超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
「っていう事があってね。教祖の皆さんだったり、
プリンを食べながら、わたしはお姉ちゃんと話す。今日あった、ふとした学びをお姉ちゃんに伝える。
なんて事ない、普通の会話。ありふれたお喋り。だけど、一つだけ普通でも、ありふれてる訳でもない事がある。わたしが今話しているのは、お姉ちゃんだけど…お姉ちゃんじゃない。
「ほんと、ネプギアはしっかりしてるわね。わたしだったら同じような出来事があっても、多分『お互い大変だけど頑張ろう』位にしか思わないわ。…それにそもそも、天界で三人と戦ってる時間も長かったしね」
スプーンの先をくるくると回しながら、言葉を返してくれるお姉ちゃん。お姉ちゃんだけどお姉ちゃんじゃない、お姉ちゃんであってお姉ちゃんじゃない…大きいお姉ちゃんでも、ミラお姉ちゃんでもない、お姉ちゃんそのものだけど違うお姉ちゃん。──アルテューヌ、お姉ちゃん。
そのお姉ちゃんと、わたしは話していた。夢の中で、明晰夢の様に、もう一人のお姉ちゃんと二人での時間を過ごしていた。
「そっか…お姉ちゃんは、ずっとノワールさん達と戦ってたの?」
「流石に四六時中って訳じゃないわ。ただ、戦っていた頃は天界と下界を行き来していたっていうか、少なくとも今の皆みたいに、特に理由がなければずっと下界にいる…って事はなかったのよ」
「…それってさ、どういうタイミングで下界に戻って、何を切っ掛けにまた天界で戦ってたの…?」
「それは……流れ解散と、流れ集合で…?」
「あまりにも適当が過ぎる…!?」
予想の遥か斜め上を行く解答に、わたしは愕然。な、なんでそんなふわっとしたやり方で戦い続けてたの…!?どうしてそれで戦い続けられていたの…!?え、
「い、イメージが…わたしの中の、守護女神の皆さんに対するイメージが……」
「あ、いや、わたしはそう思うってだけよ…?もしかしたら三人はそうじゃなかったのかもしれないわよ…?」
「それはそれでやだよ…お姉ちゃんだけ蚊帳の外なのも、お姉ちゃんに伝わってないのも特に気にせず戦い続けてたお三人っていうのも、女神候補生として嫌過ぎるよ……」
「…なんか、申し訳ないわ……」
和やかだった雰囲気から一転して、物凄く居心地の悪い空気感に。…う、うん。あれだよあれ。お姉ちゃん達の戦いは、あくまで勝者を決める為のもので、自分以外を始末しようとしていた訳じゃないし、女神として卑怯な策や姑息な手段で勝っても信次元の統治には繋がらないから、正々堂々戦う事を重んじていたとかなんだよ。或いは戦いに没頭して自分の国の事を疎かにしちゃったら本末転倒だって意識が全員にあったとかだよ、きっと。…うん…そういう事に、させて下さい……。
「こ、こほん。ともかく良い心掛けだと思うわ、ネプギア。…あ、そういえば…
「へ?…あー…そうなの、かも?」
お姉ちゃんからの問いに、数秒わたしはぽかんとなる。数拍置いてから、「そっか、アルテューヌお姉ちゃんは知らないのか」と気付く。わたし自身、今の
という訳で、今の
「…やっぱり、変わるのって…怖い、ものなのかな」
「え?……そうね。だって、変わるっていうのはそれまでの当たり前が当たり前じゃなくなる、自分にとって知っているものが知らないものになってしまう…って事だもの。世の中なんだっていつかは変わるし、良くも悪くも変わり続けるものだけど…知らない間に『変わっていた』ってなったら、流石に少し…ね」
ゆっくりと、語るように話すアルテューヌお姉ちゃんの言葉で理解する。変わる、と変わっていた、は大きく違うんだって。変わるのは当たり前でも、知らぬ間に変わってしまったのを目の当たりにするのは、当たり前じゃないんだって。
「そっ、か……」
「…悪いわね、しんみりさせちゃって。でも別に、変わって残念だと思ってる訳じゃないのよ?というか変わるっていうのは、嬉しい気持ちを抱く場合だってあるでしょ?例えばほら、席替えとか」
