて、と言ったら提案も通り易くなるかな?」

「いやそれ、不味かった場合俺達まで文句言われるやつじゃねぇか…上手い事言ってくれよ?」

「あ、名前出すのは良いんだ…」

「だってほら、俺とウィードは『実際に推してたのはくろめだ』って言えるだろ?実際それが事実だろ?」

「言われてみればそれもそうだな、ならいっか」

「なっ、ウィード…!?」

 

 確かにそうだ、と俺が頷くと、くろめはまるで裏切りを受けたかのように驚く。でも実際、言ったのはくろめだけなんだよな…まあ、今のは冗談半分なんだけども。

 ともかく、海男からの依頼…って程でもない、頼まれた手伝いは済んだ。…そう。これは別になんて事ない、ただの手伝い。だからこれからも頼まれればいつだってやるし、特に何もなくても、こうして遊びに来ようと思う。だって、俺達は仲間なんだから…な。

 

 

 

 

 その日俺達は、そのまま泊まる事になった。…というか、初めから一泊するつもりで、それも事前に伝えておいた。

 テントに入って、そこで横になると思い出す。零次元にあった、うずめ達の拠点の事を。設備は当然こっちの方が充実してるし、畑を作るだけの余裕もこっちには、『今』にはある訳だが…だとしても、感じる。ここは、あの拠点をイメージしてるんだろうな…って。

 

「…ん、ぅ…うん……?」

 

 夜中にふと、目が覚める。ちゃんとした寝床で寝る事に身体が慣れた分、寝袋で寝ると眠りが浅くなる…気がする。…まあ、別にそれはどうでもいいんだが。

 それよりも気になったのは、テントの中で一緒に寝ていた(勿論寝袋でそれぞれに、だぞ?)うずめとくろめが、二人揃っていない事。あるのは二人の寝袋だけで…うーん、探してみるか。

 

(流石に二人で仲良く深夜の散歩…って事はないだろうしなぁ…)

 

 寝袋の中から出て、一回耳を澄ましてみる。けど二人の声は聞こえないし、騒がしい感じもないから、何か不味い事が起きたって訳でもない筈。だから二人一緒にって事はないにしても、散歩に出てる可能性は十分あるなと思いつつ、俺はテントから出……

 

『あっ…』

 

──ようとした瞬間、うずめと遭遇した。俺が出ようとしたタイミングで、うずめがテントに入ろうとしてきた。その結果…後ほんの少し前に出れば、鼻先が触れそうな位の距離まで、俺とうずめの顔は接近した。

 

「…す、すまん…」

「お、おう……」

 

 なんだか凄く恥ずかしくなって、俺は下がると共に顔を逸らす。もううずめの方を見ていないから、確かな事は言えないが…多分うずめも、似たような反応をする。…き、気不味い……。

 

「…あー…きょ、今日は良い天気だな…」

「それ普通昼間に言う事だろ…確かに良い天気だが、こんな深夜にゃ基本言わねぇよ……」

「そ、そうか…うん、確かにそうだわ……」

「ったく…ってそうだ、そんなどうでもいい話は本当にどうでもいいんだよ…!」

 

 実際苦し紛れに変な事を言ってしまったとはいえ、どうでもいいと一蹴されてちょっとショックな俺。けれどうずめが思ったより真剣な顔をしていたから、その気持ちは一旦脇に置く。

 

「…何かあったのか?」

「ちょっとな。…あ、別に荒事とかじゃねぇぞ?」

「それなら良かった。でもそうなると、もしや……」

「ああ。気になると思って呼びに来たが…見に行くか?」

 

 小さく頷いたうずめからの問い。俺もそれに頷き、うずめと共にテントを出る。…恐らくは、くろめ絡みの事。だったら急を要する事じゃなくても、知らずにいる訳にはいかない。

 

「…ここ、ほんと静かだよな」

「だな。そよ風の音も、それで揺れる草の音もよく聞こえてくるっていうか…こういうの、深夜でも街の中じゃ中々聞こえてこないもんな……」

「…………」

「…………」

 