「え、なんで基本女神には無縁な例を……?」
「でも、場所チェンジのマスに止まった場合とか…」
「それも女神にはあまり縁が…ってそれでチェンジするのはすごろく上の話であって、座ってる場所をチェンジする訳じゃないよ!?」
いつの間にか暗い顔をしてしまっていたのか、アルテューヌお姉ちゃんは話を明るい方向に切り替えてくれる…けど、嬉しい変化のチョイスが謎。じょ、冗談なのか本気で言っていたのかの区別が付かない……。
「で、でもそうだよね。変わる事が喜びに繋がる瞬間だって、ある筈だよね」
「そうよ。…貴女の存在だって、わたしにとっては知らない間に起こった大きな変化。…多分、一番嬉しいって思えた変化よ」
「お、お姉ちゃん……」
「…あ、もしかして今の、ネプギア的にポイント高かったりする?」
「えぇ…?…確かにまあ、ポイント高かったと思うけど、仮に高くても今の発言でプラマイゼロだよ……」
折角心がじーんとしていたのに、直後の言葉で一気に微妙な心境へガタ落ち。…でも、まぁ…こういうところも、『お姉ちゃん』らしい…かな。ふふっ。
「…良かった。いつものネプギアの顔に戻ったわね」
「あ…やっぱり気を遣ってくれてたんだね。ありがとう、お姉ちゃん」
「お礼なんて要らないわ、可愛い妹の為だもの」
感謝と共にわたしが笑えば、アルテューヌお姉ちゃんも笑みを返してくれる。最後の最後になるまで、あれだけ見せてくれなかった優しい顔を、今は自然に見せてくれる。
多分これは、肩の荷が全て降りたから。ここがアルテューヌお姉ちゃんの、終着点だから。…それが、良い事かどうかは分からない。ううん…きっとアルテューヌお姉ちゃんの中には、悔やむ気持ちだってあると思う。結局アルテューヌお姉ちゃんは『ネプテューヌ』を取り戻せなかったし、女神としての道も今は全て『お姉ちゃん』のものになっているんだから。…それでも、分かる。感じる。今アルテューヌお姉ちゃんが浮かべている笑みは、本物だって。
──これも、変化。わたしにとって、凄く、凄く、本当に凄く…嬉しい、変化。
「そうだお姉ちゃん。話は全然変わるけど、お姉ちゃんに訊いてみたい事があったんだ」
「何かしら?OTの次の物語の内容?」
「そ、そうじゃなくて…というか、多分それはお姉ちゃんも知らないよね…?…こほん。わたしが訊きたいのは、プリンの事だよ。わたしがここに来る度…っていうのも変な表現だけど、とにかくその度にプリンあるよね?どこから仕入れてるの?」
「あー、その事ね。…ふふ、それは秘密よ。ただ、一つだけ教えてあげるとすれば……」
「すれば…?」
「──ここならプリンは、食べ放題よ」
「…そ、そうなんだ……」
ふっ…と自慢げに、物凄い事であるかのように言うアルテューヌお姉ちゃん。…実際、まぁまぁ凄い事ではあると思うけど、というかこの夢の空間?…自体凄いとは思うけど…あれだよね。本人はご満悦そうだし、そんな事で胸を張ってどうするの…?…とは言わぬが花だよね。
「えぇと…それじゃあお姉ちゃんは、ここでならプリン以外も好きなものを出せるって事?」
「いや、そんな事はないわ」
「…でも、プリンは食べ放題なの?」
「そうよ」
「…プリンだけは出せるの?」
「えぇ」
「……なんで…?」
「…さぁ……」
困惑しながらの問いに対して返ってきたのは、困惑しながらの回答。…謎が謎を呼ぶって、こういう事を言うのかな……。
「まあ、ここ…って表現も少し変だけど、基本的にこの空間はネプギアの夢の中だもの。言い換えれば精神的な空間だし、多少は不思議な事があってもおかしくないんじゃないかしら。或いは逆に、『そういうもの』って思えれば、普通はおかしい事もこの場においてはおかしくなくなる…んだと思うわ」
「うーん…そういうもの、なのかな。確かに夢の中が荒唐無稽だったり、どう考えてもおかしい事を当然の様に受け入れてたりするし……」