「…って、だからそんな話はどうでもいいんだって…!」

「いや今のはうずめもしみじみとしてただろ…!?」

 

 思わず肌に触れる風を感じ、聞こえてくる音に耳を傾けてしまっていた俺達だが、気を取り直して歩いていく。うずめの案内で、その場所へと向かっていく。そして……

 

「…ウィード、あそこだ」

 

 足を止めたうずめに促され、目を凝らす。ここは海男達が生活の場としている区域の端で…確かにそこにはいた。くろめが…海男と、共に。

 

(くろめと、海男…?…この組み合わせは……)

 

 俺達がいるのは風下側。耳を澄ませば、薄っすらとだがくろめ達のやり取りが聞こえてくる。

 

「だから、結論から言ってしまえば全てぎあっちの掌の上だったという訳さ。勿論まじぇっちがねぷっちに化けていた事や、最後は完全に予想外だった様子なのも踏まえると、ぎあっちも色々と焦ったんだろうけど…全く、あれでまだ女神『候補生』なんだから、本当にぎあっちは末恐ろしいよ」

「うん、分かるよ。ぎあっちは機械方面にも強いし、もしかすると潜在能力はねぷっちやいりっち達以上…だったりするのかもしれないね」

 

 

「…なんかこう、ネプギアの潜在能力が…っていうと、某二代目主人公を連想するな……」

「余計な事言うな余計な事、気付かれたらどうすんだよ…!」

 

 つい口にしてしまった発言で、うずめが横から小突いてくる。…でも別に、気付かれて困る訳じゃないよな…?まあ、取り敢えずうずめと一緒に近くの木に隠れるけど。…多分この木細いから、隠れきれてない気もするけど。

 

「…普通にアルテューヌ関連の話をしてるみたいだな。話ってか、事の顛末を伝えてる感じか…?」

「そうっぽいな。俺が見つけた時は、ほんとにただの雑談をしてただけっぽかったが……」

「…因みにうずめはなんで起きてたんだ?」

「う…それは、その……」

「…お茶摘みか?」

「違ぇよ!それを言うならお茶じゃなくてお花摘み…いやそれでもねぇからな…!?」

 

 ふざけんなよ…!?…と結構ガチめに詰められた俺は、流石に謝罪。因みになんで起きていたかと言うと、うずめもどうやら零次元にあった拠点の事を思い出していたみたいで、思い出している内にこの拠点に似た静かな場所で夜空を眺めたくなったんだとか。…別に、隠すような事じゃないと思うんだけどなぁ…。

 

「ったく…それよりウィード。海男と、【オレ】って……」

「…ああ。だよな…」

 

 一見普通に話しているだけ、そんな風に見えるくろめと海男。…だが、俺とうずめは知っている。海男自身から、聞いている。海男の…海男達の正体を。双葉ミオという、嘗ていた少女の事を。

 

(もし海男が本当の事を話していたなら、くろめがあんな普段通りにいられる訳がないし、海男だって自分から話そうとはしない筈。なら…本当にただ、偶々お互い起きていたから話してるってだけなのか…?)

 

 いや、まさか。一度は頭に浮かんだ可能性を、俺は首を横に振りつつ否定する。恐らくそれはない。どっちが誘ったのかは分からないが、何かしら意図がなければ、わざわざ皆から離れた場所に移動してまで話したりなんてしない筈。だとすればやっぱり、海男が…?