「そういうものよ。だからそう思っていれば良いと思うわ。……あっ、HBの鉛筆をベキッと折れるのが当然なのと同じようにねっ」
「いや、思い出したからって捩じ込まなくても……」
最後の発言はともかくとして、ここについてはあまり理詰めで考えない方が良いかもしれない。そもそもアルテューヌお姉ちゃんの存在自体、普通はあり得ない筈なんだから…うん。アルテューヌお姉ちゃんの言う通り、そう思っていようかな。
そうして疑問に一応の結論を付けて、わたしはアルテューヌお姉ちゃんとの雑談を続ける。姉妹のの時間が過ぎていく。…っていっても、どれ位の時間が経ったのかは分からないけど。
「ふぅ…プリン食べ放題なのは良いけど、実際には何も食べてないんだって思うとなんだか虚しくなるなぁ…」
「もう、折角プリンを食べてるんだからそんな盛り下がる事考えちゃ駄目よ。ほら、某貿易商さんも言ってるでしょ?プリンを食べる時は、自由で救われてなきゃ…って」
「そんな、プリン限定の発言じゃなかったと思うんだけど…というか、一人とか静かとかって部分を見事に抜いてるね……」
「とにかくそんな事気にしないで、今ここにあるプリンを楽しめば良いのよ。それにほら、普通のプリン以外にもプリンアラモードとかプリンパフェとポムポムなプリンとかプリンのプリン乗せ〜プリンを添えて〜とか、色々あるんだから」
次々出てくるプリンに苦笑しつつも、アルテューヌお姉ちゃんの優しさを受け取る。虚しいとは言ったけど、この時間は楽しい。いつも楽しい。だからわたしの心は充実していて……気付けばわたしは、目が覚めていた。普通の夢と同じようにいつの間にかアルテューヌお姉ちゃんとの時間は始まっていて…いつの間にか、終わっていた。
*
普段通りに、仕事をこなす。いつもと同じように、優先順位の高い仕事から順に進めて、手を付けていない仕事もまだ期限的に大丈夫か、期限は別としていつまでに仕上げたいか考えて…今日の仕事を、終わらせる。
「こんな感じかな。後はお姉ちゃんといーすんさんに確認してもらって……」
お姉ちゃんといーすんさん、それぞれの端末へ仕上げたもののデータを送る。それからふと…思う。昨日、或いは今日見た、アルテューヌお姉ちゃんとの夢の事を。
(夢の中なら、不思議な事があってもおかしくない…か。…アルテューヌお姉ちゃんって、わたしがいない時はどうしてるんだろう……)
別にわたしは、寝る度にアルテューヌお姉ちゃんと話してる訳じゃない。違う夢を見てる時もあれば、起きた時に何も覚えていない…だから夢を見ていたのかどうかも分からない時だってある。
そんな時、わたしがアルテューヌお姉ちゃんとの夢を見ていない時や、そもそも寝ていない時、一体アルテューヌお姉ちゃんはどうしているのか。もっといえば、わたしがあの夢の中にいない時も、アルテューヌお姉ちゃんは存在しているのか。気になるし、分からないし…多分、アルテューヌお姉ちゃん自身も分かっていないと思う。
「…………」
暫くの間、思考に耽る。執務室の椅子に座ったまま、ごちゃごちゃと考えて…その内ある事を思い付く。
それはただの思い付きで、上手くいくかどうかは分からない。仮に上手くいっても、わたしの思うようにはいかないかもしれない。でも…やってあげたい。
「今日はお姉ちゃん、お休みだった筈だし…善は急げ、だよね」
机の上を片付けて、わたしは執務室を出る。プラネタワーの居住区画、その内リビングに当たる部屋に向かう。
基本的わたしとお姉ちゃんで、仕事の日は重なっている。けどいつ働いて、いつ休むかは自分で決められるから、重なっていない日っていうのも当然ある。今日もそんな日で…予想通り、お姉ちゃんはリビングにいた。
「お姉ちゃん、ちょっといいかな?」
「うぇ?ふぉーふぃふぁの?」
部屋に入ると同時に発した呼び掛けへ返ってきたのは、気の抜けるような声。何かと思ってよく見ると…お姉ちゃんは、成型タイプのポテトチップス二枚を咥えていた。その二枚で、アヒル口みたいにしていた。…う、うぅん…?