 

「しかし、驚いたよ。うん、本当に驚いた。勿論知ってはいたし、今更どうこう言う事ではないけど、まさか……」

 

 思考を巡らせる中、意味深長な事を言い出す海男。や、やっぱりそうなのか…!?前にああは言ってたけど、本人を前にして気持ちが揺らいだというか、どうしても怒りや恨みが抑えきれなくて──

 

「まさか、君まであんなにもうぃどっちと仲睦まじいとはね」

「そッ…!(そっちかよぉおおおおぉぉぉぉッ!)」

『うん?』

「あ、馬鹿…ッ!」

 

 と、思ったら違った。全然違った。もうびっくりする位、驚く程に思い過ごしだった。あんまりにも見当違いで、拍子抜けだったものだから、思わず心の中で叫んでしまった……というか、心の中だけでは留めきれずにちょっと声に出てしまった。

 で、その声がまあまあ大きかったものだからさあ大変。くろめも海男もぴくっと肩を震わせ、明らかに声に気付いた反応を見せる。当然俺もうずめも慌てて息を潜めるが…やっぱり今隠れている木は、二人で隠れるにはちょっと細い。

 

「ちょっ、バレるバレる!もっと詰めろって…!」

「いや無理無理これ以上詰めたら俺がバレるって!何なら今の時点でも多分ちょっと出てるって…!」

「ならどうすんだよ…!お前のせいなんだから、なんとかしろよウィード…!」

「無茶言うなよ、確かに俺のせいだけども…!…くっ、ええいままよ…!」

 

 ぐいぐい押してくるうずめだが、仮にうずめがしっかり隠れられたとしても、俺がバレたらどっちにしろアウト。そうでなくとも、俺だってバレたくはない。

 けど現実問題として、ここに二人で、普通に隠れるのは無理。おんぶとか肩車とかすればまだ何とかなるかもしれないが、それをしている暇もない。今にもくろめ達はこっちを見ようとしている…気がする。だから俺は意を決し、後で殴られるのも覚悟して……うずめを、抱き寄せる。

 

「なっ、なッ……!?」

「なんとかしろって言ったのはそっちだからな…!?だから…じっとしてろ、うずめ」

「……っ…!…う、うん…」

 

 力強く心強い、格好良い女神とは思えない程の、柔らかく華奢なうずめの身体。勿論女神の強さは見た目じゃ測れない。柔らかくても、華奢でも、俺より遥かに強いんだから、普通の尺度で考える事自体が間違っている。だとしても…やっぱり、俺は思う。こんなにも華奢で細い身体でありながら、これまで沢山のものを守ってきた、勇気付けてきたうずめの事を、側で俺が支えたいと。…い、言うなよ?こんなしょうもない流れで思う事じゃないだろなんて、頼むから言わないでくれよ…!?……ごほん。

 我ながら大胆な事をしたとは思うが、もうやっちゃった以上引き返せない。やった以上は、隠れきる以外あり得ない。テンパるうずめを黙らせて、俺は息を潜める。乗り切れるまで、ひたすらに待つ。

 

「…海男。今、何か聞こえたような気がしたんだが……」

「オレもだよ。けど、それっぽいものは何もないね。…ふむ…断言は出来ないが、今は時間帯的にも静かな分、割と遠くの音も聞こえてくるからね。だからどこかの野生動物か何かが鳴いた声辺りじゃないかな?」

「遠くの音、か…まあ、探そうにも外じゃキリがないし、一先ずはそう考えておくとしようか」

((た、助かったぁぁ……っ!))

 

 十数秒後、何とか危機を乗り越えた俺達は、安堵と共にいつの間にか肩へと入っていた力を抜く。そして、ゆっくりとうずめを放し…直後、緊張感が解けた事で俺は急激な恥ずかしさに襲われる。

 

「…ごめん…ほんと、ごめん…」

「…あ、謝るなよ…そりゃ、確かに驚いたけど…別に、嫌だった訳じゃねぇし……」

「そ、そっか…それなら、良かった……」

「お、おう…」

 

 殴られる事も覚悟して抱き締めた俺だが、幸いそれは回避出来そうな雰囲気。それは良かった…が、それはそれで気不味い。なんなら多分、殴られた場合よりも余程気不味い。気不味い雰囲気、パート2である。

 

「…で、何の話をしていたんだったかな」

「君達が仲睦まじくて微笑ましい、という話さ」

「うっ…しまった、これは蒸し返さない方が良かった……」

 