「…お姉ちゃん、何してるの…?」
「ふぉれふぁふぇー、あひぅれふぇんぶふぁれふぇ……」
「ちょっ、そのまま話すのは止めて!?一回待つから、それ食べてから話してくれないかな!?」
まさかのアヒル口のまま答えようとしたお姉ちゃんに、わたしはぎょっとする。ま、まあ冗談なんだろうけど…いつもの事ながら、エキセントリック過ぎるよお姉ちゃん……。
「…ぷはぁ。えっとねぇ、アヒルで全部食べられるかどうかの挑戦中なんだー。もう残り数枚だし、これは成功したも同然かな!」
「へ、へぇ…なんでまた、そんな事を…?」
「…暇だったから?」
「いくら暇でも、もうちょっと他にやれる事があったんじゃないかな……」
回答が分からなかった時点でもエキセントリックだったけど、回答が分かった今もやっぱりエキセントリック。確かにこう、そんなのしてどうするの…って思う事をそれでもやりたくなる時ってあるけど、だとしても困惑が勝ち過ぎる。
「…あっ、どうしようネプギア!今数えたら、残りの枚数が奇数じゃん!これじゃあどうやったって完遂出来ない…!」
「残り一枚は普通に食べる、じゃ駄目なの…?」
「それじゃあ消化不良だよぉ…。…そうだ、ネプギア食べる?」
そう言って一枚差し出してくるお姉ちゃん。それをわたしが貰って食べると、残りが偶数枚になった事でお姉ちゃんはアヒル口食べを再開して…数分後、本当にその食べ方で完食。そうしてお姉ちゃんが浮かべるのは、満足気な顔。
「いやぁ、食べた食べた。中身の薄っすい時間を過ごした気がしないでもないけど、達成感はばっちり…あ、薄いって言っても勿論味の話じゃないよ?」
「だろうね…。…あのさお姉ちゃん。ちょっと訊きたい事があるんだけど、いいかな?」
「お?どしたのネプギア。OTでやるコラボがどんな感じになるかの話?」
「お姉ちゃんまでそれを言うの!?」
「え、むしろわたし以外でもこんな事言う人いたの…?」
「い、いやまぁ…。…そうじゃなくて、レトロゲーについて訊きたいんだ。具体的には、お姉ちゃんのお勧めを訊きたいんだけど……」
以外というか、言ったのはお姉ちゃんそのもの…というのは置いておいて、今度こそわたしは本題に入る。レトロゲームの事なんだけど、とわたしは口にし……次の瞬間、お姉ちゃんは目を輝かせる。
「ね、ネプギア…まさかネプギア、レトロゲーに興味を持ったの?レトロゲーの良さに気付いちゃったの!?」
「あ、や、えぇと…そうじゃないけど、知りたい気持ちは本当っていうか……」
「……?まぁいいや、とにかくレトロゲーの話をしたいなら大歓迎だよ!で、なんだっけ?わたしのお勧めを訊きたいんだっけ?」
見るからに上がったお姉ちゃんのテンション。でも分かる、凄く分かる。だって自分の好きな事について誰かから聞かれたら、嬉しくなるし語りたくなるもん。…多分機械について訊かれた時のわたしも、こういう感じなんじゃないかな…。
そしてお姉ちゃんの言葉にわたしが頷くと、お姉ちゃんは頬に指を当てて少考。何がいいかな、って感じに目を閉じて……十数秒後、目を開開いたお姉ちゃんは言う。
「──鍵の初期三部作かなぁ」
「なんか思ってたのと違う!?」
びっくりする程予想していたのとは違う方向性からの選出に、わたしはびっくり。何かこう、言葉としておかしい気がするけど、とにかくびっくりする程びっくり。
「あれ?もしかしてネプギアは葉っぱ派だった?」
「そうじゃなくて…!え、ノベルゲー…!?こういう時に普通、ノベルゲーって挙げる…!?」
「ノベルゲーだって立派なゲームだよ?」
「いやそうだけども…!」
冗談で言っているのか本気で言っているのか全く分からないお姉ちゃんの発言に、わたしは翻弄されまくる。一見言ってる事は普通なのに翻弄してくるって、ほんとにどうなってるのお姉ちゃんは……。
「まぁ、ネプギアが困惑するのも分かるよ。レトロゲーって、はっきりした定義があるわけじゃないからね」
「そこじゃない…わたしが困惑してるのは、そこじゃないよお姉ちゃん……」
「そう?うーん、そうだなぁ…だったら、ネプランカーなんてどう?」
「あ、それいい!そっちの方がいいよ!」
さっきお姉ちゃんが挙げてくれたのも、名作である事は間違いない。でもこう、わたしの思い描いていたレトロゲーとは違っていた。
だけど、今挙げてくれたのは違う。今のはわたしも知っている、これぞレトロゲーって言えるようなもので……って、あれ…?