 お互い完全に黙ってしまった中、向こうの会話が再開される。その事に内心でちょっと感謝をしつつ、俺はうずめと共に再び向こうのやり取りへと耳を澄ませる。

 

「…ただ、まぁ…そうだね。オレも、こうなるとは思いもしなかったよ。こうして今を肯定して、この今を守りたいと思って、オレを受け入れてくれた皆と、オレが失ったものを捨てずにいた【俺】と……もう一度、ウィードと共にいられるだなんて」

(…くろめ……)

 

 聞こえてくるくろめの声は、柔らかい。くろめは何もかも犠牲にしてまで望んだ目的を果たせなくて、絶望だってあった筈なのに…それでも、柔らかかった。

 くろめの中には、終わってしまったという気持ちだけじゃなく、やっと止まれた…って思いもあるのかもしれない。止まれたのも、くろめを受け入れてくれたのも、全て皆のおかげで、今のくろめが…いいや。くろめも、俺も、うずめも、海男達も…皆、イリゼ達がいたから今がある。

 そんなくろめの言葉に…安心する。飾る事なく、自然な声でそう言えるのなら…やっぱり、間違いじゃなかったんだ。俺の望んだ道は、未来は。

 

「…そうだ。それで言うと、一つ海男に訊きたい事があったんだ」

「おや、何かな?」

「…その…零次元でのウィードと【俺】についてなんだが、あー…なんというか、二人は……」

「零次元でも仲睦まじかったのか、と?」

『……!?』

 

…と、心温まる思いだったところにぶち込まれる、再びの仰天展開。二度目という事で、何とか今度は踏み留まった…が、びくぅ!…となった。見てはいないが、多分うずめも同じようになっていたと思う。な…なんちゅう事訊いとるんや!びっくりし過ぎて変な口調になっちゃったじゃないか!き、訊くなそんな事!海男もそこで察さなくていいし!

 

「そうだね…まあ確かに、仲良かったかどうかで言えば、良かったよ。ただ、くろめが訊きたいのはそういう事ではないのだろう?」

「あ、あぁ。…いや、でも…よく考えたらこれ、聞かない方がいいんじゃ…?…うん、確かにそうだ、やっぱりこれは聞かずに……」

「はは、まあそう不安になる事はないよ。確かに仲良かったけど、それは友達的な仲の良さだったからね。そこから少しずつ…本当に少しずつ進展していったようにも見えたけど、うぃどっちが記憶を取り戻すまでは、今のような関係じゃ……」

「…海男?」

「…と、思ったけど…よく考えたら、今も友達の様な仲の良さだったね」

「…はは…うん、まぁ…そんなものだよ。…正直オレも、ウィードとの普段の接し方は昔からあまり変わってない気がするし…」

「へぇ、普段の…ね」

「あっ……」

 

 一体どんな話をされるのか、とひやひやしていた俺だが、海男から発されたのは割と無難というか、自分の事だからこそ「あ、そうだったのね」…と思う内容。で、今も昔も、うずめともくろめとも、基本友達みたいな関係だっていうのは…なんというか、まぁ…い、いいじゃないか。それが心地良いだから。その上で俺は間違いなく…うずめもくろめも、好きなんだから。

 なんて思っていたら、迂闊な発言をしたくろめが深掘りをされて、じわりと顔を赤くする。…近くで見たかったなぁ、これ…。

 

「まあ、それも一つの形だと思うよ。友情にしろそれ以上の関係にしろ、人と人との付き合いに、こうあるべき…なんてものはないからね。…尤も、君もうずめも女神だし、それを言うオレも人ではない訳だが」

「そんな事を気にしても仕方ないさ。それに、君の言う通りだよ。…しかし、本当に君は凄いな。ウィードや【俺】も言っていたけど、気配りに抜かりがないというか、配慮がよく利いているというか……」