「…お姉ちゃん…それ、ほんとにレトロゲーだっけ…?レトロゲーじゃなくて、レトロゲー感のあるダンジョンじゃないっけ……?」
「言われてみると、そうだったかも…。…あっ、じゃあネプシューターは?これなら間違いなくレトロ……」
「ち、違うよお姉ちゃん!それは間違いなく違うよ!?だってそれ、レトロ『っぽい』ゲームだもん!」
レトロゲーの事なら、お姉ちゃんに訊けば一発。…そんな風に考えていた時期が、わたしにもありました。けれど結果はこの通り、一発どころか完全に迷走していて…これ、もしかしてわたしも悪いのかな…お姉ちゃんの言う通り、レトロゲーってそれ自体はジャンルじゃない訳だし、もうちょっと「どんなゲームを求めているか」って部分を詰めなきゃお姉ちゃんも提案しようがない…のかも。
「えー…っとねお姉ちゃん。わたしとしては、お姉ちゃんの好きな…お姉ちゃん好みなレトロゲーを知りたいんだ」
「あ、そうなの?…そう言われると、逆に困っちゃうなぁ…わたしが好きなレトロゲーなんて、一つや二つなんかじゃないし」
「あー、そっか…なら、名作で有名なものとかは?」
「それも結構あるんだよねー。っていうか、誰かにお勧め出来るレトロゲーって、なんだかんだ大体は名作っていうか…」
「え、そうなの?」
「レトロ…というか昔のゲームって、良くも悪くも荒削りだったり、調整不足だったりするのが多いからねー。そこに加えて技術的な制限が今よりずっと多かったり、今みたいにアプデとかパッチで問題点を解消する…って事が出来なかったりもするから、悪い意味で有名な作品は勿論、そうじゃない作品だって、割と『楽しさに繋がらない難しさ』が色々あるものなんだよ。…まあ、そこまで含めて『レトロ』として楽しむのが、レトロゲー好きってものだけどね!」
そう言って、お姉ちゃんはふふんと胸を張る。ふむふむ、とわたしはお姉ちゃんの説明を聞いていて…感じたのは、造詣の深さ。
「わたし、昔のゲームって何となく絵やシステムが古い…ってイメージしかなかったな…。でも、流石はお姉ちゃん。やっぱりレトロゲーについては詳しいんだね」
「なんたって、わたしはレトロゲーが好きだからね。…ひょっとしてネプギア、レトロゲー好きに何か紹介したいの?」
「…分かっちゃった?」
「なんかこう、ネプギア自身がやってみたい…って感じじゃない気がしたからね。でも、そういう事なら…ネプギアが『あ、これ良さそう』って直感的に感じたものでいいんじゃないかな?」
「へ?でも、さっきレトロゲーは名作以外…って……」
「まーね。けど言ったでしょ?レトロゲー好きは、難しい部分も含めて楽しむものだって。それに…自分の趣味に合ったものを探してもらえたなら、その内容はどうあれ相手は嬉しく感じるんじゃないかな、ってわたしは思うよ」
だから、そんなに深く考えなくても大丈夫。そう、お姉ちゃんは言ってくれた。どこまでわたしの考えている事を察しているのかは分からないけど…いや、違う。きっと「レトロゲーを紹介したい」って事しか分かってない上で、こう言ってくれたんだ。こういう事を、言えるんだ。
「…そ、っか…うん、そうだよね。他でもないお姉ちゃんが言うんだもん、きっとそうだよ」
「ねぷ?どーゆー事?」
「ううん、こっちの話。それよりアドバイスくれてありがとね、お姉ちゃん」
「うぅん?よく分からないけど…わたしはお姉ちゃんだからね!真面目な事以外は、概ねなんでも来いだよっ!」
「…因みに、真面目な事は?」
「いーすんにGO!」
堂々と、あまりにも堂々と言い切るお姉ちゃんに、わたしは苦笑い。だけど本当に、お姉ちゃんは頼りになる。こんな事言ってるけど、なんだかんだ真面目な時だって…まあ、事と次第には寄るけど…頼りになるのがお姉ちゃん。
そうして大きなアドバイスを得たわたしは、自分の部屋に行く。自分の部屋で、暫く調べて…もう一つアドバイスを受けられたらなと思って、ある人に連絡をする。
「──ネプギア、どうかしたの?」
「こんにちは、イリゼさん。実はちょっと、ゲームで訊きたい事がありまして」
電話を掛けたのは、人…じゃなくて女神のイリゼさん。ゲームで訊きたい事がと言うと、イリゼさんは不思議そうな声を出す。
「ゲームで…って、私に?ネプテューヌじゃなくて?」
「はい。レトロゲー関連の事なんですけど…」
「えーと…なら尚更、なんでネプテューヌじゃなくて私に…?」
「あはは、ですよね。わたしが訊きたいのは、昔の名作…レトロゲーとして有名な作品の、復刻版とかリマスター版の話なんです」
「あぁ、そういう…でも珍しいね、ネプギアがそんな話をしてくるだなんて」
今イリゼさんが言った通り、レトロゲーといえばお姉ちゃんだけど、国としてリメイクやリマスター、それに昔ながらの作品に力を入れているのは神生オデッセフィア。イリゼさんに連絡をしたのは、それが理由で…でもそれはそれとして、なんだかわたしはちょっぴり感動のようなものを抱く。
「…………」
「……?あれ、ネプギアー?声聞こえてるー?」
「あっ…ご、ごめんなさいイリゼさん。その…ボケとかで脱線せず、スムーズに話が進むのっていいな、って思っちゃって……」
「それは…うん、ネプギアも大変だね……」
少し前まで話していたお姉ちゃんとの、圧倒的な違い。話したい事がそのまま話せる…これが一体どれだけ楽で、助かる事か。……べ、別に物足りなく感じてたりはしませんよ…!?