「そうかな?オレ自身に、そんなつもりはないが…君や皆がそう思うなら、そうなのかもしれないね」

「きっとそうさ。それに何故か、君と話しているとオレは昔の事を……」

「…くろめ?」

「…い、や…なんでも、ない……」

 

 それまでは落ち着いていたくろめの表情。けどそれが強張る。昔の事をと言った直後に、強張り、曇る。海男からの呼び掛けに対し、くろめはゆっくりと首を横に振る…が、浮かんだ表情は曇ったまま。

 

「…長話になってしまったし、この位にしておこうか」

「…すまない、海男…気を遣わせてしまって……」

「誘ったのはオレの方だからね、こちらこそここまで付き合わせてしまって申し訳なかった。…テントまで、一人で戻れそうかい?」

 

 こくり、と海男の言葉に首肯し、座っていたくろめはその場から立つ。テントのある方へと向かって歩き始め…数秒後、それを海男が呼び止める。

 

「…くろめ。最後に一つ…いや二つ、訊かせてもらってもいいかな」

「…何かな」

「後悔は、ないかい?」

 

 静かな声音で問う海男。問われたくろめは、ぴくりと肩を震わせ…再び首を横に振る。振って、言葉を返す。

 

「…ないよ。勿論、自分のしてきた事に対する悔やみはある。悔やんでも悔やみきれない、絶対に許されてはいけない事を、オレはしてきた。正直今でも、オレなんていなければ…とよく思う。…それでも、『今』を選んだ事、今ここにいる事への後悔はない。…君が訊きたかったのは、そういう事だろう?」

「流石、よく分かっているね。…そうか、後悔はない…か…」

「…別の回答の方が良かったかな?」

「いいや、これでいい。…だから、もう一つの質問だ。──満足は、しているかい?」

 

 胸の前で片手を握り、その拳を見つめ…それから海男を見つめて、くろめは答えた。過去への後悔はあれど、今の選択を後悔してはいないと。それを聞いた海男は、自分の中で噛み砕くように、微かな声でくろめの言葉を繰り返し…頷くような仕草を見せると、二つ目の問いを口にする。

 後悔はないと言った上での、聞いた上での、二つ目の問い。一度目と違って、くろめは黙り込む。けれどそれは答えに詰まっているというより、自分の思いをじっくりと纏めている、形にしようとしているような感じで……暫しの沈黙の末、くろめは握ったままだった手を下ろす。その手を開き、自然体になって…言う。

 

「満足、しているよ。きっと、これで良かったんだ。だから、オレは…満足だ」

 

 一つ目の問いへの答えと違って、くろめは多くは語らない。それでも、感じるものがあった。その声から、そこに籠る思いから、確かに伝わるものがあった。

 くろめへ対する、二つの問い。その真意は分からない。もしかしたら…そう思うものはあっても、確信はない。だが…両方聞き終えた時、海男は笑みを浮かべていた。穏やかで、優しい…満足そうな表情で、笑っていた。

 

「それなら、良かった。今の君が…くろめがそう言うのなら、君のしてきた事、歩んできた事は、決して無駄でも、無意味でもなかった筈だから。──たとえそれが、過ちであったとしてもね」

「──ぁ…」

 

 その瞬間、くろめは言葉を失う。息が漏れただけのような声を最後に、固まり…今いる場所からじゃ、くろめの表情は見えない。その言葉で、海男の言葉で、心が楽になったのか、安心したのか……それとも逆に、何か思い浮かべてしまったのか…俺には何も、分からない。

 

「今日は話せて良かったよ。…お休み、くろめ」

 

 それが、海男がくろめへと掛けた最後の言葉。もしかしたらくろめは何か返していたのかもしれないが、少なくとも俺の耳には聞こえず…去っていくくろめを、海男は見送る。そうして、夜空を見つめる。…何かに、いつかに、思いを馳せるように。

 

「……なぁ、ウィード。呼んだ俺が言うのもアレだが…聞いちまって、良かったのかな…」

「どう、だろうな…けど、俺は知れて良かったと思ってる。今のくろめがどう思っているかも、海男がくろめにどんな言葉を掛けたのかも」

「…そうだな。俺も、そう思うよ」

 