「と、ともかく最近売れてる作品があったら、それを教えてほしいんです」
「うーん、そうだねぇ…売れてるってなると少し調べなきゃいけないし、話題の作品でもいい?」
「勿論大丈夫ですっ」
「それなら、とあるロボットアニメのリマスター版と同時期に発売したゲームのリマスター版なんてどうかな?」
「や、ややこしいですね…えと、作品名を訊いても?」
リマスターアニメの関連ゲームのリマスター…と表現するとややこしいけど、アニメ部分を抜きに考えれば、ロボット作品のリマスターという事。これなら別に、何も難しい事はない。
そしてゲームのタイトルを訊けば、イリゼさんはすぐに教えてくれる。そのタイトルは、わたしも聞いた事があるもので、しかもリメイクじゃなくてリマスター…操作性や面白さの部分は既に十分にあると証明されているようなものなんだから、誰かにお勧めする作品としてもぴったり。…では、あるんだけど……
「…あの、イリゼさん…これ、レトロって言える程古い作品のリマスター…ではないような……」
「あっ……」
良い作品だとは思う。思うけども、そもそも前提として求めているのは、『レトロゲー』の復刻版とかリマスター版な訳で…残念ながら、その作品は却下という事になった。
「ごめんねネプギア。大前提の部分に合致してない作品挙げちゃって……」
「い、いえ。お姉ちゃんも言ってましたけど、レトロゲーって明確な定義がある訳じゃないですし…」
「そういう事じゃなくて、シンプルに前提を失念してただけなんだけどね…。…んー、でもそれならいっそ、何よりレトロって言える作品、信次元最古の家庭用ゲーム……」
「そ、そんなのがあるんですか!?」
「…を、復刻したら売れるかな…流石にコレクター需要だけで、十分な利益は望めないかな……」
「あ、売ってないんですね…思い付いただけなんですね……」
凄い作品が出てきた!…と思いきや、結果はまさかの肩透かし。…けど、信次元最古のゲームかぁ…そうなると当然、使われてる機械もかなり古い、今はないような仕組みや作りだったりするだろうし…う、ちょっと見てみたい…。ちょっとどころか、かなり触ってみたい……!
「…もし復刻するってなったら、教えて下さいね…?わたし、予約しますので…」
「へ?う、うん、それは良いけど…。…うーん、後はリマスターじゃなくてリメイクだけど、元は別のシリーズの一つだったものから派生して、新たなシリーズの一作目になった作品が……」
「こ、今度こそあるんですか!?」
「…ラステイションとルウィーから発売されるんだよね」
再びの肩透かしに、わたしはがっくり。しかもこの口振りだと、まだ発売されてないよね…え、もしかしてイリゼさん、ちょっとふざけてる…?軽くボケに走ってません…?
「ボケには、走ってないよ?」
「うわぁ!?電話越しに地の文を読まれた!?…って、ほんとに走ってません!?むしろ今の発言でちょっと怪しさ増してますよ!?」
「…ごめん、ほんとはちょっとボケた…。…えっと…ネプギア。もし良かったら、良さそうなの調べてデータ送ろうか…?」
「あぁいや、そこまでしなくても…!流石にそこまでしてもらうのは悪いですし……」
ふざけたお詫びに、と言うように提案してくるイリゼさんへ、わたしはぶんぶんと首を横に振る。…電話越しでも首を振ったり頭を下げたりって、ついついしちゃいますよね。
っていうのはともかく、わたしは丁重にお断り。するとイリゼさんは、そう?…って言った後に少し黙って…それからまた言う。
「まあでも、別に人気の作品じゃなくてもいいっていうか、第一印象でネプギアの琴線に触れる作品で良いんじゃないかな。どんなに支持されてる作品でも、自分に合わなければただの『皆は凄いと言ってる作品』でしかないし、逆に自分に合っていれば、たとえ世間からの評価が低くても自分にとっては『名作』になる筈だから」
「……ですよね。わたしも、そう思います」
「でしょ?…まぁその琴線に触れる為の取っ掛かりを上手く用意出来なかった私が言うのも、ちょっとアレなんだけどさ」
「そ、そんな事ないですよ。むしろわたしも、わざわざ時間を取らせちゃって申し訳ない位で…」
「あはは、それなら気にしないでよ。じゃあネプギア、良い作品を見つけられるよう頑張ってね」