 聞くべきだったかどうか、盗み聞きして良いものだったのかどうかなんて分からない。でも俺は、くろめとも海男とも、無関係じゃない。くろめの罪を一緒に背負うなんて事は出来ないし、くろめの罪はくろめのもの。誰かがその一部でも肩代わりしてしまうのも、きっと間違ってると思ってる。…それでも、俺は共に歩むと決めたから。そうしたいと、心から思っているから。だから今聞いた事、知った事も…ちゃんと心に、留めておきたい。

 どれだけの時間が経ったか分からないが、更に夜が更けた気がする。俺もそもそも、うずめと一緒にテントに戻って……

 

「……って、このままだと俺とうずめがテントにいない事、くろめにバレるじゃねぇか…!」

「あ"ッ…は、走るぞウィード!静かに、でも速く、尚且つ【オレ】に気付かれないルートで…!」

「まぁまぁ無茶な事言ってくれるなぁ…!」

 

 一人ならともかく、両方いないとなると流石に怪しまれるし、鋭いくろめならば、下手すると俺達が立ち聞きしていた事にも気付くかもしれない。だから俺達は慌てて駆け出し、大きく遠回りする形で全力失踪し…間一髪、二人揃ってテントへ潜り込み荒くなった息を堪えながら精一杯寝たふりをするのだった。

 

 

 

 

 テントの中で迎えた朝。二人よりも早く目が覚めた俺は、テントから出て、顔を洗い…少ししたところで、物音が聞こえてくる。

 

「…ウィード……」

「おう、おはようくろめ」

 

 出てきたのはくろめ。どうやらうずめはまだ寝ているようで…すぐに、俺は気付く。くろめの目元が、赤くなっている事に。

 

「…どうか、したのか」

 

 出来るだけ自然に、くろめへと訊く。実際自然だったのか、ぎこちなくなっていたのかは分からない。ただ、くろめは少しの間黙っていて…それから、ぽつりと呟くように言う。

 

「…夢を、見たんだ。大事な、友達の…オレが何もかも奪ってしまった、友達の夢を……」

「…そっか……」

 

 俯き、くろめは肩を震わせる。嘗ては守護女神だった、幾つもの次元を巻き込む程の厄災を引き起こした程の存在だとは思えない…強く触れればそれだけで折れてしまいそうな、くろめの姿。

 そんなくろめを、俺は抱き寄せる。くろめは何も言わず、ただ俺の胸元に顔を埋める。

 俺は、何も言わない。慰めの言葉も、励ましの言葉も。それは甘さだ。くろめが受け取っちゃいけないものだ。…だけど、くろめはうずめと同じように、俺にとって大切な相手。もう失いたくない、かけがえのない少女。だからせめて…こうして、寄り添っていようと思う。今も、これからも…俺は、寄り添っていたい。




今回のパロディ解説

・それが、一番大事
それが大事のフレーズの一つの事。直後にウィードが地の文で触れていますが、別にウィードは歌っている訳ではないです。ウィードも他のキャラ同様、ちょいちょいパロネタやメタネタを発してますけどね。

・くっ!ガッツが足りない…!
キャプテン翼のゲームにおける、台詞の一つの事。でもウィードに足りないのはガッツではなく、シンプルに身体能力です。足りないというか、伸ばしたくても…って話ですが。

・「〜〜某牧場の物語〜〜」
牧場物語シリーズの事。牧場といいつつ、明らかに畜産以外の事もやってる(やれる)んですよね。まあ、色々やれた方が遊びの幅も広がるに決まってますけども。

・「〜〜某二代目主人公〜〜」
DRAGON BALLの主人公の一人、孫悟飯の事。ネプギアを彼に例えるのは、原作シリーズの中でもありましたね。…まあ、DB症候群という、不名誉な形ででしたが。
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