応援の言葉にわたしは声を返し、通話を終える。…自分の琴線に触れる作品で良い。それはお姉ちゃんの言った、自分が直感的に良さそうと感じた作品で…っていうのとほぼ同じ事。やっぱり大事なのは、自分が良いって、好きだって思える事なのかもしれない。自分が好きでもないものを紹介しても、そこに熱は籠らない…そういう事だとしたら、しっくりとくる。
(わたしが良いと思える作品、かぁ…。最初にイリゼさんが挙げてくれたのは、まだレトロって程じゃないけど、やっぱり……)
もう一度、自分でレトロゲーを…その中でも復刻や移植でまだ普通に手に入るものを調べていく。そうして見つけた、これだっていうもの。これだったら、きっと……。
*
夢は、狙って見る事なんて出来ない。見たい夢を選ぶ事は勿論、夢を見るかどうかも選べない。…まあ、夢を見ていないと思っていても、実際には記憶に残っていないだけで見てはいた…って事もあるらしいから、本当はいつも何かしら夢を見ているのかもしれないけど…とにかく夢には、どうしたって受け身になるしかない。
それは、アルテューヌお姉ちゃんとの夢でも同じ事。いつもアルテューヌお姉ちゃんとの夢は、前触れなく、突然にやってくる。
「ネプギア、わたしは気になってる事があるのよ」
「気になってる事?」
「えぇ。プリンに醤油をかけたらウニみたいな味になる…って言うでしょ?だったら逆に、ウニから醤油を抜いたら、プリンみたいな味になるのかしら…?」
「そ、それはどうなんだろう…というか、ウニから醤油を抜くって何……?」
真面目な顔で、変わらずの女神の姿で変な事を言うアルテューヌお姉ちゃんに、わたしは困惑。アルテューヌお姉ちゃん…わたし達の他に誰もいないし、存在そのものが特殊になってるからって、夢の中に現れるようになってから、かなりやりたい放題な気がするよ…。
「そ、それよりお姉ちゃん。ちょっといいかな?」
「何かあるの?」
「うん。ちょっと待っててね…」
待ってと言ったわたしは、目を閉じる。そして意識を集中する。意識に、頭の中へ思い浮かべたものへ、意識も思考も一心に向ける。
「む、むむ…むむむむ……」
頭の中、記憶の中にあるものを、形にしていくイメージ。出来る、ここでならやれる、だってここは夢の中なんだから。そう思って、そう信じて、ちょっと変だけどわたしはイメージする事に全力を尽くす。そして……!
「むむむむむむ、むーーーーっ!」
「……ね、ネプギア…?」
「…だ、駄目だ〜……」
目一杯の力を込めた後、がっくり肩を落とすわたし。…むしろ脱力した状態の方がいけるかな?…と思ってもう一回試してみたけど、やっぱり失敗。そんなわたしを、お姉ちゃんは怪訝な顔で見つめてくる。
「…えっと…ネプギア、貴女は何を……?」
「その…ほら、プリンだったら好きなだけ出せるって話を前にしたでしょ?だからわたし、レトロゲーの事を調べて、これだって思うものをやり込んだんだ。記憶にくっきり残る位にやり込めば、ここにも持ち込む…っていうか、プリンみたいに出せるんじゃないかな…って」
「…それって、もしや……」
「うん。そうやってレトロゲーを出す事が出来れば、わたしが夢を見ていない時にも、お姉ちゃんは退屈せずに済むでしょ?」
目を丸くするアルテューヌお姉ちゃんに、わたしは答える。そもそもの話として、わたしが夢を見ていない間のアルテューヌお姉ちゃんが、どうなっているかは分からない。アルテューヌお姉ちゃん自身、はっきりとは分かっていないらしい。だからわたしが夢を見ていない時…っていうのは、完全に無駄になっちゃうかもしれないけど…だとしても、それならそれで、こうして夢を見ている時に楽しんでもらえればいい。…そう、思っていたんだけど……。
「うぅ、ごめんね…いけるかなって思ったんだけど、無理みたい……」
折角やり込んだのに…としょぼくれる。やり込んだのが無駄になるのは、ゲーム自体は楽しめたし別に良いけど、アルテューヌお姉ちゃんに楽しんでもらえない事は悲しい。…そう、思っていたけれど…そこで不意に、楽しそうな声が聞こえてくる。
「…ふふっ」
「…お姉ちゃん…?」
顔を上げれば、いつの間にかアルテューヌお姉ちゃんは笑っていた。柔らかい笑みを浮かべていた。そしてアルテューヌお姉ちゃんは、わたしの肩に片手を置く。
「ありがとう、ネプギア」
「あ、う、うん…だけど、上手くは……」
「いいのよ別に。ネプギアがわたしの為に、そういう事をしてくれた…それだけで嬉しいもの。それに……」
「それに?」
「ネプギアは、レトロゲーをやり込んだきたんでしょ?つまり、そのレトロゲーに関しては『語れる』って事でしょ?…好きなものについて、語り合う事が出来る…それは凄く楽しいもので、それが出来るって思うだけでわくわくしちゃう…そういうものなのよ、ネプギア」
「あ……」
言われて気付く。今アルテューヌお姉ちゃんが語った通り、浮かんでいる笑みは、わくわくとした…これからわたしの話を聞き、自分も話す事を楽しみにしている表情だって。わたしだから分かる。『お姉ちゃん』の妹だからこそ、笑みに籠る思いがどんなものか、自然と伝わってくる。
ついさっきわたしは、無駄になっちゃったって、楽しんでもらえないって思っていた。だけど、それは違った。思った形ではないけど…お姉ちゃんは、楽しみにしている。楽しみだと、思ってくれている。
「…じゃあ、お姉ちゃん。聞いてくれる?わたしがやり込んだ、レトロなロボゲーの話を」
「勿論。ネプギアがこれだって思ったレトロゲーの話を、沢山聞かせて頂戴」
そうしてわたしは語る。どんなゲームだったか、何が面白かったか、どういうところが難しかったか。それをアルテューヌお姉ちゃんは頷いたり、感心しながら聞いてくれて…一頻り話したところで、今度はアルテューヌお姉ちゃんが語ってくれる。それならこんなゲームもお勧めだって、アルテューヌお姉ちゃんのレトロゲー体験を語ってくれる。
思い付きで行った、レトロゲー探しとやり込み。その結果は、失敗だったけど…ある意味では、成功でもあった。違う形で、楽しんでもらえた。…ううん、これじゃあ少し違うね。だって、楽しんでもらえたんじゃなくて…レトロゲーについて話す時間を、わたしも一緒に楽しめたんだから。
今回のパロディ解説
・「〜〜場所チェンジのマス〜〜」
クイズ!脳ベルSHOWにおけるクイズの一つ、クイズ!すごろく大逆転のマスの一つの事。脳ベルSHOWはクイズ番組の中でも特に、クイズ自体へのスタンスにバラエティ色が強いのが良いですよね。
・「〜〜ネプギア的にポイント高かったり〜〜」
やはり俺の青春ラブコメは間違っている。に登場するキャラの一人、比企谷小町の代名詞的な台詞のパロディ。妹繋がりという事で入れてみました。これを言ったのはアルテューヌの方ですが。
・「〜〜HBの鉛筆をベキッと折れるのが当然〜〜」
ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズに登場するキャラの一人、エンヤ・ガイルの名台詞の一つのパロディ。そもそも鉛筆をベキッと折ろうとしたり、折っちゃった事ある人って多いんですかね…。
・「〜〜某貿易商さん〜〜救われてなきゃ〜〜」
孤独のグルメの主人公、井之頭五郎及び、彼の名台詞の一つのパロディ。直後にネプギアが指摘している通り、実は元ネタと照らし合わせるとこの場の状況にはちょっと合ってない事が分かります。
・「〜〜ポムポムなプリン〜〜」
サンリオのキャラクターの一つ、ポムポムプリンの事。プリン好きなネプテューヌ(アルテューヌ)なので、ポムポムプリンの事も好き…なのかもしれません。
・「──鍵の初期三部作〜〜」
Key及び、Keyの作品の一つ(三つ)、Kanon、AIR、CLANNADの事。作中でも触れている通り、レトロゲーというのは正式なジャンル名ではないので定義が難しいですが、昔の良い作品である…と思います。
・「〜〜葉っぱ〜〜」
Leafの事。何か上記のパロネタと合わせてネプテューヌがギャルゲー好きみたいになってますね。というか原作シリーズのネプテューヌがどんなレトロゲーが好きなのかは私も気になります。
・「〜〜とあるロボットアニメ〜〜リマスター版〜〜」
機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY REMASTEREDの事。これはまだレトロ…って程ではないと思います。でもいつかはレトロになって、このネタも成立しなくなる…のかもしれませんね。
・「〜〜元は別の〜〜シリーズの一作目〜〜」
空の軌跡 the 1stの事。ファルコムの作品で挙げるなら、ドラゴンスレイヤーシリーズやイースシリーズの初期作品の方が、レトロゲーとして適切だったかな、と思います。